第27話:神秘と真紅との初遭遇
・4月29日(月曜日)
ーサムエル・アルベインー
今週末はなんというか『クレイジー』だった。
オラべらの『ヤンチャ姫』時代に巻き込まれたトラブルを入れても今までで一番大きなショックを受けた。
『仮面をした三人の変質者』
今、学園をはじめとして、
ホワイトシティはこの話題でもちきりだ。
そのうちの一人が今起きている連続殺人事件の犯人と見られている。
そもそもホワイトシティをはじめ、
セントラム王国には『ヴィジランテ禁止法』というものがあって、
顔を隠して活動はしてはならない。
どうしても何かしらの理由でそうしなければならない場合は、
国へ申請して、厳しい審査を通るか、
もしくは王族以上の権力者の特別許可が必要だ。
数年前の『盗賊殺戮スレイヤー』が犯した数々の事件による影響でできた法律だ。
つまり、連続殺人事件の犯人であってもなくとも、
仮面をつけての活動は許されていないのである。
三名とも初登場だったこともあり、
まだ指名手配班にはなっていないが、
このまま何度も姿が目撃されればそう遠くない未来にそうなるだろう。
3人とも対面した我鷲丸はことがあってから昨日の昼頃まで衛兵に事情聴取されたあと、
学園に帰ってからでも先生に事件の内容を聞かれ、結局一日中拘束されていた。
流石の英雄王も気力をなくし、
今日の朝もなんか元気ない様子だ。
あれ?オメガ側に来るのが珍しい人が近づいてきた。
「我鷲丸くん、元気?なんかいろいろと大変だったみたいだね」
オラベラが言った。
「ん?うん、疲れた」
「ははは、そっか。ね、今日の放課後って時間ある?少し二人でお話がしたいんだけど」
「お話!?二人で!?」
驚いて我鷲丸が言う。
「うん、どうかな?」
オラベラ…。
本人は無自覚なんだろうけど、
その笑顔で頼まれたらほとんどの男子は断れないぞ。
俺は断るけど…。
「うん、時間ある!」
「やった!嬉しい!じゃ、放課後すぐにこの大教室に集合ね」
「うん、わかった!」
そしてオラベラが去っていった。
「ふふふ、この英雄王にモテ期が来たようだな」
いや、それは違うぞ。
オラベラに限ってそれは違うぞ……ってもう言えねぇのか。
ウィリアムのことがあるし。
でも悪いけど、我鷲丸が思ってるようなことじゃないと思う。
だけど、女の子にああいう感じで言われたら勘違いする。
それはオラべらが悪い。
でもまぁ、なんか我鷲丸元気出たみたいだし、
放課後まではこのままほっとくか。
我鷲丸が元気出たところでセバスチャン先生が前に出た。
この時限は特別授業とのこと。
内容は知らされてないけど、一年の担任が全員いる珍しい状況だ。
全員といっても我らが担任、世界最強剣聖ジアンシュ様はいないんだけどね。
もういないのが当たり前過ぎて、驚きもしない。
その代わりクイーンさんはちゃんといる。
「本日の授業内容は全て機密事項となる」
いつもと違い、少し強い口調でセバスチャン先生が言った。
授業の一部やこちらの質問に対する答えに「これは機密事項となりますが」と先生たちが言うことはあったが、授業丸ごとは珍しい。
そのこともあってか、大教室内が少しざわついた。
「本日はミレニアム騎士団、ミレニアムナイトの力の根源の部分に触れる」
だけど、セバスチャン先生のその言葉でみんなは黙り、聞く姿勢を整えた。
「この世界にはエネルギー源は数多ある。人はそれらを利用し発展してきた。その中でも魔力は最も汎用的に使われており、人々の生活に欠かせないものとなっている。光を灯すランプから、水道、肉を保存するための冷凍や植物が大きく実るためなどに魔力は使われる。その大きな汎用性から他に存在するエネルギーは忘れられがちになるが、他のエネルギーも実在する。現在テスラコーポレーションを始めとする企業は魔力に頼らない風、火、雷のエネルギーを使用した研究も進んでいる。だが、今日お話しするのはそれらの一般的なエネルギーではなく、特殊な、特別なエネルギーについてである」
セバスチャン先生の言葉を聞き逃さないようにほぼみんなが集中して聴いている。
いつも不真面目なクレイ一味も今回はちゃんと聴いている。
そのため、ウィリアムの膝の上で寝てしまっているザラサと、
全く授業に興味がない状態でそのザラサの頭を撫でているウィリアムが目立つ。
「この特別なエネルギーには多くの呼び方はあるが、私たちはこう呼んでいる『神秘』」
神秘?なんかすごい言葉が出たね。
「神秘には3つのタイプがある。『霊力』『妖力』『幻獣力』だ。この3つのエネルギーは魔力と違って全ての生命が持つものではない。『幻獣力』は獣と獣人が持つことがあり、『霊力』は人なら誰しもが持っている。ただ、持つのと扱えるのは違う。『霊力』を扱えるようになる人はごくわずかである。それこそレベル5以上の魔術扱えるよりも貴重だ。そしてこの力を扱えるものはその時点で世界では強者となる。冒険者などでもランク7を超えるものは霊力を扱えるものが多く、この力を扱えるかどうかがランク7以上になるための隠し条件となる。同じく、危険度についても危険度7を超える存在は神秘のどれかを使える場合が多い。神秘を扱えるものとそうではないものには圧倒的な力の差が生まれる。いかに強かろうと神秘を扱えるものにそうじゃないものが勝つのは非常に困難である。そして、我らミレニアム騎士団に所属するミレニアムナイトの全員が『霊力』を使用できる。危険度7以上の相手はミレニアム騎士団案件と言われるのもこのためだ」
なるほど。
霊力……。
ダニロ兄さんが本気出すときに使っている力が霊力ってことか。
「ちょっと待った!それじゃどんなに鍛えていたとしてもその神秘を扱うものに勝てないように聞こえる。だが、ポレミガイア帝国の戦士はそんなものなど関係ない!我らは精神と身体を極限に鍛え勝利を掴む!神秘があろうが、なかろうが我らは敵を葬ってみせる!」
ええと、誰だっけ?
ガンマのムキムキの男が言った。
周りをそれを少し笑った。
「ニコラウス君、静粛に」
ああ、そうだ。ニコラウスだ!
