舞戦祭への誘い
深い闇の底、そこに一つの影が静かに佇んでいた。金色の髪をオールバックにして佇む理知的な男の背後から鋭い声が響く
「グリフィス!」
「……『ガウル』ですか。何の用です?」
自分に向けられた鋭い声をそよ風のように聞き流し、グリフィスはその声の主――ガウルと呼んだ男へ、眼鏡の下に隠された鋭い視線を向ける。
大柄で筋骨隆々とした屈強な身体つき。日に焼けた健康的な身体を惜しげもなく披露する、上半身裸の上にコートを羽織ったような衣装を身に纏った大男が、頭脳派で細身のグリフィスに詰め寄る様は、まるで鹿に襲いかかる熊を彷彿とさせる
「あれは一体どういう事だ!」
しかし、そんなグリフィスの希薄な態度が気に障ったのか、ガウルは怒気を隠さない声を張り上げてグリフィスの前に立ちはだかる。
グリフィスも背は高いが、ガウルの身の丈はそれより頭一つ以上高い。遥か天上から打ち下ろされるような視線を受けても微動だにせず、グリフィスはあえて分からないふりをしてみせる
「どういう事……とは?」
「とぼけるな! 地下にある物の事だ!!」
グリフィスとは異なり、どちらかと言われれば肉体派で直情的なガウルは、あまり冷静な話し合いを得意とはしていない。しかし、その類稀な戦闘力と、裏表のない親しみやすい性格からグリフィス達――十世界に所属する人間のリーダー的存在でもある。
その真の名は、「ガウル・トリステーゼ」。人間界で王に次ぐ実力者に与えられる貴族姓「トリステーゼ」を持つ「七大貴族」の称号を与えられた人物だ。
「ああ、あれを見つけたんですか。……失敗作ですよ。研究のね」
その圧倒的な存在の持つ迫力に微塵も動じることなく、グリフィスは淡々とガウルに告げる。
外見からもそうだが、ガウルは完全な戦闘型で、頭の方はあまり優秀とはいえない。だからこそガウルは、技術や魔法などに関しては、グリフィスに一任していた。
それ故に、ガウルはグリフィスの研究について完全には把握していなかった。おそらくその事に関して自分を猛烈に攻めているであろうガウルの血走った目を、冷淡な氷の視線で受け止める。
「ふざけるな!! あれは……あれでは、『黒き千年』の再現だ!! お前は歴史から何を学んでいる!? かつての過ちを繰り返すような事をして……否、あれ以上の悲劇を再現する事に何の意味がある!?」
烈火の如き怒りを向けてくるガウルに、グリフィスは静かだが強い意志の籠った視線を向ける
「あなたこそ、何を恐れているのです? 過去の過ちから何を学び、次に活かすか。それが大切なのではないですか?」
ガウルの怒気をそよ風のように聞き流し、グリフィスは、感情の読み取れない機械的な視線と口調をガウルに向ける。
「黒き千年」とは、九世界の歴史に残る人間界の汚点の一つ。取り返しのつかない人間の罪が起こした大事件の通称。
人間界の誰もが忌避し、同じ過ちを繰り返すまいと忘れ無いようにと心に刻み続けている千年間。
グリフィスが行った行為は、その黒き千年を彷彿とさせる行為であり、それを咎めるガウル、そして過ちのままで止まっていた過去を今の力で輝かし未来へと変えようとするグリフィス。その外見や、性格と同様に、まるで鏡に映したかのような二人の意見が、互いに譲り合う事無くせめぎ合う。
「あれが、活かせていると言えるのか!? あんなおぞましいものが!」
「何事にも失敗はつきものです。むしろ、ここで研究を止めてしまう事こそが、彼らの死を無駄にする事に等しいでしょう? 彼らの犠牲は、新たなる成功への礎となるのです!!」
無表情に、無感情に言い放ったグリフィスの言葉に、ガウルはまるで歯が砕けたのではないかと思われるほどの歯軋りの音と共に、抑えきれなくなったその激昂を開放する。
「それが……それが、十世界の同胞に人体改造を行った理由か!? ふざけるなっ!!」
「人体改造などという陳腐なものではありませんよ。進化……あるいは存在の昇華とでも言っていただきたいものですね」
ガウルの言葉にグリフィスが鼻で笑うように言う。
しかし、それはガウルの怒りに油を注ぐ様な事でしかなかった。元々直情的なガウルは、グリフィスの襟首を掴む。
「同じ事だ!!」
ガウルの巨躯と強靭な腕力によって、襟首を掴まれたグリフィスの身体は、地上から数十センチも浮き上がっている。
しかし、そんな事を意に介した風もなく、グリフィスは眼鏡の奥から、鋭い視線をガウルに向ける。
「同じではありませんよ。人が人を越えた存在へと至る。……それは、九世界の中で最も弱い、我々半霊命の悲願だったはずです。全霊命を殺す力を求める事はある意味必然でしょう?」
