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ミレニアム学園 ―赤き終焉への抵抗―  作者: 赤のアンドレ
【1年生編 ー赤い脅威ー】 第2章:クラスリーダーと連続殺人事件
22/27

第21話:新しい家族と未来の家族

ーサムエル・アルベインー


昨日、美男ランキングに入ったことで、先輩たちにいじられた。

といってもウェイチェンも我鷲丸(がじゅまる)もランキング入りしていたし、

オプティマスに関しては堂々の3位だ。

アンバーも女性側の8位に入っていた。

学年ワーストが揃うクラスだけど、

学年の美男美女が揃っているクラスでもあるようだ。

ちなみに昨日の夜、アンバーを女王のようにソファに座らせ、

俺、我鷲丸、ウェイチェンとオプティマスが彼女の従者であるかのように

そのソファの周りに立ったところの画をクリスタルグラフを使って撮った。

オメガ寮のロビーに置かれて、

魔力を流せば女王アンバーとその従者四人の画がいつでも見られる。

あと、俺らはいいけど、

それをやるイェン帝国の王子のノリの良さは半端ないと言える。

先週からチェンといる時間は増えたけど、かなりいいやつだ。

お姉さんの話題さえ出さなければとても温厚な人だ。

方向性は違うが、お互い姉には苦労しているようだ。


ともかく、昨日の楽しい時間はある事件で終わりを迎えた。

ブヤブがあざだらけになって、帰ってきたのだ。

みんな、何があったんだと問い詰めたが、かたくなに、


「なんもない。オレ、もう寝る」


とだけ言って、部屋へと去った。

みんながどうしようかと悩んでいるところに課外活動からウィリアムとザラサが帰ってきた。

今週は毎日課外活動をしている。

ウィリアムが何があったんだと聞くと、フェリックスが事情を説明した。

本来、こういう説明はオプティマスが行うのが恒例になっているが、

オプティマスはウィリアムが自分の話を聞かないことがわかっているため、

ウィリアムが質問した場合に限り、別の人に任せる。

それが前までは俺だったのだが、

俺もウィリアムから距離を取っていることから、

今ではフェリックスやシドディが答えることが多い。


「そうか、本人がなにもないって言ってんだろう。ほっとけよ」


「ウィル、けがしてるんだよ!このままほっとくの?」


「じゃ、オマエはどうすんだよ、シドディ。てめぇの大好きな武器作りやめてまでなんとかするのか?そこまでの覚悟はあんのか?だったらどうするか相談してないでさっさと助けろよ」


ウィリアムはときどき場を凍らせる。

発言だけじゃない。クラスメイトに向けるべきではない圧を向けるからだ。


シドディは怖気づいている。

我慢の糸が切れそうなオプティマスは今にでも動き出しそう。

俺がなんとか言えばウィリアムは抑えてくれると思うが、

俺はもう彼をコントロールできると思われたくない。

やっと平凡な学園生活になってきたんだ。

でもこのままじゃ、シドディを守りに入るオプティマスとここでおっぱじめてしまう。

……ちっ、なんとかするしかないか。


「うぅ…、ボス、怖いのです…」


ザラサがシドディ以上に怯えながら言う。

ウィリアムはザラサのその様子を見てすぐに圧を下げる。


「ごめんよ、ザラサ。ボスはザラサに怒ってないよ。今日ザラサいい子だったもんね」


しゃがんで、ザラサの頭を撫でるウィリアム。


「うん、ザラサいい子にしてたのです」


「うんうん、そうだね。じゃ、シャワー浴びといて。その後すぐに寝るよ」


「わかったのです。シャワー浴びるのです」


そのあと、ウィリアムは特に謝りもせず、自分もシャワーを浴びに行った。

ウィリアムが嫌われるのは呪いのせいもあるんだろうけど、

こういったところも関係しているのかもしれない。

少なくとも昨日は全員が嫌な気分で解散した。


そして今日、木曜日の放課後。

俺は幼なじみグループと会う約束をしている。

エリザ、オラベラ、アラベラ、そしてお姉さんだ。


「サムエルおひっさ!」

「サムエルだ」

「サムエル!」


アラベラ、オラベラ、エリザが笑顔で手を振ったりしてあいさつしてくれる。

だが、一人だけは全速力で俺に向かって走り込んでくる。


「サームーエールーーー!!!」


全速力で走ったあと、俺に向かって飛ぶ。

避けるのは簡単だ。

だが、それをすれば『死』が待っている。

ゆえに俺は『痛み』を選ぶしかない。


「くはっ」


あのスピードで突進されれば通常の人は勢いで後ろに倒れ、背中から地面に落ちる。

もちろんこの俺も例外ではない。

かなり痛いのである。


「会いたかったわ、サムエル。なんで毎日会いに来ないのよ。毎日会う約束をしたでしょ?」


「いや、してないよ」


「したよ!夢の中でサムエルが言ってた。『お姉ちゃん大好き!毎日ずっと一緒にいよう』って」


「いや、姉さん。それお姉さんの夢だから、俺にその情報はないのよ」


「なんだ、サムエルも同じ夢を見たわけじゃなかったんだ。残念。で、今日はどこ行くの?」


そう言ってお姉さんは俺の腕に絡まってくる。

学園最初の週のンズリとウィリアム状態だ。

違いは俺は自分の腕に絡んでいる女性をそういう目で見るわけにはいかないことだ。

向こうはンズリがウィリアムを見るような目で見てくるけど…、

学園の美女ランキングに入るくらいとても綺麗だけど…、

タイプかタイプじゃないかと聞かれたらタイプになるんだろうけど…、

それに、おそらく俺のために文字通り『なんでも』やってくれそうだけど…、

ダメなものダメなのである。

だって、……『姉』だから。


とりあえず、学園のカフェに行くことにした。

俺はポイントをあんまり使いたくないって言ったらお姉さんが全部奢ってくれると言った。

ここはンズリとウィリアムの逆パターンだ。

俺が姉の紐状態である。


久々に四人だけのどうでもいい時間を過ごせると思ったときだった。

俺は見てしまった。

ブヤブが他の学生に人目のないところに連れて行かれるところを。


四人に、俺は少し行くところがあると言ってなんとか抜け出そうとするが、

四人ともついていくと譲らず(特に姉さんが)全員で行くことになった。

揉め事になった際は戦闘評価Sのオラベラと姉さんがいるのは助かるが、

それは彼女らをも巻き込むことになる。

相手はおそらく高学年の生徒。

この学園で教師が来ない場所もわかっているだろうし、

万が一見られたときの言い訳もあるのかもしれない。

このメンバーでぶっ飛ばすことはできても、

逆に襲われましたという展開にされたらおいしくない。

それに一回ぶっ飛ばしたからっていじめをやめてくれるかどうかわからないし、

いじめているのは今のやつらだけとも限らない。

はぁー、どうしたものか。

つか、見捨てろよな。

見捨てることができたらそもそも悩む必要もない。


そうか…

ウィリアムが言いたかったのはこういうことか。

さっき俺が迷っていたこと全部を覚悟の上で助けるのか?

それをする覚悟がないのなら黙ってろ。

ってことなのだろう。

オラベラが彼にむかつくのもわかるな。

意味がわかるとうざいくらいにズドンとくる言葉だ。


「え?なになに?いじめ?あのゴブリンの子いじめられてるの?助けに行こう!」


「待って、アラベラ。どうするかちゃんと考えよう。今助けに行ったからって状況が解決するわけじゃないわ」


お姉さんが言うと既に歩き出していたオラベラがくるっと回り、俺たちのところに戻った。


「まず、行くのは私とサムエル。もし揉め事になったら、始めたのは私たちじゃないという証人が必要。それにあんたらがなって。決して出てきてはダメよ」


「でも姉さん、私も手伝いたいです」


「ダメよ、オラベラ。今はあのゴブリンくんのことを一番に考えて。オラベラがあいつらをやっつけたからそれで終わりってわけじゃないの。その後のほうが面倒くさいんだから。いい?」