って話したことねえからわかんねぇ。
「失礼をした」
あんなに大きな声を出したのにすぐに引き下がったよ。
「神秘、特に『霊力』を扱えるようになるのと、精神と体を鍛えるのは無関係ではありません。むしろ『霊力』を目覚めさせるために精神と体を鍛えることが基本となります。そのため、それを行うポレミガイア帝国の戦士たちには『霊力』を扱えるもの多くいます。あなたの父親、戦士『ニカラトス』も然りです」
「ははは、そうであったか。早とちりした。すまぬ」
ニコラウス、なんか豪快だけど素直なやつだな。
「続けます。先ほども話に出たように、『霊力』を扱えるようになるためには精神と体を鍛えるのが基本となります。ミレニアム学園において戦闘授業が必須科目であるのはこれが理由です」
「つまり何だ?この学園の目的は生徒の『霊力』を目覚めさせ、ミレニアム騎士団のナイトになれるようにするのが目的だってか?」
クレイが言う。
「いいえ、それは違います」
「はあ?ここは本来ミレニアムナイトになれる『もの』を育成するための機関。んでオマエらミレニアム騎士団はその『霊力』を扱う集団。何がちげえんだよ?」
「先ほども言ったように人であれば『霊力』を持ちます。ないということはありえません。ただ、それが目覚めるのはごくわずかであり、扱うとなるとさらに人数が減ります。ですが、この学園は君たちの『霊力』を目覚めさせようとはしていません」
セバスチャン先生は一度話を止めて、クレイを見つめた。
「この学園に入学できる生徒は全員、既に『霊力』が目覚めています」
その言葉に大教室がざわめいた。
半分くらいは「どういうこと?」って顔をしているが、
残り半分は驚かない。
ベータのエルダスやリルヴィア、
ガンマのフォーヤオにアマゾネス二人、
デルタのハッシャシン、
オメガではウィリアムとチェンが驚いていないように思えた。
そして、レッド・サークル出身の龍次郎もそうだった。
「この学園に入学するためには霊力に目覚めていなければなりません。それが絶対条件であり、入学方法が何であれ、霊力に目覚めていなければ入学ができません。霊力、神秘について初めて知るものも多いと思うが、それは多くの地域で神秘はあまり知られていなく、魔法のように扱われることが多いためです。ミレニアム国家連合では『神秘』は極秘情報とされており、一般の人には情報が行かないようにしています。ミレニアム国家連合出身の者が『霊力』を含む『神秘』の情報が少ない、全くないのはこのためです。逆にいえば、そうじゃない地域にではこの神秘についての情報を持つところもあります。例えば、テーメスシラ王国や、暁島、もといレッド・サークルでは『霊力』は一般的であり、それらについての教育はされており、特有の呼び方も持ちます。ルーシーさん、レネさん、テーメスシラ王国では『霊力』のことをどう呼んでいるか答えていただけますか?」
アマゾネスの二人が質問を受けたが、
ウィリアムに負けたルーシーって子は嫌な顔をし答えなかった。
ルーシーが答えないでいると隣にいるもう一人の子が答えた。
「スピリット・ガーディアンと呼んでいます」
「ありがとうございます。氷条くん、よろしければ暁島ではどう呼んでいるか教えていただけますでしょうか?」
氷条はすぐには答えずに少し考えたが、
「霊気」
と一言だけ告げた。
「ありがとうございます。このように地域によって神秘に関する名称の違いがあります」
セバスチャン先生は話を続けようとしていたが、
アラベラが何度も大きく手をあげて、
これでもかっていうくらいにアピールしていた。
「アラベラさん、どうぞ」
「ええと、ええと、ええとね、あれ?ええと、そう!霊力が既に目覚めているって言ってたけど、うちそんなの感じたことないよ。いや、ないですよ。だからそう言われても信じられないというか……、本当に目覚めているの?あと、さっき体とか精神を鍛えることによって霊力を目覚めさせると言ってたけど、うちって鍛えたことないよ。いや、最近は龍くんに鍛えてもらっているけど、それは学園入った後からだし、先生の話だと入る前にもうそうだってことでしょ?おかしくない?ですか!?」
「はい、おっしゃる通り、通常は精神と体を鍛えることで『霊力』を目覚めさせる可能性に至ります。ですが、生まれたときから、もしくは幼くして、『霊力』に目覚めている状態の人がわずかにですが存在します。君たちはそれらに当たる特別な存在ということになります。そして感じたことがないことについてですが、それは『霊力』が君たちの生活の一部となっていて自分自身が気づいていないだけです。たとえば、人より反応が早かったり、他のものが気づかない物事に気がついたり、数秒先の出来事が見えたりはしたことがないですか?ほんの一瞬の出来事だと思います」
「……ある、かも」
「思い当たる内容がありそうですね、他のものもそうでしょう。ですが、これらの当たり前に君たちが行っていることは他の人が血が滲む努力の末に辿り着くことができる力なのです」
「マジか!?うちらってすげぇじゃん!このままいけばみんなミレニアムナイトになれるっしょ」
アラベラは喜んで言う。
教室にいる同級生の多くも喜ぶ。
ただ、それは違う。
ミレニアムナイトになれるのは10年に一人のペース。
ほぼなれないのが正しい。
「わたくしも質問よろしいかしら?」
ロナウド王国第一王女レジーナ・ロナウドが手を上げる。
「レジーナさん、どうぞ」
「わたくしたちが生まれ持って、もしくは幼くして『霊力』に目覚めた特別な存在だということは理解できました。でしたら、毎年ミレニアムナイトになれる人がいないのはなぜでしょう?それとミレニアムナイトはこの学園に入学する以外に運命に導かれて、赤子を引き取り、その赤子をミレニアムナイトに育てるのが本来のミレニアムナイトになる方法だとお聞きしましたわ。幼くして霊力に目覚めたわたくしたちはなぜ、本来の方法で選ばれなかったでしょう?」
「共有できない内容もありますので、答えられる範囲でお答えします。ミレニアム学園はミレニアムナイトを育成するための機関ではありません。ミレニアムナイトの素質ある者に最後のチャンスを与える場所です。つまり、レジーナさんが言う、本来の方法で選ばれる基準に達する機会を与えて、達したらミレニアムナイトに迎え入れます。達しているかどうかを測るのがクラス対抗戦を優勝したら挑む権利が与えられるミレニアムナイト選抜試験です。お答えできるのはこの程度です」
「つまりは入学する学生の多くはその基準に達することなく卒業を迎えると言うことかしら?」
「その通りです」
「ですが、素質があるのに基準を満たさないのはそちらにも非があるとわたくしは思うわ」
「それも仰るとおりです。ミレニアム学園は満たすべき基準を教えません。霊力を含む神秘に関する情報もほぼ与えません。こういった神秘について教える『特別授業』はわずかです。その中で自ら足掻き、調べ、研究し、基準を満たせた者だけが、ミレニアムナイトになれる権利を得るのです」
「ふん、納得できかねる方針ですわね」
セバスチャン先生はレジーナ王女の最後の一言に返事をしなかった。
「私もよろしいですか?」
「オラベラさん、どうぞ」
「ミレニアムナイトになるのには自ら足掻いて、ミレニアム騎士団が求める基準に達しなきゃいけないことはわかりました。ですが、人々に『神秘』や『霊力』について教えないのはなぜですか?そういった教育があれば、その基準を満たせる人はもっと出てくるかもしれないし、それに何より、そういった『力』があることを知れば、人はそれを理解し、それと直面したときに、適切な対処が取れるのではないでしょうか?」
「そちらについては意見の違いがあると言うのは理解できます。オラベラさんのような考えを持つ国々もあるのは確かです。ですが、人は理解できない力を恐れる側面もあります。一人が受け入れることができても、集団が受け入れるとなるとまた話が違います。『魔法使い』がいい例です。『魔法使い』が自分が魔法使いだと明かさないのは有名な話です。それには様々な理由があると思いますが、主な理由は何かわかりますか」
「……力を悪用されないため」
「そうです。そういう力があると人が知れば、その力をいいことに使おうとする人ももちろん出ますが、悪用する人も出てきます。ミレニアム国家連合は情報を封鎖することでこの力を悪い目的のために利用しようとする人が出るのを防ぐという考えの元でやっております」
「でも、それは隠し事をやっているのと同じですよね?根本的な解決を避けています」
「仰る通りです。私もそう思っております。ですが、私はミレニアム騎士団に所属する身、その決まりに従わなければなりません。ですが、いずれミレニアム国家連合に所属する国々の代表がその方針を変えてくれることを願っております」
まるで、オラベラにそれを託すかのようにセバスチャン先生は言った。
その後もたくさんの生徒が質問をし、
気づけば授業は終わっていた。
だけど、有意義な情報はオラベラの質問までだったかのように思う。
有意義と言っても、
『神秘』『霊力』『妖力』『幻獣力』っていう言葉を聞いたに過ぎない。
具体的にそれがなんなのかは全く語られていない。
それに次の特別授業までは神秘については教えてはくれないとのことだった。
謎が多すぎる。
というかほぼ『霊力』の話ばっかじゃん!