「それでは、『バルバロス・ハーヴィン』と同じだ!! この世界を争いのない世界へと統一するという姫の御意志に背く気か!?」
ガウルの激昂に煩わしそうな表情を浮かべたグリフィスは、自分の喉元を掴んでいる手を軽く振り払うと、そのままゆっくりと地に下りる。
「同じではありませんよ。私は彼が出来なかった事をやり遂げて見せましょう。例えどれほどの犠牲を払おうと、どれほどの罪にまみれようと……ね。そうすれば、あなたや姫の言う理想にも手が届くでしょう」
「ふざけるな!! あんな事をしてまで手に入れるべき理想などない!!」
大きく手を横薙ぎにして、ガウルが声を荒げる。
グリフィスが言っている事は間違ってはいない。しかし、だからといって、かつて辿りつけなかった頂に……見る事が出来なかった夢を手にしようとするがために、手段を選ばないなど許されるはずがない。
理想を叶えるために、犠牲になる者がいていいはずがない。そう言わんばかりに声を荒げるガウルに、グリフィスは一瞬だけあからさまな嫌悪を浮かべる
「……勝者の戯言ですね。美学や信念を掲げて何かを手に入れられるのは、強者と勝者の特権です。私達のような敗者には、そんな事を掲げている余裕はないのです」
静かに吐き出した息と共に感情を吐き出したのか、元通りのポーカーフェイスで、グリフィスはガウルを見据える
ガウルの言葉は、満ち足りている者が先を目指すための詭弁に過ぎない。
生き方に誇りを求められるのは、生きる事に必死でない者だけだ。もちろん全ての人間がそうだとは言わないが、生きるだけで必死な人物は、生き方を選ぶ余裕などありはしない者が大多数を占めるだろう。
「盗んだ金で育った子供が幸せになれるか?」など、裕福ではなくとも、最低限以上の収益を得ている者だけが言える言葉だ。明日を生きる事も苦しいほどの貧困にあえぐ者にとって、盗んだ物だろうと、額に汗したものだろうと、そのお金の価値と重みは変わらないのだから
そんなグリフィスの言葉を正確に理解しながらも、ガウルはそれを力強く否定する。
「それは、敗者などではない! それは……」
「止めましょう。その争いは不毛です」
しかし、ガウルがそれ以上の言葉を紡ぐ前に、グリフィスのため息交じりの声がそれを遮る。
「なんだと……っ!?」
「私とあなたは、永遠に相容れる事のない存在です。あなたはあなたのやり方でやればいい。私は私のやり方でやらせていただきますよ」
「……グリフィス……っ!」
背を向けて言い放ったグリフィスの言葉に、ガウルは忌々しげに歯を食いしばる。
グリフィスの過ちを正したいと思うのに、自分の思いと気持ちを伝えたいと思うのに、言葉で伝える事があまり得意ではないガウルは、グリフィスに向けるべき言葉を見つけられない自分に腹立たしげに歯を噛み締める。
「それよりも、あなたの方の準備はできているのですか? ゼノン様に頼まれているのでしょう? 人間界城の地下に封じられた神器の確保を」
そうして言葉なく立ちつくしているガウルに背を向けたまま、そう言ってグリフィスはこの場を離れていく
「待て! 話はまだ終わっていない!!」
その言葉に、今まさにこの場を立ち去ろうとしていたグリフィスは足を止め、わずかに首を傾ける
「ああ、そうでした。『竜騎』の準備は整っていますよ。艦に積んであります。存分にその力を振るうといいでしょう。そのための御膳立てもしてあげるつもりですからね」
「何?」
小さな含み笑いを持たせたグリフィスの言葉を聞いたガウルは、未だに自分に背を向けているグリフィスの背を見て剣呑に目を細める。
「完成には程遠いですが……見ものですよ。明日の夜の舞戦祭は」
「どういう事だ!?」
「では」
問い詰めるように言ったガウルの言葉には応えず、グリフィスはゆっくりと歩き去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、血が出るのではないかと思えるほどに強く拳を握りしめたガウルの背後に、音もなく一つの影が出現する。
長いこげ茶色の髪を頭の後ろで結い上げ、タイトスカートのスーツに身を包んだ女性はその端麗な顔立ちで、自身の無力に肩を震わせる大男の大きな背中に視線を送る
「ガウル様……」
「……『メリッサ』か。皆を集めてくれ」
激情を無理矢理抑え込んで紡がれたガウルの言葉に、その背後に佇むメリッサと呼ばれた女性はわずかに一礼してその場から姿を消す。
「……はい」
その言葉に静かに応じたメリッサは、再びその姿を一瞬で幻のように消し去る。
