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魔界闘神伝  作者: 和和和和
魔界闘神伝編
301/305

神界





「神力共鳴!」


 重なり合う桜と瑞希の声と共に、神の寵愛者の証である神器「アンシェルギア」によって得た「混沌(カオス)」の神力がもう一人の破壊神である二人の伴侶――「神魔」の存在と共鳴し合って天を衝く

 暗黒神によって作られた隔離世界の全てを呑み込む混沌(カオス)の力は、神を生み出し、神を滅ぼす神力の威を十全に知らしめる


「この神格は……!」

極神(妾達)の神格と同等――!」


 桜と瑞希から迸る神力と神格が純然たる戦意の下に振るう力に身を打たれる二柱の闇の極神――「暗黒神・ダークネス」と「終焉神・エンド」は、自身達と同等の力に戦慄を覚えて瞠目する


 悪魔という存在の限界によって封じられているとはいえ、もう一人の破壊神である神魔が本質的に宿す神格は神位第一位。

 その本質的な神格と共鳴することにより、神の寵愛者(アンシェル)たる桜と瑞希は、その神格を神位第三位たる極神と同等以上にまで高めていた


「いきますよ、瑞希さん」

「ええ、桜さん」


 神の伴侶たる神の寵愛者(アンシェル)として、極神に比するほどの神格を獲得した桜と瑞希は、神魔との共鳴によって高められた混沌(カオス)の力を薙刀と双剣――それぞれの武器の刀身へと収束していく

 混沌の力を収束した桜と瑞希は、先の戦いにおいて自分達の前に立ちはだかってきた終焉神を共に見据えると、その力を解放する

「はああッ!」

 桜の淑然とした声と、瑞希の凛麗な声が重なり、振り抜かれた薙刀と双剣の刀身から混沌の極撃が放たれる

「ち……ッ」

 斬閃と共に放たれた絶対神の伴侶が行使する神々の根源にして頂点たる混沌の神力に、終焉神は全てに終末を与えるその闇をぶつけて相殺せんとする

 混沌と終焉、二つの力がぶつかり合い、全てを滅ぼす神闇が互いの神性を発現させようとせめぎ合って渦を巻く

終焉(エンド)の力が……!)

 全てを終わらせる闇であり、極神の中で最も優れた殲滅力を持つ終焉神が、桜と瑞希の放った滅神の力にかき消されていくのを知覚して暗黒神(ダークネス)は息を呑む

(同じ神格なら、破壊神様のお力である混沌(あちら)の方が上というわけですね)

 共鳴によって、桜と瑞希の神格は極神と同等になった。本来ならばその力は互角だが、破壊神(神位第一位)の力である混沌の力がその本質的な面によって終焉の力に勝るのは必然だった

(このままでは――)

 その不利を察した暗黒神が咄嗟に援護のために全てを呑み込む神闇を放つも、光の極神である天照神の聖滅の光がそれを阻む

「邪魔を……」

「もう認めてはいかがですか? 彼らは、あなた達の思惑を越えて可能性を示したのです」

 創造神の干渉があったとはいえ、神魔と桜、瑞希の三人はそれぞれに絆を結び、こうして閉ざされた暗黒世界を開くまでに道を切り拓いた

 破壊神として封じられた破壊神と相対する神運を示したといってもいいと認める天照神の言葉に、暗黒神はその美貌をわずかに歪める


「……ッ、桜、瑞希」


 悪魔としての存在の深奥にある神としての神格を共鳴によって刺激される神魔は、内側から張り裂けてしまいそうな力の脈動に苦悶の色を浮かべながら、終焉神と相対する桜と瑞希――二人の伴侶を呼ぶ

