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魔界闘神伝  作者: 和和和和
妖精界編
148/305

円卓の世界







「神敵」――この世界における絶対なる神の敵対者。円卓の神座№2「反逆神・アークエネミー」がそう呼ばれるのは、その存在そのものが神に敵対し、神を冒涜する悪意そのものだからだ


 「敵対」とは、絶対的なものにただ従うのではなく、確固たる自分の意志を持つこと――即ち自身の魂や存在が、ただの神の傀儡ではないことの証明でもある

 「敵対」という行為は、ただ嫌悪され忌避されるべきものではなく、自己を高め、他者を見つめる独立者にのみ許された自由と自我の証ともいえるものだ


 しかし反逆神が司る「悪意」とは、神への――世界を総べる最も強いものや絶対的な理に反抗する意思。命を軽んじ、心を踏みにじり、その魂を穢す

 敵対により自身を高め、互いを理解し合い否定し合うのではなく、自身の自尊心を満たすために正義や神、弱さや平等を都合よく解釈して掲げ、強者の足を引っ張り地に引き摺り下ろす

 それはただ卑しく浅ましいだけの行為でしかなく、この世界に生きる全てを冒涜し蹂躙する神への叛逆でしかない


 そして、そんな神への叛逆そのものである反逆神の神能(ゴットクロア)――「反逆(リベリオン)」が持つ特性は、「全ての理を否定する」こと

 この世に存在するすべては、生まれた瞬間に滅びを定められる。それは世界の理を否定し、自身の望むままに事象を顕現させる全霊命(ファースト)であっても例外ではない


 例えば、実力的に優れていても奇襲や不意打ち、あるいは油断などによって弱者に命を奪われることはある


 しかし、反逆神にはそれがない


 なぜなら、反逆神は自らが認めない限り(・・・・・・・・・)世界のあらゆる事象を受けないからだ。

 仮に首を刎ねられても、霊的存在の心臓たる核を破壊されても、身体を真っ二つにされても、死を認めない限り、その事象は否定されてしまう

 あらゆる攻撃はその前にその力を拒絶されて無力化し、その攻撃は事象や概念を含めてこの世界に存在するすべてを蹂躙し破壊する

 それは、誰もが等しく従っているはずの世界の理の中で、たった一人それを受け入れずに、自身の望むまま、我儘に世界にのさばる力――まさに、神への敵対に等しい悪意の神能だ



「だからあいつは、殺せない――いえ、殺したことに(・・・・・・)できない(・・・・)のよ」

「なっ!? そんなの、勝てるわけないだろ!」

 敵愾心を滲ませた声音で発せられた夢想神(レヴェリー)の言葉に、大貴は思わず意識の中で声をあげる


 夢想神(レヴェリー)にしろ、自然神(ユニバース)にしろ、自分達が与える攻撃の全てを無力化し、自身の力によってすべての敵を滅ぼす力を持っているのは間違いない

 しかし反逆神の力は、その二柱の神のそれを遥かに凌ぐものだ。この世界に存在するものはもちろん、神能(ゴットクロア)によって顕現したものも含めた全ての事象と理の影響を受けない存在など事実上無敵に等しい


「そうね。あいつと同格の神であるあなたが真の覚醒をしていれば話は別だろうけれど……でも、一つ間違っているわ光魔神(エンドレス)

「?」

 苦笑するように大貴の言葉を肯定した夢想神(レヴェリー)は、その剣呑な瞳に血色の衣を翻らせえる神敵の姿を見てその意識の中で静かに語りかける

「あいつは、神への敵対者。だからこそ、無敵ではあっても、誰にも勝てない(・・・・・・・)のよ。だって、あいつ自身が敗者であり、弱者であるからこそ敵対することができるのだから」