蜃気楼のようにメリッサが消え去ったその場に佇み続けるガウルは、その巨躯が一回り以上小さく見えるほどに肩を落とす
壁に対して直角に立ってそのやり取りを見つめていたセウは、ツギハギのされた大きなぬいぐるみを優しく抱きしめて口元を隠す
「ふふふ……弱い、弱い。」
無邪気な笑みを浮かべたセウは、抱きしめていたぬいぐるみを向かい合って、そのぬいぐるみに話しかけるように言葉を紡いでいく。
「仕方ないなぁ……少しだけ力を貸してあげようかな」
その無邪気な笑みには、まるで捕まえた虫の翅をむしり取る子供のような、一点の曇りもない無邪気な悪意がはっきりと張り付いていた。
※
「あらためまして。私はルカと言います」
レスターとの一悶着の後、大貴は、詩織、ロンディーネと共にショッピングモールの中にあるカフェでルカと向かい合っていた
大貴が頼んだ人間界のコーヒーと、女性三人頼んだ紅茶の優しい香りが漂う中、ルカは改めてく自己紹介をしてから本題を切り出す
人間界は科学が発展しているため、人間が労働する余地はほとんど残されていない。
現にこの店でも、机に備え付けられた画面で注文し、装霊機を使って代金を払えば、機械が自動で運んできてくれる仕様になっている。
そのため、店内を見回しても、店員らしき人物の姿を見ることはできない
「それで、大貴さん。初対面のあなたにこんなことを頼むのは失礼だとは重々承知しているのですが、私と一緒に明日の舞戦祭のタッグに参加してください」
「明日!?」
そんな店内で神妙な面持ちでルカが発した懇願の言葉に、大貴は思わず声を上げてしまう
その言葉に驚いたのは詩織とロンディーネも例外ではなく、その目をわずかに瞠っていた
一口に舞戦祭と呼ばれているが、その内容は様々。
最も人気があり、花形である一対一の「シングル」以外にも、チームバトルやなど、客を楽しませ、単純な戦闘力以外の才能を見せつけるための種目に分かれている
その中でルカが登録しているのは、二対二で戦う「タッグ」と呼ばれている種目だ
当然その種目に参加するためには、自分以外にもう一人の選手――「パートナー」が必要になる
だが、試合が明日に迫っているのも関わらずパートナーが決まっていないのは遅すぎる
大貴と同じように信じられないといった表情を浮かべているロンディーネの反応を見れば、前日にパートナーが決まっていないのはやはり異常であるのは間違いない
しかし、そんな大貴達の疑問に対しては、すぐさまルカから解答が得られる事になる
「本当はパートナーがいたんだけど、昨日事故にあって大怪我しちゃって……命に関わるようなことはなかったんだけど、明日には治癒が間に合わないって言われて」
具体的な事がルカの口から語られる事は無かったが、どうやら何かの事故によってルカのパートナーを務める筈だった少女は、片腕を欠損するほどの怪我を負ってしまったらしい。
最高位の半霊命としての生命力に加え、再生医療も十分に発達している事もあり、時間さえあれば四肢の欠損も修復可能な人間界の医療でも、一日二日で失った手足を再生して万全の状態に持っていくのは難しいとの事だった
「……で、急遽代理を探してたって事か?」
その説明を聞いて渋い表情をみせる大貴の言葉に、ルカは肯定の意味で一つ頷く
「確かに、事情は分かった。でも、一朝一夕のコンビで勝てるほど、舞戦祭ってのは甘くないだろ」
それを見て小さく息をついた大貴は、自分の顔色を窺っているルカに、軽く苦言を呈する
タッグとは、その名の通り「二人で戦う」こと。当然、それなりのコンビネーションや戦術がなければ、勝ち上がるのは難しいだろうことは大貴にも想像がつく
特に自分自身にそういった戦闘の経験がないこともあって、大貴の声はルカの申し出に対して否定的な色を宿していた
「それは大丈夫です! 私の目的は舞戦祭に参加することなので」
しかし、そんな大貴の不安を払拭するように、ルカはやや語気を強めて断言する
「……?」
その言葉に大貴を始めとした三人が訝しげに眉を顰めると、ルカは自分の説明が足りなかったことを察して、補足の説明をするべく口を開く
「私には、生き別れになった兄がいるんです……舞戦祭は、人間界中に中継されるから、もしかしたら見てくれるんじゃないかと思って
ようやく本戦に出られる機会が来たんです。だから、明日はなんとしてでも参加したいの!」
俯きがちに顔を伏せ、表情を翳らせながら自分の事情を告白したルカは、まっすぐに大貴を見つめて自分の気持ちを吐露する
恐らく地の喋り方なのだろう――後半、口調を崩して訴えるルカの言葉は、それだけ真剣に発せられたものだというのが伝わってくる
