〈プロローグ〉追放の朝
「リオン、もう限界だ。」
勇者アレンの声が、冷たく響いた。
焚き火の明かりに照らされた彼の鎧は輝いていて、まるで神聖な光に包まれているようだった。
だがその言葉の裏には、明確な“見下し”があった。
「お前だけ、いつもバフが乗らない。俺たちが強化魔法で全力出してるのに、お前はただ立ってるだけじゃないか」
「そうよ、リオンくん。回復も入らないって、もう終わってるじゃない。味方の魔法すら拒むとか、呪われてるの?」
聖女セレナの笑い声が、夜風に混じって耳に刺さる。
魔導士ルーファスは鼻で笑い、剣士ミリアはあきれたように腕を組んだ。
「言い訳はもういい。お前のせいで、昨日のドラゴン戦も無駄に苦戦したんだぞ。
俺たちのバフが共有できてたら、被害なんて出なかった」
リオンはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には怒りも悲しみもなく、ただ静かな光が宿っていた。
「……俺は、俺なりにやってきた。
バフがかからない分、位置取りも、敵の動きも、全部見て――」
「黙れ!」
アレンの怒声が空気を裂いた。
「言い訳ばかりだ!お前のせいで、俺たちがどれだけ命懸けで戦ってると思ってる!」
その瞬間、頭の奥で何かが切れた音がした。
パーティメンバーが次々に呪詛のような言葉を吐く。
「リオンって、いつも一人で浮いてるよね」
「努力とか言い訳とか、見てて痛いんだよね」
「神の加護がないやつに、パーティの資格なんてない」
焚き火の火が弾け、夜の森に火花が散った。
誰も、彼を庇う者はいなかった。
「……そうか。わかった。」
リオンはゆっくりと立ち上がる。
肩のマントが風に舞い、薄い灰色の瞳が夜空を映す。
「じゃあ、行くよ。
俺は“デバフもバフも効かない”――つまり、誰の支配も受けない。
これからは、俺のルールで生きる」
その言葉を最後に、リオンは背を向けた。
仲間たちはその背に罵声を浴びせたが、リオンは振り返らなかった。
森の奥に消えていくその影を、誰も深追いはしなかった。
だが――その夜、彼らは知ることになる。
初めて敵の“呪い”が勇者アレンにかかった。
セレナは“沈黙”の状態異常から抜け出せず、ルーファスは“狂乱”のデバフに飲み込まれた。
ミリアの剣は震え、いつも通りの連携がまるで取れない。
そう、彼らは初めて気づいたのだ。
“デバフが効かないリオン”がいたからこそ、他の全員にデバフが届かなかったということに。




