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魔界闘神伝  作者: 和和和和
人間界編
63/305

強者たちの祭典






「オオオオオッ!!」

 王族(ハーヴィン)すら凌ぐほどの大貴の力が刀身から斬撃の波動として放たれると、それに微塵も臆することなく魔装人(マギアレイス)と化したエストは、歪んだ気の斬撃の波動でその攻撃を真正面から迎え撃つ。

 放たれた強大な力がぶつかり合うと、互いを滅ぼそうとせめぎ合い、やがて空間を震わせる程の衝撃を伴って相殺される

「……っ!」

「まだだ!」

 その衝撃に耐える大貴の耳に、エストの声が響く

 エストがその手に持った風車の羽を思わせる剣を一薙ぎすると、その刃が分離して伸び、まるで鞭のように大貴に向かって襲いかかる。

 剣鞭による攻撃を認識するのと同時に大貴の刀が閃き、金属同士がぶつかり合う甲高い音と、重厚な衝撃波を伴って刃が弾き飛ばされる

「く……っ」

 しかしそれで終わりではない。

 エストの剣鞭をはじいた大貴に、竜に毒された屍の兵が全方位から一斉に襲い掛かる。元は屍とはいえ、竜の力の侵食をを受けた屍の戦闘力は貴族にすら匹敵する。

 しかも、その屍兵たちは竜人の一人――リィンによって完全にその動きを制御されており、完璧な統率を以って攻撃を仕掛けてくる

「くっ……そ」

 人間の体と力の制御にも慣れてきた大貴は、その身に宿る力を存分に振るう事が出来るようになっており、その攻撃速度は時に光の速さすら凌駕する。

 全方位から一斉に襲い掛かってくる屍兵の動きも、ミリティアと比べれば緩慢なもの。知覚と視覚をはじめ、感覚の全てを行使して全方位からの攻撃を捌き切る

「さすがですね」

 しかし、息もつかせぬ連続攻撃はこの程度で終わる事は無い。

 全方位からの竜に毒された屍兵の攻撃を弾く大貴に肉迫したリィンは、自身の力を纏わせた巨大な刃を持つ薙刀を力任せに叩きつける。

「はあああっ!!」

 最強の半霊命(ネクスト)である竜の名に恥じないその力は、七大貴族と比肩しても遜色がない。その強力な一撃を大貴は気を纏わせた刃で防ぐ。

 しかし、リィンの攻撃はそれで終わらない。薙刀を持つ手と身体で円を描くように舞いながら、変幻自在の攻撃を大貴に向けて放つ。


 操動人形(マリオネット)にしろ操作系武装(サテライト)にしろ、遠隔で操作する武器を使う者は、武器の制御に意識と気を振り割らなければならないため、近接戦闘を不得手としている事が多い。

 しかしリィンは違う。屍を竜の力で侵食する竜の祝福(ドラグナーセル)は竜の身体をつけたすだけのもので、その身体と力の維持に特別な力や意識を割く必要はない。

 そしてリィンの竜の鬣は、自律神経にきわめて近い作用を持ち、自分が意図していなくても意図した動作――戦闘を行う事が出来る「戦闘自律神経」。これらの要因によって、リィンは複数の兵を同時に操りながらも自分の力を用いての近接戦闘を行う事が出来るのだ。


「……くっ!」

 竜の力を持つリィンの舞う様な不規則な攻撃と、竜の力を与えられた屍兵の全方位からの波状攻撃に晒され、気を失ったルカを守りながら戦う大貴は、さすがに全ての攻撃を防ぎきる事は出来ず、傷をつけられ、爆撃に肌を焼かれていく

 リィンが操る屍兵一体一体の力が貴族級でも、リィンによって統率されたその戦闘力は七大貴族と比べても遜色がないほどのものになっている。結果として大貴は、王族(ハーヴィン)と同等以上の力をもつ相手と、七大貴族を二人一度に相手しているような状況に陥っていた

「大口を叩いた事を後悔しているか?」

 リィンと屍兵たちの攻撃を捌く大貴の耳に、エストの嘲笑が混じった声が届く

 その声に視線を向けた大貴は、その歪にして強大な力を込めた剣鞭の刃を天高く振りあげた忌まわしき鎧に身を包む人間の姿が目に入る

 それを合図に、リィンと竜に毒された屍兵達が大貴を囲むようにその力の破壊波動を放出して、回避を封じ、防御を妨げる

「はあああっ!!」

 同時に天空高く伸びた剣鞭の刃が、最上段から力任せに振り下ろされる

 それが竜の力の渦に巻き込まれていた大貴にまさにギロチンの用に叩きつけられ、自身とルカの二人を守っていた結界ごと大貴に叩きつけられる


 世界を断絶する刃の一撃に空間が捻じ曲げられ、半霊命(ネクスト)の天上に至った力の余波が周囲を巻き込んで破壊し、力の波動が渦を巻いて瓦礫を消滅させながら天へと昇っていく

