第16話:臨時リーダーと二匹の猫
金曜日、臨時リーダー決定日のホームルーム、各クラスに分かれた小教室にて。
ーアルファクラスー
「では、ホームルームになるが、やることは決まっている。臨時リーダーの決定だ」
セバスチャン・アウグスティンは教壇に立ち説明を始める。
「まず、はっきりさせたいのは『臨時』という言葉に惑わされないことだ。たいていの場合、臨時リーダーに選ばれた者がそのまま本リーダーになる。また、このクラスでは推薦があった際、本人に受諾の意思を必ず確認する。理由は単純だ。やる気のない者にリーダーを押しつけるべきではない。それが私の方針だ」
セバスチャンのこの説明にはアルファの流儀を浸透させるための作法でもあった。
ほかのクラスはほかのクラス。アルファにはアルファの美学がある。
「それでは、リーダーに立候補する方、もしくはどなたかを推薦したい方はいますか?」
セバスチャンがそう言うと彼は立ち上がった。
短く刈った砂金色の髪、切れ長の琥珀の眼。
鋼の肩当てと濃い青の胴鎧に金の縁取り、磨かれた金具がやたらと眩しい。
黒革のタセットと多重ベルト、膝から脛にかけてのプレートは実戦傷が点々。
気配は常に前のめり、言葉よりも先に「上から」の視線が来るタイプ。
元、コロンベラ帝国ケルピー騎士団所属、ウォリアーメイジ、ロポル・マルン。
「出席番号5番、ロポル・マルン。エドワード・ベラフレウ王子をリーダーに推薦します」
エドワードは不敵に笑った。
「エドワード・ベラフレウ、推薦されました。受けますか?」
「受ける」
「他に立候補、もしくは推薦はいますか?」
アラベラとエリザはお互いに目を合わせてからオラベラを見る。
オラベラが動かないのをみると、二人が立ち上がろうとする。
そのとき、
「出席番号6番、オラベラ・セントロ」
オラベラが立ち上がった。
アラベラとエリザはそれを見て、オラベラが立候補するのだと思い、安堵の表情をした。
「エリザ・ダルビッシュをリーダーに推薦します」
「えっ?私?なに言ってるのオラベラ!?」
「ちょっとオラベラ!なんでそうなるの?」
アラベラもエリザも驚きを隠せずにオラベラに聞く。
「えっ?私はエリザが一番リーダーにふさわしいって、…思って」
「違う!あんたよ」「違うオラベラだよ!」
「で、でも。私は…」
「ふはははは。だから女子は困る。自分たちの中でさえも統率が取れていないではないか」
エドワードは蔑みながら笑う。
「静粛に。今は話し合いのときではありません。その時間は今週中に十分にあったはずです。エリザ・ダルビッシュ、推薦されました。受けますか?」
「え?あの…」
エリザもどうすればいいかわからず、今は話し合いのときではないと言われてしまい、オラベラとアラベラと相談ができなくなる。
彼女は考えた。エドワードだけはリーダーにしてはいけない。
臨時リーダーだけ引き受けて、本リーダーをオラベラに託すと。
「受けます」
だが、そう答えたのが間違いだった。
「エドワード・ベラフレウとエリザ・ダルビッシュがリーダー候補にあがりました。他に立候補、もしくは推薦はいますか?」
「はい」
「スラビ・クローゼさん、どうぞ」
「はい、出席番号8番、スラビ・クローゼ。僕はオラベラ・セントロをリーダーに推薦します」
アラベラとエリザはスラビのことを見て、よくやったと合図を送る。
「へへん」とするスラビ。
オラベラは逆に名前が出たのに、顔を下に向いてしまっている。
「オラベラ・セントロ、推薦されました。受けますか?」
「私は…」
教室が静まる。
まるでオラベラの言葉がこの後のクラスの運命を決定づけることがわかっているかのように。
「受けません」
その言葉に、もう話し合いの時間ではないと言われたアラベラとエリザが立ち上がってオラベラに詰め寄った。
「ダメよオラベラ!受けなさい!」
「受けてオラベラ!いいから!」
「えっ?でも」
「静粛に。減点対象とされたいですか?」
「すみません」「ごめんなさい」
二人は静かに席に着く。
「これ以上、無断での発言は減点とします」
セバスチャンの言葉で教室が静まる。
「受けるも受けないも本人の自由です。改めて聞きます。オラベラ・セントロ受けますか?」
アラベラとエリザはオラベラの服の裾をつかみ、引っ張る。
まるで「受けて!」と指示するかのように。
オラベラは困惑した表情をする。
どうすればいいのかがわからないのは誰の目にも見ても明らかだった。
「う、う…、けます」
オラベラは顔を下に向けたまま、席についた。
アラベラとエリザは安堵するが、オラベラは物事がうまく考えられていなかった。
もうリーダーとかの話ではなく、一昨日の夜のエドワードの言葉やしまいにはウィリアムに言ったことまでが頭をさまよい、しっかり思考することができなくなっていた。
だが、この時点でこの後の結末は決まった。
「エドワード・ベラフレウ、エリザ・ダルビッシュ、オラベラ・セントロがリーダー候補にあがりました。他に立候補、もしくは推薦はいますか?」
セバスチャンはしばらく待った。
「いないですね。では投票を始めます。自身が希望するリーダーの名前が呼ばれたら手を挙げてください。一人一回までの投票です。三名のリーダー候補の投票を開始します。出席番号順に名前をお呼びします。出席番号3番、エドワード・ベラフレウをリーダーと希望する者は手を挙げてください」
エドワード、ロポル、テスラ、そして、ブアの手が挙がった。
「次、出席番号4番、エリザ・ダルビッシュをリーダーと希望する者は手を挙げてください」
オラベラ、ウィンスター、氷条の手が挙がった。
「ダメ!」
思わず声が漏れたアラベラは慌てて自分の手で口を塞ぐ。
「次、出席番号6番、オラベラ・セントロをリーダーと希望する者は手を挙げてください」
アラベラ、エリザ、スラビの手が挙がった。
一回の投票で決まった。
エドワード・ベラフレウ 4票
エリザ・ダルビッシュ 3票
オラベラ・セントロを 3票
「五月末までの『臨時リーダー』、エドワード・ベラフレウに決まりました。本日のホームルームは以上となります。エドワード・ベラフレウだけはこの場にお残りください。臨時リーダーの役割とスケジュールを説明いたします。解散」
アラベラとエリザが落胆したが、今はそれどころではなく、
様子のおかしいオラベラが心配だった。
動かないオラベラを二人で立たせ、ほぼ彼女の背中を押しながら教室を出た。
心配そうに見つめるスラビも彼女らの後についていく。
ブアは彼女らと顔を合わせることができず、向かう先が同じなのにわざわざ別の道を行く。
氷条、テスラ、ロポルは何も言わずに教室を出る。
だがウィンスターだけは顔を下に向けたままのオラベラのところに行った。
「オラベラ」
その声は高く、優しかった。
まるで幼い子供が話かけているようだった。
「どうしたの、ウィンスターくん」
彼女が絞り出せる精一杯の言葉だった。
「大丈夫。運はオラベラを見放してないよ。多分一回はこうなる必要があったのさ」
オラベラは彼の言葉を聞いたものの、その意味がわからなかっただけではなく、
その言葉についても考える思考力はなかった。
いいや、考えたくなかった。
「ありがとう」
『嘘』の感謝。
早くどこかに行ってほしいから出た言葉。
「またね、オラベラ」
「うん…、またね」
また『嘘』をついた。
これじゃウィリアムくんの言うとおり、私は『嘘つきさん』だ。
それだけじゃない、彼は何も間違ったことを一度だって言っていないんだ。
私が勝手にそれに怒っただけ。
でも…、それでもいい。
こんな気持ちになるくらいなら、また怒りたい。
また、バカにしてほしい、見下してほしい。
そうすれば私はこのむなしさしかない状態から抜け出せる。
ウィリアムくん……、どこ?
