12.依頼人
アイドの街で、“素行調査”や“尋ね人探し”などを主な仕事としている、自称“なんでも屋のメット”こと、メティアン·オシスのところに、その依頼人が現れたのは、三日前の事だった。
依頼人は体格のいい中年の男性で、その物腰には何やら一般人ではないものがうかがえ、もしかすれば、自分と同業者なのだろうか、ともメットには思えた。
男が依頼したのは、アイドから少しばかり離れたところにある、ウワァフ·フフウの森の奥に住む者の身辺調査をしてくれ、というものだった。
メットは、その仕事をふたつ返事で引き受けた。
メットと彼の女房の間には、もうじき彼等のはじめての子供が生まれてくる事になっていたため、仕事のより好みなどしてはいられなかったのだ。
「このあたりに住んでいるんだがね」
男は地図に描かれた、フフウの森の中心あたりにある沼を指さして言った。そして男は調査を依頼した者たちについて、住んでいる場所と、そこにいるのは女性と幼女の二人だ、という事以外は、他の事は何ひとつとして言わなかった。
そしてメットも、そういった商売上、何かの“わけアリ”で、事情を公言出来ない事はよくある事のため、わざわざたずねたりもしなかった。
こういった仕事というものは、とにかく、依頼された事だけを調べあげて、報告さえすればいいのだ……。
メットは依頼されたその日から、さっそくフフウの森へと調査に行った。
依頼人からもらった期間は、とりあえずは一週間だった。メットは隣町などへ行くのに、フフウの森近くの街道をよく通りはしたが、森の中へと入った事は、あまりなかった。
フフウの森は古い大きな森で、森の中心にある沼には、ドラゴンが棲んでいる、などという昔話まであって、森の“ウワァフ·フフウ”という奇妙な名前は、その森の中から響いてくるというドラゴンの咆哮から名付けられたものならしかった。
しかしその“ウワァフ·フフウ”というのは、ドラゴンの吠え声というよりも、くしゃみか鼻息の様だな、とメットは思っていた。
そして彼が依頼人の言っていたフフウの森の中心の、ドラゴンだかが棲むという沼があるところに来てみると……そこには沼は無かった。
森の木々がそこだけ開け、広い草地となってはいるものの、そこには、地図の上で見た沼は、無かった。
ただそこには、家が建っていた。森の中の草地に、小さな家が、ぽつんと一軒だけ。
「……?」
メットははじめ、場所を間違えたのかと思った。だが、どうやらそうではないようだった。
いつの間にか、沼を埋めちまったんだろうか、と彼は思った。
にしても、何だって、こんな森の真ん中なんぞに住んでいるのだろう?
森番か何かの家なのだろうか?いや、たしかこの森には、森番なぞはいなかった。
こんなところに、女性と子供の二人だけで住んでいるだなんて……
そう思いながらも、メットは森の草木の間に隠れて、しばらくその家を眺めていた。
と、そろそろ日が暮れだした頃――家の中から年若い女性と、小さな女の子が出て来た。
女性は、家の前に干してあった洗濯物を取り込み、その女性の周りを女の子が楽しげに飛び回り、女性はそれに時々、微笑みかけていた。
依頼人の男は何も言わなかったが、女性と子供は、母子なんだろうな、とメットは思った。
そして彼が眺めている中で、女性はふと、メットの方を振り返った。
メットと女性の間にはそこそこ距離があって、メットは藪の中に潜んでいたため、彼の姿が女性にわかるはずはなかった。
が、それでもメットはあわてて姿を隠そうとした。
幸い、女性はメットに気づいた様子もなく、そのまま、洗濯物でいっぱいになった大きな篭を手に、女の子と共に家の中へと入っていった。
古びたドアが閉まる時、女の子の楽しげな声が、再び聞こえた。
そしてそれから、家の中には家庭のぬくもりを感じさせる、オレンジ色のランプの明かりが灯った。
メットにはそれが、ごく普通の母子の様にしか見えなかった。
あの親子には……一体、どんな事情があって調査の依頼なぞがきたのだろうか?
