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ミレニアム学園 ―赤き終焉への抵抗―  作者: 赤のアンドレ
【1年生編 ー赤い脅威ー】 第2章:クラスリーダーと連続殺人事件
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第26話:ワンズデスティニーとゆらめく恋心


ーオラベラ・セントロー


私、アラベラ、エリザ、アンジェリカ姉さんはルミナーレへと戻った。

また騒ごうとか、パーティーを楽しむためじゃない。

みんなが無事かどうかを確かめるためだ。

殺人事件がすぐ近くで起こって、

何もなかったかのように楽しむことはできないだろうと思っていた。


だけど帰ったときには私たちが去ったとき以上にパーティーは盛り上がっているように見えた。

アルフィくんとノクティシアさんが中心になってダンスフロアを盛り上げているようで、

そこに綺麗な女性陣のスタッフさんまでが加わり、大いに沸いている。


クレイくんはダンスフロアにいない人たちに声をかけたりしている。

話しかけられた人が嫌そうな顔していないところを見ると、

おそらく、大丈夫かどうかの確認ってところだろう。


「オラベラ大丈夫だった?何かわかった?」


私たちが帰ってきたのを見るとセレナ先輩はすぐに駆け寄り、私に聞いた。


「はい、今回の事件については情報は得られました。ですが、ここで話できるようなことではありません」


「あ、ううん。そんな意味で聞いたんじゃないの。私、事件には興味ない。殺された人には申し訳ないけど。あなたたちが心配なの」


セレナ先輩の発言に少し驚いて、

(私が国の人たちのことを心配するように、みんなも心配するわけじゃないのか)、

と思いながら、

それでも私たちのことは心配してくれるセレナ先輩の言葉は嬉しかった。


「大丈夫です。心配おかけしました」


「ええ、みんな無事ならいい」


セレナ先輩と私が話している最中にアンジェリカ姉さんは言った。


「オラベラ、ちょっとオメガの人たちが集まっているとこに行くわ。サムエルが見かけないの」


「ええ?サムエルいないんですか?私も行きます」


エリザもそれに続く。


そして二人はサムエルを探しにオメガの生徒が集まっているところに向かった。

昔からこういうことはよくある。

みんなでいるのにいきなりサムエルがいなくなったことは一度や二度じゃない。

私も最初は心配したけど、

どんなときでもヒョイっとまた現れるから、

私は心配しなくなっていった。

でもアンジェリカ姉さんとエリザは何度これが起きても、

一番最初に起きたときかのように心配する。

それにみんなはサムエルのことを音楽以外に何もできないように思ってるけど、

実際は違う。

武術でも勉学でもおそらく他のことでも、

サムエルは大天才だ。

できないようにずっと演じているだけ。

テッド兄さんがその才能を褒めていたんだもん。


「才能という面では俺と同等かそれ以上かだ」


それがテッド兄さんがサムエルに下した評価。

テッド兄さんは物事をそのまま言う。

好きだからって誇張して褒めたりしないし、

嫌いだからって評価を下げたりしない。

ということは本当にそう思っているということだ。

ってことはさ、

やる気さえ出せばテッド兄さんみたいになれるというのに、

ならないんだからやっぱり私はサムエルがわからない。

だってできないならわかる。

でもできるのに頑張ってない人はどうしても好きになれない。

幼なじみとしては好きだけど、

サムエルのことを親友と呼べないのはそこが原因だと思う。

一回、お父様に持ちかけられた彼との結婚話を聞いたときはゾワっとした。

エリザの好きな人っていうのもあったけど、

サムエルを絶対にそういう目で見られないなと思ったからだ。

でも、親友の好きな人で自分の幼なじみであるサムエルをこれ以上悪く言うのはよくないね。


(きっとトイレか何かよ)


そう思いながら、

私はウィリアムくんを探した。

……だけど見当たらなかった。


どこ!?

ザラサちゃんもブヤブくんもいる。

ンズリにクレアさんも。

ウィリアムくんが彼女らをほっとくわけがない!

どこなの?


ドクンドクン


鼓動が強くなり始める。

胸が締め付けられる。

これ、なに?

なんで…こんなに、胸が苦しいの?


今までもウィリアムくん関係で胸が締め付けられたことはある。

これ以上の痛みのときもあった。

けど、これは別、別の嫌な苦しさだ。


そして、私は弟のアルドが迷子になったときのことを思い出した。

その気持ちにとても似ていた。


(そっか…、私、心配しているんだ)


行こう!

ンズリに聞いてみよう、彼がどこにいるのかを。

そう思って歩こうとしたら、

何かに止められた。

いや、抱きしめられた。


「オラベラ、こんばんは。久しぶり」


その小さなオッドアイの猫はその華奢な体と細い腕で私を横から抱きしめていた。


「フェリス先輩、こんばんは。一週間ぶりですね。あれから大丈夫でしたか?」


「うん!モーモーがずっと付き添ってくれたから大丈夫だったよ」


彼女の後ろを見るとモードレッド卿が立っていた。

私は彼と軽い挨拶を交わした。


「ね、オラベラ。ロンロンどこにいるか知らない?探してるけどいないの。フェリス寝ちゃってパーティー来るの遅かったの。途中で殺人事件があったって警報も出てたし。着いたときにはロンロンいなかったの」


ウィリアムくんが本当にルミナーレにいない?

私の心配がさらに大きくなる。


「すみません、私もさっきまで出かけていて知らないんです。でもこれから彼の知り合いに彼がどこにいるかを聞こうとしていたところでした」


「おお!じゃ、フェリスも行く!いい?」


「ええ、私はかまいませんが、モードレッド卿は大丈夫ですか?」


「モーモー、オラベラとちょっと行ってきていい?」


「うん、問題ない。ただし、この場所からは出るなフェリス。出る必要があるときは俺に声をかけろ。いいな?」


「うん、わかった。行こう、オラベラ」


そして私とフェリス先輩はンズリのところへと向かった。



「ンズリ」


「ベラ!?……なに?」


少し、嫌な目で見られて言われる。


「ベラベラ!」


大きな声で言って私に飛びつくザラサちゃん。

ハグをしてきたからハグし返す。

フェリス先輩といい、今日はよくハグされる。


「ベラベラなんでいなくなったのです?」


「あ、ええと、ちょっとさっきの警報のことで調べ物があって外に出てたんだ」


「違うのです!」


「えっ?」


「みんなでここに入った。なのに『おねいさん』と『オラベラ』は別のところに行ったのです。なぜなのです?」


首を傾げながら言うザラサちゃん。

ええと、なんと答えればいいのだろうか……


「なんかザラサしたのです?だったら言うのです。ザラサバカだから言ってくれないとわからないのです。……言ってくれればいい子にするように頑張るのです」


悲しそうな顔をして言う、ザラサちゃん。

こういうふうに思ってくれてるだけで胸が痛むのに、

その顔をされたらもう無理。


「ち、違うのよザラサちゃん。ザラサは何も悪いことしてないの。ザラサちゃんはすごくいい子だよ」


そう言ってあげると尻尾が高速フリフリするザラサちゃん。


「じゃ、なんでです?なんでボスたちと一緒にいないのです?」


「あはは、なんて言えばいいかな。……私、今日は元々別の人たちと来てて、ウィリアムくんとは何も話してなかったし、ウィリアムたちと一緒にいていいか知らなかったんだ。許可なしに混ざるのも悪いでしょう?」


