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魔界闘神伝  作者: 和和和和
ゆりかごの世界編
4/305

条件






 一点の混じり気もない、この世には実在しない程神々しく見える白と黒が世界を塗り潰す。

 世界が砕けたのではないかと思われるほどの衝撃に、大貴と詩織は反射的に目を閉じる

「……っ!」

 目の前で何が起きているのかは理解できずとも、この力に呑まれれば自分たちなど、一瞬にしてこの世から消滅してしまうであろうことを感覚的に理解している大貴と詩織だったが、一向に訪れない衝撃に恐る恐る目を開く

「これは……」

 思わず声を漏らした大貴の視界には、自分達を包み込むように張り巡らされている半透明の球体が見てとれた。

 うっすらと黒みがかったその球体は、例えるならばサングラスを介しているかのように二人の視界を彩っており、それが眼前に立つ人物――神魔によって造り出されている事は二人にとって想像に難くない

「守ってくれてる、の?」

(これが結界の力って訳か……)

 神魔が「結界」と呼んだものの力を目の当たりにして息を呑んだ大貴の目に、その先――結界の外で繰り広げられているクロスと紅蓮の戦いが映し出される

「――っ!」


 紅蓮の黒、クロスの白、二つの力が交錯し合い、二人の刃がせめぎ合ってまるで世界そのものを軋らせるかのような力の圧力を生みだす。

 二人の目には斬閃の残滓しか見えないが、研ぎ澄まされた殺意を宿した斬撃の応酬は、まるで余計なもの全てを切り取って、生命の輝きそのものを削り出しているかのような、どこか引き込まれてしまいそうな(あや)しげな魅力を発しており、一種の芸術と見紛うばかりの美しさを演出している。

 命を奪いあう戦いを芸術などと呼ぶのはおこがましいと思いつつも、そこに込められたクロスと紅蓮――二人が己の存在をかけてしのぎを削る様は、嫌が応にも二人の心を捉えてしまうほどの魅力を持っていた


 クロスと紅蓮の戦いによって生じる力の波動は、神魔が展開する魔力の結界に阻まれ、その衝撃は微塵も二人の身体に届く事は無い。

 しかしその力の持つ圧倒的な圧力が、そこに込められた一点の曇りもない純粋な殺意が結界を介して大貴と詩織の魂を貫かんばかりに攻め立てていた

「あなた達は一体何なんですか……?」

 今まさにクロスと紅蓮が戦いを繰り広げている最中、何事も無いかのように佇んでいる神魔の背に、詩織は自身の存在を抉り取らんばかりの力の圧力に震えながら、懸命に声を搾り出す

「僕とあの紅蓮は悪魔、クロスは天使だよ」

 ともすれば、聞き逃してしまいそうなほどの微かな詩織の声に、神魔は振り向く事無く、背中を向けたままでありのままに答える

「悪魔……」

「天、使……?」

 まるでおとぎ話か神話の中でしか聞かないような言葉に、大貴と詩織がその名を反芻する。



 この瞬間、二人は一つの――そして、新たな神話の中に取り込まれたのだという事を、心のどこかでだれに言われるまでもなく漠然と、正しく理解していた。



 神魔と大貴、詩織が言葉を交わすその傍らでで、ぶつけ合った力の反動で弾かれたクロスが空中で翼を一度だけ羽ばたかせて空中に留まる

「ちっ……」

 小さな舌打ちと共に、先ほどの激突で痺れてしまった腕を回復させるかのように軽く振ったクロスは、身の丈にも及ぶ大剣を軽々と振るう


 その視線の先には片手で剣を持った紅蓮がクロスを見上げて小さく笑みを浮かべている。

 その目に宿るのは純粋な殺意。獣のように生きるために殺すのでも、身を守るために戦うのでもなく、命をせめぎ合わせる闘争の中に、自身の存在を見出そうとしているかのような、狂気にも似た意志だった


