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魔界闘神伝  作者: 和和和和
地獄界編
237/305

花束を君に




 ――風花が舞う。


 赤紫色の髪をなびかせ、桜色の瞳を抱く目を優しく綻ばせて微笑むその姿は、風に舞う花弁のように目に映る世界を彩ってくれる

 目を閉じてしまえば、次の瞬間には視界から消えてしまいそうな儚さと、その一瞬が永遠のように目に焼き付いて離れることはない





(風花……)


 まるで、走馬灯のようによぎる風花の笑顔と数々の思い出。そして、最後のあの時――自分を置いていくその背中を幻視した神魔は、それを引き留めようとするかのように軽く手を伸ばす

 だが、まるで手のひらから一片の花弁が零れていくようにその手は虚しく空を切り、そして次の瞬間風に舞う花弁は漆黒の闇に呑み込まれる


「――ッ……」

 それが、霊雷(れらい)の放った斬撃が纏う魔力だと認識した時にはすでに遅い。神速で振り抜かれた斬撃はその身体を斬り裂き、真紅の血炎を舞い上げる

 不可侵の守りの力を持つ神器を纏い、そして風花を愛し、その復讐に生きる悪魔――「霊雷(れらい)」の刃によって、神魔の身体にはおびただしい数の傷が刻み付けられ、まるで炎に焼かれているかのような血炎を立ち昇らせていた

「……っ」

「神魔さん!」

 愛する人が今まさに命を落とさんばかりに傷ついている絶望に声を失う桜の背後で、詩織が声を上げるも、それは神魔の耳には届かない

「クソがぁ!」

 その傍らでは、大貴が純黒の闇と純白の光の力を同時に行使する太極を以って助けに入ろうとするが、それはこの戦いを見届ける戦神の神片(フラグメント)――「帝王(エンペラー)」の力に軽々と阻まれてしまっていた


 神魔の生命の危機に、太極の力を解放して救援に入ろうとする大貴を阻んでいるのは、帝王(エンペラー)がその力によって作り出した金光の壁。

 大貴が飛び出すや否や、それを知覚して取り込んだ約二メートル四方の立方体の匣型の空間は、さながら神を捕らえる檻のようだった


「暴れるな、光魔神。男の決着と死にざまを見届けるのもまたお前の役目だろう?」

 金光の匣檻から出ようと、太極の力を解放して容赦なく斬撃を叩き付ける大貴には一瞥もくれず、神魔と霊雷(れらい)の戦いを見ながら、帝王(エンペラー)はその名にふさわしい威厳を感じさせる堂々たる声音で言う

「うるせぇ、仲間が死にそうなときにそれを見てるだけなんてできるか!」

 金光の匣檻を砕くべく、ひたすらに太極の斬撃で斬り付けながら吠える大貴の言葉に、帝王(エンペラー)は、呆れたように嘆息する

「やれやれ。そういうのは野暮だというのが分からんか」

 天上の高みから見下ろすように言う帝王(エンペラー)は、神魔と霊雷(れらい)の男としての生き様と誇りを見届けようと、瞳のない目で視線を送る

 それは決してその生死を遊興として興じているのでは無く、愛するただ一人の女のために全てを捨てて復讐を願う男と、失った女と今愛する女、その全てを拾って背負う男の長年にわたる人生と因縁の結末を目に焼き付けようとする厳粛さがあった

「――っ」

 だが、今の大貴に帝王(エンペラー)とのそんなやり取りに時間と意識を割いている暇はない。神魔を死なせないため、その命を守るため、金光の匣檻を砕くことに全身全霊を注いでいた

(だめだ、ビクともしない)

 だが、渾身の太極の力を休むことなく打ち込んでも、帝王(エンペラー)が作り出した金光の匣檻は微動だにしない


 全ての力と共鳴し、全ての力を取り込んで己がものとする太極(オール)の力も、神位第六位に等しい神格を持つ覇国神の神片(フラグメント)である帝王(エンペラー)の力の前には完全に無力だった

 それは、神以外が神を害することができないという絶対の理。今の大貴の神格では、神に等しい神格を持つ帝王(エンペラー)に通用しない

 くしくもそれは、霊雷(れらい)が纏う神器「神覇織(ヴァルクード)」の能力と同じものであり、神魔と同じものに阻まれてしまっているのは、皮肉としか言えないだろう


(くそ、このままじゃ……もっと、もっと俺に力があれば……っ)

 自身の太極(オール)の力が、戦の神の神能(ゴットクロア)――「(ウォー)」の力で構築された金光の匣檻に砕け散るのを視界に収めながら、大貴は諦めることなく太刀を振るう

(目覚めろ! 目覚めてくれ……っ!)