こんなところに、まるで隠れ住むようにしているという事は、あの母子は、何かの事情でどこかから落ち延びてきた没落貴族だとか、それともあの二人は実は母子ではなくて、女性は子守役の使用人で、子供は莫大な財産を相続できる唯一の権利者で、貪欲な縁者どもから逃れるために、ここに隠れ住んでいるとか……などと、彼は思った。
隣近所に住人がいる場合はその人々から、それとなく調査を依頼された者の事を聞き出す事も出来るのだが、今度の様な、隣家の無い一軒屋に住む者の事を調べる場合はそういった事も出来ないため、少しばかり作業は面倒なものになる。
そして、メットはアイドや隣町のスガドで、森の家の持ち主などを聞き込んではみたものの、誰も、家の事も、そこに住む者の事も知らず、返ってきた言葉は、
『あそこには昔っから、沼があるだけだろう?』
といったものばかりだった。
それでメットは時を見計らって、家の中へと入り込む事にした。そしてその機会は、依頼を受けてから四日後にきた。
その日の昼過ぎ、子供は玄関先で遊んでいて、女性は裏口から、あたりをきょろきょろと見回すと、こそこそと何処かへ出て行った。
女性の様子から、女性がどこへ行くのか確かめてみたい気もしたが、彼はまずは家の中を探ってみる事にした。
後になっては……それが一番の後悔の元、となったのだが。
家の中はきれいにかたづいていて、昼食の残りなのか、それとも子供の三時のおやつのためのものなのか、テープルの上には干しブドウ入りの丸パンが置かれていた。そしてその横には
“三日前からいらしている見知らぬあなた様へ” と宛て名書きされた手紙があった。
「……?」
メットはその手紙を手に取った。
『親愛なる私の後継者様』
あの女性のものらしき字で、手紙はそう書き出されていた。
『あなた様はたぶん、三日前、藪の中から私たちを見ていらした方だと思いますが、もしちがったら御免下さいませ。
もしちがっていたとしても、あなた様がこの家に入って、この手紙を続んでいるという事は、あなた様はたぶん私のこのいまいましい役を引き継いで下さる方だと思いますので、“後継者”とお呼びしても間違いではないと思います。
まぁあなた様にしてみれば、“後継者”だなんて、いったい何の事やら、まだおわかりにはなれないのでしょうが、それはこの手紙を読み終える頃にはよくおわかりになられていると思います』
「???」
メットはその奇妙な内容に首をかしげた。
『順をおってお話しすれば、私はこのウワァフ·フフウから少しばかり離れたシスカの街で、家政婦として働いていた者でございます。
私は二年ほど前に事故で夫を亡くして以来、二人の小さな子供をかかえて、食べてゆくためには人から頼まれれば、どんな仕事も引き受けて働いてまいりました。
そしてある日、ある人から、この森の家に住む者の様子を調べてくれ、と頼まれて、私は喜んでそれを引き受けたのでございます』
メットの表情が、ぴくりと動いた。
『私が様子をうかがった時には、ここには、体格のいい中年の男性と、あの女の子がこの家におりました』
メットは先を読んだ。
『私は最初、その男性と女の子は親子だと思っておりました。そして男性の体格から、男性はこの森の木こりか何かで、子供は、何かの事情で母親がいない、不憫な子だと思っておりました。
そして、私は男性と女の子がいったいどういった人物で、どうしてこんなところに住んでいるのか、という事を調べようとはしたのですが、しかし、誰に尋ねても、この家の男性と子供の事を知っている者はおらず、それどころか、ここに、この家が建っているという事さえ、知っている者はおりませんでした。私がたずねた人たちは、みな、ここには沼があるだけだろう、と言うだけでした。
私もその事は、ここに来る前から知ってはおりました。
実際にここへと来た事はなかったのですが、地図ではここがどんなところか、知っていたのです。
もしあなた様もその事をすでに御存知だったとしたら、ここへとやって来た時にはあなた様も驚かれた事でしょう。
あなた様はこの森にまつわる、言い伝えを御存知でしょうか?この森の中心にある沼には、昔から魔物が棲んでいて、この森の“ウワァフ·フフウ”という名前の由来は、その魔物の吠える声からきているのだと。
この森へとやってきて、地図上では有るはずの沼が見つからず、沼の有るべきところは野原になっていて、そこにこの家が建っている、というのを目にした時、私は、その沼に棲む魔物だかの魔力に化かされているような気分になりました。とはいっても、自分の目には、この家も、この家の住人も、ちゃんと存在している様に見えましたので、仕事を引き受けてから何日かしたころ、私は思い切って、道に迷ったふりをして、この家を訪ねてみる事にしたのです。
だって、この家や住人について事を調べてみようにも、それを知っている者は誰一人としていないのですから、ここの住人自身に直接それを聞いてみるしか、方法はございませんでしょう?
