第14話:最初の話し合いと二人の先輩
ーサムエル・アルベインー
「すみませんでした。昨日、今日と驚くことばかりで、調子に乗って、言ってはならないことを、言ってはならない場で言ってしまいました。お許しを。オラベラ・セントロ王女殿下もどうかお許しを」
意味不明に怒ったオラベラもオラベラもだが、ウィリアムもウィリアムだな。
完全に嫌われる覚悟でオラベラを庇ったよ。
なんか言おうと思ったけど、ウィリアムに目で刺されたし。
「どうでしょう、オラベラ。ここが寛大に彼を許すのも器の見せどころだと思いますが、気が収まらないということでしたら。先ほど言ったように彼を減点対象とします」
「いいえ。私も言いすぎました。この件はこれで終わりにさせてください」
「ということのようだ。今後は気をつけるように。いいですね、ウィリアム・ロンカル」
「はい、気をつけます」
「学生証のほうは問題ないな?では、四人とも戻りなさい」
それにしてもオラベラのあんな反応は久しぶりに…
いや、個人的なことであんな反応したのを見たことがない。
やはり、ウィリアムの嫌われる属性?
ん?それは違う。昨日初めてウィリアムを見たオラベラは彼に大いに好感があった。
あんな顔をするオラベラを初めて見た。そのときはあんまりそれを気に留めなかったけど、
今考えれば、オラベラにしては異常な反応だった。
ウィリアムを気に入るヤツは彼を嫌いになる危険性もあるのか?
…わからんな。もっと検証せねば。
「ウィリ大丈夫?なんでベラと喧嘩したの?本当にそんなことを言ったの?」
心配そうに言うンズリとその隣に明らかにウィリアムの発言に引いているンズリの友達。
たしか、名前は『クレア』
毎日会いそうなやつらの名前は覚えることにした。
「ん?なんかあのお姫様にむかついて、ついカッとなって言っちゃった。ははは」
「……」
じっとウィリアムを見つめるンズリ。
「な、なんだよ」
「『嘘つき!』本当は言ってないんでしょう?」
「えっ?」
おお、その場にいなかったのにすごいなンズリ。
「どうしてわかったの?」
「ウィリがそんなことを言うはずないから。女性の体を褒めるときのタイミングと方法をよくわかってるもん。ああいうとこで言うはずない。そ、それに…」
「それに?」
「うち、む、胸だけならベラに負けてないから。う、うちので我慢できるでしょう?」
自分で言っときながら、赤面のンズリ。そのまま口を開ければファイアブレスを放てそうだ。
そして、クレアは手を頭に当てて「ダメだこりゃ」って仕草をしている。
うん、俺もこれはダメだと思う。完全に出来上がってるだろう。
でも、二人に聞いても付き合ってないと言う。
はぁー。本当なのか、それとも信用されてないだけなのか。
まぁ、どっちでもいい。二人の恋路には興味がないからね。
「ははは、ンズリは本当に可愛いな。でも、それ以上を言うと自分を抑える自信ないからほどほどにしてね」
オラベラがこっちを見てきた。
「きゃ!」
ウィリアムはンズリの肩に腕を伸ばし、自分の体に引き寄せた。
ンズリは完全にウィリアムの胸に寄りかかってる体勢になる。
「いきなりどうしたのウィリ?」
「いいじゃん。ダメ?」
「ううん。いいよ♡」
この動作を行った後にウィリアムはオラベラの方を見て、二人は目が合ったように見えた。
ウィリアムはオラベラを見下す目つきをし、オラベラはさまざまな感情が混ざった顔をした。
「では、以上をもってオリエンテーションを終了する。本日は配布されたものに学生証を使って自分の印をつけ終わったものから帰って良い。配布されたものは全部持ち帰ること。そして、オリエンテーション資料は読んでおくように。学園側も全員がそれを読んでいる前提でいる。なので、資料に書かれていることに対して『知りませんでした』は通用しない。それでは、明日から本格的に授業が始まる。本日はリフレッシュして、早めに休息を取ることをおすすめする。……解散」
よし、寮に戻りますか。
「みんな、少しいいか」
昨日の時点でも思ったが、オプティマスはイケボだ。
人が聞きたくなるような性質をしている。
ウィリアムを除いてオメガの全員は彼の方を見る。
「今の説明からすると、私たちは二ヶ月の間でお互いをできるだけ知らなければならない。お互いを知ることで誰がこのクラスリーダーにふさわしいのかも自然に見えてくるはずだ。だから、定期的にみんなで話し合う場などを設け、お互いを知る機会を作らないか」
「なんて素晴らしいアイデアなのでしょう。私もオプティマス様の意見に賛成ですわ」
アンバーはすぐに返事をし、オプティマスの意見に賛同した。
まぁ、別にそんくらいはいっか。
「いい考えだにゃ!」
フェリックスも賛同し、クラスの全員がそれに続いた。
返事がないのはこっちの話を全く聞かずにンズリとクレアと話しているウィリアムと
そもそもずっと寝ているザラサだけだ。
説明してあげるか。
「ウィリアム、みんなで話し合いとかしていこうって、どう思う?」
俺に返事する前にウィリアムは昨日の夜、睨みつけた相手、この提案の張本人を再度睨みつけた。
二人の間に何があったの?
「話し合い自体は悪くねぇと思うが、それだけで人を知ることはできねぇよ。なんせ嘘をつくことなんて容易いからな。一つの話し合いよりもその人の生活習慣のほうがいろいろ教えてくれると思うよ。そのための一週間と二ヶ月だろう?ただま、サムエルのお願いなら参加してもいいぜ」
お願い?