強くオラベラに注意するお姉さん。

そうでもしないとオラベラは突進してしまう。

だが、俺らがもたもたしているとそれが始まった。

上級生たちがブヤブを殴り出したのである。

ブヤブは一切反撃する様子はない。


オラベラが拳を握りしめ、唇を血が出るほどに噛む。


「ダメよ、オラベラ。抑えて!今は私とサムエルが行くから。アラベラ、エリザ。オラベラを見張るのよ」


「はい、アンジェリカ姉さん」「はい、アンジェリカ姉さん」


「行くわよ、サムエル」


「うん」


建物の陰から出て、俺と姉さんが歩き出した。

ブヤブが殴られているのは、正面、50メートルほど先。

一気に駆けようとしたとき、建物の角の先の左側から光線が飛んだ。

おそらくエネルギーブラストと思われるそれはブヤブの右にいた上級生に直撃した。

その直後、光線が飛んできた方向からものすごい速さで

もう一人左にいた上級生にザラサが迫り、彼の体ごと空に投げた。

そして空中にいる彼に回し蹴り。

あっぱれな投げからの一撃だ。

残るはリーダー格のブヤブを実際に殴っていた男だ。

彼は悪びれることもなく、臆することなく、冷静に周りを確認する。


そうして、ザラサと光線が出てきた方向から堂々と歩きながら、ウィリアムが出てくる。


「あちゃー、やっちまったな一年。俺ら上級生に手を出すとは。ははは。退学もんだぞこれは」


ブヤブを放し、ウィリアムに近づきながら上級生が言う。


「悪いのはオマエらなのです!!ガルルル」


「待てだ、ザラサ」


「わかったのです。ザラサ待つのです」


「なんだてめぇ、獣人を従属させていきがってんのか?。まあどうでもいい。それより話そうや。どうしてくれんだこれ。このままだと俺ら、先生のとこに行って、オマエらに殴られましたってちくりに行くぞ」


「……」


「はははは、なんだ。びびって話せなくなったってか。まあ、いい。教えてやるよ。俺らは五年生。それぞれ違うクラスだ。普段敵同士の者が示し合わせて同じことを言うと説得力がダンチなのさ。それにこっちは上級生。勝ち取った信頼そのものが違う。入ったばかりの一年と俺ら、どっちを先生のくそ野郎どもが信じると思う?」


「……」


「くくく、はははは。今になって自分がどれだけのことをしでかしたか気づいたか。そうだ、オマエらは終わっている。けど、俺様は慈悲深い寛大な男だ。そうだな百万ルカ持ってこい。それで今回のことは許してやるぞ。どうだ?悪い取引じゃないだろう?金払うだけで夢の学校を追い出されずに済むんだ。そう思うと安いだろう。きゃはははは」


「……」


「おい、いい加減何とか言えコラ!」


「終わったか?」


「あっ?」


「終わったかって聞いてんだよ」


「オマエ、バカなタイプか、最初から説明してやんねぇとわかんねえようだ、くはっ」


ウィリアムの右フックが上級生の顔に直撃し、そのまま地面に落ちる。


「て、てめぇ、状況がわかってねぇのか?俺はオマエらをこの学園から追い出すことができるんだぞ」


殴られたところを手で押さえながら、上級生が言う。


「わかってねぇのはてめぇだよ。オレは別にここを追い出されても困りゃしねぇんだよ。むしろ追い出してほしいとさえ思ってる。だからできるのならぜひやってくれよ」


「な、なんだと」


切り札を失ったかのように、上級生は慌て始める。


「それにな、追い出したからなんだっていうんだ?このあと、オマエが誰だかわからなくなるくらいに顔がぐちゃぐちゃになることは変わらない。あそこに倒れている二人の腕の骨を折ることは変わらない。そして……」


「な、なにを言ってやがる!?」


ウィリアムの言葉に恐怖に呑まれる上級生、

ウィリアムが一呼吸置いたことで、

彼の脳裏に様々な悪い考えが浮かんだことだろう。

いい気味だ。


「……ザラサ、それとそこにいるブヤブがいかなる理由で退学になった場合、オレがオマエらを殺すことは変わらない」


「てめぇ、いかれてんのか!?そんなのはったりだ。ひ、人をこ、殺せるわけないだろうが」


「はぁ?歴史を知らんのか?どうやって人は進歩してきた?人と人が殺してあってきたからだろうがよ!……だからこの大陸の甘ちゃんには反吐が出るぜ。とりあえず、嘘じゃねぇってことをわかってもらうために始めるとするか。ボールウィッグ」


「キュン」


ボールウィッグが鳴くと魔術が発動される、

ウィリアムの周りのエリアで発生する音は一切聞こえなくなる。

ウィリアムは上級生の顔に蹴りを一発入れたあと、

その上にのしかかり、その顔に何度も何度も拳を打ち続けた。

しばらくすると上級生の顔がありえないくらいに腫れ、

もはや原型がとどまっていなかった。

ウィリアムが言う通り誰かがわからなくなっていた。


その間に、他の上級生二人は起き上がったが、ザラサに睨まれ身動きができずにいた。


アラベラとエリザが「止めないと」「さすがにやりすぎよ」

と言って、近づこうとするが、姉さんとオラベラは動かなかった。


「オラベラ!止めないと!」


エリザが再度言う。


「待って、エリザ。ウィリアムくんは考えがあってそうしているはず。一線を越えることはない。信じて」


「信じてっておかしいよ!今ありえないことをやっているのよ!無抵抗の人を殴って楽しんでるのよ」


「おい、エリザ。あの顔が楽しんでるように見えるのかよ」


姉さんが言うと全員ウィリアムの顔を見た。

怒りの表情の中にどこか悲しさがあった。

彼はやりたくてこれをやってるんじゃない。

二度とこれを起こさせないための彼なりにしなければならないことをやっている。

それが伝わる表情だった。

でも、申し訳ないが度が過ぎている。

あれならさっさと殺してしまったほうが慈悲があると言える。


ウィリアムが上級生を殴り終わると、ボールウィッグに合図をした。

そうするとボールウィッグは魔術を再度発動し、残り二人の片腕が変な方向に曲がった。


苦痛に叫んでいるように見えるが、音を消す魔術が生きているため何も聞こえない。

音を消す魔術はおそらくは幻影魔術『シッー』。

だが、骨を折る魔術なんて聞いたことない。

首の骨とか指定して折ることができるのか?

だったら即死魔術じゃねぇか!怖すぎるわ。


二人が少し落ち着くと、ボールウィッグは『シッー』を解除して、

その周りの音が聞こえるようになる。


「ここに倒れてるやつにも言ったが、この二人の誰かが退学になったらオマエら三人を殺す。別にオマエらが原因である必要はない。彼らが学校に行きたくなくなって、授業をサボり過ぎて個人ポイントが0になっても殺す。それができるということは証明をした。わかったか?」


「は、はぁい!」「は、はぁい!」


「さっさと失せろ」


「はい!」「はい!」


倒れている仲間を置いて去ろうとする雑魚上級生。


「そいつも連れて行けクソどもが!」


とウィリアムが言うと、折れてないほうの腕でなんとか仲間を持ち上げ、去っていった。

ウィリアムはザラサの頭をなでなでしたあと、

上半身だけを起こし倒れているブヤブの方に歩いた。


ブヤブは今のことを全部見ており、安堵よりも、ウィリアムへの恐怖が勝っていた。


俺たち五人は自然とその場に近づいて行った。


「おい、ブヤブ。オマエ、あいつらより強いだろう?なぜ抵抗しないんだ」


「……お祖父ちゃんに言われた。ヒューマンと仲良くしろって。一人のヒューマンと喧嘩して勝っても、次は二人来る。それに勝てば四人、次は十、百、千。そうやってゴブリンを滅ぼすまでやめないって」


ブヤブの話を聞いた俺たち五人は複雑な気持ちになった。

俺たちはゴブリンはいじめたこともなければ殺したこともない。

だが、歴史で俺らは知っている。

今、絶滅危惧種であるゴブリンはヒューマンによってそうなったのだと。

ヒューマンは短期間で繁殖するゴブリンを根絶やしにしようとした過去があるのだ。

そもそもオークとゴブリンがモンスターではなく、

ヒューマノイドとして認められたのは、そう昔ではないのだ。

そのため、獣人差別以上にオーク差別、ゴブリン差別はひどい。

我らヒューマンは彼らに対してとてつもなく悪いことをした歴史がある。


「そうか。じゃ、オマエは自分のためでなく、自分にとっての大切な者に危害が及ばないためにそうやって毎日殴られ、我慢していたのか」


「…うん」


その答えにウィリアムは天を仰ぎ、

しばらく考えたのちに何かを決意するように大きくため息を吐いた。


「ブヤブ、一度しか聞かん。よく聞け」


その言葉にブヤブだけじゃなく俺ら全員は耳を傾ける。


「オレの『もの』になれ、ブヤブ。そうすればオレはオマエとオマエの大切な者全員を守ると約束しよう」


「オレが、ウィリアムの『もの』?」


「うん、そうだ。オレはオマエが欲しくなった。だからオレの『もの』になれ、命が尽きるまで、永遠に」


ウィリアムの言葉は力強く、彼の真剣さが伝わった。

だが、それだけではなく優しさと愛情も込められていた。

俺ら四人はブヤブの答えが聞きたくてうずうずしていたが、

オラベラだけは「いいなー」って目で見ている。

オラベラもウィリアムの『もの』になりたいのだろうか?


