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魔界闘神伝  作者: 和和和和
ゆりかごの世界編
10/305

託された想いと芽生えた想い






 朝の陽光が降り注ぐ中で静かに佇む大貴は、浅い呼吸をしながら目を伏せて意識を自分の内側に集中させる。

 それを合図に大貴の身体から黒と白の力が噴き出し、一瞬で大貴の姿が人間のそれから黒と白の髪に金と緋色の眼をもった光魔神の姿へと変わる。

「……ふぅ」

覚醒して以来、不思議とこの光魔神の姿でいる事に落ち着きを覚えるようになり、今では十五年間過ごし、慣れ親しんでいるはずの人間の姿に息苦しさにも似た窮屈な感覚を覚える。

 一度覚醒したからなのか、二度目からは意識せずとも呼吸一つ、瞬き一つ程度の時間で光魔神の姿へ変化させる事ができるようになっていた。

「…………」

 光魔神となった自分の手を見つめる大貴の脳裏には、昨夜の会話が思い出されていた





 昨夜、光魔神として覚醒した大貴はその姿を帰宅した一義と薫の前で見せていた


「……これが光魔神」

 その姿を一義は好奇心に満ちた視線で舐めるように見回す


「ええ、九世界における人間を創造した神です。もっとも、まだ覚醒は不完全なようですが」

「不完全?」

 神魔の言葉に薫は首を傾げた

「今の大貴くんの力は僕達と同じ程度。でも光魔神の本当の力はこんなものではないんです。何しろ『円卓の神座えんたくのしんざ』の頂点に位置する神ですから」

「円卓の神座?」

「九世界には3種類の神が存在します。正統な神である『光の神』、『闇の神』。そしてそのいずれにも属さない『異端神いたんしん』という正統な神と同等以上の力を有した『無属性』の神。

 その中で最強の力を持つ『十三柱』の異端神を総称して『円卓の神座』と呼びます。光魔神はその中で最強の力を持つ三柱の神の一柱『円卓の神座・No1』なんです」

「まぁ、光魔神だけは全ての神、異端神の中で唯一光と闇の両方の力を同時に持っているが、一応異端神扱いになるんだけどな」

 神魔に次いで話すクロスの言葉を聞きながら詩織は神魔の左腕に視線を向ける。

「…………」

 黒いコートと陣羽織を足したような神魔の服はいつの間にか元に戻っているがその左袖の中にはあるべき腕がなくなっている。

 その会話の最中、落ち着かない様子で詩織は何度も神魔に視線を向ける。

(何で、私こんなに神魔さんの事、気になってるんだろ……)

 神魔に何度も視線を送っては離してを繰り返していた詩織は制御できない自分の感情に戸惑っていた。

 特にどうという事も無いはずなのに神魔が気になってしょうがない。――ただ神魔を見ているだけで胸の奥に何か温かなものが生まれてくるその感覚に、戸惑いを隠す事ができず、居たたまれない様子で身体をわずかに揺らし続ける。

「……どうしたの、詩織さん?」

「え!? えっと……」

 そんな詩織の様子に気付いた神魔に視線を向けられ、詩織は戸惑いながら咄嗟に眼に入った神魔の失われた左腕を見る。

「神魔さん、腕……本当に平気なんですか?」

「ああ……」

 咄嗟に取り繕った詩織の言葉に合点がいったのか神魔は優しく微笑む

「大丈夫だよ。僕達全霊命ファーストは死んでなければ、身体をいくらでも復元できるから。この腕も大人しくしてれば二、三日で元通りに治るよ」

「はぁ……身体も再生するなんてすごいわね」

 神魔の説明に薫が感心している横で、詩織は小さく安堵の息を漏らす

(ふぅ……)

