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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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12/22

秋刀魚に微笑む 本町の和食店さん

 本町駅から徒歩8分ほど

 オフィス街の昼休みが、静かに始まろうとしていた。


 秋香(あきか)は、通学の途中――ではなく、

 今日は特別に、ひとりランチの日。


 白鳳女学院の制服姿のまま、瓦町の細い通りを抜け、

 木の格子戸に掲げられた小さな暖簾の前で立ち止まった。


 「……まぁ。こちらが“魚の名店”と噂の――定食屋、ですのね」


 扉をそっと開けると、

 ねじり鉢巻の大将が、力強い声で迎えてくれる。


 「いらっしゃいませっ!」


 その声に、秋香は思わず姿勢を正した。


 カウンターの奥から香ばしい煙が上がる。

 網の上では、銀色の秋刀魚が、じゅうじゅうと音を立てていた。


 「……新さんま塩焼き定食をお願いいたしますわ。

 それと……ミニ豚汁も、追加で」


 少し迷って、微笑みながら付け加える。


 「ご飯は……ちりめんご飯に変更いたしますわ」


 ほどなくして、木のお膳が届く。


 中央には――輝くような新秋刀魚。

 焼きすぎず、ふっくらとした身。皮の表面にはきらりと光る脂。

 大根おろしと、半分に切られた大きなレモンが添えられている。


 「……まぁ、なんて端正なお姿ですこと。

 秋の恵みをそのまま皿に載せたようですわ……」


 箸を入れると、身がほろりとほぐれ、

 湯気とともに秋の香りが広がる。


 ひと口。


 「……んっ……! なんてやさしい塩味……!

 外は香ばしく、中はしっとり。

 そして――この苦み。新鮮な内臓の香りが、まるで秋風のよう……」


 (うわ、内臓きれいやし、えぐみゼロやん! これホンマもんや!)


 小鉢の煮物には、こんにゃく、はんぺん、人参。

 しみ込んだ出汁の香りが、秋刀魚の塩気をやわらげる。


 「……やはり、和の副菜は主役を引き立てますのね。

 これぞ、調和の美学ですわ」


 (はぁ~、出汁の味沁みすぎて泣ける……。京都のばあちゃん思い出すやん……)


 そして、ちりめんご飯。

 細かいじゃこの香ばしさが、秋刀魚の余韻と混ざり合う。


 「……ふふ、なんて幸せな連鎖反応……」


 (米進みすぎやろ! これ、永遠に食べられる!)


 そして、ミニ豚汁。

 “ミニ”と呼ぶには少々たっぷり。

 豚肉、にんじん、大根、ねぎ……。

 汁の中から、秋の野菜たちが次々と顔を出す。


 ミニとはいえ、豚汁はかなり具沢山で食べ応えがあり、

 豚肉の甘みが口いっぱいに広がる。


 ひと口すするたび、

 野菜の旨味とともに、やさしい温もりが体の奥へと染みていった。


 「まぁ……! これはもう、“小さな鍋”ですわね」

 (ミニちゃうやん! 具ぎゅうぎゅう詰めやん!)



 豚汁を最後のひとさじまで味わい終えると、もう一度、秋刀魚の香りを確かめたくなり、再び箸を戻す。

 細い骨は、身と一緒にほろりと外れる。

 秋香は箸先でそっと取り分け、端の皿にまとめて置いた。

 両手をそっと合わせ、ほのかに笑った。


 「ごちそうさまでございました。

 ――まさしく、秋の慈味。心まであたたまりますわ」



 暖簾をくぐり、外に出ると、

 風が少しひんやりと頬をなでた。


 秋香は微笑んで、空を見上げる。


 「……やはり、秋は食の季節ですわね。

 あぁ、今日の秋刀魚……きっと、今年いちばんの味でしたわ」


 カラリと晴れた空の下、

 ほんのり漂う炭の香りが、まだ鼻に残っている。

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