 一見自棄になっているように刃を振るいながら、大貴は自分に宿った光魔神の力に懸命に願い、訴えかける

 現状を打破する最も確実な手段は、自身が光魔神・エンドレスとして完全に覚醒すること。最強の異端神である光魔神となれば、帝王(エンペラー)を退けることも、神魔を助けることも可能だ


「オオオオオオオッ!」


 一縷の望みに縋るように、大貴は己に眠る神を呼び起すべく咆哮と共に太極の力を振るう

 世界で唯一光と闇の性質を同時に持つ黒白の力を解放し、己の武器である太刀を振るい、発破をかけるように声を上げる


 しかし、神速を以って数え切れないほどの斬撃と力を撃ち込んでも、己の神格のままに事象を顕現させる神能(ゴットクロア)にどれほど希っても、その願いは聞き届けられることはなかった

 大貴の神格は一切上昇せず、太極の力は神の力の前に完全に沈黙する。――それは、あまりにも冷酷で残酷で絶対的な世界の真理の宣告だった


(なんで、なんで俺は、こんな時に……)

 歯を食いしばり、太刀の柄を握りしめ、魂を振り絞るが、大貴の願いも虚しく黒白の力は金光の匣檻の前に成す術もない

 あまりに無常な世の理を前に、己の無力さを痛感させられる大貴は、神器を手放してしまったことを心から悔い、何より最強の異端神と呼ばれているくせに何もできない自分自身に絶望する


(なにもできないんだ……ッ!)


 最後の一太刀を撃ち込み、諦めたように刃を金光の壁に押しつけたまま動きを止めた大貴が顔を上げると、その左右非対称色の瞳に死の淵に陥った神魔の姿が映っていた




「――はぁ、はぁ……ッ」

 全身に刻み付けられた傷からおびただしい量の血炎を上げる神魔は、立っていることさえままもままならず、地面に突き立てた大槍刀を支えにしてかろうじて倒れるのを堪えていた

 膝をつき、大槍刀の柄にしがみつくようにして体勢を維持する神魔は、それでも俯くことなく顔を上げて自身を睥睨する霊雷(れらい)へ視線を向ける

「しぶといな。まだ、息があるのか」

 神魔の傷は、全霊命(ファースト)の生命力を鑑みても、間違いなく瀕死の重傷。しかし、間違いなく満身創痍であるはずの神魔の瞳には、一切の翳りもなかった

 射るような神魔の視線に宿るのは、生きることを諦めない意志と衰えることのない戦意。この状況下にあって、死も敗北も受け入れていない神魔の諦めない意思を垣間見ることができた

(嫌な目だ)

 真っ直ぐに注がれる神魔の視線と瞳を見据える霊雷(れらい)は、それを見て端正なその顔をわずかに不快感に歪ませる

 勝敗は明白。どれほど抵抗されても、もはや自分がいつでも神魔に死を与えることができる事実は確定している


 だというのに、神魔の表情には死への恐怖などは一切浮かんでいなかった。正確に言えば、死を恐れていないわけではない。ただ生きることを諦めず、その生を最後まで全うする確固たる信念が宿っているだけだ

 虚勢を張っているわけではない。だが、死を恐れてはいても、それを与える自分を恐れてはいない。――それは、神魔を殺すためだけに生きてきた霊雷(れらい)にとって、面白いものではなかった


 今日、この瞬間まで霊雷(れらい)は神魔を殺せさえすればよかった。自分が愛し、幸せを願った風花を守れずに、死なせた神魔の命を奪うことだけを考えてきた

 その一念があればこそ、帝王(エンペラー)がこの戦いを認めたほどの執念をみせることができたといえるだろう。だが、その復讐の成就を前にして、霊雷(れらい)は今の神魔を殺すだけでは物足りなくなっていた


 神魔を追い詰めれば、もっと心が晴れると思っていた。命を奪うその瞬間には、風花への想いと相まって、心が昂ると思っていた

 だが、今まさに神魔の命を手中にして、霊雷(れらい)は自身が思い描いていたものとは違う状況に苛立ちを覚え、何とか更なる絶望を与えられないかと目を細める


「――!」

 そして、ほんの一瞬思案を巡らせた霊雷(れらい)は、不意に脳裏によぎった考えに口端を吊り上げて不敵を笑みを零していた

「お前の死はもう確実だ。――だが、一人であの世に行くのは寂しいだろう?」

「!」

 そう言って霊雷(れらい)が視線を巡らせると、そちらに何があるのか――誰がいるのかを瞬時に理解した神魔が大きく目を瞠る

 その予想通りの反応に笑みを深めた霊雷(れらい)は、ゆっくりと視線を巡らせて、祈るような眼差しで神魔を見守っている桜色の髪の女を見る

「だから、最後にお前に俺と同じ絶望を味わわせてやる」

「っ……!」

 先程は、神魔の隙を作るための囮でしかなかった。だが、自分が味わったものと同じ、愛する者を失う絶望を与えることて神魔を絶望へ突き落すことを考えた霊雷(れらい)は、その体を変えて桜へと向かって歩を進め始める

