第4話:入学
ーオラベラ・セントロー
私、アラベラ、エリザはそれぞれの家族に挨拶し、少しの間談笑した。
ミレニアム学園前のこの広場には多くの人が集っていた。
その多くが家族とのお別れをしているところだった。
早く家族に帰ってもらいたいもの、
渋々家族のこれから気をつけるのだぞと説教を受けているもの、
家族との別れに涙を流すものと様々だ。
私達3人はセントラム王国のミレニアム学園に1番近い街、ホワイトシティ出身だから馬を飛ばせば数時間で家族に会える距離にいるが、そうじゃない生徒もたくさんいる。
次に家族に会えるのは大きな休みのときか、生徒によってこの後5年間家族に会えないものもいる。もちろん全生徒の家族が見送りに来るわけではない。特に他国から来る生徒は故郷で家族とのお別れを済ませたことだろう。セントラム王国まで来るのにだってお金がかかるからね。
あれ?アンジェリカ姉さん?
「エリザ、アンジェリカ姉さんだよ」
「本当だ」
「うん、サムエルの入学日だから学園に許可をとって会いに行くと言ってたよ」
「アンジェリカ姉さん本当にサムエルのこと好きよね」
「エリザとどっちがサムエルのこと好きなんだろう?」
「もうアラベラ茶化さないでよ」
「ひひひ、だって1番のライバルが本人のお姉さんってめっちゃおもしろいじゃん」
「アラベラ!」
「もう2人とも入学前なのに喧嘩はやめてよ、ていうか馬の後ろに誰か乗ってる」
「サムエル!」
「目がハートになってるよエリザ」
「なってません!」
「なってます〜」
「?もう1人一緒に来てる人がいるね」
「誰あれ?」
「私も知らない。ていうかその人なんか血まみれじゃない?」
ーサムエル・アルベインー
我鷲丸を連れてミレニアム学園に向かった。お姉さんと俺はあいかわらずに馬に乗って移動し、我鷲丸は走って俺らの後を追いかけた。我鷲丸と衝突した場所は既にミレニアム学園にかなり近かったため数分で着いた。道中驚いたのは、この我鷲丸という男は馬の通常の速度に悠々と付いてきたことだった。
ミレニアム学園の広場に着くと既に多くの生徒とその家族がお別れをしている最中だった。
「あんた馬について来れるなんて中々やるわね」
「ふっ」
「いや、だからマジでそれ何?」
「うん?」
「うん?じゃないわよ。もういいわ。あれがミレニアム学園よ。私達はもう行くわ。後、血まみれで気持ち悪いから校舎に入る前にちゃんと拭いときなさいよ」
「うむ。ここまで連れてきてくれてありがとう。2人の英雄道に栄光があらんことを」
「バイバイ」
そして我鷲丸と別れた。
「サムエルはあんな変なやつと関わっちゃだめよ」
「なんで?おもしろうそうなのに?」
「あんな変なやつと一緒にいたらサムエルまで変人扱いされるわ」
「別に俺はそれでも構わないよ」
「ダメなの!学園にもいろいろあるの。いじめられたりとかしら大変なんだから。サムエルはお姉ちゃんの言う通りにやっていればいいの!」
「ふ〜ん。やっぱりいじめとかあるんだ」
「あるわよ。学校だもの。ただ、普通の学校のいじめとは違うわ。やばい人に目をつけられたらボコボコにされることだってあるのよ」
「お姉ちゃんが守ってくれても?」
「大抵の人にお姉ちゃんは勝てるけど、私でもどうにもならない化け物が何人もいるわ。そういう人に目をつけられたら困るって言ってんの」
「ふ〜ん。お姉ちゃんに勝てる人が何人もいるってやっぱりおもしろそうなとこだね」
「おもしろくないわよ」
「ね、ね、たとえば誰?」
「誰って?」
「お姉ちゃんに勝てる人だよ」
「えっ?なんでそんなことを知りたいのよ?」
「興味出ちゃったな〜。知りたいな、お姉ちゃんに教えて欲しいな」
サムエルはそう言いながらアンジェリカの手を取り、自分の両手で包んだ。そしてアンジェリカの目をじっと見つめた。