 その強大な力の先に視線を向けていたエストは、魔装人(マギアレイス)のギロチンの刃を気を纏わせた刀の刃では受け止めきれずに、自身の肩口に食い込ませた状態で立つ大貴の姿を見止める

 肩口にわずかに食い込んだギロチンの刃を大貴の赤い血が伝い、地面を斑に染め上げていく。リィンと竜に毒された屍兵の攻撃で全身を傷と血にまみれさせながらも、微塵の戦意も失う事無く大貴は刃を持ったエストを睨みつける


「後悔しているか……だと?」

 肩に食い込んだ刃の痛みにわずかに顔を歪め、歯を食いしばりながら立つ大貴の身体から、知覚の全てを圧倒し、塗り潰すような膨大にして強大な気の力が吹き上がる

「……っ!!」

 その身に宿った人間界最強の気を、たった一振りの刀の刀身へと収束させた大貴は、ただ力任せに、感情と思いに任せてその力を解放する

「そんな訳があるか!!!」

「なっ!?」

 刀から噴き上がった強大な気の力が剣鞭の刃を弾き飛ばして、エストに向かって迸る

 視界を埋め尽くすほど強大で濃密な破壊と殺傷、勝利への執念とも言うべき概念だけが込められた純然たる力の刃が天を衝いて立ち昇り、その光景にさしものエストも驚愕と動揺の声を上げる

「エスト様!」

 その瞬間、リィンに使役される竜に毒された屍兵達が天を翔け、全身から力を放出しながら天を衝く気の斬撃へと飛び込んでいく

 比類なき破壊の気の力の前に成す術もなくその存在を消滅させられながらも、屍兵達は大貴が放った攻撃を弱体化させていく

「オオオオオッ!!」

 そうして弱めた気の刃を、渾身の力を込めた剣鞭のギロチンでエストが真横から叩き折って消滅させる

 霧散し、消滅していく膨大で強大な力の波動の粒子が吹雪のようにふりそそいでいる中で左右非対称色の瞳で大貴の姿を見据えたリィンは、抑揚の利いた静かな声で話しかける

「本当に厄介な方ですね、あなたは。非常識にも程がありますよ……ですが、もともと私は、対アーロン・グランヴィア、テオ・ラインヴェーゼ。対天宗檀や他の者達が仕留め損ねた貴族、七大貴族の処分を役目として与えられた存在なのですよ」

 そう言ったリィンの言葉に応じるように、その周囲の空間からさらなる屍が召喚される

「……っ!」

 目の前でリィンの背から伸びた鬣が、一本の糸のようにより合わされ、無数に生まれたその線に繋がった屍が竜の力に毒され、新たなる屍兵として生まれ変わる

「私の力は、私が持つ屍の数だけ使用可能です。ここに至る研究の過程で命を落とした検体の数だけ私は屍を保持しているのです。これをあと百回繰り返えせるだけの屍を私は持っていますよ? 私とエスト様――そして、この哀れな屍達(道具)と消耗戦をして勝てると思いますか?」

 薄い冷笑を浮かべて微笑むリィンとエスト、そして竜兵達を見た大貴は、口元の血を袖で拭って目の前に立つ二人の敵を見据えた

「……上等だ」





 天空を飛翔する翼が仮想の刃を纏い、まるで意志があるように自由自在に空を舞いながら全方位からロンディーネに攻撃を仕掛けてくる

「っ……!!」

 全ての刃を広範囲の知覚で認識し、その身に纏った仮想の砲塔から放つ粒子砲で迎撃するロンディーネを嘲笑うように、超音速で肉迫した竜の鎧が腕を振り上げ、仮想の刃を纏った竜の爪が魔道人形(マキナ)の侍女が立つ場所を容易くえぐり取る

「フフフフ、どうしたの!? そんな事じゃ、私を殺せないよ!!」

 竜の形を模した鋼の鎧――竜騎壱式・アウスロットから、それを支配する魔法生命体(サード・アストラル)の少女、ネイドの声が響く


 竜騎とは、その起動式を霊の力による回路に置き換える事で科学で生じる抵抗や摩擦の影響を完全に無視した機構を確立した魔法によって作られた科学の結晶。

 霊と物理の境界――生命でありながら、機械でもあり、機械でありながら生命でもあるという存在である竜騎は、ネイドの制御によってその力を十全に発揮し、ロンディーネを圧倒するほどの強大な戦力を持っていた


「はああっ!!」

 科学と魔法の結晶である竜の鎧から放出された暗黒色の球体が、触れるもの全てをこの世界から抉り取っていく中を、仮想の翼で飛翔するロンディーネはその合間を縫うように仮想の砲塔から弾丸を放つ

