大阪駅前第4ビル 真あじフライ定食さん
朝の光がまだ柔らかく差し込む九時半。
秋香はジムのランニングマシンの上で、淡々と足を動かしていた。
姿勢はまっすぐ、フォームも美しい。
ジムのスタッフが思わず見惚れるほど、そこには凛とした品があった。
「……ふぅ。運動の後のランチこそ、最高のご褒美ですわね」
一時間のトレーニングを終え、シャワーを浴びて身支度を整える。
鏡の前に立つと、そこには軽やかな休日の令嬢の姿。
トップスはマスタードイエローのフリルブラウス。
光沢のある柔らかな布地が肩をやさしく包み、
首元の小さなゴールドボタンが、朝の光を受けて控えめに輝く。
スカートは黒地に白い小花柄のロングスカート。
ウエストのリボンが上品なアクセントになり、
歩くたびに裾がふわりと揺れて、花びらのように舞う。
足元にはキャメル色のパンプス。
――すべてのバランスが整った、清楚で穏やかな“昼の秋香スタイル”だった。
時計は十一時を回り、秋香は梅田へと向かった。
「……そういえば、駅前第4ビルで“アジフライ”が評判のお店があるとか」
北新地からほど近いそのビルは、
地下街にいくつもの名店が並ぶ“食の迷宮”のような場所だった。
12時前に到着すると、すでに店内は活気であふれていた。
買い物帰りの人たちが次々と席につき、
厨房からは油の弾ける音が響いている。
幸いにもピーク前だったため、秋香はカウンター席へと案内された。
木目のカウンターに座ると、目の前には湯気と香ばしい香りが漂う。
「……ふふっ、いい香り。これは確実に“当たり”の予感ですわ」
注文したのはもちろん――真あじフライ定食。
そして、運ばれてきたお膳を見て――
秋香は思わず息をのんだ。
「……まぁ……見事な厚み。
まるで“黄金の盾”のようですわ……!」
衣はサクッときめ細やかで、
箸を入れると中からふっくらと白い身が覗く。
「……いただきますわね」
一口。
外は香ばしく、中はほろりとほどける。
噛むたびに旨味がじゅわっと広がり、
タルタルソースの酸味がそれを優しく包み込む。
「……っ、これは……! 完璧な火入れですわ……!」
(うっっまっ!! サクサクふわふわ、理想のアジやんっ!
この密度、えぐいって! もはやメインディッシュの貫禄!)
ご飯をひと口、またひと口。
炊きたての艶やかな白米が、アジフライの香ばしさを引き立てる。
「……お米も、とても丁寧に炊かれておりますのね。
粒が立っていて、まるで宝石のよう……」
(わかる、この炊き加減、理想。水分量完璧。
ご飯が“アジフライ専用モード”になってるやん!)
途中で味変を楽しもうと、秋香はソースと醤油を見比べる。
そして、静かに結論を出した。
「……私は、醤油派でございますわ」
(やっぱり! タルタル×醤油の組み合わせ、背徳の二重奏やろ!)
少し垂らした瞬間、香りが立ち、口の中で旨味が再び弾けた。
もう止まらない。
スカートの裾を気にしながらも、ご飯をおかわりして夢中で食べ進める。
やがて皿が空になり、心地よい満腹感が訪れた。
ナプキンで口元を押さえ、秋香はそっと笑みを浮かべる。
「――やはり、アジフライは“庶民の誇り”ですわね。
ひと皿の中に、幸福がぎゅっと詰まっておりますの」
立ち上がると、スカートの小花がふわりと揺れた。
マスタード色のブラウスが光を受けて柔らかく輝き、
その姿はまるで、午後の陽射しの中を歩く春風そのものだった。