「……お、オレ、ウィリアムの『もの』になる。だから、オレの部族のみんなを守ってくれ」


ブヤブがそう答えるとウィリアムは手を差し出し、握手を求める。

ブヤブは一瞬何かわからなかったがすぐに気づき、力強く握手した。


「ああ。これでオマエはオレの家族だ。オレはオレの大事な者とオレの大事な者の大事な者を守る」


握手したままウィリアムはブヤブを引っ張って立ち上がらせる。


「行くぞ、ザラサ」


「はいなのです」


ボールウィッグはウィリアムの肩に乗り、三人で歩き始める。

俺たちと目が合うと、


「姉さん、素晴らしい判断で助かりました。何か言われたときに証人は必要ですからね。これで安心です」


「ふん、当たり前でしょう?私を誰だと思っているのよ。少し待ってなさい、私がその子を治してあげる」


そう言うと回復魔術でお姉さんはブヤブを回復した。


「あ、ありがとう、綺麗な人」


「あら、お上手なのね」


「ええと、姉さん、オラベラ、サムエル、そして金髪と赤髪美女。俺の新しい家族を紹介します。ブヤブです」


そのあと、アラベラとエリザはウィリアムに

「ちゃんとうちらの名前を覚えなさいよ」「ちゃんと私たちの名前を覚えなさいよ」

と叱っていた。


こうしてウィリアムはブヤブのいじめ問題を解決した。

上級生からの報復もなかった。

後日ちゃんと調べたら、あるわけもなかった。

彼らは自分のクラスで最低の生徒で、

自分のクラスがクラス対抗試験で最下位になればすぐに退学者候補になるようなやつらだった。

先生への信頼とか、もろもろ言ったことは嘘だったのである。

俺たちもこれで問題解決とし、それ以上そいつらとは関わらなかった。


俺たちは三人をカフェに誘ったが、

彼らは今日は休むと言い、お別れをした。


アラベラとエリザは、ウィリアムがやったこと、

特にそのやり方には大きな不満があった。

だが、なぜやったのか、

誰のためにやったのかということには文句が言えないため、

飲み込んだ形となった。


お姉さんとオラベラはウィリアムがやったことは

『やらなければならないこと』と捉えたようで、

彼に不満がないばかりか評価そのものが上がったように思う。

特にオラベラの目が学園初日のウィリアムを見るンズリの目に似ていた。


オレとしてはあそこまでめんどくさいことするなら、

てっとり早く誰も見てないところで殺したほうがいいって思う。

でも先輩を殺すのはさすがにまずいか。

というかもっと大ごとになるな。

まぁ、とにかく深く関わらずに済んでよかった。



4月19日(金曜日)


ーオラベラ・セントロー


今日の放課後から二泊三日のちょっとした冒険が始まる。

いくら否定しようとしても、もうそれは無理だった。

私はわくわくしていた。

私とお姉さんとウィリアムくんとザラサちゃんだけの四人旅。

ミレニアム学園生になる前の王女の私だったらまず許可されなかっただろう。

冒険者のクエストを受けるどころか、

街の外へ出かけるのにも護衛護衛ってうるさかっただろう。

だからすごい楽しみにしている。

早く今日の授業終わってほしいな。


そう願っていた今日一日、あることに気づいた。

ウィリアムくんの各教室での座り方だ。

ウィリアムくんの右にザラサちゃん、左にブヤブくんが固定になった。

専攻を除く全ての授業でそうだった。

ザラサちゃんとブヤブくんは

ウィリアムくんに守られていると感じて嬉しいのだろうが、

ウィリアムくんの右の席はもともとはンズリの席で、

左の席はサムエルの席だったのだ。

ミレニアム学園での一週目はそれが固定だった。

ンズリとサムエルはどう思っているのだろう?

サムエルには昨日、

「なんでもうウィリアムくんと一緒にいないの?」と聞いてみたが、


「ん?そうだっけ。勘違いじゃないの?」


と完全にはぐらかそうとしたから強く睨むと、


「いやいや、俺、臨時リーダーじゃん?みんなと平等に仲良くしないと」


ともっともらしい理由を言ったが、長年のお付き合いだ、嘘だというのがわかる。

そして長年の付き合いでわかるもう一つのこと、罪悪感だ。

自分が悪いことをしたとサムエルは思っている。

つまり、ウィリアムくんと一緒にいないのを自分のせいだと思っているってことだ。

もっと聞きたかったが、

サムエルが臨時リーダーと聞いたアンジェリカ姉さんは喜びが大爆発し、

サムエルに抱きつき、


「今日は飲むわよ!」


と言い、すでにお腹いっぱいの私たちに追加で飲み物と食べ物を買ってくれた。

あいかわらず自分のことよりも

サムエルのことに一喜一憂するアンジェリカ姉さんである。


ンズリはどう思っているのだろう?

話せたのかな?話せてないのかな?

二人が一緒にいるところを全然見ない。

授業中ンズリが何度もウィリアムくんのことを見るけど、その逆はない。

私のほうがちょいちょい授業中に彼と目が合う。

好きとかじゃない、決して!

ただ、目が綺麗なんだもん!

しかたないじゃん!しょうがないじゃん!

不可抗力よ、不可抗力。


でも、

ンズリがウィリアムくんと今の距離にいることに安堵している自分がいる。

ンズリは友達で好きだけど、

前のようにウィリアムくんにくっついてほしくない自分がいる。

そうなったことを考えると嫌な気分になる自分がいる。

そういう自分は嫌いだ。私は二人のことを応援しなきゃいけないのに。

なんでこう思ってしまうのだろう。


午前が終わって、昼、そして専攻。

これが終わればプチ旅行だ。

だけど、私の心を沈ませることが起きた。


「すみません、姉さん。一緒に行けません」


なんで?なんで?

なんで一緒に来てくれないの?

……いやだ。

いやだ、いやだ、いやだ!

来てよ!一緒に来てよ!


そう声に出したかった。

けど、何も言わずに言葉を飲み込んだ。


「ブヤブを一人にするわけにはいきません。問題があったのが昨日の今日ですし、心配なんです」


「それもそうね、だったらブヤブも連れてくればいいじゃん」


「いいんですか?ブヤブの戦闘評価はCですよ。オレら四人は戦闘評価S以上でそのくらいのクエストを受けるはずだと思っていたのですが」


「そっちのほうがポイントが得られるからね。でも、ポイントを気にしないなら危険度の低いクエストでもいいし、私はギルドから『パーティーリーダー』の称号を得ているから戦闘評価が足りてなくても連れて行けるのよ」


「ははは、さすが姉さんです。ではブヤブに聞いてみますね。たぶん問題ないと思います」


「ええ、大丈夫そうだったらアルファ寮に来てちょうだい。私たち昨日の時点で準備は済ませてるから」


「わかりました」


来てくれる、来てくれる、来てくれる。

ブヤブくん、お願い「OK」って言って。


専攻授業が終わり、ウィリアムくんは急いでブヤブくんのところに向かった。


「そんな心配した顔をしないの。今回ダメでもまたちゃんと機会作ってやるから」


「し、心配なんて、」


「オラベラ、私にまで嘘をついたら怒るわよ」


「……ごめんなさい」


「わかればいいの」


お姉さんに頭を撫でられた。



アルファ寮にて、


「今日から二泊三日の課外活動?なんか気合い入ってるわね、二人とも」


セレナ先輩に言われる。


「まぁ、うん、わかったわ。ちゃんと記録は残しとく。気をつけて行ってらっしゃい。でも日曜の夜までに戻らなければ、学園に報告するわよ。いい?」


「はい」「はい」


「二人だけ?アラベラとエリザは?」


「今回は別のクラスの人たちと組みます。専攻で今教えている後輩です」


「あら、そうなの。まぁ、ほかのクラスとの交流は学園内では少ないけど、あっちゃいけないなんてルールはないからね。私はいいと思うわ。それで、どのクラスの誰と行くの?」


「実は、まだ行くかどうかは完全に決まっていないんですけど、決まれば、オメガクラスのウィリアム・ロンカル、ザラサ、ブヤブの三人です」


「ウィリアム!?それは男よね?」


「はい、そうです」


「ダメよ!」


「先輩に止める権限はありません」


「でも、ダメよ。女子二人がいるところに、男一人でも入れてみなさい。寝ているときに何をされるかわかったもんじゃないわ。ああいうことだったり、あんなことだったり、それとああいうことも」


「どういう想像してるんですか、先輩!?」


「うるさい!ダメって言ったらダメなの!私が『スピーク・フリーリー』でチェックしてやるわ!それでよこしまな考えがあったら認めないわ」


「ふふ」


「何を笑ってるのよ、オラベラ?」


「す、すみません。なんでもないです」


思わず笑ってしまった。

だって私は知っているんだもん、ウィリアムくんに魔術は効かないって。

って、あれ?ウィリアムくんが怪我したらどうすんの?

