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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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2/5

東梅田のトンテキ屋さん

 春の風が、東梅田の街をやわらかく撫でていた。

 ビルの間を抜ける風は、少し甘い花の香りを含み、

 その中を秋香はゆったりと歩いていた。


 白いブラウスに淡いミントグリーンのスカート。

 軽いショートコートを羽織り、ライトブラウンのハーフアップが陽光を受けてきらめく。

 その姿はまるで絵画の中の令嬢。

 すれ違う人が思わず振り返るほど、清楚で華やかな空気をまとっていた。


「ねぇ、そこのお姉さん! 一人? ランチ行かへん?」

「かわいいやん。学生さん?」


 歩道の先で、若い男性たちが声をかけてきた。

 秋香(あきか)は一瞬だけ足を止め、やわらかく微笑んだ。


「申し訳ありません。

 本日は少々、大切な予定がございますの。どうかご容赦くださいませ」


 その丁寧な声と完璧な笑み。

 彼らはあっけにとられ、何も言えなくなってしまう。


 秋香は優雅に会釈し、通りを抜けた。

 ――向かう先は、東梅田にある小さな定食屋。

 春の香りの中に、食欲をそそるソースの匂いが混じっていた。


「トンテキ定食をひとつ、お願いいたしますわ」


「ニンニクが付くんですけど、大丈夫ですか?」


「……大丈夫どころか、むしろ嬉しいですわ。

 ニンニク、多めでお願いできますか?」


「おぉ、珍しいな。じゃあ3個つけときますね。」


「まぁ……ありがとうございます」


 運ばれてきたお皿の上には、

 照りつやを帯びた分厚いトンテキ。

 その隣には、ほくほくのにんにくが3つ。

 キャベツの山とマカロニサラダ、少量のからし、

 そして湯気を立てる味噌汁が並んでいた。


 お皿の上のご飯が、春の光を受けて、白い花びらのようにきらめいていた。


 秋香はフォークとナイフを手に取り、

 ナプキンを静かに膝に置いた。

 背筋を伸ばし、まるで晩餐会のような優雅な所作で、

 静かに口を開く。


「……いただきますわ」


 ナイフでトンテキを切り分け、一切れを口へ運ぶ。

 ソースの香りがふわりと広がり、肉の柔らかさが舌にとけていく。

 秋香の瞳が、かすかに輝いた。


「……うわ……これ……

 めちゃくちゃ素直な味ですわ……っ

 ソースが、こう……クセがなくて……まっすぐ、心に刺さりますの……!」


 言葉は丁寧なのに、テンションがじわじわ上がっていく。


 ナイフでにんにくをそっと押しつぶし、

 フォークでひとつ摘んで口へ運ぶ。


「ん〜……このホクホク感……反則ですわ……っ!

 え、やば……お肉と一緒に食べたら幸福度マシマシですわ……」


 キャベツをソースにくぐらせてから、

 マカロニサラダをひと口。


「マカロニ、もちもちしてて……

 味、やさしいのにしっかりコクありますわね……

 えっ、これ、ほんまに幸せすぎて……語彙、どこ行きましたの?」


 ご飯を一口、また一口。

 ふわっと笑みがこぼれる。


「ご飯、おかわり自由……罪ですわ……。

 だって、止まりませんのよ……」


 皿の上がきれいになったころ、秋香は小さく息をついた。

 胸の奥に残る香ばしい余韻。

 フォークとナイフをそっと揃え、

 ハンカチで口元をぬぐう。


「……とても美味しゅうございました。

 お店の方にも、感謝申し上げますわ」


 春風がカランとドアを揺らす。

 外の光が、彼女の黒髪をやわらかく照らしていた。


「……日曜日の東梅田、悪くありませんわね。

 お腹も心も、ほんのり春色に満たされております」


 そう微笑んで歩き出す秋香。

 その背中には、春の風と、ほんのり香るソースの余韻が漂っていた

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