「しょ、しょがないわね。教えてあげるわ」
この姉は弟に対してチョロいのである。
「ええと、何人もいるけど、私の同学年で言えばガレスとモードレッド。モードレッドに関して言えば昨年マーシャル先輩を武術大会で破ってるから特にやばいね。今年の武術大会の優勝候補だわ」
「マーシャルって、レッド・デーモンを捕まえた4人の英雄の1人だよね?」
「うん。そうよ。テッド兄さんと同じクラスだった人。何回かテッド兄さんから話聞いてるはずよ」
「うんうん、自分より強いって言ってたね。あのテッド兄さんが」
「う〜ん。でもそれはおそらく武術に関してという意味よ。サムエルも知っているように魔術も混ぜたらテッド兄さんに勝てる人はいないわ」
「うんうん。そうだね」
「まぁ、全体的にテッド兄さんの代はおかしかったのよ。最強の世代と言われてた程だし、ミレニアムナイトが2人も出たし」
「マウディアお姉さんとあと誰だっけ?」
「マウディアお姉さんのクラスメイトのダシャ先輩よ」
「その人は知らないや。でも、やっぱり同じ代でミレニアムナイト2人出るのってすごいの?」
「当たり前じゃない。何年も出ないのが普通よ。同じ代で2人出たのって他にはアグスティン先生とボイルズ先生の奇跡の世代のときだけだわ」
「ボイルズ先生って…」
「ええ、昨年レッド・デーモンに殺された人よ」
「…」
「…」
「と、まぁ、その最強の世代は卒業し、今強いのはガレスとモードレッドって人で、他には?」
「人というか先輩ね。学園ではそういうの気をつけて」
「うん。で、他には?」
「そうだね、その最強の世代と他に渡り合えてたのは生徒会長のアルドニス先輩よ」
「ふんふん。アルドニスね。その人は何がすごいの?」
それを聞かれたときにアンジェリカは嫌な顔したが、質問には答えた。
「なんでもよ」
「なんでも?」
「なんでも!武術も魔術も人気も、何もかもがすごいのよ」
「へ〜」
「あと、サムエルはアルドニス先輩に近づいたちゃだめだからね」
「なんで?」
「お姉ちゃんがダメっているからダメなの!」
「わ、わかったよ。なるべく気をつけるけど理由くらいは教えてくれてもいいんじゃないかな?」
アンジェリカは少し黙った。その後、聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「綺麗だからよ…」
「うん?何?」
「綺麗だから…」
「なんて?」
「綺麗だからって言ったの!!ふん!」
そしてアンジェリカは怒ってしまった。
「それが理由なら大丈夫だよ」
「大丈夫って何が?」
「だって興味ねぇもん」
アンジェリカは満面の笑顔になった。
「そうよね!そうよね!学園史上1の美しさで、世界でも有数の美しさを持ってるからってサムエルは興味ないもんね」
(そこまで言われると少し興味が出てくるがめんどくさいからそういうことにしとこ)
「うんうん、そうだね」
アンジェリカはとても嬉しそうであった。
「あっ。王様と女王様がいるじゃん。ていうかブランカさんにガビ様も。挨拶にいくわよサムエル」
「は〜い」
ーオラベラ・セントロー
サムエルとアンジェリカお姉さんがお父様達に挨拶したあと、私達と合流した。
「みんな、準備はいい?緊張してる?」
「はい。わくわくどきどきです」
「ひひ、正直めっちゃ緊張」
「大丈夫ですアンジェリカお姉様」
「そっか、そっか。まぁ困ったら私を頼りなさい。どうせここのみんなはアルファだから同じ寮で暮らすことになるわ」
「そうなのですか?クラス決めに様々なテストが行われると聞きましたが」
「そうなの?」
「私もお父様からそのように聞いております」
「うん。テストは確かにあるけど、それぞれのクラスの特徴は決まってるの」
「特徴?どのような特徴ですか?」