「神魔君、そんなになってまで子供達を守ってくれてありがとう。改めてお礼を言わせて欲しい」

「いえ、謝るのはこちらの方です。結局大貴君を守れなかったのは事実なんですから」

 深々と頭を下げて感謝の意を述べる一義の言葉に、申し訳なさそうに応じる神魔の言葉をクロスが遮る

「そんな事はどっちでもいいが、こうなった以上、二人には光魔神が大貴の中にあった理由を正直に答えてもらうしかない」

「……!?」

 クロスの言葉に、一義と詩織は小さく目を見開く。

 一義と薫に対する口調がいつの間にか敬語から地に戻っているのは、クロスがそれだけ界道家の面々――特に一義と薫に慣れ親しんだという事なのだろう

「どういうことですか?」

 クロスの言葉の意味が理解できない詩織が問いかけると、その質問に神魔が答える

「光魔神は、はるか昔に九世界で起きた戦争『異神大戦いしんたいせん』で死んでるんです」

「!!」

「そして前にも言ったようにあなた達ゆりかごの中の住人は正確には人間じゃない。もし何らかの方法で光魔神が転生したとしてもゆりかごじゃなくて人間界の方に生まれるのが自然だ。

 教えてくれ。あんた達が知っている天使のことと合わせて、何で大貴の中に光魔神がいたのかを」

「っ!? お父さんたちが天使と……?」

「どういうことだ?」

 神魔の言葉に全員が絶句する中で続けられたクロスの言葉に一義と薫は目を見開き、詩織と大貴の眼は驚愕に見開かれる

「……気付かれていましたか」

「最初に会った時、俺を見てあんた達が見せた様子は、初めて天使を見たものにしては、違和感があったからな」

「……分かりました」

「あなた!?」

 観念したように息を吐いた一義は口調を強くした薫に視線を送る

「これ以上は隠し通せないのはお前も分かるだろう? それに来るべき時が来たということだ」

「……っ」

 その言葉に薫は反論できずにうつむく。その様子にただならぬものを感じたのか詩織と大貴は父に視線を送る

「二人も聞いておきなさい。出来ればこの話はしないで済む事を願っていたのだが……」

 詩織と大貴に視線を向けた一義は一瞬だけ言い淀むが、すぐに意を決したように表情を引き締めて言葉を発する





 それはおよそ十五年前――一義と薫が結婚し、詩織と大貴の双子が生まれて間もなくの事だった。

 休日に一義と薫はそれぞれ「詩織」「大貴」と名付けた二人の子供を連れてデパートに買い物にやって来ていた。

 ベビーカーに乗せた双子の子供達は二人の幸福の証。ただ見ているだけで心は幸せに満たされ、触れればその温もりが愛おしさを伴ってはっきりと伝わってくる。


 しかしその幸福はその日、一瞬にして崩れ去る事になる


「……う」

 気を失っていた一義が身体を起こすと、目の前には倒れて気を失った香る薫。そして変わり果てた光景が広がっていた。

 けたたましい消防サイレンの音、周囲を埋め尽くす炎と煙が周囲を取り巻いている

「……一体何が?」

 何が起こったのかは一義本人にも分からない。突然の轟音と衝撃に巻き込まれ、気がついたらこの有様だったのだ

 目の前に広がる地獄絵図のような光景に内心で怯みながらも、一義は自身の心と身体を叱咤して、絶望に折れそうになる自分を懸命に奮い立たせる。

(あの衝撃は地震じゃないな……爆発か?)