「無駄無駄ぁ!」

 竜騎を包み込むように展開されるドーム状の障壁(シェル)がロンディーネの攻撃を容易く遮って無力化し、天空を飛翔する操作系武装(サテライト)の翼からロンディーネにめがけて光線が放たれる

「……っ!!」

 それを仮想の翼による飛翔と、障壁(シェル)そして両の手から出現させた仮想の刃で迎撃しながらロンディーネは竜騎へと肉薄し、その刃を力任せに叩きつける

 しかし、切断力の情報を具象化させた仮想剣も竜騎の装甲叩きつけられた瞬間、甲高い音と火花を散らして砕け散ってしまう

「……言ったでしょ? 無駄だって」

 自身の装甲にロンディーネの刃が通じない事を理解したうえで障壁(シェル)をあえて展開せずにその攻撃を阻んだネイドは、刃を砕かれたロンディーネを竜の腕で力任せに殴りつける

「……くっ!」

 反射的に障壁(シェル)を出現させて直撃を防いだロンディーネだったが、その威力を完全に殺しきる事は出来ず、吹き飛ばされた身体を何度か地面に叩きつけられてから仮想の刃で体勢を立て直して空中へと飛翔する

「まだまだぁ!」

 だがそんなロンディーネの移動手段を先読みしていたかのように、竜騎はその顎を開き、口腔内に隠されていた砲塔を露出させる。

 周囲の空気や塵を首にある気口から取り込み、それを体内にある炉によって還元、堕格反応(ダグディアス)を解除して物質を物質になる前の力――原始霊素(エンシェント)として抽出し、その力を一気に解放する

「……っ!」

 その威力だけなら七大貴族の攻撃と同等以上の力を持つ原始霊素(エンシェント)の光線が空間を震わせながらロンディーネに向かって奔る。

 それに対抗するために、ロンディーネは装霊機(グリモア)よりもはるかに優れた自身の魔法演算能力を全開にして自身の前方に障壁(シェル)を何十枚も連続して重ねていく

 しかしその防御も、物理的に(・・・・)放つ事ができる超高位の霊的攻撃である原始霊素(エンシェント)の砲撃の前には重ねた紙きれ程度の強度しかない

「くっ」

 次々に砕かれていく障壁(シェル)に小さく舌打ちをしたロンディーネは、仮想翼の性能を全開にしてせめて自分への到達速度をわずかに落とす事に成功した原始霊素(エンシェント)の砲撃を紙一重で回避する

 力の余波で纏っていた衣装が焼かれ、その下にある人間と寸分違わない白い肩から煙を立ち昇らせるロンディーネに、障壁(シェル)に包まれた詩織が声を上げた

「ロンディーネさん!!」

 詩織の言葉に応じる余裕のないロンディーネの前で蠢く竜の形を模した鋼の鎧から、勝利を確信したネイドの声が響く

「残念、竜騎(アウスロット)とあなたじゃ、性能に差がありすぎるみたいね!!」

 その言葉に、ロンディーネの目に剣呑な光が灯る


 事実、目の前の竜騎の能力は自身を凌駕している。魔道人形(マキナ)魔法生命体(サード・アストラル)などの無霊命(サード)の能力は、その動力炉の出力と使う武器の性能、そしてその演算能力が大きなウエイトを占めているため、そこで負けているという事はほぼ勝ち目がないと言われているのと同義だ。

 竜騎壱式・アウスロットは、グリフィスの持つ現代魔法科学の粋と魔法生命体(サード・アストラル)であるネイドの能力によって、ロンディーネを遥かに凌ぐ期待性能と戦闘力を実現していた。


「……だからといって、私が諦めると思いますか?」

 静かに言葉を紡いだロンディーネが両手を広げると、その身の丈ほどの大きさがある仮想の刃が翼のように広がる

「諦めなかったからって、勝てる訳じゃないでしょ!?」

 地を蹴り、雷電のような速さで駆けるロンディーネを見て声を上げたネイドは、竜騎の翼――操作系武装(サテライト)ビットを制御し、多角的に攻撃を仕掛ける

「……っ!」

 竜の翼による全方位からの砲撃を仮想の刃で次々と薙ぎ払う。巨大な剣の刃で光撃が薙ぎ払われる中、竜騎がその手をロンディーネにかざすと、そこから生み出された引力が魔道人形(マキナ)の侍女の身体を引き寄せる

「っ、重力制御機構(グラヴィタス)……!」

 さながらブラックホールの如き引力でロンディーネの動きを束縛した竜騎の肩の装甲が開き、そこから無数の閃光弾が雨のように降り注ぐ

 さながら流星雨のように美しい閃光が、不規則な軌道を描きつつ、しかし確実にロンディーネに向かって宙を奔るのを見た詩織は、障壁(シェル)の中で声を上げ、飛び出していきたい衝動を懸命に堪える。自分が今飛び出していったところで何もできない。みすみす殺されるだけだ。

 それだけならまだしも、詩織を守る事を任務としているロンディーネの足を引っ張ってしまうだろう。自身の無力さを呪い、何もできないもどかしさを噛み締める詩織は、心の中で救いを求める

(お願い、助けて……神魔さん――!!)