「神魔様」

「神魔」

 その声に答えるように、桜と瑞希はそれぞれの武器を握る手に力を込め、全霊の意志を混沌の力へと注ぎ込む

 それに答えるように極神(神位第三位)と同等以上のちからを示す混沌が一層力を増し、終焉神の滅闇を圧倒していく

「まだ、これほどの力が――!」

 桜と瑞希から放たれる混沌が驚愕に目を見開く終焉神(エンド)をを呑み込んで暗黒色の空を衝く

 闇の絶対神の、神をも滅却する混沌の闇が空に吸いこまれると、そこに込められた意思によって閉ざされた世界に破壊がもたらされる

「妾の世界が……」

 混沌の力の炸裂によって隔離された世界が破壊され、外の――本来の世界と通じる穴を穿たれた暗黒神は瞠目して外から差し込む光を双眸に映す

 世界を構築していた暗黒(ダークネス)の力が崩壊し、形を失って世界へ溶けていくと、神々を含めた全員が本来の世界へと回帰する

「暗黒神様が作り出していた世界が崩壊して――」

「元の世界に戻って来たのか」

 それを見た天界の姫「リリーナ」の呟きに、唯一別空間へと隔離されていなかった九世界王である「天界王・ノヴァが続く

 隔離されていた異空間から現れた九世界の王達はいずれも深手を負っており、激しい戦いを繰り広げたことを容易に想像させる


「大貴! ヒナさん!」


 その一方で黒白の翼を広げた大貴と太極の結界に守られた人間界王「ヒナ・アルテア・ハーヴィン」の姿を見止めた詩織は、安堵から声を上げる

「あの姿と力……完全に光魔神として覚醒したのか」

「そうみたいね」

 隔離されていた別の世界から回帰した大貴の姿と神格がこれまでとは違うものになっているのを知覚したクロスとマリアは、それにわずかに驚きを覚えて言う

「姉貴。それにあっちはクロスにマリアか……」

 「正義神・ジャスティス」となったクロスと、「慈愛神・ラヴ」となったマリアに気付いた大貴は、こちら側で何が起きたのかを掴みあぐねてわずかに困惑しながらも、二人が無事であったことに胸を撫で下ろす

 そして、世界と生きとし生けるものはもちろんのこと、事象や概念を含めた全てと共鳴して自身のものとする太極の力によって世界を知覚した大貴は、崩壊と共に解けて溶けていく暗黒の世界の空へと視線を向ける


「神魔――それに……」


 崩天の中心に神魔と、極神にすら匹敵する神格を得た桜と瑞希の姿を見止めた大貴は、この戦いの結末をおおよそ察する

「どうなってるのかは分からないけど、やったってことだよな」

 空間の門を開いたその姿を見上げる大貴は、口端を吊り上げると握りしめた拳を三人に向けて口を開く


「いけ!」


「大貴君……!」

 暗黒神の力によって別の空間隔離されていた大貴と九世界の王達が、桜と瑞希の力によって暗黒の世界の崩壊すると共にこの世界に回帰してきたのを知覚した神魔は、軽く視線を向けて目を細める

(そっか。覚醒できたんだね)

 混沌の一撃によって暗黒の世界が崩壊するのと同時に、因果を手繰った桜と瑞希によってその傍らへ引き寄せられていた神魔は、ほんの少し見ない間に完全に光魔神として覚醒している大貴を見て思わず顔を綻ばせる


 その姿に力づけられたように感じる神魔は、闇の空から差し込む光に照らし出されている眼下に広がる世界を見下ろす

 大貴、クロス、マリア、王をはじめとする天使、悪魔、天上人、鬼、聖人、死神、精霊、妖怪、人間、堕天使――九世界を総べる九つの種族たち、そして実母である深雪の姿が双眸に映しだされる