『妖力』と『幻獣力』についても知りたかったんだけど。
はぁ、しょうがない。
次の特別授業まで待つか。
いや、……自分で調べるか。
ーオラベラ・セントロー
・専攻授業にて
「じゃ、ゆっくり行こう。焦らないでね、最初はいつもより遅くでいい。一回振って見て」
ウィリアムくんが言う。
私が彼に怪我をさせた事件から初めて彼と再度組むことになった。
ガレス先輩には頭を下げて、謝罪した。
けど、ガレス先輩は本当にいい人で笑顔で承諾してくれた。
そして、これから行うのは私のリハビリ。
「じゃ、じゃ、行くよ」
「うん、来い」
ゆっくりと剣を振る。
縦、横、縦。
「うん、いいぞ。じゃ、今のと同じ動きでもう少し早く」
彼の指示通りに行う。
本来、私は教えなきゃいけない側なのに……
でも、剣は振れている。
あんまり支障はない感じがする。
最初は手が震えていたが、大丈夫かな?
「うん、OK。じゃ、次はオレを怪我させた時のスピードと重さで行こう」
「えっ?それは……」
「大丈夫。今の縦、横、縦のコンビネーションだけでいい。それだけでいいからあんときと同じスピード、パワーでやって」
怖い……
もう傷つけたくない。
いやだ、彼になんかあったら嫌だ。
そう思いながら剣を振った。
「ははは、さっきより遅いし、力も入ってないよ」
「え?でも私はさっきより力入れたよ。早く振ろうとも意識した。嫌だったけど……」
「うん、それがトラウマであり、自分でコントロールできない恐怖なんだ。それをどうにかしないといけない」
「そ、そっかぁ……」
大丈夫だと思ってたけど、やっぱりダメだったんだね私。
この状態であの仮面の男を追いかけていたらどうなってたんだろう……。
ウィリアムくんに止められてよかった。
でも、早く、強く振れる気がしない。
体が勝手にブレーキをかけちゃう。
「大丈夫。まだ日は浅い。本当はあの後すぐにリハビリをしたほうが良かったけど、まだ間に合う。大丈夫。信じて」
「うん、信じる」
彼の信じてっていう言葉に私は反射的に返事をした。
だって、信じてるもん……。
でも、なんでリハビリとかそういうのわかるんだろう。
聞いてみよう。
「ね、なんでまだ間に合うとか、すぐにリハビリをした方がよかったとか、そういうのわかるの?」
「経験。訓練中に大事な人を大怪我させた人を見たことあるし、実戦で味方の判別ができずに間違って友を傷つけてしまった人も知っている。どちらも責められない、悪い人がいないとシチュエーションであっても害を与えたほうの心は大きく崩れる。でもそこで大事なのはすぐにその恐怖に立ち向かうことだ。訓練の最中だったら、怪我させた相手を無理やり立たせてでも再度立ち合わせる。実戦なら、そのままその者の近くで戦わせる。そうすることで不思議と体は恐怖から脱し、通常状態に戻る。けど期間が開くと、その逆で気がづくと武器が振れなくなったり、体はどこも悪くないのに弱くなったりするんだ」
「そう…なんだ」
実戦ってなに?ね、実戦ってなに!?
ちょっと待って、ああ、もうそれどころじゃないというか。
ふー、ふー、落ち着いて。
ウィリアムくんが普通じゃないのはわかってたことでしょ?
信じてるんでしょ?
だったら、彼の過去は今はいい。
リハビリに集中しよう。
「じゃ、来て。本気を出そうとしなくていい。ただ力まない程度の最大速度を出してみて、さっきのコンビネーションでね。それ以外はやってこないでね」
「うん、わかった」
その後も彼の指示に従い、私は剣を振った。
授業が終わる頃にはほぼ全力の速さと重さでウィリアムくんを相手に剣を振れるようになっていた。
「よし、お疲れ。いい感じ。今日はこんなもんでしょ」
彼はそう言って拳を握って自分の胸の前にあげた。
あっ!!これ知ってる。
拳と拳をぶつけるかっこいい感じの挨拶。
私も拳を握って彼の拳に当てた。
「イェーイ!」
と大きな声で私は言った。
「イェーイ?」
「あれ?イェーイじゃない?なんか違う?ご、ごめんなさい」
「ははは、いや違くはねえけど。まぁいいや、今のはかわいいな」
彼はそう言うと私の頭を撫でた。
ん?……撫でられた?
撫でられた!!
ザラサちゃんにいつもやってるように撫でてくれた!
あ!いきなりだったからよくわかんなかった!
もう一回!ってお願い……、
できない……、絶対にできない。
「大丈夫、オラベラ?」
「だ、大丈夫。あはははは」
あー!大丈夫じゃないけど大丈夫と言うかしないじゃん!
私がパニクってる最中にザラサちゃんが全速力でウィリアムくんに飛びついた。
「ボス、ザラサ特訓終わったのです。今日も頑張ったのです。肉が食べたいなのです」
「本当かな?ちゃんと頑張った?今日授業で寝てたよね?」
「ええと、ええと、それは、うぅぅ……、ごめんなさいのです」
「ザラサをいじめないのウィリアム。他の授業はわからないけど、私との特訓は頑張っていたわよ」
アンジェリカ姉さんが言う。
「そうでしたか、姉さんが言うなら間違いないですね。じゃ、ザラサ今日も肉を買ってあげよう」
「あっは!!やったなのです!ザラサ今日も肉食べるのです!たくさんたくさん食べるのです!」
ザラサちゃんは大喜びで飛び跳ねた。
「でも授業で寝たから、野菜の量は2倍ね」
「うぅ……、わかったのです」
少し気を落とすザラサちゃん。
でも野菜は食べないとね。
「ベラベラと姉さんはどうするのです?一緒に食べるのです?」
「そうね、私は特に予定はないわ。オラベラは?」
一緒に行きたいところだが、すでに約束がある。
「ごめんなさい、約束があります。また今度お願いします」
「えー、なんでなのです?ベラベラも来るのです」
ザラサちゃんにすごい接近されて言われる。
「ご、ごめんね。今度一緒に食べようね」
「嫌なのです!毎日一緒に食べるのです!」
「毎日!?」
「ザラサ、オラベラを困らせたらダメだよ」
「うぅ……、わかったのです」
悲しそうな顔をして引き下がるザラサちゃん。
ごめんね。
「オラベラ、今日すごく進歩したと思う。このままこの一週間はやって行こう。だからそれまでは実戦は避けてくれ。いい?」
「うん、わかった。気をつける」
「どうしてもって場合はオレに相談しろ。いいな?」
「うん、そうする」
「……あんたらやっぱりいい感じね」
アンジェリカ姉さんに言われる。
「そ、そんなじゃないですって!」
「そんなに慌てなくてもいいじゃん」
「と、とにかく私はもう行きます」
「ベラベラ、バイバイ」
「無理はするなよ」
「また寮でね」
みんなとバイバイし、私は約束のある大教室へと向かった。
・放課後、大教室にて
教室に入ると既に我鷲丸くんが待っていた状態であった。
「我鷲丸くん、待たせてしまってごめんなさい」
「大丈夫だ。俺も来たばかりである」
「そっか、よかった」
「ちなみに英雄王は今はフリーである」
「ん?そ、そうなんだ」
「うむ、それに恋バナも好きである」
「そうなんだ……」
「うむ、ゆえに聞きたいことはなんでも聞くがよい」
少し足を開き、腕を前に組んだような体勢で我鷲丸くんが言った。
ええと、なんでも聞いていいって言ってるから聞いちゃっていいよね?
