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ミレニアム学園 ―赤き終焉への抵抗―  作者: 赤のアンドレ
【1年生編 ー赤い脅威ー】 第2章:クラスリーダーと連続殺人事件
29/29

第28話:明かされ始める真実と挑戦会議


・5月1日(水曜日)


ーオラベラ・セントロー


『レッド!?』


我鷲丸くんが言ってた、すごい人。

でも確かに言われてみれば特徴はそっくり。

薄闇のフードに、仮面。

黒と赤が合わさった革製の軽装。

シンプルで素朴な装備。

そして背中に『刀』が二振り。


「レッドさん、はじめまして」


「ああ」


とても落ち着いている。

呼吸の音がほぼしない、ていうか息してるの?

って思うくらいに肩や胸の動きがない。

他に気になるところはフードがかなり深く目元すら隠しているような感じだ。

それで見えるのかな?

でも地面に倒されたときに片目が少しだけ見えた。

目が直接見えたわけじゃないけど目の辺りが赤く光っていた。

視界がいい装備とは言えないね。

それでも私のあの一撃をいとも簡単に止めた。

私でも気持ちいいと思うくらいのできだったのに。

でもああいう一撃を放てるようになったのは素直に嬉しい。

氷条くんに感謝しないと。

ううん、氷条くんだけじゃないね。

力まずにあんな感じで剣を振れたのは間違いなくウィリアムくんのおかげ。

うん、後でちゃんと彼らに感謝しよう。

でも今は目も前の人物に集中だ。


「レッドさん。レッドさんは……」


続きを言うのをやめた。

質問をする前にこちらから情報を与えるべきだと判断した。

明らかに彼は殺人鬼ではない。

私を殺そうと思えばできたのにそれをしなかった。

だからってなんでここにいるのかを教えてくれる義理はない。

ならばせめて自分が何をしてるのかを伝えて少しでも協力できないかを打診してみる。


「私は数週間前からホワイトシティで起きている殺人事件について調べています。もうご存知かも知れませんが、ここは3人目の被害者『グリム・ハーランド』が殺害された場所です」


「そうなんだ。でもなぜ学生が殺人事件について調べてるんだ?オマエにとって大切な者が殺されたのか?」


そうなんだ?知らなかったってこと?


「いいえ、……面識がある方が殺されたのは確かですが、私の大事な人であったと言われると違うと思います」


「だったらどうして関わる?役立たずの無能の集団とはいえこの国にもそういう事件を取り扱う機関はあるのだろう?彼らに任せればいい」


「……確かにこれは衛兵の仕事かも知れません。ですが、この街は、王国は私にとってはとても大切なのです。無のない一般市民が殺されていくのは黙って見ているわけにはいきません」


「ふ〜ん。この街、王国はオマエにとってそんなに大切なのか?」


「はい、そうです」


私が即答したことにレッドさんは少し驚いたように見えた。


「そうか、人が大切とするものは人それぞれだからな。オレは街一つで手一杯だな。王国丸ごとは考えたくもねぇな」


その発言は私にとっては少しおかしく聞こえた。

こんなにも強い人が街一つで手一杯、

王国は無理と言ったように聞こえたからだ。

さっきの一瞬でこの人の強さの全てを分かったとは思えないけど、

王国を背負えるのに十分な実力を持つのは確かだ。


「あなたの強さがあれば問題ないと思うのですが……」


「……。自分が強いからって全部を守れるわけじゃない。自分の体は一つしかない。どれだけ早く移動できても、一つの場所にしかいられない。自分を守るのと他人を守るのは全然違う。そして他人を守るほうが何倍も難しい。だからオレは自分にとっての大切なものは既に自分の側に置いておきたい……。話が逸れたな。すまない」


それは大切なものを失ったことがあるというのが伝わる言葉だった。


「いいえ、大丈夫です」


「この場所を調査しに来たのだろう?オレは止めはせんぞ。好きにやれ。オレも好きにやらせてもらう」


「はい、でもその前に」


「ん?今度はなんだ?」


「今後、この街の衛兵を悪く言うのはやめてください。あなたにとっては取るに足らない存在かも知れませんが、彼らは日々自分の命をかけて街の人々を守る英雄たちです。あなたでも彼らを侮辱することは許しません」


「……ふふ、ふはははははは」


……笑われた。

むかつく!

こっちは真剣に言ってるのに!


「な、なぜ笑うんですか?そんなに言ったことはおかしかったですか?本当のことですよ!衛兵は頑張ってるんです!この前の殺人事件を調べている衛兵隊長と知り合ってですね、すごく頑張ってたんですから!」


「おかしいのはキミの発言というよりもキミそのものだよ。ははは」


むむっ!

初対面なのに人を変人扱いして失礼な人だな!


「あのですね!私は真剣に、」


「わかってる。……わかってる。『キミの前』では『この街の衛兵』のことを悪く言うのをやめよう」


言葉を遮られたが、真剣にレッドさんは言ってくれた。

なんかふわっとしてるときと真剣なときの彼は大きく違う。

真剣モードになるとすぐに伝わりこっちの体が強張ってしまう。

すごいオーラを持っているだけじゃなく、

そのオーラの扱いがすごく上手だ。


「ありがとうございます」


「じゃ、お互いここに来た目的を果たすとしよう」


そう言って、レッドさんは私に背を向け、工房を歩き出した。


……?

『キミの前』?

『この街の衛兵』?


それって私がいないときと、

この街以外の衛兵は悪く言うってことだよね?

それを真剣っぽく言って誤魔化しただけだよね?

それに気づいた私は彼のほうを見ると、

やっと気づいたかと言わんばかりに私を見て笑った。


む・か・つ・く!!!


ああ!もういい!

あんな人のことはほっといて、

気を取り直して何か手掛かりを探そう。


そう思ったそのとき、

下を見ると丸い何かが落ちていた。

なんだろう?……コイン?

さっきこんなのなかったはずだけど。

……もしかしてレッドさんに倒されたときに少し体が当たって、

物が動いてしまったときに出てきた?

そこらへんに挟まってたってこと?


それかレッドさんが落とした?

……聞いてみようかな。


レッドさんのところに行くと真っ二つにされていたハンマーを調べていた。


「あの、何かわかりましたか?」


「ああ、犯行に使われた武器が間違いなく刀であったことと、それ使った者がその扱い方を全く分かっていないクソ雑魚であったことがな」


おそらく我鷲丸くんが言ってた赤鬼。

クソ雑魚ってことはない。

レッドさんにとってはそうかも知れないけど。

使われた武器が刀だっていうのはわかるけど、

その扱い方を分かっていないというのはどうやってわかるんだろう?


「あの、それはどうやってわかるんですか?」


私がそう言うと彼は切り込み口を見せてくれた。

鋼鉄のハンマーが斬られている。

うん、さっきも見た。


「違う、そこじゃない。ここだ」


そう思っていると彼は言った。

彼はまさに斬られているその部分を示した。

切り込み口は少しでこぼこしていた。

鉄鋼だし、抵抗はあったのだから当たり前だと思うけど。


「刀を本当に扱えるものならばこんな切跡にはならない」


「そうなんですか、いくら『刀』でも鉄鋼ですし、装備していたものの魔力が流れていたはずですし、綺麗な切跡にはならないと思いますが」


彼は呆れたような仕草をした。


「だったらそのようにこれを持って最大の魔力を流せ」


「え?でも」


「さっさと持て」


「あ、はい。持ちます持ちます」


怒んなくていいじゃん。

私は渡されたハンマーの下半分を持ち、

それに魔力を流した。


「はい、こんな感じでいいで」


シュッ

ヒュッ

バサッ


「こんな感じでいいですか?」を言い終える前に、

一瞬に三つの音がほぼ同時に聞こえた。

レッドさんが少し動いたように見えたが、

ん?今何かした?