 反逆神・アークエネミーは限りなく無敵に近い能力を持ち、他の神を遥かに凌ぐ力を持っているのは間違いない

 しかし同時に、神敵という存在であり続けるためには常に自身が敗者――すなわち、世界を支配する大勢とは異なる側でなければならないのだ


「……だからって、あいつに勝てるってわけでもないんだろ?」

「そうね」

 意味があるようで意味がないともいえるやり取りを大貴と交わした夢想神(レヴェリー)は、全てを()に帰す絶望の夢を解き放つ

 瞬間、その武器である現実と夢想を繋ぐ円扉を背に背負った夢想神(レヴェリー)の意志に呼応した背後の天空が一直線に裂け、そこからおびただしい数の槍が現れる。

「やれやれ、困った奴らだ」

 一つ一つが悪夢の凝縮された漆黒の刃を持ち、それとは対照的な宝物のような金銀鮮やかな装飾を施された柄を持つ無数の槍軍を従えた夢想神(レヴェリー)を見た反逆神(アークエネミー)は不敵に嗤う

 その笑みは、自身がその悪意の力によって絶対的に害されることが無い確信から来るものであると同時に、それ以上にすべてに敵対するその存在が自身に向けられる敵愾心を煽る神敵としての本質によるものだった


 夢想神(レヴェリー)の意思に応じ、空の裂け目から放たれた槍の軍勢は、その神格に比例した神速で宙を奔り、絶対命中の理想のままに反逆神(標的)へと向かい、絶対滅殺の幻想を実現する刃を突き立てんとする

 しかし、その夢現の攻撃もすべての事象をその身に許さない反逆神の力の前では意味を成さない。悪意が凝縮された大槍刀の刃を以って次々にそれが撃ち落されていく


「なんで、お前は――いや、お前達は勝てない相手と戦ってるんだ?」

 その隙をつくように人馬形態となった自然神(ユニバース)が、極彩色の光矢を放つ

 神速で放たれた無数の矢が縦横無尽に弧を描いて反逆神(アークエネミー)へと迸るのを横目で知覚する大貴は、夢想神(レヴェリー)にこの戦いの意味を問いかける


 この戦いに至るまでの流れを把握している大貴は、夢想神(レヴェリー)自然神(ユニバース)がある意味で自分のために反逆神と戦っていることを知っている

 しかし、そのやり取りを思い返しても、絶対に勝てないと分かっている相手と戦うに足る理由があるようには思えなかった


「言ったでしょ? 私は私の目的のために、今あなたに死なれるわけにはいかないのよ――それに、あいつのことは気に入らないしね」

 しかし、そんな大貴の言葉に、夢想神(レヴェリー)は現実を滅ぼす絶望の夢の力を絶え間なく解き放ちながら応じる

 軽い口調で「気に入らない」などとは言っているが、そこから伝わってくるのは反逆神に対する強い嫌悪感だった。――それが、神敵に対する存在的な嫌悪感からくるものなのか、あるいは反逆神個人の正確に対するものなのかは大貴には判然としなかったが

「同じ円卓の神だろ?」

「だからって、仲がいいとは限らないでしょ? 円卓の神(私達)が円卓の神座なんて呼ばれるのは、ただ異端神の中で最強の十三柱ってだけだもの

 目的も存在意義も全く異なっている私達が仲良くするなんてありえないわ。……まあ、たまたま利害が一致すれば(・・・・・・・・)一緒に戦うことくらいはあるけれどね」

 さも平然と反逆神のことを嫌いなど言い放つ夢想神(レヴェリー)は、大貴の疑問を静かな声で一笑に伏してみせる


 同じ異端の神であり、共に円卓の神座に数えられる神でありながら、神の絶対的な敵対者である反逆神は、やはり他の神とも敵対関係にある

 円卓の神座は、異端神最強の十三の神の総称でしかない。戦争の神である「覇国神」と平和の神である「護法神」のように対極に位置する神も多いため、決してその中で仲がいいということはないのだ


「もっとも、別に全員が全員と仲が悪いってわけじゃないわよ。けど、特に反逆神(あいつ)は、そもそも敵対することが生きがいみたいなものだから。自分の眷属以外と仲良しこよしなんてしたら逆にいじめになっちゃうわ」