「そんなの必要ないのです!」


「え?」


「ベラベラはもう群れの一匹なのです!いつでも私たちと一緒にいていいのです」


真剣な顔で言うザラサちゃん。

後ろにいるブヤブくんはそれに頷いてくれる。

ンズリはものすごく怒っている。


私も群れの一匹と思われてたんだ。

群れの一匹……

王城では絶対に言われない言葉だ。

ああ、やばい。

それ、今日一番嬉しいかも。



「そ、そうなのかな?はは、だったら嬉しいな」


「絶対そうなのです!」


「オラベラ、その子にすごく好かれているんだね」


私の後ろに隠れていたフェリス先輩は顔を出し言う。

だけど、


「ガルルル」


ザラサちゃんが牙を見せてフェリス先輩を威嚇したのである。


「うぅ…」


また私の後ろに隠れるフェリス先輩。


「ザラサちゃん、どうしたの?ダメだよ。この前会った学園の先輩だよ。ウィリアムくんが助けた先輩。覚えてるでしょう?」


「その猫は嫌いなのです!ボスのこと取ろうとするから嫌なのです!その小さい猫もきっとこの大きい猫と同じなのです!」


ンズリを尻尾で指しながら言う、ザラサちゃん。


「さっきから黙って聞いてれば、オマエは本当になんなの、バカ犬!?」


「はぁー?バカって言うやつがバカなのです!大きいねこ、じゃなかった。メスライオンがバカなのです!」


「それだとザラサがバカってことになるけど大丈夫?」


「え?どういうことなのです?」


「だって今、バカって自分で言ってんじゃん」


「え?ええと…………ヒャー!違うのです!ザラサはバカじゃないのです!ライオン!そう!バカって言うライオンがバカなのです!」


「ああ、もういいや、とりあえず犬は黙ってて」


「むかっ!」


「んで、なにベラ?うちに用があったんじゃないの?」



怒るザラサちゃん。

話を進めるためンズリと話し始める。


「ウィリアムくんがどこにいるか知りたくて」


「……」


ンズリが答えないでいると、


「ザラサは知っているのです」


「うちが聞かれたの!」


「ザラサも知っているんだからザラサも答えられるのです!」


「答えられるかどうかじゃなくて誰に対しての質問ってのが大事なの!わかる?」


「わかんないのです!ザラサが答えたいのです!」


「あ、ダメだ。早くウィリが帰って来ないと頭が割れそう」


この二人本当に喧嘩ばかりするね。

今週、遠くからは何度も見たけど、

間近だと本当にわかる。

ちょっと仲悪いとかじゃない。

かなりお互いのことを嫌がっている。


でも、二人はウィリアムくんのことは心配していない。

つまり彼は無事ということだ。

よかった。

溜飲が下がるのを感じた。

無事ならなんだっていい。


そう思っているとフェリス先輩が前に出てきて、

ンズリの前に立った。


「あの…」


「ん?なに?ってか誰?」


「わたし『アルフェリス』。『フェリス』って呼んで。こっちはルリス、あ、ちがう今日はルリスいない…」


「ええと、フェリス?さん?ええと学園で何度か見かけたことあるけど、先輩?」


「うん、フェリス二年」


(そうは見えないわ)って顔でンズリがフェリス先輩を見た。

ちょっとわかる、一個上だけど、

小さすぎて先輩には見えない。

いや、それだけじゃない。

なんか守ってあげたくなるような幼さがフェリス先輩にあって、

年上でも自分より年下に感じてしまう。


「あ、はい、なんですか?」


「ええとね、聞きたいことがあるの」


「……はい」


「いい?」


「だからいいですってば!」


「へへ、ありがとう。あなたはロンロンの彼女さん?」


「えっ!?ロンロンって誰?」


「ロンロンはロンロンだよ」


「いや、知らんし」


ちょっと困ってそうだったので説明してあげよう。


「フェリス先輩、ウィリアムくんのこと『ロンロン』って呼ぶの」


「え?そうなの?つかなんで…ですか?」


「うん、フェリスとロンロン仲良しだから。それであなたはロンロンの彼女さん?」


質問に驚くンズリ。

一度、私を見る。

そうしてなんと答えるべきか悩んでいる顔をした。


「違うなのです!今、ボスにメスはいないのです!」


ザラサちゃんが答える。


「おお、そうなんだ!」


喜ぶフェリス先輩。


「ちょっと!勝手に答えないでよバカ犬!」


「メスライオンはキャーキャーうるさいのです!」


「へへ、彼女じゃないのか。じゃ、許可取らなくても大丈夫だね」


ぼそっとフェリス先輩が言ったのが聞こえた。


「くんくん、あ!ボス戻ってきたのです!」


振り返ると外からルミナーレに入るウィリアムくんが見えた。

その直後にオメガの生徒が集まっているところを見ると、

アンジェリカ姉さんがサムエルを抱きしめていた。



ーンズリー


「ボス!」


ウィリが戻るとザラサはすぐに抱きついた。


「よしよし」


ウィリもザラサをなでなでする。

むかつく。


「オラベラ!大丈夫だったか?姉さんたちは」


「ええ、全員無事よ」


次にオラベラ。

すごくむかつく。


「ロンロン!」


「フェリス先輩!いらっしゃってたんですね。先ほども探したんですけど、見当たらなかったので」


「うん、フェリス来るの遅かったの。あと、モーモーもいるよ」


「そうでしたか。あとで挨拶します」


そしてフェリス先輩とかいう人。


「みんなお待たせ。ホテル借りられたよ。ここから歩いて数分もかからない。だけど念のためみんなで向かおう」


からのやっと『うち』。

うちというより、うちらなんだけど。

その順番にすごくイライラする。

ただでさえ、バカ犬に加えて、

ウィリとオラベラがダンスしたことでイライラしっぱなしだ。

というか警報がなければあれって確実に……

ああー!!思い出すだけでマジ最悪……

でも、ここで怒ってはダメよンズリ。

ウィリを困らせてはダメ。


「オラベラ、フェリス先輩。近くのホテルでいくつか部屋を借りました。今日は学園に帰るのは、というより長い移動は危険です。朝までここで騒ぐんなら別ですが、そうじゃなければ一緒に泊まりますか?」


「え?いいの?」

「泊まる!」


オラベラとフェリス先輩が言う。


「ちょっと、ウィリ!うちらだけって、あ」


思わず声が出てしまった。

けど、もう遅い。

ウィリに少し睨まれた。


「オレらだけって一言も言ってないよ。それにオレの大事な人たちをこのままにするわけないだろ」


大事な人って誰?

オラベラ?それともその猫の人?

……なんでウィリってそうなの。


「ご、ごめん…」


「迷惑なら私はいいよ」


「迷惑じゃないさ。部屋もたくさん借りちゃったし」


「そ、そう?」


「姉さんは?まだ残りそうな感じ?そうでなければ彼女も」


「ちょっと聞いてみるね」


「ロンロン!モーモーも一緒にいい?」


「はい、もちろんです」


「やったー!じゃ、言ってくるね」


「はい。二人とも出るときは全員でです。いいですか?」


「うん」「うん」


そして、オラベラとフェリス先輩は一度この場を去った。


「……」


「なんか文句ある、ンズリ?」


あるけど、

あるんだけど、

ありすぎるんだけど、

自分のわがままってわかってる。

他の子に優しくするウィリに嫉妬しているのがわかってる。

だから、


「ううん、ないよ。さっきはごめんね。うちら五人だけって思ってたからびっくりしちゃって」


「……そっか。じゃ、準備して。デルタで一緒に来てほしいやつはいねえのか?」


一回クレアと目を合わせたが、いなかった。

デルタのみんなが悪いわけじゃない。

ハッシャシンやグリンデルはどちらともいいやつ。

でもハッシャシンは未成年ということで、

グリンデルはクレイが大嫌いということでそもそも来ていないのだ。

あとのデルタのメンバーはパーティーをエンジョイしてそうだしね。


「いない、大丈夫」


その後、うちらはオメガの生徒のいるところに行った。

サムッチが誰にも知らせずに、

長時間トイレに立てこもっていたせいでみんなを心配させてたようだ。

クレアもそれを聞いて少し呆れていたけど。


「大丈夫、サムエル?お腹を壊した?」


「ははは、そうだね。おいしそうなものがたくさんあってなんでもかんでも食べてたら何かに当たったっぽい。というかクレア、そのドレスすごく似合ってるよ、綺麗だね」


「えっ!?あ、ありがとう」


と久しぶりにクレアとサムッチが話してるのを見た。


ウィリが近くのホテルを借りたから来たいやつは来ていいと言うと、

みんな行くと言ったけど、


「ウィル、かっちゃんは?戻ってきてないよ。どうするの?」


シドディが言う。


我鷲丸が戻ってきてないらしい。

一番最初に飛び出したからね。

あれ?それとウィリが嫌いな人もいないね。


「大丈夫だと思うよ。もし何かが起きてればさっきみたいな警報が鳴るでしょ?何もないってことはきっと大丈夫。道に迷ってるとかだよ」


「そ、そっか。かっちゃん道音痴だもんね。わかった。行こう」


「念のため、クレイにはもし我鷲丸が戻ったらオレらがどこにいるか彼に伝えるように頼んでみるよ」


「うん!それいい!ナイスウィル!」


そしてハイタッチ。

何気にシドディとも仲いいんだよね、ウィリ。


「よし!このあとはホテルでも騒ぐにゃ!ンズリも一緒に騒ぐのにゃ!」


ガウラ先輩が抱きついてきた。


「あ、はい。お願いします」


「よし!ホテルに向かうのにゃ!」


ルミナーレの玄関にオメガの全員とうちとクレアが向かう。

そこで待っていると、オラベラと女子の大所帯が来た。


「ウィリアムくん、ごめん。話したらアルファの女子は殺人事件のあとは騒ぐ気にはなれないみたいで、できればみんなで行きたいようなんだけど、大丈夫?部屋をいくつか借りたって話だったけど、いくつ?ダメなら私たちは別のところに行くからさ」


オラベラが言う。

そしてウィリが答えられる前に、


「ウィリアム、無理せずに大丈夫かどうか言いなさい。私たちは自分らの面倒は自分らで見られる。でも、もしも大丈夫なら行かせてもらいたい。今日はみんなでいたほうがいいと思うから」


この人は確か、三女神のリーダー……、セレナ・ヴァレンだっけ?


「大丈夫ですよ、先輩。結構大きめのホテルの1フロアを借りたのでまったく問題ないです」


「え?1フロア?ええと、このミレニアム区のホテルの?」


「はい、そうです」


「あ、そう、う、うん、そう、じゃ、じゃよろしく」


セレナ先輩が下がったあとにアンジェリカ姉さんに、


「あいつどんだけ金持ってるのよ!?」


って言ってるのが聞こえた。


「ありがとうウィリアムくん」


オラベラが言った。

そのあと、フェリス先輩とすごくイケメンな人、

ベータのカサンドラ、付き添いのエルフの人、

鹿科の獣人、魚科の獣人の女子二人がうちらに加わり、

噂を聞きつけた全く知らない女子も何人か加わった。

ほとんど女子だ。

男子はフェリス先輩と一緒にいる人とオメガのメンツだけだ。


みんなでクラブを出ようとしたところクレイが来た。


(何しに来たのよ!?)


「おう、帰るのか色男?」


「ああ、楽しかったぜクレイ。でも、あれの後じゃ騒げねぇ連中もいるからよ。そいつらだけこっちで預かるぜ。女は足りてるだろう?」


「いやいや、むしろ感謝するぜ。しけた連中が残っても盛り上がらねぇ。それに女ばっかり連れていってくれるのはこっちとしては助かるぜ」


ん?

女を食いまくるのが大好きなヤツが、

女がいなくなるのが嬉しい?

どういうこと?


「あと、もしバカ王が来たら伝言は伝えとくぜ」


「おう、頼んだ」


それだけ言葉を交わし、

クレイは来てくれたみんなに礼を言って、

最後に一瞬だけうちを見てからルミナーレの中心に戻った。


うーん、何かが怪しい。

いつものうざいクレイじゃない。

何を企んでるの?

そういえば、このパーティーを開催する前に何度も他クラスの男子生徒の情報を聞かれた。

タダでこんなパーティーを開くとは思ってないけど、

女子が帰っても問題ないってことは男子に対して何かをやるつもりってこと?

……まぁ、いっか。

ウィリが無事ならあんま関係ないし。

一応サムエルとオメガのメンバーも来るから大丈夫っしょ。


「よし、みんな行くぞ。離れるなよ。アンジェリカ姉さん、話し合ったように戦闘力の高い者は集団を守るような位置につかせてください」


「ええ、わかったわ」


いつの間にか、そういう話もアンジェリカ姉さんと話してたらしい。

ウィリってすげえな。

いや、すげぇのは前から知ってたけど改めてっていうか、

そんなことを話してたら予想外の人が来た。


「ウィリアムくん、よろしいでしょうか?」


「アルドニス先輩!ってワオオ!さっきから思ってましたが、近くで見るとっぱないですね!まじで綺麗っす」


「あ、ありがとう」


頬を赤らめた?