「あのね、我鷲丸くんが会ったという3人の仮面の人について教えて欲しいんだ」
「え?なんて?」
「ええと、ルミナーレのパーティーの時に我鷲丸くんがクラブを飛び出して3人の仮面の男と戦ったって聞いたけど合ってる?」
「うん、合ってるけど」
「よかった。彼らについて教えてくれないかな?」
「ええと、この英雄王我鷲丸の興味がある子の話がしたいのではないのか?」
「んと、違うけど」
「それかあれだ、ウィリアムについて何か聞きたいのではないのか?」
「うん、それも違う……かな。うん、違う」
「はあー」
ため息をつかれた。
まずい、なんかいけないことしちゃったのかな?
でもなんで、自分のことを気になってる子やウィリアムくんの話とか出たんだろ?
私が何か勘違いさせちゃったかな?
だったら謝らないとだね。
「ごめんなさい、なんか勘違いさせたのなら、私が悪かったです」
「うん…、大丈夫」
大丈夫じゃない!
すごく暗い!いつもはもっと明るい人なのに!
なんか元気にする方法はないかな?
恋バナ好きとか言ってたけど……、
アルドニス先輩と踊ってたよね?
それについて聞いてみよう。
「ね、アルドニス先輩と仲良いの?ルミナーレで踊ってたよね?」
「ううん、あんとき初めて話した」
「それでダンスOKしてもらえたの?我鷲丸くんってすごいね」
「うん、そうなのだ。英雄王我鷲丸はすごいのである」
あっ、なんか嬉しそうな顔になった。
褒めてあげると喜ぶのかな?
「うんうん、すごい!それにみんなのために危険なところに行く勇気もすごい!」
「ははは、英雄王だからな当たり前である」
「当たり前か、そう思えるのが本当の英雄なんだろうね」
「ふふ、案ずるな、オマエも英雄である」
「私?」
「うむ。この学園にいるみんなは英雄である。俺は彼らをまとめ導く英雄王である」
「おおー、すごいね。いつからそんな立派な志を持ってるの?」
「いつ?んーー。いつからだろう?前からであったような、最近のような、誰かに言われたような。まぁ、そんな感じだ」
「う、うん。でもすごい立派な目標だよ。私、応援する!」
「ふふふ、そうかそうか。で、仮面の人たちに知りたいのだったな。この英雄王が教えてしんぜよ」
「うん!ありがとう。どんな人たちでどんな目的だったのかを教えてくれるかな?記事になったところは一通り読んだけど、実際に会った我鷲丸くんの話が聞きたくて」
「うむ。教えてあげよう。
・まずは怪物の仮面の『赤ワニ』、バナナ持ち
・次は黒い鎧にキラキラする飾りがいっぱいの『トレーボル』、なんか黒い剣をいっぱい作れる
・そして、最後はこの英雄王のライバルである『レッド』、バナナ二本持ち
この三人である」
「ええと、記事には『赤鬼』『トレーヴァス』『レッド』って書いてあったけど……あと、バナナってなに?」
「うむ、俺の言った通りだ」
「え?」
「『赤ワニ』は俺が最初に追いかけたやつだ。なかなか追いつけなくて、エレメンタルエネルギーを使って追い詰めたぜ。中々に強いやつだったが、この英雄王の敵ではないな。ただ…」
「ただ?」
「持ってる武器が恐ろしく強かった。『バナナ』というらしい」
「あ、うん。多分それ『刀』ね」
「そう、それだ!『刀』だ。半エレメンタル状態だったのに避けなきゃ切られると本能的に感じてしまって似合わずに守りに入ってしまったんだよな。今思うと既にそこからペースが乱れていた」
「半エレメンタル状態って私と戦ったときに使った技だよね。私の剣がすり抜けたあの」
「そう、それだ。半エレメンタル状態のときは意識した体の部分は物理ダメージが与えられないようにできるんだけど、あの刀って武器にそれはしてはいけない、しても意味がないという恐怖があった」
「そうなんだ……、刀にエレメントを切る逸話がないけど、知らないことのほうが多いからなんとも言えないね。その赤鬼って人が殺人鬼である可能性が高いんだよね?」
「わからない。でも逃げていたのはアイツだけだ。他の二人はあとからあの場に自らから入って来たんだ」
「そっか。赤鬼は角と牙のある赤い怪物の仮面だった?こんなやつ」
我鷲丸くんにわかりやすいように、
私が知っている仮面の特徴を自分の顔に当てて説明した。
「そう!それそれ、そんなとこに角とか牙があった!」
「やっぱり」
「なんで知ってるの?知り合い?」
「知り合いじゃないと思うけど、その仮面と刀は王城から盗まれたものなんだ」
「そうなんだ。じゃ、あれはオラベラのもの?」
「私のではないけど、国のものかな?」
「そっかー、じゃ、もらえないのかー」
「欲しいの?」
「うん、仮面はともかくあの『刀』って武器は欲しい」
「そっか。まぁ、私は刀を取り返すのは目的じゃないから、たまたま我鷲丸くんがそれを拾っても私は知らんふりするかな」
「ふははは、さすが英雄の仲間、オラベラよくわかってるね」
「ふふ、うん、でも衛兵とかに見つからないでよ。それと、もしまた赤鬼と対峙することがあったら、私もよんで!手伝う!」
「うん、わかった。そうする」
「ありがとう。あっ、でも…」
「どうした、いきなり顔をひきつって」
「ええと、めっちゃ勝手だけどもし赤鬼と戦うなら来週以降にしてもらえないかな?今週はまだ戦ってはダメで……」
「ん?別に問題ないけど。それに赤鬼の行方もわかんないし」
「そっか、そうだよね。でももし今週中に見つかった場合でも声をかけて。その場合はウィリアムくんと一緒に手伝う」
「ん?ウィリアムも赤鬼に用があんのか?」
「ううん、ないと思うけど、彼は私を助けてくれてるから」
「ははは、そうだな。ウィリアムはいいやつだ。助けてくれるだろう」
「うん。ええと、一応念のために他の二人のことも聞いていいかな」
「うむ。トレーボルはなんか影?闇?を操るエレメンタル・ボーンだったぞ。闇って感じなのに、鎧とか仮面がキラキラしてて、なんかしゃれてる感じだった。そして口調がよく変わる。でも悪いやつじゃないぞ。俺を助けてくれたんだ。こう言いたくはねえが、もしあいつが来なかったら、やれてたかもしれない」
「闇を操るエレメンタル・ボーン……。かなり希少よね。エレメンタル・ボーンの時点でもう希少だけどさ」
「うん、普通は水、炎、風、土だからね。それ以外にも雷とか酸とかがあるけど、光と闇はレア中のレアだね」
「すごい人なんだね」
「うん、すごい。剣術も中々のものだったしな」
「そっか。最後に現れた『レッド』とかいう人は?」
「うん、俺のライバルの『レッド』だ。俺と同じくらい強いぞ」
「我鷲丸くんと同じくらい……」
「うむ、赤鬼を一蹴りでぶっ飛ばしたり、ひょろひょろな動きで赤鬼の攻撃をかわしたり、何度も赤鬼にトドメをさせるチャンスがあったのにあえてビンタでひっぱ叩いたりしてたね。さすが英雄王のライバルである」
「す、すごいね」
でもそれって、我鷲丸くんと同じじゃないよね?