「――見事だ」


「っ!」

 世界を渡る空間の扉に包み込まれた神魔は、直接脳裏に届くような声に息を呑む

 神魔と同様にそれが聞えていた桜と瑞希は、世界を繋ぐ時空の門の中へと身を沈めながら、肩越しに視線を向けて声の主を見る

「あの状況の中、お前達は我々の思惑と力を越えてこの結果を勝ち取った」

 創造神が派遣した光の神々の助勢があったとはいえ、戦力的には当初闇の神々の方が優位だった

 そんな状況下にありながらも諦めずに戦い、神の寵愛者(アンシェル)などの力によって極神を含む闇の神々の包囲網の中で生き延び、暗黒神が作り出した隔離世界を破壊して外界へと至った神魔を認めた終焉神の称賛の言葉が、神魔、桜、瑞希に届けられる


「お前を破壊神様となる資格を持つ者して認めよう」


 もう一人の破壊神たる神魔と共鳴することで放った先の混沌の一撃によって生じた暗黒の破壊渦の中に佇む終焉神・エンドは、その身に負った傷から血炎を燻らせながら厳かな声で淡々と言う

 終焉神(エンド)の言葉に同調するように全ての闇の神と覇国神達がその戦闘を収め、世界を越えようとする神魔達に視線を向けていた


 終焉神や暗黒神が本気を出せば、今からでも神魔達を妨害することもできるだろうが、隔離世界を抜けた時点で闇の神々が神魔が破壊神として封じられた破壊神とその存在を賭けて戦う資格がある者だと認めた今、そのような無粋なことをすることはない


この場所(・・・・)で破壊神様と共にお前たちを待つ」

 そこまで前置いた終焉神は、世界を繋ぐ空間の門の中へと消えていく神魔達の意識に目的地となる場所を神力に乗せて送り込む

「ここは……!」

「神魔様」

 終焉神から送られて来た場所のイメージを受け取った神魔と桜が小さく目を瞠って顔を見合わせると、横目で見ていた瑞希が柳眉を顰める

「心当たりがあるの?」

「僕が大貴君や詩織さんに会うきっかけになった戦いをした場所だよ」

 瑞希の問いかけを受けた神魔は、神妙な表情を浮かべて端的に応じる


 終焉神が示した場所は、神魔がクロスと戦い、ゆりかごの世界――地球へと落ちた時空の狭間だった

 そここそが、闇の神々が封じられた破壊神を隠す異空間を潜ませていた場所。当時の神魔達では絶対に見つけられるはずはなかったが、わずらわしさから闇の神々は二人を異世界に放逐した

 だからこそ、あの時いかに神能(ゴットクロア)同士の戦いだったとはいえ、開くはずのない世界の門が生まれ、神魔とクロスは共にゆりかごの世界へと落とされたのだ――尤も、そこに落とされたのも、大貴と出会ったのも、全て数奇な運命と呼ぶべきものだったが


「これも、巡り合わせということか――皮肉なものだな」


 自分達が潜んでいた空間の間近で戦っていた悪魔こそが探し求めていたもう一人の破壊神であった事実に自嘲めいた笑みを浮かべた終焉神は、小さな声で独白して世界の門の中へと消えていく神魔達三人を見送るのだった





「これが、神臓(クオソメリス)……!」


 世界の中心に存在し、全ての世界に光を注ぎ、昼と夜を作り出す神器。神によって創造された全ての世界の天頂に座す光源を前にした神魔は、呻くように呟く

 神臓の名の通り、鼓動のような音を立てる光球から放たれる光は温かさと優しい温もりに満ちており、間近であっても世界を隔てていても光量が全く同じものだった

「っ」

「く……ぅ」

 世界を照らす神の光源を前にしたその時、横から聞こえてきた桜と瑞希が小さな声に、神魔は慌てて視線を向ける

「桜、瑞希」

「ご心配には及びません」

 そんな神魔の憂いを払うように応じた桜は、混沌(カオス)の力を行使する神の寵愛者(アンシェル)としての姿から、悪魔としての姿へと戻る

「タイムリミットね。時間の長さは、貴方との繋がりの強さに比例しているのかしら?」

 桜と同様に悪魔としての姿に戻った瑞希は、身体に残る重い負荷による疲労感を感じさせる面差しで推察を述べる


 いかに契りによって存在を交換し、共有しているとはいえ、完全存在(オリジン)である神と全霊命(ファースト)の間には絶対的な神格の差がある

 アンシェルギアによって負荷を緩和しても、神力と共鳴するのには制限時間があることはこの力を使っている時から感じていたため、神魔との関係が長い桜の方が存在に染み込んだ力の分、単純に使用時間が長かったのだろうという予測も問題なく立てることが出来た