「ロンディーネさん!」

「なっ……!?」

 しかし、次の瞬間声を上げたのはネイドの方だった。

 竜騎から放ったはずの光の流星がロンディーネに着弾する寸前に、まるで蝋燭の火を吹き消したかのように一斉に消失したのだ

「……っ!」

 詩織、ネイド、ロンディーネが目を見開く中、光の雨が消失した地点にいつの間にか現れていた人物の二つに結った長いピンク色の髪が踊る

「随分苦戦してるみたいね、ロンディーネ」

「……随分、遅いご到着ですね」

 最初こそ驚愕に目を瞠ったロンディーネだが、すぐに目の前にいる人物が誰なのかを理解し、澄み渡る空のように高い声の少女に、淡々と応じる

「ほんとは、少し前から見てたんだけどねぇ……ほら、私達って立場的にあんまりしゃしゃり出るのは良くないじゃない?」

「……具体的にはいつからですか?」

 非難するような視線を向けたロンディーネの言葉に、戦闘中にもかかわらず敵である竜騎に堂々と背を向けて立つ少女は、遥か先で檀と戦っている魔装人(マギアレイス)と化したグリフィスを親指で指し示す

「……あっちの彼の『そんな、まだ早い』から」

「つまり、最初からですね?」

「そうとも言うね」

 ロンディーネの視線に、あっけらかんと少女が答える。

 グリフィスがその言葉を発したのは、舞戦祭(カーニバル)会場に戦艦が突撃した瞬間だ。つまり、目の前の少女はその時からずっと一連の流れを見ていた事になる

(あの人、確か……)

 自分の知覚(レーダー)にまったく引っかからずに傍観を続けていた少女をロンディーネが内心で忌々しく思っている傍らで、障壁(シェル)の中でそれを見ていた詩織は、記憶の中にあるその少女を思い出していた

 それは、人間界城で大貴に挨拶をしてきた六人――人間界特別戦力、六帝将(ケーニッヒ)と呼ばれる人物の一人

「なぜ……なぜお前がこんなところにいる!? ――シャロ・ハーヴィン!!」

 驚愕と恐怖、戦慄に彩られた声を張り上げた竜騎、正確にはそれを動かしているネイドの視線の先に立つピンク色の髪の少女――六帝将(ケーニッヒ)の一人、シャロ・ハーヴィンはその言葉に満面の笑みを浮かべる

「私だけじゃないよ」





 その頃、ロジオ率いる敵軍と貴族、七大貴族の精鋭たちの戦いの妨げとならないように、戦う力の弱い一般人は、それ以外の選手たちに先導されて会場から避難していた

 襲い掛かってくる竜の兵士と戦いながら人々を守っている選手たちの中に混じっていたミスリー・サングライルは、獣化(ウェアライズ)した事で遥かに敏感になっている知覚によって、瞬時に危険を察知し、走らせていた集団を制止させる

「止まりなさい、上から来るわ!!」

 その警告とほぼ時を同じくして天井が崩れ落ち、そこから小山のように巨大な存在がその姿を現す

「竜……っ!」

 目の前に現れた半霊命(ネクスト)最強種である竜にミスリーだけでなく、その場にいた貴族たちの誰もが息を呑み、人々は戦慄と恐怖に身を竦ませる

「グオオオオオッ!!」

 竜の咆哮が天を震わせ、その身体から放たれる圧倒的な力がそこにいる誰もの戦意を殺ぎ落とす

 人工の産物とはいえ、この竜は本物と比べてもなんら遜色のない力を保有している。ギルフォード・アークハートは容易く竜を屠っていたが、あんな事が出来るのは七大貴族の上位クラスと王族(ハーヴィン)くらいのもの。並みの貴族では束になっても一体倒すのがやっと――それが、竜と呼ばれる存在の力だ。

