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くいだおれ令嬢秋香さん~清楚モードがギャル爆発!~  作者: サファイロス


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1/5

心斎橋のたこ焼き屋さん

 夕陽に照らされたネオンが、ゆっくりと灯りはじめていた。


 人の波とソースの香りが入り混じる、不思議な温度が街を包んでいる。


 秋香あきかは、白鳳女学院の制服姿のまま、

 心斎橋筋の交差点をひとりで歩いていた。


 ライトブラウンの髪が、風にゆるやかに揺れる。

 それは空の色をひとすじ閉じ込めたような淡い色で、

 通りのネオンを反射して、ほのかに光って見えた。


 制服の襟元はきちんと整えられ、

 足元のローファーは、磨き上げられたように艶を帯びている。

 その立ち姿には、育ちのよさと静かな品があった。


 けれど、目元にわずかにきらめくラメが光る。

 それは校則ぎりぎりのライン――

 彼女の“素”をほんの少しだけ覗かせる、ささやかな反抗だった。


 風が通り抜けるたび、

 彼女の髪がふわりと舞い、甘いシャンプーの香りが夜に溶ける。

 清楚さの中に、ふと息づく自由さ。

 そのバランスこそが、秋香という少女の魅力だった。


 駅のホームでは感じなかった春の湿気が、

 この街ではどこか生きているように香る。


 ふと風が吹き抜け、甘辛い匂いが鼻先をくすぐった。


「……まあ、香ばしいこと。これが“たこ焼き”の匂い、ですのね?」


 視線の先には、小さな屋台。

 アメリカ村の角――赤い提灯と白い湯気に包まれた、

 どこか懐かしいたたずまい。


 鉄板の上で丸い生地がくるくると転がされ、

 マヨネーズが格子模様を描いていく。


 音も香りも、秋香の世界をそっと揺らした。


「お嬢ちゃん、初めて? 熱いで~」


「ええ。……少しだけ、味見してみたくて」


 紙舟に乗せられた六つのたこ焼き。

 ソースが照明を受けて艶めき、かつおぶしが小さく踊る。


 その光景を見つめる秋香の瞳は、

 まるで宝石を覗き込むようにきらめいていた。


 ――ぱくり。


「……っ、あ、あつ……でもっ……なにこれ……!」


(うわ、やば……外カリ中トロすぎて意味わからん!

 ソースの香ばしさバチバチくるし、タコの弾力ぷりっぷりすぎ

 青のりとマヨのバランス、神ってる……!

 これ、舌が拍手してるレベルやんっ!)


 外は香ばしく、歯を立てた瞬間、中からとろりと生地が溢れる。

 舌に広がるソースの甘辛さ、青のりの香り、

 そして中に潜む柔らかなタコの弾力。


(うっま……やば……幸せってこういうこと言うんやろ……!

 高級フレンチより全然刺さるんですけど!?

 あかん、これ“庶民の宝石”認定やわ)


「はぁ……っ、これ……想像の百倍……幸せですわ……っ」


(語彙力なくなる~! てか、この屋台まじで殿堂入り確定!

 職人さん、絶対たこ焼き界のラスボスやん!)


「外がカリッとして……中がとろけて……まるで、天使の食感ですわねっ……!

 あぁ、これは、罪深いおいしさではなくて?」


(あ~もうだめ、止まらん。

 この一舟、永遠に続いてほしいんですけど……)


 周囲の人々がつい笑みを漏らす。

 それに気づいた秋香は、少し頬を赤らめて、

 慌ててハンカチで口元を拭った。


「……あら、失礼いたしました。少々、取り乱してしまいましたわね」


 けれどその唇には、まだソースの香りが残っていた。


 心斎橋のざわめきが遠のき、

 秋香の胸の中には、ふわりと温かい幸福が灯っていた。


「……心斎橋って、なんて罪な街……。

 次はどんな幸せが待っているのかしら」



 その声音は、春風よりもやわらかく、甘く弾んでいた。

 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


 この物語は、


 「清楚なお嬢様が、食べる瞬間だけ“素”を見せる」――


 そんな小さなギャップの愛しさから生まれました。


 秋香という少女は、

 完璧で、美しくて、どこか遠い存在のようでいて、

 実はとても人間らしい“お腹の素直さ”を持っています。


 上品な口調のまま、心の中はギャル語


 心斎橋の街でたこ焼きをほおばる彼女の笑顔は、

 きっと“食べる幸せ”そのものです。


 忙しい毎日の中でも、

 あたたかいごはんと、ちょっとした笑顔さえあれば、

 人はほんの少し、優しくなれる。


 そんな思いを込めて、

 このシリーズを書いていきます。


 これからもどうぞ、

 秋香様の食べ歩きを温かく見守ってください。


 


――あなたの今日のごはんが、美味しくありますように。

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