 一見圧倒的力でクロスを弾いたかのように見えるが、先ほどの激突で最初に立っていた位置よりわずかに後方に下がっているのは大貴と詩織を除いた全員の目には明らかだった

「……っ」

「心配しなくてもいいよ。クロスの光力と紅蓮の魔力の差はそれほど違わない。二人の実力はほとんど拮抗してるから」

 背後で口元を覆い言葉を失う詩織と、息を呑んで戦いの行方を見守っている大貴の気配に危機感を感じさせない神魔の穏やかな口調に、二人は神魔の背に視線を移す

「光力、魔力……?」

「九世界の存在の全てが持っている力……『存在の力』とでもいうべき力だよ。天使の力は『光力』、悪魔の力は『魔力』。

 この力は強いほど能力が高いから、必然的にこの力の大きな方が強いって事になる。二人の力は紅蓮の方が若干強いけど、決して運や工夫で覆せないほどには開いていないから大丈夫だよ」

 神魔の言葉の背後でクロスは光の流星となり、空中をまるで慣性の法則や重力など最初から存在しないかのように正に縦横無尽に駆け巡り、紅蓮もその動きに合わせて漆黒の流星となって空を駆ける。

 空中を駆け巡る黒と白の流星は空中で何度も激突し、そのたびに白と黒の力がその軌跡にそってまるで満開の花のように顕現する

「と、飛んでる……」

 大貴と違って九世界の存在が空中に浮いているところを初めて見る詩織は、その光景に無意識に言葉を漏らしていた

「まぁ、天使と悪魔なら空くらい飛ぶだろ」

 翼のある天使のクロスだけではなく、翼の無い紅蓮までもが自在に空を飛び回る様に声にならない声をこぼす詩織に大貴は静かに答える

「今、どうなってるの!? 大貴、見える?」

「いや、白と黒の線と時々起きる爆発みたいなのしか……」

 空中を自在に駆けるクロスと紅蓮の姿は、詩織の目にも大貴の目に映らない。二人の目には二人が通った白と黒の軌跡と、その激突で生まれる飛び散った力の残滓たる花がかろうじて見えるくらいだ

「今のところはほぼ互角の戦いだよ……紅蓮の方が若干押してるけど」

 詩織と大貴の会話に、目の前の戦いから目を逸らす事無く神魔が背中で答える

「……勝てないんですか?」

「四,六くらいでクロスが負けると思うけど……今は分からないかな」

 不安そうに問いかける詩織に口調を変える事無く神魔が答える

 その口調には何の感情もこもっておらず、どちらが勝っても興味がないかのようにも感じられる

「なら、二人で戦ったほうがいいんじゃないですか?」

 クロスの分が悪いという話を聞いた詩織は傍観を決め込んでいる神魔に恐る恐る問いかける

「天使と悪魔は仲悪いから」

 詩織のその言葉に、神魔は簡潔に単純に、分かり易く応じる。


 九世界と接触のないゆりかごの世界の存在にとって、生まれて初めて見るであろう、自分達九世界の存在(・・・・・・)

 いくら抑えている(・・・・・)とはいえ、本来ならば意識を保つ頃すら出来ないだろう自分と対峙し、臆しながらも話かけてくる事が出来る詩織の胆力に神魔は内心で感心していた。


「そんな……っ」

(まぁ、そうだろうな……)

 神魔の言葉に内心で納得している大貴の隣にいる詩織は、震えそうになる身体と声を懸命に押さえ込みながら唇を強く引き結ぶ


 大貴や詩織のような九世界とは無縁の人間ですら「悪魔と天使は敵対している」という概念は常識に近い。むしろ仲のいい天使と悪魔のほうが思い浮かばないほどだ。

 自分の知る天使と悪魔の印象とは少々違うが、大貴は自分の中にあるそう言った空想の存在だった者たちへの認識が、九世界においても間違った認識では無いらしいことを確認していた