しかし今から考えてみれば、それがいけなかったのです』
メットは手紙の一枚目を読みおえ、二枚目に目を走らせた。
『挨拶をしながら家に入ってみると、男所帯のわりには、家の中はちゃんとかたづいておりました(とはいっても、私は後日、家中を掃除しなおしましたが)。しかし、家の中には、あの男性はおりませんでした。私が様子をうかがっていた何日かの間は、男性はどこにも出掛ける様子はなかったのですが。
私はさらに挨拶をしながら、家の中を見回しました。が、やはり、あの男性はいないようでした。そこで、どこへ行ってしまったのだろう、と思いながら、私は家の奥へと入って行きました。
そして私はテーブルの上に……そう、このテーブルの上に、書き置きを見つけたのです。書き置きには、こう走り書かれてありました……
“ご苦労様、やっと来てくれたな”
私にはそれが、いったい何の事なのか、誰に宛てられたものなのか、わかりませんでした。
しかしこの家の者たちについて、私は少しでも事を知りたかったので、わからないながらも、その書き置きの先を読みました。
“俺の前任者が、俺の代わりをもうよこしてくれないんじゃないかと、気が気じゃなくなってきたところだった。別に何も不便はなかったが、こんな生活はもうまっぴらだ。俺は俺の前任者とはちがって親切な奴だから、お前の代わりはなるべく早くよこしてやるつもりだ。じゃあな、あばよ”
書き置きはそれで終わっておりました。そこまで読んでも、私には、やはりそれが誰に宛てられた、何の事やら、さっぱりわかりませんでした。
そして私がその書き置きをもう一度読み返しておりますと、そこへ、あの女の子が家へと入って参りました。
女の子は、見知らぬ私を見ても、別に驚きもせず、ひとなつこい笑顔を私に向けました。
「勝手に入ってごめんなさい」
私は女の子に言いました。
「あなたのお父さんはどこかしら?」
すると女の子は首を振って言いました。
「知らない」
「どこかへお出かけしてしまったの?」
「うん」
女の子は今度はうなずきました。
「どこへ?」
「知らない」
「いつ帰って来るの?」
「もう帰って来ない」
女の子は言いました。
「まあ、どうして?」
女の子の言葉に私は言いました。すると、女の子は言いました。
「かわりに、今度はお母さんが来たから」
「お母さん?」
私にはその時、女の子の言葉の意味がわかりませんでした。
お母さん?たしかこの家には、あの男性と、この女の子しかいなかったのでは、と私は思いました。そして私は少しばかり困ってしまいました。女の子の父親から、話しを聞き出そうと思っておりましたのに……こんな小さな子からは、たいした事も聞けないな、と。でも、女の子の母親がいるのなら、その母親に話しを聞けば、と思い、私はその母親はどこにいるのだろうと、この家の中を見回しました。
と、その私に、女の子は言いました。
「ねえ、お腹すいちゃった」
女の子は私を見上げて、ねだりました。
「何かなぁい?お母さん」
以来……私は今日まで、ずっとこの家にいたのです』
「……」
メットは妙な表情を浮かべた。そしてその手紙の内容が、ようやくわかりかけてきた。
『もちろん、私はここから、抜け出そうともいたしました。何しろ私には二人の子供がいて、私の帰りを待っているのですから』
手紙は三枚目にまで続いていた。
『でも、それは無駄な事でした』
メットは手紙を手にしたまま、なんだか頭の先から胸元まで、ジワジワと冷たくなってきた様な気がした。しかしそれは、家の中が寒いからではなかった。
『あの女の子が見ている前で、私はこの家から――この森から出て行こうとしました。でも、出て行く事は出来ませんでした。森の道を、森の外へと出て行こうと歩いているにもかかわらず、どういうわけか、またこの家へと戻ってきてしまうのです。
あなた様も御存知の事でしょうが、この家までの道のりは、いくつかの分かれ道はあるものの、そんなに複雑なものではありません。
そして実際、それまでは、私は一度も迷ったりする事なくこの森に出入りしていたのです。
それが……こんな事になってしまうだなんて?