「……そういうもんか」

 漆黒の大槍刀を一閃させ、反逆神(アークエネミー)が放った悪意の斬閃を回避しながら言い放つ夢想神(レヴェリー)に、大貴は難しそうに顔をしかめる


 確かに円卓の神は仲がいいわけではないが、悪いというわけでもない。例えば自然神は、光魔神に対して極めて友好的で好意的な態度を取る

 反逆神は神敵とまで謳われる敵対と反逆の神。敵対することに喜びさえ感じる性格であることを夢想神(レヴェリー)は長い付き合いの中で正しく把握している。

 ならば、仲良くすることを求められることの方が反逆神にとっては、むしろ苦痛に感じてしまうだろう


《人を好きになることを強制するなんて、支配や独裁と大差がないでしょう?》


 そんな大貴の脳裏に甦るのは、先に瑞希がシャロットに対して言った言葉。かつて十世界の前身となる集団にいた瑞希が、後の姫――奏姫・愛梨の理念に対して抱いていた感情


 誰しも大切なものがあり、守りたいものがある。しかし、それが決して同じではないために自身の想いを通すために敵対する者達を、大貴はこの短い時間の中で何人も見てきた。

 確かに全ての人が違う存在である以上、時にその想いが食い違い、敵対してしまう――否。せざるをえないこともあるだろう

 だが当然そうなれば、守りたかったものと共に命を失う可能性も付きまとう。その可能性を思えば戦いなどはしたくなかっただろう――そう、この世界に生きる全てのものは、望んで望まない戦いに臨まなければならない

 戦わずに済むならばそれに越したことはない。しかし、戦わないために望んで自分の大切なものを捨てることができないからこそ、誰もがその志を否定することで互いを認め合うのだから


「……本当に難しいもんだな」

 かつて自身の志を叶えるために戦い、命を落としてきた者達を思い起こした大貴は、自嘲するように独白する


 互いが認め合えないことを認めることも、認め合えないことを諦めないことも等しく重要なこと。しかし、その境界線を一歩間違えばそれは、相手の尊厳を踏みにじることに等しい

 変わらず他者を否定して肯定する九世界の者達と、恒久的な平和をもたらすために手を伸ばす愛梨をはじめとする十世界。

 間違っているわけではなく、しかし正しくもない理念の双方に触れたからこそ、大貴は、何を守りたいのか、何を成したいのか――自身の信念を持ち続ける難しさを噛みしめずにはいられなかった


「さて、無駄話はこの辺にしましょうか。あなたの役目は、私と雑談することなんかじゃないわ」

「……!」

 そんな大貴の意志は、夢想神(レヴェリー)の静かな声によって現実へと引き戻される

円卓の神(私達)の戦いの中で光魔神(あなた)自身の在り方を思い出すことよ」

 反逆神を空間ごと全てを無に帰す絶望の悪夢へと呑み込ませた夢想神(レヴェリー)の言葉に、大貴は意識の中から静かな声音で問いかける

「そこまでして、俺に思い出させたい神器っていうのは何なんだ?」

 意識を繋がれ、その神格を介して円卓の神同士の戦いを見て力を知覚する大貴の疑念に、夢想神(レヴェリー)はわずかにその目を細める

「あなたが全てを思い出せれば、その疑問も解けるでしょう?」

 瞬間、夢想神(レヴェリー)が展開した現実が存在できない現葬の空間に呑み込まれた反逆神(アークエネミー)が、悪意の大槍刀の一閃によって砕いた力の残滓の中から姿を現す

「クク……」

「――ッ」

 その姿を見た夢想神(レヴェリー)は、薄ら笑いを浮かべている反逆神(アークエネミー)を苛立たしげに睨み付ける


 それは、自身の力では殺すことが叶わないと分かってはいても、無傷でその力を軽々と凌がれたことは面白くない

 何より、反逆神(アークエネミー)の一挙手一投足が、夢想神(レヴェリー)を嘲笑い、逆撫でするように向けられているからだった


「……!」

 しかし、そんな苛立ちに呑気に浸っている余裕などはない。間髪入れずに次の攻撃に移ろうした夢想神(レヴェリー)は、反逆神(アークエネミー)が手にしていた漆黒の大槍刀の形が崩れるのを見て目を瞠る


