中崎町のおにぎり屋さん
季節はずれの大粒の雨が、上空を叩きつけていた。
傘を差していても膝まで濡れるような豪雨。
その中を、ライトブラウンのロングヘアを揺らしながら歩く少女――
白鳳女学院の令嬢、秋香の姿があった。
「……まぁ。こんな日に外を歩くなんて、わたくし、なかなかの根性ですわね」
しかし、今日はどうしても寄りたい店があった。
谷町線・中崎町駅から徒歩1分。
小さなおにぎり専門店。
雨の幕を抜け、店の入り口に辿り着いたその瞬間だった。
「あっ、お嬢さん! 雨の中ありがとうございます!」
店員がわざわざ店外へ出てきて、濡れた秋香にタオルを差し出しながら、
深く頭を下げた。
「まぁ……なんて丁寧な……。ありがとうございますわ」
案内されるまま店に入ると、
木のカウンターの向こうで職人が“握りたてのおにぎり”を作っていた。
真っ白な湯気がふわりと立ち上り、店内は優しい香りで満ちている。
今日、秋香が選んだのは――
・すじこ+さけ
・ネギトロ+卵黄醤油漬け
注文後すぐ、目の前で炊きたてのご飯がふんわり盛られ、
そこに具材が“これでもか”と乗せられていく。
「まぁ……具材がまるで宝石の山……!」
やがて、ふっくらと握られたおにぎりが二つ、秋香の前へ。
「……では、いただきますわ」
まずは、すじこ+さけ。
一口かじった瞬間、
すじこの塩気と鮭の旨味がふわっとほどけ、
炊きたての甘いお米が包み込む。
「……っ、やさし……。なんて品のある味わい……」
(うわ……これヤバ。ほっぺ落ちるやつ……!)
店内には、無料で飲める“合わせ出汁”が用意されていて、
秋香は温かい出汁を湯呑に注いだ。
一度おにぎりを味わってから、
最後にその出汁をかけて“お茶漬け”にする。
「……っ、はぁ……これは……贅沢の極み……」
(反則級にウマい……これ考えた人天才やん……)
次は、ネギトロ+卵黄醤油漬け。
ネギトロの柔らかな脂が口の中で溶け、
醤油に漬かった濃厚な黄身がとろりと広がる。
「……まぁ……なんて官能的な味……!」
(え……これ一瞬でなくなる……もう一個いける……いや三個はいける……)
食べ終わった秋香は、そっと息をついた。
外ではまだ雨が降り続いていたが、
店内の温かな空気と、心のこもった接客にふれて、
まるで心まで温められたようだった。
「……また参りましょう。次は……“明太子マウンテン”にいたしましょうか」
濡れた髪をまとめ直すと、
秋香は静かに店を出た。
大雨の中で見つけた、やさしい午後の幸福。
その余韻を胸に抱きながら、
彼女は街へと歩き出した。