「仲悪いからって助けないのはよくないと思います」

「……そういう見方もあるね」

 詩織の言葉に気分を害した様子も無く神魔は小さく呟く

「でも僕がここを離れるとこの結界を維持できないから、二人――特に詩織さんの方は一瞬で死んじゃうよ?」

「……っ」

 神魔の言葉に詩織は息を呑む。この結界から出たら死ぬというのは詩織も身を持って体験しており、その言葉が嘘でない事は十分分かっている。

「ここから離れたらこの結界を維持できないんですか?」

 町の風景を残したまま人のいない空間を作ったり、宙を自在に飛び回っている姿から天使や悪魔にはできない事はないと思っていたのだが、そういうわけでは無いらしい

「出来ないっていうわけじゃないけど、この結界は僕の魔力を使って維持しているからね。片手間で助けに入っても足手まといになるだけだから」

 最初に紅蓮とクロスの力の威圧だけで一度死にかけた実績を持つ詩織には、神魔の言葉の重みがよく理解できていた

「けど、何も出来ないってわけじゃないんだろ?」

「……どうしてそう思うの?」

 詩織に代わって沈黙を破った大貴の言葉に神魔は背中越しに応じる

「お前は『ここを離れると結界を維持できない』って言ったよな? 裏返せば『離れなければ維持できる』って意味だ。

 つまり飛び道具みたいなものを使えば、結界を維持したまま戦えるっていう事だろ?」

「そうなんですか?」

 大貴の言葉に目を丸くする詩織の言葉に神魔は一瞬沈黙する

「……結構目ざといんだね」

「褒め言葉として受け取っておく」

 神魔の言葉に大貴は静かに応じる

「いや、掛け値なしで褒めてるんだよ。ゆりかごの世界の人にとっては存在が空想のそれに近い僕達を見て、僕の言葉を冷静に理解する事ができているんだから。……普通ならパニックになって冷静な判断なんてできないと思うよ」

(……!)

 神魔の言葉に大貴は内心で息を呑む

 確かに普通なら現在の状況を理解できずにパニックになって、半狂乱に陥っていたとしても不思議ではない。しかし時が経つに従って、徐々に冷静な思考と落ち着きを取り戻している自分に気付かされる

「それは君の中に封じられているモノの所為なのかな? それとも……」

「……!」

 神魔の言葉に大貴は息を呑む

 その言葉の続きは言われなくても分かる。「それともそれが君の本性なのかな?」だ。言い回しの違いこそあれど、そういう意味の言葉を神魔が言おうとしている事は大貴も詩織も、何も言われずに感じ取っていた