だって我鷲丸くんはトレーヴァスと2対1で戦ったのに勝てなかったのに、
そのレッドは一人で圧倒したってことでしょう?
「うん、レッドはすごいんだ。それにあれも凄かった。みんなが話に集中してたときに赤鬼の不意をついた渾身の一撃を指二本で止めたんだ、こんな感じにね」
我鷲丸くんは体を使ってどんな感じでことが行われたのかを説明してくれた。
その説明から察するに縦に振られた高速の一撃を指二本で止めたってことになる。
それはすごいとかの領域じゃない。
本当にやったのならば人離れした技だ。
我鷲丸くんが嘘をつくと思えないし、本当なのだろう。
なんかすごい人が一気に出てきたって感じだね。
「でねでね、『レッド』は刀二本持ってるんだよ。結局最後まで抜かなかったけどね」
武器を抜かない?究極の戦闘技術を持つ人。
まさか『レッド』って……。
いやいや、決めつけるのは早すぎる。
でも他にそんなことができる人っているの?
刀二本はどうやって?
ってあの人なら誰にもバレずにレッド・サークルに入って出ていけるよね。
と言ってもその2つの点でその人が頭に浮かんだだけ、証拠は何もない。
うーん。聞きたいことはこんなところかな。
やっぱり新聞読んだだけではわからないことがあった。
特に我鷲丸くんの所感はとても大事だ。
彼によれば
・赤鬼は悪い人
・トレーヴァスはいい人
・レッドは……尊敬してる人?
って感じなのかな。
うん、あとは帰ってからまとめよう。
「ありがとう我鷲丸くん。とても助かった」
「おお、もういいのか?」
「うん、大丈夫。でも、もし何か他に思い出したら教えてくれると助かる」
「うん、わかった」
そしてそのままお別れしようとしたときに呼び止められた。
「大事なことはどうかはわかんないけど、『赤鬼』はあるセリフ何度も何度も意味不明に言ってたぞ」
「あるセリフ?なんて言ってたの?」
「『我こそ、レッド・サークル最強の男。レッド・サークル大将軍『赤鬼』だ』って。本当に何度も何度も言ってた。トレーボルもレッドも同じことを何度も言うもんだから彼に対して突っ込んでたよ。なんかもう名乗りでなく、まるで呪文を唱えるように言ってる感じだった」
「……そうだったんだ。教えてくれたありがとう」
「おう、またな」
「うん、またね」
レッド・サークル大将軍って、
トミー・ボイルズを殺したレッド・デーモンじゃないの?
あの国は大将軍は一人だけのはず。
今捕まってるレッド・デーモンは違うってこと?
それとも赤鬼が嘘をついている?
うーん、やっぱり一度帰ってから考えをまとめよう。
ーオプティマスー
・応接室にて
「来てくれてありがとう。いきなり呼び出してすまなかったな」
「いいえ、先生の頼みならいつでも」
「そうか。そういえばオプティマスは大丈夫だったか?金曜のパーティーには参加した、早めに退出し、知り合いの元へ向かったと報告書にはあったが」
「ええ、正直に申し上げれば、あの雰囲気が好きになれず、少し窮屈な思いをしていました。そのため知り合いのところに行った方がいい時間を過ごせると思い、パーティーを出ました。まさかあんな事件が起こるとは思いもよらず、誰にも自分の居場所を告げなかったのは今では落ち度だったことを学びましたが」
「そうだな、同じ寮の生徒を中心に多くの生徒が君を心配していたようだ。今後は気を付けることだな」
「はい、心得ておきます」
「そういえば、知り合いとは誰だ?街に友人でもできたのか?」
「ミランダです。最近は親しくさせていただいております」
「そうであったか……」
私は自分とミランダがお付き合いしていることを先生に報告しようとしたが、
ミランダの名前を出した瞬間に先生が眉をひそめ、不安そうに私を見たため私は言葉を止めた。
先生はすぐには続けず、少し考えるような仕草をした。
「いや、やはり伝えておこう。オプティマス、今回呼び出したのはとあることを伝えるためだ。オマエとミランダにも関わりがある」
私は先生の声のトーンが変わったことに気づいた。
真剣な物言いに変化した。
「はい、教えてください」
「ニコラス・スペクターという人物を聞いたことあるか?」
「いいえ、ありません」
「セントラム王国を中心に活動する弁護士で、彼のせいで王国の衛兵が捕まえた何人もの被告人は無罪になっている。簡単にいえばやり手の弁護士だ」
「はい、彼が私とミランダとどう関係があるのでしょう?」
「その彼がミランダを襲った4人組の弁護人となり、証拠不十分と4人にはアリバイがあるということで彼らを弁護し、彼らの釈放に成功した」
「なんですって!?」
こ・ろ・せ
頭の中の声が大きくなる。
「なぜそんなことがありえるのですか?ほぼ現行犯逮捕のようなものだったじゃないですか?」
「そう言いたいが、実際にミランダが襲われているの見たのは君と被害に遭ったミランダだけだ。ニコラス・スペクターは君がわけもなく彼らに襲いかかったとし、それを見たミランダは衛兵に知らせることで何かしらの見返りを求めて通報したのだと告げた」
「そんなの馬鹿げている!ミランダがそんなことをするはずがない」
「ああ、オプティマスの言う通りさ。だけど、証人が君たち二人しかいないこと、キミがなんでそこにいたのかを説明できないこと、そしてミランダが以前にも街で起こったトラブルを通報し、国からお礼をもらっていることが重なりこういう結果となった」
「そんなの納得できません!」
「わかってる。とりあえず落ち着けオプティマス。ここには君の敵はいないぞ」
私は一度周りを見た。
いつの間にか立ち上がっており、先生のすぐ近くまで近づいていた。
「すみませんでした。いきなりのことで取り乱しました」
「いいんだ。話を続けるぞ」
「はい、お願いします」
「ニコラス・スペクターが彼らの弁護人となった以上、あの4人組がただの盗人じゃないことが決まった。彼らが大物だという気はないが、そういった者の下についてるのは明らかだろう」
「はい」
「そして、衛兵もミレニアム騎士団もこの件についてはもう関わらないことになった」
「なんですって?」
「釈放となった以上、衛兵はそれ以上のことはできないし、騎士団のリソースをこのようなことに使うことはしない。この内容を伝えたのは、オプティマスが街に出かけたときなどに注意するためだ。君がミレニアム学園の生徒になった今、仕返しに襲われる可能性は極めて低いが、念のためだ」
こ・ろ・せ・こ・ろ・せ・こ・ろ・せ・こ・ろ・せ
わかってる!殺すから今は黙ってろ!