ボールウィッグは彼の怪我をいつでも治せるの?

どのくらいの傷までなら治せるの?回数は?

ダメ、彼に何かがあってはダメ。私が守らないと。


コンコンコン

ドアをノックする音。


セレナ先輩が立ち上がり、怒っているような感じでドアを開ける。


「誰よ!?」


「はじめまして、ウィリアム・ロンカルです、アン、」


ドン!

と扉を勢いよくドアを閉める音。


「先輩!」「先輩なにしてるんですか?」


「……なんか、目が綺麗で思わずぴくっとなってドアを閉めてしまったわ」


うん、わかる。

びくっとなるよね〜。


「私たちの客人なのですから、無礼は困ります」


「わ、わかってるわよ。でもチェックはするわ!」


改めてドアを開けるセレナ先輩。


「で、なんの用?」


「アンジェリカ姉さんとオラベラに会いに来ました」


「ふん!ケダモノが!一人で満足できずに二人もほしいですって?生意気にもほどがある!」


言ってない!そんなこと言ってないから!


「ああ、確かに二人ともめっちゃ綺麗ですもんね。もし二人をものにすれば世界の王にでもなった気分間違いなしですね。欲しがる人は多いでしょうね」


「自分は違うとでも?」


「いいえ、欲しくないと言えば嘘ですね。欲しいかって言われると悩みどころです。ですが、二人ともスタイルがよく、顔もかわいいですからね。特にお姫様のほうは体で殺しに来てるじゃないですか?それに加えてあの紫の瞳は反則です。会うたびに我慢している自分を褒めてやりたいですよ」


な、な、なに言ってるのウィリアムくん!?


「はははは、うける。つか顔真っ赤だよ、オラベラ」


小さく笑いながら小声で言うアンジェリカ姉さん。

それは赤くなるよ!そんなこと言われたら!


ちなみに私たちはロビーのドア近くのソファに座ってて声が聞こえるけど、

ウィリアムくんは見えてないし、彼も私たちが見えていない。


「あんた、少しは誤魔化そうとしないわけ?」


「ん?」


「なんかもうちょっとさオブラートに包みなよ。私はあんたのよこしまな考えを暴くためにやってんだから、魔術を使う前によこしまな考えを言わないでよ。調子狂うじゃん」


「別に魔術を使わなくともよこしまな考えなら好きなだけ言いますよ」


「もう自分でよこしまな考えって言ってんじゃん。アウトすぎて、アウトを通り越して合格にしちゃいそうになるわ。でも、ダメよ!あなたの本当の思いを語りなさい、『スピーク・フリーリー』」


「……」


「あれ?かからなかったわね。もう一度よ。『スピーク・フリーリー』」


「……」


「なに!?生意気にレジストしてんじゃないわよ!」


「してませんって」


「じゃ、なんでかかんないのよ!?」


「なんででしょうね」


あれ?私には教えてくれたのに。

魔術が効かないってこととを。

誰にでも言うわけじゃないのかな?

だったら嬉しいけど、姉さんはそのことを知っているの?


「ふん、もういいわ。嘘がつけなくなる魔術なんて生ぬるい。あんたの全てを委ねなさい」


先輩!?


「『エンチャント・ヒューマノイド』」


「……」


「あ、れ?」


「もういいっすか?」


「うるさい!黙りなさい!もう怒ったわ!『エンチャント・クリーチャー』、『コントロール・ヒューマノイド』、『コントロール・クリーチャー』」


「……」


「はぁ、はぁ、はぁ、いい加減にかかりなさいよ。魔力が切れちゃうじゃないの」


「先輩、アンジェリカ姉さんのこともオラベラのことも、とても魅力的に思っています。やりたいかやりたくないかと聞かれれば、それは『やりたい』に決まってます。ですが、彼女らの許可なしにそういうことをやったりはしません。アンジェリカ姉さんのことはとても尊敬しているので、容易に手を出すことはしません。それに彼女の弟とも友人なので、その友情を壊すようなこともしたくありません。そして、お姫様はオレのことを嫌ってるので、そういう関係になるのはそもそもありえません。なので、先輩が心配しているようなことは起こりませんよ。信じて頂けないでしょうか?」


嫌ってない!嫌ってないよ!

なんで嫌われてると思っているの?

ていうかアンジェリカ姉さん、

人のことを言っておきながら自分も顔が真っ赤だ。

ソファで膝を抱えながらゆらゆらと揺れている。

まぁ、それはあんなこと言われたら真っ赤になるよね。

うん、そう、これは普通の反応よ。

そう、うん、普通ふつう。

あー、顔熱い。


「はあ、はあ、なんなのよあんた。魔術効かないし、魔術を使わなくともべらべらと自分の欲望を話すし、終いにはその目!その目が反則なのよ!嘘でも本当だと信じそうになる。ずるいわ!うん、そうよ!あんたはずるいのよ!」


「はは、それは困ったな。そう言われるとオレもどうすればいいかわかんないですね」


アンジェリカ姉さんは立ち上がり、ドアのほうに向かった。

私もついていく。


「姉さん!」


嬉しそうに言うウィリアム。本当そういう顔はずるい。セレナ先輩正しい。


「セレナ先輩、もういいじゃないですか。先輩がなんて言おうと、私たちはウィリアムとクエストを受けに行くんですから」


「くっ」


悔しそうな表情をするセレナ先輩。


「セレナというんですね。アルファは本当に美人ぞろいだ」


「あ、あんた…、アンジェリカとオラベラで足りず、私までほしいってこと?」


言ってない!!言ってないから!


「まぁ、欲しいか欲しくないって言えば、」


「あー!もういい!もういい!聞きたくない聞きたくない!」


セレナ先輩が慌てている。

怒っているのではなく、慌てている。

こういう様子のセレナ先輩ははじめてだ。


「わ、わかったわ、特別に許可する。でもね、ウィリアム・ロンカル、覚えときなさい!彼女らになんかあったら私はそれをあんたのせいにするわ。そして無事に帰って来ても彼女らに根掘り葉掘り聞いてやる!あんたがちょっとでも変な真似をしたと知ったら、今度は魅了魔術じゃなく、破壊魔術を撃ち込んでやる。いい?」


「かしこまりました、セレナ先輩」


セレナ先輩を見つめながら、ニコッと笑うウィリアムくん。


「なっ、な、な」


うん、わかる。

私もあのニコッとした顔をされると目線を合わせられなくなり、

足が揺れてしまう。

気持ちはよくわかる。

だからセレナ先輩の言うことは正しい。

ウィリアムくんはずるいのである!


「ふん!もういいわ」


そう言って、セレナ先輩は駆け足で自室へ向かったが、

向かう途中で二回もものにぶつかってこけそうになった。


「どうだった、ウィリアム?」


「はい、姉さん。ブヤブも行きたいと言っていました。二人をポータルで待たせております」


「じゃ、決まりね。ちょっと待って。今出るから」


「はい、お持ちしております」


お姉さんは一度ドアを閉めたあと、

背中からドアに寄りかかり、大きくため息を吐いた。

お姉さんとの間に変な空気が流れる。

そして一言だけぼそっと言われた。


「早くしないと本当に取るわよ」


「えっ?」


「さあ、もう行くよ。荷物持って」


そして、三人でポータルに向かった。



ホワイトシティー・冒険者ギルドにて、


私、アンジェリカ姉さん、ウィリアムくん、ザラサちゃん、ブヤブくんの五人で、

あ、でもボールウィッグもいるから五人と一匹でクエストを受けることになった。


「よし、これとこれとこれね。『危険度2』一つ、『危険度5』一つ、『危険度6』一つの三つ。全部こなせばこの週末だけで13ポイントよ。なかなかじゃない?」


「三つもいけるんですか、姉さん?急いでこなそうとすれば思わぬ危険に陥るかもしれませんよ」


「ふふん!それがね、実質二つなのよ。この危険度2のクエストは運搬クエスト。目的の場所はこの危険度5のクエストがあるダンジョンの近くの村。そのダンジョンに向かうついでにこなせる。移動時間はいい馬車で10時間くらい。予定としては今すぐ終発して、途中でキャンプ、明日の正午前には運搬する村に到着。その後、近くのダンジョンを攻略。何もごとなければそのままランク6のほうのダンジョンへと向かう。距離はそんなにない。でも最初のダンジョンでつまずいたらそのまま帰還する。どう?」


「すごいですね。姉さんは天才ですか?オレは土地勘がないので、どれがどれの近くとか全くわからないです。さすがです」


「ふん、当たり前よ」


褒められて嬉しそうなお姉さん。

サムエルが小さいときにアンジェリカ姉さんを頼ってたときの顔になっている。

お姉さんって頼られるの好きなんだよね。

というか私もお姉さんなんだよな。

セレナ先輩も『お姉さん』って感じだし。

ウィリアムくんはお姉さんに好かれるのかな?

