深夜のコンビニクレーマー
矢枝です。久しぶりに短編書きました。相変わらずのベタ、現在掲載中の「才色兼備な変態さんと俺」の息抜きに書いた作品なので、何を主張したいのか、自分でもわかっていない恋愛ものです。
大学に通いながら、実家近くのコンビニで深夜バイトをする俺には、二つの天敵が存在する。
まず一つ目、それは睡魔だ。午前8時50分から始まる大学は、早期に大量の単位取得をする為に、多量の教科を選択。故に、終わるのが遅い時で午後6時になる。それから実家に帰り着くまでに、電車を使って20分を要し、それから夕食・風呂・課題・翌日の準備の全てを済ませた頃には、午後8時を軽く過ぎている。そこから睡眠だが、4時間眠れば良いほうで、下手すれば2時間も眠れない時もある。
そんなこんなで、午前1時から始まるバイトの準備、翌朝すぐに大学ヘ通えるように前以て準備していたバッグを手に、俺は外灯の頼りない夜道を走り、10分かけて、バイト先のコンビニヘと向かう生活を、半年ほど続けている。
我ながらによく続いているものだと思うが、両親から小遣いが貰えるはずもなく、まして近所にバイト募集している店も無い。
もう消えもしなくなった薄いクマの辺りを擦りながら、睡魔と闘う毎日の俺。
これが、一つ目の天敵。
そして、もう一つの天敵。それは、俺がコンビニでバイトをしている時間帯にやって来る。
「これ、お願い」
「いらっしゃいませ!商品をお預かりします」
「さっさとしてよ」
買い物カゴいっぱいに詰め込まれた袋菓子を俺のいるレジの上にドンッ、と置き、傲慢な態度で催促するこの“客”こそが、俺のもう一つの天敵である。
睡眠不足によるイライラを隠しつつも、もはや使い慣れた“営業スマイル”全開で対応する俺。
「お待たせしました、二千八十三円になります」
「ん」
「二千と百円お預かりします………お返しが十七円です。少々お待ち下さい」
「あーもう早くしてよ!んっとにとろいわね!」
「………申し訳ありません」
いっそのこと「だったらこんなに沢山買うなよ!!」と、怒鳴り返せたらどんなに気持ちがいいだろうか、なんて思う。しかし哀しいかな、俺はコンビニのバイト店員で、相手はお客様。
一切の反抗も許されないのだ。
「大変お待たせ致しました!」
「ふん!」
「ありがとうございましたー!」
天敵がコンビニから出て行ったのを確認し、やっとこさ解放された俺には、どっと疲れが押し寄せる。
さっきの客からお小言を貰うのは、もう何度目かもわからない。が、何度経験しても、やっぱり気持ちの良い事じゃないな。
これが、俺のもう一つの天敵である。
んで、無事(なのか?)にコンビニのバイトを終えた俺は、手早く着替えを済ませ、そのまま徒歩で最寄の駅まで歩き、大学前の駅で降りる。
そんな毎日の繰り返しだ。おかげで、彼女が出来てもまともにデートすら出来なくて、すぐにフラれた苦い経験もしてる。
なんて心の中で愚痴りながら、講堂の入り口付近に差し掛かり、俺は思わず足を止めた………。
「よっ!のろま店員!!」
我が目を疑った。俺に気付いて声掛けてきたのは、俺の天敵である“コンビニの客”だ。
「な、なんでここに…………」
「はぁ?同じ大学だからに決まってんじゃん!動きもとろいなら、頭も悪いわけ?」
し、知らなかった!