「薫」

 痛む身体を起こし、目の前で倒れている妻の身体を揺すると、すぐに薫は意識を取り戻した

「……あなた?」

 虚ろな視線で一義を見た薫はすぐに目を見開いて身体を起こす

「詩織と大貴は!?」

 周囲を見回すと、二人の目に横倒しになったベビーカーが飛び込んでくる。

「詩織! 大貴!」

 青ざめた顔で慌てて駆け寄った二人は、言葉を失う

「……大貴」

 横倒しになったベビーカーの中にいた双子の子供は血にまみれていた。もはや泣く事もなく力なくぐったりとその場に身を投げ出している。

 詩織の方は擦り傷程度だが、大貴のほうは額からおびただしい量の血を流しており、その小さな身体を抱き上げると大貴の呼吸はほとんど感じられないほどに弱くなっていた。

「大貴、大貴……」

「落ち着け。誰か人を……」

 その言葉を、取り乱し半狂乱に陥りそうになっている薫と自分自身に言い聞かせて一義は周囲を見回す。

「誰か!」

 救いを求めて必死に声を上げる。しかし、煙の充満したその場所の視界は悪く鳴り響く警報ベルが全ての音をかき消してしまっている

「あなた、大貴が……」

「っ!」

 薫の声に視線を戻せば大貴はぐったりとして息をしていない。触れている薫には大貴の身体から体温が抜けていくのがはっきりと感じられた

「そんな、大貴……」

 二人の心を絶望が塗りつぶしていく。愛する子供の命が目の前で尽きようとしている様を見て一義と薫は心の底から救いを乞う

「その子供を助けたいですか?」

「!」

 藁にも縋るような、神に祈るようなそんな二人の想いが届いたのか、二人に優しく静かな声がかけられたかと思うと二人と双子を取り巻くように金白色の光のドームが展開される。

「なっ……!?」

 周囲を取り囲んだ金色の光のドームに目を見開いていると、いつの間にか二人の目の前に一人の女性が佇んでいた。

「天、使……?」

 思わず薫の口から声が漏れる。

 二人の目の前にいたのは、足元まで届くほどに長い金色の髪を束ね、一点の穢れもない純白の翼を持った、この世のものとは思えないほどに美しい女性

 まるで神話の世界から抜け出してきた様な、神秘性を兼ね備えた幻想的な美しさに眼を奪われ、目の前にある危機すら忘れてしまっていた二人に視線を向けた天使の女性は、ゆっくりと口を開き、言葉を紡いでいく。

「私の名は、天使『ロザリア』。もう一度聞きます。人の子よ……その子供を助けたいですか?」

「た、助けてくれるんですか!?」

「お願いします」

 ロザリアの言葉に、迷う事無く一義と薫は懇願する。


 目の前の存在が本物の天使かどうかや信用に値するかどうかなど、今の二人にとってはどうでもいいことだった。

 今この瞬間に消えようとしている愛しく小さな命のためならば、たとえ悪魔とでも取引をする事ができる。――その時の二人にとって、何よりも大切なのは大貴の命だったのだから