「そ、それでだな、ウィリアムくんが近くのホテルで何人かの生徒が夜を過ごすためにホテルを借りたと聞く。できれば私と生徒会のメンバーも一緒に行くことは可能だろうか?もちろん自分らの費用は自分で持つ」


「もちろんです。ですが、条件が一つ」


「ええ、言ってくれ」


「オレのおごりで。じゃなきゃ来てはダメです」


「そんなわけにはいかない。こちらとしても」


「じゃ、来ないでください」


ウィリはまっすぐとアルドニス先輩の目を睨んだ。

まるで、断れるもんなら断ってみろと言わんばかりの強い眼差しだ。


「……ふふ、わかった。君の優しさに甘えるとしよう。感謝する」


「感謝はいりません。先輩のドレス姿を間近で見れただけで十分にお釣りが返ってきますよ」


「な!?……君はやはり先輩をおちょくるのが好きのようだな」


「まごうことなき真実です。先輩にはそれくらいの価値があると思います」


「……やっぱり私には君がよくわからん。褒められてるのに褒められてる気がしない。その言葉の先にはどうしても『でも』があるように感じる」


「ふふ、感は鋭いですね。ですが、今はそういうことをお話しするときではありません。行きますよ」


「ああ」


短い会話だったが生徒会のメンバーが驚いているところを見ると、

アルドニス先輩の今のやりとりは珍しいってことがすぐに伝わった。


なんで学園で一番綺麗な人とも仲良いの!?

聞いてないよ!

さすがにそれには勝てないって!


そして学園史上1の美しさを持つアルドニス先輩と生徒会長を含んだメンバーでホテルに向かった。



・4月27日(土曜日)


ーオラベラ・セントロー


ホテルに着いたときには時計の針は0時を過ぎ、

土曜日が訪れてしまった。


ミレニアム学園に通う生徒には

私のような一国の王女もいれば、

アラベラ、エリザ、姉さんのように貴族もいれば、

平民もいる。

つまり、経済事情はさまざまだ。

はっきり言えば、

私はお金に困ったことがない。

でも、無駄遣いもしたことがないと思う。

お金をたくさん持っているからってなんでも買っていいわけじゃない。

必要なものだけを買うべきだ。

必要なときに利用するのがお金の正しい使い方だと思う。

だけど、その必要なときに使えるお金がたくさんあったほうがいいというのも事実である。


ホワイトクラウン・グランドホテル。

その豪華さ、位置、接客とあらゆる場面にすぐれているこのホテル。

間違いなくホワイトシティNo.1のホテルである。


私はおそらくここに泊まれるお金を持っている。

だけど、アラベラ、エリザ、姉さんもそうだろう。

一緒に来た人の中の半分くらいはそうかもしれない。

だけど、残り半分はそうじゃない。

うまく話し合ってみんなで誰がだれの分を出すとか、

お金を持っている人で出し合おうとかできたと思う。

でもそういう話ってあんまり気持ちいいものじゃなく、

もめでもしたら最悪だ。


だから本当にちょっとしたことだけど、

ウィリアムくんが全部支払ってくれたのは、

そういうトラブルを防いでくれた。

それに「オレに奢られたくないやつは来てはダメだ」

とはっきり言ったことで、

ここにいる人は全員そのつもりでいる。


奢られるというのに、

ウィリアムくんの悪口を言っている子がいるから注意しようとしたら止められた。


「大丈夫、今はばらばらにならないことが大切だから」


そう言ってくれた。

うん、なにがあるかわからないからこそ今は『みんなで』安全なところにいたほうがいい。

一人で行動するのが一番危険なのだ。

だったらルミナーレに残ればいいじゃんともなるけど、

あそこは騒げても気が休まるところではない。

なので、お金をたくさん持っていることじゃなくて、

その場を作ってくれたウィリアムくんはかっこいいと思った。


ホワイトクラウン・グランドホテル。

私は王女としての務めで何度か足を運んだことはあるけど、

来た者の中には入るのも初めてっていう人もいた。

その豪華さに驚いていた人も多かった。

ウィリアムくんが言ったとおりまるごと1フロアが借りられてて、

使える部屋がいくつもあった。

ウィリアムくんが部屋分けをアルドニス先輩、セレナ先輩、アンジェリカ姉さん、ファティーラ先輩にお願いし、彼女らが全員を振り分けてくれた。

なるべく一緒にいたい人は一緒の部屋にいるように組んでくれた。

ザラサちゃんを除くオメガ女子とンズリとクレアさんは女子会をするらしい。

それを聞いたカサンドラは


「ふふ、楽しそうですね。私も参加させて頂いてもよろしいでしょうか?」


と言って、

すぐにガウラ先輩を筆頭に


「もちろんいいにゃ!たくさん語るのにゃ!」


と即答していたが、


「ダメです。今日はもう休まないとだめです。調子自体はよくないんですから」


とリルヴィアさんが止めていた。

カサンドラは悔しそうな顔をしながらもリルヴィアさんの言うことを聞いた。

本当にリルヴィアさんがカサンドラを診てくれるのは助かる。

ルミナーレでも言ったようにカサンドラには普通に生きたいという願望が強い。

そのため無理をしすぎてしまうところがある。

私が彼女の面倒を見ている立場ならカサンドラの口車に乗せられて、

結局はカサンドラの言う通りになってしまうと思う。

でも医療のプロであるリルヴィアさんにはカサンドラも逆らわない。

彼女がダメというのなら本当にダメなのだろう。

もちろんカサンドラにはいっぱい楽しんで欲しいが、

体調が許す限りでだ。

カサンドラを死なせるつもりはない。

彼女はこれからも長く長く生きる!

私のアルファが優勝しようが、

彼女のベータが優勝しようが、

彼女の病気を治療できる『魔法使い』を探してもらうという願いは叶うんだから。

それまでは少しは我慢してもらおう。

その後にたくさんたくさんやりたいことをすればいい。

そのときには私はもう自由に動ける身でなくなっているだろうけど、

それでも友人が元気な姿で自由に生きているのを見られれば私はそれでいい。

カサンドラ、リルヴィアさん、

そしてベータの女子、

魚科獣人のアクアさん、

鹿科獣人のノコノコさんとおやすみの挨拶を交わし、

彼女らは割り当てられた部屋へと向かった。


私たちアルファの女子九人は二番目に大きい部屋で全員泊まることになった。

同じ寮で過ごしているけど、先輩たちと同じ部屋で寝るのはなんだかんだ初めてだ。

ちょっとわくわくしている。


みんなで部屋にある大きな風呂に入り、

体を洗い、ホテル側で用意してくれている寝巻きに着替えた。


気づくと、そこにはエリザも、アンジェリカ姉さんも、アエル先輩もいなかった。


「エリザと姉さんはサムエルのとこに行ったよ」


アラベラが言う。


「そうなんだ。ってそんなことしていいの?」


「いいもなにも、うちら成人でここは学園じゃないんだよ。ダメな理由が逆にある?」


「そ、そっか……」


「オラベラも行ってくれば?」


「わ、わたしは……」


「事件のことで聞きたいことがあるとか言ってなかった?」


「あ、うん。そう…だね」


「行ってきなよ」


アラベラは絶対別のことを狙ってると思う、

それでも自分を押し殺して、

もっともらしい理由をつけてくれているのがわかった。


「……うん、行ってくる」


部屋を出ようとしたときに思った。


「あれ、ウィリアムくんの部屋って?」


「ここを出てまっすぐ歩いたとこの最後の部屋よ」


セレナ先輩が言った。


「あ、ありがとうございます先輩」


「オラベラ!どうせケダモノに堕ちるんなら、堕とされる前にそっちから狩ってやりなさい!あのライオンの子に負けんじゃいわよ!」


「ち、違いますって。ただ事件について聞きたいことがあるだけですから……」


「そう…、じゃ、いいわ。せいぜい彼があの綺麗なライオンの子といちゃいちゃしてるのを残りの学園生活で見ていなさい。ふん!」


そう言って、セレナ先輩は自分のベッドに向かった。

怒ってしまった……

ごめんなさい、先輩。

でも、違うんです。

私に好きな人はいないんです。

いちゃいけないんです。

私と一緒にいるということは、

彼をあの窮屈な世界に閉じ込められることを意味する。

セントラム王家の婚姻は、基本的に政略結婚になる。

王族と結ばれるということは、自由に生きられないことを意味する。

自分がこれほどまでに嫌っている世界になぜ大切な人を連れて行けるの?

私にはできない……

彼には自由に生きてほしい……


だから……

いてはダメなんだ。

できちゃダメなんだ。

だから私は彼を好きにはならない。

好きじゃない!

うん!そう!

友達!とてもとても大事な友達。


……一緒にいるとドキドキが止まらなくて、

気持ちが抑えられなくなる、

いちいち心臓が飛び出そうになる、

……ただの友達……


あー、本当にどうしたの私!?

今までこんなことで悩んだことなんてなかったじゃない!

本当に学園の五年間誰も好きにならずに過ごす自信があったじゃん!


アラベラとエリザの好きな人話も真面目に聞いたことなんて一回もなかったのにな……

ちゃんと聞いてればこの状況にも対応できるようになってたのかな……

なんか無理な気がする。

どんなに準備、勉強をしてたとしても、

ウィリアムくんの衝撃は全てを破壊していったと思う。


……この気持ちが『好き』であるのかはわからない。

でもそこに至らせてはダメだ。

それは私のためであり、

彼のためでもある。

そう思い、廊下を歩き始めた。


オメガ女子会の部屋は扉が開きっぱなしでいつでも誰でもウェルカムって感じだった。

しゃべり声に笑い声が聞こえる。

女子会って言ってたけど男子の声も聞こえる。

本当に楽しそうだ。

特にガウラ先輩という人の声が大きく、

彼女が話すだけで、笑うだけで、

こっちまでもが楽しくなっちゃう。

でも、アンジェリカ姉さんから聞いた。

彼女は二年生の中で、

円卓の二人組を除けば最も強いって。

つまり、アンジェリカ姉さんは彼女を自分よりも強いと思っていることになる。


歩いている途中で階段の前を通ると、

そこで二人の姿を見て、

私はふと隠れた。

アエル先輩とウェイチェン王子である。


「そうだったのか。イェン帝国にはそのようなものがあるのだな。興味深い」


「はい、いずれはアエル先輩にも見せてやりたいです」


「そうだな、機会があれば私もいつか行ってみたいなイェン帝国には」


「はい、ぜひ。先輩が来たら私が帝国を案内しますので任せてください」


「いいや、それはできない。帝国の王子に国を案内されてみろ、人だかりができてまともに歩けん状態になるのではないか?」


「あ、そう…ですね。すみません」


落ち込んだように顔を下げるウェイチェン王子。

ええと、これってウェイチェン王子がアエル先輩に


「一緒にイェン帝国に行きましょう」


って言ったってことだよね?

それを先輩が断った?

そっか、ウェイチェン王子はタイプじゃないのかな?

とてもカッコいいと思うけどな。


「ど、どうした、なぜ落ち込んでるんだ、ウェイチェン……王子?」


あれ?もしかしてアエル先輩それをわかってない?


