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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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16/22

大正のホルモン屋さん

 日曜の午後三時。

 青空に照らされた商店街のアーケードを、

 秋香は白いママチャリでのんびりと走っていた。


 アクアブルーとクリームイエローの幾何学模様が浮かぶワンピース。

 胸元には大きなリボンが結ばれ、風を受けるたびに軽やかに揺れる。

 ウエストのシャーリングが彼女の細身のシルエットを柔らかく包み、

 プリーツスカートは自転車のペダルの動きに合わせて波のように揺らめいていた。


「……まあ、この街並み、どこか懐かしゅうございますわね。

倉庫や工場、川沿いの風……まるで時間がゆっくり流れているみたいですの」


 人通りの少ない商店街。

 シャッターが半分降りた店先を横目に、秋香はきょろきょろと周囲を見渡した。

 ――そのとき、左手の屋根の下で小さな煙が上がっているのを見つける。


「……あら? なにかしら、あの香り……」


 引き返してみると、そこには小さな屋台。

 鉄板の上で、おばちゃんがホルモンを焼いていた。

 煙と香ばしいタレの香りが、風に乗って鼻をくすぐる。


「こ、これは……! 食欲を煽る攻撃ですわっ……!」


 看板メニューはホルモンとキモの二種類。

 一本90円という庶民的な価格に、秋香の目がきらりと輝く。


「……お安い……っ。でも、きっとお味は“黄金比”に違いありませんわね」


 注文を済ませ、焼き上がりを待つ間、

 常連客らしい主婦たちが次々とやってきては「いつものちょうだい」

 と手慣れた声を上げる。

 その光景を、秋香は微笑ましそうに見つめていた。


「こうして暮らしの匂いがある場所……素敵ですわね」


(あ~、こういう日常のぬくもり、ほんま落ち着く……。

 高級レストランもええけど、やっぱこういうとこが“生きてる味”なんよな)


 ほどなくして、おばちゃんが包みを渡してくれる。


 「熱いで~、気ぃつけや!」


 「ありがとうございます。……ふふっ、この香り、もう勝負ありですわ」


 問題は――どこで食べるか、だった。

 ベンチもテーブルも見当たらない。

 少し走れば公園があると思ったが、どうも見つからない。


 諦めて、近くの団地のベンチに腰を下ろした。

 焼き立ての包みを開けると、甘辛いタレの香りがふわりと立ちのぼる。

 タレの照りが夕陽を反射し、まるで琥珀の宝石のようだ。


「……では、いただきますわね」


 一口。

 弾ける脂、濃いめのニンニク風味、そしてタレの甘み。

 すべてが完璧なバランスで口の中に広がった。


「……まあ……。これは……っ! 白いご飯が、恋しくなってしまいますわね……!」


(うっま!! なにこれ反則やろ!?

 カリッとしたとこからじゅわって旨味出てくるやん!

 このタレ、ごはん泥棒どころかごはん略奪やで!?)


 思わず声を漏らし、周囲を見て少し頬を染める。

 けれど、そんな自分に小さく笑って、また串を口に運ぶ。


「――この街には、“暮らしのうま味”が詰まっていますのね。

 派手じゃないけれど……心が満たされますわ」


(あ~……しあわせ。

 こういう瞬間のために生きてるんやろな、うち……)


 夕暮れの風がワンピースの裾を揺らし、

 その香ばしい煙がまだ微かに漂っていた。

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