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ミレニアム学園 ―赤き終焉への抵抗―  作者: 赤のアンドレ
【1年生編 ー赤い脅威ー】 第2章:クラスリーダーと連続殺人事件
24/27

第23話:それぞれの思惑と二度目のチャンス

・4月19日(金曜日)


ーアルドニスー


新入生が入学してから三週間が過ぎた。

今週の月曜日から専攻授業も始まり、

ウォリアー・メイジを志す新入生も専攻授業に加わった。

私は三年時から専攻リーダーを務めているが、

当時からこの専攻に私以上の実力を持つ生徒がいた。

テドニウス・ハニガン先輩、今年卒業したばかりの『最強の世代』の一人。

テドニウス先輩自身は卒業ができなかったわけだが、

それとは関係なく、在学していたころから私よりも強かった。

武術でも魔術でも勝てなかった。

彼が専攻リーダーをやったほうがいいと何度も言ったのだが全て断られた。

テドニウス先輩の同級生で私が最も尊敬するヘンリー先輩に理由を聞いたら、

「アルドニスちゃんのことを頼りにしてるんだよ。頑張って!」

と言ってくれた。「はい、頑張ります!」って感じだった。

ヘンリー先輩に会いたいな〜

レストランを開くとか言っていたけど、

彼の卒業の日にはいろいろありすぎてちゃんと話すことができなかった。

そして、この気持ちがなんだったのかもわからず、彼は行ってしまった。


はぁー、ともかく!

今日も専攻授業の指導を頑張ろう!

「頑張って」ってヘンリー先輩に言われたんだし、頑張らないとね。


今年の一年生は非常に優秀だ。


エリザ・ダルビッシュは天才の域にいる。

武術と魔術を組み合わせる特訓を受けたことがないのに、

自然とその組み合わせをこなし、まるで経験者と遜色ない動きをする。


次にイェン帝国のフォーヤオ王女。

彼女は大天才だ。

教えられたことを完璧にのみこみ、

なるのが最も難しいと言われるウォリアー・メイジの特訓をまるで遊びのように終えてしまう。


次はサムエル・アルベイン。

男の子であることから最初は少し警戒していたが、

すぐに私に目がないんだなとわかった。

同級生のエリザを見る目がいつも輝いている。

実力のほうはというと、

もっとできそうなのにそれをしない、

というのが一番合っていると思う。

でも、ときどきテドニウス先輩に似た動きをし、

びっくりさせられることがある。


そして最後に絶世の美男子、オプティマスくん。

同じく男の子なので少し警戒していたが、

全くもって私をそういう目で見ないのである。

それに彼は一番の才能を持っている!

見たものはすぐに覚え、教えたことにしっかり取り組むまじめさんだ。

授業が終わったあとも、

「先輩、本日の授業についてですが」

と紳士的にたくさん質問してくる。

全くもって私を女性として見てなくて、教えだけを受けに来る。

なので彼に教えるのはとても楽しい。

だけど最近、頭を何度も抱えることがあって少し心配だ。

念のため声をかけてみたが、

「心配しないでください、ただの頭痛です」と言われた。

それだけならいいんだけども。

無理していないといいな。

ともかく、今年の一年生の中で、

私の好感度が最も高いのはオプティマスくんだ。


……いや、もう一人いるけど…、入学式の日以来話してない。

まぁ、あれは好感度は高くもあるけど…、危うくもある。

そもそも後輩って感じが全然しないからもはや別カテゴリーって感じだ。

というか一回しか話してないのに、

その危うさだけが伝わってくるのってどういうこと?

『彼』のことを知りたい気持ちがないわけではないけど、

あんまり関わらないほうがいい気がする。


今日も専攻授業は終わる。

今日もみんな頑張った。


「皆様、お疲れ様です。今日もよく頑張りました。また、来週お会いしましょう」


解散の挨拶をすると、多くの者はその場に残り、

談笑だったり、授業の復習などを行う。

その中でもいつもは残って一人で特訓をするモードレッドくんは急いで帰り支度をしていた。


「モードレッドくん、今日は早いですね」


「アルドニス先輩。はい、今日はフェリスとクエストを受けに行くので」


「そうでしたか、あなたがいれば問題ないと思いますが、フェリスちゃんをしっかり守ってやってくださいね。あの子ときどき恐れ知らずなところがあるので」


「……はい、気をつけます」


「うん、じゃ、いってらっしゃい」


うん、何度話しても全くもって私に興味ないね。

すかっとするくらいに。

そういう人といっぱい話がしたいんだけど、

そういう人は私に興味がないから全然話せないんだよね。

ジレンマだ。


オプティマスくんもある意味そう、

個人的な話を全くしない。授業のことだけ。

確か二人は美男ランキング2位と3位よね。

男の子のほうもすごい美しいと私をそういう目で見ないのかな?

でも、美しい?かっこいいと言われた人にも言い寄られたことはあるから、

そうだとは限らないのか…、どういう違いなのだろう?


でも、モードレッドくんの私に興味がないのと、

オプティマスくんの私に興味がないのは異なるとわかった。

わかったのも、この前の入学式で『彼』と話したおかげだ。


オプティマスくんは本当の意味で女としての私に興味がない。

根本的に彼の好みから外れてる気がする。

どんな女の子が好きなのかはわからないけど、

おそらく私の真逆のような人がタイプなのだと思う。

だって私を女ではなく、ものを教える教師としてしか見ていないのだもの。


モードレッドくんは私を女性として見てこないわけではない。

ただし、モードレッドくんはあの日に『彼』が言ったように、

私以上を知っているから、私はただのめっちゃ美しい人にしかすぎないのだろう。

モードレッドくんとそんな話一切したことがないけど、

私を初めて見たときに彼は全然驚かなかった。

自慢するわけではないが、男女問わず私を初めて見る人はそれなりのリアクションをする。

だけどモードレッドくんは「ふ〜ん」って感じだった。

だから私以上に美しい人を知っている、見たことがあると私は思っている。

モードレッドくんが知る私以上に美しい人はどんな人なのだろう。


はぁー、といってもオプティマスくんもモードレッドくんも極端なんだよな〜

確かに最初からそういう目で見て欲しくないと思ってるけど、

あそこまで見られないと逆になんなのって感じ。

ちょうどいい感じの人がいない…

やっぱりヘンリー先輩が見てくれたように見てくれる人がいいな。

あれが一番好きだったな。

他には…、やっぱり『彼』よね。

……ウィリアムくん。

でも、あれはちょっとぞっとする。

別に私を一番美しいとは思っていないのに、

身を委ねたら、全てを支配されそうな目つきだった。

あそこまでいくとやりすぎ。

なのに、『嫌いじゃないかも』って思ってしまうのは……

私って世間で言う『M』ってやつなのかな?

ううん、ダメダメ!関わらないほうがいいんだって!

はぁー、やっぱりヘンリー先輩の目つきが一番好き!

ヘンリー先輩に会いたいな〜


「先輩、今日もお願いできますでしょうか?」


考え事をしているといつものようにオプティマスくんが来る。

何度聞いてもいい声している。

何度見てもすごいきれいな顔をしている。

さすが美男ランキング3位。

うん、納得納得。すごいかっこいい。

でも、私はそういうのは気にしないんだよね。

だって、私にとってはヘンリー先輩が一番かっこいいんだもん。


「うん、今日もやろうか。一時間くらいなら付き合えるよ。オプティマスくんは予定のほうは大丈夫?」


「大丈夫です。先輩のご都合のつく範囲でお願いします」


「わかった。じゃ、この前の続きから始めよう。連続攻撃についてだったね」


そして、今日もオプティマスくんと特訓を行った。



ーンズリー


今日の最後の授業、専攻授業が始まる。

これが終わればダッシュでウィリに会いに行く!

今日こそ謝りに行く!

そして抱きついて、腕に絡まって、仲直りのチュウくらいはしようかな。

一回くらいならいいよね?もう二回してるし。


うちが選んだ専攻はグラディエーター/剣闘士。

華麗に戦って、仲間や観客を盛り上げながら戦うスタイルだ。

声援があればあるほど、使える技も多くなる。

派手な見た目や動きが好きなうちにはぴったりだ。


他のグラディエーターの人も派手な人が多い。

類は友を呼ぶってやつか?


授業の流れはだいたい最初は新技を学んで、

そのあとは交代交代で一対一、

最後に誰かとペアになって自由な復習の時間だ。


こういう見た目だからすぐにやれると思ったのか、

初日と水曜日は「組もう」って男子にめっちゃ声をかけられた。

それだけじゃなく、

「今度お茶しない?」

「かわいいね、デートしようよ」

「つかこの後俺の部屋へ行こうぜ」

とかたくさん言われた。

けど、「彼氏いるんで」って言ったら全員いなくなった。

男ってそれしか考えてねぇのかよ!マジ気持ち悪い!

ケダモノって言われて当然だよ。女の子のほかのとこも見ろって!

……って文句言ってるけど、同じことをウィリに言われたら、

うちは二つ返事でOKすると思う。

「つかこの後俺の部屋へ行こうぜ」

ってウィリに言われたら、キャー!

考えるだけでニヤニヤ止まんなくなっちゃう!


で、うちが断った男どもが次に行ったのは、

格好は派手なのに、性格が超大人しい、鳥科の獣人の細くて綺麗な女の子。

男に言い寄られてて困ってたから、


「あ、この子も彼氏いるんでパスです」


って、助けてあげたら、


「ありがとうございます、ンズリ様」


「様?様はいらねぇよ。ンズリでいいって。あんたも一年だよね?ベラといつも一緒にいるよね?」


「はい、オラベラ王女殿下のクラスメイトにして、学園内でのメイドを務めさせていただいております、アルファのブアと申します」


「いや、自己紹介長えよ。『ブアです』でいいんだよ」


「かしこまりました。以後気をつけたいと思います」


「うん、じゃ、もう男に囲まれんなよな」


とだけ言ってどこかに行こうとしたら、この鳥女はついてきたのだ。


「だからなんでついてくるんだよ」


「いいえ、何か必要になったときにンズリ様のちかくにいないと、と思いまして」


「何かが必要?って『様』はいらねぇって言ってんだろう!?それとうちは今必要なもんねぇから!あっても自分でなんとかできるから、オマエは必要ねえの!わかった?」


「……っ…っ…」


「お、おい、どうしたんだよ」


「……う…うぇー」


「おい!なんで泣くんだよ!?」


「すみません、すみません。ダメなメイドですみません…っ…っ…」


「誰もダメなメイドって言ってねぇだろう!?」


「うぅ…っ…でも、私は必要ないって…」


「うん、だってメイドなんて必要ねぇからな」


「…っ…っ…うぇぇーーー」


マジなんなのこの子!?