 この世界において、定まった性別と人格を持たない唯一の存在である反逆神の性質をそのまま表す武器は、その意思のままみ自在に形を変えることができる無謀の武器

 大槍刀から暗黒の球体へと形を変えたそれは、ほんの一時空中に揺蕩ったかと思うと、次の瞬間、その神格に等しい神速で天を奔る


「っ!」

 それを見た夢想神(レヴェリー)は、背から生える絶望の光翼を羽ばたかせて苦々しげな舌打ちと共に後方へと飛び退く

 その刹那、天空を奔る悪意の黒球から反逆の神能(ゴットクロア)が凝縮された破壊の閃光が奔り、ほんの一瞬前まで夢想神(レヴェリー)がいた空間を無数の光閃が射抜く


 だが、当然攻撃はそれだけでは終わらない。無数に走る黒球は、攻撃を回避した夢想神(レヴェリー)と人馬形態となっている自然神(ユニバース)を追跡しながら悪意の閃光を次々に放つ

 まるで生きているかのように天を自在に動き回り、触れたものをこの世界から消し去る悪意の力を以って夢想神と自然神を追い立てていく


「この……ッ!」

「「――……!」」

 獲物を追い立てる捕食者を思わせる冷酷無比な攻撃を放つ黒球は、神格の差もあって夢想神、自然神よりもわずかに早く動き攻撃を放ってくる

 その速さに煩わしさを滲ませた夢想神(レヴェリー)は、夢現の力を以って創り出した盾を以って、自然神(ユニバース)は万物を生みだす循環の性質によって自身の神能(ゴットクロア)を盾化して阻みながら、その閃光の雨を回避していく


 無論、この世界に存在するものの存在を許さない悪意の力を、神格で劣る夢想神と自然神が完全に防ぎきることは叶わない

 一瞬だけその攻撃を受け止めた盾は悪意に侵食され、まるで朽ちるように崩壊して閃光に射抜かれてしまう

 しかしその一瞬だけでも攻撃を防ぐことができれば、夢想神と自然神はその攻撃の軌道から逃れることができる


「やるな」

 縦横無尽に天を奔りながら放たれる悪意の閃光を巧みにかいくぐり、さらにその隙をついて撃ち込まれてくる絶望の夢と滅びの循環の力を腕で弾いた反逆神(アークエネミー)は、夢想神(レヴェリー)自然神(ユニバース)に不敵な笑みを送る

 まるで必死に足掻いている夢想神と自然神の姿を楽しむように独白した反逆神(アークエネミー)は、もう少しだけ意地悪(・・・)をするべく天を奔る黒球へと意識を傾ける

「なら、こんな形はどうだ?」

 それを合図に、天を駆け巡っていた黒球はその軌道を変えて上空で再び一つに融合し、その質量を何十倍にも増大させながら形状を変化させていく

「……っ!」

 それを意識を接続した夢想神(レヴェリー)を介して見ていた大貴は、天空に顕現し大地に暗い影を落とすそれを見て表情を引き攣らせる


 一つに集った悪意の黒が形取ったのは胴から長い七つの首を伸ばし、天を遮るような巨大な翼を持った巨大な龍。

 王冠を思わせる巨大な角を七つの頭にそれぞれ持ち、爛々と血のように紅く光る睥睨するその龍は、武器だとは思えないほどに確かな生命を感じさせ、そして反逆神の武器であることを否が応でも理解させられる悍ましい悪意をまき散らしていた


(生物を創り出した(・・・・・)……!?)