「だから王子はやめてくださいとお願いしたじゃないですか、アエル……先輩」


「そっちだってまだ『先輩』つけではないか、私もそれをやめるようにお願いしたぞ」


「いや、だから先輩は現在進行形で先輩ではないですか!俺は今は王子ではなくミレニアム学園生です」


「そんなのただの屁理屈だ。形的にはそうなっているが、そなたもオラベラも王族であることには変わりがない。そう易々とウェイチェン……お、と呼べぬ」


「ぷー」


「わ、笑うな!これでも頑張ったのだぞ」


「ははは、いいえ、すみません。あまりにもかわいくて」


「か、かわいい!私がか?」


「はい、かわいくて、美しくって、聡明です……アエル」


アエル先輩の頬が赤くなった。


「わ、私をあまりからかうな」


「からかっておりません、真剣です」


さらに顔が赤くなる先輩


「もうよしてくれ、そういう目で見つめないでくれ」


「……失礼しました。不快にさせるつもりは、」


「違う!ふ、不快などではない。ただもう耐えられないだけだ。お願いだから今日はもう勘弁してくれ」


「はい!かしこまりました『今日は』やめます!『明日から』またやります!」


「も、もう……」


わおお。

私にもわかるくらいにいい感じだ。

まずい、邪魔をしてはいけないな。

そっと、そっと進もう。

そしておそらくは気づかれずに通れたと思う。

私は隠密はあんまり得意なのではないのだけど、

あんだけ二人の世界に夢中なら気づかれないか。

ともかくなんとか通り抜けた。


歩いてたら、部屋の扉が開いた。


「にゃははは、じゃ、そっちは三人仲良くにゃ。俺は女子の部屋に行くにゃ。っておっとオラベラにゃ!」


「フェリックスくん、久しぶり」


「にゃははは。うん、ちゃんと同じ学園に通うことになったのにちゃんと話してなかったにゃ」


フェリックスくんとは子供の頃からの知り合いだ。

私が『やんちゃ姫』と呼ばれていた時代に、

よく王城を抜け出して街に遊びに行ってたのだ。

そのときに知り合ったのはフェリックスくんである。

一時期は毎日彼と遊んでいたことがある。

彼の家にも何度も行って、

彼の家で何度も食事をしたことがある。

だから彼の家族とも仲がいい。

いや、仲がよかった。

王女としての責務に追われるようになってからは会ってない。

ひさびさに会ったのは学園の初日で、

挨拶くらいはしたが、ちゃんと話しはしてなかった。


「だね。私もなかなか話しかけられずにごめんね。弟たちは元気?」


「元気にゃ。今でも週末はいつも会いに行ってるにゃ。今度はオラベラも会いにくるのにゃ」


「いいの?」


「なんでダメなのにゃ?」


「だって私はいきなりみんなの前からいなくなって……」


「オラベラがそうしたくてしたわけじゃないことはわかってるにゃ。弟たちもわかってるにゃ。オラベラは今でも友達にゃ。それともなんだ?そう思っているのは俺だけなのかにゃ?」


あ、やばい。

ザラサちゃんのときといい、

今日はやばいな。

なんでみんなこんなに……


「…っ…っ…」


「なんで泣くのにゃ!?やめろなのにゃ!ウィリアムに怒られるのにゃ!」


「へへ、泣いてないって。いや、ちょっと涙出たけど、いいやつ。私もフェリックスくんのこと友達だと思ってるにゃ!」


「にゃははは、オラベラの『にゃ』しゃべり久しぶりに聞いたにゃ。あいかわらずかわいいにゃ。ウィリアムが惚れるのもわかるにゃ」


「え?う、ウィリアムくんそんなことを言ってた?」


「にゃははは。どうだろにゃ?知りたいかにゃ?俺の情報は高いのちゃんと覚えているかにゃ?」


「ははは、うん、覚えてるよ。その人が簡単に払えない額。でも払えないわけではない額でしょ?」


「うん、さすがよく覚えてるにゃ」


フェリックスくんは情報屋である。

子供のときからそうだった。

それも街一番の……!?


「フェリックスくん!」


「にゃ!どうしたにゃ?」


「今街で起きている殺人事件について調べられる?というか知っていることはある?」


「んー、調べられるけど、調べたくないにゃ。今回の殺人鬼ちょっと普通じゃない気がするのにゃ。あんまり関わりたくないにゃ」


そしてこの直感も間違ったことは一度もない。

彼が行かないほうがいいと言ったところに行くと、

必ずといっていいほど悪い何かが起きた。


「そ、そっか、わかった。うん、フェリックスくんに何かがあるのは嫌。自分でなんとかする」


「俺が関わりたくにゃいってことは、オラベラも関わらないほうがいいってことにゃ」


「わかってる。でも、私、この国の王女だから」


「そっか、じゃ、止めないにゃ。でも気をつけるのにゃ。あと、関わりたくなくともオラベラからの依頼だったら引き受けるにゃ。どうしてもっていうときは言うにゃ」


「うん、わかった」


「うん、とりあえずウィリアムには、オラベラがウィリアムのことが好きだから好きな人を知りたがっていたという情報を売っておくにゃ」


「ちょっと!そんなこと言ってないでしょ!?」


「にゃははは、言う必要ないにゃ。顔を見ればわかるにゃ」


「し、知りません」


「そうかにゃ。でも、まぁ久しぶりに会った友達のよしみで教えとくにゃ。ウィリアムはオラベラのことを好きとは言ってないのにゃ」


「……そう…なんだ」


(って言うわけないよね……)


「うん、言う必要ないにゃ。顔を見ればわかるにゃ」


「え?」


「じゃ、俺はもう行くにゃ。あとその部屋は立ち入り禁止なのにゃ」


そう言ってフェリックスくんは走っていった。

階段のところでピタッと止まり、


「ウェイチェンなにしてるのにゃ!?もう二次会は始まってるのにゃ!」


ここからは見えないけど、

おそらくまだアエル先輩と一緒にいたウェイチェン王子に言うのだった。


立ち入り禁止の部屋の扉が開いていたので中を覗いてみた。


「はい、サムエル。お風呂に入るわよ」


「いや、もう一人で入れるって」


「ダメよ!具合悪いんでしょ!?お姉ちゃんが一緒に入ってあげるわ」


「いや、ダメだって。この年になって一緒にってのはさすがにまずいって!」


「うるさい!一人で行かせたらまた逃げちゃうでしょ?」


「逃げないって、本当に逃げないって」


「逃げたら?」


「ええと、お姉ちゃんの好きにする?」


「うん、わかった!じゃ、すぐに風呂に入ってきて。私とエリザはもう入ったから」


「え?ああ、うん」


「それとエリザ、今のサムエルの発言聞いたよね?」


「はい、聞きました姉さん」


「げっ!?エリザ!オマエまで」


「ふん!」


エリザはさきほどまでクレアさんと仲良くしてたから怒っているのだ。

さっき言ってた。


「わ、わかったよ。行ってくるよ」


「うん、終わったら今日は三人で添い寝するから」


「え?聞いてないって、そんなのやるって言ってないって」


「じゃ、風呂に一緒に入るわよ。どっちがいい?」


「え?それはちょっと」


「だからどっち」


「そういうことじゃなくて」


「早く選ばないと私で決めちゃうからね」


「わかった、わかった。添い寝!添い寝で」


「うん、じゃ、早く行ってきて」


「は〜い…」


アンデッドのように風呂場に向かうサムエル。


姿が見えなくなってからアンジェリカ姉さんがエリザに言う。


「ちょっと、エリザ。しっかりしなさいよね。エリザがもたもたしてるからサムエルが他の子と仲良くなってるじゃん。せっかく私がエリザならいいって応援してるのに。ていうか本当はエリザも嫌なんだけどね!サムエルが私の弟じゃなければ誰にも渡していないんだからね」


「はい、わかってます、姉さん。そしてすみません。これからもっと頑張ります」


「うん、わかればいいのよ、じゃ、私、サムエルの右側ね」


「はい、わかりました。でも私もでしょうか?」


「そうよ、なんで?」


「だって、サムエルと添い寝って子供のとき以来というか…、なんていうか…」


「いやなの!?」


「……いやじゃないです」


「じゃ、決まり、今日は三人で添い寝。この話は終わり」


「はい、わかりました」


……なんていうか、……相変わらずの姉さんとエリザである。

私はそっと扉を閉めた。


そしてウィリアムくんの部屋へとたどり着いた。

思った以上に時間がかかった。

扉まで近づいたがいざノックするとなると……

結構緊張するのである。

いや、大丈夫。

事件のこと事件のこと事件のこと!

うん、事件のことを聞くのだ!

私は扉をノックした。

だけど少し待った後に扉を開けたのはウィリアムくんではなく、

ンズリだった。



ーンズリー


オメガ女子+ンズリ&クレア部屋にて


「にゃはは、そこでなホウがな、『この俺が円卓を倒してやるぜい!』って言って向かっていったのにゃ」


ガウラ先輩が去年の第一回クラス対抗試験のことについて話してくれている。

変態のポン・ホウ先輩が果敢にフェリス先輩と一緒にいたすごいイケメンの人に挑むところだ。

なんか円卓の騎士で『モードレッド』というすごい人のようだ。


「それでどうなったんですか?」


クレアが真剣に聞く。


「一撃でぶっ飛ばされたのにゃ、突っ込んでいった場所のさらにうしろにぶっ飛んだのにゃ!にゃははははは。あれはマジでわらえたにゃ」


「「「「「ははははは」」」」」


みんな笑う。

お笑いのネタにされているポン・ホウ先輩自身もだ。

全然怒ったりなんてしていない。


「あれはたまたまだ!今やれば俺が勝つ!この一年でぶっ飛ばされてもすぐに体勢を立て直せる奥義を習得したぜ」


「……ん?いや、それ意味ないにゃ」


「なんでだよガウラ!?」


「だって、それぶっ飛ばされる前提じゃん」


「あ、マジだ。やっちまった」


「にゃはははははは」


「「「「「ははははは」」」」」


バカだ。

この人マジでバカだ。

だけど、なんか嫌いになれないバカだ。


というかオメガのほとんどがそう。


もちろんバカ犬は除く。


ウィリが嫌っているオプティマス?

