陸話 逃亡
僕は、その日お父さんに物凄く怒られた。理由は、露を連れてこなかったから。
「助けて…」
いつもは、思わなかった言葉をついた。ただ、その言葉はお父さんを余計怒らせてしまった。
「あ?今なんった…助けて?助けなんか来るはずがないだろ!」
そう言われ蹴飛ばされそうになる直前。
「はぁはぁ…」
「は?…ふふふ、ははははは!自分から来るとは…都合がいい…」
「…」
そして、いきなり走り出し、お父さんを蹴飛ばした。
「いっつ…なにしやが」
「もう一発!」
そして、お父さんは気絶した?もしかしたら死んだかもしれない。と思っていたら。露がこっちに来て…
「ほら、ここから逃げるよ!」
「え?どうして…」
「助けてって言ってたじゃん。」
「…」
差し出された手を取れば、殴られなくなるかも知れない…だけど…
「お父さんの事が心配なら別に残ってもいいけど…殴られ続けるよ?」
そう言われた。その時には無意識的にその手を掴んだ。
「んじゃ、急ぐよ!あのクソ野郎は、そんぐらいでくたばらないし。」
そして、そして…どんぐらいの時間が掛かったのだろう…
「着いたよ」
そう、露に言われ。その方向を見たら。1件の家があった。
「ここは?」
「僕達の家」
「達?」
「まぁ、見れば分かるよ」
そして、その家の中に入ると。
「あ、露!どこ行ってたの!」
「ごめんごめん!ちょっと雪を助けに行ってた。」
「もう!てか、その子は大丈夫なの?」
「ん、どうゆう事?」
「貴方の敵じゃないの?」
「敵…う〜ん…雪は、大丈夫。被害者だから。」
「まぁ良いけど…私し〜らない。」
「こっち来て!」
「うん。」
そして、ついていくと。
「ここは、僕の部屋。今から、僕と雪の部屋になるよ!」
扉に掛けられているボードには、『つゆとゆきのへや』と平仮名で書かれてあった。
『ーー ゆき なかよし』
(まただ…もう一人の名前が分からない…)
「ほら、入って!」
「これは、綺麗…」
「ふふん!どーだ!」
「ふふふ…面白いね。露」
「うん!」
(お父さんの事は忘れて。楽しく過ごせるのかな?…僕ともう一人の子の事を思い出さないと僕の悩みが解決しなさそうだけど…まぁ、いいか!)
「…」
僕は、雪が記憶がまだ戻ってないことを理解していた。扉前のあれだって、思い出させるためにわざわざ書いた…この部屋だって、雪と僕がお母さんがまだ居た頃にあった二人の部屋を完全に再現した。
(雪の面倒は、やっぱり僕がしないと…雪は、僕がいないと駄目なんだから。雪は、覚えてなくても僕の事が大好きなんだから。)
露が重度のブラコンみたいになっちゃった…まぁいいか!