「やめ……ッ」

 当然、そんなことはさせまいと、神魔は瀕死に近い重傷を負った身体を意にも介さずにとびかかろうとする

 だが、それを見越していた霊雷(れらい)は、弱った神魔が動くよりも早く手にした剣を投擲して、その胸を貫く

「ごほッ」

 胸を剣で穿たれた神魔は、咽るように血炎を吐き出しながら、その威力のままに吹き飛ばされて地面を転がる

「神魔様!」

 もはやいつ命を失ってもおかしくないほどに傷つけられた神魔がさらに痛めつけられるのを見た桜は、悲痛な声を上げる

 神魔を貫いたまま、その武器を戻すことなく桜へ向き直った霊雷(れらい)は、その目を昂揚した殺意に染め上げて歩を進める

「黙ってそこで見ていろ、神魔。お前の女が死ぬ瞬間をな」

 その瞳に浮かぶ殺意は、桜へと向けられたものではない。それは桜の死の先にある絶望に満ちた神魔の死を求めるものだ

 長い間呪い続け、鬱積した憎悪を晴らすべく、先程身体を貫いた自身の剣を生やしたままの神魔へ一瞥を向けた霊雷(れらい)は、一言そう吐き捨てると、桜へ向かって歩み寄っていく


 今の霊雷(れらい)にあるのは、神魔を絶望に陥れ、そしてその上で自分の手でその命を奪うことへの期待のみ。

 神魔の絶望を見るべく桜へ向かう端整なその表情からは、憎むべき相手の絶望を幻視する隠しきれない喜色が浮かんでいた。――それが、神敵たる悪意のそれと同じものであることさえ気づかずに。


「桜、逃げて……」

 霊雷(れらい)の剣に身体を貫かれた神魔は、掠れるようなその声を魔力に乗せて桜へ届ける


 全身に深い傷を負い、まるで炎に焼かれているのではないかと思えるほどの血炎を立ち昇らせている神魔は、正真正銘瀕死の状態

 減衰した魔力は、神魔からもはやまともな動きさえ奪っており、霊雷(れらい)から桜を守るべく向かっていくことさえ、ままならないほどだった


 いかに桜が神魔に従い尽くす女であろうと、この世で最も愛する(ひと)が今まさに命尽きようとしている中、それを置いて逃げるなどできるはずもない

 自分を殺して神魔の願いに応えたいと思う矜持と、愛する人を見捨てられない女としての想いが逡巡を生み、桜の動きを完全に止める

「女、逃げるなよ。逃げれば神魔を殺す。それと、抵抗もするな。お前は、俺に殺されて神魔の前で死ぬんだ」

 桜が逡巡したのはほんの一瞬。神能(ゴットクロア)がもたらすあらゆる理を超越する神速の世界の中でさえ、わずかな時間でしかなかった

 しかし、それだけの間があれば、霊雷(れらい)が対処するのもまた容易なこと。先の戦いが桜の強さが万全の状態の神魔に互するものであることを知っている霊雷(れらい)は、そう言って視線を背後に向ける

「――ッ!」

 それにつられるように霊雷(れらい)の背後――血炎を上げ、膝をついている神魔へ視線を向けた桜の視線の先で、その身体を貫いていた剣が力任せに引き抜かれる

 強引に引き抜かれた刃と共に神魔の身体から血炎が噴き出すと、桜は自身を引き裂かれる様な魂の痛みに息を詰まらせる


 それは、魔力による武器の遠隔操作。自身の望むままにあらゆる現象を起こすことを可能とする神能(ゴットクロア)の力を用いて、神魔の身体を貫いていた自身の武器である剣を抜き去った霊雷(れらい)は、宙に浮かべた刃のその切っ先を神魔へと向ける

 それは、逆らえばこの刃が神魔を貫いて殺すという霊雷(れらい)からの宣告と脅迫に他ならなかった


《僕にかまうな、桜》

「…………」

 不敵な笑みを浮かべ、歩みって来る霊雷(れらい)に静かな怒りの籠った視線を向けながらも、ただ佇んでいることしかできない桜の脳裏に、神魔からの思念通話が強い言葉を伝えてくる

 声を出すのもつらいのか、思念通話が伝えてくるいつになく強いその語気は、神魔が滅多に使わない命令めいた強制を促すものだった


 それは、桜の命を守るためのもの。自分の恨みの巻き添えにして桜まで死なせるわけにはいかないと――死なせたくないと切に願う神魔の想いからでるものだった

 当然、桜にもそんなことは分かっている。――分かりきっている。それを分かった上で、狂気めいた不敵な笑みを浮かべ、自分に手が届く距離で立ち止まった霊雷(れらい)を見据えた桜は、その心のままに答えを下す