オラベラが何がなんだかわからない状態のなか、たどり着いた答えだった。
エドワードがアルファの臨時リーダーになった。
でも十分に防げたものだった。
一番の敗因はオラベラで間違いない。
ただ、アラベラとエリザにも非があった。
ちゃんと話し合いをせずに自然とオラベラがリーダーになると思い込んでしまっていたこと。
投票してくれるようにきちんと他のメンバーに言わなかったこと。
そもそも、エドワードが4票得たことがわかっていたのだから、オラベラではなく、エリザに二人が投票していればエドワードのリーダーは確実に避けられたのだ。
コミュニケーション不足に加え、絶対の信頼を置くオラベラが大いに乱れたことで自分たちまでもが判断力を落とした。
そして何よりも、自分たちの親友、オラベラの異常に気づいていながらも、ホームルームまでにケアができなかったことが、勝てたはずの戦いに敗北した理由である。
こうしてアルファの臨時リーダー決めが終わった。
ーベータクラスー
雪白の長髪をなびかせる犬科獣人のミレニアムナイト。
珍しい『獣人』のミレニアムナイトである。
頭には柔らかな白い耳、瞳は氷のように澄んだ青。
白銀の甲冑は細身の体を無駄なく包み、肩と襟元には薄雪色のファーが縁どられている。
礼儀正しく、姿勢もまっすぐだ。
神経がその大きくふわふわした尻尾の先まで行き渡っているかのようだ。
彼女からは獣人特有の衝動が一切感じられない。
ただし、嬉しいときに尻尾をふりふりするのは長年特訓してもいまだに止められない。
一年ベータクラスの担任、『バルタ』である。
「皆様こんにちは。本日のホームルームではクラスの臨時リーダーを決めます。私のクラスのホームルームは生徒主導で行います。私がこうやって進行することはほとんどありません。皆様に自主的にどんどん動いて欲しいです。では、さっそく、臨時リーダーになりますという方、もしくはこのクラスメイトをリーダーに推したいという方は手を挙げてください。それと立候補であっても推薦であっても、なぜ立候補したのか?なぜその方を推薦したのか、理由も合わせて述べてください。ではどうぞ」
それは落ち着いた、優しい声だった。
母性を感じる声で、バルタがこのクラスの生徒たちを自分の子と思っていることが言わずとも伝わる話し方だった。
「はい、どうぞ。カサンドラ」
「出席番号3番、カサンドラ・スリバン。リーダーに立候補します。私は病持ちで体を動かす必要のある試験や活動においてはまったく役に立ちません。大いにクラスの足を引っ張ることでしょう。ですが、それを補うだけの他の才能もあります。掲示板やミレニアム・ガゼットをご覧になった方は既にご存知かもしれませんが、僭越ながら、私カサンドラは学年総合評価2位を得ることができました。知識力に関しては学園での最高評価S+++を得ました。先生とも確認したのですが、知識力でこの評価は過去にさかのぼっても私とテドニウス・ハニガン様の二人だけが得た評価になります。そうですよね、バルタ先生?」
「はい、念のために確認しました。その情報に間違いはありません」
カサンドラはこの質問をバルタにすることも作戦の一つであり、
バルタ先生がスムーズに答えられるように、事前に「興味があるので調べていただけませんか?」とお願いしていた。
先生もそう言ってるのだから絶対正しいという裏付けになる。
「確認いただいてありがとうございます先生。そして判断力もSの評価を頂きました。こちらも先生と確認したところ評価が伸びにくい項目でS以上は非常に少ないとも聞いております。こちらも間違いないでしょうか?」
「はい、カサンドラの言うとおりです。判断力評価は採点そのものが難しい項目であるため、大きく伸びることは難しく、S以上の評価を得た生徒は卓越した判断力を持つことを意味します」
「ありがとうございます先生。ちなみにこの学園の全学年を合わせた全体の総合1位は五年生のアルドニス先輩ですが、彼女でさえ判断力の評価はBです」
ここでカサンドラは話を止め、全員を見つめた。
自分の話がどのように受け入れられているのかを一人一人の表情から読み取り、この後の続きを調整する。
「失礼しました。私の自慢話をしているのではありません。ただ、自分の能力を知ってほしかっただけです。リーダーになるといっても私は皆様の上に立つつもりはありません。逆です。私が皆様のしもべとなり、この才能を一人一人のために使いたいと思っている次第でございます。作戦立案、情報収集、妨害行為から一人一人の成長プラン、筆記テストの勉強サポート、トラブルがあった際のケア、それに」
カサンドラはここで一呼吸置く。
「難しい決断が迫られたときの判断を取ることを約束します。……私は確かにクラス対抗の優勝を見据えていますが、それと同じく皆様の成長の手助けをすることもリーダーとしての大事な仕事と考えています。長くなりましたが以上です。どうか皆様の信頼を頂けることを願っております」
自然とクラス内で拍手が起こった。
「素晴らしい演説ありがとうございました、カサンドラ。続けまして、ほかにはいらっしゃいますか?」
バルタの言葉の後に彼は素早く手を挙げた。
「はい、どうぞ。ハキーム・ムトンボ」
アンサーの少年兵。
褐色の肌に切れ長の黒い瞳。
サイドを刈って後ろで束ねた黒髪が一房だけ前に落ち、片耳のシルバーピアスが光る。
黒のコンバットスーツの上から革製ハーネスと多重ベルト、右肩に鈍色のプレートアーマー。
黒マントは静かに流れ、胸元は無駄のない筋肉が線で浮く。
腰にはシミターの黒革鞘、握りに指の跡が刻まれた実戦仕様。
姿勢は常に正面へ、獲物を見据える猛禽の静けさを纏う。
「出席番号7番、ハキーム・ムトンボはアミラ・アデトクンポ王女をリーダーに推薦します」
皆が一度、推薦されたアンサーの少女を見る。
深い褐色の肌に、紅玉のような瞳が凛と映える。
艶のある黒髪はサイドを編み上げ、うなじで長く束ねられ、編み込みの間に赤い飾りが揺れる。
耳元では繊細な赤のイヤリングがきらり。
肩を露わにする漆黒のドレスはレースの刺繍が細密で、胸元からウエストにかけて緩やかな曲線を描く。
肘上までのレースグローブ、背には深紅のショールが波のように流れ、動くたび紅葉の光をまとったように見える。
背筋は真っすぐ、首筋のラインまで所作が整い、静かな気品と視線を集める華やかさが同居している。
アミラはその視線に上品に微笑んだ。
「アミラ・アデトクンポ王女はアデトクンポ王国の第一王女にして、王国一の才女である。若干十五でありながら、世界有数の権力者と良い関係を築き、アデトクンポ王国の更なる繁栄に一役を買った手腕は見事のほかない。民にも愛されており、アデトクンポ王国のどの街を歩こうとも人々は彼女を一目見ようと集まってくる。また、彼女は王位継承順位は6位ですが、その稀な才能と人望もあり、彼女を次期女王に推す者も多くいる」
ハキームはここで一度止まり、カサンドラを睨みつけた。
「そして、知能、判断という、いかにもリーダーに求められそうな言葉が先ほど出ましたが、リーダーに求められる最たる能力の話は出ませんでした。それはなぜか?その点に触れられれば自分がリーダーとして劣っていることが晒されてしまう恐れからである。リーダーにとって、最も必要な能力とはなにか?それは影響力である。カサンドラ・スリバンはB、アミラ王女はAと上回っている。また、アミラ王女は健康そのもの、いつ倒れるかわからないカサンドラとは違い、その部分でもクラスに安定をもたらしてくれるだろう。どうか、ベータクラスの正統なるリーダー、アミラ王女に清き一票を」