そう思ったそのとき、

私が持っていたハンマーの部分の上がボロっと落ちた。


「え?今、って、え?どうやって?動いてないじゃん!」


「いいから切跡を見ろ」


慌てている私に彼がそう言うと、

元々あった切跡と比べようがないくらいに綺麗に斬られていた。

まるで言われなければ、それを知らなければ、

そういうふうに作ったのではないかと思えてしまうくらいに自然な切跡だった。


「まぁ、こんな感じだよ。『刀』を扱えるヤツというのは」


あ、……うざい。

一瞬かっこいいと思ってしまったのがうざかった。

というか切る前に何か一言くらいかけるべきじゃない?

それが礼儀じゃない?

さっきは礼儀がどうのこうのとか言ってたくせに!

やっぱりむかつく!


でも手掛かりにはなった。

犯人は『刀』を持っている。

でも、その扱い方を完全に分かっていない。

つまり本来の持ち主ではない。

ほぼわかってたことだけど、

赤鬼が本当のレッド・デーモンという線は消えた。

レッドさんは赤鬼について知っているかな?


「あの、質問いいですか?」


「答えられる範囲ならな」


「ええと、その範囲がわからないので、とりあえず質問をします。刀を持っている犯人は『我はレッド・サークル最強の男、赤鬼だ』というセリフを何度も言っていたそうですが、レッドさんってこの『赤鬼』って何者かわかりますか?あと、先ほどから『刀』についてすごい詳しいようなので、レッドさんは『レッズ』、…失礼しました。『暁人』でしょうか?」


「……」


レッドさんはすぐには答えてくれなかった。


「赤鬼については知っている。だが教えられることはない。同じくオレの素性に関係する質問にも答えることはできない」


「そうでしたか、無理な質問失礼しました」


「ただ、これだけは言える。赤鬼と名乗っていたあの男は決して赤鬼ではないということだ。そもそもレッド・サークル出身ですらないだろう」


彼の答えた後の仕草を見ると少し無理して答えてくれたような気がした。


「教えていただきありがとうございます」


「ああ。そっちは何か見つかった?キミが床に寝っ転がったときに出てきたコインについては何か知っているか?」


「レッドさんも気づいてたんですね。それと、やっぱり私が床の物にぶつかったときに出てきたんですね。……って、私は寝っ転がってません!あなたに投げられたんです!私が床で寝るのが好きみたいに言わないでください!」


「ははは、すぐ怒るんだな。喜怒哀楽がはっきりしててオレは好きだぞ」


「むむ、ちゃかすのはやめてください」


怒っている?

うん、だってさっきからむかつくし。

あれ?でも私って知らない初対面の人に怒ったりしないよね?

王女としていつも振る舞おうとしているからなんだけど。

んー、なんなんだろうこの人は。


「むくれてないで、コインについて何か知っているのか知らないのかを教えろ」


「むくれてません!それに知りません!同じことを私も聞こうとしてたのですから!」


「そっか。まぁ、これだけは言っとく。それはレッド・サークルのコインじゃないぞ。確実にな」


「そうでしたか。私のほうでもっと調べてみます」


「ああ、そうするといい」


そのあとももう少し工房を二人で見て回った。

だが、それ以上の手がかりはなかった。

二人ともその場を去ることにした。

だが、その前に最後の質問をすることにした。


「レッドさん。レッドさんはどういう目的でここに来たんですか?殺人事件そのものに興味はなさそうですし、知り合いが殺された感じでもなさそうですけど」


「ん?どうしてオレの知り合いが殺されてないと言い切れるんだ」


あれ?確かに。

なんでだろう。

でも、私の中ではそれはほぼ確信している。


「すみません。言ってみただけです。違ってたなら、」


「違っていない。なぜそう思ったのかを知りたい」


「……先ほどの発言とおおよそのレッドさんの態度からしてなのですが、レッドさんにとって大切な人が殺されていたら今日のように接してくれていないんじゃないかと思います。もしかしたら、会った時点で私は殺されていたのかも知れないとさえ思います。それだけ大切なものは守るという意志を先ほどの言葉に感じました」


「……すごいな。この王国の者は弱くて、無能なやつばかりだと思っていたが、なかなか面白いヤツらもいるみたいだ。その洞察力賞賛に値する」


「ありがとうございます」


「オレの目的は刀の回収だ。本来の持ち主は自分の刀をこんなくだらない殺人に使われることを決して望まない。だからそれを取り返す。あとはオレの知ったことではない」


「一応、その『刀』は現在セントラム王国の物でございますが」


「だったらオレが取り返してから奪いに来い。できるもんならな」


「……あなたと争う気はありません。そして、その『刀』はこの王国に災いばかり持ち込んだ。是非あなたが回収して、もう悪事に使われないようにしてください」


「賢い判断だ」


「それが一番いいと思ったまでです」


私は工房を出る前に最後にもう一度その現場を見るために振り向いた。

そのときにレッドさんは言った。


「また会おう『オラベラ王女殿下』」


「え?」


私は慌てて再度前を向いたが、

レッドさんの姿はもうなかった。


「なんだ、最初からバレバレなのか」


ははは、本当にむかつく人だったな。



ーオプティマスー


ミランダの家にて


「どうしてですか?ミレニアム騎士団はそれでいいんですか?何もしてくれないのですか?」


私は一日考えた結果、

セバスチャン先生から聞いた話をミランダに言うことにした。

彼女と彼女の弟たちを守るのには必要なことだと思ったからだ。

警戒するだけで大きく変わる。

これでいきなり彼らを見かけても対応はできるだろうし、

いつも以上に安全な道を通って移動するはずだ。

だけどやはり、彼女がこういう反応をするのも想定内だった。


「残念ながらこれはミレニアム騎士団の管轄ではありません。何かをしたくとも条約によって国の治安案件に関わるのは禁じられています。ですが、心配しないでください。私がなんとかします」


「オプティマス様が?」


「はい、私を信じてください」


「信じてますけど……、まさか!オプティマス様、彼らと再び戦うおつもりですか?」


「はい」


「ダメです!嫌です!オプティマス様に何かあれば私……、耐えられません。お願いですからそれはおやめください。お願いします」


私に抱きつき、顔を私の胸に押し付けながら言うミランダ。

私に依存し始めている彼女は

私の身に何かが起きるのを心配するのは普通だ。

ここで説得しても彼女の不安を完全に取り除くことはできない。

そのため、自分がすべきことは、


「……わかりました。積極的に彼らと関わることはしないと約束します。ですが、そのかわりミランダも少しでも危ないと思ったは仕事は避けて、なるべく家にいるようにしてください。そうすれば私も安心できます」


「ですが、それだと弟たちを食べさせることが、」


彼女が言い終える前に私はセバスチャン先生にいただいた金を全部ミランダの手の上に置いた。


「オプティマス様、これは?」


「今用意できる全額だ。これで数日は持つだろうか?足りなければなんとかしよう」


「いいえ、私が一ヶ月で稼げる以上の額です。……ですが受け取れません」


「なぜだ?」


「それはよくないです。自分たちのことは自分たちで面倒を見るべきなんです。オプティマス様が高貴な方だというのは存じておりますが、お金目的で一緒にいるとは思われたくないです。なので大丈夫です。オプティマス様が言った範囲の仕事で私がなんとかします」