「ありがとう。二人は、ここまで僕を連れてきてくれたんだから、あとは僕に任せて」

 かなりの負荷はうかがえるが、特に命の危険がある様子のない桜と瑞希を見て安心したように一つ息をついた神魔は、二人の伴侶に感謝を労いの言葉をかける

「はい」

「ええ」

 その言葉を聞いて、それぞれに微笑を浮かべた桜と瑞希から神臓(クオソメリス)へと視線を移した神魔は、世界を照らす光源たる光球を見て思案気に目を細める

「多分神の世界へと続く門があるはずなんだけど……とりあえず、あの中に突っ込んでみるしかないかな?」

 神々が住む世界――「神界」へとつながる門でもあるという神臓(クオソメリス)を観察する神魔だが、外観からではそういった要素を窺うことはできない

 そのため、光源の中に門がある可能性を考察した神魔が独白した瞬間、神臓(クオソメリス)から照射される世界を照らす光が、不意に空中に魔法陣のような門を描き出す


「!?」


「その必要はありませんよ」

 光によって描き出された門が出現したことに神魔達が目を瞠る中、光によって形作られた扉がゆっくりと開いて、その中から一人の女性が姿を現す


 世界を照らす光を受けて仄かに輝くのは、金色の装飾で彩られた艶やかな長い黒髪。全霊命(ファースト)特有の現実離れした均整の取れた神秘的な美貌は、清楚さと落ち着いた雰囲気、そしてほのかな色香を絶妙に調和させたもの

 ほんのりとその美貌を化粧し、その身を赤と白を基調とした着物のような霊衣を纏ったその美女は、結わえられた黒髪をその歩に合わせて揺らしながら、一歩一歩踏みしめるように歩み出る


神位第六位()の神格……けれど、この神能()は光の神のものでも、まして闇の神のものでもないわね。つまりあれは――)

(異端神)

 光の門の中から現れたその黒髪の和装美女が異端神に類する存在であることを知覚した神魔、桜、瑞希は緊張感を高める

 場合によっては、再び神器(アンシェルギア)を発動させる必要があるかもしれないと、負荷の蓄積した身体を押す桜と瑞希の視線を受ける黒髪の女性は、神魔達三人と向かい合うと微笑を浮かべて口を開く


「お初にお目にかかります。わたくしは創造神様より、神門(クオソメリス)九世界側(・・・・)門番を仰せつかっております、〝香織〟と申します」


 目礼し、軽く腰を降って恭意を示した黒髪の女性――「香織」は、調べを思わせる言の葉を紡いで、瞼を開いてその双眸に神魔達を映す


「――〝巫女姫〟と申し上げればわかりますか?」


「神の巫女の長姉……!」

 たおやかな微笑を浮かべながら自らの存在を告げた香織に、神魔達は驚愕を覚える

 巫女姫とは、光、闇、異端神――全ての神に通じ、仕える四人の神の巫女の長姉を指す呼称。そして巫女姫の下には、順に「歌姫」、「舞姫」、そして「奏姫(・・)」がいるのだ

「妹がご迷惑をおかけいたしました」

 本心なのか社交辞令なのか判断のつかない淡々とした口調で謝罪の言葉を述べた香織に、神魔達はかけるべき言葉を選べずに沈黙を返す

 十世界の盟主として恒久的世界平和を目指した奏姫である愛梨は、自らを利用した者の手にかかり命を落としたが、愛梨がしてきたこと、望んだことは、一概に否定されるべきものではない