 天を閉ざすその存在を夢想神(レヴェリー)を介して知覚した大貴は、そこから先ほどまでは感じられなかった生命の脈動を感じ取って息を詰まらせる

 そんな大貴の傍らで反逆神の神格に等しい力を持つ七頭の黒龍が咆哮を以って世界を震わせるのを見ていた夢想神(レヴェリー)は、肌を刺すような悪意の力に忌々しげに目を細める


 あらゆる形状に変化させられる武器を生物の形(・・・・)へと変化させ、命さえをも創り出す背徳の力を知らしめた反逆神に対する憤りと、まるで武器だけで相手をしてやると言わんばかりの余裕

 例え神格としては劣っているとしても、それは「神」としての矜持を著しく踏みにじるものであり、敵対行為に享じる神敵の挑発だった


「舐めるな」

「「舐めるな」」

 魂を引き裂くような咆哮を上げる七頭の黒龍が、大きく開いたその顎から解き放たれた悪意の滅閃を回避しながらその目に強い敵意を宿す夢想神(レヴェリー)のそれに自然神(ユニバース)のそれが重なる


 瞬間、金色の鎧が光の粒子となってその形状を失い、人馬形態をとっていた自然神がその本体である極彩色の燐光を帯びる無数の宝珠を剥き出しにする

 しかし、その変化も刹那の事。再度配列を変えた自然神に金色の光が宿り、一瞬の後にその武器でもある金鎧の躯を構築する

 天を衝く巨大な槍を思わせるそれと一体化した金色の翼に、鋭い牙を持つ顎を持つ有角の金兜。鋭い爪を持った手足を直立不動のその身に備えたその姿は、まさに、金色の鎧によって形作られた竜そのもの――「竜形態」と呼ぶに相応しいものだった


 金鎧の竜形態へと姿を変えた自然神(ユニバース)が、その雄々しい姿からは想像もできない聖鐘のような荘厳な音色を発しながら、反逆神の武器が姿を変えた七頭の竜へとその牙と爪を突き立てる


 自然神はその存在そのものが全てを塵へと帰し、全てを自身の力へと還元して発展させる循環の力を持っている。

 本来ならばその身体に触れただけで、あるいはその力の領域に触れただけでその特性が発揮されるのだが、反逆神の武器が姿を変えた竜の前ではその力も十全に発揮されることはなく、むしろその循環の領域を世界の理に背く悪意の力によって浸食されていた


「そのまま抑えていなさい、自然神(ユニバース)

 その時、抑制された静かな声で言った夢想神(レヴェリー)の声に応じるように、天に巨大な門が開き、その中からまるで星が煌めく夜天のような力が姿を現す

「この力は……」

 天空から顕現した暗黒の夜天を知覚し、それが何なのかを理解した反逆神(アークエネミー)が薄ら笑いを浮かべると、夢想神(レヴェリー)はそのあどけない表情に不敵な笑みを浮かべる

「たしか、あなたの眷属にもいたわよね。こういう力(・・・・・)を持っている奴」

 そう言って冷たい響きを以って静かに紡がれた夢想神(レヴェリー)の声を、その意識の中で聞いていた大貴は、天空から召喚された夜天を見て驚愕に目を瞠る


俺の力(太極)……?」


 夢想神(レヴェリー)が召還した暗黒の夜天から感じられる力は、夢想神(レヴェリー)のそれではなく、自分――即ち「光魔神・エンドレス」の神能(ゴットクロア)――「太極(オール)」。


 しかし、神能(ゴットクロア)は、自身の存在そのものの力。当然、他人の神能(ゴットクロア)を使うことなどできないというのがこの世界における理であり摂理だ

 だが、夢想神(レヴェリー)が天空から召喚したのは、間違いなく自身の太極の力だった。そんなありえるはずがない事柄が現実に起こっていることに大貴が困惑する中、その疑問に答えるように夢想神(レヴェリー)の粛々とした声が響く


「私の力は、夢を実現(・・・・)すること。誰しもが願うでしょう? もしも自分がこうだったら(・・・・・・・・・)って。誰しもが願うでしょう? 思い描く(・・・・)自分になりたい(・・・・・・・)って」


 この力(・・・)は、ある意味において理想を現実に幻想を顕現させる夢想神(レヴェリー)の力の本質にして最も忌むべき力。

 容姿、才能、能力。人は生きていれば、否が応でも誰かと自分を比べ、誰もが自分であることに不満を持つことが一度や二度はあるだろう

 もしも自分に力があれば、自分があの人のような容姿能力だったなら……この世には変えることのできない者と変えられないものがある。

 そして、この力はそんな叶うはずのない願いを実現する能力。自身にその存在を超越して自身が望んだ力(・・・・・・・)を与える叶ってはならない夢(・・・・・・・・・)


