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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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6/22

路地裏の出汁巻き定食屋さん

――午前四時前。

 心斎橋の路地裏には、まだ夜の名残が漂っていた。

 提灯の赤がしっとりと光り、静寂の中に人の列ができている。


 十人ほどの人々が、寒空の下で身を寄せ合っていた。

 その中に、白鳳女学院の制服姿――秋香(あきか)がいた。

 ライトブラウンの髪をハーフアップにまとめ、マフラーを小さく巻いている。


「……まぁ、皆さま随分お早いのですね。まだ夜も明けきっておりませんのに」


 その声は凛として上品。

 だがその手には、小さな紙コップ。

 列の横には「お出汁ご自由にどうぞ」と書かれたポットが置かれていた。


「まぁ……セルフでお出汁とは。なんて風情のある……」


 そっと注いで、唇をつける。


 ――じゅわ、と昆布と鰹の香りが広がった。


「……っ。やさしい……まるで朝の子守唄ですわ」


(あ~……これ、体に染みる~……。

 朝4時でこんな幸福度ある?)


 やがて五時。

 暖簾が上がる。


「お待たせしました~! 履物脱いで、どうぞ~!」

 

 明るい声の主は、笑顔の女性店員だった。


「まぁ……朝から活気のあること。お邪魔いたしますわね」


 

 畳に上がると、白木のカウンター。

 香るおしぼりを手に取ると、ふんわりと柑橘の香り。

 秋香は嬉しそうに微笑んだ。


「……このおしぼり、まるで小さな温泉のようですわ」


「出汁巻き定食に、いくらと明太子のトッピングをお願いできますかしら?」

「へい、富士ミネラルウォーターもつけとく?」

「ええ、ぜひ。それも楽しみにしておりましたの」


 瓶の中で光を受けた富士ミネラル。

 秋香はグラスを口に運び、静かに飲みほした。


「……透明で、澄んでいて……まるで朝そのものですわ」


 目の前では、鉄板が鳴っている。

 大将が卵液を流し込み、箸をくるりと回す。

 じゅわっ、ぱたん、じゅわっ。

 まるで舞台のような手際の良さ。


「まぁ……見ているだけで、心が洗われますわ」


 出汁巻きがふっくらと焼き上がると、

 いくらがその上に宝石のようにのせられた。

 湯気の向こうに、炊き立ての土鍋ごはん。

 豚汁の香り、小鉢にはマグロ・サーモン・タコのお造り。


「まぁ……なんて朝の饗宴ですの……」


「それでは……いただきますわ」


 箸を入れた瞬間、じゅわっと黄金の汁が溢れる。

 ふんわり卵に、ぷちぷちのいくら。


「……うわっ……なにこれ……!」


 お嬢様の声が、思わず京都訛りに溶けた。


(ふわっふわやんこれっ!

 いくらの塩気と出汁の旨み、バランス神~っ

 お上品とかいう次元ちゃうわ、幸福爆弾やっ!)


 白米をひと口。

 粒が立ち、甘みがじゅわっと広がる。

 そこへ刺身を乗せ、いくらを足して――


「……はんなり豪華丼、完成いたしましたわ」


(うっま……っ! マグロとサーモン、えぐいほどごはんと合う!

 しかもいくらが全部まとめてくれるとか……反則やろ!?)


 土鍋のご飯をおかわりし、

 今度は出汁巻に明太子をのせてひと口。


「……っ、あぁ……! このピリ辛……たまらんですわっ……!」


(出汁巻×明太子=ギャル降臨やん!

 うち、今朝いちばん幸せかもしれん!)


 豚汁の具をひとつずつ味わい、

 お造りをゆっくり噛みしめるたび、

 店の中は湯気と笑顔で満ちていった。


 食後、富士ミネラルをもう一口飲んで、

 おしぼりで手を拭く。


「ごちそうさまでしたわ。……とても、あたたかいお店ですわね」


「ありがとうなぁ。お嬢ちゃん、よう食べはるなぁ」

「ふふっ、朝の活力は食から、ですもの」


 大将が笑う。

 「また来てな。次は出汁、もっと濃いめにしとくわ」


「まぁ……そんな誘惑、断れませんわね」



 店を出ると、空がうっすらと明るくなっていた。

 夜と朝のあいだに漂う、出汁の香り。


 秋香はふと振り返り、暖簾を見つめた。


 「……また来ますわ。あの香りに、会いに」


 路地を抜けると、一台の黒塗りの車が静かに待っていた。

 運転席の執事がドアを開け、やわらかく微笑む。


 「お帰りですか、お嬢様」

 「ええ。けれど……次はもっと早く並ばねばなりませんの」


 その一言に、執事は一瞬だけ目を瞬かせてから、

 「……左様でございますか」と静かに頭を下げた。


 車がゆっくりと走り出す。

 朝焼けの中、秋香の笑顔がやわらかく溶けていった。


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