「わかりました。教えていただいてありがとうございます。あまり関わらずに、注意することを心がけて行動したいと思います」
「うん、冷静に物事を考えられるようになったようだな」
「はい、先ほどは取り乱してすみませんでした。ですが、悪者には必ずその悪事に見合った結末を迎えます。私がそれを心配するべきではないでしょう」
「そうだな。その言葉には一理ある」
「そういえばミランダはどうなりますか?このことを知る権利は彼女にもあると思うのですが」
「ああ、そうだな。それに関しては私が直接赴いて伝えようと思っている」
「でしたら、私にそれを任せてはいただけないでしょうか?」
「オプティマスが伝えるのか?」
「はい、会いに行く言い訳にもなりますし、何よりもそれを伝えたときに彼女を安心させられるように側にいてやりたいのです」
「随分と仲良くなったみたいだな」
「そうですね、いい関係を築けているのだと思います」
「わかった。オプティマスに任せよう」
「ありがとうございます。ではお話がそれだけでしたら私はもう行きます」
「ああ、そうだな。以上だ」
「いろいろと教えていただきありがとうございました」
私は立ち上がり扉に向かったところで呼び止められた。
「オプティマス」
「はい、先生」
「今月の分だ。持って行きなさい」
一瞬断ることも頭をよぎったが、すぐに捨てた。
私とミランダには今少しでも多くの金がいる。
「ありがとうございます、先生」
「気にするな」
そして私は応接室を出て行った。
こ・ろ・せ・こ・ろ・せ・こ・ろ・せ・こ・ろ・せ
ああ、わかってる。
だけどまず見つけなければならない。
そやつらを。
・4月30日(火曜日)
ーオラベラ・セントロー
・放課後、図書館にて
結局昨日はアラベラとエリザに捕まり、情報をまとめることができなかった。
寮に帰るといつも賑やかで流されてしまう。
賑やかなのはいいことなんだけどね。
毎日楽しいし、でも何かをやらなきゃいけないときは少し困るかな。
ともかくわかってる内容をまとめよう。
まず、レッド・デーモンの刀、仮面の窃盗事件と殺人事件は別と考えるのがよさそう。
王城から刀と仮面を盗み出したシャドウ・キャットはそれらを闇市に売った。
その後、それらを落札したハロルド・コーエンの手に渡る。
だけど、そのハロルド・コーエンも死体で見つかった。
このことからハロルド・コーエンは殺された際に仮面と刀を奪われたと推測できる。
そしてその後に殺人事件は起こり始めた。
うん、時系列にも合う。
そのため、殺人事件にシャドウ・キャットが関連しているとは考えにくい。
彼は凄腕のシーフであり、殺人事件のほうとは無関係。
次に殺された人たちの情報。
1人目、
ヘンリック・マース
ヒューマンのパラディン
元ランク8の冒険者
それにミレニアム学園の卒業生。
2人目
タリッサ・グレイウィンド
ハーフエルフのハンター
元ランク7の冒険者
『レッド・デーモンの捕虜』となっていた一人
クリムゾン・アウル部隊
3人目
グリム・ハーランド
ドワーフの鍛冶師
4人目
サリーネ・ヴァロア
ハーフエルフで破壊魔術師
元ランク8冒険者
『レッド・デーモンの捕虜』となっていた一人
3人目のグリム・ハーランドを除けば全員がランク7以上の元冒険者。
グリム・ハーランドも鍛治師になる前の経歴がわかってないだけで、
彼も強い人物であった可能性はある。
2人目のタリッサさんとサリーネさんは『レッド・デーモンの捕虜』となっていたため、
資料で見た『クリムゾン・アウル部隊』のメンバーであったと考えられる。
そして他の二人もそうであったかもしれない。
そうであったことの確証が取れれば殺されている人は『クリムゾン・アウル部隊』のメンバーであるとはっきりする。
そうすることで今後のターゲットもわかる。
未然に殺人を防ぐことも犯人を捕まえることができるかもしれない。
『クリムゾン・アウル部隊』のメンバー表をどこかで調べることはできないのかな?
全員じゃなくてもいい、一人だけでも生存している人に話を聞ければかなり進展するはずだ。
どうやって見つける?
これ以上の情報は……ないな。
探しに行かないと。
この4人の中ではグリムさんだけがほとんど情報がない。
彼についてもっと何か調べられないかな。
殺人現場は……、うん、知っているところだ。
ダメ元で行ってみようかな。
その周りの商店とかでもグリムさんのことを聞き込みもできるしね。
うん、そうしよう。
そんなところかな……
なんか引っかかる。
なんかというか誰か。
前々から思っていた。
ヘンリック・マース。
私はこの名前をどっかで見たことある。
記憶に残っている。
でも、どこかまでは思い出せない。
ヘンリック・マースは元ミレニアム学園生だよね?
学園で何か情報はないかな。
図書館のスタッフに聞いてみると卒業生の記録についての資料はあるとのことで、
早速ヘンリック・マースについて調べたいとお願いしたら、
何期生の卒業生かわからなかったため、
調べるのに時間がかかると言われた。
また後日に立ち寄ることにした。
よし!
こんな感じ、早速明日にでもホワイトシティに行ってみよう。
昼から夕方の間に行くし、戦闘とか起こらないよね?
でも、なんかあれば相談するって言ったし、
ウィリアムくんには伝えておこうかな。
うん、そうしよう。
今日はもう寮に戻ろう。
私は歩きながら再度情報の復習をするとともに、
この一ヶ月に起きたたくさんの出来事を思い出した。
今日で4月終わりか。
なんかすごく長かったような短かったような。
でも、間違いなく人生で最も充実した一ヶ月だった。
ここに来なければよかったと一瞬で思ったあの時の自分を殴りたい。
ふふ、そういうふうに前の自分を恥ずかしがることがこれからも続くのかな?
そう思っているとセレナ先輩の言葉が鮮明に頭をよぎった。
「うるさい!私の言葉をよく聞きなさい、オラベラ・セントロ!私は願うわ。あなたが自由でいられるこの五年で恋を知ることを!その恋に溺れることを!今の自分の言葉を悔いる日が来ることを。そして願わくば……、その恋が成就することを」
先輩……、ちょっと恨みます。
私が恋したくないのは自分のためだけじゃなく、
相手のためでもあるんです。
ううん、違う。
本当に恋をしたくなかった。
興味がなかった。
周りが恋の話をしても私は何もわかってなかった。
ここに入学する前まではそれに嘘はなかった。
なかったんだ。
一ヶ月足らずでこんなことになるなんて想像できないじゃん!
あんな人がいるなんて思わないじゃん。
ふてぶてしくて、
ずうずうしくて、
かっこつけで、
豪胆で、
口悪く、
超むかつく人がいると思わないじゃん!
そしてそれがいつの間にか、
頼りになる、
強くて、
頼もしい、
優しい、
超かっこいい人に変わるって誰がわかるか!?
テッド兄さんでも絶対にわかんなかったよ。
でも、本当にここまでにしないと。
彼を傷つけたくない。
私といても彼は幸せになれない。
5年間だけ一緒にいる期限付きの関係は私にはできない。
私は多分我慢できない。
5年だけじゃなく、
彼のことがずっと欲しくなる。
だからもうやめよう。
この気持ちを殺すわけじゃない。
でも、成熟はさせない。
彼は友達、すごくいい友達。
……お願いだからそれ以上にならないで。
「ねね、ホームカミング誰と行くの?」
「決めてないけど、1年生の誰かと行くんじゃない?」
「ははは、やっぱり注目浴びたいの?」
「それはそうでしょう。他の舞踏会はともかく、1年生と行ったほうが明らかに目立つんだから。それに向こうだって調子に乗って手の届かない上級生に片っ端から当たるでしょう?」
「確かに、上級生を誘えたら彼らも鼻が高いもんね」
「そうよ。だからどっちにとっても利益はあるわ。といっても誰とでも行くわけじゃないわ。少なくともイケメンでその日ドレス一式を全部買い揃えられるくらいの経済力がなきゃダメね」
「ははは、そうだよね。最低でもそんくらいはしてもらわないとね」
ベンチに座っていた先輩のそんな会話が聞こえた。
ホームカミング?舞踏会?