「!」

「ぐあっ」

 大貴と詩織が言葉を失う中で神魔が一瞬小さく反応したかと思うとクロスの声が詩織と大貴二人の耳朶を叩く

 その言葉に視線を向けると、紅蓮との激突で吹き飛ばされたクロスが翼を広げて体勢を整えるところだった

「どうした? もう終わりじゃないだろうな?」

 紅蓮は弾き飛ばしたクロスに追撃するような様子を見せず、体勢を立て直すクロスを余裕すら感じられる表情で見る

「……ちっ」

 自身の左腕から上がる真紅の炎を見てクロスは目を細める。

「身体が燃えてる?」

 クロスの左腕に上がった真紅の炎とも煙とも見えるそれを見て詩織は声を上げる

 ちらちらと燃え、ゆらゆらと揺れる真紅の炎はそこを覆い隠すように触れたクロスの手が離れるとまるでそんなものなど最初から無かったかのように跡形も無く消える

「今のは、一体……?」

「あれは血だよ?」

「血!? じゃあ、クロスさん危ないんじゃ……」

 不安に顔を彩らせた詩織の言葉に神魔は動揺など微塵も見せずに呟く

「そうだね、このまま何もないようならクロスが殺されちゃうね」

「そんな……お願いです。クロスさんを助けてあげてください」

「必死になるほどクロスと親しいわけじゃないのに、何でそんなに一所懸命なの?」

 詩織の言葉に神魔が背中を向けたままで問いかける

「確かに、クロスさんとは今さっき会ったばかりですけど……私は親しい大切な人も、会った事のない他人でも、死なずに済ませられるなら死なないで欲しいって思ってます!」

「俺は、クロスに命を助けてもらったからな」

 詩織と大貴の言葉に肩越しに2人に視線を向けた神魔は、小さく微笑むと紅蓮とクロスの戦いに目を戻す

 その視線の先ではクロスの純白の光力と紅蓮の漆黒の魔力が絶え間なく激突している

「クロスを助けたい?」

「え?」

 不意に背中越しにかけられた神魔の言葉に詩織は一瞬言葉に詰まるが、すぐに頷く

「はい」

「なら、条件があるんだけど」

「条件……?」

 神魔の言葉に詩織と大貴は息を呑む

「おおおおおっ」

「ハハハハハッ」

 全身を光の流星として紅蓮に向かっていくクロスを、身体から漆黒の魔力を炎のように燃え上がらせて紅蓮は高笑いと共に迎え撃つ

 二人の実力は神魔の言った通り、決して大きく離れているわけではない

 しかし二人の間に確かに存在する実力差がクロスを紅蓮が圧倒するという結果を作り出している

「僕にどこか住む場所を提供してくれないかな」

「住む、場所……?」

 神魔の言葉に詩織と大貴は言葉を失う

「しばらく、この世界に留まりたくなってね。そんなに立派なところじゃなくてもいいんだよ、例えば君達の家の庭先とか物置とかでもいいから」

「……契約ってわけか?」

 神魔の言葉に大貴は平静を装いながら言い放つ

 大貴にとって悪魔というモノは何か願いを叶えてくれる代わりに相手に魂を要求するという印象が強く、神魔のお願いをそういうものだと受け取る

「契約? 何言ってるの? むしろ人としての常識だよ」

「?」

 素っ頓狂な様子で言った神魔の言葉に、詩織と大貴は怪訝そうな表情を浮かべる

「正直なところ、僕はクロスの生き死にになんて興味無いよ。でもそれを助けたいと言ったのは君たち――正確には詩織さんの方。ならそのための対価は必要不可欠じゃない?」

「対価って! 人の命がかかっているんですよ?」

 神魔の言葉に詩織はわずかな憤りの色を帯びた声を上げる

「……だから?」

「だ、だから対価とかそんな事言っている場合じゃないんじゃないですか!?」

 詩織のその言葉に神魔は一瞬の間を置いてゆっくりと首だけで肩越しに振り向く

「調子に乗るなよ」

「!!」

 不意に向けられた神魔の冷徹な視線に、詩織と大貴は身体を強張らせて言葉を失う

 神魔の白目だった部分が漆黒に染まり、まるで無明の闇に浮かぶ満月のような金色の目が二人に圧倒的な怒気を孕んで向けられる

 神魔が放ったのは殺気ではなく怒気。それも大人が子供をたしなめるような類のそれ。しかしそれは人間である詩織と大貴を震え上がらせるには十分だった

「力ある者が力ない者を助けるって事は『弱者は強者に助けられて当然だ』って意味じゃない」

「!」

 冷たく言い放たれた言葉に顔を青褪めさせ、思わず半身を惹いた詩織と大貴に肩越しに視線を向ける神魔は、静かな声音で諭すように淡々と言葉を紡いでいく

「強者には『才能』とか『どんな種族に生まれた』とか一定の優位性アドバンテージがあるのは事実だよ。

 けど自分の持っていない誰かの力を借りたいなら、それに見合う対価を支払うのは当然の事でしょ? 『弱いから無償で助けられて当然だ』なんて、自分達に都合よく解釈するな」