『お姉さん特攻』を持ってるかもしれない。


それにしてもすごい作戦だ。

私は土地勘あるけど、それでも姉さんが考えてくれたような作戦は思いつかない。

さすが一年間冒険者ギルドで活躍しただけある。


「よし、じゃこれでいい?」


「私は大丈夫です、姉さん」


「うん、オレもOKだ」


私とウィリアムくんが返事すると、

姉さんはザラサちゃんとブヤブくんにも確認する。


「ボスがいいならなんでもいいのです」


「うん、『ウィル』が決めたこと。オレ、文句ない」


すっごい信頼されているのである。


次に歩いて行くか、馬などの魔獣を借りるか、馬車を借りるかだけど、

今回は物資を届ける必要もあるため、馬車一択だった。

でも姉さんが言うには物資の運搬がなくとも馬車にしていたとのこと。

ダンジョンの中までは通常の馬は入れられないし、

馬の面倒も見なければならない。

馬が殺されたりでもしたら、嫌だしね。

それに荷物を運搬する村で馬車を停めれば、

クエストが終わったらその馬車で帰れる。

ということで馬車を借りることになったのだが、

最初の難関に直面してしまう。


誰が払うかだ。

アンジェリカ姉さんは年上が払うべきだと思っているから

みんなで出かけるときは姉さんが全部払う。

私たちは、全員お金に困っていないのに、そうするのだ。

こっちが払いますと言うと怒るのである。

前に一回「私は王女です、これじゃ示しがつきません」と言ったら、


「私たちだけでいるときは私の妹。それとも何?王女様扱いしてほしいの?」


と睨まれたので、


「…っ…っ…ごめんなさい!王女扱いしないで!うぇー」


って泣きついたことがある。

しょうがないじゃん!小さかったんだから。

だから、私たちの中ではアンジェリカ姉さんが払うのが当たり前なのだ。


だけど昨日サムエルから来た話だと

ウィリアムくんは女性に絶対にお金を出させないらしい。

そのことで出発前に喧嘩してしまうかも。


「姉さん、快適さでいえばこの王族用馬車ですけど、こんなので街の外に出れば襲ってくださいと言っているようなもんですよね」


「その通りよ。だから馬車はこの運搬用のやつにして、それを引っ張る馬だけを王族用のにすればいいんだわ、そうすれば速度も快適さもかなり違う。受付でそのように注文すればできるはずよ」


「わかりました。じゃ、借りてきます」


「一人で大丈夫?ほとんどの人に嫌な目で見られてるけど。一緒に行こうか?」


「いいえ、大丈夫です。嫌な目で見られても金さえ払えば大抵の場合は大丈夫です」


「そう、じゃ、待ってるわ」


そしてそのまま姉さんはウィリアムくんに支払いに行かせたのである。

不思議に思い姉さんを見つめると、


「なによ?」


「あ、あのいいんですか?」


「だから何がよ!?」


「いつも姉さんが払うって…」


「いいじゃない。私も男の人に一度くらいは奢られてみたいわ」


……最近のお姉さんはおかしい。

普通ならしないことをいろいろしている気がする。

本来、こういう旅はアラベラ、エリザ、サムエルを入れた、

私と姉さんの五人で行くはずだ。

それが知らない人を三人も。

なんで?……って決まってるよね。

ウィリアムくんのせいだ。

私をいろいろ悩ませるのはいいけど、

姉さんまで変えないで!私の姉さんなんだよ!


しばらくすると、荷台を幌でぐるりと囲い、

外からは見えない造りの二頭立ての馬車の御者席に乗って、

ウィリアムくんが戻ってきた。

つないだ二頭は肩も胸も厚く、毛並みはつややかで実に立派だ。


「借りてきました。行きましょう」


全員で馬車に乗り込み、運搬する荷物の受け取り場所へと向かった。

到着すると、クエスト受諾書を示し、荷物を馬車に積めてもらう。


「荷物が積まれている間に、食料を買いに行きますか?」


「そうね、市場に行きましょう」


アンジェリカ姉さんとウィリアムくんが前を歩いて、

ボールウィッグはウィリアムくんの肩、

私たち三人がその後ろをついていく。


「これとかおいしそうじゃないですか?」


「そうかもだけど、もたないって」


「だったら今日食べればいいんですよ。これは今日の分ってことで」


「結局は買うんじゃない!相談してる意味ある?」


「ありますよ。お姉さんの顔を見て、『おいしそう』って見てるのに『買わない』ってお姉さんが言うとそれがお姉さんの好きなものなんだなってわかるので」


「……バカ」


「そういう怒った顔をしないでくださいよ。残りはちゃんと保存がきくものにするんで」


「ふん!怒ってなんかいないわ。ていうかあんた、本当大丈夫?すごい嫌な目で見てくる人の数が半端ないんだけど」


「姉さんがいれば大丈夫です」


「なっ!?もう!バカなこと言っていないで早く行くわよ」


……すごく仲がいい……

買い物している夫婦みたい。

なんかむかつく。

すごくむかつく。

仲良いことは、いいことなんだろうけどなんかむかつく。

やっぱりウィリアムくんはむかつく!