別にお願いしてるわけじゃないけど、めんどくさいからそれでいいや。
「ああ、うん、じゃあ頼むわ」
「了解、後、ザラサはそもそも参加しないと思うけど、いるだけでもいいならオメガ寮で夜とかならいるんじゃない?暖炉の前が気に入ってたようだったし」
「意見助かる、ウィリアム。では、さっそく本日の夜はどうだ?場所はオメガ寮のロビー」
感謝されたのにまた睨んだ。あからさまだなウィリアム。
全員が承諾し、この場は一度解散となった。
ウィリアムはすっとンズリの荷物を持った。
ンズリの目がまたハートになった。
そういうところはジェントルマンなんだよな。
ンズリもさっきの発言が嘘だってわかるのも納得できる。
「今日は夕飯一緒に食べるよねウィリ?」
「うん。サムエルは?」
「うん、行く」
「クレアも来るよね?」
「え?いいの?私は別に一人で食べても構わないよ」
「来てよ。みんなで食べたほうが楽しい」
少し遠慮していたクレアにウィリアムが言う。
「あ、うん。じゃ、行く。ってウィリアムくん、なにしてんの?」
「クレアの教科書を持ってるんだけど。あとウィリアムでいいよ。くん付けはいらないよ」
「そういうことじゃなくて、なんで私の教科書をウィリアムが持ってるの?」
「だってこれからンズリをデルタ寮に送るし、女子に重いもの持たせるわけにいかないでしょ?」
「自分で持てるから、それにあんた、ンズリの教科書も持ってるじゃん」
「そうだな、じゃ、サムエルがクレアの教科書を持ってよ」
「うん、いいけど」
「だから…」
クレアの教科書を持ったところ、目が一瞬合ったがすぐに逸らされた。
少し彼女の顔が赤くなった気がした。
「あ、ありがとう」
「うん、どうせ道は一緒だから」
「じゃ、とりあえずデルタ寮行こうぜ」
そして俺ら四人は大教室を出たが、なぜかエリザに睨まれたのだった。
あれ?俺またなんかした?
「サムエルくんはどこ出身なの?」
道の途中クレアに話しかけられた。
ウィリアムとンズリは二人の世界に入ってるから正直助かる。
「俺?俺はセントラム王国。てかここ、ホワイトシティ出身。あと、俺も『くん』付けしなくていいよ。普段『くん』付けしないよね?『くん』っていうとき少しリズム崩すし」
「えっ?なんでそんなのわかるの?」
「うんとね、言語について研究してた時期があって、そのときに人の発音や話し方のリズム、特徴、くせ、話すときの呼吸とかずっと意識してて、それが癖になったんだ。だからそういうの自然と気づく。悪気はない。気を悪くしたんならごめんよ」
「ううん。気を悪くしたとかじゃなくて驚いただけ。てかすごいね。いや、まじすごいね。なんか一種の能力だねそれ」
「そう?そんな大層なもんじゃないけど」
「他にどんなことがわかるの?」
「うんとね、例えば、キミとンズリはセントラム王国出身じゃないけど、セントラム語が母国語である。第二言語を話すときに生じるわずかなテンポの狂いがなく、話しているときにストレスが全くない。だが、セントラム王国で育った者特有のなまりがなく、独自にアクセントを持っている。ゆえに、小さいころにセントラム王国に住んでいて、その後セントラム王国外に引っ越したか、親や周りの人がセントラム語を話し、セントラム語を話す機会が多くあったのどちらかだと思う。ウィリアムは逆にめっちゃ流暢にセントラム語を話しているように見えるけど、俺からすれば第二言語を話すときの特徴が出ている、テンポの狂いは俺くらいしか気づかないだろうけど、話すときにストレスを感じる。アクセントも独特のものだ。そしておそらくウィリアムはいろんな言語が話せる。話すときにいろんな言語の文法配列混ざるときがある。それをうまくセンスでごまかしているけどね」
「……」
あっ、まずい。話過ぎて引かれたか?
「合ってる、私に関しては完全に合ってるよ。親とおじいちゃんがセントラム語で、家で毎日話してた。すごい!すごすぎる!それやばいって!どっかの小説の探偵みたいな感じだったよ今!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!それすごい才能だって、サムエル」
「あ、ありがとう、ク…」
「クレア!」
「え?」
「クレアって呼んでよ」
「うん、ありがとうクレア」
「へへ」
う〜ん。なんか昨日から予想していなかった人と友達?みたいになっていくな。
あんまり目立たずに五年間過ごす計画だったのに…
といっても少しくらいは知り合いはいないとダメか。
まぁ、許容範囲を少し広げずつも最低ラインに抑えよう。
「サムエルさ、ここ出身ってことは、街とか詳しい?」
「うん、だいたいは」
「じゃ、週末とか遊びに行こうよ。あっ、も、もちろんみんなでさ」
「うん、いいよ」
「えっ?なになに?なんの話してんの?」
「ンズリ!あのね、週末にみんなで街に行かないかって話してたんだけど、どう?」
「行きたい!ウィリも行こう!ね?お願い!」
「ああ、いいよ」
「よし!決まり!」
そう話しているとデルタ寮に着いた。
ンズリとクレアは教科書だけ置いてから俺らとオメガ寮に行く予定となっていたが、
「ごめん、ウィリ。なんかデルタクラスで話し合いをするみたい。抜けようとしたんだけどそういう空気じゃなかった。夕飯までには終わるみたいだから直接食堂に集合でもいい?」
「うん、大丈夫だよ。また後でな」
そしてンズリとクレアはこの後の予定が急に変更になったことを謝罪し、寮に入って行った。
「あの二人いないけどどうする?」
「予定通り、学園をぶらぶらでいいんじゃない?この場所に早く慣れることには越したことはない」
うん、それは俺もそう思うが、歩き回っていると『ヤツ』に会うかもしれない。
会ったら最後、俺は何もできなくなる。
学園を歩き回るのだって俺には命がけなのだ。
そう思ってると、俺の考えが浅はかだったことに気づく。
オメガ寮に着くと『ヤツ』は既にそこに待ち構えていたのだ。
考えれば当たり前のことだったが、俺はその可能性を完全に見落としていた。
『ヤツ』が自分から来ることもできるのだと、なぜ今まで考えなかった。
