梅田第3ビルの洋食屋さん バターライス&ポークカツ
梅田の地下街を歩く人の波の中、秋香は静かに立ち止まった。
エスカレーターを下りきった先――第3ビル地下2階。
サラリーマンや買い物帰りの人々が行き交う中、
漂ってきたのは、焦げたバターとデミグラスの混ざる濃厚な香り。
「……まぁ。なんて誘惑的な香り……。
まるで、“幸福の信号”のように感じられますわ」
その香りを辿って、秋香はひとつの店の前で足を止めた。
暖色の照明に、手書きのメニュー札。
梅田のサラリーマンたちに愛される老舗の洋食屋だ。
今日の彼女の装いは、いつもの学園制服ではない。
シフォン素材の小花柄ワンピースに、肩から羽織ったネイビーのカーディガン。
淡いブルーの花柄が柔らかな光をまとい、動くたびに裾がふわりと揺れる。
上品でありながら、どこか春の風のように軽やか。
――まさに、“休日の令嬢スタイル”。
「……久しぶりに、洋食がいただきたくなりましたわね」
メニューの一角に「期間限定・バターライス&ポークカツ」の文字が目に入る。
黄金色のライスとソースの照りが、写真越しでも破壊力抜群だ。
「……まぁ、魅力的ですわね。けれど、カキミックスセットも捨てがたく……」
数秒の葛藤の末、秋香の唇が決意を告げた。
「――この“バターライス&ポークカツ”をお願いいたしますわ」
厨房からは心地よい音。
カツが揚がる「じゅわっ」という音と、デミソースを温める鉄鍋の香り。
香ばしさが空気を満たし、秋香の胸が高鳴る。
ほどなくして、木のトレーに乗せられた一皿が運ばれてきた。
――見た目はまるでカツカレー。
けれど、香りはまったく異なる。
焦がしバターとデミグラスの濃厚な香りが、鼻の奥でとろけていく。
「まぁ……なんて麗しい香り。これは……嗅覚の舞踏会ですわね」
まずは、カツにナイフを入れる。
サクッと音がして、薄衣の中から肉汁がふわりと溢れた。
「……この衣、油切れが見事ですわ。軽くて、まるで“羽衣”のよう……」
(うわ……っ、うますぎる。衣が軽い! デミソースと相性えぐい!
ラード系ちゃう、これ洋食屋のサラッとした揚げや!)
次に、バターライスをひと口。
具材が細かく刻まれ、ライスひと粒ひと粒にバターが染み込んでいる。
「……っ、まあ……この香り……どこか懐かしい……。
まるで、幼い日の思い出を食べているようですわね……」
(やばっ。バターライスってこういうもんやったんや……!
デミソースと合わせた瞬間の破壊力、半端ないって……!)
デミの酸味、バターの甘み、ロースの旨味――。
全てが調和し、口の中でまるで音楽のように広がる。
「……っ、なんという完成度。
これぞ“庶民の贅沢”の極みでございますわ……!」
(うわ~もう、これで1100円とか正気か!?
スープおかわり自由とか、神しかおらんやん……!)
食後、スープをもう一杯だけおかわりして、
秋香はゆっくりとナプキンを畳んだ。
「――洋食というのは、幸福を“皿に盛る”文化ですのね。
ああ、心がほかほかいたしますわ……」
ネイビーのカーディガンの裾を整え、
彼女はゆるやかに立ち上がる。
背後にはまだ、デミグラスの香りが漂っていた。
――その香りこそが、今日の記憶を彩る“幸福の