「そうね、これはどこかに書いてあるわけではないけど、なんか学園で共通の認識って感じで伝わってる。アルファには世界の未来を担う人、ベータには総合力が優れている人、ガンマには突出した1つの才能を持つ人、デルタには不良が入れられるわ。ときには何でこの人がこのクラスって思うことがあるけど基本はそんな感じよ」
「ええと、オメガは?オメガはどんな特徴なのですか?」
「オメガ?ええと、う〜んと。精神的に問題があったり、大きな問題を抱える人が入れられると言われているわ」
「そ、そんな!?テッド兄さんはオメガだったのですよね?その説明だとテッド兄さんがオメガに配属されるのは間違ってます」
大事な人が侮辱されて怒ってるかのようにオラベラはアンジェリカに向かって言った。
「い、言ったじゃない。ときには何でこの人がこのクラスにって思うことがあるって。それの最も良い例がテッド兄さんだよ」
「そう、なのですね」
「と言ってもテッド兄さんの場合は特殊だったのかも」
「なんでですか?」
「総合力の高いアルファやベータにテッド兄さんを入れてみ?初めから勝負になんないよ。テッド兄さんはあの最低最弱と言われるオメガクラスをギリギリ優勝させられるとこまでもっていったんだよ」
テッドを褒められたオラベラは嬉しそうだった。
「そう、そうですよね。他の生徒やクラスがそれだと困りますもんね」
「ええ、うん、そうよ」
「あいかわらずテッド兄さんのことになると熱くなるねオラベラ」
「だからアラベラが思ってるようなことじゃないって。本当に尊敬してるだけなんだって」
「今はそういうことにしてあげる。でも本当に同じクラスになったら毎日のように恋バナするからね。エリザも覚悟しといてよ」
「ちょっとアラベラ。今はやめて!」
「今は?今この話するとエリザは困るのかしら?」
小悪魔的な笑いでアラベラはエリザとサムエルを交互に見つめた。
「うん?なに?なんの話?」
「なんでもないよサムエル。いつものふざけてるアラベラだよ」
「ふ〜ん。そうなんだ」
そんなたわいもない話をしていると空から5人のミレニアムナイトが現れた。
いいえ。5人のナイトというのは語弊だった。正確に言えば3人のミレニアムナイト、1人のミレニアムマスターと10人しかいないミレニアム騎士団の最高戦力、ミレニアムグランドマスターが1人、ミレニアム学園の校長先生、アレハンドロ・マグワイアーが空から舞い降りたのだった。
(演出なんだろうけどなんか良いな。みんなマントしてるから風がなびいてかっこいい)
5人はこの広場とミレニアム学園を分ける門の前に舞い降りた。
「皆様方、本日ミレニアム学園においでくださってありがとうございます。そして我が生徒達をここまで連れてくださったことにも深く感謝をする。そしてこの後、彼らがこの門を通ることで今までの自分を捨て、正式に我が学園の生徒になります。故に生徒が門を通られた後は速やかにお帰り頂くようにお願いする」
力強く、だが包み込まれるような声で校長先生は言った。そして続けた。
「それでは我が学園の生徒となるものよ。この門を通るが良い」
校長先生がそういうと閉じられていた巨大な黄金の扉は開いた。
「さぁ、みんな。行って行って」
アンジェリカは4人に行くように指示をする。
広場に集まってる人々は最後の言葉を交わし、別れていく。
「お父様、お母様、アルド。行ってきます」
「いってらっしゃい」
「しっかりするのよ」
「バイバイお姉ちゃん」
扉に進もうとしたときにアルベイン家の皆様が広場に到着した。私達は彼らに挨拶し、サムエルは自分の荷物を受け取った。サムエルのお父さんとお母さんは間に合ったこととサムエルにお別れができたことでとても嬉しいそうだった。
そして私、アラベラ、エリザ、サムエルの4人で一緒にミレニアム学園の門をまたいだ。