だけはちゃんと話したことないけど、

悪い人じゃなさそうだった。

ただ、ウィリに嫌われるわけにはいかないから仲良くする気はない。

ウィリには何も言われていないけど、

うちが勝手になんとなくそうしている。


それと一つ上のエンマ先輩。

彼女だけはときどき嫌な目で見てくる。

ごまかそうとはしているみたいだけど、

長い時間一緒にいるとさすがにばれる。

欺瞞や演技は得意なタイプじゃなさそうだし。

まぁ、みんなに好かれるのは無理だし、

それにうちとタイプが真逆だからね、

だって見た目が勉強のお虫さんって感じだし。

合わないのはわかる。


あとは、アンバーかな。

いや、仲良いよ。

すごい仲良くしてくれるよ。

ただ、なんか……なんだろう。

完璧な友達過ぎて、

リアルさに欠けるっていうか、

なんかどこかこれ本音なの?

ってどうしても疑ってしまう。

これでただのいい子だったらうちが最悪の人になるんだけど、

今はなんか完全に信用はできない感じかな。


「次はエリオットがうちの裸を見て失神したときの話をするにゃ」


「おい!それは事故で完全にオマエが悪いだろ!」


エリオット先輩はガウラ先輩によく怒る。

でもなんか本気で怒ってるというか、

多分そういう性格なんだなって感じがする。

二人が仲悪いように全然見えない。

本当の意味で仲が悪いバカ犬がいるうちだから言える。


「にゃははは、エリオットの言う通りにゃ。うちがシャワーを浴び終わって部屋に入ってタオルをベッドに投げてスッポンポンになったのにゃ」


「それをエリオット先輩が見て失神したんですか。それと、なんでエリオット先輩がガウラ先輩の部屋にいたのですか?」


クレアが聞く。


「違うにゃ。うちが部屋に入ったらエリオットがいたから『よう、エリオット!』と言ったのにゃ。そしたらエリオットが『がががガウラなんで男子部屋にそのような格好で入ってきてるんだ!?』と言うもんだから、うち当たりを見回したわけよ」


「ええ、それで?」


「そこは男子部屋だったのにゃ!」


「マジっすか!?それってポン・ホウ先輩にも見られる可能性があったってことっすよね!?」


思わず言ってしまう、うち。

あ、まずったと思ってボン・ホウ先輩を見ると、


「そうなんだよンズリちゃん。この話何度聞いてもなぜ俺はそこにいなかったんだって悔しくて悔しくて」


「あ、ええ、そ、そうなんですね」


怒ってないどころか、

論点がまるっきり違う方向に行ってるよこの人。

本当に正真正銘の変態だ。


「それでどうなったんですか?エリオット先輩は女性の裸を見慣れてなくて失神したとかですか?」


「クレア、オマエは俺をなんだと思っているんだ?」


クレアの質問にエリオット先輩が突っ込む。

ちなみに隣に座っている。

さっきからなんかいい感じに見える。

サムエルといい、ウィリといい、なんかいろんな人といい感じになるね。

ん?ええと、待てよ。

サムエル、ウィリ、エリオット先輩……!

わかった!クレアのタイプが。

黒髪イケメンが好きなんだ!

三人ともそうだもん!

へへ、なんだか親友の秘密がわかった気がした。

あれ?今、自然とクレアのこと親友って思っちゃった。

ふふ、いいよね。

親友に付き合いの長さなんてかんけえねえ。


「ええ?じゃ、先輩は女性の裸を見慣れているんですか?」


クレアが攻める。


「ヒューヒュー、どうなのよエリオット?」


ポン・ホウ先輩が煽る。


「み、見慣れてねぇよ。つか家族以外ではあれが初めてだ。でもだからって裸を見て失神したりしない!」


「えー、本当ですか、じゃなにがあったんですか?」


「それがにゃ、うちの裸を見るのを悪いと思ったのかエリオットはすぐに視線をずらしたにゃ」


「はい、それで?」


「体ごと視線をずらして、ずらした先の石像に頭をぶつけたのにゃ!一発KOだにゃ!」


「「「「「ははははは」」」」」


みんなが笑う。

やっぱりオメガはいいな。

先輩がしっかりしている。

ううん、しっかりはしてないのかもしんないけど、

後輩のことを考えてる気がする。

デルタではこうじゃない。

みんなが自分のことばかり考える。


「ファティーラ先輩、かっちゃん本当に大丈夫かな?うち心配だよ」


シドディがファティーラ先輩に聞く。

ってそうだよね。

我鷲丸は警報が鳴ってすぐにルミナーレを飛び出したあとまだ帰らない。

確か、我鷲丸とファティーラ先輩は付き合ってんだっけ?

王様プレイとかもしてたし。

ウィリも王様プレイとか好きなのかな?

今度やってみよう。


「大丈夫です。問題ありません。運命の神子様に何かがあれば私にはわかります」


「どうやって?」


「運命が私に教えてくれるのです」


「じゃ、運命様は今なんて言っているの?」


「何も言ってはおりません」


「……そうなんだ」


「はい、なので大丈夫だということです」


「そっか、わかった!」


今のでわかったんだ?

うちは全然わかんねえよ。

ファティーラ先輩は不思議ちゃんなんだよな。

褐色の肌の豊満な胸の美人、鳥科獣人。

何も話してなければ、めっちゃ大人の女性って雰囲気なのに、

中身があれなんだよな。

はは、でも嫌いじゃない。

いい人そうだし、それに二年オメガのリーダーなんだよねあれで。


そのあとも少し話したが、

やっぱりうちの心半分はここにいなかった。

ウィリに怒られたことを今も気になってる。

あの後は普通にしてくれたけど、

やっぱり気になる。

謝りたい。

また、これでバラバラになりたくない。

やっとウィリとの毎日が戻ったんだ。

やっぱりウィリの部屋に一回行く。


「ちょっとうち、ウィリのところに行ってくるね」


クレアに言っとく。


「うん、わかった」


部屋を出て行こうとすると、


「ウィリアムのところに行かれるんですか?」


ファティーラ先輩に引き止められた。


「はい、これからちょっと話してきます」


「ウィリアムはあなたの『ワンズデスティニー』ですか?」


『ワンズデスティニー』


獣人には、

「ワンズデスティニー」と呼ばれる運命の相手がいる、

という言い伝えがある。

一生をかけて愛し、尽くすことになる、ただ一人の相手。


けれど、その相手に実際に巡り会える獣人は、

ごくわずかだと言われている。

そして――もし本当にそんな相手がいるのなら、

「一生出会わないままでいたい」

と願う獣人も決して少なくない。


ワンズデスティニーに出会ってしまえば、

もうそれまでの自分ではいられなくなる。

その人のそばにいないと落ち着かず、

離れれば体調まで崩し、

気づけば自分の時間も、力も、人生のすべてを、

その人のために注ぎ込んでしまう。


それでもなお――ワンズデスティニーに出会った獣人は、

「本当の幸せ」を得るのだと言う。


だけどそんなの信じている人はほぼいないんだけどな。

古い言い伝えだし、

ワンズデスティニーに出会ったって人のほうが少ないし、

この人が私のワンズデスティニーって言ってる人に限って、

なんかうっさんくさいんだよね。


だから私はそんなのを信じてない。

好きになった人を愛す!

ワンズデスティニーなんて関係ない。

好きになった人がワンズデスティニーだったらいいなとは思う。

でも、言い伝えの症状をウィリに対しては感じてない。

だから違うのかな?

それともこれからそうなっていくのかな?

わからない。

だから私の答えは、


「わかりません。あんまりワンズデスティニー信じていないんですよね」


「そうでしたか、なら違うということです」


「え?どういうことですか?」


「彼があなたのワンズデスティニーならあなたには必ずそれがわかる。それに気づくまでは個人差はありますが、一ヶ月も一緒にいてワンズデスティニーという確信がないのならそれはワンズデスティニーではないということです」


「あ、はい。だからなんですか?」


ちょっと先輩の言っていることに怒った。


「そう睨まないでください。私はあなたのことを心配しているんです。ウィリアムがあなたのワンズデスティニーなのならばあなたたちは必ず結ばれるでしょう。ですが、そうじゃなかった場合、そうはいきません。いいえ、一番大きな問題がそうじゃないのにあなたたちが結ばれてしまったら、将来悲劇が起きます」


「悲劇?」


「はい、ウィリアムと結ばれた状態で本来のワンズデスティニーに出会ってしまったらあなたはどうするのですか?いいえ、聞くまでもありません。ワンズデスティニーに出会ってしまった獣人は全てを捨ててまでもワンズデスティニーに尽くそうとするんです。わかりますか?それは彼を傷つけてしまうことになるということです。恋人の消失ならまだいいでしょう、あなたたちが結婚すれば、彼は妻を失うことになり、子供が生まれれば、子供たちは母を失うことになる」


「さっきから何を言っているんですか?ワンズデスティニーとか、将来とか、結婚とか子供とか。うちはまだそんなこと考えてない!うちはウィリと一緒にいたいだけ!先輩はそういうことを言って何がしたいんですか?それともうちの邪魔がしたいだけ?……まさか先輩もウィリを狙っている……」


「違います。確かにウィリアムは私たち獣人を強く惹きつける『何か』を持っていますが、それは彼を『慕う』ものであって、彼に『恋』するような効果ではありません」


「だったら先輩には関係ないですよね!?いきなり変なことを言うのをやめてください。もう行きますね」


「……ンズリ。やはり、あなたには伝えておきましょう。我が神『フェイタス様』からお聞きしたことを」


「はっ?神?フェイタス?本当さっきから何言ってんの?」


「誇り高き獅子科の獣人、ンズリ。今の世にはワンズデスティニーに巡り会える獣人は極少数なれど、あなたは必ずワンズデスティニーに出会えます」


「はぁい?」


「お喜びください、これは吉報です」


「は?そのワンズデスティニーがウィリじゃなければ全然喜べないんだけど。ああ、ダメだ。これ以上話してたらマジでキレる。……すみません先輩。変な方とは思っていましたけど。こういう悪さをする人とは思っていませんでした。ちょっと失望しました。うちはもう行きます」


そしてンズリは部屋を出て行った。


「これも運命の導きか……」


そうファティーラはつぶやいた。



知らない知らない知らない!

ワンズデスティニーとか知らない!

うちは『今』ウィリが好きなの!

それが全てなの!

あんな変人の言うことなんて気にする必要なんてないんだから。


早足でウィリの部屋へ向かう。

途中の階段でウェイチェンと三女神の一人が話しているのが見えた。

邪魔しないようにすぐに通り抜けた。


コンコン


ノックをする。


「ん?なんなのです?」


あー、バカ犬か。

つうかなんでバカ犬は毎日ウィリと寝れるわけ?

ずるくない?