ハキームは力強く語った。
彼の熱量とアミラへの信頼が十分に伝わる演説だった。
だが、それに対する拍手はカサンドラの演説に比べれば、差は大きいものであった。
カサンドラはこの演説で多少、攻撃された感覚はあった。
だが、それに対する怒りや心配は全くなかった。
表情を一切変えずに脳内でハキームの言葉を一つ一つ分析する。
そしてすぐに結論は出る。
今、彼が言ったことを論破することはたやすいと。
アミラを確かに次期女王に推す一派はいる。
いるから彼女は学園にいるのだ。
今アデトクンポで行われている次期王の座を巡る争いから逃げてきた。
また、王族を見るために人が集まるのは普通のこと。
けど、彼は「王国のどの街でも」と言った。カサンドラ少なくともアミラが顔を出した瞬間に暗殺対象とされるアデトクンポ王国の街を三つ知っている。なぜ襲われるのかもきちんと説明もできる。
それに影響力の評価については痛くも痒くもない。
AとBの違いなんて些細なもの。
協議試験であそこまでフォーヤオをいじめてなければAはとれたことだろう。
彼女の怒りが間違いなく評価の減少に繋がった。
でもAは通常の人が能力を伸ばせば取れる評価。
Sからが一握りの天才しか踏み出せない領域。
アミラがAだろうと、同学年のアルファのオラベラ・セントロS、アンバー・スチュアートS+を例えに出せば十分に論破可能。
最後に彼はアミラが健康そのものと高々に言ったが、彼女の戦闘評価は自分と同じF。
戦闘となれば動けない役立たずと、動ける役立たずの違いでしかない。
彼女の他の能力、知識はB、判断はDと自分とは天地の差だ。
脳内で一瞬にして反論、論破過程が導き出される。
『勝つ』ことはできる。いいや、この茶番をする前から勝利は得ている。
ここで潰すのは簡単…だが、得られるのは完全にはまとまらないクラス。
カサンドラは長期スパンでクラスにとって何が一番いいのかを考え、それを実行に移す。
そのため、カサンドラは……、何も言わなかった。
「他にはいますか?もし今の候補者について他に言いたいことがある方があればどうぞ」
リルヴィアが手を挙げ、カサンドラの強みと自分がこの一週間ともに過ごした経験を話した。
介護をしているのがこっちのはずなのに、むしろ自分が助けられていると終始感じることと、カサンドラの病気は重いがクラス対抗を勝ち抜くためにヒーラー・メイジである自分がその健康の面倒をみると言い切った。
「ありがとうリルヴィア。他にはいませんか」
エルダスも、エリックも何かを言いたそうだったが、手を挙げることはなかった。
「では、投票を開始します。アミラをリーダーにという人は手を挙げてください」
アミラ、ハキーム、ケレギオン、エルダス、エリックの五人が手を挙げた。
「カサンドラをリーダーにという人は手を挙げてください」
カサンドラ、リルヴィア、アクア、カフール、ノコノコの五人が手を挙げた。
「5対5でした。再度投票を行います。投票前に何か言いたいことがある方はどうぞ」
誰も発言せずに再度投票が行われる。
結果は変わらず5対5。
三度目の投票の前にハキームが再びアミラの素晴らしさを語ったが、新しい内容はなく、同じことを言葉を変えて言っているに過ぎなかった。
三度目の投票。
結果は変わらず5対5。
そこでバルタ先生が動く。
「どちら側も票を変えませんね。それだけ二人への信頼が高い証でしょう。どうでしょうか?リーダー候補が話し合い、リーダーを決めるというのは?」
「ええ。私は構いません」
「ふふ、そうですね。そうしましょうか」
カサンドラは少しだけ心の中でにやっとした。
これこそが狙っていた展開だったのだから。
なぜこういう展開になることをカサンドラが知っているのか?
事前に同じ票になった際の先生の判断を調べてたから。
どうやって?
卒業生を利用して。
でも、どのクラスに配属されるかなんてわからない、どの先生が担任になるかわからない。
故に、担任になる可能性のある先生のクラスだった卒業生にカサンドラはこの一年間でできるだけ会った。
彼女はメジャイ協会理事長の娘であり、
いくつもの論文が協会のみならず世界で認められている賢者。
金はあるのだ。そこらへんの貴族、王族を凌駕する金がある。
金があれば情報というのは入手できる。
この努力の末にカサンドラは他の一年が知らない学園に関する多くの情報を持っている。
機密事項と言われるものも入学前にいくつか入手している。
カサンドラとアミラは教壇の前に向かい合う。
カサンドラは車椅子のためアミラを見上げる感じだ。
こういうときでもリルヴィアはカサンドラの側を離れず彼女の後ろにそびえ立つ。
「アミラ王女、私から始めてよろしいですか?」
「どうぞ」
「私はリーダーでなくても構いません。ただ、ベータクラスを率いるのに最も適した者、皆の能力を最も生かすことのできる者、自分のためではなく、皆のためにと最も思っている者がリーダーになるべきだと考えます」
「それが自分とでも言いたいのかしらカサンドラ?」
「いいえ、そうとも限りません。今私が言った項目は数字や評価にしにくいものなんですよ。なので、私はそれができると思っていますが、実際はどうなのでしょうね?アミラ王女は先ほどの三項目はこなせそうですか?」
アミラはカサンドラと話すときは既に頭をフル回転している。
どの言葉が罠で、何を狙っているのかを常に考えている。
だが、それを考えると同時、答えを遅らせるのは、カサンドラの思考に追いついていないと周りに思われると思っているため、考えがまとまるに回答を自分に強いる。
「アデトクンポ王国の未来を担う者として、私は配下を思い、動き、生かすことを常に考えている。それはもちろんクラス内でも変わらない」
「なるほど、それ故にこなせるということですね」
「そうだ」
「では、こなせなかったら?アミラ王女はどうしますか?」
「どういうことだカサンドラ?」
「先ほどの三項目はできているかどうかは数値化しにくいのですが、できていないのは簡単にわかる方法があるんですよ。例えば、クラス対抗試験を一年のうちに一度の勝利もない、もしくは一年のうちに一回でも最下位になるとかです。あくまでも例ですけどね」
「……」
「考えてください。私がリーダーに選ばれて、そのようなクラス成績だったらアミラ王女はどうしますか?」
「……」
アミラはバカではない。いや、賢い。
だからカサンドラの狙いが何かがわかった。
自分に「リーダー降りるように申請する」と言わせること。
おそらくはその条件を出した上で、カサンドラはリーダーを降りるとでも言うつもりだろう。
一年に三回あるクラス対抗試験を一度優勝、そして一度も最下位にならなければ自分は断定的にクラスのリーダーになれる。
アミラは考えた。このメンバーでそれが可能なのか。
答えは簡単だった。
ベータクラスの生徒の能力なら最下位になることはまずない。
それに学年2位と5位しかも同率二人がいる。
しかも5位の二人は自分に投票をしている。
カサンドラがちゃんとその頭脳を生かせば、
一年に一度優勝することくらい容易い。
だから、カサンドラの狙いを読んでいながらもあえて乗った。
自分の勝利が確実になるように彼女にも一つ条件をつける形で。