うん、だから私はオマエが好きなのだ、ミランダ。

だが、ここは私に従ってもらおう。

私は悲しい顔をした。


「オプティマス様?どうされました?」


「いや、その『自分たち』の中に、私は入っていないのだなと思って、少しだけ心が痛んだ」


「そんな!違います!ここはオプティマス様の居場所です。オプティマス様のことを私も弟たちも大切に思っております。私が言いたかったのはそういうことではなく、」


「じゃ、なぜダメなんだ?なぜ受けてくれないんだ?……ミランダは私のミランダなのではないのか?」


「あなたのミランダです!あなただけのミランダです!私の身も心もあなただけのものです」


「だったら私にはミランダを支え、養う義務がある。もちろんミランダが面倒を見ている弟たちもだ。私もミランダたちの家族の一員なのならば、この一家の男として金銭面は私が担当すべきなんだ。だからこの金は私の金と思わないでほしい。私たちのお金だ。それをミランダが管理してくれ。よいな?」


「……はい。わかりました。ありがとうございます。大切に管理させていただきます」


「うん、足りなければ言ってくれ。なんとかしよう」


「いいえ、これで一ヶ月、いいえ、二ヶ月暮らしてみせます」


「ははは、無理はするな。ちゃんと食べてほしいし、子供たちも欲しいものがあれば少しくらいは買ってあげて欲しい。それで一ヶ月もてばいい。そうすれば来月また同じ額を渡せる」


「わかりました。十分に一ヶ月暮らせる額です。心配しないでください」


「それはよかった。だったらあることをお願いしてもよろしいだろうか?」


「はい、何なりと」


「しばらくは仕事を完全に控えてくれ。なるべくここにいて欲しい。昨日も会いに来たら、仕事でいなかった。私はとても心配した。私がこの家を訪れたときにはミランダに出迎えて欲しい」


ミランダはすごく驚いた顔をした後に頬を赤らめた。


「か、かしこまりました。オプティマス様をいつでも出迎える準備ができるようにします」


「ありがとう」


私とミランダは見つめ合い、唇を合わせた。


「今日は泊まっていかれるのでしょうか?」


「すまない。それはできない。明日も学園での授業だ」


「そうでしたか……」


寂しそうに目線を下に下げながらミランダは言った。


「門限に間に合えばよい、できるだけ遅くまで共にいよう」


「はい!嬉しいです」


ミランダはとても嬉しそうに言った。


元々、二人で話すことがあるため、

既に弟たちを外の部屋に待たせいた。

そのため寝室にいるのは私たち二人だけだった。

甘い空気になり、

気がづけば服は床に落ち、

体を重ねていた。



・5月2日(木曜日)