助けるべきじゃなかったわ!

超めんどい!

やべえ!これだとうちが泣かしたってなっちまう。

てかうちが泣かしたのか。


「あー、もう、わかったわかった。必要!必要!だからもう泣くな!」


「はい!」


泣き止むの早っ!

つか何その笑顔?

めっちゃ嬉しそうなんだけど。


「では、私は何をすればよろしいでしょうか?」


「ええと、何って言われても……」


「…っ…うぅ…」


「あー!パートナー!パートナーになれ!うちと組め!今ペアになって復習の時間だろう?うちと組んでそれをやろう!な?OK?」


「はい、かしこまりました」


ってことがあったのは今週の月曜日。

それから水曜日、そして今日、金曜日の専攻授業が始まると、

うちの後を金魚の糞のようについてきやがる。

「どっか行け」と言っても5分おきに


「必要なものはないですか?」

「お水をお持ちしました」

「はい、タオルでございます」


ってな調子で、必ず戻ってくる。

だからもう諦めた。

うちのお世話したいなら勝手にしろってんだ!

つか諦めた先が究極のお世話をされるだけだから、

今考えるとそんなに怒らなくてもよかったのかも。


とにかく、ブアとお友達?になった。


「ブア、うち、今日やることがあるから授業終わったら、ダッシュでシャワー浴びて、ダッシュで着替えて帰るかんね」


「かしこまりました。全てをお任せください」


「えっ?何を?話わかってる?」


「はい、全てを理解しました」


「全て?えっ?もういいや。とにかく、うちすぐにかえっかんね」


「かしこまりました」


専攻授業が終わると、うちは急いでシャワー室に向かった。

早くウィリに会いたいな〜

ザラサいても関係ないし!

話があるって言って今日こそ話すんだから!


よし!シャワー、シャワー。

あっ、やばい急いでて洗髪液も石鹸も持ってきてない。


「はい、洗髪液でございます」


「きゃー!!誰だよ!?ってブアかよ!なんで同じシャワー室に入ってんのよ?」


「はい、ンズリ様が仰せになった通り、このあとの体の清拭から着替えまで全力でサポートさせていただきます」


「いや、うちが言ったの、そういう意味じゃなくて…」


いや、この子にそれを説明してたら日が暮れるどころか泣き出す可能性もある。

あー、もういいや。


「うん、じゃ早くちょうだい」


「はい、どうぞ。私がお洗いいたしましょうか?」


「それはいい!自分でできる」


「かしこまりました」


私が洗ってる間に自分の体を超早く洗うブア。

うちの三分の一くらいしか時間がかかってない。

隣でうちが終わるのを持っている。


「は、はえな」


「はい、この後、お着替えも行いますので」


行う!?手伝うじゃなく?


シャワー室の外に出ると、ブアは素早く自分の体をふき、

タオル一枚を自分の体に巻き付けて、うちの体をふき始めた。


「できるって、自分でできるって」


「でも私がやった方が早いです」


「そう…かもしんないけど…、なんか私赤ちゃんみたいじゃん!」


「そんなことはありません。立派なお体です。その胸はセントラムの花、オラベラ王女殿下様にも劣りません」


「そういうことじゃなくて……」


もういいや、なんかこの子疲れる。

だけど体を拭きながらマッサージもしてくれて気持ちいい。

お金持ちっていつもこんな感じなのかな。


「はい、終わりました。次は着替えです。服はどちらに」


「そこに入ってる」


「かしこまりました。おお、これはとてもいい服ですね」


「でっしょう!?うちのとっておきなんだ」


「はい、素晴らしいです、肌の露出が多く、胸も足もたっぷりとお披露目することができます。マルクス様でもこれには大喜びするでしょう」


「えっ?誰?」


「私の主、セントラム王国大将軍マルクス・グリフィン様でございます」


「ああ、うん。前に仕えていた主?」


「前ではありません。マルクス様は永遠に私の主でございます。ここを卒業したらまたマルクス様の元で働きたいと思っている次第でございます」


「えっ?この学園を卒業すれば、大抵の職に就けるぞ。それでまたメイドに戻るの?」


「はい、そうでございます。マルクス様に仕えるのは私の喜びでございますゆえ」


「そ、そうなんだ」


なんかそこは深くは聞いてはいけないというより、

聞いたらめんどくせえなってなる気がしてスルーした。

それよりも、


「ね、元メイドってことは家事全部できるよね?」


「はい」


「料理も作れる?」


「はい、作れます」


「最高じゃん!ブアと結婚した人は幸せもんだよ!」


「そ、そうでしょうか?」


嬉しそうに照れながら言うブア。


「そうだよ、ブアは絶対いい奥さんになれるよ」


ブアは頬を赤らめた。


「そ、そんな私がマルクス様の奥様など、務まりません」


「ええー、絶対に務まるって」


えっ?マルクス様?そういう関係ってこと?

あー、今はそんなのどうでもいいんだって!


「ね、うちも家事いろいろ覚えたいからさ、今度教えてよ」


「はい。私などでよろしければ」


「よし、決定だね。っていつのまにポニテまでできているし。本当すごいな。ありがとう」


服を全部着るの手伝ってもらって、

髪の毛も風の魔術で乾かしてもらって、ポニーテールを編んでくれた。

よし、あとはメイクとアクセサリーと服の微調整。


鏡を見て、ピアスをつけて、ネイルの確認をして、

胸元が見えるようにトップスの位置をずらす。

スカートもウエストを折って短くして、大胆に足を見せる。


「よし、これでいくっしょ。いや、もう少し胸元を見せた方がいいかな?どう思う、ブア?」


「ええと、もう少し胸元を見せて、スカートを短くしたほうがいいと思います。マルクス様もギリギリ見えるか見えないかの位置が一番好きって言ってました」


「もっと短く!?だ、大丈夫なの?見えちゃわない?」


「そのギリギリのラインを攻めるんです!」


「わ、わかった!手伝って、ブア」


ブアに手伝ってもらって、

胸元を大胆に見せ、スカートも限界まで短くした。

変な動きをすればガチで見えちゃう。

気をつけないと。


「はい、これで完璧です。マルクス様も気に入ることでしょ」


「あのさ、これを着てるうちは言うのなんだけど、マルクス様ってこんな格好の女が好きなの?」


「はい、大好きです」


「あっそう……。ね、もしかしてさ、いつも着ている超大胆なメイド服って」


「はい、マルクス様がグリフィン家で務めるメイドに着させるメイド服でございます」


「えっ?そのグリフィン家だと、メイドさん全員その格好で仕事してんの?」


「はい、そうでございます」


「えっとさ。それいろいろ見えちゃわない?」


「はい、見えてしまいますね」


「見えてしまいますねって、あんたそれでいいのかい!?」


「はい、構いません。グリフィン家の屋敷に務める者は全員女性でございますので見えても問題はありません。見られるのはマルクス様のみでございます」


いやいや、今とんでもないことを言っていると思うけど、

めっちゃ嬉しそうな顔をして語るから、

なんかいいことのように錯覚するじゃん!


「そのマルクス様ってあんた元主人には見られてもいいの?」


「元じゃありません!さきほども申した通り、マルクス様が私の生涯の主人でございます。そして、はい、マルクス様には全部見られても大丈夫です」


「ぜ、全部って……、好きなの?」


「はい、愛しています」


即答。

そう言うブアの目はまっすぐで真剣だった。


「へへ、いいね。主人に恋するメイド。ロマンチック」


うちは最近気になってる『あのこと』についてもブアに聞くことにした。


「あ、あのさ、もうやることはやったの?主人はメイドによく手を出すって言うじゃん。でもあんたの場合は両思いなんだから、大丈夫だと思うし、それで、やってるんじゃないかなって。も、もしやってるならさ、そ、それもいろいろ、お、教えてくれないかなって」


超だどだどだ。こういうの聞くのって恥ずかしいな。

伝わったかな?

少し考えるブア。


「ああ、そういうことですね。いいえ、『まだ』手をつけられたことはおりません。マルクス様は成人になるまで決して奴隷に手を出すようなことはしません。私は誕生日が三月で、成人になったときには入学準備で忙しく、マルクス様も多忙だったので最後まで手をつけられることはありませんでした。残念です」


「そうだったんだ。ブアも未経験か。って奴隷?ブア奴隷なの?」


「いいえ、今は自由の身です。ミレニアム学園への入学が決まったさいにマルクス様のご厚意によって自由の身となりました」


「マジか!前からすごいメイドって感じはしてたけど、奴隷って感じは全くしなかった」


「はい、自分を奴隷と思ったことはありません。マルクス様は奴隷の身であっても礼節を持って扱ってくれる素晴らしいお方なので、奴隷どころか、もはや家族のように感じることだってあります。おこがましい話ですが」


「ふ〜ん、いい人なんだな、マルクス…大将軍だっけ?」


「はい、そうでございます」


この国の大将軍っていい人なんだな。


「マルクス様は獣人大好きなので、もし将来お勤め先に困るようなことがありましたら、頼ってください。その胸があれば一発で採用されます」


「む、むね?胸で採用が決まるの?」


「はい、マルクス様は館に務める人を抱きたいかどうかで決めますから、そういうアピールポイントがあれば即採用です」


「ははは、そうなんだ」


うん、前言撤回。ただのエロ祖父だった。

ってどうでもいいわ。

ウィリのところにいかないと。


「ありがとう、ブア。うち、ウィリのところに行かないとだからもう行くね」


「あの…、ウィリアム・ロンカル様のことでしょうか?」


「うん、そうだけど」


「それでしたら、会えない可能性が高いと思われます」


「ん?どうして?」


ブアは今日から二泊三日で、

オラベラと一緒に冒険者ギルドのクエストを受けることになっていると教えてくれた。

つまり金曜の放課後から日曜までウィリはいない。


「そうなんだ。行く可能性とかじゃなくて絶対に行く感じ?」


「はい、そうだと思います。オラベラ王女殿下様は水曜の夜からその話ばかりをとても嬉しそうに話していました」


「ふ〜ん。嬉しそうにね」


「はい、それはもう目を輝かせながら、ずっとその話をしていました」


「……そう。ね、日曜日の何時に帰るとか言ってた?」


「いいえ、詳しい時間までは仰ってはいませんでした」


「そっかぁ、教えてくれてありがとう」


今すぐ行けば会える可能性はあるけど、迷惑だよね……

ウィリが帰ってからにしよう。

ああ、そうすると暇だな。


「ブア、この後、なんか予定ある?」


「いいえ、特にはありません」


「じゃ、カフェ行こう、カフェ!」


「かしこまりました。ぜひお供させてください」


そして、うちとブアはミレニアム学園のカフェに向かった。

うちはウィリのための大胆すぎる格好をしていたことと、

ブアは元々、大胆すぎるメイド服を着ているため、

めっちゃ男に声をかけられた。


(てめぇらには興味ねえんだよ!どっか行け!)