舞戦祭は、毎回膨大な人数の参加者が集まるため、テレビで中継される本戦の前に予備戦が行われ、参加者が選抜される
これまで何度も予備戦に挑み、惜しくも出場を逃してきたルカにとって、明日の舞戦祭はようやくめぐってきた絶好の機会。なんとしても逃すわけにはいかなかった
「もちろん、参加するからには優勝を目指すつもりでやるよ。でも、例え一回戦で負けてもいいの! 私はここにいるって兄に伝えたい」
膝の上に置いた手を強く握りしめ、唇を噛みしめながら語るルカの言葉には、その切なる願いと一途な思いがこもっている
「私は、一対一じゃ舞戦祭に参加することもできない。だから、タッグにかけるしかないの」
切迫した言葉で大貴に訴えたルカは、そこでふと我に返って思わず口にしてしまった自分の本心を誤魔化すように苦笑を浮かべる
「ごめんなさい。私の都合ばっかり」
「いや」
ルカがどうしても舞戦祭に参加したい事情に、大貴達は取り繕った声で応じつつ、心中で苦いものを感じていた
(なんか、雲行きが怪しくなってきたな)
ルカには申し訳ないと思いながらも、大貴は話だけ聞いてその申し出は断るつもりでいた
戦術的な不安もそうだが、この世界では普通のことだと頭では分かっていても、一歩間違えれば命を落とすかもしれない人間の戦いで成り立つ賭博興行に参加するのは気が乗らなかったからだ
「……でも、なんで俺なんだ? さっきのレスターって奴じゃだめなのか?」
しかし、ルカの事情を聴いてしまった大貴はわずかな同情を覚えてしまっていることを自覚していた
大貴は困っている人に救いの手を差し伸べる様な聖人君子ではないつもりだが、冷たく突き放すようなことも言えない
その事情を聞いてしまった以上、大貴の中ではただ断るという選択肢が消えてしまっている。
そのため、何とか自分以外からパートナーを選んでくれるようにルカを誘導しようと懸命に頭を腹かせていた
「確かに、本当は贅沢なんて言ってる場合じゃないんだけどね。あんなに偉そうに自分の目的を語ったくせに、それを貫く意思もないんだから笑っちゃうよね」
大貴の疑問はもっともだとばかりに苦笑浮かべたルカは、どこか自嘲気味にそう言って視線を逸らす
舞戦祭に参加するだけなら、レスターの誘いを断る理由はない。それどころかむしろ歓迎すべきことのはずだ
にもかかわらず、ルカは嘘を吐いてまでその誘いを断り、大貴に参加を求めている
「レスター君は、いい人だよ。ちょっと思い込みが強くて空回りすることもあるけど、実力も人柄も悪くないと思う」
自分の言葉と行動に矛盾があることを認めて独白するルカは、どこか遠い目で大貴に苦笑混じりに言う
「……まあ、苦手な人もいるって事」
「なるほど……」
言葉を濁したルカのばつが悪そうな表情で、その理由を察した大貴は、一言だけで了解を示す
大貴も別に全ての人間と仲良くできるとは思っていない。大貴にも嫌いな人間はいる。だが、大貴は嫌いな相手、苦手な相手を自分の意識からはじき出す事が出来る上、その人物を忌避するオーラを発するので社会生活はともかく、学生生活の中で対人関係に困る事はそこまでなかった。
そんな大貴を見た詩織が「世の中には嫌いな人とでも、表面上は仲良くする必要がある時もあるよ」と言い含めていたのは、また別の話だ
そして、それを聞いていた詩織とロンディーネは、ルカが言った「ちょっと思い込みが強くて空回りすることもある」という言葉の意味にも思い至る
即ち、「女性があまり好意を寄せていないのに、それに気づかずに執拗に好意を示してくる」と
「ま、それは置いておいて、私ってちょっと勘がいい方なの。で、あなたを見た時ビビッときたんですよ。なんていうか、『この人だ!』って」
「へぇ」
身を乗り出すようにして。傍から見れば、根拠のない自信に満ちた声で言うルカに、しかし詩織は感嘆の声を零す
(本当に勘がいいんだ)
大貴が光魔神であることを知らないにも関わらず、何かを感じたのならば、ルカは確かに本人が言うように、勘が鋭いのかもしれない
(感心してる場合か)
呑気な姉の声を聞きながら、内心で渋面を作っていた大貴に、ルカは真剣な眼差しで訴えかける
「で、どうですか? 一緒に舞う戦祭に参加してもらえませんか? もちろんお礼はします。私にできることならなんでも」
揺るぎない覚悟と決意が宿っているルカの瞳に、これ以上小手先の言い回しを重ねても諦めさせることはできないと判断した大貴は、観念したようにため息をつく
「はぁ……」
どちらかといえば温厚な性格の大貴は、多少気に入らない事があった所で、冷たく突き放すような言い回しはしない
