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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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10/22

白凰女学院のうどん屋さん ※百合描写あり

 昼休み、白鳳女学院の廊下には、テスト順位表が貼り出されていた。

 光沢のある白い掲示板に、整然と並ぶ名前と数字。

 その前に、小さな人だかりができている。


 二条 秋香(にじょう あきか)は、一歩下がった位置から静かにその紙面を見つめていた。

 ライトブラウンの髪をハーフアップにまとめ、

 制服のリボンは完璧な角度で整っている。


「……六位、ですのね」


 唇にわずかな笑みを浮かべて、指先で自分の名前をなぞる。

 周囲の生徒たちが「やっぱり二条さんだ」「上位常連よね」と囁く中、

 秋香の表情は驚くほど穏やかだった。


 胸元のリボンが秋風に揺れる。

 ふと窓の外を見ると、銀杏並木がきらきらと風に踊っていた。

 その金色の光が廊下に差し込み、床を柔らかく染めている。


 そのとき――


「ごきげんよう。秋香さん、今回は六位ですのね?」


 落ち着いた声が、背後から届いた。

 振り向いた先にいたのは、小柄な少女、烏丸 小鈴(からすま こすず)


 ゆるやかに巻いた黒髪のロングヘアを左右でまとめた繊細な髪型が、

 秋の陽射しを受けてやわらかくきらめいていた。


 窓の外では銀杏の葉が舞い、

 その金の光が小鈴の髪先をほんのりと照らしている。

 まるで秋のブーケのように、上品で整いすぎるほど整った印象。


 彼女の手には順位表の写しがあり、

 そこには――“第2位”の文字が誇らしげに印字されていた。


「小鈴さんごきげんよう。ええ、少々“観戦”に熱を入れすぎましたの。反省はしておりますわ」

「“観戦”?……あら、まさかと思いましたけれど」


 小鈴は眉を上げ、スマホの画面を秋香に見せる。

 ――そこには、テレビ中継のバックネット裏。

 応援タオルを掲げ、全力で叫ぶ秋香の姿。


「……見事に全国放送でしたわね」

「ふふ、記念に保存しておこうかしら」


 そう言いつつ、秋香は一瞬だけ視線をそらした。

 頬にうっすら朱が差す。


「動じないのですわね……まったく」


 呆れたようにため息をつく小鈴。

 だが、その声の奥には、わずかな笑いが混じっていた。

 秋風がふたりの髪を撫でて通り抜ける。


 そのとき、廊下の向こうからふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。

 だしと油が混ざった、あの懐かしい昼休みの香り。


「……まぁ、秋の限定は“肉盛りニラ玉ぶっかけうどん”ですのね」

「……“うどん”?」


 小鈴の瞳が、かすかに輝いた。

 普段は冷静な彼女だが、“麺”という単語には反応が早い。


「ご一緒にいかが? 気分転換にもなりますわ」

「……仕方ありませんわね。少しだけ、お付き合いしますわ」


 二人は食堂のカウンターへ。

 秋香は季節限定の“肉盛りニラ玉ぶっかけうどん”を、小鈴は“釜揚げうどん”を選ぶ。


 テーブルに運ばれてきた器から、湯気がふわりと立ちのぼる。

 出汁の香りに、秋の空気が混じるような錯覚。


 秋香の前には――

 食べ応えのある豚肉、素揚げして甘みを増した玉ねぎ。

 コチュジャンと豆板醤が絶妙に溶け合い、ぶっかけだしが全体をまとめている。

 上には香ばしい一枚海苔。


「……まぁっ、見目麗しい彩り。まるで秋の舞台ですわ」


 箸を取り、一口すすれば――

 ――じゅわっ。

 ピリ辛の刺激が舌の奥でじんわりと広がる。

 豚肉の旨み、玉ねぎの甘み、そして太めの麺の弾力。

 すべてが調和して、幸福感に包まれる。


「……っ! これは……まさしく“勝負に挑む味”ですわ!」

(うっま、これ勝てる。次のテスト、リベンジ確定や!)


 対する小鈴の“釜揚げうどん”。

 大きな木桶に湯気を湛えている。

 国産小麦100%の打ち立て麺は、水で締めずにそのまま。

 つるりとした艶の奥に、白玉のようなもっちり感がある。


 小鈴は、無言で箸を取り、静かに一口。

 ――すっ……。

 その瞬間、湯気の向こうでまつげがふるえた。


「……っ」

 ほう、と小さく息を漏らす。

 頬がわずかに緩み、目尻に光が差したように見えた。


 小動物のように、ちょん、ちょんと麺を口へ運ぶ姿。

 その真剣な横顔を見て、秋香は思わず笑みをこぼす。


「……小鈴さん、その食べ方、なんだか可愛らしいですわ」

(うわ……ちっちゃいリスみたいやん……。

 もぐもぐしてんの、反則級にかわええ……っ。

 あかん、見てるだけで癒やされる……!)


「っ……集中しておりますの。話しかけないでくださいまし」



 食後。

 売店の前で、秋香が目をとめる。


「まぁ……“うどんドーナツ”?小鈴さん、こちらもご一緒にいかが?」

「……甘いものは、別腹ですわ」



 ベンチの上、二人のあいだに小さな紙袋が置かれていた。

 中には、うどん粉で作られた丸いドーナツ。

 金色の輪が、夕陽の光を受けてほのかに輝いている。


 秋香はそのひとつを手に取り、

 静かに息を吐いた。

 まだほんのり温かく、指先に柔らかな熱が伝わる。


「……温かくて、やさしいお味ですわね」


 唇に触れる甘みは、どこか切なかった。

 まるで心の奥に残る、試合の余韻のように。


 隣で小鈴が、微笑んだ。

 その声には、知性よりも静かな情があった。


「ええ。まるで、“負けた日のうどん”みたい……。

 悔しさよりも、あなたと過ごす時間が、あまりに穏やかで――

 忘れてしまいそうになりますわ」


 秋香は、ドーナツを見つめたまま、

 頬を淡く染める。

 湯気のように心がほどけていくのを、

 自分でも止められなかった。


「……そんなふうに言われますと、胸が高鳴ってしまいますの。

 小鈴さんのお言葉は、いつも……心を温めますわ」


 小鈴はわずかに瞳を細め、

 指先で秋香の手に触れる。

 まるで何かを確かめるように、そっと。


「あなたの頑張りを見ていると、

 風に揺れる銀杏のように、美しくて儚くて……

 だからこそ、愛おしくなるのですわ」


「……小鈴さん……」


 秋香の声が、かすかに震える。

 それでも目を逸らさず、

 その瞳の奥に映る小鈴を見つめ返した。


 ふたりの間に、

 言葉よりも深い沈黙が流れる。


 ――銀杏の葉がひとひら、ベンチに落ちた。


「……次は、勝っても負けても」

「ええ、またご一緒に。

 その時も、こうして温かいお味を分け合いましょう」


 夕陽の光がふたりの頬を染め、

 風が金色のカーテンのように舞う。


 その日、白鳳女学院の中庭で交わされた言葉は、

 誰にも聞こえないほど静かで、

 けれど、確かに恋の色をしていた。

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