「申し訳ありません、神魔様」

 今にも泣き出してしまいそうな笑みを浮かべてそう呟いた桜は、構えていた薙刀の切っ先を下げ、身体の力を抜いて抵抗を諦めた姿勢を取る

 その謝罪の言葉は、生きることを願ってくれている神魔の言葉を聞き入れることができなかったことへのものであり、同時に自分の死が神魔を苦しめてしまうことへのもの


 なんらかの奇跡が起きて事態が打破されない限り、ここで抵抗すれば神魔が殺されてしまう。たとえ抵抗しなくとも、自分を殺した後に霊雷(れらい)は神魔を殺すだろう

 ならば、せめて自分の死が神魔を苦しめないように、その思いに答えるべきだということも分かっている

 だが、桜にとって神魔は自分の命よりも大切な存在(ひと)。――自分のために神魔を殺すなどという選択ができるはずもなかった


「桜さん!」

 その決断に瑞希が唇を引き結び、結界の中にいる詩織が悲痛な声を上げる


《大貴さん。神魔様のこと、お願いしますね》


 その時、不意に霊雷(れらい)を前にして、瞼を閉じて佇んだまま無抵抗の意思を示す桜の思念が、大貴の脳裏に流れ込んでくる

「――っ!」

 その声を聞いた瞬間、大貴は桜の真意を理解して息を呑む


 桜が何よりも望んでいるのは、神魔の幸福と命だ。そのためにその命を差し出し、完全な光魔神としての覚醒の引き金を引こうとしているのだ

 それは、糸のように細い一縷の希望に縋る女の決意。愛する人を守るために自分の命を託す、悲壮なまでに一途で健気な愛故の決心だった


「オイ! 桜は関係ないだろ!?」

 そんな桜の思いを受け取った大貴は、焦燥のままに声を上げて、自分の動きを封じ込めている戦神の神片(フラグメント)――「帝王(エンペラー)」を睨み付ける


 帝王(エンペラー)霊雷(れらい)の復讐心を認めたのは、この際どうでもいい。だが、その対象であるはずの神魔以外にその手をかけることまで許容されていいいはずはない

 その力に阻まれ、今のままでは神魔も桜も失ってしまうという予感に駆られる大貴は、まるで懇願するように声を荒げていた


「ここから出せ! 出ないなら、お前があいつを止めろ!」

「…………」

 声を張り上げる大貴の咆哮に、金色の玉座に座す帝王(エンペラー)は、頬杖をついた姿勢を崩さず、霊雷(れらい)の姿を瞳のない目に映す

 だが、その表情はまるで汚らわしいものを見るようなものになっており、まるで神敵の眷属のような霊雷(れらい)の忌まわしい行いを唾棄している心境を雄弁に表していた

「てめぇ……!」

 だが、自分の声が聞こえていないはずがない帝王(エンペラー)が無視を決め込み、なんら行動を起こさないのを見て、大貴は今にも砕けんばかりに歯を噛みしめる

 しかし、そんな大貴の怒気も帝王(エンペラー)にとっては、そよ風ほどに感じることのないものでしかない。故にその意識と視線は、向かい合って佇む桜と霊雷(れらい)へ向けられていた