もちろん例外もあるが、基本的には自分が退いて争いを回避できるならそうするタイプだ
「まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、俺は舞戦祭には出られない。他を当たってくれるか?」
ルカに自分が不快な思いをしていると勘違いさせないように、可能な限り優しい口調で、また可能な限り申し訳なさそうに答える
「……そっか。ごめんなさい。無理なお願いをして」
その大貴の言葉を聞いたルカは、わずかに肩を落として苦笑を浮かべる
元々断られる覚悟はしていたのだろう。だが、ルカが見せたその残念そうな微笑は、気を抜けば涙を流してしまうのではないかと思えるほどに弱々しいものに見えた
「ルカ……」
「大丈夫、気にしないで。今からでも何とか新しいパートナーを見つめるから」
無理に笑ってみせるルカの表情に、大貴の良心は若干針に刺されたような痛みを覚える
「じゃあ、私急いでパートナーを見つけないといけないから」
「待ってくれる」
だからこそ、大貴はまるで逃げ去ろうとするように慌てて立ちあがったルカを躊躇いがちに引き止める
「……一応、連絡先聞いてもいいか? 俺の方でも探してみるから」
「うん、ありがとう。私もパートナーになってくれそうな人、探す事にするよ」
自分勝手な理由で傷付け、自己弁護のような謝罪に優しく微笑んでくれるルカの心中を慮った大貴は、それ以上の言葉をかける事ができなかった
※
「受けてあげればよかったのに。勝負も申し込まれたんでしょ?」
ルカの姿が見えなくなったのを確認した詩織の言葉に、大貴はばつが悪そうに視線を逸らす
「別にあいつの挑発に乗ってやる必要もないからな」
「ふぅん、でも本当は後ろめたいんでしょ?」
「…………」
まるで見透かしたように言う詩織に、大貴は沈黙を返す
他人のために見世物の戦いで賭けの対象にされるなど楽しくもなんともないが、ルカにあんな表情をさせてしまった事を若干後悔している大貴の心情を端的に表現すればその通りだ
だが、それを認めてしまうのは若干癪なため、あえて無言を通しているといった様子だ
「ロンディーネんさん、もし大貴がルカさんって人に協力してあげたいって言ったらどうだったんですか?」
長い付き合いから、大貴の沈黙が肯定だと分かっている詩織は、ロンディーネにわざとらしい口調で問いかける
「そうですね……我等の本意としては、現時点で目立つ様な事をしていただくのは避けて頂きたいのですが、ある程度まで力を隠して戦って下さるならば、可能な限りお力添えをさせていただくというところでしょうね」
姉の余計なお節介に、渋い顔をする大貴を一瞥したロンディーネは居住まいをただし、王城に仕えるメイドに相応しい洗練された所作で応じる
「なんだ、だったら出てあげればよかったのに。そうしたら私あんたにいくらか賭けてあげるから」
ロンディーネの答えを聞いた詩織は、意地の悪い視線を大貴に向けてからかうように言う
「止めてくれ」
「フフフ」
詩織の言葉に心底迷惑そうに表情を歪めた大貴が、視線を明後日の方向に向ける
その時、三人が座っている席に隣接する通路を一人の男が通り過ぎようとしていた
大貴達が今いるのは、「喫茶店」。不特定多数の人が利用する店の通路を移動する者など、気に留める事など普通は無い。
当然、大貴達が座っている席の横の通路も何人もの人が往復している。そして今まさに、大貴の横を通り過ぎようとしている男も、そんな人物の一人
それはどこにでもいるようなごく普通の男。殺気もなく、とりわけ強い気の力を持っている訳でもない。当然のようにすれ違う当たり前の他人だった
しかし、その男は大貴とすれ違うその一瞬に、平凡な男の仮面の下に隠された凶悪な本性を晒け出す。
――『瞬間知覚外加速!!』
大貴とすれ違うその一瞬、男は瞬間的に加速し、人外の速度へと一瞬にして到達する
それは、常人では認識する事すら不可能なほどの……例え実力者であっても、無警戒状態なら反応する事が困難なほどの速さ。
当然、標的である男も、その男と向かい合うように座っている二人の連れの女も、周囲の客も誰一人気付くはずのない、力を放出しない刹那の動き。
そして瞬間的に加速した男が、一秒にすら満たない短時間で、大貴に触れようとしたその瞬間。鋭い閃光が男の顔面を捉え、その小柄な身体を軽々と中に舞い上がらかせていた
(……なん、だとっ!?)
男が我に返ったのは、宙に舞っているその瞬間。よほどの実力者でなければ気付く事すらできないはずの自分の動きに反応し、正確にカウンターを当ててきたその人物を見る
(……女!?)