「そのような不甲斐ない成績なら、リーダーを降りるように申請するわね」
「その通りですよね。だったらこうしませんか?私はリーダー候補から降ります。そしてアミラ王女が『臨時』と言わずに本リーダーもやってください。このクラス、私たち二人以外にリーダーをやりたそうな者は出ないと思いますし、本リーダーの投票も私とアミラ王女の一騎打ちになるでしょう。そこで私も降りると約束します、その代わり」
「先ほどあなたがあげたような成績なら、リーダーを交代しろってことね」
「ふふ、お話がお早くて助かります」
「いいわ、その代わり私からも一つ条件よ」
「……なんでしょうか?」
「全ての試験で活躍しなさいカサンドラ。それが何であっても。あなたの病を言い訳に使わずにあなたのその才能をフル活用なさい。その上で先ほどの成績ならリーダーを交代します」
「……ふふ、さすがアミラ王女。痛い手を打ってきましたね」
カサンドラはなかなか答えなかった。
あの、なんにでもすぐ答えを出すカサンドラが自分が出した条件にどうすればいいのかを悩んでいる。
私があのカサンドラを悩ませている。
そう思うだけで、アミラは喜びを抑えるので精いっぱいだった。
カサンドラから一本とったと、内面では喜びを爆発させていた。
「……わ…、かりました。自分も条件を出した手前、引くことはできないですね。それでいきましょう」
アミラは勝利を確信した。
これでカサンドラは活躍を余儀なくされた。
100%の力を出すとは思わないが、手を抜くことはできなくなった。
カサンドラの50%は他の生徒の200%にもなる。
そして条件を達成して私は本当にリーダーになったとき、カサンドラもクラス対抗優勝のために100%を出さなければならなくなる。
「では、バルタ先生、リーダー交換条件と皆がその証人になったことの確認をお願いします」
「はい、素晴らしい討論でした。どちらがリーダーであっても素晴らしい結果を残してくれることでしょう。話し合いの記録もしっかり。皆も聞いていたな?」
ベータの生徒は全員返事をした。
「では、改めて四度目の投票を行う。アミラをリーダーにという人は手を挙げてください」
アミラ、ハキーム、ケレギオン、エルダス、エリックの五人がまず手を挙げた。
そしてカサンドラが掌を開いた状態で手を挙げる。
「では、アミラは6票…」
バルタの話の最中にカサンドラは上げていた掌を閉じ、グーを作った。
その瞬間、リルヴィア、アクア、カフール、ノコノコの四人が手を挙げた。
「アミラ10票。満場一致で『臨時リーダー』はアミラに決まりました。皆様大きな拍手を」
大きな拍手が起こった。
「では、これにてホームルームが終わります。臨時リーダーになったアミラだけは残ってください」
ハキームは質問をしたそうに手を挙げた。
「はい、ハキーム」
「私も残ってよろしいでしょうか?」
「ええ、ですが教室の奥で静かにするように」
「ありがとうございます」
「では、他の人は帰るように。また月曜日に会いましょう」
アミラとハキームだけは残り、ほかは帰っていった。
廊下にてエルダスとエリックがリルヴィアに車椅子を押されるカサンドラに質問をした。
「本当にあれでよかったのか?」
「そうだよ。最初からカサンドラがなった方がいろいろとスムーズなんじゃないか」
「ふふふ。スムーズではあるかもしれませんが、それではクラス対抗を優勝できませんからね。アミラ王女もその護衛のハキームも本当の意味でこちらの味方にならなければなりません。これはそのための布石です」
「でもよ、カサンドラの出した条件は結構ゆるいぞ。ベータのメンバーでは、どんな試験内容であろうとも最下位はない。優勝も三回のうちの一回なら十分に可能だろう」
エリックが聞く。
「それならそれでいいんです。それができるということならば彼女にもリーダーの器があるということです。その場合は私がサポートに回りましょう」
「本当のことを言え、カサンドラ。あの条件を出したってことはオマエが俺らが一年で一回も優勝できないと思っているってことなのか?それとも最下位に一度はなるとでも?」
「ふふふ、そんなに睨まないでください、エルダス。あなたの魔力オーラに当てられただけで私は死んじゃうかもしれませんよ」
「す、すまない、そんなつもりは…」
「ふふ、冗談です。どちらも可能性はあると思っています。どちらであってもクラスが成長できる道筋も描いています。ただし、読めない、計算がしにくいところもあるのは事実です。その読めないところが思わぬ活躍をすると案外早く私がリーダーになってしまうかもしれませんね」
「案外早くだと、それはいつだ?」
「ふふふ、早い場合だと六月ですね」
「まさか、カサンドラ。ベータが第一回のクラス対抗試験で最下位になるとでも言いたいのか?」
「だから、あくまでも可能性ですよ。ですが、あのクラスの動きによっては、その可能性は大きく変動するでしょうね」
アミラに投票していた、エルダスとエリックはカサンドラの指示でそうしていた。
アミラと行われた会話も全て自分の思いどおりに進んだ。
悩んでみせたのもアミラに優越感を与え、疑心を完全に消すため。
あの投票は茶番でしかなかった。
つまり、カサンドラは臨時リーダーになろうと思えばなれた。
だが、あえて、そうはしなかった。
アミラとハキームを本当の味方にするための長期作戦に彼女は出た。
アミラに一度、自分の限界をわからせる。
そのためには一度壊れてもらわなければならない。
その後に自分が介抱する。
アミラとハキームを手に入れてからカサンドラが描いた布陣ができあがる。
本当の勝負はその後からだ。
だが、カサンドラは知っていた。
その過程で、必ず味方を一人失うことを。
ーガンマー
「さぁ、さっさとリーダー決めるわよ」
氷灰色の短髪に、氷の刃のような水色の瞳。
白毛の襟巻きを備えた銀の甲冑は隙がなく、膝から脛までのプレートが冷光を弾く。
背には霜紋が走る蒼い槍。彼女の周りに自然と発生する冷気が周囲の空気を締め上げる。
ミレニアムナイトにして、幻獣・白獅子アイスラを相棒に持つことから世界最強のビーストマスターと呼ばれる一年ガンマクラスの担任、『アラスカ・アイスランド』である。
「どうすればいいかわかってるよね?じゃ、さっさと始めて」
アラスカの言葉に二人の王女が同時に手を挙げる。
他のクラスの王族みたいに誰かに推薦を頼んだりしない。
欲しいものは自分の手で掴み取る。
「出席番号3番、イェン・フォーヤオ。リーダーに立候補する」
「出席番号7番、レジーナ・ロナウド。リーダーに立候補しますわ」
ガンマでは先生が「どうぞ」なんて言ってくれない。
話したければ話せ。
相手を捻じぶせた者の勝ちだ。
それが討論であっても、強さであってもだ。
「王女二人揃ってリーダーになりたいってか?ははは。小娘どもが笑わせる。でも他に手を挙げるやつもいねぇみてぇだからさっさと終わらせるぞ。フォーヤオをリーダーに推す者は彼女の近くへ、レジーナを推す者は彼女の近くへ集まれ」
みんなが移動を始める。
フォーヤオの周りには
狼科獣人兄弟の兄『サンソ』(白色毛)、
狼科獣人兄弟の弟『アリオ』(桃色毛)、
兎科獣人の少女『キュウリ』の三人が集まる。
レジーナの周りには
アマゾネスの女戦士二人組、『ルーシー』と『レネ』、
ディスタントヒル魔術学校出身デストロイメイジ、『ロビン・ニステルローイ』、
シンティア大陸出身の少女、『ラグガ・アイスランド』(身長約2メートル、13歳)