「憧れる自分、理想の自分。誰かにその姿を重ね、その人の様でありたいと自身の存在を同一化させる。それが、この――」

 静かな声と共に天空に渦巻く星空の夢――憧れに焦がれ、自身の存在の力を等しく変える禁忌の夢の力が実現し、光と闇を等しく持つ白と黒の力が解き放たれる


禁忌正夢(ヴェニテヴェルム)


 夢想神(レヴェリー)の静かな声と共に解き放たれた太極の力が天を奔り、悪意の武器が姿を変えた七頭の黒龍と竜形態の自然神を同時に呑み込む

「……考えたな」

「私の神格じゃ、真正面からあなたの力を打ち破ることはできないでしょうけどね」

 夢想と自然の力が対極の力によって共鳴し、一体となって強化されるのを見た反逆神が不敵な笑みと共に口端を吊り上げると、夢想神(レヴェリー)は小さく舌を出したしたり顔で言う


 夢想神(レヴェリー)禁忌正夢(ヴェニテヴェルム)は、自身の神能(ゴットクロア)を一時的に自分以外の存在の神能(ゴットクロア)と同質化する力

 写し取った力が自身の神格に制限されるという欠点があるため、いかに光魔神の神能(ゴットクロア)を使えたとしてもその力は夢想神(レヴェリー)の神格を超えて作用することはない

 しかし、光魔神本来の神格とまではいかなくとも、その神能(ゴットクロア)が持つ力と特性は問題なく発揮されるため、不完全な覚醒しかしていない今の大貴よりもはるかにその真の神の力を行使することができる


(わざわざ、自分の力を召還して(・・・・・・・・・)自分の力と自然神(ユニバース)の力を太極(オール)で統一したか)

 自然神と共に自身の武器を打ち破るために、自身の力をそのまま太極(オール)と化すのではなく、もう一つ自身の力を召還することで夢想と太極、二つの力をさらに加えてきた夢想神(レヴェリー)反逆神(アークエネミー)は内心で感嘆していた


 悪意の武器が姿を変えた七頭の黒龍と牙と爪を交える自然神の力とそこに重ねられた夢現の力が太極の力によって一つの力として統一される

 この世界の全てを否定する悪意の力と、この世界に存在するすべてに等しい太極の力が世界を二分し、全ての理を二分させしめる


「――ッ」

(なんて、力だ……ッ)

 太極と悪意、この世界の全てに属する力とこの世界の全てに属さない力――二つの相反する力によって軋む世界の中で大貴は、夢想神(レヴェリー)を介してその力を知覚し、その力に戦慄していた


 神の力がせめぎ合う中、二柱の異端神の力を紡ぎ上げた幻想の太極の渦に呑まれた悪意の七頭龍の身体がその形を失っていく

 しかしそれは、決して幻想の太極に押し負けたからではない。手を差し伸べた反逆神(アークエネミー)によってその形状の変化を求められた結果だ


「だが、この程度ではな」

 万象を無に帰す循環と現実に存在する全てを夢に帰す夢想。束ねられた純然たる神殺の意志による力を前にそれでも不敵な笑みを崩さない反逆神(アークエネミー)は、再度手中に顕現させた悪意の大槍刀に反逆の神能(ゴットクロア)を纏わせて逆袈裟に薙ぎ払う

 この世界の全てを拒絶する悪意の力が幻想によって生み出された太極の力を易々と滅ぼし、その力を黒白の残滓へと変える

「……でしょうね」

 しかし、それは自然神(ユニバース)夢想神(レヴェリー)には分かりきっていたことだった。反逆神(アークエネミー)は円卓の神座の頂点の三柱の一人

 いかに夢想の力を以って太極の力を行使し、自分達の力を高めようともその神格の差を容易に覆すことはできないことなど夢想神(レヴェリー)自然神(ユニバース)は身を以って知っていることだったからだ