「失礼いたしました。私事で皆様にお時間を取らせてしまいましたね。皆様を丁重にお通しするように創造神様から仰せつかっております」

 神の巫女の長姉として末妹のことを思う香織は、本心はどうあれ重くなりかかっていた空気を変えるように涼やかな声で本題を切り出す


 その言葉と共に香織が軽く腕を振るうと、神魔達の正面で輝く神臓(クオソメリス)の中心部で光が渦を巻き、その奥まで続く穴道が出現する

 世界を照らす光源の中に現れた何の装飾もないその穴は、その内側に神臓(クオソメリス)が放つそれとは違う淡い極彩色の光を抱いており、この道が神の住まう世界へと続くものであることを想起させるようだった


「この先が神界です」


 神の世界へと続く門を開き、半身をずらした香織は、軽く頭を下げながら神魔達に道を示す

 この先へと進むように促す香織に、桜、瑞希と意志を確かめ合うように視線を交錯させた神魔は、改めて世界の光源を見る

「いくよ」

 神秘の世界へと続く幻想的な光で満ちた道を見た神魔は、意を決して先陣を切る

 桜と瑞希も躊躇うことなくその後に続き、神臓(クオソメリス)に生じた空洞の中へと入っていく


「――!」


 極彩色の光に満たされたそこへ入った瞬間、神魔達を謎の引力が捕らえ、その内側――最奥へと誘っていく

 神界へと侵入するものを選別するかのような光に認められたのか、知覚しえない神秘の力に誘われ、ほんの一瞬鮮やかな色彩を視界で満たされたかと思った時には、すでに神魔達の眼前には光が弾けていた


「ここが、神界……!」


 視界を満たしていた門の中の極彩色の光が引力と共に消えた時、そこには果てしなく広がる世界が映し出されていた


 果てしなく広がる大地は清らかな水と生き生きした緑に覆われ、白い雲を抱く抜けるような青い空と鮮やかな対比を生み出していた

 九世界と同じように創造されたのであろう神界は、神々しい息吹に満ちており、ここが特別な場所なのだということを感じさせる


「初めて見るのに、どこか懐かしい気がする」

 神が自分達のために作り出した彼方まで広がる美しい世界に一瞬目を奪われた神魔、桜、瑞希の三人は現状把握のために、自分達がいる場所へ視線を巡らせる

 神魔達がいるのは、宝珠で装飾され、細やかで荘厳な意匠が施された金色の柱のみがそびえ立つ円形の台座の上。

 祭壇を彷彿とさせるその場所の中心にして、神魔達の背後には神界と九世界とを結ぶ唯一の円扉が空中に鎮座していた

 水晶で形作られたかのような円扉は、神魔達をこの世界へ送り届けるのを見届けると、まるで意志があるかのように光の球体へと形を変えて天頂へと昇り、世界を照らす光源の中へと還っていく


「城が二つあるわね」

 世界を結ぶ扉が消えた空間から視線を前に戻した瑞希の涼やかな声音に、神魔と桜は無言で答えてその光景を瞳に映す


 瑞希の言うように、祭壇を彷彿とさせる神界の入り口から見える正面には、山よりも高く巨大な二つの城が天を衝いてそびえ立っていた

 一つは純白の外観に金色の光で織り込まれた意匠を纏う城。そしてもう一つは純黒の外観に金色の光で織り込まれた意匠を纏う城。――まるで対極を表すように同じ外観で反転した色合いを持つそれらの城が、白と黒の山脈となって神魔達を出迎える