買い物が終わり、荷物の受け取り場所へ戻った。

荷物の積み込みは終わっていたので、そのまま全員で馬車へ乗り込んだ。


「じゃ、オレが手綱取ります」


「ウィリアム、ここからはもう紳士じゃなくパーティの一員として動いて。最初御者を務めるのはいい。けど交代交代でやるよ。いいわね?」


「はい、わかりました」


「素直に了承しちゃったよ。聞いてた話と違うじゃん」


「パーティーリーダーと揉めたほうがよかったですか?つかどんな話を聞いたんですか?」


「ううん、忘れて。でもやっぱりあんた、不思議だわ」


「この三日間でそれが改善されるといいですね。隣に座りますか?たくさんお話しできますよ」


「……やめとく。これ以上は危険だもの…」


「えっ?今なんて?」


「ザラサちゃんが寂しくなっちゃうでしょう!って言ったの!ふん!」


その会話のあと姉さんは荷台に入り、

ウィリアムくんとザラサちゃんが御者台、

私と姉さんとブヤブくんが荷台の中に座り、

移動を開始した。



街の門に向かっている途中に馬車が突然止まった。


「すみません。知り合いが困ってるとこを見ました。助けに行きます」


ウィリアムくんはそう言うと、

ブヤブくんとザラサちゃんに馬車を守るようにとだけ命じて、

姉さんの返事を待たずにすぐに走った。


「私たちも行くわよ、オラベラ」


「はい」


ウィリアムくんが向かった路地裏に私と姉さんは急いだ。

到着したときには既に三人の大きな男が倒れていた。

死んではいないが、気を失っている。


そして、男たちが倒れている場所でウィリアムくんと猫。

ではなく、とてもかわいらしい猫科の獣人さん。

あ、学園で見かけたことのある先輩だ。

確か名前が、


「フェリス、こんなところで何してんのよ?」


アンジェリカ姉さんが猫の先輩に話しかける。

そうだ。名前はフェリスさん。フェリス先輩だ。


「アンジェリカ。こんにちは。今、ロンロンに助けてもらったの。ピュー、ピュー、ピューって肩のかわいい魔獣さんが撃って、やっつけちゃった」


「ロンロン!?」

「ロンロン!?」


「ってそうじゃなくて、こんなところに一人で何してるのと聞いてるの!?危ないでしょ?」


「フェリス、一人じゃ、」


「一人ではない」


水面を撫でるような、艶を帯びた声がした。

その方向を振り向くと、

白銀の甲冑に身を包んだ青年が、こちらに向かって歩く。

肩には白い毛皮のマント、内側は深紅。

淡く紫を含む銀髪が光をはじき、

切子硝子みたいな紫の瞳が一瞥で周囲を射抜く。

甲冑は細工が精緻で、縁には紋と文様。

握られた剣は紫炎をまとい、刃の呼吸に合わせて空気が震えた。

装飾は華やかなのに、歩みは静かで無駄がない。

見惚れる整った顔立ち、

「辞書でイケメンを引けば載っている」と噂されるが、

本人の関心はただ一点、力のみ。

距離を拒む鋭さと、礼法で磨かれた気品。

その二つが同居する気配こそが、この青年の第一印象だ。

名はモードレッド。

ミレニアム学園二年生・ベータクラス。

孤高を好む、紫炎の剣の担い手。

アルトリア王国から条約により送り込まれた円卓末席の騎士。


もう周りに敵がいないと確認したモードレッド卿は剣を鞘に納めた。


「モードレッド、あんた、まさかフェリスを囮にしたの?」


姉さんが、怒った声で問いただした。


「……そうだ」


少し困ったような顔をしてモードレッド卿は答えた。


「あんたね、やっていいことと悪いことはあるでしょ?他のみんなはあんたを誤解してるけど、私はこれでもあんたを少し認めてたのよ。こんなひどいことをするやつだと思ってなかった。失望したわ」


アンジェリカ姉さんにそう言われて、

肩を落としてしまうモードレッド卿。

なんかかわいそう。

理由とかあったんじゃないかな?

どう見ても、喜んでやった顔には見えない。

むしろ姉さんに言われたことをごもっともだと思ってる顔だ。


「違うの!わたしが、フェリスがそうすると言ったの。モーモーをいじめないでよアンジェリカ!」


モーモー!?

呼び方かわいい!

つか、フェリス先輩、超かわいい。

ほっぺたをふくらませながらアンジェリカ姉さんに怒っている。

だけど、かわいすぎて、全然怖くない。

怒ってるのさえ『かわいい〜』ってなる。

アラベラがいたらよだれを垂らしながら迫ってると思う。

私も迫りたいくらいだもん。アラベラは絶対に我慢できない。


「え?どういうこと?」


困惑する姉さんにモードレッド卿とフェリス先輩は説明してくれた。

冒険者ギルドのクエストで、

最近街で多発している誘拐事件について調べてたこと。

スラム区、貧困区と被害が多く、

その次にホワイトシティに出入りする各門周辺の報告が多い。

スラム区、貧困区ではモードレッド卿とフェリス先輩は

見た目がそぐわなさすぎて怪しまれるため、門の周辺を調べていたらしい。

けど、誰がどう見ても強そうなモードレッド卿が近くにいたんじゃ、

何も起きないため、フェリス先輩が周辺を一人で歩くことを提案したのだ。

モードレッド卿は乗り気でなかったらしいが、

フェリス先輩の押しに負けてしまい、了承した。

だけど、フェリス先輩が見える位置にはずっといて、

ウィリアムくんが来たときにはモードレッド卿は飛び出す直前だったようだ。


「だからモーモーは悪くないの!」


「あ、うんうん、わかったわかった。そう怒るなフェリス。ごめんなさいね、モードレッド。私の勘違いだったみたいで」


「いや、そもそもオレが了承したのがいけなかった。罵詈雑言を浴びせられても文句は言えん」


「そこまでは言ってないわよ。とりあえずフェリスが無事でよかった。うちのウィリアムがいきなり馬車を降りて、駆け出したときは既にやばい状況だと思ってたから」


「うちの?ロンロンはアンジェリカのなの?」


「え?ああ、違う違う、『まだ』私のじゃない。誰かさんにハンデあげてるの。そろそろそれも切れそうだけど」


そう言うとお姉さんはちらっと私を見た。

だから違うのに…


「ん?ハンデ?誰かさん?」


「そこは気にしなくていいわ。今ウィリアムとパーティー組んでるの。これから少し遠くへクエストを受けに行くだけ。私のじゃないわ」


「そっか、よかった」


すごい嬉しそうな顔をするフェリス先輩。


「嬉しそうだね」


「うん、だって、ロンロンがアンジェリカのになってしまったら一緒に寝かせてくれないでしょ?ロンロンと寝るの『すっごい気持ちいいんだよ』」


「はぁい!?」


思わず、声が出ちゃった。

で、でも、ど、ど、どういうこと?

寝た!?すごい気持ちいい!?

……一緒に寝たことがある?

そ、それじゃ、ウィリアムくんとフェリス先輩は……


「うぅ…、その人誰?怖いよ…」


そう言ってモードレッド卿の後ろに隠れるフェリス先輩。


「ベラ、多分そういうことじゃないから。って確かに顔が怖いよ。落ち着きなさい」


えっ?私怖い顔してた?


「す、すみません」


「この子はオラベラ・セントロ。アルファの一年生でこの国の王女様よ。ってモードレッドは知っているわよね?」


「ああ、お久しぶりでございます、オラベラ王女殿下」

「はじめまして、王女殿下様」


「お久しぶりです、モードレッド卿。フェリス先輩、はじめまして、よろしくお願いします。それと、『王女殿下』はなしでお願いします。オラベラと呼んでください。敬語もいりませんよ」


「わかった」

「オラベラ、よろしくね」


ちょっとだけモードレッド卿の後ろから顔を出すフェリス先輩。

そんなに怖がらせちゃったかな?


「こっちはウィリアム・ロンカル。オメガの一年生。フェリスとはもう知り合いのようね。モードレッドは?」


「いや、初めてだ」


ウィリアムとモードレッド卿は一歩前に出て、

お互いを見つめ合う。ん?睨み合う?

モードレッド卿は何かを探すようにウィリアムをじろじろと見ている。

ちょっとした気まずい無言の時間が過ぎる。


「お初にお目にかかる。モードレッドと申す。以前、どこかでお会いしたことは?」


「ウィリアム・ロンカルだ。ないはずだが、オレもあんたに初めて会う感じがしないな」


それだけ言葉を交わし、二人は再び無言。

からの、


「よろしく」「よろしく」


戦士の握手という、互いの前腕を掴む挨拶を交わした。


「あら」「えっ?」「おお」


私たち三人は驚いた。

それもそう、戦士の握手はお互いを認め合った戦士同士が交わす挨拶である。

誰とでも気軽にするものではない。


「おお、ロンロンとモーモー仲良し。フェリス嬉しい。今度三人でおねんねしようね」


「三人!?そ、そんな大胆な!」


また、大声を出してしまう私。

でもだっておかしいでしょう?

ええと、ええと、

モードレッド卿とフェリス先輩とウィリアムくん……

そんなはしたないことを!


「うぅ…、オラベラなんで怒るの?フェリスなんか悪いことした?」


「オラベラ、どうかフェリスを睨むのをやめてください。怖がってます」


「す、すみません。睨んだつもりなんて」


でも、おかしいじゃん。

いや、魅力ある女性が何人も伴侶をもつこともある。

フェリス先輩ならどんな男だって欲しがるよ。

こんなにかわいいんだから。

でも、なんでウィリアムくんなの?

ウィリアムくんにはザラサちゃんがいるじゃん!

ンズリがいるじゃん!

わ、わたしが……

えっ!?待って、違う違う。

私は関係ない。

なんでこんなに怒っているの私?


「フェリス」


姉さんが再度フェリス先輩に話しかける。


「なあに?」


「寝てなにするの?」


「ん?寝てギュッとするの」


見本を見せるかのようにモードレッド卿を後ろから抱きつくフェリス先輩。


「エッチなことは?」


「ん?しないよ?」


「しないの!?」


ってなんで私が聞いちゃうの!?

でも、しないんだ。

しないのか…

あれ?どういうこと?


「フェリスは一緒に添い寝したいだけだよ」


添い寝!?

添い寝するだけなのか…、そうなのか…

……なら、いいかな。


「でもロンロンとモーモーがしたいなら…」


「したいなら!?」


思わず声が出ちゃう私。


「うぅ…、かんが、」


「『フェリスは』そういうことをするつもりはないんだよね?一緒に添い寝したいだけなんだよね?」


フェリス先輩の言葉を遮ってアンジェリカ姉さんが言う。


「うん!二人とも添い寝するとすごい気持ちいいんだよ。モーモーも気持ちいいけど、やっぱりいちばんはロンロンかな。史上最高に気持ちいいかも」


「き、気持ちいいんだ…」


ウィリアムくんと添い寝……

そ、そのくらいならしてもいいかな。

……って何考えてんの私!?