……答えは簡単だ。考えたくなかった。つか、めんどくさかった。
まぁ、もう過ぎたことだ。
今日の俺の命運は尽きた。
潔く受け入れよう…
「サムエル!」
そう言って『お姉さん』は俺にハグという名の体当たりをした。
そのまま地面に倒れ、俺の持ち物は全て落ちる。
「はは、こんにちはお姉さん。こ、こんなところに何の用で」
「サムエルに会いに来たに決まってんでしょう?お姉ちゃんと同じクラスになれなくて泣いているんじゃないかと心配してたのよ。大丈夫大丈夫。すぐにポイントいっぱい貯めてアルファに移籍してね。そしたら四六時中一緒にいられるから」
「いや、俺は別にオメガでも…」
「はぁ?なんか言った?」
「いいえ、なんでもないです」
「そう、じゃ行くわよ」
「待って姉さん。荷物片付けないと」
「そこのあんた、サムエルの荷物を彼のベッドの上まで運びなさい。わかった?」
あっ。ウィリアムに命令口調使った。
二日間の付き合いだけど、こういうなめた態度をウィリアムが好きじゃないのはわかる。
お姉さんのことを説明しなければ。
「かしこまりました。仰せのままに」
自分の教科書を地面に置き、右腕を左肩に当てるような礼を行いながらウィリアムは言った。
お姉さんも驚いている。
「わ、わかってるじゃないのあんた。一応名前聞いとくわ!」
「ウィリアム・ロンカルと申します。以後お見知りおきを」
「ふん!気が向いたら覚えておいてやるわ。私はアンジェリカ。じゃ、いくわよサムエル」
そして俺は引きずられながらお姉さんに連行された。
夕食の時間までお姉さんに拘束されたのは言うまでもない。
ーアルドニスー
本日の授業は終わり、生徒会役員である私は本日行われた入学式の後片付けをしていた。
五年生の生徒会役員は私だけで、他の学年生徒会メンバーは授業初日ということもあり、
授業後にもいろいろと忙しく、遅れてくるとのことだった。
それはしょうがない。できる人がやらなくては。
それに彼らの言い分もわかる。
「アルドニス先輩のクラスってクラス対抗ぶっちぎりなので、そういう心配はなくていいですね」
と、いつも言われている。
うん、それは事実である。
私の所属する五年ガンマクラスは今クラス対抗で一位で、このあと一年を通してクラス対抗試験を最下位にでもならない限り、優勝は決まっている。
だから、自然とクラス内での話し合いだったり、クラス単位で何かをやらなくてはならないという時間が減った。
うん、だから私はみんなより時間がある。
時間がある人が時間があまりない人を手伝う。
うん、何も間違っていない。
間違っていないのにちょっと嫌な気分になるのはなぜなのだろう?
前はときどき男の子たちが手伝いに来ていた。
でも「手伝い」に来ているのではなく、「別の目的」があって彼らは来る。
彼らの私を見る目を見ればそれは明らかだった。
話すときも私の趣味とか好きなものや食べ物などを聞いてきて、
わかりすぎるくらいに何を狙っているのかがわかる。
彼らには申し訳ないけど、そういった目的で手伝いに来られても困る。
なので丁寧に断りをする。
もしかしたらっていう期待を絶対にさせてはいけない。
だから断るのだけど、寂しい気持ちになってしまうのはなぜなのだろう?
今年も一年生が入学してきた、彼らの何人かは同じようにそういう目的で私に近づくだろうが、
私はいつものようにお断りしよう。
そういう目でしか見られないのはつらいけど、
大丈夫。最初の数か月が過ぎれば収まる。去年も一昨年もそうだったのだから。
一人だけ、私をそういう目で見ずに純粋に手伝いに来る男の人がいた。
今年卒業したヘンリー先輩。
彼は私をそういう目で見ずに、話の内容も自分のレストランを持つということばかりだった。
彼はとても優しく、素敵な人だった。
私は彼と過ごせる時間がとても好きだった。
卒業したのはおめでたいことだけど、彼に会えなくなったのはとても悲しい。
またヘンリー先輩に会いたい…。
…うん、とても会いたい。
こんなに会いたいのはなぜなのだろう?
誰かが近づいてくる音がする。
呼吸が落ち着いていて、力強い歩き。
この呼吸の仕方はただ者じゃないな。
って、オッドアイのウィリアムくんだ。
昨日の一年戦闘試験で魔獣と一緒にとても活躍した子。
何しに来たんだろう?
迷ったのかな?
「こんにちは、先輩。何してるんですか?」
「こんにちはウィリアムくん。私は生徒会の仕事で大広間の片付けをしています」
「そうなんですか、今、俺暇なんで手伝いますよ」
『手伝いますよ』私はこの二年でこの言葉にとても敏感になった。
たいていこの言葉から男の子のそれが始まるのだ。
私を見る目は?
あれ?意外と普通?
ちょっとは見られてる気はするけど、なんていうかこのくらいなら許容範囲かな。
でも目的はどうだろう?
「なんで、私を手伝いたいのかな?」
ここでたいていは嘘をつく。
その仕草や決まり文句も覚えちゃったほどだ。
だが、ここでウィリアムくんは今までに経験のない行動をとった。
はっきり言ってそれに私はとても驚いてしまった。
彼は……私を見下したのだ。
はっきりとわかるように、隠そうともしていない。
「先輩。人を値踏みするのは勝手ですけど、そこまであからさまだとさすがにむかつきますよ」
「えっ?私は…」
「してなかったとでも?」
いや、見極めようとはしていた。
けど、それは値踏みとかそういうことではなく。
あ、でも似たようなものか。
彼を悪い気分にさせてしまった。
私が悪い。謝罪しないと。
「そんなに言い寄られるんですか先輩?」
「えっ?どうしてそんなことを聞くの?」
「自分のことを狙って、話しかけられたって思ってる人の顔をしてたからですよ。それが嫌であんな態度になったんですよね?」
「う、うん。悪い気分にしてしまったのならごめんなさい。ウィリアムくんの言う通りです」
私がそう言うとウィリアムくんは普通の優しい表情に変わった。
「まぁ、それならしょうがないですね。美しすぎる人の悩みなんて俺にはわからないですけど、そういう悩みを持つ人はいるって知ってます。先輩の性格はともかく、美しさに溺れることはないのでご心配なく。で、これはどこに運べばいいですか?」