ってな感じでちょっとしんどい金曜日の放課後になった。



・4月20日(土曜日)


ーガレスー


集合時刻から一時間も経つのに、まだモードレッドは来ない。

今回は初めてではない。

というより、ちゃんと来るほうがめずらしい。

あやつは、自分が円卓の騎士だってことの自覚があるのか?

我々は遊ぶためにここにいるのではないだぞ。

あやつが所属するベータは僕が所属するアルファに比べて要人は少ないとはいえ、

それでも学園の中では二番目に多いのだぞ。

アルトリア王国を支援してもらえるように、

我々は彼らと親密にな関係を築かなければならない。

それをあやつは、ほとんどは孤独に過ごし、

家柄も能力もどこも秀でたところがない猫とばかりつるむというではないか。

なんとも役に立たないやつだ。

ベータには上級生にも同級生にも高い財力を持つ者は何人もいる。

一年生にもメジャイ協会理事長の娘、カサンドラ・スリバン、

ハイエルフ王国の女王、アリーシアの弟子、リルヴィア、

アデトクンポ王国の姫、アミラ王女と

味方につければ強い協力を得られる面子が揃っている。

しかも女性ばかりだ。学園二番目のかっこよさだろう?

その甘いマスクがあれば一人や二人は落とせるだろうが。


本当に使えないやつだ。

……とあやつには文句があるが、僕も大きな成果を挙げたとは言い難い。

現アルファの四年と五年生にはキーパーソンとなりうるような要人はいない。

抑えなきゃいけないところは抑えたが、大物にはほど遠い。

いるとすれば三年生と一年生。

同級生ではアンジェリカがいるが、入学当初から彼女とは犬猿の仲だ。


だけど、三年生はセレナ・ヴァレンによって守られており、

深い話はできたことがない。

セレナ自身を落とそうとも考えたことはあったが、

あの女は何かがあれば『スピーク・フリーリー』で話になりゃしない。

だからあれほどまでに美しいのに男ができねえんだよ。

黙って、僕に抱かれればいいものを無意味な意地を張りやがって。


ゆえに、次に僕が狙うのは一番の大魚、オラベラ・セントロ王女だ。

王位継承順位1位を持つ彼女を落とせば、セントラム王国がそのまま手に入る。

僕がこの国の王となれば、アルトリアと連携してインスラム大陸どころか、

世界をも手に入れることができる。

しかも美しい、『妖精』にも引けを取らない美しさだ。

まさに神秘的と言ってもいい。

政略的なことを差し置いても、ほしい女である。

だが、今のところ進歩はそんなにない。


僕もまだまだってところだな。

この場に僕が尊敬するランスロット卿やトリスタン卿がいればとっくに堕としているだろう。

彼らには剣はたくさん教わったが、

女の扱いは中途半端なところで特訓が終わった。

我が兄上はランスロット卿がそういうことを僕に教えるのをいつも怒っていたせいだ。

兄上は「そのような行いは騎士ではない」と言ったが、

ランスロット卿がやること全てが騎士の理想像だ。

彼こそが最も『騎士物語の主人公』に見えるのだから。

僕はガウェイン兄さんのような堅物にはなりたくない。

ランスロット卿こそが僕が目指す騎士像だ。

剣の戦場でも恋の戦場でも無双ってな感じにな。

だけど、今は彼の教えを乞うことはできない。


仕方ない。彼を見て学んだ技を使って、オラベラ・セントロを我がものとしよう。

あの女を手に入れれば、ここでの任務は達成したも同然だ。

その魅惑的な艶が詰まっている体を楽しむのは、

任務を達成した自分への嬉しいご褒美としよう。

アンジェリカには感づかれたようだが、

なに、大きな問題にはならない。

彼女は弟が入学したことで、そっちのほうで頭がいっぱいいっぱいだ。

いつもオラベラを守れるわけではない。

それにオラベラ本人は恋愛事情に疎い。

でも心配することはない、この僕が手取り足取り教えてあげよう。

ああ、早く我が手に落ちるのが楽しみだ。


「先輩、今よろしいでしょうか?」


誰だ?

金髪、青目、うざいくらいに整った顔。

兄上に少し似ているか?

でも知らないな。


「僕に話をかけているのかい?」


「はい、二年のガレス卿とお見受けします」


「うむ、そうだが、僕に何の用だ?」


「私は一年、オメガのオプティマスと申します。もしお手隙であれば稽古をしていただけないかと思いまして。勇気を振り絞って声をかけた次第にございます」


稽古?オプティマス……、そうだ!

セバスチャン・アウグスティンが言ってたやつか。

初めて推薦した記憶喪失の。

後でセバスチャンに僕の態度が悪かったと告げ口をされてはかなわんからな。

仕方ない、少しくらい遊んでやろう。


「人と待ち合わせしてたんだがな、どうやら遅れているようだ。その人が来るまでの間であれば、お相手をしよう」


「もちろん、ガレス卿の都合がよろしい時間までで構いません。よろしくお願い致します」


「さっそく始めよう」


僕はオプティマスと三試合を行った。

一試合目は「弱すぎる、この大陸の軟弱者と変わらぬ」と思った。

二試合目、少し手こずらされた。「なかなかやるな」に感想が上昇した。

三試合目、まるで鏡と戦っているようだった。

僕が年月をかけて習得した技をことごとくこの男は真似た。

かろうじての勝利だった。

さすがセバスチャン・アウグスティンが推薦するだけのことはあるか。

……うん、十分使えるコマではないか。

いいだろう、つばをかけておくことにしよう。


「すごいな、オプティマス。最後は手こずらされたよ」


「いいえ、滅相もありません。ガレス卿にはまだまだ余力がありました。全力を出されていたら手も足も出なかったでしょう」


まぁね、禁止されてるから『妖力』は解放しないが、

解放すれば、オマエだろうと、この大陸の誰であろうと余裕なんだよ。

でも、この礼儀正しさは嫌いじゃない、十分に騎士向きだと言える。


「いやいや、僕が出せる力の範囲内では君は強敵だったよ。それに礼儀も知っていて、負けても取り乱したりしない。僕は君が気に入った」


「私にはもったいない言葉です」


「オプティマスは将来やりたいことや夢はあるのか?」


「……いいえ、残念ながら、私は過去の記憶がなく。今はまず自分が誰なのかを調べたいと思っている次第にございます」


「そうか、記憶喪失か。難しいな。けど、我が国の宮廷魔術師、『大魔術師・マーリン』なら君の記憶喪失を癒せるかもしれないぞ」


「本当ですか?」


「確証はできないが、あの魔術師はほかの人間には無理と言われてきたことを何度もやってのけている。治癒方法がない病を治したのも一度や二度やない。可能性は大いにあると思うぞ」


「それは願ってもない話です。その大魔術師・マーリン様にお会いすることはできますでしょうか?」


「そうだな。彼は忙しく、通常の人の頼みはほぼ聞かん」


「そうでしたか…」


「だが、円卓の騎士の頼みともなれば話は違う。僕が彼にお願いすれば喜んでみてくれるよ」


「本当ですか?お願いできないでしょうか?」


「そうだな…、すぐにってのは無理だ。何年かかかるかもしれん。僕も今はこの学園にいるから母国とそう簡単に連絡は取れない。だけど、僕と親しくしていれば機会が巡ったときに君のことを話するのはやぶさかではないよ」


「ありがとうございます。私としましてもガレス卿と親しい関係を築けるのは願ってもないことです。よろしくお願い致します」


「うん、でもね、君にもわかっているとは思うが、このクラスにはクラス対抗というものがある。アルファの先輩がアルファの後輩より、オメガの後輩と仲がいいのは世間体がよくない」


「……そうですよね。すみません。無理な願いをしてしまったようで」


「無理じゃないさ!」


「ですが、クラスが違うと、」


「違わなければいいのさ」


「……ガレス卿。私にクラス移籍をするように勧めているのでしょうか?」


「いやいや、勧めてなんていないさ。ただそうなれば、僕は大々的に君と仲良くできるし、自然と話す機会も多くなる。それに一年アルファクラスを担任するセバスチャン先生も喜ぶだろうね。なにせ自分が初めて推薦した生徒だからね」


「……考慮します」


「ああ、是非そうするといいさ。そして時間切れだ。僕の待ち合わせ人が到着したようだ」


「ガレス卿、本日はどうもありがとうございました」


オプティマスは深く頭を下げて帰っていった。

さあて、蒔いた種がどう芽吹くか楽しみだ。


モードレッドは到着すると、

「報告する内容はない」

と一言だけ告げて帰っていった。

「ふざけるな!」

と引き留めると、

「今は大事な人の面倒を見なければならねえんだよ。てめえに構ってる暇はねえ」

と言われた。

任務より大事な人ってなんだよ。

てめえの勝手な行動に構ってる暇はねえのはこっちなんだよ。

まあ、よい。

このことも我が王に報告しよう。

あ〜、あの男が円卓を外れる日は待ちきれないよ。



ーエンマ・ブラーー


「週末も勉強?偉いね」

「頑張ってるね」

「いつも本持ってるね」

「本がお友達ってやつ?」

「土日くらい勉強休みなよ」


知りあいに会うとこういったことをよく言われる。

こっちがどんな気持ちかも知らないで、平気で「休みなよ」って言ってくる。

彼らにとって休むのは普通のことなんだろう。

才能のある彼らが一日休んだところで何の問題にもならないのだろう。

クラスで好かれている者はたとえ、

自分のクラスが対抗試験で最下位になっても心配すらしないのだろう。


だが、私は違う。

一日休めば、みんなとの差が開くばかり、

才能のない私にはそれが命取りになる。

頑張っている姿を見せなければ、

役に立てることを示さなければ、

みんなに好かれていない私はすぐに退学者候補となってしまうだろう。


だけど、私は退学しない!