私たちのくだらない話の最中に倒れている男たちを縛る、

ロンロンとモーモー、じゃなくて!

ウィリアムくんとモードレッド卿。

この後どうするつもりだったとか、

このクエストをなぜ受けたんだとかを話してた。

初対面だととても思えず、まるで昔からの友人と話している感じだった。

二人は相当相性がいいのかも。


「ロンロンはオラベラの彼氏?」


「えっ?違うよ。違う。全然違う。全くもって違う、うん、違うから」


「そっか、すごく怒ったから。そうかと思った。じゃ、フェリスこれからもロンロンと寝ていい?」


「お、怒ってません……」


なんですっと答えが出ないんだろう?

私にウィリアムくんをどうこうする権利はない。

なのに、「うん」と言いたくない。

ザラサちゃんならいい。

ンズリはダメ。

フェリス先輩は……


「ダ…メ?」


頭を傾げながら聞いてくるフェリス先輩。

その目はうるうるしていて、

断ったら泣いてしまうんじゃないかとさえ思ってしまう。

……添い寝だけ、だよね?


「ダ…メじゃないです…」


姉さんにあきられた顔で見つめられる。


「へへ、よかった。じゃ、オラベラも一緒に寝る?」


「一緒に!?」


一緒に!?

ええと、フェリス先輩と私ってこと?

それとも三人でってこと?

私はそれがあいまいなことがいいことに答えた。


「……う…ん…」


「やった!今度ね、約束だよ」


「拘束終わったぞフェリス」


「ありがとう、モーモー」


「オレらはそろそろ行こう、フェリス」


「ちょっと待ってね、モーモー。アンジェリカ、このあと、クエストに行くんでしょ?フェリスも一緒にいっちゃダメ?ロンロンと一緒にいたいの!」


私が断れるまえに


「ダメです」「ダメだ」


ウィリアムとモードレッド卿が全く同じタイミングで言う。


「うぅ…なんでよ、ロンロン!モーモー!」


「先輩のことを考えると今日はもう休んだほうがいいです」

「フェリスのことを考えると今日はもう休んだほうがいい」


また同じタイミングで言う二人。


「むむ…」


ほっぺたを膨らませ怒りを示そうとするフェリス先輩。

ただ、その表情がかわいすぎて、あまり効果がない。

いや、むしろ二人とも表情がほっこりしてしまって、別の意味での効果はあるようだ。


「…っ…うぅ…」


フェリス先輩が泣きそうになると、彼女を納得させるために姉さんが言った。


「フェリス、まずは自分が受けたクエストを完遂しないとでしょ?このクソどもを衛兵に引き渡して、ギルドに報告しないと」


「…う、うん」


「それにフェリスは二泊三日の準備なんてしてないし、……何よりも、あんた震えているわよ」


「えっ?フェリス、震えてなんて」


フェリス先輩は先ほどまでは大丈夫そうにしていたが、徐々に震え出した。

一度落ち着いたことで、興奮状態が溶けたってところかな?

おそらくすごく怖かったはず。

男たちが倒れていた位置からすると、

フェリス先輩の相当近くまで迫ったはずだ。

モードレッド卿がフェリス先輩に何かがあるのを許したと思えないが、

やはりウィリアムくんがすぐに飛び出してよかった。


「あ、あれ?どうして?」


「フェリス!」


フェリス先輩は膝から崩れて倒れそうになるが、

モードレッドが受け止める。


「あ、ありがとうモーモー」


それでもフェリス先輩の震えは止まらなかった。

ええと、ここまでなるのはおかしい。

怖かったのはわかるけど、

今フェリス先輩は自分で立てない状況だ。

それに震えが徐々にひどくなっている。


「姉さん、明らかにフェリス先輩の様子がおかしいです。こちらのクエストに影響が出ることを承知の上で言いますが、モードレッド卿とフェリス先輩を馬車に乗せてギルド、その後にミレニアム本部まで送りましょう」


ウィリアムくんがすかさず言う。


「ええ、そうね。オラベラもそれでいいわね?」


「はい、もちろんです」


「すまない」

「ご、ごめんね、アンジェリカ、ご、ごめんね、みんな」


ちゃんと話せてない。声も震えている。


「謝るなバカ猫。ほっておけるわけないでしょ?それと、もう落ち着きなさい。もう大丈夫だから」


「う、うん」


だけどそう彼女に言っても震えが収まるどころかひどくなってる。

もう危険が去った。外傷などもない。

倒れている男たちは大きいだけで、特別強そうには見えない。

それに先輩はモードレッド卿がすぐ近くにいるのがわかっていたはず。

なのに、なんでこうも震える?


「フェリス、このままじゃ歩けないだろう。オレが運ぶぞ。いいな?」


「うん、ありがとうモーモー」


モードレッドは軽々とフェリス先輩を持ち上げた。

お姫様抱っこされてもフェリス先輩は震えたままだった。


「モードレッド、オレがフェリス先輩を運ぼう。オレに任せてくれ」


ウィリアムくんが運ぶ?なんで?

誰がフェリス先輩を運んでも変わらないでしょう?

やっぱりフェリス先輩のことが好きなのかな……

ああ!もう!今はダメ!

フェリス先輩の安全が優先!心臓黙ってて!


「ああ、よろしく頼む、ウィリアム」


モードレッド卿がそう言うとフェリスをウィリアムに渡した。

そして驚くことにウィリアムにお姫様抱っこされたフェリス先輩は

徐々に震えがおさまって落ち着いたのだった。

どういうこと?なんでウィリアムくんだとおさまるの?

モードレッド卿とのほうが付き合い長いよね?

なんで入学したばかりのウィリアムくんのほうで落ち着くの?


「ロンロン、ありがとう」


「いいえ、先輩を運ぶのは慣れてますから」


慣れてる!?

前にも運んだことあるってこと!?

むむむ!


「へへ、やっぱロンロンといると落ち着く」


ウィリアムくんに抱きつく先輩。

私は込み上げる怒りをおさえた。

そんなの感じている場合じゃない。

早くフェリス先輩を安全なところに送らなければ。


モードレッド卿は倒れている三人の男を軽々持ち上げ、荷台へと運んだ。

ウィリアムくんもフェリス先輩を荷台に乗せ、御者席に行こうとしたが、

フェリス先輩がまた震えだしたため、ウィリアムくんも荷台に残ることに。

モードレッド卿が御者席に座り、ブヤブくんがその隣に座った。

残る全員は荷台に乗った。運搬する荷物もあるためかなり狭い。

フェリス先輩はウィリアムくんの膝の上に乗った。


「なんで、その猫がボスの膝に座るのです!?ずるいのです!」


と、ザラサちゃんは文句を言ったが、


「フェリス先輩は今具合が悪いの、いい子にしてないと怒るぞ」


「うぅ…、わかったのです」


ウィリアムくんにいい子にしているように強く言われたため沈黙。

私も少しなんか言いたかったが、堪えた。

自分の気持ちよりもフェリス先輩の安全が大事。

できるだけ笑顔を崩さないように頑張った。

ザラサちゃんは誰が見てもわかるくらい、嫌な顔をしていた。

私も気をはっていなければそういう顔になってしまうのだろうか?


馬車の止まってた場所が門の近くだったため、

すぐに門へ寄ってそこの衛兵たちに男三人を預けた。

モードレッド卿が状況説明とクエストの詳細を説明し、

そして、ギルドへと向かう。


「先輩、少し聞いてもいいですか?」


ウィリアムくんがフェリス先輩に言う。


「うん、ロンロンならなんでも聞いていいよ」


「先輩は一年間、冒険者ギルドでクエストを受けてきたんですよね?」


「うん、そうだよ。フェリスそんな強くないからいつもモーモーと一緒だけど」


「どんなクエストを受けてきたんですか?」


「ええとね、魔物の討伐がメインかな」


「そういうときに今のようになったことはありますか?」


「ううん、ない」


「先輩、人を相手にするクエストを前にも受けたことはありますか?」


「あ、ううん、ない。今回初めて…だと思う」


「先輩、嫌なことを聞きますよ。嫌なら答えないでください」


「うん」


「過去に人に襲われた、危害を加えられた経験とかありますか?」


「……」


「嫌なことを聞いてすみません。ただ、先輩の症状がトラウマを持つ人のそれと似てたので」


トラウマを持つ人のそれに似ている?

ウィリアムくんはどうしてそれがわかるの?

アレグリアの反乱軍……

そういう人を見てきたってこと?