ーサムエル・アルベインー


クレイの挑戦は瞬く間に学園中で噂になった。

こういったある意味特定の人たちを『商品化』するような試しは反感を買うと思いきや、

舞踏会の時期が近くなると学園の挑戦でこういう類のものはよく出るらしい。


ただ、学園で大きく噂されていたのは参加費用のポイント数、50ポイント。

挑戦にしてはかなり大きな額のようだ。

挑戦はこの参加ポイントというのが難しく、

参加ポイントが高過ぎるとポイントを失うのが怖く参加者が集まらない。

低すぎても参加する意味がないため参加者が集まらない。

といった問題が発生する。


そのため10〜20のポイントをかけるのが相場であるようだ。

そこでクレイの50ポイントというのはほぼ参加者が集まらないほどの額とのことだ。


ちなみに本来なら自分もそう思う。

ザラサのことでポイントを通常より減らしていなくとも、

学園が最初にして唯一何もせずに支給されるポイントは100ポイントなのだ。

その半分をこんなくだらないお遊びに使うなんて考えられない。


ただし、今回は参加せざるを得ないというのが正直なところだ。

これは全てルミナーレでの夜に始まったクレイの巧みな罠なのだ。


ルミナーレでは全ては無料だった。

飲み物も食べ物も、その他のサービスも、

もちろん本来は発生する高額な入場料もだ。


だけど、使用されたメニューには価格が書いてあったし、

「入場料〇〇ルカはクレイ様によって既に支払われております」

と入場した際にスタッフに言われている。


何が言いたいかというと、

普通の神経を持っている人たちは今、

クレイに恩義を感じているということだ。


クレイがすごいいいことしてくれた。

高価な贈り物をくれた。

彼の挑戦に参加するのがせめての礼儀と思っている人は多数。


しかもそれにはお金は発生しない。

学園のポイントで恩が返せるのなら安い。

と思っている人すらいるだろう。


そう、これが普通の神経を持つ人たちへの罠。


次、そうじゃない人たちへの罠。

この学園には変わり者が多い。

大金持ちすぎてクレイのあの夜の奢りをなんとも思っていないヤツらがいるし、

そもそも気にしていない者もいる。


クレイは彼らのプライドにふっかけた。

そしてそういうヤツらはプライドが高い。


授業前、エリザと話すためにアルファクラスの席の近くに行ったところ、

エドワード王子が、


「あの、クレイとかいう男は思ったよりも小物だった。女を口説けずに困っていたからこの私が見本を見せてやったのよ」


と自慢げに話していた。


そう、俺、我鷲丸、ウェイチェンにしてたような話を他の人にもしていたということだ。

つまりあの話は真っ赤な嘘。


クレイに好きな人がいるか知らんが、

話しかけられず困っているというのはまずない。


だけど調子に乗ったヤツらは、

あのいつも美人の先輩を両脇に置きながら学園を歩いているクレイに頼られた。

アドバイスを求められた。

俺はクレイよりすごい。

と思ってしまっている状況を作り出している。


彼らはその自信満々になっている状態の中でこの挑戦を聞かされた。

参加しないはずがない。

それどころかもう自分が大量得点を入手すると息巻いている。


つまり、普通の人たちと調子に乗っているヤツらはほぼ参加。


そして三つ目のグループ。

この状況に気づいているメンツだ。

何人いるかわかんねぇが、

俺、そしてウィリアムは間違いなくここに入る。

昨日の夜、我鷲丸に


「ウィリアムは参加するの?」


と聞かれ、


「ああ、参加しないといろいろ面倒そうだしな。今回は参加して以降はクレイの誘いは全て断るようにするわ」


と言っていた。


我鷲丸は「ん?」って感じでわかってなかったが、

俺には伝わった。

あのルミナーレでのパーティーに参加しておきながらクレイの挑戦に参加しなければ、

おそらく何かしらの報復がクレイ側からあることだろう。

参加しなくともクレイが問題を起こさないのはあの夜ルミナーレにそもそも来ていない未成年の二人だろう。

さすがにクレイもそこは何とも言えない。

ともかく今回のクレイの罠に勘づいているメンツはほぼ間違いなくこの一ヶ月でもう一つのことを学んでいる。

クレイと揉めるとめんどくさいということだ。

ゆえに気づいていたとしてもこの俺を含む三つ目のグループも参加を選ぶ。


つまり全員参加だ。


反省点としてこれを事前に見抜けなかったということについてだが、

それは無理だったと思う。

クレイは今回一年生の男子をターゲットにしたわけだが、

ほとんどそう思わせるようなそぶりはなかった。

男女問わず学園中を招待したし、

挑戦に関する情報が一年生にはなさすぎた。

俺も挑戦について調べ始めたのも昨日からだ。

持っていた情報だけでクレイの狙いはどちらにしろわからなかった。

そもそも初めからクレイが怪しいとほとんどの人が思いながらも学園中がパーティーに参加したのだから。

ということで防ぎようがなかったと俺は判断した。


いやー、ここまで完璧にやると悪い気すらしないわ。

あっぱれとさえ褒めたくなる。

もう二度と彼の誘いに乗ることはねぇけどな。


次にこれはどういう意味を持つかということだが、

一年男子は25人。

それを一人50ポイント。


合計1250ポイント。


未成年で参加しなかった2人を除いても1150ポイント。


クラス移籍が可能となるポイントが入手できる。

クレイがクラスを移籍するかはわからないけど、

クラス対抗試験で最下位になったときに自分にポイントを持たせていれば、

リーダー指名で自分を退学に指名し、

ポイントで回避などのムーブが可能ということだ。

ポイントが貯まりきっている高学年では話は違うかもしれないが、

一年でこの時期にその数のポイントは大きなアドバンテージとなる。

まぁ、それもクレイの狙いのうちなんだろうけどね。


と、まぁ、50ポイントは勉強費として支払うことにするよ。

クレイという男について知れただけで大分大きい。

この学園にバケモンは多いが、

その中でもみんなと違った方向に突出している才能を持っているよ。

ただし、美しくはないな。

よって、彼については学んだが興味も薄れた。

残りの学園生活は極力彼を避けるように過ごそう。


にしても、その挑戦に勝とうと張り切っているヤツらはどうしたものか。

我鷲丸にこの説明しても絶対に理解できんだろうし、

ウェイチェンはもうポイント関係なく誰を誘うかがもう決めているし、

アンバーも挑戦の話を聞いてからいつも以上に動き回っている。


考えが浅い。

クレイがここまで仕込んだことをしておいて、

フェア勝負するはずないじゃないか。


やっぱりわかってないんだろうな〜。

こんな挑戦を仕掛けたってことは彼には確実に勝てる方法があるからなのだと。



ーオラベラ・セントロー


アルファ寮のロビーにて


私は今日の午前に話がしたいとお願いした人をロビーで待っていた。

男子部屋に行くこともできたが、そこは前回の教訓。

あのめんどくさいエドワード王子がいる男子部屋は行かない、近づかない。


アラベラとエリザはアンジェリカ姉さんと一緒に課外活動で、

学園の中では久しぶりに一人って感じがする。

彼を待っているとガレス先輩がロビーに来た。


「オラベラ、一人とは珍しいな。エリザとアラベラは?」


「ガレス先輩、こんにちは。二人ともアンジェリカねえ、先輩と課外活動です」


「ははは、名称でかしこまることはないよ。いつも姉さんと呼んでいるのなら姉さんでいいじゃないか。言っただろう?王族、貴族の硬い礼儀とかここではどうでもいいんだって。それにここでなくとも、僕の前ではいつでもフラットに接してくれても構わないとね」


ガレス先輩のこういうところが好きだ。

礼節、礼儀作法は完璧に知り尽くしている。

だけどそういうのを窮屈に思っていて、

必要がないのなら普通に接してほしいというのが伝わる。


「ありがとうございます。なるべくフラットに行きます」


「うん、それでいい。それで?誰かを待っているのか?」


「あ、はい。そうですね」


「そうか、それは残念だ。暇なのならお茶でもどうかと誘うと思っていたところだ」


先輩が軽いノリで後輩を誘っている。

私はそう思った。


「あ、そうだったのですね。申し訳ございません。また今度誘ってください」


そう思って軽いノリで返したのがいけなかった。


「うん?いいのかい?それじゃ明日の放課後はどうだい?専攻授業の後にそのまま街に出よう」


すぐにこんなことを言われると思っていなかったのだ。


「あの、ええと……」


「どうした、何かもう他に用事があるのかい?」


「いいえ、決まった用事はないのですが……」


「じゃ、決まりだ。いいお店がオープンしたみたいなんだ。是非そこに行きたくてね」


あれ?決まった?

いつの間に?

これって二人でってこと?


それはよくない気がする。

よくない?

なんでよくないの?


先輩と後輩が遊びに出かける。

普通だよね?

……じゃ、なんでこんなにチクチクするの?

私、行きたくない?


こ、断らないと。


そう思ったとき、私の待ち人が到着した。


「オラベラ殿、お待たせいたしました」


「オラベラの待っていた人は龍次郎だったのか。ということは特訓関係の話かな。それでは僕は失礼するよ。オラベラ、明日ね」


「あ、はい……」


結局、断れないままガレス先輩は行ってしまった。


「オラベラ殿、お話をする前に確認しなければならないことがありまして遅れました。申し訳ございません」


ガレス先輩のことは後。

今は時間を作ってくれた氷条くんだ。


「ううん、全然気にしないで。氷条くんも忙しいだろうに、朝の訓練も付き合ってもらってるのにまた放課後も時間を取らせることして悪いとさえ思っているよ」


「そんなことはございません。オラベラ殿の力となれることがあれば某に可能な範囲でお力添えします」


やっぱりいい人だな。

でも以前に比べてすごく協力的。

前は訓練でも話す度に、

「暁島の決まりでお話することができません」っていうのをよく言っていた。

最近は聞かないけど今日、久しぶりに聞くことになるかも。

そのような話をするのだから。


「ありがとう。じゃ、少し外を歩こうか。周りに人がいないとこに行こう」


そして、私と氷条くんは周囲が開けた、

誰かが近づけばすぐにわかる学園の庭園に場所を移した。

周りに誰もいないことを確認してから話をし始めた。


「今日はねレッド・サークルについて聞きたいの。決まりで話せないことがあるのを知っている。話せる範囲でいいから教えられることを教えてほしい」


私がこれからする質問は全て「答えられません」で終わる覚悟している。

ダメ元で聞いてるに近い。

それでも一つでも情報を得ることができたのなら殺人事件の犯人、

そしてクリムゾン・オウル部隊の謎に迫ることができるかも知れない。


「はい、ご心配なく。今朝の特訓の際に伺った説明でそのような話になると思っていたので、その範囲を明確にしてきました。答えられる範囲で質問に回答します」


明確にしてきた?

整理したってこと?

それとも誰かと……ううん、今それは大事ではない。


「ありがとう。まずはレッド・サークル。あ、ごめん。『暁島』ってちゃんと呼んだほうがいいよね?癖でレッド・サークルになっちゃって」


「レッド・サークルで構いません。それが侮辱ではなく、こちらでは某の祖国をそう昔から呼んでいたのだと学びましたから。それにレッド・サークルのほうがかっこいいです」


「はは、確かに。かっこいいよね『レッド・サークル』。『暁人』の呼び方は?『レッズ』だと嫌って思ったりする」


「いいえ、それも同じく。ですが、これはあくまでも某と一部の人たちです。全員がそれを気にしないという訳ではないでしょう」




「うん、わかった。とりあえずは氷条くんと話すときはこっちの慣れた言い方で話させてもらうね」


「ええ、それで構いません」


「じゃ、さっそく。レッド・サークルにはその本島にレッズ以外は入ってはならないという決まりがあって、それを破れば死罪に値する。この決まり?法律には変更はないね?」


「少しだけ違います。明確にはレッズ以外ではありません。レッズでなくともレッズと血縁関係を持っていれば入場は許されています」


「なるほどね。レッズとそうじゃない人の間に生まれた子はレッズにはならないからって感じ?そういう子であってもレッド・サークルに入れるってこと?」


「そうですね、他の出身の間にできた子がレッズにあたるかというのは今、某の祖国で議論されている問題です。以前はその可能性すら無かったのでそうなったときを考える必要がなかったのです」