そこで私は、女の子が家の外で遊んでいるすきに家を出てゆく事もしてみました。しかし、それも同じ事でした。やはりここへ……あの女の子の元へと、戻ってきてしまうのです』
メットの額には、いつの間にかじんわりと冷たい汗が浮かび、そして胃のあたりがひきつっている様な気分になった。
『ここにいる分には、何も、困った事はありません』
手紙の先を読み続けながら、メットは胃のあたりをさすった。
『この家の中には、あの子を養ってゆくだけのものは、みな揃っています。あの女の子の衣類や、玩具や、食べ物が。……不思議な事に、食べ物は、食べてしまった分だけ、気がつけばいつの間にやら、また元の状態にまで戻っているのです』
「……」
『私は毎日、あの子のためにパンを焼いているのですが――それに使った小麦粉は、後で見てみると、また袋いっぱいにまで戻っているのです。他のものもそうです。家の裏庭の小さな菜園の野菜や、果物もそうです。いくらとっても、翌日にはまた、ジャガイモも、チシャも、リンゴも、食べきれないほど実っているのです。台所の隅に吊るされている干し肉でさえも。
ですから、何かを手に入れるために森から……この家から出てゆく必要はありません。これがどういった事なのかは、私にはさっぱりわかりません。
しかし想像できる事は、何かの力が……それこそ、“魔法の力”とでもいったものが(?)あの子を養うためにはたらいていて、そしてあの子の世話する者をこの家へ引き止めておこうとする力も、同じようにはたらいているのではないか、という事です』
「…………」
『あの女の子は、可愛らしい子です。言う事をよくきく、ちゃんと躾けられた(とはいっても、それが誰によるものなのかはわかりませんが)、素直な、手のかからない子です。
駄々をこねたり、部屋を散らかしたりもしませんし、食事も一人できれいに食べます。でも……私には怖いのです。あの子が』
その時、家の表で、あの女の子が笑う声がメットに聞こえてきた。
メットはそれに一瞬ビクリとして女の子の姿を窓越しに眺めた。
女の子は、家の表の、白い花が咲いているところに座り込み、女の子のそばには、蝶が一匹ひらひらと飛んでいた。女の子はそれを眺めて無邪気に笑っていた。
『もちろんそれは、あの子が私に暴力を振るうとか、魔法だかの力で何か恐ろしい事をするとか、といった事ではないのです。
しかし私は、あんな小さな子供のご機嫌をうかがう様に、毎日あの子にひきつった笑みを浮かべて、あの子の相手をしておりました』
女の子がこちらへとやって来る気配がないのを見て、メットは先を読んだ。
『あの子はいい子です。でも……でも、あの子は一体……何者なのでしょうか?見た通りの、ごく普通の小さな人間の子供?
いいえ、私にはそうは思えません。だってそうでしょう?
あの子は……本当は、地図にも載っていた、ここにあるはずの、沼に棲む魔物なのでしょうか?
それとも、それよりももっと恐ろしい何か?
もしかすれば、あの子は、本当に普通の、人間の子供なのかもしれません。
でもそれなら、あの子を養っている、この不思議な出来事は、いったいどういった事なのでしょうか?
そして、どういった理由で、あの子の世話をする者が必要とされているのでしょうか?
私には、そのどれもが、さっぱりわかりません。
わかっているのは……次の親代わりの者が来れば、それまであの子の世話をしていた者は、ここから開放されるのだろう、という事だけです。
あなた様が次の世話役に選ばれてしまった事は、お気の毒に思います。
でも、あなた様にもあなた様の生活がある様に、私にも私の生活がございます。私は私の子供たちの元に帰らなければなりません。
以前の様に、やはり森から出る事が出来ず、再びこの家に戻って来てしまって、この手紙を再び目にする様な事にならなければいいのですが。
私が無事ここから立ち去れる事と、これからのあなた様の御健闘と御幸運を祈りつつ、では、御免下さいませ。
かしこ
追伸
私が無事に家に戻る事ができましたら、その翌日にでもあなた様の次の方を探しにゆきたいと思っております。
あなた様のところに現れた依頼人は、がっしりとした体格の中年の男性だったでしょうか?