「創造神様と破壊神様……光の神々の城と、闇の神々の城ということでしょう」

「なら、こっちだね。あの城から気配を感じるし」

 二つの城が並んでいる意味を考察した桜の言葉に一つ頷いて同意を示した神魔は、その視線を白い城へと向けて言う

 二つの城が桜の想像した通りなら、目的の人物である創造神がいるのは白い城であると考えるのは当然の帰結。何より神魔の知覚は、純白の城の方になんらかの存在がいることをおぼろげながら捉えていた

「神魔様にはお分かりになるのですね」

「?」

 その言葉に耳を傾けていた桜がたおやかに言葉を紡ぐと、それを聞いた神魔は怪訝な表情を向ける

「私達にはあなたの言う創造神らしき存在は知覚できないの。一介の全霊命(ファースト)如きに知覚できる存在ではないということなのでしょう」

 神魔とは違い、それらしき存在を知覚できない桜と瑞希は、もう一人の破壊神としての存在の片鱗を感じながら言う

「そう、なんだ……」

「とにかく、行きましょう」

 自分が感じているものを二人が知覚できていないことを理解した神魔は、わずかに表情を曇らせながら意味ありげな声音で独白する

 自身の知覚が悪魔のそれを離れていることを実感し、思うところがあるであろう神魔の背を押すように瑞希は優しく語りかける

 それに神魔が頷き、歩み出すのを視界の端で捉えていた桜は、神の世界の象徴のごとくそびえ立つ純白の城を見据える


(ですが、そもそも創造神様は神魔様をなんのために呼ばれたのでしょう? 創造神様と破壊神様は、創界神争で戦った相手だというのに……)


 光の絶対神である「創造神・コスモス」は、世界の創世において、闇の絶対神である「破壊神・カオス」と互いの存在をかけて戦っている

 こうして神界に訪れる以外に神魔が生き残れる選択肢がなかったためにこうせざるを得なかったが、その真意には腑に落ちない部分があった


「神魔様、お気をつけください」


 神魔がもう一人の破壊神であることを見抜いていたように、創造神の神格と力ならば、神界にいながらにどのようにでも事態を動かすことができたはず

 自ら作り出した不可神条約も、その意思と行動を阻むにはたりえないだろう。――にも関わらず、このような状況を作り出した創造神の意志を図りかねる桜は、あらゆる可能性を想像しながら神魔に忠告する


「……うん。分かってる」


 そんな桜の不安を感じ取ったのか、神妙な面持ちで応じた神魔は、これから向かう純白の城にいるであろう創造神を幻視して、視線を鋭くする

(もし、万が一の時にはわたくしが命を賭してでも……)

 自分の意見を受け入れてくれた神魔に目礼した桜は、いつもと同じように伴侶の半歩分後に続いて純白の神城へ向かって移動を始する

「あれは……」

 穢れのない光が凝縮したかのような白で形作られたかのような創造神の居城へと近づく神魔は、その周囲に点在する小さな存在を知覚して視線を細める

 何かから守る必要もないからなのだろう、城門のようなものがなくただ鎮座する神の城の周囲には、騎士のような出で立ちをした見目麗しい男女が佇み、遠巻きに神魔達を観察していた