お姉ちゃんのようにはならない!

私はここで生き残って見せる!


お姉ちゃんは私よりも頭いい。

メジャイとしての評価もお姉ちゃんの方が高い。

だけど、お姉ちゃんは最初のクラス対抗試験で退学になった。

わずか二ヶ月ちょっとでこの学園を退学した。

お姉さんの代は『最強の世代』と呼ばれた、

オメガクラスが最後まで優勝を競った珍しい代だった。

お姉ちゃんは恵まれていた。

お姉ちゃんがクラスと協力してさえいれば優勝だってできたのかもしれない。

だけど、私はお姉ちゃんをよく知っている。

おそらく勉強しかしなく、クラスを全く手伝わなかったのだろう。


「勉強以外に興味ない」

「そんなのはバカがやればいい」

「私の勉強より大事なものはない」


とか言って二ヶ月を過ごしたのだろう。

家でもずっとそうだったんだ。

学園でもそれは変わるはずがない。

だから退学するんだ!


私は同じミスはしない。

勉強はもちろんする。

だけどクラスの役にも立つ。

雑用係でも、テスト勉強の講師だったり、悪さの隠蔽もしよう。

そうすることで私は『クラスにとって大切』とみんなに示す。

そしてそれは身を結んだ。

一年時の最初のクラス対抗試験でオメガは最下位になったのに、

私は退学者候補にならなかった。

その後の二回の試験ではオメガは最下位にならなかった。

去年は一人の退学者で済んだ。

つまり、私は一年ここで生き残った。

だけどこれからはどうなるかわからない。

次に退学者候補を選ばなきゃいけないとき、

それが自分にならないように役に立てることを示す。

これからも生き残る!

そのためにはなんだってする。

だから、まずは勉強だ!

自分のための勉強じゃない。

期末テストになったらみんなに教えられるように今からわかりやすく私がまとめるんだ。

ガウラもポン・ホウもバカだけど、クラスに必要なんだ!

私が絶対に赤点を取らせない!

でも…、難しいな…、

自分の知力に劣る者に何か教えるのは。

でも、テドニウス先輩はこれを二人分じゃなく、五人分やってたんだ。

『最強の世代』のオメガにはすごいバカな先輩が五人いたのだ。

私たちよりもバカなクラスに赤点を取らせなかった。

やっぱり、才能の違い?ってそうだよね。

テドニウス先輩はメジャイでもないのに、メジャイより頭よかったし。

でもテドニウス先輩だけじゃない、

今年入学したカサンドラ。

お互いにメジャイ協会に所属してるから以前から知っているけど、

やはり化け物よ。メジャイ専攻の中でも明らかにずばぬけている。

専攻リーダーがかわいそうになるほどに差が圧倒的だ。

……でも、そんな人たちと自分を比べても始まらない。

自分にできることをしないと。


あ…れ?オプティマスくん?

すごいな。ほぼ毎日来てるよね。

しかも彼は闘技場で訓練を終えたあとにここ、図書館に来ているという。

すごすぎるよね。

かっこよくて、イケボでしかも超紳士!

やっぱり彼を美男ランキング3位にしたのは間違いじゃなかった。

一年であっても関係ない。

かっこいい人は学年関係なくかっこいいんだもん。


ガゼットの編集部の美女美男調査隊の一人として、

ちゃんとした意見を言わせてもらったまで。

彼が私と同じオメガとか私が彼を気に入っているとかそういうのは関係ないんだから。

厳正な調査に基づく結果です。

あ〜、何度も見てもかっこいいな〜。

そろそろ学園の女どもが彼に群がり始めるころだろう。

ふん、でも私はオプティマスくんはちやほやされても変わらないと思う。

あのランキングに載って、調子に乗る人はたくさんいるけど、

彼はこれと言って反応を見せなかった。

自分の容姿なんて気にしてないかのようだった。

それがさらにカッコいいのよ!

「かっこよさってなんですか?私にはわかりません。私はあくまでも私です」

きゃー!あのイケボでそういうセリフと言われたらやばい!

ふー、落ち着こう、語彙力が下がってしまっている。


ともかく今年の一年に美男は多い。

学園の歴史の中でもこれだけのイケメンが同じ代に集まるのは珍しい。

一年生がランキングを占めていたことで、

多少ガゼットの編集部は反感を買ったが、関係ない。

一年生だから選んだわけじゃない!

かっこいいから選んだんだ。


そして幸運なことにその多くのイケメンたちはオメガに所属している。


・8位:イェン・ウェイチェン

イェン帝国の第一王子にして、冷静でクール系イケメン。

だけど心に熱い火を宿す。


・9位:1年オメガ、我鷲丸

おバカさんで、お調子者。

だけど、その金髪と青目にその綺麗な顔は間違いなくザ・イケメンの王道。


・10位:1年オメガ、サムエル・アルベイン

脱力系イケメン。

普段は基本的に「やる気ないです〜」オーラを出しながら、

ときどき見せる真剣な眼差しがたまらない!

&セントラム5大貴族の次期頭首のおまけつき!


あー!これだけのイケメンに囲まれて暮らせる私は幸せもんだよ。

あの人さえいなければもっといいんだけどね。

ウィリアム・ロンカル。

全然かっこよくないのに、

「オレってかっこいいだろう」

みたいな動きばっかしやがって。

まじで気持ち悪い。本当にいなくなってほしい。

ていうか一年生の学年ワースト2なんでしょ?

なんでそんなみっともない成績であんな偉そうにしてるのか本当わからない。

しかも特定の人にモテまくるの本当に意味不明!

ガウラもファティーラも彼のことを気に入ってるし、

一年のザラサに関してはもう奴隷状態になってる。

犬みたいに女の子を連れ回すとか本当にありえない!

他にも獅子科の彼女もいるみたいだし、不誠実!不誠実なのよ!

いろんな子に手を出しやがって!最低よ、最低!

本当大嫌い!

ウィリアムだけいなくなればイケメンパラダイスができるのにー

本当嫌だ。


「先輩、今大丈夫ですか」


「きゃー!!」


「驚かせてしまってすみません」


「お、オプティマスくん?ど、ど、どうしたの?」


「先輩にお聞きしたいことがあって、時間があるときで構いませんので聞いては頂けないでしょうか?」


聞く!なんでも聞く!

時間がないなら作る!

……君のためなら。


「うん、今大丈夫だよ」


「助かります。では、こういう症状についてなのですが、」


オプティマスは頭に声が聞こえる病気や、

そういう症状を起こす魔術があるかと聞いてきた。


「頭の中で声ね。魅了魔術にかかってない状態でってことだよね」


「……おそらくそうだと思われます。魅了魔術に数日持つものがあれば話は別となりますが…」


「レベル10魅了魔術『エターナル・ラヴ』は解除されなきゃ永続に持続する魔術だよ」


「そうでしたか、その魔術にかかっていれば頭の中で声が聞こえることもあるのでしょうか?」


「うん、術者に永遠の愛を誓う魔術で、頭の中がその人、術者でいっぱいになる。その人の声が頭にずっと流れ、幸福を感じながらその人の奴隷となるの」


「幸福を感じながら…ですか」


「うん、あくまでも資料に書いてある内容によればだけど。そもそもあんまりよくは思われていない魅了魔術のレベル10を扱える人は歴史上を探しても極少数なの。記録がほぼないのよ」


「そうだったんですね」


「うん、一番の情報源は『妲己討伐戦記』。東の帝国を滅ぼした最悪の魔女『妲己』について書かれており、彼女はその魔術を連発できたと言われている。少なくともそう記載されているわ」


「……教えてくれてありがとうございます、先輩。ただ幸福を感じながらですと、自分が探している症状と違います」


「そうなんだ。魅了魔術は基本的に魔術にかけられた者は幸福を感じる副効果が出る。それを感じないなら魅了魔術系統ではないのかもしれないね。ほかになにか情報はある?もっと情報があれば私が調べてあげるよ」


「いいえ、先輩の貴重な時間を私ごとに費やすのはよろしくありません」


「ううん、オプティマスくんの頼みなら、私『なんだって』するよ」


ちゃっかりオプティマスくんの手を握る私。

きゃー!『なんだって』するとこか、私なに言ってんだろう!?


「……先輩」


「はい」


「お優しいんですね。ありがとうございます。ですが、今はそれ以上の情報はありません。もし、また、情報を手にいれることができましたら、また頼らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「うん!もちろん!いつでも私を頼って!寮でもどこでも私を見かけたらいつでも話しかけてね」


「はい、わかりました」


そう言ったオプティマスくんはにこっと笑った。

かわいい…

かっこよくて、かわいいとかずるすぎない?

あれ?なんかずっと見つめられている。


「どうしたの?」


「いいえ、先輩がこんなにいい方だったとは。エンマ先輩のような聡明で美しい先輩を持てた自分は幸運です」


「う、美しい!?」


やばい!顔が熱い!

熱いよ。どうしよう!?


「それでは、私は失礼します。お邪魔してすみませんでした」


「ううん、また寮でね」


「はい、また」


オプティマスくんが去ろうとしたとき、

聞きたくなって引き留めた。


「オプティマスくん」


「はい、先輩」


「さっきの症状は誰の話?」


「……私の知り合いから聞いた話です。患者には会っておりません。私も何か手伝えることはないかと思い、いろいろと調べているところです」


「そうなんだ。優しいね」


「いいえ、自分にできることをやっているだけです」


オプティマスくんがそう言うともう一度お別れした。

やったー!!

二人っきりで話せた!

聡明で美しいって言われた!

お世辞でもなんでもいい!めっちゃ嬉しい!

それにあの声!もうたまんない!

オプティマスくん好き!大好き!