「そっか、そうだよね。本当に一千年もの間、その島々から出ることができなかったの?」


「はい、私の知る限りではそうです」


「先代の王が今使われている貿易島への道を作ったんだよね?すごい人だよね。一千年誰もできなかったことをするなんて」


「……」


そう言ったとき、氷条くんは少し困った顔をした。


「氷条くん?大丈夫?私なんか嫌なことを言った?」


「いいえ、気にしないでください。確かにすごい方であったのは間違いないです。ですが、同時にたくさんの問題も引き起こした人物でもあります。彼のことについて話せることはほぼありません」


問題を起こしたけど、

レッズの人たちを外の世界に行けるようにした人でもある。

氷条くんの顔からすると難しい人物であったようだ。


「うん、大丈夫。次の質問『レッド・デーモン』って人物について。こちらではレッド・サークルの唯一の大将軍でレッド・サークルで最も強い人。ミレニアムナイトに勝てるほどに強く、実際にミレニアムナイトのトミー・ボイルズを殺害した。この、こちらでは当たり前の情報だが、これはレッズ、ううん、氷条くんでも同じ認識なの?」


氷条くんはすぐには答えなかった。

何を言うか言葉を選んでるように思えた。


「……。それは違います」


「違う?何が違うの?どの部分が?」


「全てです」


「え?そんなはずは多少のことは違うのはわかるけど全てが違うなんてことはありえないはず。これはどの新聞も取り上げたニュースよ」


「新聞が取り上げたから合っているとは限りません。そもそもレッド・サークルに『レッド・デーモン』という人物はいません」


「え?どういうこと?」


「『レッド・サークル』も『レッズ』も『レッド・デーモン』も全て、我々の国のものをそなたらの言葉に変換、訳した後の呼び方です。なのでレッド・サークル内で『レッド・デーモン』と言ってもそんな人を誰も知りません」


「あ!そっか!『レッド・デーモン』には本来、本当の呼び方、名前があり、それをこっちではこっちの言葉に訳して報道された。だから私たちセントラム王国で住む人は『レッド・デーモン』で通じても、レッド・サークルでは誰?ってなるってことね」


「その通りです」


「うん、理解した。じゃ、こっちでは『レッド・デーモン』と呼ばれている人はレッド・サークルだとなんと呼ばれているの?」


「オラベラ殿が仰った特徴を合わせ持つ人は一人しかおりません。……レッド・サークル大将軍『赤鬼』です」


「え!?」



ーサムエル・アルベインー


学食にて



「サムエル様、今少しよろしいでしょうか」


食堂で我鷲丸、ウェイチェンと夕飯を食べていたら珍しい人から声がかかった。

アンバーである。

ちなみにアンバーは男子すべて『様』づけで呼んでいるため様には大きな意味はない。


「うん、どうしたの?」


「ありがとうございます。ウェイチェン様も我鷲丸様も突然すみません。お邪魔してよろしいでしょうか?」


「問題ない」

「かまわぬぞ」


「ありがとうございます。それでは三人での時間をあまり邪魔しないためにも簡潔に。クレイ様の挑戦についてです。他の内容ならわかりませんが、舞踏会のパートナーを探すということならこのクラスにも大きなチャンスがあります。ここにいる三名を始め、イケメンランキングトップ10が四人ものいるのですから」


「ふははは、よく言ったアンバー。その通りだ。英雄王率いるこのクラスの勝利は決まっているも同然だ」


オマエは率いていないけどな〜、

と内心思いながら我鷲丸の言葉を流す。


「ふふふ、はい、我鷲丸様のおっしゃる通りです。ですが、念のため作戦を立てる必要があると思っております。一度クラスで話し合いませんか?」


「俺は誘う人が決まっているが、クラスで勝利に向けた話し合いを持つのはいいことだと思う」


そう答えるウェイチェン王子。

熱いね。恋をしてるね。

ていうかあの鳥の先輩を誘えばかなりの得点だよね?

美女ランキングに入っている三年生だし。


少し黙っているとみんなも黙ってしまった。


みんなに見つめられる。

あれ?もしかして俺の返事待ち?


「『リーダー』はどう思いますか?」


あえて名前を避けてアンバーが言ったことでそうだと確信する。

意味ねぇと思うけど、断る理由もないんだよな。


「うんうん、そうだね。一度みんなで集まろう」


俺がそう言うとアンバーは立ち上がった。


「よかったです。ではリーダーの許可も取れたことですし、他の方々にも話をしておきます。この中で明日、寮に泊まらない方はいらっしゃいますか?」


「俺は寮だよ」

「俺も同じだ」

「英雄王もである」


俺らが返事すると


「かしこまりました。では明日の夜、寮で。みんなが帰宅した適当な時間に始めましょう。あと、サムエル様、他の方々には私のほうで声をかけますのでご心配なく」


「ああ、助かる」


そしてアンバーは去っていった。

この挑戦は結果が決まっている。

アンバーはそれを知らないのだと思う。

知らないから今いろいろと頑張っている。

その気持ちを無にすることはしない。

それにアンバーの人脈なら万が一っていうのもあるかもしれない。

まぁ、話し合いをするくらい誰も損はしないさ。



ーオラベラ・セントロー


アルファ寮にて


氷条くんとの話を終えて私は寮に帰り、情報を整理した。


あの後、話した内容はこうだ。


・レッド・サークルの大将軍であり、ミレニアムナイトを破ったのは『赤鬼』

・レッド・サークルには『鬼』というとても強い『妖怪』がいる。

・『赤鬼』は鬼のように強く、鬼を部下にもつその大将軍についた二つ名。

・『赤鬼』の本名は教えてもらえなかった。答えられる範囲外。

・『赤鬼』の現在の行方についても答えられる範囲外だった。


だが、最後の情報は引っかかった。

知らないのなら「知りません」って答えればいい。

『知っている』からこそ『答えられる範囲外』となるのだと思う。

考えすぎじゃないよね?

ちなみに氷条くんに『赤鬼』のことはどう思っているのかと聞いたところ。


「とても偉大な方。これ以上ないほどに尊敬しております」


と言っていた。

ちなみに氷条くんと赤鬼は知り合い?面識とかあるの?

とも聞いたが、『答えられる範囲外』だった。

ちなみにこれも同じく知り合いで面識があるから『答えられる範囲外』と私は思っている。


そして氷条くんはこうも言っていた。


「赤鬼大将軍は今この街で行われている殺人とは無関係です。彼はレッド・サークル最強とこちらでは認識されていますが、私には言わせれば彼は『世界最強』です。こんなちっぽけな殺人をする必要がない。やろうと思えば一人でこの街を全滅できますから」


氷条くんはこちらで『世界最強』と呼ばれている『ジアンシュ』先生と戦ったことがある。

それでも『赤鬼』を最強としている。

その言葉に嘘なんてないのだろうけど、

それでもジアンシュ先生が誰かに負けるのはこちらで育った人間には想像もできない。

ある意味、あの人がいるからどんな脅威が現れても人々が希望を失わないまである。

それだけの大英雄なのだ。

いざ、話してみるとそのイメージが崩れるわけだが…


そして最後に氷条くんに聞いてみた。


「『レッド』という人物は知ってる?」


「答えられる範囲外です」


だった。

ってことは知っている可能性もある。


これで分かったことは、


・今、街で殺人を犯している『赤鬼』を名乗る殺人者は本当の『赤鬼』ではない

・『レッド・デーモン』と呼ばれ、現在牢獄で捕まっているのが『赤鬼』

・名前の相違は『鬼』という単語がセントラム語になくそれをデーモンと誤訳したため

・そして、『赤鬼』を名乗る殺人者は『赤鬼』という名前を知ってる


ここに住む普通の人なら『赤鬼』なんて名前を知らない。

みんな『レッド・デーモン』と呼ぶから。

だけど殺人者は知っていた。

知っているからその名前を名乗れる。

つまりその名前知る機会があったということにもなる。

その名前を直接知ることができるのは軍の関係者や協定の集会に関わる貴族、王族。

でも、実際に私は今日まで知らなかった。

この国の王女なのに知らなかった。

貴族、王族であっても全員が知るわけでなはい。

『赤鬼』という名前を他に知れる方法……


トミー・ボイルズが殺害されたときに一緒にいた人たち。

トミー・ボイルズと一緒にいたのならその名前を聞いたことはあるはずだよね?