本当むかつく。


「ウィリは?」


「ボスは忙しいのです。メスライオンに構ってる暇はないのです」


「はぁ?それ、ウィリが言ったの?通してくれないならそうザラサが言ったってウィリに言いつけるよ」


「じゃ、話せないようにボコボコにしてやるのです」


「このバカ犬!」


「ガルルル!」


「おい、二人とも何してんだ」


ウィリが言う。


「な、なんでもないのです、ボス。ザラサはいい子なのです」


「……ふーん。じゃ、床に寝どころ作ってやったからもう寝なさい」


「わかったのです。ザラサ寝るのです。ボス、おやすみなのです」


「うん、おやすみ、ザラサ」


ザラサの頭を撫でて言うウィリ。

うちのこともああいうふうに撫でればいいのに。


「中へ入れ」


「うん、ありがとう」


部屋に入ると、すでにブヤブくんがベッドで寝ており、

ザラサも床にかけ布団を引いたようなところで寝始めた。


「どうしたの?」


「あ、ええと、ウィリ怒ってるかなって」


「クラブでのこと?」


「うん……」


「あんときはちょっと怒ったかな。フェリス先輩もいたし、オラベラも迷惑であると感じてしまったら来ないと思ったしね」


「そうだったんだ」


「うん、でも今はもう怒ってないよ。だからそんな気にすんなよ」


嘘じゃないと思う。

怒ってない。

けど、ちょっとはがっかりさせちゃったとは思う。


「ごめんね。本当は言うと五人だけでいたかったんだ。ウィリは泊まるとこ探してくると言ってルミナーレを出たとき勝手に頭の中で五人で朝まで騒いでいる想像しちゃって、想像したことと現実がずれて、なんというか……、ごめん。場を悪くするようなことを言って」


「……」


素直に謝った。

だけどすぐに返事は返ってこなかった。


「オレの意図はわかるか?」


「意図?」


「うん、なぜこうしたか」


「ええと、ウィリが超かっこよくて、超優しいから?」


「ははは、違う。そう思ってくれてるのは嬉しいけどな」


「へへ、本当だもん。でもだったらなんで?」


「今日という夜を嫌な夜にしたくなかったのさ」


「……どういうこと?」


「クレイはパーティーを開いた。すごく豪華な場所で、すごく豪華なスタッフ、出し物、料理に酒を用意してね。彼には何かしらの狙いがある。それはそのうちわかるだろう。だけどね、ああいう感じでみんなで楽しむ夜ってのはそうそうない。少なくともオレの経験上ではな。だけど殺人事件という出来事が起こったせいで、それが台無しになってしまった人たちがいる。もちろん、あそこに残った人はそんなのがあっても楽しめるから彼らにとっては最高の夜で変わらん。だけど、ここに来た連中はそうじゃない。それができない人たちだ。だからこの夜が嫌な夜で終わらないように守ってやる必要があった」


「え?ああ、うん。そう、そうかもね」


って難しく説明してくれたけど、

やっぱりウィリが超かっこよくて、超優しいからじゃん。

でも、ちょっと待ってウィリってそんな人のこと気にしないよね?

自分にとって大切な人だけを守る人だよね?

これはこの一ヶ月一緒にいてわかったことだ。


「なんか言いたそうだな」


「うん、ウィリってさ、自分の家族、大切な人は守るじゃん?でもなんというか、悪い意味でとらえないでほしいんだけど、他の人は割とどうでもいいとこあるじゃん?だからなんで大切じゃない人までにもそうしたのかって」


「はは、この短期間でオレのことがよくわかるようになったな」


「へへ、毎日見てるもん」


「その通りだ、間違っていない。オレはオレにとっての大切な人を守る」


「うん」


「でも、オレはオレにとっての大切な人の大切な人も守る」


「……そうなんだ。ってことは……」


「このホテルにいる人っていうかこの街、王国全部を大切に思っている人がいたせいで、その対象を広げざるを得なかったってなだけだ」


その説明だけでわかった。

そのウィリの大切な者が誰なのかを。


「……うん、意味はわかった。教えてくれてありがとう」


ここまでするほどに大切なの?

それってもう好きってことじゃん?

そうだよね?でなきゃ……

いや、聞いてみよ。


「ね、ウィリ。もしさ、うちの大事な人たちが住んでるサバンナで同じようなことが起きてたら、ウィリは同じようなことをしてた?」


「もちろん」


即答だった。

考えもしなかった。

好き!超好き!

そしてやった!

少なくとも同じ土俵にはいる。

負けてない!

うちは負けてない。


「へへ、うん、わかった」


「嬉しそうだな」


「うん!超嬉しい」


「そっか、よかった」


少し甘い空気になった。

ブヤブくんとバカ犬はもう寝ている。

実質二人しかいない部屋だ。


「ウィリはもう寝る?」


「ああ、そうだな。疲れたしな」


「あの、ええと、一緒に……寝る?」


「……やめとく」


「ちぇー、なんでよ!?」


「手……出しちゃいそうだから」


え!?まじ!?

全然いいんだけど!

つか出してよ!


「あ、あの前にも言ったけど、う、うちは全然大丈夫だから、ウィリがそのしたかったらだけど……」


「『したい』と『する』は違うのさ。少なくとも付き合っている人とじゃなきゃしねぇ。本当は結婚までしちゃいけないんだけど、さすがにそこまでは待てん」


「結婚まで本当はしちゃいけないの?ってまぁそうなんだけどさ、そんなの誰も守ってないじゃん」


「ははは、そうだね。オレも人のことを言えた義理じゃねえが、そうだね。でもね、それが『お母さんの教え』なんだ。お母さんが信じている神様がそうであるべきと決めてるらしくてさ。でもさすがに文字通りにそれを守るのはキツイ。結婚とか一生この人といる!って相手じゃなきゃダメなわけだし、まあ、付き合いもそういう前提で始めるわけなんだが。まぁ、とりあえずそれでも教えは破ってることになるけど、少なくとも付き合う前に誰かとそういうことをするつもりはないよ。だから誘惑してくんな、メスライオン!この前も言っただろ、『獅子を煽るな』って」


それを聞いて初めていろいろとわかった。

というかなんかピースが埋まったかのように全部が繋がった。

嗅覚がいい獣人は人が『そういうこと』をしたいか匂いでわかる。

うちと一緒にいるウィリからはそれは何度も感じた匂いだった。

だからこそ、うちは求められてるのがわかってたし、

もっと求められるように頑張ってきた。

その匂いがこれでもかってほどに強かったこともある。

でもウィリはうちに手を出さなかった。

何度もうちの魅力が足りないせいだと思ったけど、

違ったんだ。

こういう理由だったんだ。

やっぱり、ウィリって超かっこよくて、超優しい。

好きになるなってのが無理だよ。

そしてごめん、ウィリ。

それってうちが押しに押しまくればどっかでその我慢の糸が切れるってことだよね?

そして、そうなれば、ウィリが必ず責任を取ってくれるってことだよね?

ああ、うち、すごい悪いこと考えちゃってる。

どうしよう……


これからウィリとどうするかを考えていたところ、

扉をノックする音が聞こえた。

え?こんな時間に誰?

ウィリが立ちあがろうとしたところを止める。


「大丈夫、うちが出るから待ってて」


「そう?じゃ、頼むわ」


「うん」


そして、ウィリの部屋の扉を開いた。



ー???ー


あ…れ?

俺は……、ここで何しているんだ?

ここは……、どこだ?

ん?俺は……、誰だ?

気づくと目の前に扉があった。


周りを見るとどこもボロくて、

治安がいいようには見えない。

なぜこんなところに?


わけもわからずに立ち尽くしていると、

扉が開いた。


「オプティマス様!?」


驚いた声で扉を開けて少女が言う。

肌が少し汚れていて、

髪もぼさぼさで、

顔も整っているとは言いがたい。

だが、私にはその少女が何よりも愛しく思えた。


「どうされたんですか!?血!血が出てます!すぐに入ってください」


「姉ちゃん、どうしたの?あ!オプマス王子だ!ってオプマス王子大丈夫?」


小さい男の子が扉の後ろに立った。

この子も私にとって大事な気がする。


「オプティマス様、とりあえず中に入ってください、すぐに手当てします」


オプティマス?

オプティマスって誰だ?

少女は私の腕を引っ張り家の中に入れた。


小さな家に、ボロい家具。

それでも私はこの中が居心地よかった。


少女がとても心配している。

なにをそんなに心配しているのだろう?


先ほどの男の子のほかにも、

家の中にいた女の子二人に何かしら声をかけている。


「オプティマス様、とりあえずベッドに、それと上着を脱いでください。傷の手当てをします」


だからオプティマスって誰だ?


「オプティマス様!オプティマス様!聞こえていますか?」


だからなんで、そんなに心配そうな顔をする?

オマエは心配する必要はない。

そんな顔をしないでおくれ。

オマエがそういう顔をすると俺が苦しくなる。

誰だ!?オマエにそんな顔をさせたのは?

連れてこい!

俺がそやつを『殺してやる』!

オマエを泣かせた者全て『殺してやる』!


「オプティマス様、お願いします。お願いします。オプティマス様、なんか言ってください。オプティマス様に何かあれば私は…私は…っ…っ…」


そこでやっとわかった。

そうか、『俺が』オプティマスなのか。

『今は』、俺はそう呼ばれているのか。


そうか、そうなのか。

ということはこの子は今、

俺の心配をしているのか。


そうか。

俺は自分を見た。

なんだ、少し傷を負っているだけじゃないか。


「グレーター・ヒーリング」


自分に魔術をかけるとすぐに傷は治った。


「すごい!傷が治りました!オプティマス様。よかった、よかった」


泣きながら言う少女だった。


なぜまだ泣く?

俺はもう大丈夫だ?

心配することはない。

どちらにせよ、死にたくとも死ねんのだから。

心配することこそ無意味。


「オプティマス様、傷は治りましたが、お身体が血だらけです。私がお洗いいたします。ついてきてください」


水が入った小さなバケツがある部屋に通される。

壁も汚く、水もきれいだと言えない。


「し、失礼します」


少女は俺の血で汚れた服を脱ぎ始めた。

俺は彼女のされるがままになった。

彼女も下着姿になり、

俺の体を優しく洗い始めた。

彼女は終始照れており、

まともに俺と目を合わせることができなかった。

でも俺はその仕草の一つ一つが好きだった。


終わると体を拭かれ、

寝室へと連れて行かれた。

途中でタオル一枚だった俺を三人の子供たちが笑ったのも聞こえた。


彼女は俺をベッドに案内し、

外に出た。

しばらくすると戻ってきた。


「こ、これお父様の服です。オプティマス様のような方には釣り合わない服だということは承知しておりますが、成人男性が着られる服は他になく、大変に申し訳ございません」


俺は返事をしなかった。

動かなかった。

そうすれば彼女から服を着せてくれることがわかっていたからだ。

そして彼女はすぐ近くまで来た。

ベッドの前にひざまずき、俺に服を着せようとする。


「明日一番に、お医者さんを呼びます。なので、なんとかそれまで、えっ!?」


俺は彼女をベッドに押し倒した。


「オプティマス様?大丈夫ですか?私が分かりますか?ミランダです。『あなたの』ミランダです。もう大丈夫です。私がオプティマス様を守ります」


俺を守る?