男の目に、自分が狙っていた男と向き合うようにして座っていた女の片方がはっきりと映る
軽く手を伸ばしたその女の体勢から、自分が殴り飛ばされたのだと瞬時に理解すると同時に、男の体は喫茶店の壁に勢いよく叩きつけられていた。
「……ちょっ、ロンディーネさん!?」
それを見た詩織が思わず声を漏らしてしまったのは必然だった。
詩織の目には見えなかったが、今まで座っていたはずのロンディーネが立ち上がり、握った拳を軽く振るっている視線が見つめている壁に叩きつけられた男。
その相対的な位置関係と表情を見れば、男と殴り飛ばしたのがロンディーネだとおおよその見当はつく
とはいえ、詩織には何も見えなかったのだからあくまであなたがやったんですか?という確認の意味を込めた言葉だったのだが、詩織には自分の考えが間違っていないという確信も同時にあった。
なぜならば、自分の真正面に座っている大貴も鋭い表情でロンディーネと同様に、殴り飛ばされた男にに向けられていたからだ
「ロンディーネ……」
「……はい」
真剣な表情でやり取りをする二人を交互にみて、唖然とする詩織と同様に、店内の他の客の意識もようやく事態を理解したらしく、場を支配していた静寂が騒然とした空気に変わる
「な、なんだ!?」
突然のことに、動揺する他の客たち手で制したロンディーネは、これまで大貴や詩織に見せた事のない強い戦意と敵意をこめた鋭い視線を、壁の下にうずくまっている男に向ける
「……あなたは今、この方に何をしようとしたのですか?」
席から通路に出たロンディーネは、大貴と詩織をかばうような位置に立って、男に冷淡な視線を向ける
「な……何の事、ですか?」
淡々と紡がれるロンディーネの口調に、ゆっくりと身体を起こした小柄な男が悲痛な表情で応える
客観的に見れば、ロンディーネが何の罪もない一般人に危害を加えているように見えるその光景も、当事者たち同士にすれば、まったく意味を異にしている
「確かに暗殺というのは、一人になった所を狙うよりも、人混みに紛れて行うのが一般的ですよね。そういう意味で、見事な手際でした」
ロンディーネの淡々とした口調が、男をまっすぐに射抜く
被害者のそれから、罪を暴かれた罪人のものへと表情を一瞬だけ変化させた男は、すぐに被害者の表情を浮かべ、固唾を呑んで事の成り行きを見守っている観客達の視線に囲まれながら自嘲するような笑みを漏らす
「な、何を仰っているのですか!? 私は暗殺者ではありません」
「……先ほどの攻撃……『鎧通し』でしたね?」
「――っ!!」
反論を許さないロンディーネの言葉に、男は表情が強張らせる
ロンディーネは、伊達に大貴の護衛に抜擢されている訳ではない。魔道人形――かつて自立思考保有型生体兵器と呼ばれた存在でもあるロンディーネには、魔法によって、物理限界を超えて収納された無数の機能が装備されている。
そしてその中でもロンディーネの目に装備された、超高度な解析能力は、男が先ほどの一瞬で行おうとしていた事を正確に見抜いていた。
「鎧通し……構造破壊などとも言われる技ですね。自身の気の力を相手の体内に直接打ち込んで、内側から破壊するこの技は、使い手の実力さえあれば、相手の内臓や骨格を直接破壊する事が出来ます。
何しろ、どんな生物も身体の全ての細胞や器官……いえ、正確にはその身体を構成する物質そのものに霊的な力を宿していますから。その構造を支える限界を超えた力を注ぎこまれれば、身体のどんな部分にも直接攻撃以上の攻撃を加えられます」
もっとも、霊的な力そのものである全霊命や、気の力を高めて自身を強化されればその効果はほとんど失われてしまう。
「まあ、それでも言い訳をしたいのでしたら、この後来られる警備員の方にしっかり言い訳をなさってください。……もっともあなたにその気があれば、ですが」
満面の笑みを向けたロンディーネの笑顔と同時に、今まで穏やかでごく平凡などこにでもいる男という印象だった男は、そんな印象など一瞬で払拭してしまう様な邪悪な笑みを浮かべた
「……っ!」
その男の笑顔に思わず後ずさった客達の目の前で、男の顔がまるで高温に晒された氷のように溶解を始める。
(顔が……溶けてる!?)