 目の前にいる一体以外にも、露になった天空にはおびただしい数の竜が飛び交っており、万が一この竜を倒したとしてもあの中の竜が襲いかかってくればひとたまりもないだろう

「……くっ」

 それでも戦意を失わず、希望を捨てずに立つミスリーをはじめとする選手たちに、今まさに牙を剥こうとした竜の前に一つの影が飛びこんでくる

「オッラァ!!」」

 誰かが声を上げる暇もなく、竜の顎の前に姿を晒した男はその拳を力任せに振り抜く

「グガアアアアアッ!!」

 本来なら、その程度の攻撃など蚊が刺したほどにも効果を示さず、成す術もなく男は竜の牙によって引きちぎられる。しかし、現実はそうではなかった

 力任せに振り抜かれたその拳には、ミスリー達はおろか、竜すらも怯えるほどの圧倒的な気が纏わされており、その一撃は巨大な竜の頭部を一撃のもとに肉片へと変える

「なっ……!?」

 まるで虫を殺すように、半霊命(ネクスト)最強種である竜を屠った男は誰もが絶句する中で地に降り立った男は竜を殴り殺した手を軽く振りながらけだるそうに言う

「あ゛~!? 竜って割には脆いじゃねぇか、半霊命(ネクスト)最強の名が泣くぜ?」

「っていうか、あなた達のレベルで計らないでほしいわね」

 その人物の正体を理解し、その言葉を獣化(ウェアライズ)によって鋭敏になった聴覚で聞きとったミスリーは、人間の姿に戻りつつその理不尽な言い分に呆れ交じりにため息をつく

「まさか、こんなところに来ていたなんて」

 その場にいる全員が、そこに現れた人物が誰なのかを理解する。一見するとうだつの上がらない中年男性といった風体の男は、人間界最強クラスの力をもつ一人

「――マクベス・ハーヴィン」

 誰かに名前を呼ばれた六帝将(ケーニッヒ)の一人、マクベス・ハーヴィンは天空を覆い尽くす竜の大軍に視線から、背後にいる大勢の一般人と選手たちに視線を向ける

「おぉし、よく耐えた。さっさとずらかるぞ」





「ここは私に任せて」

「ですが、檀様が……」

 竜騎・アウスロットに対峙するシャロの言葉に、ロンディーネは魔装人(マギアレイス)と化したグリフィスと戦っている檀に視線を向ける


 禁断の力でグリフィスが得た力は王族(ハーヴィン)と同等以上。いかに七大貴族とはいえ、檀が長時間渡り合えるとは思えない

 もしこの場を任せるならば、シャロがグリフィスの相手をし、檀が竜騎の相手をした方がいい、とロンディーネは暗に進言する


「あぁ、あれ? 平気、へーき。あんなんじゃ檀を殺せない(・・・・・・)わよ」

「……?」

 しかし、その意図を完全に理解したうえで返されたシャロの言葉に、ロンディーネは怪訝そうに眉を寄せる

 その言葉に、困惑した様子で立ちすくんでいるロンディーネに視線を向けたシャロは、その目をまっすぐに見つめて言葉を続ける

「それに言ったでしょ(・・・・・・)? 私達は、あのお方のために来ているんだから」

「――っ!」

 その言葉に、ロンディーネの脳裏にシャロが大会中、自分に接触してきた時の記憶が甦る


 それは予選第二試合、大貴、ルカペアとミスリー・サングライル、トランバルトペアの試合が終了した後、怪我をした大貴の様子を見るために詩織が席を立った直後だった

《――っ、シャロ様》

 いつの間にか背後に立っていたシャロの姿に驚愕を隠せずに目を見開いたロンディーネの隣――今は誰もいなくなっている詩織の席に腰を下ろした人間界最強の騎士の一人は、周囲に人間に気付かれないように小声で魔道人形マキナの侍女に話しかける

《ヒナ様に言われてねぇ。万が一の時のために、私達にここにいるように言われたの》

《私……達、ですか?》

《そ、私とマクベス》

《っ!》

 シャロの言葉に、ロンディーネは思わず目を瞠る

《絶対防御の盾――「至宝盾・ギルディローガ」を持ってるあいつがいれば、おおよそなんとかなるでしょ》

 事も無げに淡々と言葉を紡ぐシャロは、ロンディーネに人差し指を立てて微笑みかける

《いざとなったら、あなたはヒナ様から預かったあれ(・・)を真っ先に光魔神様に届けなさい。それ以外の障害は私達とここにいる選手たちが何とかしてあげるから》



 そのやり取りを思い出したらしい様子のロンディーネを見て、シャロはまるでお使いでも頼むような緊張感のない声で言う

「――ホラ、早く」

「畏まりました」

 その言葉に凛とした声音で応じたロンディーネは、障壁(シェル)を解除してその中にいた詩織の手を取る

「行きましょう」

「え? ……でも」

「大丈夫です。あの方は人間界で王とヒナ様に次ぐ六人の実力者の一人なのですから」

 戸惑った様子を見せる詩織に優しく語りかけたロンディーネは、仮想の翼を広げて舞いあがり、大貴の装霊機(グリモア)の反応へ向けて飛翔する

「さて、水を差すみたいになっちゃったけど、ここからは私が相手でいいよね? 心配しなくても至宝甲(ゼルドノード)は使わないから安心して」

 その様子を見送ったシャロは、ようやく思い出したかのように竜騎――ネイドへと視線を向けて、その右手にはめた金色の装飾と宝珠に彩られた漆黒の手甲を見せつける

「ちょ……いくらなんでも、六帝将(ケーニッヒ)相手に勝てるはず……」

 その言葉に、引き攣ったような声でネイドが半歩後ずさる

 ロンディーネとの会話中、ネイドにはシャロに攻撃を仕掛ける時間も逃げる余裕もあった。しかしそれをしなかったのは、単純にしても意味がない(・・・・・・・・)事を知っていたからだ