「お前に恨みはない。せめて、苦しまずに殺してやろう」


 手を伸ばせば触れられる距離で桜と向かい合う霊雷(れらい)は、そう言ってその手から漆黒の魔力を迸らせて、手刀の形を取る

 神魔に武器を突き立てたままにしているため、その手で直接命を奪おうとする霊雷(れらい)は、自身へ注がれる桜の眼差しを見て、わずかに眉を顰める


「やはり、あいつの女だな。目がそっくりだ」


 桜のその双眸には、死への恐怖や神魔への謝罪はあっても、霊雷(れらい)へ向けられる一切の感情がなかった。


 自らの死を前になんら揺らぐことのない己の在り方を映す澄んだ瞳は、さながら静謐な水面のように一切の心を見せていない

 それはまるで、「あなたに向ける感情は、恐怖や怒りを含めて一片たりともありません」という桜の意志を語っているかのようだった


「これ以上ない、誉め言葉です」

 その瞳と面差しに神魔を重ねた霊雷(れらい)に対し、桜はなんら喜びを感じさせない無機質な声音で答える

 「自分に言われても何も嬉しくない」とばかりの桜の言葉に、鋭い光りを瞳に灯した霊雷(れらい)は、魔力を纏わせた手刀を、その胸の中心へ向かって突き立てんとする


「神魔さん!」


 それを瑞希の結界の中から見ていた詩織は、桜の命を助けるべく、そしてこの絶望的な状況を覆してほしいと、その心のままにこの世で最も信頼する人の名を叫ぶ


《――桜!》


 今まさに霊雷(れらい)の手刀が桜を貫かんとする様を瞳い映す神魔は、懸命に身体を動かそうともがきながら、地に膝をつけたまま心の中で叫ぶ


 時が止まったかのようにさえ感じられる永遠の刹那の中、神魔はただ一心に桜の事を想い、そして桜と過ごした今日までのかけがえのない幸せな日々を思い返していた

 その心を占めるのは、桜への愛情と失いたくないという一念。自身の全てをかなぐり捨てんばかりの思いで、ただそれだけを一心に願う


 瞬間、神魔の肩に誰もいなかったはずの背後から何かが触れる


『なにしてるの』


 慈しむように優しく触れたその感触さえ気にも留めていなかった神魔に、背後から伸びてきたなにか(・・・)が耳元で囁く


「――ッ!」


 あり得ないはずのその声を聞いた瞬間、神魔は大きく目を見開く

『約束、したでしょ?』

 忘れるはずのないその声に振り返ろうした神魔を、それよりも早く背後から細い女の両手が優しく押して、傷ついたその身体を前へと進ませる


《もしも、神魔がこれから心から好きだって思える人に出会えたら、その人のこと大切にしてあげて》


 振り返ることなど許さないとばかりに背を押された神魔は、優しくも心を響かせる穏やかな声音に、かつてその声の主に言われた言葉を思い返していた


『行って、神魔』


 風に舞う花弁のように、軽やかに踊るような声を背中で聞く神魔が駆け出すと同時に、止まっていた時間が――停止していた世界が動き始める


「オオオオオオオオオオオオオオオッ」


「!?」

 漆黒の魔力を吹き出し、神速で肉薄してきた神魔を知覚で感じ取った霊雷(れらい)は、今まさに桜を貫こうとしていた手を引いて、咄嗟に横へ飛びのく

 瞬間、先程まで霊雷(れらい)がいた空間を、純黒の斬閃が横薙ぎに奔り、その軌道のままに純粋な黒で形作られた三日月を空に顕現させていた


 その事態に、大貴、詩織、瑞希はもちろん、帝王(エンペラー)までもが驚愕を露にして、桜を庇うように立ったその純黒の闇を見据える

 その腹部には、未だ霊雷(れらい)の武器である剣が突き刺さったままになっており、身体にはおびただしい傷が刻まれ、そこから立ち昇る血炎が純黒の魔力に真紅の斑を作り出していた


「神魔、様……!」

 純黒の闇を纏い、自身を庇うように立つ神魔の背に思わず息を呑む桜だが、その表情は多少和らいだものの、決して明るいものではない

 何故なら、今の神魔は満身創痍。にも関わらず、自分を守るためにその力を振り絞ってここへ駆けつけてくれた。だが、その代償にその身体に――命に、どれほどの負担がかかっているのか計り知れないのだから


 そんな桜の不安そうな声に、肩越しに背後を振り返った神魔は、不安に曇る花貌を浮かべる伴侶を安心させるように目元を綻ばせて優しく微笑みかける

 その言葉に沈痛な面持ちで唇を引き結び、気を使わせないと健気に微笑んで応じる桜の姿に、神魔は胸を締め付けられる思いで視線を前に戻す


「……やっぱり、いないか」

 腹部に突き刺さった霊雷(れらい)の剣を強引に引き抜き、苦痛に顔を歪めながらそれを投げ捨てた神魔は、周囲を見回して独白する

(悪魔の僕が幻視や幻聴とはね……全霊命(ファースト)も臨死になると、そういうのが見えるってことかな?)

 神魔が探していたのは、先程自分の背を押してくれた声の主。――しかし、遠い昔に死んだはずのその人が出てくるはずなどない

 五感と知覚の全てで確認し、改めて先程の声はこの世に実在しなかったのだと思い直した神魔は、この窮地でその声を聞いた自身を嘲笑するように笑みを零す


(馬鹿な……馬鹿な!)

 神の力でもなければ、幻覚や幻聴(そんなもの)が聞えるはずもない全霊命(自分)がそれを聞いたことに自嘲している神魔を睨み付けながら、霊雷(れらい)は驚愕に目を瞠り、怒りに拳を握りしめて肩を震わせていた

(避けた!? この俺が!? 神覇織(この力)があれば、あいつの攻撃なんて避ける必要なんてないはずだというのに――!)

 その怒りの大半を占めるのは、あらゆる攻撃を無力化する神の領域を能力として持つ神器を纏う自分が、先程の一撃を反射的に回避してしまったことへの驚きと屈辱だった

 神覇織(ヴァルクード)の力を以ってすれば、神魔の攻撃など取るに足りない。先ほどの一撃を回避する必要などなかったはずだ。むしろ、その上で桜を殺めた方がより神魔を絶望の底へ突き落すことができたはずだった


(恐怖したというのか!? 危険を感じたというのか!? 神覇織(ヴァルクード)を持つ俺が!?)