なぜそのような言葉を俺にかける?

俺は、俺は……

くっ、

ああ、なぜだ!?

あと一歩だと言うのに、なぜだ!

なぜだーーーーーーー!!!


(…………私は何を?って)


「ミランダ?え?私はなぜここに?」


「オプティマス様!オプティマス様!気づかれたのですね。大丈夫です!ここは私たちの家です」


私はなぜここにいる?

それになぜ服を着ていないのだ?

今、私たち二人はベッドで、

彼女が下で私が上で、

ま、まさかこれからそういうことをしようとしていたのか?


ミランダは安堵した顔をしている。

つまりこの状況は嫌ではないと思える。

私は過去にもこの子の思いを踏みにじったことがある。

この子の覚悟を無駄にしていいのか?

……よくないに決まっている。

早いか、遅いかの違いだ。

ミランダは私のだからな。


私はミランダにキスをした。


「オプティマス様?」


受け入れてくれたが困惑してる感じだ。

どうするのがいいのだろうか?

聞こう、いやならすぐに止めよう。


「い、嫌か?」


ミランダはしばらく答えなかった。


「い、いや……」


そうか、嫌か、ならばすぐにやめよう。


「……じゃないです」


恥ずかしさいっぱいの表情に、

体が震えながらも、

ミランダはそう言った。


そして彼女のその言葉を境に、

私とミランダは日が昇るまで愛し合った。



ーオラベラ・セントロー


「ベラ!?」「ンズリ」


目が合ったタイミングで同時に言う私たち。


「ええと、ここウィリアムくんの部屋だよね?ンズリなにしてるの?」


「はぁ?それどういうこと?うちはウィリの部屋にいてはいけないわけ?」


「ち、違う。そうじゃなくて、……ごめん。ンズリがいることに驚いちゃってそんな言い方しちゃった」


「……ううん、うちもちょっと強く言ってごめん。今日いろいろあって疲れてるんだと思う」


「そうだよね……」


なんでウィリアムくんの部屋にいるの?

もう寝る時間だよね?

一緒に寝るってこと?

……添い寝…じゃないよね……

あー、また胸が締め付けられる。


「ベラこそ何しに来たの?」


「え!?あ、ええと、ウィリアムくんに聞きたいことがあって」


「ふ〜ん、そうなんだ。それ、今日じゃないとダメ?」


「ダメ…じゃないけど…」


「だったら今度にしてもらえるかな?うちとウィリはちょうど今、寝ようって話になっててさ」


やっぱり一緒に寝るんだ。

ウィリアムくんとンズリが一緒に寝る。

……嫌だ……


ダメ!やめて!お願い!

心が黒くにごっていく。

考えたこともない悪い考えが頭に浮かぶ。

ダメ!止まって!そういうことを考えちゃだめ!

ウィリアムくんもンズリも友達なの!

私は一生懸命二人と過ごしたこの一ヶ月を思い出した。

そう、友達なの。

うん、つらいけど、二人を祝福しよう。

つらすぎるけど、なんとか自分の部屋に戻るまでは我慢しよう。


「そう…だったんだ。邪魔してごめんね」


振り返って歩きだそうとしたところ、

彼の声が聞こえた。


「オラベラ?ここでなにしてんだ?」


「ウィリアムくん、ごめんなさい。話があったんだけど、今度で大丈夫。邪魔してごめん」


「いや、今で大丈夫だよ。というかそこに立ってないで入りなよ。ンズリもなんでオラベラを通さないんだ?」


「あ、ごめんウィリ、扉の前で話し込んじゃって。つい」


「そっか。ンズリはもう話終わったよね?」


「え?あ、う、うん。そ、そうだね」


「うん、じゃ、おやすみ」


え?二人で寝るんじゃないの?

さっきウィリと寝る話をしてたって…


「ウィリ、やっぱりうちもここで寝るのは……」


「さっきも言ったろ『ダメだ』」


寝ようって話してたのって、

ンズリが一緒に寝ようと言ったのを、

ウィリアムくんが断ったってこと!?

心が元気を取り戻していくのがわかる。

……ンズリには申し訳ないけど。


「ちえー、わかったよ。おやすみ、ウィリ」


「うん、おやすみ」


ンズリは悔しそうにウィリアムくんの部屋を離れて行く。


「おやすみ、ンズリ」


と言ったら、

ンズリは振り向いて私を睨んだ。


「おやすみ、ベラ」


そして、オメガ女子の部屋へ向かって行った。


「入りなよ、お姫様」


「う、うん、ありがとう」


部屋に入ると、

一つのベッドにブヤブくんが寝ていた。

そしてメインベッドの横の床にザラサちゃんが寝ていた。

床で寝ているのに気持ち良さそうである。

ダンジョン攻略の時も普通に地面で快適に寝てたからね。

地面で寝るのに慣れてるのかな?

でも、ウィリアムくんの膝に頭を乗せるのが一番好きそうだった。


「なんか飲むか?」


「え?あ、うん、い、頂こうかな」


「紅茶でいいか?」


「うん」


やっぱり落ち着く。

そうして同時に高揚感もある。

まるで真逆の二つだが、

彼といると二つとも強く感じる。

こんなの今まで誰にも感じたことない。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


ふーふーしながら飲んだ。

おいしい。

やっぱりウィリアムくんこういう家庭的なことが上手だ。


「で、話とはなんだ?今日の事件についてか?それとも別の何かか?」


そうだ。

一応、そういう目的で来てるんだった。

聞こう。


「ええと、今日行われた殺人事件についてなんだけど……」


「うん」


これ聞いていいのかな?

彼を巻き込まないかな?

彼に何かあるのは嫌だ。

それだけは絶対に嫌だ。

だったら、やっぱり……


「オラベラ」


「はい」


「話せ。オレを信じろ」


「信じてないのではなくて、ウィリアムくんを巻き込むことのが怖くて」


「だったらもう手遅れだ」


「え?なんで?まだ何も話してないよ。なんで手遅れなの?」


「オマエが事件に関わったときからオレは巻き込まれてる。オマエが鼻を突っ込んだのをオレは黙って見ていると思ったのか?」


「で、でも、危険なんだよ。ウィリアムくんに何かがあったら」


「だったらオマエはあの場でオレと踊り続けるべきだった」


「……」


「けど、オマエにはそれができなかった」


「ごめんなさい」


「謝るな。オラベラがどういう人なのか少し知ることができた。オレはそれが嬉しかった」


「嬉しかった?」


「うん。オレはオラベラが気に入ってるからな」


気に入ってる?

それはどういう意味?


「私は逆にわからなくなった。ウィリアムくんってなんか仲間意識が強いっていうか、他の人とザラサちゃんやブヤブくんに向ける感情が大きく違うっていうか」


「いや、それは間違ってないよ」


「だったらなんで今日、みんなのためにこのフロアを借りたの?」


「……みんなのために借りたわけではない。大切な者のためだ。その大切な者の中にみんなのことを心配する大バカがいたってなだけ。深い意味はない」


!?

深い意味がないって……

それ……私じゃん。

私だよね?

いや、でもンズリもフェリス先輩もいたし。

彼女らがみんなのことを……

いや、違う。わかる。

というかわかった。否定しようとしたけどわかってしまった。

私だ。ウィリアムくんは『私のために』このフロアを借りたんだ。


「そ、そうなんだ。き、きっとその人はすごく喜んでるよ」


「ああ、だといいな」


嬉しい。

すごく嬉しい。

やばい、にやけないので精一杯。


「ってことで、話を戻すぞオラベラ。オマエが関わった時点をオレはもう巻き込まれてる。オレはオマエをほっとかない。だからそんなにオレが心配なら、『オマエ』が『オレ』を守れ!わかった?」


私がウィリアムくんを?

考えるまでもない!


「うん!守る!」


「よし、じゃ、話せ。事件現場で何がわかったんだ」


そして、私は全てをウィリアムくんに話した。

どういう場所で、

何があって、

どういう人が殺されて、

見つかった痕跡や、

思い出せる限りの情報を。


「なるほどな。ははは」


「え?なんで笑うの?」


「その話だとさ、一瞬、犯人オレだと思わなかった」


「え!?ええと、それは……」


「ははは、うける」


「すぐに無理だってわかったの!事件が起きたときには間違いなくウィリアムくんはルミナーレにいたの!ほんの一瞬で行って戻ってくれるような状況じゃないし、すぐに白となったの」


「はははは、いや、でもほんの一瞬で行って戻ってこれる方法がないわけじゃないぜ」


「どういうこと?」


「話が逸れるからやめよう。事件についてわかってることは理解したよ。早く聞きたいことを聞きなよ」


もう一つの話も気になるけど、

今はいいや。

うん、聞こう。


「ええと、聞きたいことは三つ。一つ目、アレグリアノが持つ魔術を抵抗する能力について。二つ目、ウィリアムくんの魔術が効かない体質は全ての魔術に対して有効なの?それとも特定の学科、系統だけ?そして三つ目、ウィリアムくんのような体質を持つ人ってほかにもいる?」