「……しかし、その子の命はすでに尽きています。私には命をなくした者を甦らせるだけの力はありません」

「!?」

 その言葉に自分の腕の中にいる大貴に視線を落とした薫は、息をしなくなった大貴を抱きしめて天使を睨みつける

「なら、どうして助けるなんて……!」

「確かに、一度尽きた命を呼び戻す事は私にはできません。しかし……」

 涙で言葉が続かない薫と一義に向けて手を差し出したロザリアの手の平に、白と黒の光によって構成された成人の顔とほぼ同じ大きさの光の珠が出現する。

「これは……?」

「これをその子の命の代わりにすればその子は新たな命を得て生きながらえる事が出来るでしょう」

「なら……」

 それを見た薫と一義の表情に、希望の光が灯る。

「ただし」

 しかし、二人の歓喜を打ちのめすかのような冷徹で無機質なロザリアの声音が、二人の言葉を遮る

「これは持ち主の命を奪ってでも手に入れたいと思う者が大勢いるほどに価値のあるモノです。そして、これをこの子が持っていることを隠し通しておくことは出来ません

 いつかそれが知られた時、この子はこの世界での居場所を失い、あなた達の前から去る事を余儀なくされるでしょう」

「……っ!」

 ロザリアの言葉に一義と薫は目を見開く。

「確かにこれを与えればこの子の命は助かります。しかしそれは同時に、ここで死ぬよりも過酷な運命をこの子に強いるのと同じ事です。それでも――」

 淡々と続けられるロザリアの言葉に、薫と一義は言葉を失う。

 例えここで大貴の命が助かっても、助かった命が大貴の命を再び今以上の危険に晒す。その事実が二人を打ちのめす。


「――それでも助けたいですか?」


 ロザリアのその言葉はまるで死刑宣告のように冷たく響き渡った。


 大貴の命を繋ぎとめる事。それはいつか繋ぎとめた大貴の命を危険に晒す事になる。

 居場所を奪い、命の戦いにその身を投じる運命を与えるくらいならば、ここでこのまま眠らせてあげたほうが幸せかもしれない。


「……それでも」

 そんな一義の考えを薫の声が遮る

「この子には生きていて欲しい。私達の子供として生まれてきてくれたこの子に、この世界を見て、感じて、生きてほしい」

「……薫」

「あなた……」

「大丈夫だ。何があっても二人で大貴を守ろう」

 溢れ出す涙を堪えて頷く妻の肩にそっと手を回して、一義はロザリアに視線を向ける

「よいのですね?」

「……はい」

 真っ直ぐな決意をその目に宿して頷いた二人に、ロザリアは目を伏せる。

「分かりました」

 頷いたロザリアは、手に持っていた白と黒の光球を大貴に向けてそっと差し出す。


 それと同時に、ロザリアの手首に巻かれていた金色の腕輪が光の円陣を作り出し、白と黒の光球を包み込んで大貴の胸の中へと送り込んでいく。

 二人の目の前で白と黒、二色の球体がまるで水の中に石を沈めるように、大貴の体の中に沈み、溶け込んでいく。


「これは『救い』であり、『呪い』です」

 大貴の中に白と黒の光球を送り込みながら、ロザリアはそれを見守る一義と薫に静かに優しく語り掛ける。

 大貴の命を取り戻す代わりに決して逃れられない戦いを強いる呪い。それを与える自身の罪。そしてそれを託す子供の幸福を願いながらロザリアは一義と薫、そして大貴に語りかける。

「いつか『その時』が来れば、この子はその身に宿した逃れる事は出来ないこの『運命』に命を懸けて立ち向かわなければならないでしょう。そしてそれはあなた達とこの子の別れをも意味します……」

 この力は大貴を生かす。しかし同時にこの世界にそぐわないこの力は、望むと望まざるとに関わらずこの世界での居場所を大貴から奪ってしまう

「それでも……」

 白と黒の光球が金色の円陣に導かれて大貴の身体の中に吸収されると、止まっていた筈の心臓と呼吸が動き出し、再び生命活動が開始されて大貴の身体に徐々に体温が戻り始める

「あなた! 大貴が……」

「あぁ」

 歓喜の声を上げ、嗚咽を堪えて薫と一義は命を取り戻した大貴を力の限り優しく抱きしめる。

「その時まで精一杯愛してあげてください。この子の前に立ちふさがる運命に、彼が呑みこまれて絶望してしまわないように。愛された愛しい記憶を誰かを愛するために使えるように」


 例え逃れられない戦いが待っていても、別れが待っていても、それまでに彼が受けた愛情はその中でも失われる事なく大貴を支え続け、いつか味方になってくれる人を作ってくれるはず


「彼は注がれた愛情の分だけ誰かを愛し、それがきっと彼を助ける力になってくれるはずです」


 そう言ってロザリアは優しい微笑みを浮かべるとそっと大貴の頭に白く細い指で触れる


「あなたにこんな運命を背負わせる原因を作った私が、こんな事を言うべきではないのかもしれないけれど……」

 大貴を抱きしめている薫がようやく聞き取れるほどの小さな声で大貴に囁きかけると、ロザリアは整ったその柳眉をわずかに歪める。


(ごめんなさい……)


