第44話 修学旅行4
「は?…もう一回言ってみろよ」
後輩の声は、低く、押し殺した怒りで震えていた。
報告に当たった通信員は、青ざめた顔でタブレットを握り直す。
「…当現場の警備人員の8割を撤退させる…とのことです」
「ふざけるな!上層部は何考えてんだよ!」
後輩が激昂し、デスクを叩きつけた。
静まり返った部屋に響き渡る。
「……理由は」
「明後日の日米首脳会談です。極めて信憑性の高い殺害予告が届いた、と」
確かに時期は重なる。
反米組織の不穏な動きも、情報の端々から掴んでいた。
だが、それでも8割は異常だ。
……嵌められたな
目に見えない巨大な指先が、盤面の上で僕たちの駒を排除していく感触がした。
「先輩、中止しましょうよ!この人数で大規模な襲撃を受ければ、お終いです!!」
後輩の叫びは、確かに正論だった。
だが、ハイドは振り返らずに静かに首を振る。
「いいか、想像しろ」
ハイドの視線が後輩を射抜く。
「列車で結衣を移送する。その最中に橋梁が爆破されたら?」
後輩の視線が泳ぐ。
「あるいは、高速道路での輸送中に進路を塞がれ、民間人を盾にされたら?ターゲットの命と、数千人の一般人の命。天秤にかけられた時、お前にその責任が取れるのか」
「…っ」
後輩は言葉を失い、奥歯を噛みしめた。
モニターに映し出された警備マップは、冷たい空白だけが多く広がっている。
それは、まるで獲物の喉元を晒し、牙を待つ獣の姿に見えた。
「くそっ……!」
「嘆いている暇はない。ただちに護衛プランを組み直す。残った全員を集めろ。」
夜の静寂が、今まで以上に重く、鋭くのしかかっていた。