そして、英雄を生み出すポレミガイア帝国出身、『ニコラオス』が集った。
「よし、4対6。臨時リーダー、レジーナに決定。今日は終了。レジーナ以外全員帰れ!」
アラスカの言葉に従い全員が帰る中、臨時リーダーに選ばれたレジーナはフォーヤオのところに向かった。
「いい勝負でしたわ。お互い遺恨なく、クラスのために尽くしましょう」
まっすぐな笑顔で右手(義手)をフォーヤオに差し出す。
握手を求める仕草だ。
フォーヤオはその手を握る前に義手に一瞬首を傾げてから力強く握った。
「くっ」
フォーヤオはレジーナの手を取った瞬間に炎のエレメンタルボーンの力を発動させ、義手の温度を急速に上げる。
これが生身の手なら焼きつくされていただろう。
「一週間で三人取った。二か月後はどうなっていると思う?無駄な足掻きをやめて、さっさと私に膝まずきなさい」
「レジーナ、しゃべってないでさっさと来い」
アラスカの呼びかけにフォーヤオはレジーナの手を放した。
レジーナは怒りの眼差しでフォーヤオを見つめるも、堂々と、そして優雅にその横を通り過ぎていった。
彼女の義手はその一瞬で使えなくなるくらいのダメージを受けた。
その義手はロナウド王国の発明家が入手困難な材料で作った、さまざまな機能を持つ魔力をベースに動くとても貴重な義手だった。
ただ、腕へのダメージは皆無で、熱を一定のところに留める、フォーヤオの卓越した能力のコントロールを物語っていた。
ガンマの臨時リーダーはレジーナに決まった。
ただ、フォーヤオにとっては勝負は始まったばかりに過ぎなかった。
ーデルター
「クレイ、全て任せる。さっさと終わらせろ」
長い金髪を後ろで束ね、冷たい蒼眼。
白金の重装甲に金の縁取り、胸元には深紅のサッシュ。
黒のインナーと金装の篭手を装備するこの男はナイトではなく、その上の位である、ミレニアムマスター。
今や世界で最も有名なマスターである。
それは昨年のレッド・サークルとの戦争にて、レッド・デーモンに一騎打ちに負けたため。
ミレニアム騎士団の無敗伝説を終わらせた男、一年デルタクラスの担任、『フェデリコ・ロッチャー』である。
彼は腕を組みながら、淡々とクレイに指示を出し、その後はまるで一切話す気がないかのように別方向を向いた。
「ああ、すぐ終わるさ、ロッチャー」
クレイという男、担任の先生を普通に呼び捨てにする。
クレイが前に立つと全員が彼を見る。
彼が何秒、何分、そこに立っているのかは関係ない。
彼がそこにいる限り、そこに目線を向けなければならない。
彼の言葉は一言一句聞かなければならない。
ほとんどのデルタの生徒が恐怖、もしくはリスペクトの目でクレイを見るのに対して、彼の取り巻き三人、アルフィ、ラトナ、ノクティシアはクレイを尊敬と信頼の眼差しで見る。
まるで世界を救った英雄がそこに立っているかのように。
そしてその偉大なる英雄と仲間であることを自慢にし、堂々と態度に出す。
ゆえに彼らの座る姿勢、態度、言動までもがふてぶてしく、一際大きく映る。
だが、デルタに一人だけその目のどれでもない目でクレイを見る男がいる。
狐科獣人のグリンデル。
希少な生まれのマジックボーンにして、戦闘力評価Aを得た生徒である。
グリンデルはクレイを怒りの眼差しで見つめる。
クレイはそれをものともせずに彼に近づき、そばまで行き、彼の肩に腕をかける。
「グリンデル、わかってんな?てめぇが俺様のことをどう思うかなんてかんけぇねぇ。貴様が俺の命令に従えるかどうかキモなんだよ。俺様は自分の部下にはおいしい思いさせるぜ。てめぇは黙っておいしい蜜を吸ってればいいのさ」
「……」
「じゃ、始めるぞ。昨日話した通りやればいい」
「……」
「よし。よく聞け野郎ども。すぐに終わらせんぞ。この後、女が待ってんだ。もたもたしてらんねんだよ」
「ははは。クレイ、今日は誰なんだい?五年のでかぱいか?それとも四年のケツでかか?」
アルフィがその発言が全く問題ないかのように気さくに言う。
「どっちもに決まってんだろうバカが」
「あははははは。そうだった。女一人じゃクレイは満足できねんだった」
「はははは」「ふふふ」
アルフィとクレイのやりとりに笑うラトナとノクティシア。
他の生徒がこれをどう思っているのかはわからない。
彼らは黙ってこの時間が過ぎるのを待つ。
「じゃ、やんぞ。リーダーに立候補、推薦をしたいやつ、さっさと話せ」
みんなが静まり返る。
クレイの視線はグリンデル一人を見ている。
しばらく経つと、グリンデルは何かを決心したように立った。
「おお、グリンデルか。いいぞ、話せ。聞いてやる」
彼を馬鹿にするようにクレイが言う。
「出席番号3番、グリンデル…」
「出席番号とかクソどうでもいいんだよ。さっさと言うことを言え」
冷酷にクレイが言う。
「ああ、そうだな。俺は、リーダーに……『立候補』する!」
グリンデルがそう言った瞬間に教室は先ほど以上に静まり返る。
嫌な沈黙が教室を支配し、一秒一秒が長く感じる。
どれくらいだったのかわからない。
実際の時間にして一分あったのかどうか。
だが、その場にいたクレイとその取り巻き以外にとってはとてつもなく長く感じたことだろう。
沈黙は四人の笑いによって終わりを迎える。
「ははははは、聞いたかアルフィ」
「ははははは、聞いた聞いた。傑作だなそいつ」
「はははははは、死にてぇらしいな」
「ふふふ、おもしろい方ですね」
笑った後に再度の沈黙。
からのクレイ、
「オマエみたいのは嫌いじゃないぜグリンデル。だが、俺の元で働けないやつはいらねぇ。せいぜいこのクラスが最下位にならないことを祈りな。そうなったときに一番最初に消えんのは『オメェ』だ」
「……」
「アルフィ!」
「はいはい、出席番号1番、アルフィ。クレイをリーダーに推薦します」
「だそうだ。この俺様がリーダーがいいってやつらはさっさと手を挙げろ」
グリンデルとクレイ以外の手が挙がった。
「これにて今日は終わりだ」
クレイがそう言うと全員が帰り始める。
「おい、ンズリ、クレア。てめえらちょっと来い」
なんで呼ばれたんだろうと恐る恐るクレイのとこに行く二人。
「なに!?いきなりなんなわけ?」
「そうだ、こっちだってやることがあるんだ勝手に呼びつけるな」
クレイに逆らえないとわかりながらも、彼と距離をおくため強気に出る二人。
「てめぇらが毎日一緒にいる野郎どもについてだよ」
「はあ?なんのこと?」
「とぼけるな。てめぇに関しては毎日くっついているだけじゃなく、真夜中にも会いに行ってるらしいじゃねぇか?」
「どうして、それを?」
「女子部屋に何人いると思ってんだよクソアホが。あんなあからさまに会えばみんなに知られるに決まってんだろうが」
ンズリは一瞬クレアがちくったのかと思ったが、すぐにその考えを捨てた。
友達を疑いたくない。
そもそも女子部屋にはクレイの取り巻きのラトナとノクティシアがいた。
そっちの方が説明がつく。
「だったら何よ?誰と一緒にいようがうちの勝手でしょう?」
「随分と強気にくんなズリ。どうしてだ?そんなに野郎が『アレ』が上手か?」
「ああ、上手だね!めっちゃ上手!あんたの何十倍もね!」
「ははははは」
と笑った後、クレイは腕を壁に力強くぶつけた。
「だったら試してみるか雌ライオン」
クレイがンズリを睨みつける。
ンズリはネイルが傷つくから絶対に使いたくない獣人の爪を使う覚悟をする。
(絶対にウィリ以外に触れさせない!)