 誰かの持つ何かの力はその人物が持って生まれた才能と後天的な努力と犠牲によって手に入れたもの。

 その力を持っていない者がその力を借りたいと思うのなら、その才能と努力と犠牲に敬意を払うのは当然の事だ


「弱さを傘にきて誰かの力を――まして命を賭けさせる事を、さも『当然だ』みたいに言わないでよ。強者(僕達)の命も、心も、力も、弱者(君達)のモノじゃないんだから」

 その言葉に詩織も大貴も返す言葉を失う

「君達がやってるのは、自分たちが貧しいからって、金持ちの財産を当然のように手に入れようとする、ひどく身勝手で浅ましい行為だよ」

「……っ」

 その言葉に詩織は小さく唇を噛みしめて言葉を失う。神魔の言葉に反論できずに詩織はうつむいて手を強く握り締める

 その様子を見た神魔は今までの怒気をはらんだ言葉から一転優しい声音で今までの様子が嘘だったかのような満面の笑みを浮かべる

「だから、僕に君達の願いを叶えてもいいって思わせて?」

「……っ」

 優しく微笑む神魔にしばしの沈黙の後、詩織は握っていた拳を解いて胸に手を当てて顔を上げる

「……分かりました。全力を尽くします」

「姉貴!?」

 詩織の言葉に大貴は小さく溜息をつく

「……まぁ、いいか」

 やや曖昧な詩織の言葉にしばらく考えて神魔は小さく呟く

「僕としても詩織さん達を守るには、ここでクロスに力を貸したほうが得だしね」

「……え?」

 神魔の言葉に詩織は言葉を呑み込み、大貴は神魔の背を見つめる

 神魔にとっては寝泊りの場所など正直どこでもいい。そもそもそんな事はどうだっていいのだから

(……良くも悪くもゆりかごの住人(・・・・・・・)か)

「じゃ、契約成立って事で」

 そう言った神魔の手に漆黒の力が収束される。手の平に球体となった魔力の結晶を超光速で戦闘する紅蓮とクロスに向けて開放する。

 神魔の手から紅蓮に向けて放たれた神魔の身の丈の2倍ほどの直径を持つ漆黒の魔力の破壊波動が空間を震わせる

「す、すご……っ」

「手からこんなもんも撃てるのかよ……!」

 魔力を放つ砲撃に詩織と大貴は絶句する

 確かにこれならば神魔が言っていたように「その場から動く事なく」攻撃と戦闘を行う事が出来る

「っ! ……ちぃっ」

 神魔からの援護射撃に瞬時に反応した紅蓮は、魔力を帯びた剣で魔力の波動を切り裂いて拡散させ、消滅させる

 神魔の魔力をかき消した衝撃が空間を震わせ、神魔が張り巡らせた結界を震わせる

「神魔……」

「……どういうつもりだ!? 天使の味方をするのか!?」

「お前……」

 神魔が魔力砲でクロスを援護した事に紅蓮が声を荒げ、援護されたクロス自身も信じられないといった様子で神魔に視線を送る

「天使の味方? 言いがかりはやめてくれないかな? 僕は僕のためにしか戦わないよ」

 紅蓮の言葉に神魔は不敵な笑みを浮かべるとその手の中に魔力を収束し、漆黒の球体を生み出す

「お前も、そいつの中のモノを狙ってるのか!?」

「僕はそんなものに興味ないよ。ただ詩織さんに泣かれるのが嫌なだけ」

「……え?」

 神魔が発した自分の予想を裏切る答えに、詩織はその意味を掴みあぐねながらも、様々な考えが脳内を駆け廻り、それに対応する言葉を失う

「さて、どうする?不本意だけど、これから僕はクロスに力を貸すよ?」

「……っ、俺だってお前に助けられるのは不本意だ!」

「まったくだね」

 毒づいて紅蓮に向き直ったクロスに、神魔は小さく苦笑してみせる

「……少し分が悪いな」

 クロスと神魔を交互に見て紅蓮は小さく呟く


 クロス一人なら勝算は十分にある。十回戦えば八回までは勝てるだろう。油断するか、よほど偶然が重ならない限り負けることは無い

 しかしそこに神魔が加わればその勝算はかなり悪くなる。結界を維持する分の魔力と制御、そしてその場から動けなくとも魔力砲による援護はかなり厄介だ


「今日の所は退くしかねぇか」

「させるか!!」

 紅蓮の言葉に瞬時に反応し、クロスは翼を広げる。

 そこに光力が収束し、両の翼に無数の光玉を作り出したかと思うと、それが無数の光の砲撃となって不規則な軌道を描きながら一斉に紅蓮に向かって奔る

「焦るなよ。近いうちにまた戦う事になる。そいつがいる限りな」

 紅蓮の視線が一瞬大貴に向けられ、クロスの無数の光力砲に手を向けた紅蓮の手の平から魔力砲が広域に拡散するように放たれる

 クロスの光力砲と紅蓮の魔力砲が真正面からぶつかり合い、一瞬の拮抗の後、互いに相殺して消滅し、無数の白と黒の波動を華のように空中に咲かせる

「……ちっ」

 そしてその光力と魔力の残滓が消えた頃には紅蓮の姿も、紅蓮が作り出していたこの異空間も消え、そこには今までの事が嘘だったかのように何ら変わらない日常の光景が広がっていた





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