神庭騎士(ガーデンナイト)……護法神は創造神の神臣(ヴァザルース)だから当然ね」

 そこにいるのは、円卓の神座№10にして、創造神に忠誠を誓った「護法神・セイヴ」に列なる眷族の守護騎士達

 神々の戦いに並ぶ実力を持たないため残されたのであろうこの神界に住まう者達は、おそらく有史以来最初になるであろう外界からの客人に対し、静かな眼差しを向けて射た

「何かをしてくるような様子もうかがえませんし、進んでもよろしいのではないでしょうか?」

「そうだね」

 神庭騎士(ガーデンナイト)神能()や視線に戦意や敵意がないのを知覚する桜の言葉に神魔も同意を示す

 その言葉の通り、神庭騎士(ガーデンナイト)達は神の白城へと向かう神魔達を観察するばかりで、特に行動を起こすことはなかった


「!」


 神速で移動する神魔達がある程度の距離まで近づくと、神白城はそれが見えているかのように正面の扉を開き、内側へと続く道を開く

「入ってこいってことか」

 開いた扉の無言の言葉を読み取った神魔は、この中で待つ世界の創造主にして頂点たる存在の影を感じながらも自らを奮い立たせる

 今するべきこと、できることは一つしかないことを知っている神魔は、啓示といっても過言ではない扉をくぐり、神の城の中へと入っていく

「なんて荘厳な気配なの……」

「はい。しかもそれだけではなく、とても心が穏やかになります」

 神城の扉をくぐった瞬間に変わった空気に、瑞希と桜は思わず感嘆の言葉を零す


 外観と同じように純白に金色の意匠と装飾が施された神城の中は穏やかな光で満ちており、その空気は畏敬と敬服の念を否応なく感じさせる

 まるで壁や柱そのものが光っているかのような城内には影すら存在せず、しかしその柔らかな光は身も心も癒してくれるかのような慈愛を感じさせる

 無意識に背筋を伸ばしてしまうほどの荘厳さを持ちながらに、心安らぐ城内は、まさに神の息づく神秘の空間と呼ぶにふさわしいものだった


 強いて言えばエントランスにあたる高く広い白の空間に入った神魔達の目に真っ先に映し出されるのは、進行方向――真正面にある観音開きの扉が「こちらへ来い」とばかりにゆっくりと開く様だった

 整然とした白い城内にはいくつもの扉があるが、開いたのは真正面の扉だけ。それを行う者の意志に従い、神魔、桜、瑞希は導かれるままに進むだけでよかった


 そして開かれた扉を抜けた先に広がっていたのは、神白城の中心部にあたる広大な空間。

 荘厳な白い壁と天井と金装飾、赤い絨毯の敷き詰められたその部屋の中心には、清らかな水が満ちる小さな泉があり、その中心には祭壇の如き高座があり、神殿を思わせる形状をした玉座が鎮座していた


「あれが、創造神……!」


 柔らかな白光を放つ円天の下、広大な部屋の中心にある玉座の神殿に座す人物を見た神魔の口からは、思わず呻くような声が零れる

 その存在を目の当たりにした瞬間、ここまで飛翔してきた神魔、桜、瑞希の足は誰に言われるまでもなくごく自然に止まり、まるで最初から知っていたかのように玉座を戴く祭壇の高座からある程度の距離を保った場所に佇む

「よく来ましたね」

 無意識の内に謁見の姿勢を取った神魔達の姿を慈愛に満ちた金色の瞳で見渡した創造神は、ゆっくりと玉座から立ち上がる


 真っ先に目を引くのは、これ以上ないというほどに完成された美貌。これ以上はないというほどに完璧に均整の取れた深い慈愛を湛える面差しは、触れることすら躊躇われる神々しさを有していた

 腰の位置よりも長く帯びた癖のない金色の髪は淡く発光しており、その周囲に燐光の蛍を舞い踊らせて、その神聖さを一層際立たせている


 新雪のような白い肌にそれ以上に白い純白の霊衣を纏うその姿は、黄金比すら霞むほどの完全性を以ってその絶世の美女の存在をこの世に顕現せしめていた

 この世にありながら、この世に存在することができないであろうその美女は、白い肌に映える薄く紅を引いた花唇を綻ばせて、髪と同じ金白色の睫毛で縁どられた目に抱く薄金色の瞳を神魔へと向ける


「――〝破壊神(カオス)〟」


「……っ」

 まさに神の福音と呼ぶにふさわしいどこまでも澄んだ透明な声音で創造神に呼びかけられた神魔は、思わず息を呑む

 神々しくたおやかな創造神の姿を瞳に映し、微笑みかけられた神魔は、自身の鼓動が強く脈打つのを感じとり、無意識の内にその胸を手で握り締めていた


(なんで? この感覚は――)




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