その覚悟が目力となってンズリがクレイを睨み返す。
しばらくの間一歩も引かない時間が続いた。
「はははは。男にご執心だよ、この雌ライオン」
クレイがそう言うとンズリから離れた。
ンズリはここで初めて周りの様子を見る。
クレイの取り巻き三人は戦う体勢を取っており、クレアはクレイを狙うかのようにナイフを構えていた。
「別にテメェが誰に、どこで、いつ足を開こうかはどうだっていいんだよ。ただ、クラス対抗のときは切り替えろ。毎日抱かれてる相手だからってかんけぇねぇ。そのときは敵だ。いいな?」
「……わかってるよ」
「わかりゃいんだよ。……とっとと消えろ」
「言われなくとも」
ンズリとクレアは教室を出ようとすると、
「クレア!」
ンズリとクレアは振り向く。
「てめぇに対しても同じことだからな!」
二人はそれ以上返事せずに教室を出る。
「ああ、もうマジ最悪あいつ!超むかつく!」
「マジ最低!本当ありえない」
「マジ変な意味で疲れたし、気分最悪」
「うん、一緒…」
「…」「…」
もやもやする中で二人が気分転換に考えた答えがまったく同じだった。
「二人のとこに行こう!」「二人のとこに行こう!」
そしてンズリとクレアはウィリアムとサムエルのところに向かったのだった。
ーオメガー
ときは木曜日の夕方、臨時リーダー決めの一日前に巻き戻る。
ーサムエル・アルベインー
オメガでは火曜に続いて水曜、そして今日も話し合いが行われた。
ウィリアムは宣言通り水曜の話し合いには参加しなかった。
みんなが寮のロビーに集まっている中、素通りして男子部屋へ向かう図太さはさすがだ。
ザラサは参加しているというより、
話し合いの行われる場所が彼女のお気に入りの場所、
暖炉前であるためにただ単に『いる』って感じだ。
ちなみにザラサは水曜の授業を途中でいなくなったのに続いて、
今日、木曜日は朝から一度も授業に顔を出さなかった。
どのくらいポイントが減っているんだろう?
そして今、臨時リーダー決めの前の最後の話し合いが行われていた。
「サムエル、今日もウィリアムは参加しないのか?」
イケボで聞いてくるオプティマス。
「今日もって、参加してないの昨日だけだよ」
「今日もだ」
「ははは、うんうん、そうなるね」
「なんとかならないか、サムエル?明日は投票のみで、クラスでちゃんとした話し合いができないと聞いている。ホームルームで話し合いができれば別だったんだが、それができないとわかった今、全員に参加して欲しい」
「うんうん、そうだね。でも俺にどうしろと?」
「なんとかできないかとお願いしている」
「なんとかね〜」
ウィリアムは友達だ。だけど俺の言うことは素直に聞くとは思えない。
本人が言っていたように『兄』の言うことしか聞かないらしいからな。
この前みたいにお願いをするって手もあるが、そのやり過ぎは危険な気がする。
この前のお願いだって軽くするべきではなかったとなんとなく今ならわかる。
しかも話し合いに来るようにってお願いには一度は聞いてくれてるから、
「それの義理はもうとうした」とか言いそうだし。
よって、俺に何かができるとは思えない。
だが、それを説明したところで目の前の『金髪青目イケボくん』が納得すると思えない。
となればすることは一つだ。
「うん、わかった。連れて来れるとは思えないが探してはみるよ」
「助かる」
まるで重要任務を与えたぞ!頼んだぞ!って熱いまなざしで見てくるオプティマス。
俺はただ単にめんどくさいからこの場を離れるだけである。
まぁ、ぶらぶらするついでにウィリアムのことは探してはみるけどな。
この時間だったら…って時間関係なく一番可能性が高いのはンズリのところだろうな。
ウィリアムは獣人が好きみたいだし、付き合っていないと言いながらもンズリのことはとても気に入ってるようだし。
そして、獣人もウィリアムのことが好きというのがよくわかった。
まだ完全に把握したわけじゃないけど、学園の三分の一程度がウィリアムを嫌う。
なんか理由なく、「なにこいつ」「こっちくんな」みたいな反応を取る。
もう一つの三分の一は普通って感じだ、いいほうにも悪いほうにも感情がいかない。
シドディ、クレアとかがこの部類だな。ウィリアムを通常に扱う。
で、ある意味一番の問題が最後の三分の一。
ウィリアムを好きになる、気に入る側だ。
ンズリ、フェリックス、ガウラ先輩にザラサなどの獣人勢。
獣人には間違いなく好意を向けられる。他のクラスの獣人も先輩でも変わらない。
近くを通ってると、恋に落ちた乙女のように見てくる獣人が多い。男女問わずにだ。
だから、獣人は今のところ100%だ。獣人で彼を嫌う人は今のところ一人もいない。
他でいうと、入学初日のオラベラ(後で犬猿の仲にってのがまだ謎)、アルドニス先輩、我鷲丸もウィリアムとはとても仲良く接するからそうだと思う。
それにお姉さんだ。『姉さん』呼びをウィリアムに許したのは意外過ぎだった。
あとはまぁ、……俺だな。
獣人は別枠としておこう、そこに答えがない気がする。別の何かはある気がするけど。
オラベラ、アルドニス先輩、我鷲丸、お姉さん、俺に共通する特徴ってなに?
年齢も違うし、育った場所も違うし、性別も違う。
うーん、…………わからん。
そう思って歩いていると、ウィリアム発見。
庭園の芝生で昼寝している……って誰!?
誰その子?なんでそんなにくっついて寝てるんだ?
ちょ、やばいって。ここデルタ寮近くだぞ。
ンズリが見たら、言い訳のしようがない状況だよこれ!
おしどり夫婦の危機だよ!