「どうやら、正体を現したようですね」
人の顔であり、皮膚だったものがとろけていくのを戦慄の表情で見つめて息を呑む詩織とは対照的に、全く動じた様子もないロンディーネが見ている前で、溶けた身体の下から先程までの小柄な男よりも明らかに一回り以上身体の大きな人物が現れる。
先程までの小柄な男の中に入っていたとは思えない男は、全身を隠す漆黒のローブを身に纏っており、性別や正確な体型すら判然としない
顔をすっぽりと覆うフードの下には真鍮のような鈍い光を放つ仮面があり、その顔を隠していた
「偽装の皮の下に、仮面とフードですか……随分と用意周到な事ですね」
その姿を見て、ロンディーネは鋭利な敵意と殺気を男に向けて容赦なく放つと、その手に光の刃を顕現させる
それは科学と魔法の申し子である魔道人形であるロンディーネの持つ武装の一つ。
機械の身体に霊的な「術式」として刻まれた科学式にそって、霊的な力で物理現象を引き起こす事によって生みだされる特殊な量子エネルギーで構築された刃。
「仮想刃と便宜的に呼ばれるその武装は、仮想的に作り上げられた物理機構。科学の回路を霊的な情報回路――魔法に置き換えて発現する科学霊装だ。
武装を展開したロンディーネに全く怯んだ様子を見せないその人物は、長いローブの袖の中から出現させたそれを、黒い手袋を嵌めた手でしっかりと握りしめる
男の袖の中から出現したのは、刃のない剣の柄。それに息を呑む全員の目の前で、その謎の人物はその柄だけの剣に、ロンディーネと同じ仮想刃を発現させる。
「……降伏の意志は無いようですね」
仮想刃は、人間界で広く普及した科学武装。それほど珍しい物ではない。そのため、目の前の人物にまったく動揺した様子を見せずに、ロンディーネは静かに呟く。
男の刃は、柄から発現する両刃の剣。対してロンディーネの刃は、手のひらから両刃の刃だけが顕現している。同じ武器でも異なる見た目を持った武器を構えた二人は、一触即発の雰囲気でにらみ合う。
片やロンディーネは不動。片や謎の人物は、身体をゆらゆらと不規則に揺らしながら、佇んでいる。一見ふざけているような動きだが、その動きが相手の喉笛を斬り裂こうとする殺人者のそれである事を、ロンディーネははっきりと理解していた。
「っ!!」
そして、その均衡は謎の人物によって一瞬で崩される。
ゆらゆらと揺れていた動きを止めた謎の人物は、次いで弾かれたように一瞬にして加速する。静止状態から加速への緩急によって、その速度を体感的に数倍以上に感じさせる超人のごとき動きで加速した謎の人物は、手にした刃を地面に対して水平に構える。
「……それで出し抜いたつもりですか!?」
しかし、その超人的な動きにもロンディーネは同等以上の速さで反応し、一瞬で謎の人物との間合いを詰める。
そしてロンディーネがその人物の動きに合わせて攻撃を放とうとしたその瞬間、ロンディーネの目の前から謎の人物の姿が一瞬で消失する
「……っ!!」
(完全慣性制御と、軌道変化……これほど高度な技術を……!!)
目を見開いたロンディーネは、全速力での突進の勢いをまったく殺さずに直角に上昇した謎の人物の動きを一瞬で把握し、内心で舌打ちしながら自身も体勢を変える。
半霊命の持つ力界能は、全霊命の神能程、完全に現象を排し、事象を顕現する事は出来ない。
その身体を物理によって構築されている半霊命は、全霊命のように物理現象と無縁という訳にはいかないからだ。
にも関わらず、相対する人物がやってのけたのは、全速力で加速している最中に速度をまったく殺さない慣性の法則を無視した直角方向転換。
そして、ロンディーネを回避した謎の人物は、再度直角に軌道を直角に変化させて一直線に大貴に向かって突進する。
「っ!!」
自分に向かってくる謎の人物を見て、大貴が臨戦態勢を取るのと同時に、一瞬で百八十度方向転換したロンディーネは、謎の人物を背後から鋭い視線で射抜く
(やはり、狙いは光魔神様ですか……!)
「させませ……っ!」
この行動で、仮面とマントで正体を隠している目の前の人物が大貴を狙っている事を確信したロンディーネは、背を向けた男を背後から追撃しようとして思わず目を見開いた
そこにロンディーネの行く手を遮るように空中に浮かんでいたのは、何の変哲もない無数の漆黒の球体。
まるで闇を懲り固めた様なそれを見たロンディーネは、瞬時にそれが何なのかを理解してその美貌に戦慄と驚愕の色を浮かべる
(空中機雷……!!)
「っ!!」
それが何かをロンディーネが認識した瞬間、眼前を埋め尽くす機雷が一瞬にして炸裂した
空中に浮かぶ爆雷。一定時間の経過、あるいは接触によって爆発を誘発するその設置型兵器は、主に罠として用いられる武器。
人間界軍でも普通に用いられるこの武器の最大の利点は、反応爆発の速さにある。この機雷が爆発に要する時間は0,一秒に満たない。つまり、この機雷の爆発範囲に一度入ると、回避は困難だという事だ
「ロン……っ!!」
ロンディーネの姿が爆炎の中に呑み込まれたのを見た大貴の声を、自身に向けられる強大な敵意が遮る
刹那、まるで一条の矢のごとき速さで飛来した謎の人物は、その手に持った仮想刃を水平に振り抜く
しかし、その軌道すら見せないほどの圧倒的な早さで振り抜かれた刃を大貴は自身の気で硬化させた腕で直接受け止める
「……!」
気の力で強化された腕が、仮想の光で構築された刃を受け止めると、相手の身体が一瞬硬直したのを大貴は感じ取っていた
仮想の光刃が気で強化した腕にわずかに食い込み、服に赤い染みを作っていく。大貴はその痛みにわずかに顔をしかめるが、それ以上の動揺に目を細める
(どういう事だ、気を感じない……!?)