そう言って、ウィリアムくんは私を手伝い始めた。
あれ?なんでだろう。見下された後なのに嫌な気分はしない。
今のやりとりだってフレンドリーとはほど遠い。
でも、ウィリアムくんの言ったことはまっすぐだった。
ウィリアムくんが意外にも力持ちで片付けはじゃんじゃん捗った。
片付ける最中もさまざまなことを話したが、ほとんどが学園とそのシステムに関する話だった。
私に趣味や好物については一切聞かず、自分のことも一切話さなかった。
ヘンリー先輩のような包んでくる優しさじゃないけど、なんかツンツンする優しさがあった。
私は彼とのこの時間は嫌じゃなかった。いや、むしろ楽しかった。寂しくなかった。
「これで全部ですか?」
「うん、ありがとう。ウィリアムくんのおかげで思ってたより早く終わったよ」
「それはよかったです。ですが、他の生徒会の人たちは?」
「ああ、クラスの集まりで忙しくて、終わってから来ると言ってたけど、まだ終わってないんじゃないかな」
「先輩もしかして、こうやって一人で準備とか片付けすることって多いんですか?」
「はは、いつもじゃないけど、みんな忙しいからね。そういうときもあるかな」
「ふ〜ん。なんかうざいっすね他の生徒会メンバー」
「そんなことないよ。みんないい人。サボりとかじゃない。本当に忙しいだけ」
「へー。そういう強い目もするんですね先輩」
「え?今、私強い目をしてた?」
「ええ。私の大切な者を悪く言わないでって目をしていました」
「ご、ごめん、気がつかなかった」
「なんで謝るんですか?自分の大切な人を守る。人は最低これをせねば人じゃないですよ。それがしっかりできている先輩はむしろ誇るべきです」
「ウィリアムくんって一年生なのに、ときどきすごい大人びたことを言ったり、行動をするよね?」
「そうですか?」
「そうだよ。見下されたのなんて初めてかも」
「それは先輩が悪いっす。それについては謝罪するつもりはありません」
「ふふ、謝罪が欲しいんじゃなくて、しっかりしてるなって褒めただけ」
「そうっすか?普通っすよ普通」
なぜだかわからないけど、この人とはきちんと話せる気がした。
私の質問に私が欲しい答えじゃなくて、彼の考えを言ってくれると思った。
「ね、ね。変なこと聞いていい?」
「どうぞ」
「私って綺麗かな?」
「なんすかそれ?それがわかってるから最初のやりとりがあったんじゃないんですか?」
「うん、けどね自分ではそう思わないの。だからウィリアムくんが私をどう見ているかを聞きたいの」
少し考えたあと、彼は答えた。
「絶世の美女です。二日間しかこの学園にいませんけど、この学園であなたより美しい人がいないと思います。もしかしたらこの国でも一番かもしれません。ですが、それだけです。あなた以上の美貌を持つ人はいます。それを知らない人からすればあなたは美の化身のように神格化されてしまっているだけ、それ以上を知っている人からすればあなたはただのめっちゃ美しい人にしかすぎません」
それは、今までいただいた答えで一番わかりやすく納得できるものだった。
「ありがとう。それじゃ、美しさ以外の部分で私を見てくれることはあると思う?」
「それはあるでしょう。昨日見ただけで先輩は相当な強さだし、リーダーシップ、統率力もあると十分にわかった。そして、こういう地味な作業を一人でするバカ真面目さがある。そういうところを評価してくれる人はいますよ。というか、いるから生徒会長になったんじゃないんですか?ここでの生徒会長の決め方なんて知りませんけど、美しいからってなれるものであってほしくないですね」
「ふふふ、そうだね。そうかも」
でも、違う。聞きたいのはそんなことじゃない。
「でも先輩は聞きたいのはそういうことじゃないですよね?異性として見てくれる人は美しさだけじゃなく、それ以外の部分を見てくれるかどうかを心配しているんですよね?」
え?なんで?どうしてわかったの?
「男はバカです。自分も含めてバカです。どうしても見た目に釣られてしまうのが普通です。だから先輩みたいな人を見ると『綺麗』=『好き』って勘違いします。まぁ、始めから悪い目的の人はいますが、そういう人はさっきの先輩チェックでも問題ないでしょう。ともかく言いたいのは運命の相手は先輩の外見の美しさだけでなく、中身の美しさも見てくれます。先輩のいいところも悪いところも含めて惚れます。先輩のバカ真面目なところも、男を疑ってしまうところも可愛いと思ってくれます。……必ず、その人に出会えますよ。だから希望は捨てないでください」
ずっと誰かに言ってもらいたかった言葉。
外だけじゃなく、中身も見てくれる人がいると。
そしてその人に出会えると希望を持たせてくれた。
ふふ、すごいなウィリアムくん。
彼女さんは彼が彼氏で幸せなんだろうな。
「ありがとうウィリアムくん。こういう話ができる人がいなくて昨日会ったばかりの君にこんな質問してしまった。変な先輩って思ってることだろうけど、どうか挽回のチャンスを与えてほしい。私にできることがあればいつでも頼ってくれ」
「確かに先輩のことは変だと思っていますけど、それは先ほどの質問が理由じゃないですよ」
「なっ!う、ウィリアムくん、い、一応私は先輩ですからね」
「だって変ですよ。こういう後片付けを一人でやるって、俺だったら寂しくて死んじゃいます。なので今度こういうことがあれば声をかけてください。空いているときは手伝います」
「それはさすがにできないよ。彼女持ちの男子にほいほいと声をかけるわけには」
「ん?俺、彼女いませんけど」
「えっ!?いないのですか?」
思わず前髪を耳にかけ直し、咳払いで間を整える。
「昨日の綺麗な獅子科の獣人の女の子はどうしたんですか?」
「ああ。確かに今いい感じですけど、彼女じゃないですね。今のとこは」
「あれで、彼女じゃないんだ。完全に彼女にしか見えなかったよ。彼女じゃないのにあんなにくついていたら、恋人になったら、あなたはいったいどうするつもりなの?」
「え?一緒にいられる時間は四六時中くっついて、ずっとラブラブしてるんじゃないですか?」
し、四六時中!?