 そして、だからこそ二人の攻撃はここで終わりではない。大槍刀の一閃によって砕かれた黒と白の力の残滓の中から姿を現した金鎧の竜形態をとる自然神(ユニバース)は、その両翼から極彩色の極光を放つ

 そしてそれに合わせるように夢想神(レヴェリー)もまた夢想の力によって顕現させた自身の身の丈の三倍はあるであろう巨大な槍の軍勢を一斉に解放する


「クク……ッ」

 自身に向かって解き放たれた現実の事象の全てを滅ぼす絶望の夢と、この世界に存在する全てに循環による終焉を与える輪廻万象の力を前に、反逆神(アークエネミー)は愉悦の笑みを噛み殺してその身体から神敵の本質たる悪意の力を解放する

「ハハハハハハッ!」

 大槍刀の一薙ぎに合わせ、神を害する暗黒色の悪意の力が解き放たれ、渦を巻くように夢想神(レヴェリー)自然神(ユニバース)に向かって迸る

 その力をかいくぐり、更なる夢現と万象の力が解き放たれる。事象と概念を滅ぼし、それそのものを己の力とする隔絶した神の力の激しい応酬が刹那さえ存在しえない時の中で悠久とも思えるほどに繰り返される



(これが、円卓の神座の戦いなのか……)


 夢想神(レヴェリー)と意識が繋がっていることで、その目を介してまるで自身がこの戦場の中にいるような感覚にいる大貴は、知覚を染め上げる三柱の異端神の神の力に改めて息を呑む

「これが――……」


 「夢想」、「万象」、「反逆」――神の力が知覚を介して大貴の意識の中で渦を巻き、その圧倒的な力を知らしめる

 存在としての埋めようのない絶対的な差。大海にたゆたう一粒の砂のようにただただその神格と力の差を前に無力感と絶望感だけがこみ上げてくる


円卓の異端神(俺達)の世界なのか」

 しかし、その異端なる神々の力の圧力だけで自身の存在そのものを押し潰されてしまうような威圧感に呑み込まれる大貴の胸中には、単なる畏怖とは違う感情が芽生えていた


(けど、なんだこの感覚? 懐かしいような、心が落ち着くような……でも心が落ち着かない。まるであそこに行きたがってるみたいだ)


 本来は畏怖しか覚えることのない力の中、大貴の心の中に去来するのは不思議な高揚感と懐かしさにも似た安堵感。

 荒れ狂う強大な力の中、不思議と逸る心につられるように大貴の口端がわずかに吊り上がり、胸が恐怖とも畏怖とも違う感情によって昂揚する

 それはまるで、大貴の存在そのものを構築している光魔神の力が、同胞たる円卓の神々の許へと帰りたがっているようにも――あるいは、自身を殺めた反逆神を前にした怒りから来るものかもしれない


(……俺の中の力が、外に出たがってるのか?)

 ざわめくような感覚と共に落ち着かない心と、自身の存在の根源である魂の脈動を感じながら、大貴は熱く高鳴っている自身の神能(ゴットクロア)に触れるように胸に手を当てる

 反逆神、夢想神、自然神――円卓の神座を成す十三の神の内、三柱の神が存在するこの空間の中で、まるでその力に導かれるように熱を帯びた太極の力の脈動に、大貴は心の声を傾けるように静かに目を伏せる

(還りたいのか? それとも――)

 まるで呼び起されるようにかき鳴らされる太極の神能(ゴットクロア)がもたらす落ち着かない感覚に自身の手のひらに視線を落とした大貴は、暗黒色の悪意の大槍刀を携える反逆神(アークエネミー)を見て目を細める