 そして、そうしてしまった理由を考えれば、必然的に行き当たる答えは決まっていた

 戦うために生まれた全霊命(ファースト)としての本能が、神魔の攻撃に危険を感じ、命を守るための最善の判断を下した――すべてを阻む神器を持つ自分が、身の危険を、命の危険を感じたということだ


「ふざ、けるな……ッ」

 そんな考えが脳裏に浮かんだ霊雷(れらい)は、怒りと屈辱に身を震わせながら、今にも砕けんばかりに拳を握りしめる

 噛みしめた歯の隙間から零れるその声は、今まさに悲願が叶うという寸前で、その誇りまでも蹂躙された屈辱に震えていた


 神器を使って戦うのは卑怯などではない。仮初の力でも、借り物の力でも、その力を使う資格と運命に導かれてその力を手にした以上、神覇織(ヴァルクード)もまた霊雷(れらい)の一部――その力だ

 それを認めない者はこの場にはいない。だからこそ、帝王(エンペラー)はもちろん、大貴達でさえ霊雷(れらい)に神器を使うのは卑怯だと言わなかった。

 だが。だからこそ、その神器()を使った上で、神魔に危険を感じたことは、霊雷(れらい)にとって受け入れえがたいことだった


「そんなこと、あっていいはずがな――」

 愛する人を奪われ、その心を預けられて自分の手の届かないところへ失ってしまった神魔への憎しみを糧に生きてきた霊雷(れらい)は、神器を以って尚圧倒されてしまったという自身の汚点を注ぐべく、その手に剣を再顕現(呼び戻)

 言い表せないほどのその怒りを魔力と刃に乗せて神魔へ斬りかかろうした霊雷(れらい)に、天上から振り下ろされる純黒の斬閃が叩き付けられる


 それは、神速で肉薄していた神魔の大槍刀を袈裟がけに振り下ろした一撃。


 先程までの満身創痍の神魔を想定していたため、そのあまりの速さに虚を衝かれる形となってしまった霊雷(れらい)は、その斬撃の直撃を受けてしまう


「っ!?」

(なん、だと……!?)

 振り下ろされたその斬撃を受けた霊雷(れらい)は、自身の肩口に奔った熱に視線を向け、目を瞠って心の中で絶句する

 最上段から肩口へと叩き付けられた神魔の斬撃――純黒の魔力を帯びた大槍刀の刃が、その身を守っていた羽織を突き破り、霊雷(れらい)の身体へと食い込んで真紅の血炎を立ち昇らせていたのだ


「……!」

 不可侵の領域であるはずの神覇織(ヴァルクード)を突き抜けてきた神魔の斬撃に狼狽した霊雷(れらい)が、咄嗟にその刃を腕で薙ぎ払って距離を取るのを見て、帝王(エンペラー)は瞳のない目を驚愕に見開く

「ようやく、通った」

 大槍刀の切っ先を向け、刃が食い込んだ肩口から血炎を立ち昇らせる霊雷(れらい)をその視線で射抜いた神魔は、静かな口調で言う

 その静かな声を聞き、自身の傷を一瞥した霊雷(れらい)は、痛みと理解を越えた事実の前に、困惑を隠しきれずに声を荒げる

「ば、ばかな!? どういうことだ……っ!? こんなことが、あるはずがない! あって、いいはずがあるか!」

 恐慌に駆られて取り乱す霊雷(れらい)は、大槍刀の切っ先を向けてくる神魔を、この世ならざるものを見ているかのような表情でその瞳に映す

(奴の神格は決して上昇したわけじゃない! なのに、なんで……なんで、神覇織(ヴァルクード)を破れる!?)


 霊雷(れらい)が纏う「神覇織(ヴァルクード)」は、何人も侵犯することのできない神の領域を能力とする神器。

 確かに息を吹き返したかのように魔力を放出している神魔だが、瀕死であることは変わらない。何しろ神能(ゴットクロア)は無限の力。瀕死だろうがなんだろうが、その力は生きている限り十全に使うことができる

 ただし、全霊命(ファースト)の肉体は自身の神能(ゴットクロア)そのものでもある。全霊命(ファースト)同士の戦いにおいては、その攻撃によって、肉体が傷つけた神能(ゴットクロア)――すなわち、魂や存在そのものに損傷を受けることになる。

 それが、無限の力を持つ全霊命(ファースト)が死に瀕するほどに弱まる理由なのだが、今の神魔は自身にかかる負荷を顧みず、傷ついた体を押して無理に平常時と同様に行使しているにすぎない


 そこまでは理解できる。


 だが、今の神魔の神格は、決して先程の万全の状態と比しても突出して優れているわけではない。むしろ、それでもまだ本調子には届かないほどかもしれない

 だというのに、その時にさえ傷一つつけることができなかった神覇織(ヴァルクード)の守りを軽々と突破して見せた

 それは間違いなく異常なこと。――この世の理を無視するようなその力に、霊雷(れらい)は底知れぬ恐怖を禁じ得なかった



「!」

 信じ難い事実半ば狂乱した霊雷(れらい)へ静かに視線を注いでいた神魔は、それに答えるつもりなどないと言わんばかりに無言のままで地を蹴り、神速の斬撃を横薙ぎに叩き付ける