な、なにこの子、ちょっと危ない気がする。
でも、その率直さが嫌いではない自分に気づいて、目を伏せた。
「会長!片付けに来ましたよ。って、あれ?もう終わってる」
生徒会の皆が到着したところでウィリアムくんは帰っていった。
ーサムエル・アルベインー
「ふん、あんたらがサムエルの新しい友達?」
夕食に友達と約束があるって話したらお姉さんもついてきた。
「ええと、サムエルの彼女?」
ンズリがそう聞くと、
「あんた賢いわね。さすがは獅子科の獣人ね。サムエルがお友達に選んだだけはあるわ」
「サムエル彼女いたんだ…」
なぜか悲しそうな顔をするクレア。
「ち、違うって。俺のお姉ちゃん。アンジェリカっていうの」
「別に彼女でもいいじゃない?」
「彼女じゃないんだからダメでしょ」
「ふん、まぁいいわ。とりあえず、ウィリアム!私たちの食事持ってきなさい。私は無料の日替わり定食で、サムエルには黒毛魔牛の焼肉セット大盛りを頼んであげて、はい、これ私の学生証。あんたも2ポイント以下なら好きなものを頼んでいいわ」
「待て待て姉さん。ウィリアムは執事じゃない。俺の友達。それに俺も日替わりでいい。つか黒毛魔牛って家でもたまにしか出ないやつじゃん。そんなポイント持ってるの、お姉さん?」
「私のポイントの数なんて関係ないわ、全部サムエルのために使う」
「いや、使うな!それでお姉さんが退学になったら俺が怒られる。俺がお父さんに怒られてもいいの?」
「そ、それはよくないけど…。でもいいじゃん!お姉ちゃんがサムエルに奢りたいからいいじゃん!ちょっとくらい、いいじゃん!」
「わかった、わかったから。じゃ、俺が学園でなんか活躍できたら奢って」
「うぅ、わかった」
「じゃ、みんなで食事を頼みに行こう」
「は〜い」
昼間ずっと一緒にいたからお姉さんは機嫌がいい。
なんかしでかさない限り大丈夫だろう。
全員日替わり定食を頼んで席に着いた。
「アンジェリカさんは何クラスですか」
「私?アルファだけど」
「すごいですね。一番強いクラスなんですよね?」
「そうとも限らないわ。確かに王族・貴族・有名人などがアルファに集まるってのはある。だから基礎力も高いし、いい意味でも悪い意味でも他者と協力する教育をされた人が多い。その分、クラスがまとまるのは他のクラスより早い。でもある意味それは表だけのうわっつらに過ぎない場合が多い。だから今の五年と四年はクラス対抗で一位じゃないのよ」
「そう…なんですか」
質問したクレアだけじゃなく、ンズリもウィリアムもお姉さんの話に耳を傾けた。
「そうよ。四年生はまだチャンスがあるけど、このままじゃ多分だめね。四年生はベータクラスが頭を一つ出てるわ。特にエリヴィナ先輩の存在が大きい。それと五年生は絶望的、アルドニス先輩が率いるガンマクラスに毎回ボコボコにされてるわ。五年生の優勝はほぼほぼガンマクラスで決まりよ。アルファが圧倒的なのってセレナ、アエル、ミラリス先輩の三人、通称『三女神』がいる三年生だけだわ」
「だけってアンジェリカ姉さんのクラスは?」
ちゃっかりお姉さんを「お姉さん」呼ばわりするンズリ。
お姉さんもまんざらでない感じだ。
さすがだなンズリ。
「一応、今は一位よ」
「すごい!」「すごい!」
クレアとンズリが言う。
「ただ『今』のところよ。はっきり言って一年生時のクラス対抗試験は最初を除いてどれも接戦だったわ。この後どうなるかわからない」
「二年生はどのクラスが強いんですか?」
「どこも強いけど、強いて挙げるならベータ。あそこには去年アルトリア王国から入学した円卓の騎士の一人、モードレッドってやつがいるのよ」
「強いんですか?」
「強いなんてもんじゃない。昨年の武術大会で三連覇がかかっていたマーシャル先輩に圧勝したのよ」
「すごい!」「すごい!」
お姉さんの話を興味津々に聞く女子二人。
お姉さんも自分の話を聞いてもらえて嬉しそうだ。
元々頼られるのが好きだからな、お姉さんは。
「それで、姉さん。昨年はそのモードレッド先輩が優勝したんですか?」
自分を姉さんと呼んだウィリアムに『誰が姉さんよ』って顔をしながらも、訂正させずにお姉さんは答える。
「違うわ。昨年優勝したのはミレニアムナイトになったマウディア・グリフィンよ」
「モードレッド先輩は彼女に負けたんですね」
「それも違うわ。モードレッドはマーシャル先輩を破った後、大会を棄権した。私と同じクラスのもう一人の円卓の騎士、ガレスと口論になった末ね」
「その理由はわかりますか、姉さん?」
少し眉にしわを寄せながらもウィリアムの「姉さん」呼びを流すお姉さん。
「モードレッドはマーシャル先輩と戦ったときに不思議な力を使ったの。その力は別にルール違反でもなんでもないらしいけど、ガレスとモードレッドが口論したのを近くで聞いていた人は、それは彼らの決まりで使ってはならない力だった、ということらしい。ちなみにガレスもその力を使えるわ。アルドニス先輩と戦ってたときに一瞬出た。彼はすぐにそれを引っ込めてアルドニス先輩に負けたわ」
「ということはその力が使える二人がいるアルファとベータが強いんですね」
クレアは確信したように聞く。
「その力は結局使わないんだから、別にそれで強いってわけじゃないわ。でも、その力を使わなくともあの二人は化け物。しかもずっと力を隠した状態で相手にされているから余計にむかつくわ」
「でも、アンジェリカ姉さんも強いですよね?ムカついてるってことはまだ負けてないってことですよね?まだ勝てると思ってるからむかつくんですよね?」
「ははは。やっぱりあんたおもしろいわ。君も。二人とも名前教えて」
「ンズリです」「クレアです」
「ンズリとクレアね。了解了解。うん、そうよ。まだ私は負けてない。正直モードレッドはどうでもいいけど、ガレスには卒業までに一泡吹かせてやりたいわ。むかつくのよあいつ。調子乗ってて」
「ははは、そうなんですか」
「そうなよ。チビのくせに自分はモテますオーラ出しちゃってさ、まーじきしょいの」
「ははは」「ははは」
楽しそうに笑う女子三人。
そういえばエリザ、オラベラ、アラベラ以外と接するお姉さんは初めてみるかも。
ちゃんと先輩やってんだな。
「うん。だからね。この学園に入れるだけですごいの、この学園ですごくない人なんていないわ。クラスがまとまって一人一人の実力が出せるようになればどのクラスだって優勝するチャンスはある。それはもちろんあんた達のクラスもそうよ」
「うちらのデルタやウィリ、サムエルのオメガでもですか?」
「うん。デルタもオメガにも優勝チャンスはある。デルタはね回数は少ないけどちゃんと優勝経験があんのよ。無理じゃない!それとオメガは優勝経験こそないけど、私にはオメガが弱いなんてイメージは全くないわ。それは今年卒業した『最強の世代』が最後の最後まで優勝争いしていたこともあるけど、現に今の二年生のオメガがクラス対抗で三位なのよ。波に乗ると本当に手がつけられない。それにあのクラスはオメガの『最強の世代』と共に過ごし、彼らを見ながら成長した最後のオメガなのよ。『最強の世代』の先輩たちにできなかった優勝を今度こそ自分たちの代でするって燃えに燃えまくってるわ。しかもメインメンバーの一人一人が『最強の世代』の特定の誰かに憧れて特訓したこともあり、こっちは『最強の世代』と戦ってる気分になる。もちろん本人たちは先輩の実力に遠く及ばないけどこれから先はわからない。『最強の世代』を超える可能性だってあると私は思ってるわ」
お姉さんってこんなにいろいろ考えてたんだな。
家ではずっとサムエル、サムエルって追いかけ回されるから全然想像できなかったわ。
あと、お姉さんはこれだけ人を褒めるってことはオメガの先輩ってすごいんだな。
昨日はただのバカ集団としか思わなかったわ。
今度ちゃんと観察しよう。
「ありがとうございます『姉さん』。俺ら一年生は知らないことばかりで、こうやって教えてくれるとすごい助かります」
三度目のウィリアムの「姉さん」呼びに姉さんはぷくぷくと体を震えさせ、
今度こそ「誰が姉さんよ!」と怒るかと思ったら、大きくため息を吐いた後に
「はいはい、もう姉さんでいいわよ。どういたしまして」
認めた!