 声には出さずに心の中で懺悔したロザリアは、閉じていた目を開くと、愛おしそうに大貴の頭を優しく撫でる


「あなた方に輝ける光の導きがあらん事を祈っております」

 それと同時にロザリアを中心に発生した光が、その身体を呑み込んだかと思うと一瞬でロザリアの姿が幻のように消え失せる。

 そしてロザリアは二度とその姿を現すことはなかった





「……これが全てです」

 一義が話を終えると、一瞬の静寂が界道家の食卓を包む

「私たちは大貴を失う事が恐ろしくて、大貴に過酷な運命を背負わせる道を選んでしまった……すまない、大貴」

一義の言葉に大貴は一度目を伏せてから両親に視線を向ける

「その話に怒る必要なんて無いだろ……それだけなら今日は疲れたから俺は先に寝る」

 それだけ言って立ち上がった大貴に神魔は静かに声をかける

「大貴君、明日少し時間をもらえるかな?光魔神の力の使い方を覚えてもらいたいから」

「……分かった」

 リビングから大貴が立ち去ると詩織は盛大に溜息をつく

「全く、照れちゃって」

 詩織の言葉に一義と薫は小さく笑みを浮かべる

「ええ……あの天使の人に胸を晴れるくらい、優しい子になってくれたわ」

「そうだな」

 大貴が出ていった扉に目を向けて薫と一義が目元を綻ばせる。

 ずっと罪悪感に苛まれていたであろう二人は、大貴の言葉によって幾らか心の荷を下ろす事が出来たのかもしれない

「神魔君、クロス君……息子の事を頼みます」

「はい」

「あぁ」

 深々と頭を下げた一義の言葉に、神魔とクロスは小さく、はっきりと頷いた





 その日の深夜。クロスは夜の闇を映す窓に映った自分の姿を見つめる

 部屋に明かりはついていないが、クロスの目はこの暗闇でも全ての物を昼間のように見通すことが出来る。

(ロザリア……少なくとも俺の知らない天使だな。二人の言葉から考えると、少なくともロザリアは光魔神って事を知っていて大貴に埋め込んでいる――しかもそんな事を出来るとなると……神器しんき使いか?)

 クロスの脳裏に今日に至るまでの様々な出来事が思い起こされる

「少なくとも光魔神のことは報告しておかないとまずいか……」

 クロスは小さく独白するとその純白の翼を広げると同時にその姿は煙のように消え失せ、部屋には白い羽が数枚宙を舞い、そのまま空気中に光の粒子となって消える


 界道家の屋根裏部屋。神魔が借りているその部屋でくつろいでいると、扉が数回ノックされる

「……ようやく、か」

 溜息混じりに言った神魔が扉を開けると、そこには詩織が目を伏せて佇んでいた。

 詩織が扉の向こうでうろついていたことなど、最初から気付いている。何度かこの部屋に入ろうとしては思い止まり、しばらく逡巡しては入ろうとしてを繰り返していた事は知覚で分かっていた。

「あの……」

 そうとは知らないであろう詩織は、懸命に振り絞った勇気で神魔に何かを言おうとする。

「立ち話もなんだから中に入る?」

 言いにくそうに口ごもる詩織に、神魔は優しく微笑む。

「……いえ、ここで」

 神魔の言葉に一瞬戸惑った様子を見せるが、すぐに小さく首を横に振った詩織は、神魔の中に何もない左の袖を見る。

「そんなに気にしなくても、本当にすぐに再生するから心配しなくてもいいよ」

 詩織の視線に気付いた神魔は、普段と変わらない口調で詩織に声をかける

「でも……」

「それより、詩織さんも怪我は無かった?」

「は、はい! 神魔さんが守ってくれたから……」

 神魔の言葉に、詩織は恥らいながらもわずかに顔を赤らめて俯く

「そう、詩織さんに怪我が無くてよかった」

「……っ!」

 神魔が優しい声音で囁いた言葉に、詩織は頬を赤く染める

「よ、喜ぶところじゃありません。そんな怪我して……もし取り返しのつかない怪我したらどうするんですか!?」

 顔が赤くなっているのを隠すように目を逸らして、弱々しい口調で咎めるように言う詩織に神魔は真剣な表情で答える

「そんな事しないよ」

「え……?」

 神魔は詩織と真正面から向き合うと、その金色の眼で詩織を真正面から覗き込むようにして見つめる

「それで僕に何かあったら詩織さんが悲しむでしょ? 僕は詩織さんの笑顔も守りたいんだ。だから詩織さんが悲しむような事はしないよ」

「……っ!」

 目を合わせて真剣な表情で言う神魔に、詩織の顔と心の温度が急上昇する

「だから詩織さんには、いつもみたいに笑ってて欲しいな」

「……と、とにかく! あんまり無茶はしないで下さいね」

 完全に茹で上がっている顔を見られないように、俯いて言い放った詩織は神魔の部屋から逃げるように走り去っていく。

「本当に……」

 突然走り去った詩織を遠くを見るような視線で見送って、神魔は部屋の中に戻る



 そんなやり取りがされている頃、大貴は自分の部屋の布団の中で目を開けて考えを巡らせながら、一人静かに天井を見つめ続けていた。




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