レッド・デーモンに捕まってたわけだし、

自分たちを捕らえた者の名前は知っているはず。

そしてまだ可能性でしかないけど、

一番可能性が高いのはクリムゾン・オウル部隊。


待って待って。

それは違う。

おかしい。

殺人者がクリムゾン・オウル部隊の一員だった場合、

なぜ自分の部隊のメンバーを殺すの?

それはありえないことよね?

生死を共にした仲間よね?


うーん、わからなくなってきた。

わかったこともあったけど。

わからないこともまだまだたくさんある。

あ、ちょっとまずい頭が回らなくなってる。

何か甘いもの。


「はい、オラベラ王女殿下様、クッキーでございます。こちらにミルクも置いてきますね」


「あ、ありがとう」


王女殿下禁止!!って言いたくなったけど、

こんな完璧なタイミングで持ってきて来られたら何も言えないよ。

ずるいなブアちゃん。


「もう考えごと終わった、オラベラ?」


ブアちゃんが持ってきてくれたクッキーを一つとって私のベッドに座るアラベラ。

というか勝手にとらないで。

今、全部食べたい気分なんだから。


「うん、今日はここまでにする」


「大丈夫?無理してない?なんかあったら言うんだよ」


エリザも私のベッドに座って言う。


「うん、わかってる。今のところは大丈夫」


「ね、明日の放課後どっか遊びにいかない?」


アラベラが言うと私は思い出した。


「ガレス先輩!」


「ガレス先輩?なんかあったの?」


私は事情をアラベラとエリザに説明をした。


「そっか。で、オラベラはどうしたいの?行きたいの?行きたくないの?」


エリザが言う。


「多分、行きたくないかな」


「なんで多分なの?」


「理由が自分でもわからなくて、何で嫌なのかよくわかってない。だから嫌かもわからない」


「だったらそれは嫌ってことだよ。断っちゃいなよ」


アラベラが言う。


「いや、そのわからないものを理解することも大事だ。いいかオラベラ、状況を考えてみて。私やアラベラに誘われたら嫌か?」


「え?嫌なわけないよ。二人とならどこだって行くよ。当たり前でしょ?」


私の返事にへへんと笑うアラベラ。

でもエリザは真剣だった。


「うん、そうだよね。そこよ。そこが大事。私たちとガレス先輩の間に違いがあるってこと。それを知ることでいろいろ見えてくる。例えば私たち以外にもオラベラが『行きたい』もしくは『行くのが嫌に感じない』人はいる。アンジェリカ姉さんやセレナ先輩とかは?」


「うん、行きたいってすぐ思っちゃう」


「うん、だよね。じゃ、サムエルとかは」


「ふふ、『行きたい』とはならないけど行くよ。ははは、そこでサムエルが出てくるとかうける」


私がそう言うとエリザはちょっとむくれた顔をした。

ごめんなさい、サムエル好きなの一瞬忘れてました。


「……じゃ、続けるよ。氷条くんは?」


「あ、行く。なんか普通に『行く』ってなる」


「ちょっと!!」


アラベラが怒る。


「違うって。何も起きないからこそ大丈夫というか、アラベラは氷条くんのこと気になってるってわかるし、氷条くんもアラベラのこと気に入ってそうだからなんか安心して行ける」


「そ、そっか。ってうち、氷条くんが気になってるとか言ってないんですけど!」


「はいはい、今はバカベラじゃなくオラベラの相談だからバカベラは黙ってて。というか言わなくてももう全員わかってるよ。ね、みんな?」


エリザは振り返って話を聞いていないフリをしているブアちゃんとスラビちゃんに聞いた。

二人は少し慌てながらも、


「は、はい、そうなのではないかと薄々思っておりました」

「うん、僕はもう付き合ってるのかと」


「むむ!!付き合ってない付き合ってない!格好いいなと思ってるけど、それだけ。いやそれだけじゃないんだけど〜」


「だからバカベラの惚気はあと」


「うるさいな赤毛魔女!自分だってサムエルのことでさっきちょっと怒ったじゃん!」


二人が喧嘩しそうになったから、

喧嘩するならこの話はもうしないと言ったら落ち着いてくれた。

こんなにこの話をしたいんだ二人。

普通は中々止まらないのに。

まぁ、いいや。


「じゃ、続けるよオラベラ。ウィンスターくんは?」


「うん、大丈夫。一緒に行こうってなるね」


「ウィンスターくんちっちゃくてかわいいもんね。普通にいろいろ連れ回したい」


アラベラが言う。


「じゃ、エドワード」


「嫌だ」

「絶対無理」


いつの間にかアラベラも答えるようになった。


「セバスチャン先生」


「行きたい!」

「行く!」


「テッド兄さん」


「……」

「行く!」


アラベラは即答だったのに私は答えられなかった。

どうして?


「オラベラ、テッド兄さんだよ?行きたくないの?」


驚いたアラベラが聞く。


「わからない。なんかすぐに『行く』と言えない」


「それは前ならすぐに『行く』だったのが今ではそうじゃないってことだよね?」


「……うん」


「ということは、人によって違うということよ、それと少なくとも入学したときと今のオラベラの心境だといろいろ違うということがわかったね。こういうの繰り返してなぜこの人は大丈夫で、どの人がダメなのかを自分で理由を少しずつあてはめていけばいい。はい、じゃ、これで検証は終わり。ガレス先輩のことは私たちに任せて、二人じゃなくて『みんなで』行けば嫌じゃないでしょ?」


「あ、うん、それなら嫌じゃない」


「だったら私たちも行くことにする。ガレス先輩は二人でって言わなかったんでしょ?みんなで行くってことになっても大丈夫なはずよ。というかダメでもついて行くし」


「ははは、うん、ありがとう」


無事問題解決したか思いきやアラベラがすごく嫌な顔をした。


「はぁ!?何で終わりなの?何でそこで終わりなの?最後にあの人はどう?を聞くためにここまで引っ張ったんじゃないの?それを最後に聞いてオラベラの照れる顔を見るんじゃないの!?」


「何のことだか〜、もう寝るよバカベラ。おやすみ、オラベラ」


エリザがそう言うと光を消灯しに歩いた。


「うん、おやすみ」


「ね!何で!?なんでー!?」


アラベラは最後まで不満げな顔していた。


エリザは優しいな。

そしてアラベラが言った『最後にあの人』

……わかってるよ。


部屋の光が消えた自分のベッドの布団の中で、

顔が真っ赤になりながら、


(……行きたい)


と思う私だった。



・5月3日(金曜日)