大貴の動揺の正体は、目の前の人物からまったく感じ取る事が出来ない気の力にある
命があろうと無かろうと、この世に在る万物に宿っているはずの気の力……あるいは、霊的が一切感じられない。
何かの手段で消しているのか、隠しているのかまではこの世界の知識に乏しい大貴では判別する事が出来なかった
(魔道人形じゃない。でも単なる人間じゃない……! 何だこいつ!?)
大貴が目の前の人物の正体を掴みあぐねていると、その人物は、剣を大貴に受け止めさせたまま仮面に覆われた顔を大貴に近づける
「舞戦祭ニハ出ルナ。コノ忠告ヲ無視シタ場合、命ハ無イト思エ」
「っ、お前一体……!?」
まるで機械で繋ぎ合わせたような、性別を感じさせない質の悪い電子音。それが紡いだ言葉をはっきりと聞いた大貴は、わずかに目を瞠る
それと同時に、大貴から離れた謎の人物は、仮想の光刃を消すとそのまま超スピードで喫茶店の窓を突き破った
「……しまっ」
甲高い音と共に窓を突き破ったその人物に、大貴が顔をしかめると同時に、鋭い声が響く
「逃がしません!!!」
爆煙が吹き飛ばされ、その中から無傷で現れたロンディーネの周囲の空間に無数の波紋が起きる
まるで水面に生まれた波紋のように揺らいだ空間から直径三十インチはあろうかという巨大な砲身が出現し、その砲門が一斉に謎の人物に向けられる。
「……おいおい」
思わず目を丸くする大貴の眼前で、まるで空に生えているかのように出現した砲門に強大なエネルギーが収束し、それが一斉に標的となっている謎の人物に向けて放出される
空間を震わせて収束された光の砲弾の束が、その軌道上にあった喫茶店の机や仕切りを消し飛ばしながら謎の人物に向かって収束され、爆散して消滅した
「っ……!!」
砲弾の束をかき消され、ロンディーネは目を見開く
少し前に到着した警備員に店長らしき人物が説明をしているのを横目に、ロンディーネは動揺と驚愕、絶望が入り混じった険しい表情を浮かべる
その脳裏によぎるのは、謎の人物が自分の放った光の砲撃の束をかき消したその瞬間。
光の砲撃の束を打ち消した謎の人物の腕が人外の形状をしていた事。そして、光の砲撃の威力で破損した服の間から見えた肌は、緋色の鱗に覆われていた。
「そんな馬鹿な……今のあれは……『竜人』!? まさか、終わっていないというのですか……『黒き千年』は……」
思わず呟いたロンディーネの言葉は、その場にいる誰の耳にも届く事は無かった
そうしてロンディーネが茫然と佇んでいる横で、大貴の元に歩み寄った詩織は、素手で仮想の光刃を受け止めた事で出来た紅い染みを見て、大貴を案じる
「大貴、怪我大丈夫?」
「ああ……かすり傷だ」
詩織の言葉に、素っ気なく答えた大貴は、自身の気を傷口に集中して回復を促す
気で強化していた事もあって、大貴の申告の通り傷そのものは大したことは無い
精々薄皮を切られた程度だ。大貴は謎の人物が突き破って姿を消した窓の穴と、そこから見える街並みを見て目を細め
(舞戦祭には出るな……か。ルカとの事か?)
粗雑な機械音で紡がれた言葉を思い出す。舞戦祭と言われて大貴に思いつくのは、ルカとの会話しかない
その結論に至った大貴は、装霊機の通信機能を開いて、偶然にも聞いておいたルカの番号へと繋ぐ
「……大貴?」
「あぁ、ルカか。パートナー決まったか? さっきはああ言ったけど、もしよかったらお前に協力させてほしいんだ」
怪訝そうに眉をひそめる詩織の横で、ルカと連絡を取った大貴は、通話機の向こう側から聞こえてくる歓喜の声に、険しくしていた表情をわずかに綻ばせる
「……ああ、こっちこそ頼む」
「光魔神様!?」
「悪いな、ロンディーネ」
そのやり取りに気付いたロンディーネが思わず声を上げるのを遮り、大貴は謎の人物が姿を消した窓の穴に、強い憤りの籠った視線を向ける
「こんな風に喧嘩売られて黙っていられるほど、俺は大人じゃないんだ」