女子ならともかく男に「姉さん」と呼んでいいと許可した!?
やっぱウィリアムすげぇな。こんなの初めてだ。
って驚いている場合じゃない、そろそろオメガ寮に戻らないと話し合いの時間だ。
「お姉さん、俺らそろそろ行かないと、今日寮でクラス内の話し合いがあるんだ」
「そう…、わかったわ」
立ち上がろうとしたときにお姉さんに止められた。
「サムエル、ウィリアム、よく聞いて。さっきアルファクラスが他のクラスよりも早くまとまる傾向にあるって言ったの覚えてるよね?」
「うん」「覚えてます」
「その真逆を行くのがオメガなのよ。デルタにもその傾向があるけど、オメガほどではない。オメガの数少ない優勝争いをしたクラスは団結して戦った。五年間のうちにクラスの全員が成長していった。私はそのようにセバスチャン先生とボイルス先生に聞いた。それでもね、どんなに強いオメガクラスでも、一年の最初のクラス対抗試験で最下位になってるの。…つまり、オメガクラスは最初のクラス対抗試験で必ずメンバーを一人失うの…」
俺らは食堂を出て寮へ向かって歩いた。
アルファ寮に向かうお姉さんは俺らと別れる前、
「ちゃんとンズリとクレアを送ってあげなさいよ。……それと、さっきの話をきちんと覚えておくこと。もし、本気で、まだ誰もが成し遂げていないオメガでのクラス対抗優勝を目指すなら、歴史そのものを変えてみなさい!六月の最初のクラス対抗試験で絶対に最下位になるな!いいや、優勝する気でいけ!そのために、この二か月間、足掻きなさい。二か月なんてあっという間よ、もたもたしてたら毎年のオメガのようにまとまらずに終わってしまうわ。あんたたちが変えてみせなさい!」
力強く言うと、俺らの返事を待たずして、お姉さんはアルファ寮へ向かって行った。
その後、ンズリとクレアをデルタ寮に送ってから、ウィリアムと二人でオメガ寮へと向かった。
「あのさ、ウィリアム。さっきの話の後であれなんだけどさ」
「ん?なに?」
「俺、クラス対抗試験とかあんま興味ないんだよね」
「ははは。奇遇だな、サムエル。オレもだ」
「おお、よかった。ここでウィリアムが『優勝目指すぜ』熱血モードになったらどうしようかと思ったよ」
「ははは、なんだそんなことを心配してたのか、サムエル。別にクラス対抗なんてどうでもいいよ。オレはオレの大切なものを守れれば、後のことはたいてい、割とどうでもいい」
大切な「もの」ね。
それは「物」?それとも「者」?
そうウィリアムと話しながらオメガ寮に着いた。
ー我鷲丸ー
「どうでしょうか神子さま、気持ちいいですか?」
「うむ、いい感じだ」
やはり、記憶と大きく違うのはファティーラ先輩の俺への接し方だ。
今日だって一年生の話し合いのため、ロビーに降りたら、
「神子様お疲れではないですか?よろしければ私がマッサージ致しましょうか」
って言ってきた次第だ。
前はこんなに俺につくしてくれなかった。
でも、まぁ良い。
今のファティーラ先輩は英雄王の配下として良い働きをしている。
でも、やはり違和感はある。
夢で見たとはいえ、俺にはこの寮のことやここに住んでいる人のことをよくわかっている。
唯一よくわかっていないのはサムエルだ。
なんでだろう…。
思い出せない。
サムエルのことを考えてると、張本人とウィリアムが帰ってきた。
「サムエル、ウィリアムよくぞ来てくれた。これで全員揃った。さっそく始めていいか?」
オプティマスが言う。
「うん、俺はかまわないよ」
サムエルは返事したが、ウィリアムは無言のまま床に座った。
「よく集まってくれた。大教室でも言ったように、私たちは一刻も早くお互いを知る必要がある。自分たちが何が得意か不得意かを把握し、クラス全員で結束し、クラス対抗試験に挑むことが最優先の課題だと思う。なのでここで自分たちが何が得意か、職業もしくは取ろうと思っている専攻があれば聞かせてほしい。そして自分がリーダーに相応しいかどうか自身の考えにそって構わない。意見を言って欲しい。そして、最後は個人の自由に任せるが現時点で受けた評価も共有できればと思っている。だが、これは強制ではないし、現評価の開示も誰が誰より優れていると測るものではなく、今後のクラス対抗に向けた作戦立案に役立てるためだ」
うむ。何度聞いてもいい声をしている。
この英雄王我鷲丸が少し嫉妬するくらいにはいい声だ。
実際に人を率いる人はこういう声であるべきだろう。
全員が…、って違うか。
二人を除いてはしっかりと彼の話を聞いている。
「よって、私から始める。名前はオプティマス。これだけのことを言いながら、自分が何が得意で何が苦手かわかっていない。それは、今自分が記憶喪失であるからだ。三週間より前の記憶が何もない。オプティマスという名も私を助けてくれただけじゃなく、この学園に推薦してくれたセバスチャン・アウグスティン先生につけてもらったものだ。本当の名は不明」
三週間前?俺の夢が始まった時期とほぼ同じくらいだな。偶然か?