「……ごめんねロンロン。答えたくないんじゃなくて。フェリス知らないの。フェリス記憶がないの」


えっ!?

私を含め、全員が驚く。

そしてフェリス先輩は語ってくれた。

ミレニアムナイトに推薦されて学園に入学したこと。

それ以前の記憶を持たないこと。

そして記憶を持たない理由がそのミレニアムナイトに

『記憶を消された』ためであることを。


「待って待って、フェリス、ミレニアムナイトに記憶を消されたってどういうこと?」


アンジェリカ姉さんが聞く。


「『メモリーマニピュレーション』を霊力で応用した霊術を使ったんだって」


霊力?霊術?…ってなに?


「『メモリーマニピュレーション』は短期的な記憶をすり替えるレベル6の魔術だけど、それを魔力じゃなくて霊力で?入学以前のことはなんも覚えてないってことはありえないくらいの量の霊力と繊細なテクニックが必要とされるはずよ。そんなことできる人、世界に数えるほどしかいない。それであっても大きなリスクを伴う。『できるかも知れない』と『実際にやる』のは大きく違う」


お姉さんは普通に霊力を知っている。

聞きたいけど、お話のじゃまをするわけにはいかない。


「うん、それができるすごい人だったの」


「あんたにその霊術をかけたのは誰なのよ?」


「ヘザー・ヒューイット様だよ」


「グランドマスターじゃない!」

「グランドマスター!?」


私と姉さんは驚く。

世界に十人しかいないグランドマスター。

その一人がフェリス先輩を学園に推薦した。

フェリス先輩すごいな。

でも、なぜ記憶を消したの?


「あの、なんで記憶を消されたのでしょうか?」


勇気を出して聞いてみた。


「フェリスもよくわかってないんだけど、なんか記憶があるとフェリスはとても苦しいんだって。だから普通に生きるために記憶を消してくれたんだって」


記憶があると苦しい?

フェリス先輩の過去に何があったの?


「それだったら、可能性はあります。記憶はなくとも、体が覚えているんです。つらい経験というのは体の芯まで刻み込まれますから」


「そう…なのか。ロンロン、フェリスどうすればいい?」


「うーん。難しい質問ですけど。先輩がまずどうしたいのか決めないといけません。過去と向き合うか、今の新しい人生を歩んでいくか。それによって、そのトラウマの立ち向かい方が違いますから」


「そ、そっか…」


「はい。でも、今はそれを考えるときじゃないです。学園へ帰って、温かいミルクを飲んで、いっぱい寝てください。今日は一人で寝てはいけないですよ。モードレッドかガウラ先輩とか頼れる人と寝てください。元気になってからまた考えればいいですよ」


「……ロンロンは?フェリス、ロンロンといるとき一番落ち着く」


「ごめんなさい。今日はできないんです。けどまた今度添い寝しましょうね」


「う…うん……」


お姉さんが何か迷ってる。

大丈夫ですよ、姉さん。

今回は中止にしましょう。

姉さんに目で合図を送る。


「ウィリアム、今回は中止にしましょう。また機会はある。そのときに、」


「いいえ、大丈夫です姉さん。フェリス先輩はそんなに弱くない。というか強いですよ。こんなことに負けないよね『アルフェリス』?」


最後の一文だけは明らかに違うトーンで言った。

トーンというより、雰囲気が完全に変わった。

一瞬『王』のような圧を感じた。


「うん、フェリス、頑張る。ありがとう、ロンロン」


フェリス先輩がそう言うと、この話は終わった。

しばらく無言でいると、フェリス先輩はウィリアムくんの膝の上で寝てしまった。


それにしても、フェリス先輩といい、ザラサちゃんといい、

獣人の人はウィリアムくんのことが大好きになるな。

人、亜人に嫌われるのと対照的なほどに。

ブアちゃんもそうだった。この前なんて、


「オラベラ様、あの方とお知り合いなのでしょうか?」


「うん、そうだよ」


「さすが、オラベラ様です」


「ん?どうして?」


「あの方は偉大な方です。たたずまいがマルクス様のそれと相違がないほどに素晴らしい」


と言っていた。

ちなみにマルクス大将軍を敬愛するブアちゃんが、

彼と比べて相違がないと言った時点で最大級の褒め言葉である。

しかも、ブアちゃんはウィリアムくんと話したことがないらしい。


それに獣人だけじゃない。魔獣にも好かれる。

ボールウィッグは言うまでもなく、

この馬車をひっぱっている馬はすっごくウィリアムくんになついてたし、

それこそ全く関わりのない、アラベラの鼠のレンジーくん、

フライング・キャットのアンジーちゃんは彼が通ると嬉しそうにする。


特にアンジーちゃんは気難しいのに、

この前、ウィリアムに触られても怒らないどころか、

自分から触れられにいっていた。

アラベラもびっくりしてた。

普通なら怒る、下手したら魔術を撃たれていると言っていた。


それにスラビちゃんのジャイアント・オウルのマツゲくん。

ウィリアムくんが通ると敬礼する。


鳥科の獣人であるブアちゃんはマツゲくんと意思疎通ができるため、

なんでそんなことしたのって聞いてみてとお願いして、

その答えを通訳してもらった。


「『あのお方は、偉大なる者でございますゆえ』と仰っています。はい、マツゲ様もよくわかっておられます」


とウィリアムくんに対する意見でブアちゃんとマツゲくんは意気投合していた。


あのときはさすが、ビーストマスターだね。

とみんなで話していたが、

なんかビーストマスターの域を超えている感じがする。

ともかく、獣人、魔獣…『獣』とつくものには大いに好かれるようだ。

私は『獣』じゃないんだけどな……


ギルドに着くとモードレッド卿は報告をした。

人を拉致している現行犯逮捕は今までなかったらしく、

こと細く状況を聞かれ、思ってた以上に時間がかかった。

ギルドを出たときには既に外は暗くなっていた。

ウィリアムくんとフェリス先輩は馬車の中で待たせた。

ウィリアムくんの側を基本的に動かないザラサちゃんも。

フェリス先輩はずっとウィリアムくんの膝の上で寝たままだ。

本当に気持ちよさそうな顔して寝ている。

ウィリアムくんと寝るそんなに気持ちいいのだろうか?


その後、ミレニアム区にあるミレニアム本部へと向かった。


到着するとウィリアムくんは優しくフェリス先輩を起こした。

震えはおさまっていて、自分で歩けるくらいになっていた。

よかった。


「アンジェリカ、オラベラ、ブヤブ、ザラサ。本当に助かった、感謝する。このお礼はまたどこかで」


モードレッド卿に感謝される。


「今日はフェリスを一人にしてはダメよ」

「モードレッド卿、また」

「またな、モーくん」

「さっさとその猫を連れて消えるのです」


アンジェリカ姉さん、私、ブヤブくん、ザラサちゃんもお別れの言葉を言う。

長時間ウィリアムくんを取られたザラサちゃんは怒っていた。


「ウィリアム、オマエと知りあえてよかった。そして、フェリスの面倒を見てくれてありがとう。オレだけじゃこんなに落ち着かせるのは無理だった。恩に着る」


「なあに言ってんだよ、モードレッド。困ったときはお互い様だ。それにオレはフェリス先輩が好きだからな。彼女に何かがあったらオレも嫌なんだよ」


さっきからこの二人はダチのように話している。

ウィリアムくんは敬語ですらない。

まるで同等の相手と話しているような感じだ。

だけど、モードレッド卿はマーシャル先輩を破った正真正銘の怪物と聞く。

ウィリアムくんはお世辞にも強いとは言えない。

なのに、二人が同等であることに私は全くの違和感を感じない。

それが一番の違和感だ。


「みんな本当にありがとう。ロンロンもありがとう。大好き!クエスト頑張ってね♡」


「またね」


フェリス先輩のウィリアムくん大好き発言にまたもや胸が締め付けられる私。

もう!なんでウィリアムくん絡みだとこうなるの!?

さっさと街を出よう。クエストに挑むのなら切り替えないと。


こうして、当初の出発時刻から何時間も遅れて、私たちはホワイトシティを出た。


読了ありがとうございます!

次回――第22話「ダンジョンと初恋」

いよいよダンジョンに突入するオラベラたち!

暗闇、隊列、信頼、湧くアンデッド、揺れる心。

一瞬の判断誤りが死を連れてくる。

そして剣と魔術の響きに紛れて落ちる**『初恋』**。

面白かったら☆・ブクマ・感想、めちゃくちゃ励みになります!

第22話は【11/21(金)】公開予定

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上級生を撃退するシーンやばい(笑) ウィリアムは何者なんだろう?
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