確かにそんなのあった気がする。
1年生と行くと目立つというのはどういうことだろう?
セレナ先輩に聞いてみようかな。
・アルファ寮にて
「ホームカミング?まさかもう誰かに誘われたの、オラベラ?」
今日も私たち1年生の部屋に遊びに来ているセレナ先輩に聞いた。
もちろんアエル先輩も、ミラリス先輩もいる。
「いいえ、知らない先輩がそういう話をしているのを聞こえまして、それに1年生と行くと目立つとか、お互いに利益があるからとか言っていたので気になってお聞きしました」
「そう…、4月がまだ終わっていないというのにもうそんな話をし始めてるやつらがいるのね」
「ん?なになに?舞踏会?うち、龍くんと行く!」
アラベラが言う。
「いや、そういう問題じゃなくて、なんで1年生と行くと利益があるのかって話だから今」
それをエリザが指摘する。
「知らないもん〜。うちは龍くんと行くもん〜」
「はぁ、すみません先輩。続けてください」
「アラベラの感覚でいいんだよ」
「え?」
「え?」
「え?」
私、エリザそしてアラベラも驚いた。
「だって、舞踏会なんだから楽しめばいい。行きたい人と行けばいい。学校の古い伝統なんか無視すればいいのよ」
「どんな伝統ですか?」
エリザが聞く。
「んー。そうね、むかつく伝統だから話したくないわ」
セレナ先輩がそう言うとアエル先輩が前に出てきた。
「私が説明しよう」
「「「お願いします」」」
「学園では年に何回か大きな舞踏会があるんだけど、その舞踏会には大きな功績を収めた学生を紹介し、讃える場面があるの。細かく言えば、その学生が会場に着いたときに、特別な入場口から入って、パートナーと一緒に紹介される。学園中の注目を浴びる瞬間」
「おお!素敵!」
「いや、私はそういうのは遠慮したい」
アラベラとエリザが言う。
「うん、それをどうとらえるか人それぞれだと思うが、その注目を浴びるのが好きな人もいる。だが、この学園で大きな功績を残すのは簡単なことじゃない。そこに立ちたくとも立てないことのほうが多い。だけど在学さえしていれば誰しもが2度はそこに立つ機会がある。それが1年時におけるホームカミングパーティーと5年時の卒業パーティーだ」
「どうしてですか?」
その理由を聞いた。
「5年生の卒業パーティーは彼らを送る特別なパーティーであり、卒業生とそのパートナーが紹介される。そしてホームカミングパーティーは新1年生を学園に迎えるパーティーであるため1年生全員が大きく紹介されてスポットライトを浴びるの」
「おお、そうなんだ」
「そうだったのですね」
アラベラとエリザが言った。
でもまだ疑問が残る。
「アエル先輩、それじゃその注目を浴びたい先輩が1年生のパートナーとして舞踏会に参加したいということなんですね」
「うん、その通りだ」
「ですが、その先輩たちはお互いに利益があると言っていました。1年生側にはどんな得があるのですか?」
「ないよ。人気とか先輩と一緒に舞踏会に行くことをすごいと思っていなければ何もない。だけどね、毎年男子は上級生の先輩を舞踏会に誘えるかというゲームを行い、女子も上級生の先輩と一緒に舞踏会に行ければそれを自慢するという風習があるの。実際に上級生であればあるほど価値が高いとされ、5年生とホームカミングに行けば学園の伝説になれるとかバカな噂が流れてるわ。だからそういうことに興味があるのなら先輩と一緒に行くチャンスだけど、そういうことに興味がないなら全くもって利益はないね」
「あ、そうだったんですね。わかりました。教えていただいてありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
私たち3人はアエル先輩に感謝をした。
「で、あんたたちはどうするの?先輩と舞踏会に行くの?」
話が終わるとセレナ先輩は少し怒った顔で聞いてきた。
「「「いいえ、行きたい人と一緒に行きます」」」
私たち3人は同時に言った。
それを聞いたセレナ先輩の顔がニコッと笑い、
私たちを抱きしめた。
「あははは、だから私はあんたらが好きよ」
「先輩ちょっと痛いです」
「ヒヒヒ」
「セレナ先輩力強いんですね」
しばらくそうしていると、
「みんなどうしたの?なんの話?」
「夕食が出来上がりましたよ」
スラビちゃんとブアちゃんが来た。
セレナ先輩は彼女らを巻き込んでみんなで大きなハグをした。
・5月1日(水曜日)
ーサムエル・アルベインー
お昼前の最後の授業に今月に行われる行事についての説明が行われ、
特に最終金曜に行われる本リーダー決めと、
その日の夜に行われるホームカミングという舞踏会の説明があった。
あと、一ヶ月。
あと、一ヶ月でやっとリーダーから解放される。
最後に来月、
6月に行われる第1回クラス対抗特別試験のリマインドがあり授業は終わった。
食堂にていつものように我鷲丸とチェンと一緒に食事をしてると、
食堂中がざわめいた。
どうやら大広間で今月のスコアが貼られていたようだ。
ガゼットでも内容が知れるんだからそんなに慌てなくともいいものを。
そのざわつきはしばらくしても治らなかった。
流石に気になった俺たち3人は食事を早めに切り上げて、
大広間に向かった。
そこには今月のスコアは貼られていたが、
みんなが注目しているのはそれではなかった。
『今月の挑戦』
と書かれた大きな巻物の前に人が集まっている。
なんとか見られる位置に移動するとこう書かれていた。
5月の挑戦
・ホームカミングパーティーにおける勝負。
・参加費:50個人ポイント
・勝者は参加者が参加費として支払った全ポイントを獲得。
・参加条件:1年生の野郎(男)オンリー。
・ルール:最高のパートナーをパーティーに連れてこい。
1年生:1点 2年生:2点 3年生:3点 4年生:4点 5年生:5点
同じ寮x1点 他クラスx2点
美女ランキングにおけるボーナスポイント(4月のランキングを参照とする)
美女ランキング6〜10位:+3点
美女ランキング2〜5位:+4点
美女ランキング1位:+5点
パートナーの得点が最も高ぇ野郎が勝者だ。
同得点だった場合は同得点だった者同士で山分けだ。
この勝負から逃げた腰抜けは、学園中からクソチキンとして一生笑われると思え。
挑戦提案者:1年デルタ/クレイ
まじかよ……
ルミナーレのパーティーはこのための投資だったのか。
5月の幕開けはクレイの大きな仕掛けによって始まった。
ーオラベラ・セントロー
専攻授業にて
「いい感じだ。剣をちゃんと振れるようになったな」
ウィリアムくんが言う。
「うん、まだちょっと怖いけど」
「それでいい、その怖さに立ち向かう心が必要なんだ。オラベラはよくやっている」
「あ、ありがとう」
今日もなでなでしてくれるのかな?