「評価はオールF。学年ワースト1位の成績だ。つまり、私がこの学年で最も使えない人ってことになる。申し訳ない。だが、みんなに迷惑をかけないため、そしてなによりも恩人であるセバスチャン・アウグスティン先生に報いるため、私は精一杯の努力をしてこのクラスの重みにならないよう自分を鍛え上げるつもりだ。リーダーに関しては、私は自分がリーダーに適していると思わない。自分が誰かもわからない者がリーダーになるべきではない。私からは以上だ」
夢だと戦闘評価A以上なのにね〜。
一年以内にそんなに上がるのか。すごいね。
後、話聞いてない二人組は気持ちよさそうに寝ちゃってるよ。
ファティーラ先輩のマッサージもあって、こっちまで寝ちゃいそうになる。
ていうかザラサいつの間にかウィリアムの太ももに頭を乗せちゃってるし。
「素晴らしいお言葉です、オプティマス様。あなたの言うとおり私たちは一刻も早く団結しなければなりません。それと、オプティマス様は自分のことを卑下し過ぎです。今の演説、そしてこうやって私たちを集めた手腕はまさにリーダーのそれです」
「ありがとうアンバー。だが、私にはもったいない言葉だ」
うむ。美男美女コンビ。
英雄王もお似合いだと思うぞ。
「勝手に言えばいいのにゃ?なんか順番決めるにゃ?」
「いい質問だフェリックス。そうだな、出席番号順に行こう」
「では、私からですね。改めまして、私は、アンバー・スチュアートと申します。
出席番号1番、評価は、戦闘力:F 知識力:B 判断力:B 影響力:S+となります。
得意なことは人と仲良くなることです。苦手なことは評価の通り戦闘です。
リーダーに関しては、私はリーダーになるよりも、
リーダーを支えることに向いていると思っております」
「ありがとうアンバー。改めて言うが評価の開示は個人の判断で構わない。無理に言う必要はない。では二番の者、お願いできるか?」
「オレ、ブヤブ。リーダーはイヤだ。評価はこれ」
そう言って、ゴブリンのブヤブは自分の学生証を起動させて、みんなに見せた。
出席番号2番 戦闘力:C 知識力:F 判断力:E 影響力:E
学年総合評価ワースト3位
おお、戦闘力C。さすが英雄王と同じクラスである。
「ありがとうブヤブ、ではこういう流れで皆も続けて頼む」
「うち、シドディ!出席番号3番ノームで発明家だよ!武器作るの大好き!みんなも武器作って
欲しかったらじゃんじゃん言ってね!リーダーはごめん、パス。武器作りで忙しいから。
評価は戦闘力:E(B) 知識力:S 判断力:E 影響力:Bだよ。
戦闘力のBは自分の発明品を使えるときね。使えないとマジ弱い、キャハハハ」
うむ、いい笑いだシドディ。
きみに英雄王の武器『エクスカリバー』を作る名誉を与えるとしよう。
「次は俺だにゃ!4番、猫科獣人、ホワイトシティのプリンスことこの俺、フェリックスにゃ。
評価は戦闘力:D 知識力:C 判断力:B 影響力:Cだにゃ。
ホワイトシティは俺の街にゃ、街関係の情報なら任せるにゃ。もちろん代金はいただくがにゃ。
あと、街だけじゃにゃく基本的に情報集めは得意にゃ。時間と代金さえもらえればどんなこと
だって調べてやるにゃ」
ホワイトシティのプリンスと英雄の王…
ふふ。このクラスは最強だ。
ふふふ、ふはははははは。
「5番は誰ですか?」
みんながそれぞれを見つめる。
さっさと名乗らんか5番。
「神子様、神子様」
「うむ。なんだファティーラ」
「神子様ではないでしょうか?」
「ん?あっ、俺だ!5番、英雄王、我鷲丸。英雄を導く英雄の王。
評価は、ええと、なんだっけ。待たれよ。……………」
ピッピッ
「評価はこれだ。戦闘力:A 知識力:F 判断力:E 影響力:E。
風のエレメンタル・ボーンで武術が得意だ!
俺こそがリーダーにふさわしい。なんたって英雄王だからな!」
みんなが俺を尊敬の眼差しで見ている。
ふふふ、決まった。
「キッー」
おっと、忘れるとこだった。
「それと彼は相棒のピピだ。大鷲で、魔術がちょい使えるすげぇやつだ。
あと、空からの偵察も得意だ」
「ありがとう、我鷲丸。ありがとうピピ。二人の能力もよくわかった」
「次は6番だが、既に名乗っている私が6番のため、7番の者お願いします」
「ええと、サムエル・アルベイン。7番、苦手なものはないですが、得意なものもないというちょっとつまらない感じです。強いて言えばミュージシャンの訓練を受けたので楽器はある程度弾けます」
「にゃははは。謙遜にもほどがあるにゃ」
「ふふ、確かにそうですわね。あの有名な音楽家サムエル・アルベイン様がある程度楽器が弾けるというのはいささか謙遜過ぎると言わざるを得ません」
「え?どういうこと?サムエル有名人なの?」
「はい、シドディ様。サムエル様は『音楽の神童』と称えられるお方。かつてサムエル様とアルファクラスのエリザ様の合同演奏会を拝聴いたしました。あの折のお二方が奏でた美しい音色は今もなお忘れられません」
「すげぇじゃんサムエル!」
「サムエル有名人だったんだ。へー」
いつの間にか起きたウィリアム。
自分の太ももに寝てるザラサに全く動揺せずに頭を撫でてあげている。
ザラサは気持ちよさそうに寝ている。
ウィリアムはなんだ?獣を惹きつける才能でもあるのか?