 その一撃は、不可侵の守りに包まれた霊雷(れらい)の身体に先の横一文字の傷を先の一撃よりも深く刻みつけ、炎のような血を上げさせる

「呆けるなよ。今は、殺し合いの最中だ」

 取り乱す様を非難するように冷たい淡白な声で告げた神魔は、純黒の魔力嵐を纏う大槍刀を振るう

「――ッ!」

 神器による絶対的な優位性が崩れた今、神魔の攻撃を生身で受けるわけにはいかない。霊雷(れらい)はその言葉に反射的に剣を構え、その斬撃に応じる

 瞬間、霊雷(れらい)の刃に神格のままに世界を超越する神速の斬撃が連続で叩き付けられ、漆黒の魔力が天を衝いて荒れ狂う

「――!? グ……ッ」

 その斬撃を受けた瞬間、霊雷(れらい)の剣の刀身が神魔の大槍刀の刃によって八割以上斬り砕かれ、魂を砕かれた痛みが口端から零れる血炎となって零れる

(馬鹿な!? いくらなんでも、こんな簡単に俺の武器を破壊するなんて――!?)

 大槍刀の刃によって折られた刃と、自身の武器の欠片が魔力の欠片へと還り世界へ溶けていく様を確認する暇もなく、霊雷(れらい)は次の攻撃を阻むために再び自身の魔力を注ぎ込んで武器を再生させる


 全霊命(ファースト)の武器は全霊命(ファースト)神能(ゴットクロア)が、戦うために形を成した「戦うための自分」。

 その力は自身の神格に比例し、その強度は神格と自身の戦意や意志の強さに準じる。全霊命(ファースト)の純然なる意思に依存する武器は、よほど神格の差がない限り簡単に折れたり破壊されることはない

 確かに神魔と霊雷(れらい)の神格には大きな開きはあるが、それでも本来ならばこんなに簡単に武器を砕くことはできないはずだ


(なぜ……何故だ!?)

 あまつさえ不可侵の守りを持つ神器を破り、今もまた自身の武器を軽々と破壊して見せた神魔の力に慄く霊雷(れらい)は、混乱する頭でその理解しえない現象の理由を懸命に探す

「――っ!」

 そして、かろうじてついていけるほどの神速で動く神魔が再びその大槍刀を振るおうとした瞬間、霊雷(れらい)は、その腕を見て目を皿のように見開く

(身体が……)

 自分が付けた傷と、そこから未だに立ち昇る炎のような血の所為で分かりにくかったが、神魔が力を振るおうとするとき、その腕が内側から神魔自身の魔力によって皹入っているのが目に留まる

全霊命(ファースト)が自分の神能()で自壊するだと!?)



 自身の神能(ゴットクロア)そのものでできている全霊命(ファースト)は、常に自身の十全の力を万全に使うことができるため、深手を負った状態で無理を押して力を行使するようなことをしない限り自分自身の力に負荷を負うことなどありえない

 だというのに、明らかに神魔は自身の魔力に耐え兼ねているかのように、自身の力によって自分を傷つけている

 それはまるで、本来同一のものであるはずの力が肉体を凌駕しているかのような――否、内側から湧き出す力を抑え込めなく(・・・・・・)なっているかのようだった


「ガハッ」

 再度振り下ろされた大槍刀の刃が、それを受け止めようとした剣ごと身体を斬り裂くと、霊雷(れらい)から苦悶の声と血炎が吹き上がる

「お、おまえは……ッ」

 もはや神器が何の力も成していないのではないかと思うほど、当然のようにその守りを突破してくる神魔へ、戦慄と恐慌に満ちた視線を向ける霊雷(れらい)は、その感情のままに喚くように声を上げる


「お前は一体、何者なんだ……ッ!?」


「知ってるでしょ?」

 血炎の混じった声を発した霊雷(れらい)に冷淡な声を返した神魔は、純黒の魔力を注ぎ込んだ大槍刀を振るう

 神速を以って世界を引き裂くように奔る神魔の純黒の刃は、まるでその軌道にある空間を闇によって滅ぼしているかのようだった


「――……ッ」


 神魔の黒刃が霊雷(れらい)へと吸い込まれるように捉え、その身体をついに一刀両断にする

「僕は、お前から全てを奪う男だよ」

 風花の心を手にし、風花の命を預かり、その人生を狂わせ、そして今その命を絶つ――純黒の闇と共に自身の身体を切り裂いた神魔の言葉を聞きながら、霊雷(れらい)は潰えた願いを掴むように両断された身体で手を伸ばす

