北新地のカニ料理屋さん
テレビのニュースが、冬の訪れを告げていた。
――今年は、ズワイ蟹が豊作。
その言葉を聞いた瞬間、
秋香の瞳がきらりと輝いた。
「……まぁ。これは“行くしかない”という天からの導きですわね」
そして向かったのは――北新地。
駅からわずか徒歩三十秒の、知る人ぞ知る日本料理屋の名店。
ボルドーのトップスに、チェック柄のブラウンスカート。
濃いめの秋色でまとめた“こっくりカラー”のコーデは、
フリルとボリュームスリーブがほどよく華やかで、
スカートのウエストボタンが彼女のスタイルをさらに美しく見せていた。
木の格子戸を開けると、
涼やかな水の音が迎えてくれた。
扉を開くと、水音が静かに広がり、
透明な水槽の中で、活きたズワイ蟹がゆっくり脚を動かしていた。
「……まぁ……。新鮮そのもの……」
半個室の席に案内され、
落ちついた灯りがワンピースのベージュを優しく照らす。
秋香は迷わず言った。
「活ズワイ蟹のコースをお願いいたしますわ」
● 前菜四種
小松菜・春菊・椎茸の白和え
ぜんまい信田巻き・茄子びんろう煮
魚の南蛮漬け
無花果の胡麻クリームがけ
「まぁ……。前菜から気品に満ちていますわ」
白和えは香りが澄んでいて、
無花果の胡麻クリームは、甘みと濃厚さのバランスが絶妙。
(うわ……これ、ほんま“あて”の味やん……!
無花果の濃厚クリーム、口ん中でとろけて……
やば、好きすぎるんですけど……!)
● 蟹刺し + 鮪・ひらめ・イカ
目の前で“花咲き”に切られた蟹刺し。
透明感のある白い身に、ほのかに紅がさす。
秋香はそっと箸を入れた。
「……っ……! 甘い……。まるで雪のしずく……」
(とろける……!これはホンマに新鮮なやつ……!)
鮪・ひらめ・イカも揃っていて、
味の流れが最後まで飽きさせない。
● 蒸し蟹
三杯酢に“ダイブ”させて食べるスタイル。
蟹酢の香りが立ち上り、
身の旨味が一気に花開く。
「……まぁ……! この調和……!」
(やっば……蟹酢の破壊力エグい……!
これで一生飲めるレベル……!)
● 蟹甲羅焼き
蟹味噌・卵・出汁を合わせて焼いた“茶碗蒸し的”な一皿。
銀杏が添えられ、香りは濃厚なのに後味すっきり。
「……これは……想像以上に繊細ですわね」
(味噌ガッツリの甲羅焼きちゃうねんけど……これもアリですわ……!)
● 蟹鍋 + うどん
蟹脚・蟹爪
白菜、椎茸、人参、大根、春菊
出汁たっぷり。
ぐつぐつ、という音が冬のBGMのよう。
秋香は蟹を前に、口元に手を添えて微笑む。
「……では、参りますわ」
身を丁寧にほじって山のように積み上げ、
“後で一気に楽しむタイプ”らしく
三十分ほど蟹と格闘したあと――
どかっ。
と、盛大にカニ山を頬張る。
「……んんっ……! 至福……!」
(蟹鍋ってなんでこんな幸せなん??
出汁もうまっ……飲める……延々と飲める……!!)
●しめのうどん。
「雑炊……ないのですの?」
「すみません……雑炊はございません」
秋香は少し眉尻を下げた。
「……まぁ、うどんも素晴らしいですけれど……」
(雑炊ほしかったぁぁぁあ!!)
● デザート
白い、なめらかなプリン。
酒粕の余韻がほんのり香る。
秋香は小さく微笑んだ。
「……ふふ。冬の締めにふさわしい一品ですわ」
(なにこれ……口あたりトロッとしすぎて反則やん……
酒粕の香り、ひっそり効かせてくる感じ最高……!
デザートでこれ出てくるとか、めっちゃ“わかってる店”やん……!)
いろんな食べ方で味わい尽くした蟹。
大変だけれど、
“ほじる苦労”の先にある幸せは、他では味わえない。
秋香はそっと息をつき、
ほんのり赤くなった指先を見て微笑む。
「……やはり、冬の蟹は格別ですわね」