パラディン専攻授業にて



「うん、やっぱりすごいなお姫様は。もう完全復活したね。今週の月曜に剣を触れなかった人にはとても思えないよ」


ウィリアムくんがそう言ってくれる。

褒められて嬉しい。


「あ、ありがとう。ウィリアムくんのおかげ」


自分でもわかるほど顔が熱くなるのがわかる。


「ってことでもう大丈夫。これでまた普通に戦えるようになったはず」


「うん、やってみる」


「実戦しろって言ってるわけじゃなくて、実戦になっても問題ないって意味だからね!勘違いすんなよ」


「わ、わかってるって!私を戦闘狂みたいに言わないでよ!」


「いや、そこまでは言ってねぇよ!とんだ比喩だよ!」


「はいはい、そこの痴話喧嘩はおしまい」


ザラサとの特訓を終えたアンジェリカ姉さんが言う。


「姉さん!」


「ボス!ザラサ今日も頑張ったのです!おねいさんに『スマイル』を教えてもらったのです」


「おお、すごいな。おねいさんの『スマイル』を教えてもらったのか。男どもはイチコロだろう。だが許さん。とりあえずその笑顔をオレに見せろ」


おそらくわかっていてわざとらしくウィリアムくんが言う。


「違う!『スマイル』じゃなくて『スマイト』!!魔力を乗せて爆発させる技!教えたでしょうザラサ!」


訂正するお姉さん。


「そうなのです、それなのです!」


もうザラサちゃんは本当にかわいいな。

ウィリアムくんと一緒にいるの見ているだけで和む。


「ベラベラ、ザラサ頑張ったのです」


私の前に近づき犬座りをするザラサちゃん。

そのまま動かずに私を見つめ続ける。

え?これはどういう?

そう思っているとウィリアムくんがザラサちゃんの頭を撫でるように仕草をする。

え?私に褒めてもらいたいってこと?

恐る恐る手を伸ばし、ザラサちゃんの頭を撫でた。


「よしよし、頑張ったザラサちゃんは偉いね」


褒めてやると、ザラサちゃんの尻尾は高速でフリフリした。

そのあと、ザラサちゃんは飛んでウィリアムくんに抱きついた。


「きゃっは!!ボス、見たのです?ベラベラが褒めてくれたのです!ザラサをいい子いい子したのです!」


「ははは、うん、見たみた。よかったね」


私に褒められただけであんなに喜ぶの、ザラサちゃん?


「よかったね。義娘に正式に認められて」


「姉さん!?何を言っているんですか」


「だってそうでしょう?あれやどう見てもパパとママと娘よ」


「ち、違いますってば……」


抑えきれないほどに胸が高まる中で彼の声が聞こえた。

ある意味助かった。

そのままだったらちょっと気持ちを抑えられなかったかも。


「オラベラ、もう帰りの準備はできたかい?この後、正門で集合でどうだい?」


ガレス先輩だった。


「はぁ?どういうこと?」


アンジェリカ姉さんがガレス先輩を睨み、怒る。


「今日はオラベラと出かける約束しているのだ。アンジェリカには関係ない話さ。ささっと帰ってもらって構わぬぞ」


姉さんがさらに怒って何かを言おうとしたところに


「オラベラお待たせ」

「オラベラお待たせ」


アラベラとエリザが到着した。


「ガレス先輩、今日は誘ってくれてありがとうございます」

「ありがとうございます、ガレス先輩」


「どういうことですか?」


驚いているガレス先輩にエリザが言う。


「オラベラから先輩が私たち一年を先輩が遊びに誘ったと聞きまして、専攻授業が終わってすぐに来ました。今日はよろしくお願いします」


「いや、僕は」


「そうだったのね、ガレス。いきなことをするじゃない。だったらここは私もアルファの先輩として参加させてもらうわ。全部をガレスに出させるのも悪いしね。じゃ、早速行こう」


まだ驚いているガレス先輩に畳み掛けるように言う姉さん。


そして、この一部始終見ていたウィリアムくん。


「一言説明していきなさいよ。変な誤解されて二人がギクシャクしたら困るのは私なんだから」


アンジェリカ姉さんにそう言われ、

私はウィリアムくんのところまで歩いた。


「あ、あの昨日、先輩に誘われて、それで断ろうとしたんだけどタイミング悪くて、それでどうしようと思っていたらエリザとアラベラが一緒に行ってくれることになって。それならまだいいかなと思って。そしてアンジェリカ姉さんも来てくれることになって。それで、あの、何というか、あれ?私は何を言おうと……、ええと、とにかく、先輩とは何でもないんです」


あれ?私って何を言ってるの?

なんかすごく言い訳してるけど、

ウィリアムくんにとっては私はただの友達だから別に勝手にいけよって感じよね?

むしろ何でそんな説明すんの?とか思ってそうだよね?

何してんだろう、私?

あー、恥ずかしい。


「そっか、よかった。一瞬めっちゃ嫌な気分になった」


え!?

それってどういう、


「何もないのだろう?だったら行って来なよ」


「うん、行ってくるね」


「次はちゃんと断りなよ」


「う、うん。そうする」


「じゃ、またな」


「うん、またね」


ええと、

一瞬めっちゃ嫌な気持ちになったってなに?

次はちゃんと断れってなに?

嫌だったってこと?

私が先輩に誘われて嫌だったってこと?


「オラベラ、どうしたの?顔真っ赤でニヤニヤしてるけど」


アラベラに聞かれる。


「……何でもない」


ああ、めっちゃ嬉しい……



ーサムエル・アルベインー


夜の9時頃を回ったところで課外活動からウィリアムたちが帰ってきた。

彼らがシャワーを浴びて一息をついた後にロビーで久しぶりのオメガ一年全員集合の会議が始まった。


ウィリアムとオプティマスが喧嘩をせずに一つの部屋にいるところを見ると、

さすがアンバーって思える。

そもそもアンバーの頼みでなければウィリアムはオプティマスがいることを知っている上で参加することさえしないのだろう。


「皆様、本日は集まり頂きありがとうございます。クラスリーダーのサムエル様に許可を頂きまして私、アンバー・スチュアートが話し合いがしたいため集まって頂きました。話した内容も昨日お伝えした通り、挑戦についてです」


アンバーは紫色の美しい瞳に、豊満な胸、整った顔、

いやらしさは一切ないが、体の曲線がわかる服を好む。

簡単に言うならば清楚系なのにエロさが少し溢れだすような絶妙なバランスを持つ。

おそらくこの国、いや大陸で一番モテるタイプだ。

そう、容姿は完璧なのだ。

声も綺麗で聞いているだけでいい気分になる。

全員が彼女の言葉に耳を傾ける。


「私に調べによると、挑戦への参加資格を持つ一年男子50人のうちほぼ全員が参加をする見込みです。つまり1000ポイント以上がこの挑戦で動きます。もうご存知かもしれませんが6月に行われる最初のクラス対抗試験。学園の歴史において一年のオメガクラスは必ず最下位となって一人が退学しています。歴史を繰り返す気はありませんが、想像してみてください。仮にそうなった場合、1000ポイントをオメガの誰かが所有していれば?」


「退学を免れることができる」


オプティマスがすぐに返事をした。


「その通りです、オプティマス様。そしてその挑戦の内容が我らオメガクラスにとって有利なものです。最高のレディをホームカミングパーティへお連れする。それが可能な殿方がここに7名もおられます」


アンバーはイケメンランキングに入っていないウィリアム、ブヤブ、フェリックスを省くことなく7人全員に可能性があるように話した。

そういうところが誰にも嫌われず、

みんなに好かれる要因の一つだろう。


「私は皆様なら十分にこの1000ポイントを勝ち取ることができると思っております。もちろん、このアンバーも最大のサポートをしましょう」


「それはありがたい話なのだが、申し訳ない。昨日言った通り、俺はもう誘う人が決まっている」


ウェイチェンが言う。


「はい。存じ上げております。三女神の一人『アエル・フェザリス』先輩ですよね?」


「……そうだ」


なぜそれを知っている?という顔でウェイチェンは驚いているが、

アンバーの情報網ならそんくらいすぐに調べられる。

ウェイチェンと鳥先輩が一緒にいたとこを見ている人は多いのだから。


「心に決めた人がいる場合はそれに従ってください。問題ありません。そうではない人で頑張りましょう。そしてウェイチェン様、アエル先輩は三年生で美女ランキング4位。かなりの得点です。十分優勝が狙えます。もちろんそういう目的でウェイチェン様がアエル様をお誘いするわけではないとわかっておりますが」