「うんうん、真っ当な質問だね。オッケー一個ずつ行こう。


まず一つ目、アレグリアノが持つ魔術を抵抗する能力。

実はこれについてはオレもすごく詳しくはない。

だけど、知っている範囲で言えば、

破壊や自然魔術などが与えるダメージや魔力をベースとするダメージを軽減し、

弱体や魅了の魔力レジストを必要とするもののレジストを行いやすくするものだ。

それとこれは自分に悪影響を与えるものを抵抗するものであって、

回復魔術や強化魔術は通常に受けられる。


それとアレグリアノだからってこの能力を全員が持つわけじゃない。

ウルクナ山脈で育った者、

もしくはウルクナ山脈で育った者の子孫に現れる。

と言ってもかなりレアな能力らしい。

ほとんどが魔力で動いているこの大陸では誰もが欲しがるだろう。

逆に言えば、魔術が使われない、

魔力がないところでは無意味な能力となる。


能力の強度には個人差があって、

本当にその能力持ってんのっていう人から、

すごい魔術を撃たれてもピンピンしてるものからさまさまだ」


うん、わかりやすい。

自分が持ってた情報に足りなかったものが足された感じだ。

そっか、そういうことか。

だったらその能力を強く持つ人なら、

『チェイン・ライトニング』に耐えられた可能性はあるということだ。


「次に二つ目、オレの体質、


オレのは魔力抵抗じゃなく、魔力無効だ。

魔力レジストを必要とするもの全て無効とする。

つまり効かない。何度やっても同じだ。

オレはレジストすらしてないんだ。

立ってても寝てても無効となる。


知っているようにいいことだけじゃない。

悪いことの中に回復魔術や強化魔術も効果がないということだ。

怪我は簡単に治らないし、

強化魔術が必要になったときにその恩恵は受けられない。


そして、一番興味があるだろう、

魔術を起因としたダメージについてだが、

これは打ち消せない。

例えば、エネルギーブラストやファイア・ボールなどの魔術は、

術者から離れた時点で魔術の魔力変換が完了している。

魔力抵抗はあくまで俺の中で魔力変換が完了する魔術に対して有効だ。

術者が放った瞬間に魔力変換が完了している魔術は魔力無効があっても、

何も効果を成さない。直撃すれば普通にダメージが通る」


「そうなんだ」


なんかすごいなと思ったときもあったけど、

やっぱりそんなにいい能力じゃないのかも……

魔力レジストを必要とするものは絶対防げても、

不遇が多すぎる。

私だったら強化魔術が使えない時点で戦力が半減する。


「ちゃんと聞くとそこまでいい能力じゃないだろう?」


「……うん、ごめん」


「なんで謝るんだよ?生まれつきなんだからどうしようもないよ」


「いや、なんか悪く言ってるみたいで」


「悪く言っているのか?」


「ううん!すごいとは思う。でもすごく人を選ぶ能力だと思う。私がその能力を持ってたらかなりまずかったかも。強化と回復魔術をベースに戦ってるから」


「そんなことないさ、ほかの方法で強化や回復を受ける術はある」


「……ボールウィッグ!」


「そうだ」


「なんでボールウィッグの魔術の回復魔術は効くの?」


「魔術じゃないからさ」


「魔術じゃないの?」


「うん、ボールウィッグは魔術も使えるけど魔術ではない別のエネルギーを元とする術も使える。オレの傷を癒せるのはそのエネルギーを使って癒してるからだ」


「そうなのか、なんてエネルギーで、なんて術なの?」


「……んーと。話が逸れるからやめよう。あくまで殺人事件の手掛かり探しでオレに質問してるんだよね?」


「あ、ごめん。気になっちゃって。その、私もそれを覚えられれば、ウィリアムくんを癒してあげられるのかなって」


「はは、そっか。獣専用の力だから難しいと思うよ」


「そっか……」


やっぱりダメなんだ……

私もウィリアムくんの傷を癒せるようになりたい。


「だけど、別の方法もあるさ。いずれ習得できるかもね」


別の方法?

……ジアンシュ先生!

先生はミレニアムナイトならウィリアムくんの傷を癒せると言っていた。

方法はあるんだ。

よし!覚えよう!


「ええと、三つ目がまだだったな」


「あ、うん」


「オレのような体質を持つ人が『今』ほかにいるかはわからない。けど、この魔力無効の能力は昔にも存在したらしい」


「そうなんだ……」


「でも、ほいほい出てくるものじゃない」


そうだよね。

魔力無効なんてウィリアムくんで初めて聞いたもん。

あることすら知らなかった。

うん、いろいろとわかった。

これで、犯人の特徴は絞れそう。

とりあえず魔力無効はあんまり考えずに、

アレグリアノの強い魔力抵抗を持つ人なら可能性があり得ると。


「ありがとう、ウィリアムくん。いろいろ教えてくれて。この情報は役立てられると思う」


「うん、それはよかった。それと…」


「うん、なに?」


「オレの魔力無効についてはあんまり言いふらさないでほしい。アンジェリカ姉さんにも最低限のことしか言ってないんだ。へんてこな能力でもオレの切り札の一つだ。オレが魔力無効ってことが知られてたら対策って練れちゃうでしょ?」


「うん、もちろん。魔力無効のことについては他言しない。約束する」


「ありがとう」


「あれ?でも、なんで私にはそこまで詳しく教えてくれたの?事件に必要な部分だけ教えてくれれば大丈夫だったのに」


「……それ、言わないとダメかな?」


「……あ、ううん。だ、大丈夫、です。あ、ありがとうございます」


お互いに頬が赤くなった。


「じゃ、もうこの話は終わり?」


「あ、うん、ごめん夜遅くに」


「それは大丈夫。このあとはどうすんの?」


「え?どうすんのって……寝ようかなと思ってたけど……、なんか…する?」


「……そうだね、……なんかしよっか」


「……うん」


あれ?これってどういう流れ?

するって何を?

私は今、何に了承したの?

ていうかウィリアムくんは寝なくて大丈夫かな?

いっそ、一緒に寝る?

……いやいや、なに考えてんの私!?


ウィリアムくんは私の目の前に来て手を差し出した。

私は彼の手を持ち立ち上がった。

部屋の空いたスペースに移動すると、

ウィリアムくんは私の腰に手をかけた。


「キャ!」


嫌じゃないけど、

いきなりだったからびっくりしちゃった。


「そんなんじゃないって。ほらそっちも首に手をかけて」


そんなんってどんな?って、

え?もしかしてダンスの続きがしたいってこと?

何それ……すごく嬉しんだけど!


そして私は彼の首の裏に両手をかけ、

私たち二人は音楽がない、

ホテルのフロアで踊った。


言葉はなかった。

ただ、二人でゆったり揺れるだけ。

音楽なんてないはずなのに、

ルミナーレで流れていた曲が鮮明に聞こえる。

そして、曲が終わりに向かう。


それはその後の続きをすることを意味する。

好きな人がいらないとか、

好きな人ができちゃいけないとか、

好きな人を狭い世界に閉じ込めることになるなどのことは、

全て吹き飛んだ。

いや、そこにはあったけど、

私はそれらに蓋をした。


『今』だけはあの続きが何よりも大事になった。


そして二人の中での幻想の曲は終わり、

再度、

顔を傾け、

目を閉じ、

顔を近づける。

そして次の瞬間を待った……

まさにそのとき、


コンコンコン


扉がノックされた。

ルミナーレのときとは違い。

この音に二人はすぐに反応し、

お互いに見つめ合い、笑った。


うん…、また今度にしよう。

今度がそう遠くないことを願って。


二人で扉を開けに行ったらそこには、


「ロンロン!一緒に寝よう!」


とかわいく言うフェリス先輩がいた。


部屋に通すと、

フェリス先輩は私もウィリアムくんと一緒に寝るのだと思ったらしく、


「三人で寝よう!」


と言ってたが、


「今日は無理です!ライオンとお姫様のせいで『今日は』絶対に無理です!」


とウィリアムくんが返事した。


「ムッー」


むくれるフェリス先輩。

かわいい。


「じゃ、オラベラ一緒に寝よう?」


「え?私ですか?」


「うん、オラベラ言ったよ。一緒に寝てくれるって」


あれ?あー、確かに言った……気がする。


「いいじゃん、二人で寝なよ」


ウィリアムくんにもそう言われる。


「う、うん、わかりました。よろしくお願いします」


「いいの!?やったー!」


大喜びのフェリス先輩。


そのあと、私たち二人はウィリアムくんとバイバイして、

アルファ女子大部屋に向かった。

もうすでにみんなが寝ていた。

フェリス先輩とそっとベッドに入った。

フェリス先輩はすごくいい匂いがしてて、

それをかきながら私はすぐに寝てしまった。

彼の夢を見ながら、

私はその夜すっきり寝れたのである。


次の日、じゃなくて、

その日の昼くらいに起きて。

私と寝ているフェリス先輩を見たアラベラは獣人超好きモードに入ってしまい、

フェリス先輩を困らせていた。


そのあと、ホテルをそれぞれのタイミングで出て、

ミレニアム学園に帰宅した。

帰ってきた者から先生たちによる質問攻めに遭い、

ちゃんと寝てよかったと思った。

我鷲丸くんも無事で、

衛兵に事情聴取されて昨夜ずっと帰れなかったらしい。

あとで彼にも話を聴かないとね。


・4月28日(日曜日)


私とアラベラ、エリザ、アンジェリカ姉さんはカーライル衛兵隊長のところを訪れ、

他の三件の殺人についても情報を聞いた。

カーライル衛兵隊長は知っていることを全て教えてくれて、

かなりの情報を集めることができた。

日曜日はほぼ情報の整理に使った。

明日になったら我鷲丸くんにも話を聞いてみよう。


ミレニアム学園での最初の一ヶ月の終わりが近づき、

いろいろとあったが、

すごくいい一ヶ月だった。

挫折したり、泣いたり、苦しかったこともあったけど、

そんなことよりもいいことのほうが上回った。

再確認された私とアラベラ、エリザ、アンジェリカ姉さんの絆。

ザラサちゃん、ブアちゃん、スラビちゃん、ンズリ、氷条くんなどの新しい友達。

カサンドラ、フォーヤオ、フェリックスくんなどの旧友の再会。

そして、彼、『ウィリアムくん』との出会い……

うん、充実した最高の一ヶ月だった。

明日からまた頑張ろう。

次回は、本編でもちょこちょこ名前だけ出てきた「霊力」をはじめとする

《神秘》まわりの謎に、いよいよ本格的に踏み込んでいく回になります。

オラベラたちによる連続殺人事件のさらなる調査、

そしてルミナーレであの豪華なパーティーを開いたクレイの“真の狙い”も、

少しずつ輪郭が見えてくる予定です。


ただ、現在は並行して新しいTRPGルールの制作も進めており、

その関係で執筆のペースがいつもよりゆっくりめになっています。

更新を楽しみにしてくださっている方には、本当に申し訳ありません……!


第27話の公開は「1月中」を目標にしていますが、

具体的な日時はまだお約束できません。


また、TRPGの制作が一段落したら、

小説のほうの投稿ペースも少しずつ上げていく予定です。


気長にお付き合いいただければ嬉しいですし、

☆・ブクマ・感想など頂けると、とんでもなく励みになります!

今後とも『ミレニアム学園』をよろしくお願いします。

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いろんな人が恋してるね〜(笑) そして皆んなでホテル集まって楽しそう!次回も楽しみに待ってます!
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