・4月21日(日曜日)


ーンズリー


デルタ寮一年女子部屋


うちは覚悟を決めた!

ぜってぇ今日、ウィリと話す!


ウィリに最高のうちを見せるために

朝早く起きて、ガチで準備して、バチバチに盛った。

金曜よりももっときわどい服を着て、

ブアに教わったように上も下もギリギリ見えるか見えないの線で勝負する。


「よし!これで行くっしょ!どう、クレア?」


「……」


「あれ?なんでなんも言わないの?」


「やりすぎよ!」


「えっ?」


「あんた、場所によっては娼婦と間違われるよそれ!」


「えっ?まじ?かわいくない?どうしよう…、着替え直さないと!」


「違う!かわいい!普通に可愛いけど、なによりもエロい!エロすぎ!ちょっとっていうかだいぶアウト!」


「ウィリ、こういうの嫌なのかな?」


「いや、多分、超喜ぶと思う…」


「本当!?じゃ、やっぱりこれ行く!」


「もう好きにしなよ」


「行ってくるね!何時戻るかわかんないから先寝ててね」


「はいはい。……ンズリ!ウィリアムはいいけど、ほかの男には気をつけてね」


「うん、OK!じゃ、行ってきます〜」


「本当にわかってんのかな?」


ウィリアムのためにあそこまでするンズリをすごいと思いながら、

そこまでさせてしまうウィリアムに少しムカッとしたクレア。


「ていうか、ああいう格好が好きとか本当に変態なんだな、ウィリアムって。私は絶対にああいう格好なんてできない」


ンズリが去った部屋で一人呟くクレアだった。



女子部屋を出て、階段を降りて玄関に向かう。

途中でロビーを通らなければならない。


そこにはむかつくうちのクラスのリーダー、クレイとその右腕アルフィがいた。

二人ともソファに座って、デルタの上級生の女先輩を左右に置きながら、

平気でタバコを吸って、酒を飲んでる。

その先輩にお酌させながら、好きに体のあらゆる部分を触ってる。

普通にキスもしているし、堂々と胸もお尻も揉む。

先輩たち、プライドないのかな?

とにかくクレイの一味はこの中ではやりたい放題。

上級生ですら、もう何も言えない状況を作り上げた。

それ自体はすごいとは思うけど、

こいつはウィリみたいにワルぶってるわけじゃない。

本物のワルだ。だから嫌い。

実力は認めざるお得ないけど。


「おい、ズリ。そんな格好でどこ行くんだ?」


目を合わせずに通り過ぎようとすると呼び止められた。


「うちがどこに行こうが、あんたには関係ないでしょ!?」


すごい近くまで近づかれる。


「そう、怒んなよ。せっかくの綺麗な格好が台無しになっちゃうぜ」


「うっさい!ほっといてよ」


「また、あの男のところか?そんな格好で会いに行くってことは今日は一日中やりまくるのか?」


「ああ、そうだね。そんな感じ。もういい?」


「やっぱりオマエはいい女だ、ズリ。あの野郎に飽きたらいつでもオレ様のところに来な。大歓迎してやるよ」


「死んでもお断りよ」


うちはクレイを撥ね退け、ドアを開けてすぐに外に出る。


「ははは、嫌われたなクレイ」


アルフィが言う。


「まぁ、ダメ元ってもんだ。でも、むかつくな」


「ん?ンズリがか?」


「ちげぇよ。あんなにいい女を好きにできるあのクソ野郎が一瞬羨ましくなった。それがむかつくんだよ」


「ははは。どうする?一回締めておくか?」


「……いや、まだいい。あー!あのくそメスライオンのせいでやりたくなってしまったじゃねぇか!おい、てめぇら部屋行くぞ」


「はい」「うん」


デルタの四年生、五年生の二人の女子は立ち上がり、

クレイとアルフィと共に上級生個別部屋へと消えた。


女経験が豊富なクレイとアルフィを悩殺するほどにその日のンズリは妖艶だった。



ンズリはそのまままっすぐオメガ寮へと向かった。

到着したのは12時頃で、オメガ寮の扉を叩いた。

扉を開けたのはフェリックスだった。


「誰かにゃ?ってワオオ!それは色香ありすぎるにゃ。目のやり場に困るにゃ。オメガの男たちを誘惑しにきたのかにゃ?」


「あんたらなんてどうでもいいのよ。ウィリは?もう帰ってきた?」


「まだにゃ」


「そう、じゃ、ここで待つわ」


「ええと、何時に帰るかわからないにゃ。中に入ったらどうなのにゃ?」


「中に入ったら『お帰りウィリ』って出迎えることはできないでしょ?ここで待つの!」


「そ、そっか。わかったにゃ」


うちはオメガ寮の玄関前の段差で待った。

出入りするオメガの生徒と


「なにしてんの?」


「ウィリ待ってんの」


ってやりとりが何度も行われた。


そして、この男も来た。


「こ、こんにちわ、ンズリ。久しぶりだね」


「はぁ?今さらなんなのサムッチ?」


「い…や、ずっとここにいるからさ、声かけようと思って」


「嘘つけ、玄関先でさっきからうろちょろしてたの匂いでわかってんぞ」


「あ、そうだったのか、恐ろしいな獣人ってのは」


「で、何の用?」


「元気にしてるかなって」


「元気なわけないじゃん!この二週間一回もウィリの腕に絡んでないんだぞ!もうウィリエネルギーはとっくに切れてるの!やばいの!つか、オマエもなんなの!?私はバカみたいに勘違いしてウィリから離れたけど、サムッチはどうしてウィリから離れたわけ?そのせいで、ウィリにあの犬女がつきまとうはめになったんじゃん!ダチなら私の居場所を少しくらいは守ってよ!そうでないとウィリとうちが仲直りしても前みたいに四人で行動しにくいじゃん!本当使えない!マジありえない!サムッチ最低!大嫌い!」


やばい、いろいろ溜まってて言いすぎた。

ごめん、サムッチ。

一番いけないのうちだってわかってるのに…


「……大丈夫だよ。ちゃんと話せばウィリアムは許してくれる」


サムッチはうちがいろいろひどいことを言ったのにも関わらず、

怒らずに、それだけを言ってくれた。


「ありがとう、……ごめん…っ…っ」


「うん、大丈夫、って泣くな泣くな。メイクが台無しになっちゃうよ」


「…っ…うん、泣かねえし」


「……つか、その格好、マジやばいね」


「そう?」


「うん、ポン・ホウ先輩が超エロ可愛い女が外にいたって騒いでた」


「はは、そうなんだ」


「その格好、ウィリアムかなり好きだと思う」


「本当!?」


「うん、仲直りしたらそのまま押し倒されるかもよ」


「…うん、別にいいし。つかむしろそうしてほしいし」


「そっか。じゃ、頑張ってね」


「うん」


そのまま立ち上がってオメガ寮に入ろうとするサムッチを呼び止めた。


「サムッチ!」


「なに?」


「また、四人で遊ぼうね」


「……うん、できたらな」


少し寂しそうにサムッチが言った。


久しぶりにサムッチと話せた!よかった。

ウィリと仲直りしたら、またサムッチとクレアも一緒に前みたいにいるんだ!


よし、次はウィリだ。

早く来ないかな。


けど、数時間待ってもウィリは来なかった。

うちのことを心配したオメガのみんなはいろいろと世話を焼いてくれた。

ウェイチェンはうちに水をくれたり、

フェリックスは食べ物をくれたり、

シドディは毛布を持ってきてくれて、

アンバーは二時間くらい一緒に段差で話をしてくれた。

「中に入りませんか」、「別の日に伺うのも手ですよ」

と何度も言われたけど、私は断った。

絶対にここで「お帰り、ウィリ」って言うんだ。



夕方の6時くらいにウィリが嫌っているオプティマスってやつが寮に戻ってきた。


「こんばんは、大丈夫でしょうか?何かお手伝いできますか?」


「大丈夫だから話かけないで」


「失礼しました」


「……ごめん、別にあんたが悪いんじゃない。ただ、あんたと話してるところを見られたくないだけ」


「かしこまりました。お気になさらずに」


それだけ言ってオプティマスは寮の中に入って行った。


そして夜になった。

ときどき、うちが大丈夫かどうかを確認するために中から人が出てくる。

大丈夫。寒いだけ、疲れただけ、寂しいだけ。

ウィリを一人にしてしまった罰を自分に課すように、

私はそれらを受け入れた。

ウィリも寂しかったはずなんだ、つらかったはずなんだ。


……腰がじんじんする。

……尻尾の付け根が痛い。

……足も痺れてきた。


さっき、夜の11時を回ったってフェリックスが言ってた。

もうそろそろ門限の時刻なのに。

まだ来ないのかな……


あっ、この匂い。

へへ、やっと来た。

やった。


「お、おかえり、ウィリ」



ーオプティマスー


ホワイトシティ・貧困区にて、


来てしまった。

来るかどうかを悩みに悩んだが、私はまたここに来てしまった。

一週間悩んだ末に今日の早朝に起き、馬車に乗って来てしまった。

ミランダの家に。

一度、中層区で前回のように食料をたくさん買い込んだ。

ただ、これはミランダの家族の状況を気遣ってのことではない。

私の言い訳作りだ。

「よろしければ皆でお食べください」と言うための。

だって、私には彼女に会う理由はもうないのだから。

彼女は私について何も知らなかった。

それはこの前ではっきりした。

私もこれ以上彼女に何かできることはない。

私が大金持ちだったのなら、

彼女を含め、彼女の家族の面倒をまとめて見てやりたい。

だが、今の私にはそういった経済力はない。

というより、学園の外に出れば私には何もない。

当たり前だ。自分が誰なのかわからないのだから。

家族はいない、知り合いもいない、帰る家はない。

私は外の世界では『一人』だ。

……そうだ。だから私はここに来た。

一人じゃないと思わせてくれた唯一の場所だから。

何もないのに、全てを満たしてくれた場所だから。

彼らと一緒にいれば、ほかは何もいらないと思ってしまった場所だから。

自分の過去の記憶さえも。

だけど、私は部外者だ。

彼らとなんの関わりもない。

たまたま助けた少女。

これ以上彼女と会うのは恩着せがましい。

わかっている。わかっているからこそ、

この扉の前で、ノックもできないまま何分も立ち尽くしているのだ。

帰ろう。食料だけドアの前に置いて、帰ろう。

そうだ、なによりも彼女を危険に晒すわけにはいかない。

よし、いくとしよう。

そう決心したときだった。


扉が開いた。


「オプティマス様!?」


驚きを隠そうともせずに、扉を開けたミランダが言った。


「み、ミランダ様、急なご来訪で大変申し訳ありません。たまたま近くを通った次第でございまして。それでですね、あの、なんと言いますか、ミランダ様が元気にしていられるかをお確かめたく」


