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スパイは踊らない~学園に潜む影と恋~  作者: 猫吉
第二章 文化祭編
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第45話 修学旅行5

「お前、その恰好……」

京都、清水へと続く坂道の入り口。

俺の目の前に現れた結衣は、いつもの制服を脱ぎ捨て、鮮やかな色彩の振袖に身を包んでいた。

淡い桃色の生地に咲く花々の刺繍。

「どう? かわいいでしょ!」

結衣は袖を軽く広げ、その場でくるりと回ってみせる。

帯の紐が揺れ、俺を見つめてきた…

よりによって…今かよ…

「まさか……その恰好で回るんじゃないだろうな?」

このエリアの警護人員は、本部決定で八割も削減されている。

基本は俺と翼、ナイトそして公安から2名とCIAから3人…

状況が終わりに終わっている。

これで観光客を巻き込んでまで急襲されたらおしまいだ。

「いや、それはともかく、可愛いか聞いてるの!!!」

明らかに動きにくい、目立ちすぎる、絶対却下だ。

「いや、動きにくいし移動が遅くなるだろ。そうなれば、予定のルートを回る時間も短くなる。不合理だ」

「そ、そうですよ! 先輩の言う通り、……え~と、大変ですよ!」

後輩も、必死に口を挟む。

「私もその服装はちょっと……」

ナイトが、さすがに同調しようと口を開きかけた、その時だった。

「いや、これでいいんじゃないか? せっかくの修学旅行だし」

横からひょっこりと、気の抜けた声が割り込んでくる。

エリオットだ。

また現れた…ほんとこの人大丈夫なのか?こんなにすっぽかして…

「私も賛成です。……やはり、一生の思い出なので」

寝返りやがったあいつ。

一言でコロリと表情を変え、あからさまに寝返った。

「二人とも?!」

「ほら、先生も風間ちゃんも言ってるし! で、かわいい?」

ぐい、と結衣が顔を近づけてくる。

ふわりと、彼女の髪から微かなシャンプーの香りが漂う。

だが、俺の意識は背後582メートル先の土産物屋の陰に立つ、男に固定されていた。

するとエリオットが、俺の肩を叩きなが耳元で囁く。

「依頼主がなんて言うかわからないぞ。それに……君の実力なら、この程度のハンデ、どうにでもなるだろ?」

テスト…か…

「……はぁ~」

俺は、肺にあるすべての空気を吐き出すように溜息をついた。

右手の指先を密かに動かし、肩掛けコートの裏にあるサイレンサー付き拳銃の感触を確かめる。

「ちょっと! 人の話聞きなさいよ! 私がかわいいか――」

「はいはい、かわいいかわいい。さっさと行くぞ。」

視界を八分割し、敵の狙撃ポイントを数式で埋めていく。

歩き出すと同時に背後の男が動き出す。

「よしじゃあ行こっか!!」

「レッツゴー!!!!」

「ていうか、あんたもついて来んのかよ…」

石畳に響くカランコロンという音は俺には地獄へのカウントダウンにしか聞こえなかった。


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