 いかに人間界の科学と魔法、さらには禁術を詰め込んだ竜騎・アウスロットでも六帝将(ケーニッヒ)の前では赤子に等しい。目の前に立っているのは人間の形をした化物なのだ。

 自動人形(オートマタ)と違い、感情を持ち合わせている魔法生命体(サード・アストラル)であるネイドだからこそ解する事が出来る本能にも似た反応――恐怖と絶望によって、ただ立ち竦んでいる事しかできなかった。


 装霊機(グリモア)から薔薇の花に似た装飾を持つレイピアのような細剣を取りだしたシャロは、愕然として立ち竦んでいる竜騎に危機感どこから、戦意すらないような表情を向ける

「どうしたの?来ないならこっちからいくよ?い~ち、に~ぃ……」

「……っ!」

 まるで「先に攻撃させてあげる」と言わんばかりに呑気なカウントを始めたシャロに、竜騎を支配するネイドの中にわずかながらに激情が生まれる

(馬鹿にして……!)

 勝つ事はできない。逃げる事も叶わず、相手にもならないだろう事は分かり切っている。しかし、せめて一矢報いてやろう、一泡吹かせてやろう、そんな思いがネイドの中に湧きあがってくる

「ふぅ」

 しかし、次の瞬間、背後から(・・・・)聞こえてきたため息にネイドは大きく目を見開く

「……なっ!?」

 そこに立っていたのは、レイピアを軽く手で弄ぶシャロ。そして、自身の胸に穿たれた巨大な穴。


 これまでネイドは、シャロに対して最大級の警戒を向けていた。いつ動き出してもいいように一時も目を離していない。

 しかし、現実にシャロは自分の背後に移動し、障壁(シェル)や自動反応の迎撃すら反応させる事無く、竜騎を破壊していた。


「残念でした」

 冷淡な言葉と共にその背後で竜騎が崩れ落ち、ただの金属と機械の塊になったのに視線すら向ける事無く、シャロはその可愛らしい顔を不快そうに歪めて軽く舌を出す

「あの魔法生命体(サード・アストラル)には逃げられちゃった。……って言っても、本体(・・)がここにはないんだから殺しようもないんだけどね」





 煌めく閃光が踊り、天空を柄の無い細剣が舞い踊る。

「……っ!!」

 目にも止まらぬ速度で天空を軽やかに舞い踊る、貴族最速の舞姫ミリティア・グレイサーと相対するピーベリーは、その速さに圧倒されながらも、三日月形に歪んだ不気味な笑みを張り付けたまま、その血走った眼で天空を舞う戦姫を睨みつける

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……」

「……なんか、不気味な子……」

 その様子を天空を舞いながら見ていたミリティアは、怪訝そうに目を細める

「ミリティア・グレイサーァ、もうお前は飛べないよ?」

「……っ!?」

 しかし、次の瞬間ピーベリーから放たれた言葉にミリティアは小さく目を見開く

「疑ってるだろ!? 証拠を見せてやるよ」

 そんなミリティアの心情を見透かしたように言い放ったピーベリーが、軽く手を動かした瞬間、舞姫の膝がそのまま地に崩れ落ちる

「っ、これは……!?」

 突如自身の身体が思うように動かなくなったミリティアが驚愕と動揺の色を浮かべたのを見て、ピーベリーの口が張り裂けそうなほどにつり上がる

「ヒヒヒ、理解したかぁ!? これは操作系武装(サテライト)の裏応用技術――世間では『特別隔離技術』なぁんて大仰に呼ばれてるものだよ」

 その言葉に、ミリティアは合点が言った様子でわずかに目を細める

「……そうか、界線逆行(リヴェルコード)ね。操作系武装(サテライト)操動人形(マリオネット)の起動システムを逆向して、人間の意識に情報を送り込む技術――」

正解(せいかぁい)!」

 ミリティアの言葉に、ピーベリーが満面の笑みを浮かべる。


 人間の思念を乗せた界能(ヴェルトクロア)の回線は、人間界でも最も普及した技術だ。装霊機(グリモア)操動人形(マリオネット)操作系武装(サテライト)。武器や日用品に導入されたそれらの技術は、使用者固有の回線――意識や思念を内包した界能(ヴェルトクロア)によって、念じるだけでシステムを動かす機能を持っている。

