日本橋のジビエ屋さん
夕暮れ時の日本橋。
近鉄の高架をくぐる風は少し冷たく、
秋の気配をそっと街へ落としていた。
その中を歩くのは、ライトブラウンのロングヘアを揺らす少女、
白鳳女学院の令嬢―― 秋香。
淡いサックスブルーのトップスは、袖のシアー素材が光を受けてふんわりと透け、凛とした中にやわらかさを添えていた。
肩から流れる生地は繊細で、歩くたびに空気をまとうように揺れる。
白地に線画の花模様が散ったロングスカートは、涼やかで上品な存在感を放ち、足元まで清らかな印象を引き立てる。
グレイッシュなパンプスが全体の色味を締め、爽やかで清潔感あふれる“今どきのお嬢様”を完成させていた。
「……こちらのお店、以前から気になっておりましたの」
目的の店へ足を踏み入れると、
木のぬくもりと鉄板の音、そして香ばしい香りが迎えてくれた。
まず運ばれてきたのは――
カンガルーの赤身肉。
鉄板の上で焼かれたそれは、
しっとりした赤色で、脂がほとんどない。
「まぁ……なんて綺麗な赤身……。いただきますわ」
一口。
しっとり。
やわらか。
そして、驚くほどクセがない。
「……っ、おいし……。
赤身なのに、このやさしさ……上品な旨味が広がりますわ」
(え、ウマッ!? なにこれほんまにクセゼロ!?
うそやろ……これ家帰ったら絶対検索するやつやん……)
噛むたびに旨味がふわりと広がり、
秋香の目が自然と細くなる。
次に店員が笑顔で持ってきたのは――
大きな鍋。
白菜が敷き詰められ、
その上に白く透き通った脂身が美しい“アナグマの肉”が乗っていた。
「こちらが……アナグマ……?」
煮立ってくると、
白菜がくたっと柔らかくなり、
肉の脂がじゅわりと鍋全体に広がる。
「では……いただきますわね」
秋香は、くたくたの白菜にアナグマ肉を包み、
恐る恐る口へ運ぶ。
一瞬。
次の瞬間。
甘い。
「……っ、あ、甘……!? 甘さが……とろけ……」
(なにこれ天才!? 脂の甘みバケモンやん!
こんな綺麗な脂ある!? 幸せやん……)
脂の甘さが白菜の水分と合わさり、
驚くほど軽く、するりと喉を滑る。
「こ、これは……おすすめされる理由がよく分かりますわ……!」
秋香の頬がほんのり赤く染まった。
アナグマの余韻がまだ体に残っている中、
次に運ばれてきたのは――
イノシシのロース。
鉄板で焼かれたロースは、
縁に美しい脂身がつき、
香りだけでご飯が欲しくなるほど。
一口。
「……っ、なんて力強い……!
なのに、上品な甘さが残りますのね……」
(うわ、これは“山のステーキ”やん。
うますぎて笑う……ジビエってこんな世界あったん……?)
噛みしめるほどに旨味が滲み、
秋香の表情はすっかり“至福そのもの”になっていった。
食べ終わり、店を出ると、
夜の日本橋ライトが少女を照らした。
「……ジビエとは、こんなにも奥深いものですのね」
濡れた路面に光が反射し、
秋香は上品に、しかしどこか弾んだ足取りで家路についた。




