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12話

 電話が終わったらお母さんと少し話をして、すぐに家を飛び出した。興奮冷めやらぬままいつもの川辺に走っていくと、やっぱり彼はそこにいてくれた。彼が冬になって着るようになった美しい羽織が風になびき、まるで居場所を知らせてくれているようにも見える。体力もないくせに長距離を走ってきたため、彼の傍についた時には息が上がっていた。喉から血のような味がするが、そんなのはどうでもいい。彼は僕が伝えに来た内容がわかっているのか、微笑みながらこちらが言葉を発するのを待っていた。

「あ、あのさ。」

「どうした。」

「その。あの。」

「あぁ。」

「あのね。小説。入賞した。銀だけど。」

 息をするよのがやっとの状態で、言葉を絞り出した。他に言いたいことは走りながら考えていたのに、今はそれしか言えそうになかった。彼は幸福そうな笑みを浮かべ、そっと僕の頭を撫でた。その大きな手は氷のように冷たかった。それが興奮していた僕の頭には心地よかった。

「そうか。」

「あんま驚かない感じ?」

「きっとそうなると思ってたからな。」

 そう言って彼は頭の上から手を離した。興奮が収まりきらず彼に抱き着こうとすると、彼が静かに手で制した。少しばかり驚いていると、彼は着ていた羽織を脱ぎ、そして僕の肩に掛けた。

「それでは寒いだろう。」

「あ、うん。」

 確かにすぐに家を飛び出したので、上着は着てきていなかった。かなりの運動をした後なのでとても暖かかったのだが、僕の格好は彼の眼には寒そうに映ったようだった。急な気遣いに戸惑っていると、彼は腰元に携えた見慣れないものを外し始めた。

「刀?」

「太刀だ。」

「持ってたっけ?」

「いつもは持っていない。」

 彼はそう言いながら刀を帯取りごと服から取り外した。それを岩の上に置いたと思ったら、次は袂から黒色の扇子らしきものを取り出した。

「それは?」

「鉄扇。」

「武器の?」

「護身用だな。危ないには違いないが。」

 そう言ってそれも刀と同じ場所においた。それをただぼんやりと眺めていると彼がこちらを向いて両手を広げた。次は何をするのだろうと思っていると彼は不思議そうにして、

「ほら、来るんだろう?」

 と言った。少し前にあったことを思い出して、僕は飛びつくように彼に抱き着いた。

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