今朝もピピがすごく懐いていた。
「ははは……。いやいや、たいしたことないって。
ええと、評価は戦闘力:D 知識力:C 判断力:E 影響力:Eです
リーダーは他の人がやったほうがいい。うん、きっと俺よりふさわしい人がいるよ。ははは」
「ありがとうサムエル。8番の方お願いします」
「イェン帝国第一王子、イェン・ウェイチェンである。炎のエレメンタルボーンで幼いころから
帝王学を学んでいる。よって人を率いる訓練も教育を受けている。リーダーとしてこのクラスを
率いてオメガ初のクラス対抗優勝を皆と目指したい。
評価は戦闘力:B 知識力:C 判断力:D 影響力:Dである」
「おおー。本物の王族にしてプリンスだ。フェリックスと我鷲丸と違って王族オーラあるね」
「なぬ?」「にゃに?」
「キャハハハ。本当のことを言われて怒ってる怒ってる」
「ありがとうございます。ウェイチェン王子」
「チェンで構わない。これからは同じ寝床で過ごす者同士、堅苦しいのはやめよう。俺も皆のことを同等に扱う」
確かにオーラがあるな。
これが王族オーラか。
英雄王として学ぶべし。
「ありがとうチェン。では、」
「ウィリアム・ロンカル。9番。評価は判断力D,あとはF、学年総合評価ワースト2。
リーダーはやらない。以上」
オプティマスの言葉を遮るようにウィリアムが言った。
やっぱり気のせいなんかじゃなかった。
ウィリアムはオプティマスを敵でも見る目で見る。
今だけじゃない。昨日からだ。
「あれ?ウィリアムのかわいい魔獣は?今日見てないんだけど」
「ああ、自由奔放なやつで、いきなりいなくなることあるんだ」
「えっ?それ大丈夫にゃ?あの魔獣簡単に街一つ破壊できるにゃ。放置してもいいのかにゃ?」
「多分大丈夫。基本的に人を襲ったりしないからな」
「ねね、なんて魔獣なの?魔獣専用装備とか考えたことない?うちならかわいいくてすごいの作れるよ」
「名前はボールウィッグ。装備は今度シドディが直接提案してよ。ボールウィッグがいいと言えば俺はいいぜ」
「やった!約束だよ。どんなのにしようかな。ビームいっぱい出せるやつかな、それともそれを飛べるロケットブーストか」
「ありがとうウィリアム。最後に10番、ザラサ」
「寝てんだから起こすな」
「そうは言ってもだな、これは全員が参加することが大事であって」
「ザラサ、戦闘力S。このクラスの一年で一番強い。以上」
「ウィリアムが説明するのではなく、本人がそれを言うべきである」
「こいつを起こせば、オレはオマエと一戦やるぜ。どうするよ」
オプティマスは表情を一切変えずに自分の剣に手をかけた。
「お待ちください」
「ちょいちょい待ち」
アンバーとシドディが止める。
「オプティマス様、ここで戦っては今こうやってクラスを結束させようとしているオプティマス様の努力が無駄になってしまいます。どうか収めください」
「ウィリアム。つかウィル!ダメだよ。そんなこと言っちゃ。やるなら闘技場!それにザラサを甘やかしすぎなんじゃないの?彼女もここの生徒でしょ?」
「ああ、悪いなシドディ。その通りだ。ってことらしいから闘技場いこうか」
「違うにゃ!どうしてそうなるにゃ?」
みんなが慌てているとザラサが起きた。
「なんなのです!!うるさいのです!!」
ははは。自分のせいでクラスが揉めているのが全くわかっていない。
その豪胆さん気に入ったぞザラサ。
「今ね、自分がもらった評価、得意なこと、クラスリーダーになりたいかをみんな言っているの。ザラサはどう?」
優しくウィリアムがザラサに説明した。
「評価?」
「学生証見てもいい?」
「うん、いいのです」
ザラサは学生証を起動させて、ウィリアムに渡した。
大きな尻尾をふりふりしている。
「これ、みんなに教えてもいい?」
「うん、どうでもいいのです」
「ザラサ。出席番号10番、戦闘評価S、そのほか全部F。学年総合評価ワースト4」
「ザラサは強いのです!」
「うんうん、ザラサは強いね。他に得意なことある?リーダーにはなりたい?」
「獲物を見つけるのが得意なのです。一番強いザラサが群れのリーダーなのです」
「よくできました」と言うかのようにウィリアムはザラサの頭を撫でた。
ザラサは嬉しそうに大きな尻尾をさらにふりふりさせる。
「だそうだ。これでいいか?」
オプティマスは剣から手を離した。
「ご協力に感謝する。続けて」
「続けない」
「どういうことだ、ウィリアム」
「オマエがそうやって中心となって進行しているうちはオレはもう話し合いに参加しない。続けたいなら残りだけでやれ」
ウィリアムはそう言うと立ち上がって寮の外に向かった。
「ウィルまって」
「ウィルまつにゃ!」
「サムエル様、どうにかできませんか?」
「ウィリアムもう行くのか、最後まで…」
「そもそもサムエルのお願いだから俺は来たんだ。その義理は通した。もうそいつの話を聞くに耐えない」
「そっかぁ。まぁ、あんま遅くならないように戻って来いよ」
「ああ」
「散歩なのです?ザラサも行くのです!」
そして、ウィリアムとザラサは寮を出て行った。
うんうん、この感じは覚えている。
前回もこんな感じだったはずだ。
「行ってしまいましたね、どうしましょうオプティマス様」
「いない者はどうしようもない。我らで続けよう」
「にゃはは、最初からつまずいたにゃ。これがオメガってことかにゃ?」
「ワースト1、2、3、4。ワーストがこんなにいるうちのクラスってもしかして弱い?」
「案ずるな。ここにトップ5の英雄王がいる」
「おお、かっちゃん学年総合評価5位なんだ!っておかしくない?ちょっと見せて」
かっちゃん!うん、そうだ、確かシドディをはじめ、何人かにはそう呼ばれていた気がする。
「うむ」
「かっちゃん、これトップ5じゃなくてワースト5」
「ふっ」
「キャハハハ。やばいっしょこれ。うちらめっちゃ弱っ!」
「あの…」
「にゃに?」
「俺もワースト5…です」
サムエルが手を挙げて言う。
「えええーーー」
「にゃんですって!」
うんうん、これも記憶通りだな。
このようにして、
クラス総合評価が史上最低のオメガクラスの最初の話し合いが行われた。
話し合いの前にあったわずかなクラス対抗優勝という望みは消えた。
ほとんどのメンバーが落胆するなか、学園生活がスタートする。