「ボス!」
姉さんとの特訓が終わったザラサちゃんがウィリアムくんに飛びつく。
「ボス!ザラサ頑張ったのです!そして今日は授業で寝なかったのです!」
「ははは、そうだね」
「ザラサは肉がいっぱい欲しいなのです!」
「うんうん、今日はいっぱい肉を食べよう。今日くらいは野菜なくてもいいっか」
「きゃは!!やったなのです!いっぱいいっぱい食べるのです!野菜は食べないのです!」
ふふ、本当にいいパパだよね。
誰かと幸せな家庭を築くんだろうな。
「どうしたの、オラベラ?寂しそうな顔をして」
「え?ち、違います。少し考え事をしてただけです」
お姉さんはすぐに私の表情からいろんなことを読み取るから気をつけないと。
「それじゃ、姉さん、お姫様。オレらはもう行きますね」
「うん、またねウィリアム」
私はウィリアムくんを呼び止めた。
「ウィリアムくん、少しだけいい?」
「どうした?オラベラも肉食べたいのか」
「あ、うん、じゃなくてこの前の件について」
私がそう言うとウィリアムくんはザラサちゃんにアンジェリカ姉さんのところで待ってるように言い、二人だけで話せる距離に移動した。
私は調べものがあるから街に行くことを説明し、
人がいっぱい通るところで安全であることも強調した。
「そっか。わかった。気をつけて」
意外にも止められることなく、
彼は私の背中を押してくれた。
「助けが必要なときは言ってくれ」
「うん」
「それと危なくないと思っていても一人での行動は避けたほうがいい。誰かを誘えるならそっちのほうがいいと思う」
「あんまり他の人は巻き込みたくないんだ、今日は一人で行く」
「そっか、わかった。気をつけて行ってきて」
ウィリアムくんへの報告が終わると私は急いで馬車乗り場に行き、
馬車に乗って街へと向かった。
・ホワイトシティ中層区にて
中層区にあるグリム・ハーランドさんの工房へと向かった。
近くに着くと街の人にグリム・ハーランドさんについて色々と聞いてみた。
私に気づく人は最初は驚いていたが、
ミレニアム学園生になったと説明すると落ち着いてくれた。
ミレニアム学園の制度はこの街では特に浸透している。
大貴族であるテッド兄さんとかも街を駆け回ってたもんね。
街の人によるとグリム・ハーランドさんは気難しい人だったが、
根は優しく、親切だったという。
貧しい人の依頼を格安で請け負ったりとかもしていて、
道具を直すのもときには代償なしでやってくれることもあったとか。
そして、数ヶ月間店を閉じていた時期があり、
その時期がちょうどレッド・デーモンは捕虜を取っていた時期と被った。
それに、近くの酒場にいる人に聞いたら、
本当はすごく強かったと言っていた人もいた。
ますます彼がクリムゾン・オウル部隊のメンバーだった可能性が高まった。
グリム・ハーランドさんの店に着いた。
店全体が立ち入り禁止になっていて、
『ホワイトシティ衛兵隊によりこの場を立ち入り禁止とする』
と書かれていた看板もあった。
……とりあえず入ろうっか。
大丈夫大丈夫、
バレないバレない。
グリム・ハーランドさんの工房は大きく、立派だった。
豪華というわけではなく、
実用的な感じで道具や機材が置かれていた。
あたりを見回しているとほんの一瞬気配を感じた。
私はすぐに剣を抜き戦闘体制に入った。
大丈夫、大丈夫。
ウィリアムくんもよくなってると言ってくれた。
ちゃんと戦えるはず。
けど感じた気配はすぐにどこかに消えてしまった。
「気のせい?」
ううん、違う。
確かに感じた。
何かが、いや、誰かがここにいた。
ついさっきまでいた。
引き返すこともできたが、
もし誰かがここにいるのならそれも手掛かりになる。
私は最大限に意識を集中させて進んだ。
工房の奥へ進むと血痕のある場所へと辿り着いた。
近くに大きなハンマーが綺麗に切られていた。
おそらくこれも『刀』で切ったのだろう。
血痕が大きい。
かなりの血を流したのがわかる。
新聞ではグリム・ハーランドさんの死体の様子については書かれてなかったな。
タリッサさんやサリーネさんのような感じではなく、
もう少しまともな状態であったことを願う。
もう既に調査があったから何も残ってないと思うけど、
一度は工房全体をくまなく調べてみよう。
そう思ったそのとき、
背筋が凍った。
私の後ろに誰かが立っている。
はっきりとわかる。
先ほどまでそこにいなかったのに、
急に真後ろに現れた。
まずい…、このまま攻撃されたら終わる。
ダメもとでなんとか攻めに出なきゃ!
私は体を回転させてその者に対して剣を振った。
力まずにそれでも全力で、
剣と一体になって振った。
ウィリアムくんと氷条くんの教えを思い出しながら放ったその一撃は私の人生の中で最高のできだった。
だけどその者は私の剣を両手の掌で掴んだ。
「えにゃ?」
驚きのあまり変な声が出た。
「いい一撃だ」
その者がそう言うと掴んでいた剣を自分のほうへ引き寄せ、
その勢いで前に出た私を掴み、何かをした。
私の体が一回転し、気づいたら地面に倒れていた。
私の剣はその者の手に握られ、
剣先を地面に横たわる私に向けられていた。
しばらくはそのままでその者は話さずに私を見つめた。
不思議と怖くはなく、
なぜだかその者は私に危害を加える気がないのはすぐにわかった。
私は勇気を出して聞いてみた。
「あなたは誰ですか?どうしてここにいるのでしょうか?私はここで行われた殺人事件について調べているんです。もし知っていることがあれば教えてください」
私がそう言うとその者はしばらくした後に剣先を私に向けるのをやめ、
私が起き上がれるように手を差し出してきた。
その手を取り、私は立ち上がった。
立ち上がると彼は私に剣を返してくれた。
「あ、ありがとうございます。そして、すみませんでした。急に後ろに気配を感じてしまって思わず攻撃を」
「謝る必要はない。正しい判断だ。貴様に何も告げずにそこに立っていたオレが悪い。それにいい一撃だった。こっちでもそういう一撃を放てる者がいるとは驚いたぞ」
彼に褒められたことは素直に嬉しかった。
さっきの彼の動きで彼の実力が常識を逸脱しているのははっきりとわかっていた。
だけど、今は情報を集めなければ。
「あの、先ほどの質問に答えてはいただけないでしょうか?」
「どの質問だ?質問がたくさんあったぞ」
「あっ、そうですね。すみません。まず、あなたが誰なのかを教えていただけますか?」
「……。人に名を聞くときは自分から名乗ることを教わらなかったのか?それともセントラムにはそういう礼儀がないのか?」
「これは失礼しました。私はオラベラ・セン…」
「ん?オラベラ・センというのか?」
私はちゃんと名乗るかどうかを迷った。
姫だと知られれば向こうは対応を変える可能性がある。
危害をこっちに加える気はないと感じているが、
姫と知られれば話が変わる可能性もある。
私は一般の学生を名乗ることにした。
「失礼しました。ミレニアム学園生のオラベラと申します。苗字はわけあって名乗りません。ご理解いただけると助かります」
「……。別に構わんさ。それぞれの事情があるだろうからな」
「ありがとうございます。……あの、それであなたは?」
「ああ、オレが誰かってな。オレもその問いにちゃんと答えることはできない身だ。ただ『レッド』と呼んでくれてもいいぜ」
『レッド!?』
今回もここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回は、ついにクレイが仕掛けた「挑戦」の全貌が明らかになり、
ポイント大量獲得を狙って一年男子たちが一斉に動き出します。
ホームカミングのパートナーになってくれれば“勝利確定”という、
アルドニス先輩まわりの物語も一気に動き出す予定です。
一方で、オラベラは連続殺人事件の手掛かりを追い続けます。
殺人鬼の正体と、その裏にある過去の因縁に、
少しでも近づくことができるのか……というところも、
ぜひ見守っていただければ嬉しいです。
更新ペースについてですが、
2月は「1話〜2話程度」の投稿を目標に進めていこうと思っています。
マイペースな歩みではありますが、
☆やブクマ、感想などを頂けると、本当に励みになります!
これからも『ミレニアム学園』を、どうぞよろしくお願いします。