言いわけっぽく聞こえただろうか。

……だって言いわけなのだから。

それでも、どうすればいいかわからない好青年な感じで言ったつもりだった。


「えっ?そんな、う、嬉しいです」


よかった。

変には思われていないようだ。

むしろ喜んでいるようにさえ思える。


「そうだ、些細なものですが、よろしければ皆でお食べください」


「ありがとうございます。これから買い物に行く予定だったのですが、もう必要なさそうですね」


「そ、それは何よりです。……では、お元気そうなので私はこれにて」


私は彼女に背を向け、歩き出し、このまま帰るそぶりをした。


「オプティマス様」


私の予想通り、彼女に引き留められる。


「はい、ミランダ様」


「も、もし時間があれば一緒にお食事をしていきませんか?買ってきてくれた食材で、この前よりももっとおいしいものを作ってみせますので!」


立てた作戦が驚くほどにうまくいっていた。

自分がここにいたいと言うのではなく、

あくまでも向こうが私にここにいてほしいと言わせる。

このまま残ればいい、それが私の希望なんだからと思う自分と、


帰るべきだ。残るべきではない。

いくらこの場に残りたくとも、いくら彼女といたくとも去るべきだ!

彼女が大切ならば、彼女を危険にさらすな!と思う二人の自分がいた。


『帰るんだオプティマス!』


脳内で声が叫んだ。

帰ろう。うん、それがみんなにとって一番いい。

悲しいし、悔しいけど、帰るべきなんだ。


「申し訳ございません、本日はこれで帰らせていただきます」


そう言うつもりだった。


「ええ、喜んで」


だが、先ほどの決心がどこかへと消えてしまうように、

ここに残ることを肯定する返事が口から出た。

私はミランダと一緒にいることにした。


家に入れてもらい、彼女と彼女の弟たちと幸せで楽しい時間を過ごした。

ミランダが食事を作っている最中に弟たちと遊んでやった。

私と彼女の弟マークは騎士役で、

妹たちマルタとミラナはお姫様役で、

悪者を倒してお姫様を助けに行くごっこをした。

頭の中で想像した悪者、

盗賊や暗黒騎士、オーガーや絶滅した巨人族などと戦い、

最後に立ちはだかったのは幻想でのみ存在すると言われる巨大なクリーチャー、

『ドラゴン』だった。

それは熾烈な戦いであった。

私とマークは全身に傷を負いながらもなんとかドラゴンを倒し、

姫たちを助けることに成功する。


「ははは、オレこそがドラゴンスレイヤー無敵のマークだ!姫どもよ助けに来たぜ」


「……」


「兄ちゃん、ここはなんか姫に声をかけてあげないと」


「ああ、すまない」


なんというべきだろうか。

騎士と姫、とりあえず膝をつこう。


「遅れてすまない、王国の姫たちよ。ご無事でしょうか?私が来たからにはもう何も心配することはありません。このオプティマス、命に代えてでもそなたらを祖国の地へお連れします」


「わー」「わー」


マルタとミラナは驚いた顔で私を見つめる。

なんかセリフがよくなかったのだろうか。


「うち、オプマス王子と行く!」


「ええー、ずるい!うちもオプマス王子がいいの!」


「なんでよ、うちが先に言ったの!ミラナはオレゴンスレイヤーのマークと行きなよ!」


「いーやーだー!オプマス王子がいいの!姉ちゃんは無抵抗のマークと行きなよ!」


なんか喧嘩をし始めた。


「ドラゴンスレイヤーの無敵のマークだ!チキショウ!こんな姫なら助けにくんじゃなかったぜ。行こうぜお兄ちゃん」


「ええー、待ってよ」「ええー、待ってよ」


「はーい、お遊びはそこまでよ。料理できたから手を洗ってきて」


「「「はい」」」


三人が元気よく言う。


「オプマス王子もですよ」


「ふふ、はい、女王殿下の仰せのままに」


私がそう言うとミランダは頬を赤らめた。


そのあと、全員で楽しく食事をとった。

今日の料理はこの前と比べると具材はたくさん入っており、

量も多かった。

私が買ってきたものをふんだんに使ったのだろう。

味も濃かった。ただし、おいしさはこの前と変わらない。

お腹だけでなく、心までをも満たしてくれる絶品の料理だった。

やはり、この飯を私は毎日食べたい。


食事が終わると、


「はい、じゃ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは部屋で話すから、どんな音がしても入ってきてはいけませんよ」


「「「はーい」」」


マークたちが元気に返事をする。

あれ?この前と同じ流れ?なぜ?


「ふー、やっと二人っきりですね」


「ああ、ええ、そ、そうですね」


「はいはい、遠慮なく座ってください」


ミランダはベッドに座り、その横に手をポンポンしながら言う。


「失礼します」


ミランダの隣に座ると、彼女は自然と私の肩に頭をポンと置いた。


「……もう来てくれないかと思いました」


「……どうしてそう思ったんだ?」


「この前、そ、その、き、キスする手前でお帰りになったので私が何か気に触ることをしたんじゃないかと思いまして……。でもオプティマス様は戻ってくれました。私、すごく嬉しいです」


キス!?そうか…、だから目を閉じたままあんなに顔が近かったのか。

またもやこの子の覚悟を私は踏みにじったようだな。

それに自分のせいだと思っていたとはなんとも健気な子だ。

あなたは悪くない、全て私が悪い。


「いいえ、ミランダ様のせいではありません。あのとき、急に具合が悪くなってしまい。これ以上迷惑はかけられないと帰宅した次第でございます」


「そんな、それでしたら仰っていただければお世話しましたのに」


本当にいい子だな。

うそ、偽りがない、真っ直ぐな瞳。

この子といたい。自分のものにしたい。

彼女も彼女の家族も守ってあげたい。

今、それができなくともそれができる男になりたい。


……だけど、すまないミランダ。

私はそれまで待てそうにない。


「オプティマス様?きゃ」


私はミランダの背中に手を回し、その体を自分にひきつけた。

そして彼女の唇に自分の唇を押し付けた。

最初は驚かれたが、すぐに受け入れてくれた。

しばらくはお互いに言葉を発さずにお互いの唇を貪った。

止めたくない、彼女の全てが欲しい、

『身』も『心』も『魂』も、全て私のものにしたい。


……だけど、止まろう。

この子を怯えさせたくはない。

ゆっくりと、彼女自身から、

それらを私に捧げてくれるように、

導いていこう。


「オプティマス様?」


「すまない、ミランダ。そなたの魅力に逆らえなくて、私はなんてことを」


「いいえ!オプティマス様が気に病むことはありません。あの…、その…、わ、私もし、してほしかったので…」


「そうであったか。よかった。私は嬉しい。そなたのような身も心も美しい女性にそう思ってくださるのは、男として最大の幸福でございます」


「い、いいえ、私こそ、あなたのような方からそういったご好意を向けられるのはう、とても、う、嬉しいです。……あの……」


「どうされましたでしょうか?」


「だ、大丈夫だったでしょうか?」


「ん?何がでしょうか?」


「わ、私、初めてで……、ちゃんとできたのかなって」


すごい顔を赤らめて、おどおどしながらミランダは言う。


「はい、とても幸福なくちづけでした」


「よかった!」


ベッドではねるように喜ぶミランダ。


「それに私も過去の記憶がないので、私にとっても初めての体験でした。ご不快にさせるようなことはなかったでしょうか?」


「いいえ、全然、まったく!む、むしろ、もっとやってほしいというか…、あれ?何言ってんだろう私!?はしたない」


そのあとも私はミランダと話し、夕方になる前に帰った。

次はいつになるかわからないが、必ず会いに来ると約束して。


「はい、いつでもお待ちしております」


家の玄関まで送ってもらったミランダにそう言われると、

最後にもう一度彼女を抱きしめ、キスをした。

名残惜しかったが、私は帰っていった。


ホワイトシティを歩きながら、

この数週間のことを考える。


ミランダを助けたこと、

セバスチャン先生に助けられたこと、

先生に推薦されミレニアム学園に入学したこと、

オメガクラスに配属されたこと、

これまで知り合った人たちのこと、

ミランダのこと、

そして、


「号外!号外!中層区で鍛冶師のグリム・ハーランドが殺害されました、詳しい情報はホワイトタイムズで、一部、500ルカですよー!」


またもや、殺人か。

これで三人目、一週間に一人が殺されるペースじゃないか。

ミレニアル本部があるというのに危険な街だ。

ミランダが心配だ。

どうにか、もっと安全なところに移ってもらうことはできないだろうか。

……いや、それだと困る。私から離れるのは避けなければ。

くそ、やはり私の卒業まではここにいてもらうしかないのか。

これについてもまたゆっくり考えよう。


とりあえず先ほどの続きだ。


私はこの三週間をおさらいするように、

可能な限りのことを思い出そうとした。

そして、既に気づいていたことについて考えた。

この三週間の間にも、自分の記憶がところどころない。

あのときに自分はどこにいて、

何をしていたかの記憶が完全に抜けているところが数箇所あった。


そういうことを考えながらオメガ寮に着く。

玄関前の段差に力なく座っているンズリがいた。

あのにくったらしい、ウィリアムの女だ。

なんというとんでもない格好をしているんだ。

まずい、ミランダとの行為を途中で止めてしまったからか、

この女があまりに妖艶なのか、彼女が欲しくなる。

好きでもなんでもない。私にはミランダがいる。

ただ、今すぐこの女を陵辱したい気持ちが湧き上がってくる。

そもそもこの格好をしているこの女が悪い。

そういうことをしてくださいと言ってるのも同義だ。

このまま手を伸ばせば……


(常に紳士であれ)


私の中にセバスチャン先生の言葉が響く。

私は内に宿る炎を抑えて、彼女に話しかけた。


「こんばんは、大丈夫でしょうか?何かお手伝いできますか?」


そのあとは簡単にいえば、「どっかに消えろ」と言われた。

ウィリアム・ロンカルの難しいところはこれだ。

やつに嫌われるのはどうでもいい。

ただ、彼を慕う人は同時に私を嫌いになる。

私は彼らに何もしていないのに。

ザラサ、ブヤブ、それにあのンズリとかいう女もだ。 

本当にイライラする。

自分の頭の中の声に従いたくなってしまうほどに。

というのは冗談だ。


自分の頭の中の声?