なんとかしなければ。
「ウィリアム!ウィリアム!おい!起きろって!」
ウィリアムは半身を起こす。
「ん?なんだサムエルか。今めっちゃ気持ちいい感じに寝てたのに起こすなよな」
「ああ、そんだけの美少女と昼寝すれば気持ちいいことだろうね」
「美少女?」
ウィリアムは何もわかってないかのように横を見る。
「うわあ!誰これ?」
「俺に聞くなよ。庭園真っ只中で抱き合って昼寝してんのはおめぇだぞ」
「俺はここで昼寝すれば気持ちいいんだろうなって思って寝っ転がっただけだ。知れねぇよ、こんな…、こんな…、こんな…」
ウィリアムは少しずつ言葉をなくし、じっと自分にまだ腕を預けて寝ている少女を見た。
「めっちゃ可愛いくねぇ!?」
「知らねぇよ!つかめっちゃ可愛いけど、やばいだろうがよ。見られたどうすんだって?ここデルタ寮近くだぞ!」
「ん?それは別によくね?」
「よくねぇって、ンズリはどうすんだよ?」
「いや、だから付き合ってないし、別に」
「別にって、悲しむぞ」
「俺はもうあいつに俺がどういうやつかを説明した。自分だけのものにしたければどうすればいいのかもな。だから、それをするまでは俺は誰のものでもない」
「オマエってさ、基本的に女子に対してジェントルマンで、ロマンチストなとこあるけどさ、逆にそういうとこ冷めてんな」
「生涯ずっと女に振られ続けてみろ。こんな性格にもなるって」
「どんだけ振られてんだよオマエ?」
「数えんのやめた。あと、別に秘密にしてくれとかはないぜ。ンズリに言いたければ言えばいいし、俺も聞かれたら普通に話すしな」
「……まぁ今はそれはいいや。とりあえずどうすんだよそれ!?」
二人でどうしようかと悩んでいるうちに、それは起きた。
雪のような白髪をゆるくほどいた猫科獣人の少女。
学園の芝生にウィリアムのとなりで横たわり、抱けば折れてしまいそうなほど華奢な体つきが草の上に小さく沈む。
半ば閉じたまぶたの奥で左は金色、右は氷青色のオッドアイがゆっくり瞬く。
息づかいに合わせて長い睫毛がふるえ、白い耳と尾が風に合わせてかすかに揺れる。
胸もとまで外気を含んだ白のフリルブラウスは光を受けて乳白色に透み、指先のワインレッドと小さなチョーカーのきらめきが、ぼんやり寝転ぶだけの彼女に淡い妖艶さを添える。
無自覚に甘い眠気を運ぶ気配。近づく者の鼓動だけが勝手に速くなる。
彼女が半身を起こすと、体の影に隠れていた白猫が顔を出す。
猫の瞳もオッドアイで、左が氷青、右が金。
少女と同じ色を宿しながら、ただ順だけが入れ替わっていた。
「……おはよう、気持ちよかったね」
「おい!しらねぇって言ってたよな!どういうことだよ今の発言は?」
「なんもしてないって。ってオマエは待て、サムエル。おはよう、大丈夫?」
「ん?……大丈夫だよ…ネムネム…」
まだ、すごく眠そうだ。
「ええと、誰?」
「わたし?わたしは『アルフェリス』、『フェリス』って呼んで」
「フェリス……先輩?一年生じゃないですよね?」
「うん、フェリス二年」
「そうですか、その子は?」
「この子はルリス。……何年生なんだろう?」
飼い猫の名前がルリスで、……何年生!?
「フェリス先輩とルリス先輩はここでなにしてたんですか?」
猫のルリスは先輩って呼ばれたのがわかったのか、ちょっと胸をはる仕草をした。
先輩と呼ばれて嬉しそうだ。
「……ルリス先輩。へへ。……ええとね、君が気持ち良さそうに寝てるな〜と思ってたら、わたしも眠くなって横に寝っ転がったよ。すごく気持ちよく寝れた。ねー、また一緒に寝よう」
うん、断れウィリアム。
いくら可愛いくともいきなり一緒に寝ようとか言ってくるやつは超危ないやつか究極のど天然しかいない。
どちらであっても避けるべきだ。
「もちろん。喜んで!」
了承しちゃったよ。
ンズリが聞いたら悲しむだろうな。
いや、逆にぶち切れるのかな?
ウィリアム、ボールウィッグなしだとンズリにボコボコにされんぞ。
「へへ。うん、じゃ、さっそくもう一回」
「先輩!もう遅いですし、ウィリアムと寝るのは今度にしませんか?」
「ウィリアム…、って言うんだ」
「はい、ウィリアム・ロンカルです」
「ウィリアムくん?ロンカルくん?ウィルくん?ロンくん?………ロンロン!」
なぜそうなる!?
「はい、ロンロンです!」
かっこよく言ってもダメだぞウィリアム。
「そっちは誰?」
「俺ですか?サムエル・アルベインです」
「サムエルくん」
俺は普通なんだ…
「二人とも初めまして、よろしく」
アルフェリス先輩は立ち上がって、お辞儀をした。
それに合わせて猫のルリスもお辞儀をする。
アルフェリス先輩はとても小さく、俺とウィリアムより身長が二十センチほど低い。
普通ならただの華奢な幼女なのだが、この醸し出す妖艶な雰囲気はなんなんだ。
俺はロリ趣味じゃないぞ。
「よろしくお願いします」
「ああ、はい。よろしくお願いします」
「先輩、もう遅いですし送りますよ。どの寮ですか?」
「わたしはベータ。でも今日はガウラちゃんのところに泊まるの」
「ガウラ先輩ってことはオメガ寮ですか?」
「うん、そうなの…ネムネム…」
このまま放っておいたらここで寝ちゃいそうだ。
でも、これって都合いいんじゃねぇ?
ウィリアム、絶対ジェントルマンムーブするでしょ、こういうとき。
「フェリス先輩、じゃ一緒に行きましょう。オレらオメガなんです」
ですよねー。わかってました。ンズリには申し訳ないがフェリス先輩がいてラッキーだわ。
「そうなんだ…。うん、じゃ、一緒に行こう…ネムネム」
いきなり寝そうになってウィリアムに寄りかかる。
「先輩ねちゃダメですよ。危ないです」
「ちょっとだけ…胸、貸して?すぐ起きるから…たぶん」
そして、アルフェリス先輩は寝てしまった。
「どうすんの?」
「……ガウラ先輩のところって言ってたし、そこまで運ぼう」
「運ぼうって?」
答えを聞く前に次のウィリアムの行動でわかった。
『お姫様抱っこ』ってやつだ。
ウィリアムはフェリス先輩を抱えると、自然に猫のルリスがウィリアムの肩に乗った。
そして俺たちはオメガ寮に向かった。
って言っても、この何日間ボールウィッグがいなくてウィリアムはラッキーだね。
いたら絶対にボールウィッグがピリピリしてて、こんな流れにはならなかっただろうな。
しばらくすると俺らはオメガ寮に到着した。
「よくぞウィリアムを連れてきてくれたサムエル。早速始めよう」
寮に入るや否や、オプティマスが言う。
「サムエル、てめぇ!はかったな!」
ウィリアムに怒鳴られる。
でも、俺は何もしてない、そもそもオメガ寮に行こうって言ったのウィリアムだし。
「おお、フェリスにゃ!」
ガウラ先輩がフェリスに気づくとウィリアムから彼女を受け取り、
「ありがとうにゃ」って言ったあとに上級生部屋に行った。
「覚えてろよサムエル。俺をはめたこと後で仕返しするっかんな!」
怒りが収まらないウィリアム。
怒り?あれ?なんか違うな。
なんだこの三文芝居の「オマエにやられたぜ」、丸出しの感じは?
つうか、ここにいたくなければ昨日みたいに堂々と部屋に行けばいいだろう?