 しかし、この技術にはもう一つ別の応用法が存在した。意識を出力してシステムを動かせるならば、逆に意識を入力すれば機械ではなく、人間の方を操る事ができる――と。

 当然、開発者もその危険性には気付いており、その技術そのものは洗脳や記憶改竄に応用できるとして禁忌指定されているが、この技術は「特別隔離技術」――特別な条件下で使用を許可される技術として人間界に残っている。例えば、「法廷」――人間の記憶を直接抽出する事で犯罪者の罪を明確に特定する事ができる、あるいは医療現場における記憶喪失の治療、破損した脳神経の修復などが代表的だ。


 とはいえ、霊的に高度な存在ほど、意識が強く霊の力を帯びているため、それに他者が介入するのは極めて難しい。――つまりこの技術では、霊格が高い人間ほど操られたり、意識を支配するのが難しく、本来なら、貴族級の力を持つ人間にこの技術を用いても効かないのだ。

 それは例え操る側の人間が操られる側の人間よりも霊格が高くてもその例に漏れる事はないのだが、現にミリティアの身体は、霊格が低いはずのピーベリーによってわずかに支配を受けている


「……なるほど。あなたはテオ君と同じ、感覚共化(シェアリンク)系の特異能力者なのね」

 本来支配されるはずの無い力の影響を受けた事を冷静に分析したミリティアは、最も可能性の高い答えを導きだしてピーベリーを見つめる

「さーぁっすが、舞戦姫カーニバル・プリンセス!! この状況でも冷静に判断できるなんて大したもんだよ。まあ、気付いているとは思うけど、あたしの力は相手の身体の動きを阻害する程度。でもこれをするだけで相手は存分にその力を使えない。……特にあんたみたいなタイプには相性がいいんだ」

 その言葉に、ピーベリーは満面の笑みを浮かべる。


 ピーベリーは、テオやルカと同じく感覚強化(シェアリンク)に特化しており、かつ特異能力を保有している。――つまり、他人の界能(ヴェルトクロア)と自分のそれを共鳴させる能力に特化しているという事だ。

 しかしピーベリーの場合、共化した相手の能力を引き上げるテオとは違って、相手の動きや力の伝達の妨害に用いている。

 「気」は、特に戦闘において身体能力、感覚強化など重要な役割を果たしている。それを別の意志でかき乱されると、操られるまでとは行かなくとも十全の形で力を使うのが困難になってしまう。


(なるほど、私の()にチャンネルを合わせるのに手間取ってたって事か。確かにここまで身体が動かしにくいと、覇光(オーバーライト)は無理ね)

 ピーベリーの言葉を受けて、ミリティアは自分の体に目を落とす。

 まるで見えない糸に絡め取られているかのような動きにくさを覚える身体では、瞬間の光速突破による光炎――覇光(オーバーライト)はもちろん、いつものような速さは出せないだろう

「そして、あたしはお前をタコ殴りって寸法だ」

 嬉しそうに言い放ったピーベリーは、手にしたメイスを振りかざしミリティアに向かって地を蹴る。

「くっ……!」

 普段と比べて大きく動きを抑制されたミリティアは、普段なら造作もなく回避できる程度の速さに過ぎないピーベリーの攻撃を完全に回避する事が出来ず、そのメイスの一撃を剣で受け止める

 加えて身体の自由を共化で妨害されているミリティアは、十分に気の力を使えず、ピーベリーの攻撃に吹き飛ばされる

「ヒャハハハハハハハハァ!!!」

(まったく、本当に力が使いにくい……)

 すぐさま体勢を立て直したミリティアは、巨大なメイスを振りまわしつつ間髪いれずに追撃を仕掛けてくるピーベリーに視線を向ける

 その動きを見て、ミリティアは舞うように連続で振り回されるピーベリーのメイスを回避し、時には細剣で受け流していく

「……さっ、すがミリティア・グレイサーぁ。まともに瞬間知覚外加速(モーメント)も使えないその動きにくい身体でひょいひょいとよく躱す!!」

「使えない訳じゃないよ。いつもの半分も速くないだけ」

「同じだろ!!」

 静かに言ったミリティアに、ピーベリーは渾身の力を込めたメイスを叩きつける。

 渾身の気を込めた破砕の一撃。さながら地震や暴風をそのまま叩きつけたかのような破壊が巻き起こり、大地を砕いて空気を震わせる

「……っ!?」

 しかし、その破壊の一撃を放ったピーベリーは驚愕と動揺に目を見開く

 見開かれた血走った眼の先では、振り下ろされたメイスがミリティアが手にした細剣によって軽々と受け止められていた

「私の事、甘く見てない? 速さと覇光(オーバーライト)を防いだだけで私に勝てる、とか思ってるなら見当違いだよ? それが私の長所である以上、当然それを潰しに来る相手への対策くらいは用意してるんだから」