どうやら俺は、大学内でも気を休める事は出来ないらしい。
⇒
後から知った事だが、どうやら学科も学年も一緒だったようで、寧ろ今知ったという俺に対し、すごく悪態をつかれた。
「つか、名前くらい覚えときなさいよ!」
「い、いや、だって人数多過ぎるし」
「はぁ?たかが二百ちょっとじゃない!記憶力も悪いの?」
たかが二百、されど二百。もう言われ放題だ。
「アタシは神崎梨緒!それくらいは覚えときなさい!!」
「は、はぁ………」
俺はその時、初めてコンビニ以外でまともに会話をしたことに気付いたわけだが、内外を問わず、神崎という同期生は口が悪いという事にも気付いた。
⇒
今日は午後が休講だった。俺にとっては願ってもない事。家に帰ってゆっくり眠れる………なんて喜々として帰り支度を済ませていたんだが―――
「ねぇ?」
あまり聞きたくない声に、一瞬だが、身体がビクッと反応。正直振り向きたくもなかったんだが、そうもいかずに振り向けば案の定、神崎が背後にいた。
「なに?」
「あ………いや、さ。あんたって、午後から予定とかあんの?」
「家に帰って寝る。睡眠不足とコンビニに来る客からの暴言でストレス溜まってるから」
やや皮肉を込めて、言葉を返す。“誰が”なんて言わないのは、反論に対する逃げ道だ。
「あ、そ、そう………」
「用はそれだけ?それじゃ!」
「あ、うん……」
心なしか、神崎のテンションが低く感じた俺だが、今は早く家に帰って寝たい!という気持ちのほうが強くて、さっさと講堂を出ることにした。
⇒
久しぶりにぐっすりと眠る事が出来た俺は、スッキリと気持ちの良いテンション&体調で、バイトを迎えていた。
しかし、今日は客足が悪い。普段ならニ、三人ほどはいる客も、この日ばかりは誰一人として来ない。
そんな日は、決まって時間が経つのを遅く感じてしまう。
♪〜♪〜♪
来客を告げる電子音が、店内に響いた。条件反射で「いらっしゃいませ!」なんて営業挨拶した俺の目には、いつも通り、だけどなんだかいつもと違った雰囲気の“客”が映っている。
「よ、よぉ!」
すっかり常連のお客となった、神崎だ。
ただ、なんか違和感がある。なんというか、全体的にオシャレしているような気が………
「つか、今日は誰もいないんだな」
「ええ」
「ってことは、客はアタシだけ?」
「まぁそうなりますね」
「あのさ、他人行儀で話すの、やめてくんない?」
やめて、と言われてもなぁ………実際、今は店員とお客様の関係だし。
俺は、公私ははっきり分けて人と接するし。
「…………昼に言ってた“暴言を吐く客”って、アタシの事だよね?」
「…………」
気付いてたらしい。ま、俺もそれを覚悟したうえで言ったんだが。
「………否定しないって事は、やっぱアタシかぁ………ホントは、そんな事を言うつもりなんて、これっぽっちも無かったんだけど、いざ目の前にしたら、テンパッちゃって………」
ヘヘッと笑う神崎の顔に影が差したような気がした…………
「ごめん……気分悪くさせて……」
「い、いや!俺の方こそ、未だに袋に詰めたりするの遅いし、待たせて申し訳ないと思ってたし!」
なんか、普段傲慢な相手からすんなり謝られるというのも、調子が狂うな。なんて思いながら、俺は初めて、神崎をまともに直視した。
小柄だけど、やっぱり言いたい事はハッキリ言いそうな、強気な目元や口元。
特別美人ってわけじゃないのに、何故だか視線が外せない………
「ち、違う!アタシは、アタシは………ずっと、あんたが好きだった!!」
え――――――
⇒
「いらっしゃいませ!」
「チッス!今日のオススメは?」
あれからすぐ、俺は神崎と付き合う事になった。
俺がバイトの日は、決まって同じ時間に買い物に来る神崎。もう愚痴を言わなくなったけど、相変わらずの口調は変わらない。
大学とバイトばかりに時間を割いて、未だにちゃんとしたデートすらしてない事を申し訳なく思っていた俺に、彼女は口元を緩ませて、こう言ってくれた。
“良いんだって!毎日が校内デートとコンビニデートなんだから!”
って。
そして、今日も熱心にコンビニで商品を物色し、一つの商品をレジ前に差し出した彼女は、決まってこう言うのだ………
「これ、お願いしますっ!」
おしまい。
久しぶりに書く短編って、結構難しい………。掲載中作品の合間の息抜き&最近「なろう」読んだ短編ものの恋愛小説に触発されたので、またまたテキトー書きました。
相変わらずのベタ!後半は主人公の惚気としか感じられない文章………ある意味で、まとまってない!
上手くオチきれてもいなければ、え?こんな終わり方?って反応が返ってくるのが見え見え!
多くの反省点はありますが、これを自分への戒めとして、次回も頑張ります。