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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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7/22

西区のクロワッサン屋さんへ走る

――午前六時。


大阪・西区。ビルの谷間に、夜の冷気がまだ薄く残る。

そんな静寂を破って、低く、しかし艶やかな咆哮が響いた。


真紅のバイクが、朝の光を切り裂くように走り抜ける。

ボディは陽を受けて、まるで研ぎ澄まされた宝石のように輝いていた。


ハンドル越しに伝わる振動が、心臓の鼓動と重なっていく。

その加速は、羽根のように軽やかで、それでいて猛禽(もうきん)のように鋭い。


ライダーは――白鳳女学院の令嬢、秋香(あきか)さん。


黒のライダースーツを完璧に着こなし、

ヘルメットの奥からは凛とした横顔がのぞく。


「……ふふっ。エンジンの鼓動が、まるで心臓のリズムみたいですわね」


交差点を抜け、角を曲がると、小さなベーカリーの看板が見えた。

白い壁、木の扉、そしてほのかに漂う甘い香り。

西区で人気のパン屋だ。


秋香は軽くブレーキをかける。

その瞬間、車体がスッと減速する――

まるで舞台上で踊るバレリーナのような滑らかさ。


「……まぁ、なんて繊細な動き……。

 まるでわたくしの意志が、そのまま風になったかのようですわ」


店の前には、すでに数人が並んでいた。

その最後尾に、真紅のライダースーツの少女が加わる。

あまりに場違いな光景に、周囲が思わず振り返る。


「お、おはようございます……」

「おはようございますわ。……朝の香り、素敵ですわね」


開店のベルが鳴る。

扉を開けた瞬間、外気の冷たさが溶けて、

代わりに焼きたての甘い熱気が頬を撫でた。


「……まぁ……なんて香ばしい……!

 この空気そのものが、幸福を焼いていますわ」


トングを手に、並んだパンを見つめる。

黄金色に輝くクロワッサン。

層が幾重にも重なり、表面に染み込んだバターが艶めいている。


「……これが、クロワッサン……。

 見目麗しく、香り高く、それでいて……83円……?」


紙袋を受け取り、外のベンチに腰かける。

朝日が差し込み、クロワッサンの層がきらきらと透けた。


「……それでは、いただきますわね」


――サクッ。


軽やかな音が響く。

外は繊細に砕け、中はしっとりと溶けるよう。

バターの甘みが舌に広がり、ほのかな塩気が後を追う。


「……っ、これは……風の味ですわ……!」


(やばっ! サクサクふわふわとか反則やん!? 職人、天才すぎ!

 バターが口の中でダンスしてる! 83円て正気!?)


クロワッサンをもう一口。

その香りと余韻に包まれながら、秋香はふと空を見上げた。


「……風もパンも、少しの温度で表情が変わりますのね」


(そっか~、この軽さ、バイクとおんなじやん。

 どっちも“いらん重さ”脱ぎ捨てて、純粋な楽しさだけ残してる感じやな~)


袋を抱え、バイクに跨がる。

真紅の車体が朝日に光る。

エンジンをかけると、低い音が地面を撫でた。


「……では、白鳳へ参りましょうか」


軽くスロットルを開けると、

真紅の翼が羽ばたくように街を駆け抜けた。

風に混じって、バターの香りがほんの少しだけ残った。

くいだおれ令嬢は、朝の大阪を颯爽と走り去っていった。

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