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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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5/5

湯気のむこうの、なんばオムライスさん

 南海難波駅と恵美須町(えびすちょう)駅のあいだ。


 人通りの多い通りを少し外れた場所に、

 昼どきになると湯気のような熱気が立ちのぼる店がある。


 赤い暖簾に白文字で書かれた「ラーメン」の4文字。

 開店十一時半、すでに列ができていた。


 ――その列の中に、ひときわ上品な制服姿が一人。


 白鳳女学院の令嬢、秋香あきか


 日傘をたたみながら、そっと息をつく。


 「……うふふっ。お噂には聞いておりましたの。

 “開店から行列必至のオムライス”、ですわね」


 

 店内に入ると、

 カウンターの向こうでお父さんが中華鍋を振る音が響く。


 奥の方では奥さんが卵を仕上げ、

 レジではおばあさまが静かに会計をしている。


 「家族の連携が完璧……ですわ。

 まるで厨房の三重奏、ですのね」


 

 木の階段を上がって二階席へ。

 天井に染み込んだソースと油の香りが、どこか懐かしい。

 窓から見える難波の街は、昼の陽射しに少し霞んでいた。


 「オムライスを、特大でお願いできますか?」


 店主がにっこり笑って、「ちょっと多いですよ」と一言。

 だが秋香は微笑んで答えた。


 「問題ありませんの。私、食には自信がございますわ」


 ほどなくして、

 鉄鍋で炒める音がジュワッと鳴り響く。


 中華鍋を豪快に振る動き。


 ケチャップの甘酸っぱい香りが、店全体を包み込む。


 

 やがて――


 目の前に届いたのは、皿の縁まで覆う黄金色のオムライス。


 表面はきっちり焼かれた薄焼き卵。


 スプーンを入れる前から湯気が立ちのぼり、

 ケチャップの赤と卵の黄色が、見事なコントラストを描いている。


 「……まぁ。芸術的なフォルムですわ。

 このカーブ……まるで建築美。いえ、食の建築ですのね……!」


 スプーンを入れると、

 中からチキンライスがぎっしり詰まっていた。


 ケチャップの香り、炒め油の焦げる音――

 中華鍋ならではの香ばしさが、鼻をくすぐる。


  「……では、いただきますわ。」


  一口すくって、ぱくり。


 秋香の肩が小さく震えた。

 

 「……やば……っ。

 これ、ケチャップのバランス、天才的ですわ……!

 甘くないのに深い、でも重くない。

 お肉もごろごろ入って……食感がリッチすぎますの……っ!」


 卵は流行りのとろとろ系ではなく、しっかり焼き上げ。


 口に入れると、ふわり、しっとり、そして香ばしい。

 

 「……これは、“昭和の正統派オムライス”ですわね。

 ふわふわブームを超越した、原点の旨味……っ!」


 横に添えられたスープを一口。


 透き通った醤油色――まるでラーメンスープのような味。


 「……あら、このスープ……。

 おまけで出していい味ではありませんわ……!

 香ばしい醤油の香り、鶏のコク、少しの生姜。

 この子、脇役の皮をかぶった主役ですの……っ!」

 

 再びオムライスへ。


 ケチャップを少し足し。


 「……ふぅ……っ、これ、止まらなくなりますわ。

 特大サイズ? いえ、これこそ適正サイズですの。

 まさに“幸福の黄金比”、ですわ……!」


 皿を見下ろすと、もう何も残っていなかった。


 スプーンをそっと置き、水をひと口。


 窓の外の難波の喧騒が、遠くで揺れる。


 秋香は小さく微笑み、手を合わせた。


 「ごちそうさまでした。

 ――これが、町中華の誇り、ですのね。」


 扉を出ると、もう外には次の行列。


 制服の裾を整えながら、

 秋香は静かに心の中でつぶやいた。


 「次は……ラーメンですわね。

 ふふっ、“オムの次は麺”、順番ですわ」

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