だけど、ウィリアムは文句言いながらもその場に残り、話し合いに参加した。
話し合いで、明日のリーダー決めでは、ウェイチェンと我鷲丸が立候補し、
アンバーがオプティマスをリーダーに推薦することがわかった。
明日までに誰に投票をするかしっかり考えるようにとのオプティマスの言葉で解散となる。
話し合いではウィリアムはずっと無言だった。
ザラサはまた、頭をウィリアムの太ももに乗せ、ウィリアムはそれを撫でていた。
もうまるで犬と飼い主のようである。
その夜。
「なぁ、ウィリアム」
「なんだ?」
「ザラサはなんとかならないか?オマエなら授業にも明日のリーダー投票にも来れるように説得することができんじゃないのか?」
「うーん。まぁ、やろうと思えばできると思う。けど、オレは『まだ』ザラサのことで動く気はない。なんとかしたかったら自分で動きな、サムエル」
自分でか…、めんどくさいな…
でも、明日くらいは来ないとダメだろうあいつは。
はぁー。めんどくせぇけど朝来なかったら、動くか。
翌朝、
ザラサは今日も授業に来なかった。
今日の午後の最後の授業で臨時リーダーが決まる。
それには顔を出してもらうよ犬っころ。
俺は昼飯時間に5ポイントを使い、大量に肉を買った。
初日にザラサが食べてた肉だ。
5ポイントか…、なかなか痛い出費だ。
俺はその肉をあらかじめ、トラップ部屋(教室)へと仕掛ける。
一応、既に教室にいた兎科の獣人に「見といて」って頼んだら、
「あっ、は、はい。わかりました」とおどおどしながらも答えてくれた。
そしてザラサを探す。
すぐに見つかった。
庭園をバカのように走り回っていたからだ。
蝶を追いかけて、捕まえては、逃すことを繰り返している。
「おーい。ザラサ!」
「ん?なんなのです!?」
「ザラサ、肉食べたい?」
そう聞くとザラサは一瞬にして目の前まで詰め寄る。
改めて思うが本当に速い。
「肉!食べるのです!全部食べるのです!」
くんくん
と匂いを嗅がれる。
「オマエ肉の匂いがするのです!肉どこ隠したのです?全部よこせなのです!」
「うんうん、全部あげるあげる。その代わり、俺のお願いを聞いてくれない?」
「お願い?」
ザラサは首を傾げた。
教室にて、
ザラサは肉いっぱいあげるから今日授業終わるまで俺についてきてって頼んだら、
「わかったのです!」
と即返事をしてくれた。
俺がザラサを引き連れて教室に入ったのを見ると、
「おおー」
とちょっとした歓声が起こった。
ザラサにちょっとずつ肉を出そうと思ったが、一気に半分くらい取られた。
「おいしいのです!」
残り半分は今日のホームルームまで持たせなければ。
ホームルームにて、
なんとか肉を小出しに出すことでホームルームの時間までザラサを居続けさせることができ、十人全員で臨時リーダー投票に挑むことができそうだ。
「おお、集まってるな」
他人事のようにそう言ったのは、ミレニアムグランドマスター、世界最強、剣聖『ロン・ジアンシュ』、俺ら、オメガの担任である。
ちなみに見るのは入学初日の戦闘試験以来。
担任がすべきことはこのクラスではクイーンさんがやっている。
もはやクイーンさんが担任と言っても過言ではない。
「クイーン、お茶。お茶ある?」
まるで飲食店に来たかのようにお茶を頼む世界最強。
「はい、お待ち下さいませ」
あるんかい!?
準備いいなクイーンさん。これが最強の世代か。
って冗談はおいといて、ジアンシュ先生、オーラが全くといっていいほどないな。
この前の戦闘試験を見てなければ、絶対つえーってわかんないよ。
見た目とオーラだけならセバス先生の方が圧倒的だ。
でも…、それが怖いんだよ。
世界最強でありながら一般人と見間違うくらいに強さを隠せる。
うわぁ…、少し震えちゃったよ。
「お待たせしました」
クイーンさんはそう言うとお茶とお菓子をジアンシュ先生に渡す。
「おお、これって最近街で話題の?」
「はい、そうです」
「食べてみたかったんだよな。ありがとうクイーン」
「もったいないお言葉」
ジアンシュ先生はお菓子を口に入れながら話す。
「それで、最近どうだ?マグのやつはちゃんと相手してくれてるかい?」
「ジアンシュ様、教室ですよ」
「あれ?こういう話ってまずいの?むしろ教育として聞くべきなんじゃないかな」
「ふふふ、そうですね。マグワイアー様は忙しい身の上、いつもとはいかないですが、それでも可能な限り相手してくれています」
「そうかそうか。よかったなクイーン。念願だったもんな」
「はい、そうですね」
「おもしろいもんだなクイーン。オメガクラスで唯一クラス対抗に興味を持っていなかった君が夢を叶えてしまうとはね。これじゃクラス対抗の恩賞なんていらないよーってなっちゃわない?」
「ふふ。そんなことないですよ。あの恩賞でしか夢を叶えられない者もいます。いらないってことにはならないですよ」
「もぐもぐ、そうなんだ。んで、今日はなにすんの?」
えっ!?知らないの?
つか、今、校長先生とクイーンさんの関係を巡る爆弾発言をしたよね!?
「今日は『臨時』リーダーを決めます」
「『臨時』かー。じゃ、わざわざ来なくてもよかったかもな」
おい!
「ふふ、では、今日はお帰りになりますか?」
「いや、もう来ちゃったし。一応最後まで残るよ」
「かしこまりました。では始めますね」
「うむ」
あっ、今の「うむ」でちょっとわかった。
こいつ我鷲丸みたいだ。
自分を『王』かなんかだと思ってやがる。
「みんな、今日は全員が集まっただけじゃなく、ジアンシュ様も来てくれました。とても嬉しいことですね。では、さっそくですが『臨時』リーダー決めに移りたいと思います。立候補もしくは推薦。いらっしゃいますか?」
我鷲丸が手を挙げる。
ちなみに昨日のうちにどの順に立候補と推薦をするのかも決まっている。
「はい、我鷲丸」
我鷲丸は勢いよく立ち上がる。
「英雄王、我鷲丸!リーダーに推薦する!」
「ふふふ、我鷲丸、自分がなる場合は立候補ですよ。あと出席番号もお願い」
「うむ。5番」
「はい。ありがとう。次は」
ウェイチェンが手を挙げる。
「どうぞ」
「出席番号8番、イェン・ウェイチェン、立候補します」
「はい、ありがとう。ほかにはいる?」
「出席番号1番、アンバー・スチュアート、オプティマス様を推薦します」
「はーい。スムーズだね。私たちのときとは大違いだよ。では、以上かな?」
うんうん、予定通り。
あとは、投票するだけだね。
みんなは誰に投票するのだろう。
まぁ、誰でもいいけどね。
でも、オプティマスはさすがだな。
彼がまとめてくれたおかげで、めっちゃスムーズにいっている。
クイーンさんも褒めてくれたし。
ちなみにザラサは話を聞いていない。
最後の肉をもぐもぐ食べている。
ある意味助かる。
話がわかってたら「ザラサがリーダーなのです!」とか言い出しそうだし。
「はい、ウィリアム」
クイーンさんが言う。
あれ?ウィリアム?
話し合いになかったことをするとか、本当ちょいちょいワルが出るよなウィリアムって。
まさかの立候補?
「出席番号9、ウィリアム・ロンカル。………サムエル・アルベインを推薦します」
(えっ?)
ここまで読んでくださってありがとうございます!
臨時リーダーが決まり、物語が動き出します。
面白かったと思ってもらえたら、感想や☆で応援してもらえると嬉しいです。
⚔️最初に記載していた次回更新日は間違ってました。すみません。
正しくは【10月16日(木) 09:40】予定。ぜひまた覗きに来てください!