それが私の前任者だった者です。
そして今度は私が、あなた様の次の方の依頼人というわけです……』
手紙はそれで終わっていた。
メットは手紙を読み終えると、大きな息をひとつついた。手紙を持つ手が、少し震えていた。
(早くここから……)
彼は思った。そして、さっきまで女の子がいた表を眺めた。が、そこには、あの女の子の姿はなかった。
それに、今のうちに、と彼は思い、裏口へと一歩足を踏み出した。と、
「ねえ」
その彼に、誰かが言った。
振り向いてみると、そこには
あの女の子がいた。
女の子はいつの間にやらメットのすぐそばに立っていて、可愛らしい笑みを浮かべて、彼を見上げていた。
「ねえ、おなかすいちゃった」
女の子は言った。
「おやつはなぁに?お父さん」
しかしメットは、その奇妙な家にまる一日とはいなかった。
だがそれはメットの“代わり”が来てくれたからではなかった。
メットがフフウの森の家から出てゆく事ができたのは、あの女の子が、メットを森の外へと連れ出してくれたからだった。
女の子は、あの母親代わりだった女性の作り置いていた丸パンを食べると、家の裏手へと行き、そこで誰かと話しはじめた。
一体誰と話しているのかとメットが様子を見に行くと……女の子は半ば草むらに埋もれている、古い小さな石塚に話しかけていた。
「じゃあね、バイバイ」
女の子はメットが眺めている中で塚にむかって手を振り、それからメットのところへとやって来て言った。
「ねえ、お父さん、帰りましょ」
女の子はメットの腕を引っ張った。
「?」
女の子の言葉に、メットは目をぱちくりとさせた。
「帰りましょ。お父さんのお家に」
「……俺の家に?」
「うん」
女の子はうなずいた。そして彼がふと気づくや――なんと、どういったわけか
彼等はすでにフフウの森のはずれの、街へと続く街道の端に立っていた。
「………」
あの女性が手紙で言っていた事ではないが、これは沼に棲む魔物の魔法とやらによるものなのだろうかと、メットは思いながらあたりを見回した。
それにしても、手紙によれば、自分の代わりの者が来ない事には、あの家から離れる事は出来ないとかいう事だったが……?
メットは遠くに見える街並みを眺めながら思った。そしてその彼に、
「じゃあ、またね、お父さん」
と女の子は言った。その言業に、メットが女の子を見下ろすと
そこにはすでに女の子の姿はなかった。
それから数日後。
メットの女房は無事に双子の女の子を産んだ。
しかしその双子は、双子だというのに、たがいにまるきりちがった顔つきをしていた。
双子のうちの一人は、メットにも、女房にもよく似た顔をしているのだが、もう一人の方は、どういったわけか――あの、フフウの森の女の子に似ている様に、メットには思えていた。
が、そんな事は知らないメットの女房は、顔が似ていようといまいと、同じ様にお腹を痛めて産んだ赤ん坊にはちがいないため、二人とも同じ様に可愛がり、毎日両脇にそれぞれ赤ん坊を抱えて、幸せいっぱいの表情で、赤ん坊たちに乳を含ませているのだった。
日が経つにつれ、その双子のうちの片方の赤ん坊の顔が、ますますあの女の子に似てきだしたのを見つめながら、メットはその事を女房に言ったものかどうか、悩んでいた。
「……おや?」
そしてメットが自分の(?)赤ん坊に悩んでいる頃、
「何だ、これは?」
三日前、ある女性に依頼されてウワァフ·フフウの森の一軒家へとやって来た男性は、家の裏手に小さな石塚を見つけて言った。
「これは……」
古ぼけて、表面に刻まれた神代文字も今やすっかりわからなくなってしまっている石塚を見つめて、男性は思った。
(これは……供養塔か?)
(たしかここには……)
男性はある事をふと思い出した。
(昔、沼の魔物だかに“生贄”にされた者の供養塔もあるって……これが――そうか?)
(で、その生贄にされたとかいうのは、みんな小さな子供ばかりで、この森の妙な名前は、本当は魔物の咆哮からきたんじゃなくって、生贊にされた子供の泣き声だって……)
男性は思った。と、その時、
「お父さん」
彼の後ろで誰かが言った。
男性が振り向いてみるや、そこにはいつの間にか、見知らぬ男の子がひとなつこい笑顔を浮かべて、男性を見つめていた。