ああ、全然消えてないよ。

今じゃ、ずっと聞こえる。


(…殺せ…)


ってね。

でも、どうすることもできないんだから、

無視をすることにした。

幸いなことに音量はそこまで大きくない、

この数日は大きくなっている気がするが、

まだまだ無視できるレベルだ。

大丈夫、私は大丈夫だ。



ーンズリー


「お、おかえり、ウィリ」


本当は立ち上がって、彼に飛びつくまでが計画だったんだけど、

長い間ここに座りすぎたせいで、体は冷え込んで、

足が痺れ、いうことを聞かなかった。


ウィリはうちの近くまで近づいた。


「……」


ウィリに見つめられる。

うちはその目から彼の感情を汲み取ることはできなかった。

心配、蔑み、怒り、呆れ、どれであったのだろう?

ただ、一つだけ言えるのはそこに「嬉しさ」はなかった。


「触るぞ」


そう言われて、ウィリはうちのおでこと首、そして手を触った。

あったかい…


「バカライオン」


「えっ?」


ウィリがそう言うと、うちをお姫様抱っこした。


ウィリがそのままオメガ寮に入ると、ロビーにオメガの全員が待機していた。


「ウィル遅い!」「遅いにゃ!」「ンズリずっと待ってたんだぞ」

「そうだにゃ、そうだにゃ」「ちゃんと彼女に戻る時間くらい教えとけ」


と、ウィリはいろいろ言われたのだった。

ウィリは彼らのことを無視し、

うちを暖炉の近くのソファに座らせ、

さらに部屋から毛布を持ってきて、それでうちを包んだ。


「デルタ寮長には、門限までに帰れないことは言ってあるか?」


「ううん。何も言ってない」


「ファティーラ先輩、ンズリをこのまま返すわけにはいきません。ここに泊まらせることを許していただけますでしょうか?」


「そう言われましても、そういうことは前もって両方の寮長に許可をお取りしてから、」


「俺が許す。許可せよ」


我鷲丸(がじゅまる)が腕を組んで、足を広げ堂々と言う。


「ははっ。仰せのままに」


ファティーラ先輩と呼ばれた先輩は膝をつくように返事する。

……なにこれ?

なにプレイ?王様?

ていうか、なんでみんな「これが当たり前です」みたいな顔をしてんの?

えっ?これオメガだと普通なの?


でも我鷲丸、すごいな。

一言でファティーラ先輩を説得しちゃったよ。

つか説得どころか命令だよね?

二人は付き合ってるとか?

オメガの寮長のファティーラ先輩はデルタの寮長向けに手紙を書いた。


「これをデルタの寮長に、そうすれば大丈夫なはずです。今からデルタ寮へ向かうと、門限までは戻れません。なので、門限を超過した時間も今回は不問とします。よろしいでしょうか、運命の神子様」


「うむ、よろしい」


「ありがとう、先輩、我鷲丸」


「全ては運命の神子の仰せのままに」

「気にするでない」


うん、だからなぜうちだけが驚いてんの?

運命の神子ってなんだし!?

まぁ、ありがたいからつっこまないけど、

つっこみどころ漫才だよ!


「ブヤブ、ザラサ。ンズリをこのままにできない。二人でデルタ寮に行ってくれるか?」


「待つにゃ、うちが行くにゃ、かわいい後輩たちは休むのにゃ」


とても大きな獣人の先輩がウィリから手紙を取り上げた。

本当に大きい、背が大きいだけじゃなく、

胸もお尻も超大きい!

猫科の獣人だよね?それにしては大きすぎる。

獅子科の獣人基準で考えても大きいわ。

猫科ってもっとも小さくてかわいいもんじゃないの?


「ガウラ先輩、これは俺らの問題です、ありがたいですが、」


「うるさいにゃ、ウィリアム。先輩が行ってあげると言っているのにゃ!」


大きな猫獣人の先輩はガウラというらしい。

うん、なんかガウラというか、

獅子科のうちより、『ガオオ』って感じだ。

でもかなり陽気ではっちゃけてる。

はは、うち、この先輩好きかも、今度話してみたい。


「俺も行こう」


ええと、この人も先輩だよね?

名前はもちろん、見たことすらないかも。


「エリオット先輩」


「気にするなウィリアム。同じオメガの仲間だろう?ここは俺とガウラに任せておけ」


「…先輩」


エリオット先輩と呼ばれた人はなんかクールな感じだった。


「超エロ獅子ギャル…、じゃなかった。美しい獅子のお嬢さんのために俺も人肌脱いで来るぜ」


いや、一回超エロ獅子ギャルと呼ばれてるから、

何言われても立て直せないよそれ。

ふふ、でもうける。


「ポン・ホウ先輩」


ポン・ホウ先輩は……、

うん、多分変態だ。


「俺も行くにゃ!」「うちもいく」「ふふふ、じゃ私も行きましょう」

「俺もだ」「俺も行く」「では、英雄王も行くとしよう」


オプティマスを除く全一年生が声を上げる。


「よし、ではみんなで行くにゃ!」


そしてガウラ先輩の掛け声とともに行くと言った人は全員オメガ寮を出た。


「そんな大勢で門限を破られると困るのですが…」


と心配する声で言うファティーラ先輩だったが、


「でも、これが運命の導きであるのならば、受け入れましょう!」


とわけのわからないこと言って、すぐに元気を取り戻した。

だからなんでそんなに『運命』推しなの?


「ブヤブ、ザラサ、シャワーを浴びて寝る準備だ。ザラサ、ボールウィッグを俺のベッドに連れて行け」


「うぅ…、わかったのです」


ザラサでもボールウィッグは怖いんだね。

ボールウィッグはウィリと離れたくなさそうで、

小さい両前足でウィリの服にしがみついてたが、

「さっさと行け」とウィリが言うと、

ウィリを放し、ザラサの頭の上に乗せられた。

ザラサが部屋に向かう前に、睨みつけられ、

「ベッー」と舌を出された。

ザラサは恐る恐る、ボールウィッグを部屋に運んだ。

……ていうかウィリ以外がボールウィッグを持つのって初めて見た。

うちは触らせてすらもらえなかったのに…

うちよりもザラサのほうがボールウィッグに信頼されてるってこと?

なんか悔しいなそれ。

うちのほうが先だったのにな…


そしてロビーにうちとウィリしかいなくなった。


ウィリはキッチンに行って、暖かいお茶を作ってくれた。


「ありがとう」


「熱いからふうふうして飲め」


「ウィリがやって」


「はぁ?」


「腕とかも冷えてるの、ウィリが飲ませてよ」


「はー、しょうがないな」


ウィリはスプーンでお茶をすくい、ふうふうしてからうちに飲ませた。


「あったかい。それとおいしい。何このお茶」


「オレの国のお茶だ。マテ茶という」


「マテ茶、うち好き」


「そうかよ」


「うん、……好き」


「わかったって」


「……ウィリが好き」


「っち、なんだよ、オレはお茶と同じ程度にしか好かれてないってことか?」


「ち、違うよ。ウィリが好き、大好き!」


「……そう」


信じてもらえてない。

ってそれはそうだよね。

一人で勝手に怒って、勝手に距離を置いて…

必要とされたときに彼の側にいることができなかった。


「ごめんなさい、ウィリ」


「ん?なんでンズリが謝るんだ?」


「だって、私、勝手に怒って、ウィリを一人にして、ウィリがうちを必要としてくれたときにうち、そばにいてあげることができなくて…」


「そっか。そういうことなら全然謝らなくても大丈夫だよ。オレはそれをンズリのせいだと思っていないから。確かに先週はいてほしいなと何度も思った。けど、それだけ。いてくれなかったからって別にどうってことない。ンズリとオレは『友達』。それ以上でもそれ以下でもない。責任を感じる必要なんて微塵もないのさ」


友達…、彼が言う、その友達という言葉はうちを傷つけた。

特別じゃないと言われているみたいで、胸が痛んだ。


「ンズリは自由なんだよ。オレに構う必要ないって。そして友達もオレとサムエル以外にもできただろう?だから大丈夫、」


「違う!」


我慢できずに大きな声で言った。


「うん、友達はできた。学園に来たときの『うち一人だったらどうしよう』って心配も消えた。確かにウィリがいなくとも一人にはならない。だからってウィリと一緒にいたくないとはならない!ウィリが好きなの!一緒にいたいの!だから、もうそんなこと言わないでよ!うちにはもうウィリがいらないように話してるけど、ウィリがもううちをいらないって聞こえるの!」


「……はぁー、オマエはオレにどうしてほしいんだンズリ?オマエだけを見てればいいのか?オマエだけとずっと一緒にいればいいのか?オマエだけを守ればいいのか?」


「う、うちは…」


「うん、そうしてほしい」と言いたい気持ちがないわけではない。

ていうかぶっちゃけそう!