「まだ、一緒に行くと決まったわけではないけどな」


「大丈夫です。信じております。話を進める前にこの挑戦における誰を連れていけば何得点を得られるかというシステムを理解する必要があります。

・学年に応じて、学年と同じポイント。

・一年生なら1ポイント。五年生なら5ポイント。

・他クラスならこのポイントは2倍となり、

・美女ランキングに入っていればプラスで追加ポイントです。

 美女ランキング6位〜10位でプラス3点、

 2位〜5位で4点、

 1位で5点です。

ですが、この美女ランキングはそこまで影響はしません。なぜならこの追加ポイントを足しても五年生の他クラスの10得点を超えられないからです。アエル先輩を含む三女神は基本の点数三年生と他クラスで考えた場合に6得点となり美女ランキングポイントを入れても10点となります。五年生の他クラスと同得点になります。他に美女ランキングに入っている二年のアルフェリス先輩や私たちと同学年のオラベラ王女殿下は学年が低学年であるため得点は大きく伸びません」


アンバーもこのランキングの8位だが、

そのことには全く触れなかった。


「ですが、四年生以上の高学年かつ美女ランキングに入っている方が2名おります。この2名においては得点が10を超えます。四年のエリヴィナ先輩と五年アルドニス先輩です。四年のエリヴィナ先輩は11得点、アルドニス先輩においては15得点となり、誘えれば優勝が決定します」


「うむ、さすが英雄王のダンスパートナーである」


一度アルドニス先輩と踊ったことで調子に乗る英雄王。


「ただし、この2名を普通の一年生が舞踏会に誘えるのはほぼ不可能と思われます」


「それはどうしてなんだ?」


オプティマスが聞く。


「私が調べたところ、この2名は舞踏会には参加するものの、誰かのパートナーとして一緒に参加したことは一度もないのだそうです」


「そうなのか」


「だが、可能性はゼロではない。特にオプティマス様がいればなおさらです」


「どういうことだアンバー?」


「オプティマス様はイケメンランキング3位に選ばれただけでなく、この二人とも非常に親しいと存じております」


「非常にってほどではないと思うのだが」


「オプティマス様にとってはそうかも知れませんがこの2名が男子と仲良くすること自体が稀なのです。私は可能性がとても大きいと考えています。なので私が提案する作戦はこうです。この挑戦10得点を取れば負けはない。おそらく10得点を獲得した方々で山分けになるでしょう。なので他の6名には10得点を目指してもらいます。そして優勝を賭けてオプティマス様にはエリヴィナ先輩とアルドニス先輩を誘います。どちらかが成功すれば優勝はほぼ間違いなしです。もちろん他の皆様も私が知らないだけでエリヴィナ先輩とアルドニス先輩と仲が良いのならトライはしてもいいと思います。ですが、この挑戦の影響でこの2名は多くの誘いを受けるはずです。彼女らのためにも彼女らを誘う回数は減らしたほうがいいと思われます。どうでしょうか?」


これがクレイによる罠ではなく、

普通の勝負であったのならとてもいい作戦だ。

優勝さえ見えてくる。

だけど、残念ながらそうではない。

クレイは優勝を確信しているからこそここまでのことをしているのだ。

でも、待てよ。

優勝を確信している?

ということはあの二人のうちのどれかをおさえたってことか?


アンバーが話し終わった後に一番最初に動いたのはウィリアムだった。


「オレは行きたい人と行く。それはブヤブも同じだ。話を聞いてやる義理は通した。オレらはもう休ませてもらう」


ウィリアムがそう言うと既に寝ていたザラサを抱え男子部屋へと去って行った。

ウィリアムに抱っこされるザラサは大きな赤ちゃんのようだった。

もうあれはパパのようじゃなく完全にパパだよね?


「他の皆様はどうでしょうか?」


「うむ、英雄王、クラスのために頑張るぜ」


我鷲丸が言う。


「俺は元々誘うと思っていた相手がたまたま10得点だっただけだ。でも、それがクラスの役に立つのなら」


ウェイチェンが続く。


「私もできる限りのことはしよう」


オプティマスも承諾する。


「俺はこう言うのはいいかにゃ。柄じゃないのにゃ。舞踏会は踊って、飲んで、食べるとこだにゃ。こういう余計なことは持ち込まなくていいのにゃ。それに金にならないなら頑張る気にはならないのにゃ。俺はパスだにゃ」


フェリックスは答える。


アンバーは最後に俺を見た。


「……俺はどうするかを考えたい。アンバーがクラスのためを思って考えてくれたことはわかっている。だけどすぐにその作戦に乗るとは答えられない。しばらく検討する」


アンバーは一切怒ることはせず、

話を聞いてくれたことに皆に感謝した。


「では、我鷲丸様には高得点になるうえ、かつ承諾してくれそう人の情報を教えします。サムエル様も答えが出て私の作戦に参加してくださるのでしたら情報を提供します。遅くなればなるほど確率が下がることだけはご理解ください」


「うん、わかった」


「みんな頑張ってね。うち何もできんけど応援してるよ」


最後にシドディがそう言ってその場は解散になった。


部屋に戻どろうとしたとき、

アンバーとオプティマスが話を続けた。

俺は隠れてその話を聞いた。


「アルドニス様には昔とても気になっていた方がいたようでございます。今年学園を卒業された『ヘンリー様』という方です。在学時は私たちと同じオメガクラス。現在はこのセントラム王国でレストランを経営されているようです。私が調べた情報によりますとアルドニス先輩はヘンリー様の頼みを一度も断ったことがないのだそうです。ヘンリー様がアルドニス先輩に何かを頼むこと自体は少なかったようですが、オメガクラスがトラブルを多いクラスだったことで、アルドニス先輩は何度もオメガクラスの不祥事を生徒会長の力を使ってもみ消したと噂をされています」


「それは学園の規定に背くことなのでは?」


「はい、仰るとおりです。つまり、ヘンリー様のためならアルドニス先輩はそこまでのことをするのです。そのヘンリー様がアルドニス先輩にオプティマス様と一緒にが舞踏会に行ってあげて欲しいと頼めばアルドニス先輩は承諾すると思われます」


「それであれば私じゃなくとも」


「いいえ、ヘンリー様に頼まれれば誰とでも行くのはそうでしょうが、少しでも相手が気の知れた仲のほうがいいに決まってます。アルドニス先輩もオプティマス様となら安心して舞踏会に行けるでしょ。それにオプティマス様と舞踏会に行きたくない女子はおりません。なのでこれはオプティマス様だから成立するのです」


オプティマスは少し悩みながらも、


「わかった。どう動けばいいかを教えてくれ」


「私に任せてください。ここでオプティマス様がポイント大量獲得ともなれば、オプティマス様のクラス本リーダーも見えてきます」


わかっていたことだが、

それもアンバーの狙いのうちなんだな。

いいんだけどな。

俺はリーダーに興味ねぇから。


それしても『ヘンリーさん』か。

あのテッド兄さんが『ダチ』と呼ぶ数少ない男の一人。


果たしてアンバーの狙いはうまく行くのだろうか。


何とか1話を2月内に間に合いました。

いつも読んでくださって感謝しています。

次話もよろしくお願いします。

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