「ふ……か……っ」

 その瞳が幻視するのは、今日まで想い続けてきた愛する人の姿。声にならない掠れた声でその名を呼ぶ霊雷(れらい)だが、赤紫色の髪をなびかせるその後ろ姿は、自分に振り向いてくれることはなかった


「なん、で……」


 懸命に差し述べた全てを取りこぼしたその手を瞳に映す霊雷(れらい)は、自分の願いと命が指先からすり抜けていくのを見据えながら、自分が欲した全てを手に入れている神魔を見る

 死の間際にあっても、風花は自分に微笑みかけてはくれない。その桜色の優しい瞳は、常に深い慈愛の念を湛えて、その命を守れなかった人へと捧げられている


「終わりだ」


 その命が失われること。そして風花を巡る因縁に決着がついたことを告げるように言い放つ神魔の声を聞きながら、霊雷(れらい)は憎み続けてきた怨敵の純闇に呑み込まれていく

 命が絶えると同時にその身体は魔力の粒子となって形を失い、恐怖さえも呑み込む暗黒の中へ消え去り、その存在を完全に消失させる

「はぁ、はぁ……ッ」


「…………ッ」


 神魔の勝利によって決着がつき、霊雷(れらい)を呑み込んだ漆黒の滅闇が消え去ると、戦場に静かな静寂が落ちる

 死が確実と思われた絶望的な状況からの圧倒的な勝利。神器の持つ力、この世の理を覆しての勝利に誰もが言葉を失う中、瀕死の重傷を負った神魔へ向かっていの一番に桜色の風花が舞う

「神魔様!」

 桜色の髪を風に踊らせ、全身から血炎を立ち昇らせる神魔を背中から抱きしめた桜は、今にも失われそうだった愛しい人の温もりを噛みしめ、その瞳を潤ませる

 抱擁をほどいた桜と向かい合い、その身体を正面から抱きとめた神魔は、同時に支えてもらうことで体勢を保って表情を曇らせる

「ごめんね」

 そう言って優しく声をかけ、恐怖から解放された安堵のあまり泣き出しそうな表情を浮かべている桜の頬を優しく撫で、その名と同じ色の髪を梳く

「?」

「心配、かけちゃったね」

 自分自身でさえ死を覚悟した霊雷(れらい)との戦い。血まみれになり傷ついていく自分を見守っていた桜がどれほど心を痛めていたのか神魔には想像もつかない

 だが、霊雷(れらい)の凶刃が桜へと向けられた際、神魔もまた自分の身を引き裂かれるより以上の恐怖を覚えたのだから、桜の心境はそれ以上のものだったであろう

「…………」

 そんな神魔の言葉に目元を綻ばせた桜は、優しく淑やかな笑みを返すことで応じる


 神魔を最も心配することができることを伴侶である自分の特権であると考えている桜にとって、その無事を願うのは今回に限ったことではない

 だからこそ、「心配をかけた」という神魔の言葉を否定せず受け止めた桜は、それ以上に神魔が生きて自分の許へ帰って来てくれたことに何よりも喜びを覚えていた


「もっと強くなるから」

「……!」

 その口から抑制された声音で発せられた強い意志が込められた言葉を送られると、桜はそれに思わず目を瞠って頬を赤らめる

 神魔から注がれる真剣で真摯な眼差しと言葉。強さと優しさを感じさせる神魔の視線と声は、桜に沁み渡り、まるで愛の告白を受ける前に似た胸の高鳴りを与える

「桜が、心配しなくてもいいくらいに強くなって、桜を幸せにするから」

 自分が弱かった所為で桜を不安にさせ、こんな泣き出しそうな表情をさせてしまったことを、神魔は心から悔いていた

 だからこそ、自分がもっと強くならなければならないのだと志を新たにし、まるで愛を誓うように告げた神魔は、桜の頬に傷ついた手を添える


 今にも口づけを交わしてしまいそうなほどの距離で見つめ合い、神魔の視線と声に込められた想いを受け取った桜は、その目を深慕の念に細めて微笑む


「はい」

 その言葉に込められた神魔の言葉を噛みしめるように淑やかに微笑んで応じた桜は、自身の頬に添えられた愛しい人の手に頭を委ねるように小首を傾げ、傷ついたその手を両手で包み込むようにして握りしめる

「信じております」

 慈愛に満ちた笑みを浮かべ、その言葉を微塵も疑うことなく受け取った桜は、神魔と視線を交錯させる

「ですから、それまではあなたのことを心配させてください」

 神魔がどれほど自分を大切にしてくれているのかが伝わってくる言葉に心を高鳴らせ、桜は万感の想いを込めて微笑みかける

 その穏やかな声に優しく目元を綻ばせた神魔は、小さく頷いて花のように表情を綻ばせる桜を見つめ、今日まで二人で過ごしてきた幸せな過去と、これから二人で歩んでいく未来を思い描く



 いつまでも色褪せることのない想いと共に――。




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