「……っ!!」

 メイスを受け止めたミリティアの言葉に、ピーベリーは眼を見開く

 刹那、ミリティアの剣劇がメイスを弾き飛ばし、さらに天空に踊る無数の剣がピーベリーに向かって放たれる。

 操作系武装(サテライト)のように操る訳ではない。剣で剣を弾き、時には持ち替え、あらゆる動きと攻撃の中で剣を超高精度に操る剣の舞にピーベリーの顔に明らかな動揺と驚愕が浮かぶ

「な、何で!? 身体の自由が利かないはずなのに……!」

「気をあなたの妨害に知覚を集中させて抵抗するように全力で張り巡らせれば、対抗するのは難しい事じゃないよ? もちろん、いつもの速さと覇光(オーバーライト)は使えないけどね」

「……っ!!」

 不規則に放たれ、時には死角からも襲い掛かってくる斬撃に圧倒されるピーベリーは、表情を引き攣らせながら後ずさる

「あなたやテオ君みたいに、感覚共化(シェアリンク)特化系の特異技能者は凄く珍しい。だからこんな戦術を取るのはあなたくらいのものだろうけど……いい経験をさせてもらったよ」

「舐めるなァ!!」

 ミリティアの言葉に、ピーベリーは咆哮と共に力任せにメイスを薙ぎ払う。

 その一撃は、普段よりも動きが格段に鈍っているミリティアの身体を捉え、その華奢な身体を粉微塵に粉砕する――はずだった

「な……ッ!?」

 しかしそのメイスはミリティアの身体をすり抜け、完全に空を切る

「ガッ……!」

 驚愕に目を見開くピーベリーの肩と両足が細剣によって貫かれ、その身体が地面に縫いつけられる

「驚いたでしょ? 実は私、目と体捌きにはちょっと自信があるの。……もっとも、普段の速さではここまで細かく体術は出来ないから、体術(これ)を知ってる人は少ないし、速さばかりが注目されがちになるんだけどね」

 ピーベリーのメイスを、まるですり抜けたと錯覚するような動きで躱したミリティアは、その手に両手に細剣を持って痛みに顔を歪めるピーベリーに微笑む。


 ミリティアは、貴族の中で唯一光速を超える存在。さらに七大貴族と比べても単純な速さでは上位に位置しているため、誰もがその能力に目を惹かれる。もちろん、それがミリティア最大の武器であるのは間違いなく本人もそれを自負している。

 しかし、ミリティアは速さだけの女ではない。瞬間知覚外加速(モーメント)を実現できるほどに高度な霊格、天を舞うように戦えるボディバランス、そして光の速さで戦える動体視力。全てが極めて高い水準で完成されているからこそ、ミリティアは舞戦姫カーニバル・プリンセスという称号を持っているのだ。


「なら、体術で防げないように消し飛ばしてやるよォオオオオッ!!!」

 ミリティアの言葉に、怒り狂うピーベリーは身体から炎のような気を噴き上げてそれをメイスに纏わせる。回避などさせない、今の力では防御しても無傷ではすまないほどの力を凝縮し、それを炸裂させようとメイスを振り上げる

「――本当にあなたって予想通りに動いてくれるね」

 しかし、そんなピーベリーに微笑んだミリティアは、何か(・・)を握っている右手を軽く引き寄せる

「ッ! しまっ……」

 それを見て背後を振り向いたピーベリーは、自分の首に向かって背後から向かってくる細剣の切っ先を見た

「ミリティア、グレイサァァァァァアアアアアアアアア!!」

 大貴は紙一重で避けた糸による剣の操作。速さはあの時の半分にも満たないが、それでも音速の数十倍でミリティアの首へ向かって飛翔してくる

 決して弱くは無いが、ギリギリ貴族に届くかという程の力しかないピーベリーには、強化された能力でもそれを回避するだけの反射神経と身体能力はない

「さようなら。こんな形で戦ってなかったら、こんな終わりは来なかったと思うよ」

 静かに言葉を紡いだミリティアは、完全に首と胴が分離され、赤い噴水を立ち昇らせるピーベリーへ追悼の視線を向けた






「……死んだか。まあ、所詮誰かの足を引っ張る程度の女。その力を使えば、楽に強者を殺せるかと思って連れてきたが、随分と呆気ない終わりだったな」

 ピーベリーの死を感じ取った敵軍の長、ロジオ・虹彩(ツァイホン)は、特に感情の宿らない言葉で吐き捨てるように言い放つ。

「それは、仮にも共に戦う仲間に向ける言葉じゃないな」

 会場の遥か上空、障壁(シェル)を足場にして佇むロジオは、同様にして眼前に立つ男にからの言葉を鼻で笑う

「仲間……か。ならばまずは、その弔いとしてその墓前に貴様の首を供えさせてもらおう――ジェイド・グランヴィア」

 半ば嘲笑うように言ったロジオは、殺気の籠った鋭い視線を眼前へと向け、その先で長いコートを翻らせて佇んでいる舞戦祭(カーニバル)最強の男――ジェイド・グランヴィアを見据えるのだった




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