うちだけを見て、うちだけといて、うちだけを守って欲しい。

でも、それを言ってしまえばこの関係が終わると直感が言っていた。


「ち、違うの。でも『うちも』見てよ、いてよ、守ってよ!」


それが自分にできる精一杯の譲歩だった。


「オマエはオレの家族になりたいだけじゃない。それだけならオレは出会ったその日からオマエをオレのものにしていた。オレはそのくらいオマエが気に入ったんだ。でもオマエがオレに向けるその好きは男と女の好きだ。オレの家族になるだけでは満足できない好きだ。オレの女になりたいという好きだ。オレは別にそれでもよかった。わかるか、ンズリ?そんくらいオレはオマエのことが気に入ってるんだ。そこらへんの綺麗な女誰にでも生涯を共にしようぜ、なんて言わねえよ。オマエのその美しさと心の強さ、そしてその純粋無垢な魂にオレは惹かれた。だから言ったんだ。どうすれば一緒にいられるかをな」


家族、もの、気に入る、女、生涯を共に、惹かれた。

熱い気持ちが溢れる彼のそれらの言葉を私は聞いた。

そして、最後の一言で、彼と出会った最初の日の夜の会話を思い出す。


『何があってもずっとオレと一緒にいる』


何があってもか……

うち、ダメじゃん……


うちがその言葉を思い出したのをウィリがわかったかのように、


「簡単じゃねぇだろう?」


と冷たく言った。


さっそく破った。

約束してなかったから、破ったことにはならないかもしれないけど、

約束をしていたら、うちはそれを破っていたことになる。

言われたのに、初めからうちはそれを知っていたのに……


「ウィリ、何があってもって」


「何があってもだ」


……ダメだ。こんなどうでもいいことで彼から離れたうちはダメだ。

「これからは一緒にいる」と言っても信じてもらえるはずがない。

ていうか本当にいられる?『何があっても』一緒にいられる?


「…………」


だけど、それでもウィリと一緒にいたいよ!

これで終わりなんて嫌だよ!

いずれは、いずれは『何があっても』一緒にいられるような女になるから!


「ごめんなさい、ウィリ。ウィリにとってすごく大切なことだったのにうち、深く考えてなかった。もう一度チャンスください。お願いします」


ウィリはしばらく答えなかった。

いろいろと考えるように目を閉じ、頭を下げた。


「ンズリ、はっきり言おう。オレは恋人探しにここにいるわけではない。見つかったらいいなとは思っているけど、オレの最優先事項ではない。甘い学園恋愛がしたいんならオレからは離れたほうがいい。おそらく、オレと付き合えたとしてもそうはならない」


「甘い学園恋愛なんてしたくない!ウィリと恋愛がしたいの!


「そして、オレには家族がある。ここの外にも、そしてここでもザラサとブヤブという家族ができた。オレは彼らの面倒を見る使命がある。ずっとオマエだけに構うのはどちらにせよできない」


「……わかった。それでもいい」


「それに学園に入った当初はオマエしか見えてなかったけど、オレは今、他の人も気になり始めている。オマエと同じくらいかオマエ以上に。だから、自分しか女として見てほしくないと思ってるんなら、今はもうそれができない」


「…………」


「誰」と聞きたかった。

もう予想がついているけど、それでも知りたかった。

だが、名前を聞けばその人のことが嫌いになりそうで嫌だった。

嫌いになりたくない。

うちが思っている人ならば、彼女もうちのダチなんだ。


「よって、オレは、ンズリがオレと一緒にいるのはつらいだけだと思う」


「……」


「……それでも前のようにオレと一緒にいたいのであれば、さっきのことを全て考慮した上で自分で決めろ。ただし、ンズリがオレといるからって、オレは自分の使命を放置しないし、家族を優先するし、心が一人の女性に決まるまでは他の人とも会うぞ」


いや!いや!他の女の人と会うのなんて嫌!

絶対に嫌!心が耐えられない!

でも、それでも、……一緒にいたい!


「一緒にいる!」


「ンズリ、わかっているのか?オレはオマエを選ぶとは限らないんだぞ」


「一緒にいるの!…っ…っ…一緒に…っ…っ…いるの…っ…っ」


「……わかった。じゃ、また『友達』としてよろしくね」


「……うん」


友達か…

前と変わらないはずなのに、なぜかすごく距離が空いた気がした。

でも、今はこれにすがることしかできない。

ここから挽回する!ウィリを振り向かせてみせる!


話が終わると、マテ茶は一人でも飲めるくらいの温度になっていた。

飲みながら、「どのくらい外で待ってたの」とか

「なんで中に入らなかったの」と聞かれて、

「10時間くらい」、「お帰り、ウィリ」

って言いながら飛びつく作戦だったことを教えるとめっちゃ笑われた。


うちも自分でバカだなと思いながら笑った。

それでも後悔はなかった。

あそこまでしていなければ、今日の会話はできなかったと思うから。


「ボス、寝る準備と明日の支度が終わったのです」

「オレも終わったぞ」


ザラサとブヤブがシャワーから戻ってきた。


「よし、じゃ、寝るか」


「ボス、腹が減ったのです!」


「そっか、じゃ、今なにか作ってあげよう」


「ブヤブもンズリも食べるか?」


「食べる」

「うん、ウィリの料理食べたい」


「わかった、ちょっと待ってろ」


そう言って、ウィリはキッチンに向かった。


「ガルルル」


ザラサが牙を出しながら睨んできた。


「なによ?」


「ボスはザラサのボスなのです!」


「はい?」


「メスライオンには渡さないのです!」


「うちはウィリとザラサが仲良くなる前から仲いいの!うちのが先なの!」


「どっちが先とか関係ないのです。ザラサはボスの家族なのです。オマエはただの部外者なのです!」


「はあ!?数分前までは犬っころとも仲良くしなきゃなと思ってたけど、一回ボコってから言うことをきかせたほうがいいのかな?」


「おお、やるのです?好都合です。ボスのお気に入りが誰なのか教えてやるのです」


うちもザラサも立ち上がり、お互いに睨み合う。


「おい、オマエら仲良くしろよな。喧嘩したら怒るぞ」


キッチンからウィリが冷たい声で言う。


「ボス!け、喧嘩なんてしてないのです!ざ、ザラサはいい子なのです」

「そ、そうよ、喧嘩なんてしてないわ。久しぶりだね〜って話してただけ」


「ふ〜ん。ならいいけど」


ブヤブが何か言おうとしたから、

うちとザラサは慌てて指を自分らの口に当てて「シッ」って仕草をした。

ブヤブくんはため息をついて、ウィリの料理を手伝いに行った。


料理が作られている途中に汗だくになりながらデルタ寮に向かったオメガのメンバーが帰ってきた。


「にゃははは、夜の鬼ごっこはやっぱり楽しいにゃ!圧倒的獣人有利だにゃ!」


うん、獣人はほとんど暗視持ちだからね。


「ず、ずるいぞ!本来、この英雄王我鷲丸がそんな簡単に捕まったりしない」


「にゃははは。英雄王の負け惜しみにゃ」


言い争うガウラ先輩と我鷲丸。

つか鬼ごっこしてたんだ。真夜中に…。


「ンズリ、ちゃんと手紙届けたにゃ。今回は問題ないけど次からは気をつけろとのことだにゃ」


「ありがとうございます、が、ガウラ先輩」


「いいっていいって、うちは恋する乙女の味方なのにゃ!って、くんくん、おいしそうな匂いがするのにゃ!」


そしてキッチンにいるウィリに「うちらにもくれなのにゃ!」と迫るガウラ先輩。

ウィリは嫌そうな顔をしながらも起きていた全員分の料理を作ることに。

みんなで遅い晩飯を食べて、話したり、騒いだりした。

ははは、楽しい。オメガってすごい楽しい!

デルタと大違い!オメガに来たいな。もちろんクレアと一緒に!

そうすれば毎日ウィリと一緒にいられる!

クレアもサムエルと一緒にいられるから嬉しいっしょ!

ポイント貯めよう!

食べ終わるとみんなはそれぞれの部屋に戻った。

うちだけがロビーに残された。

うちはロビーの長ソファで寝ることになった。


「みんなはもう寝た?」


途中でシャワーを浴びに行っていたウィリがロビーに戻った。


「うん、ちょっと前くらいに」


「そっか」


「シャワーどうだった?」


「ん?普通だけど、なんで?」


「言ってくれれば一緒に浴びたのに」


「シャワーだけで終わらんぞ、それ」


「いいよ♡」


「はあー」


大きなため息をつかれる。


「いたい!」


枕を投げられた。


「何すんのよ!?」


「獅子を煽るな、バカライオン」


「獅子?ウィリもライオンなの?ってキャ!」


ウィリにソファに押し倒された。

私の体の上にまたがるように彼もソファに乗る。

喉がなる、汗が出る、脈が早い、心臓が飛び出る!


「あ、ええと、ど、ど、どうしたの、ウィリ?」


「何をそんなにびびってんだ?いいんだよな?」


マジ!?今から!?ここで!?

寮のロビーで?誰か来たらって、

そんなのどうでもいい!

今からするってこと!?

待って待って待って!

いいけど、全然いいんだけど、

心の準備が!

だからちょっとだけ待って!


「う、う…ん。い、いいよ。ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ待っててね」


私は落ち着くために目を閉じて、何度も深呼吸をした。

よし!うん、OK!準備完了。た、たぶん。

いや、準備なんて無理だけど、

もうあとはウィリに任せればいいよね?

そう思い、目を開けると、


「あれ?ウィリ?」


ウィリは先ほど私が座っていた一人用のソファに座っていた。


「獅子を煽るな、バカライオン。次は食うぞ」


……ちぇー、今食べてもいいのにー

でも、そっか。

ウィリもライオンか。へへ。


私はソファで寝っ転がり、

そのあとにウィリはそのソファのふもとで私が寝るまで一緒にいてくれた。

ううん、私が起きるとまだそこにいたとこを見ると、夜ずっとそこにいてくれたらしい。

ウィリ大好き。

うちが起きたあとに、ウィリも起きて、デルタ寮まで送ってくれた。

お互い、今日の準備があるためすぐにお別れをした。


こうして、二週間かかったが、うちはウィリと仲直りすることができた。

だけど、うちはすぐに知ることになる、

その二週間がどれだけ大きかったのかを。

読了ありがとうございます!

次回――第24話「ルミナーレの夜」


「キス」で始まる月曜日。

うまく笑えないまま一週間を過ごしたオラベラが向かう先は、

ホワイトシティNo.1クラブ《ルミナーレ》で開かれる、とある“特別な夜”。

王女と王女、天才、三女神、英雄王、幼なじみたちに――女神降臨。

それぞれの胸にしまっていた想いが、音楽とともに少しずつ形になっていく。

そして、一組の男女がダンスフロアに踏み出した瞬間、

ホワイトシティの夜を揺るがす“予期せぬ出来事”が訪れる――。


面白かったら☆・ブクマ・感想、めちゃくちゃ励みになります!

第24話は【12/4(木)】公開予定

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― 新着の感想 ―
ンズリ難しい恋愛になったね、今はオラベラも応援したいから迷うな。(笑)
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