「戦いたい、のか……?」


 左右非対称色の瞳で、この世界における唯一無二の絶対なる神の敵対者を見据えた大貴は、静かに自身と自身に宿った光魔神との因縁に意識を傾けるようにして問いかける

 だが、そんな大貴の声に三柱の円卓の異端神の力の渦の中で高鳴る太極の力が答えることはなく、しかしその落ち着かない感覚は消えることがなかった



                   ※



「――っ!」

 夢想神(レヴェリー)に意識をつなげられ、円卓の神々の戦いを体感していた大貴がその意識を取り戻すと、眼前にはアスティナとアリアの背があり、そして幻想の世界は悪意の力によって食いつぶされ、崩壊した世界が広がっていた

 大地は悪意に染まり、天は神に敵対する力によって引き裂かれ、この世界に在らざるものに毒され滅亡や滅びたとは違う無惨な姿に、大貴は思わず息を呑む

「戻られましたか」

 そんな大貴に背中越しに語りかけたアスティナの声はわずかに引きつっており、その身体は小さく震えている

 神威級神器の力によって神位第六位に等しい力を得ているとはいえ、神位第五位以上の力を持つ円卓の神々の戦闘、そして世界を呑み込む悪意の力を前に平静を保っていることは、さしもの妖精界王にもできないのだろう

「ってことは……」

 自分達が結界を作って守っていた大貴に意識が戻ったことを見て取ったアリアがその理由に思い至って険しい視線を自分達の前方に向ける

 アリアの言葉に、その意図を正しく理解しているアスティナが界上解杖(ヘルカーティス)の柄を強く握りしめ、意識を研ぎ澄ませるのを見て、大貴が口を開く

「ああ」

 その手の中に自身の武器である太刀を顕現させた瞬間、三人の眼前に血色の衣を翻らせた反逆神(アークエネミー)が静かにその姿を現す

「――っ!」

 傷一つないその姿を現した反逆神を前にした大貴達が武器を構えて臨戦態勢を取った瞬間、その知覚を悪意の力が一瞬にして塗りつぶす

「無駄だ」

 反逆神から発せられたのは、静かに抑制された感情の無い無機質な声。そこには威圧の意志など微塵も込められてはいない

 しかし、その声はその身に纏う悪意の力を以って大貴達を圧倒し、同時に神から生まれたすべての存在である者達にその存在の根源から湧き上がる嫌悪感によって戦意の全てを無慈悲にねじ伏せていた

「……ッ!」

 比較するまでもなく、遥か隔絶した神格の差の前に自身の滅びを幻視し、その力に対する存在としての嫌悪感に大貴、アスティナ、アリアの三人は何もすることができず、ただゆっくりと歩み寄ってくる神敵の姿をその目に焼き付けていることしかできない

 世界を乖離させる力を持つ神器の力によってアスティナが展開する結界、そして夢想神(レヴェリー)神片(フラグメント)となったことで得た夢現の力によって形作られるアリアの結界。共に神位第六位に等しい神格を持つ二人の結界は、しかし反逆神が軽く指先で触れるだけで悪意に侵食されて崩壊する


 目の前で、まるで水泡のように全く強度や硬度を感じさせずに二つの結界があっけなく崩れ落ち、反逆神がゆっくりと三人の許へと歩み寄ってくるが、その神格を前にした三人は、竦んで一歩も動くことができずにいた

 この世で最も忌むべき神敵を前にしながらも、まるでその悍ましい力に干渉することさえをも恐れるかのように抵抗も逃走もできずにいるアスティナとアリアの横を通り抜け、反逆神(アークエネミー)は大貴と視線を交錯させる


「さて、最期に言い残すことはあるか?」

 神敵たる自身の力を前に動くこともできずにいる大貴を睥睨した反逆神(アークエネミー)は、感情の見えない抑制の利いた声で静かに問いかける

 今にも自身の頭を吹き飛ばさんと自身の眼前に掲げられた包帯を巻かれた手の平から、血色のフードの中に見える反逆神の顔を見て、そこから刺すように伝わってくる死の気配に息を呑む


「なら、一つだけ――」


 自身に向けられる視線を向ける反逆神から漂う威圧感に、声を発することさえもままならないほどの畏怖を刻み付けられる大貴は、それでもそれに怯むことなく意を決して眼前に立つ神敵の問いかけに答えるのだった





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