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第7章:偽りの仮面と本当の笑顔

 それから凪とひかりは、奇妙な偶然に導かれるように、何度か会うことになった。


 最初は商業施設での偶然の再会だったが、ひかりの方から「また会えて嬉しいです!」と無邪気に話しかけてきて、気がつくと一緒にカフェでお茶を飲んでいた。次の週末も、公園を歩いていると「あ、平良さん!」と声をかけられ、またベンチに座って他愛のない会話を交わした。


 凪にとって、それは人生で初めての経験だった。誰かと時間を共有することが、こんなにも安らかな気持ちになれるものだとは思わなかった。


「平良さんって、お仕事何されてるんですか?」


 三度目に会った時、駅前のカフェでひかりが尋ねた。


「区役所の職員です。事務の仕事を」


「すごいですね!きっと市民の皆さんのお役に立ってるんですね」


 ひかりの目は純粋に尊敬の色を浮かべていた。凪は苦笑いを浮かべる。


「まあ、書類を処理してるだけですけどね」


「それでも大切なお仕事ですよ!私の将来の夢は、ヒーローみたいに人を守れる人になることなんです」


 ひかりの表情が一層輝いた。コーヒーカップを両手で包み込みながら、幼い頃の思い出を語り始める。


「小さい頃、怪獣が出た時に、落ちてきた看板の下敷きになりそうになったことがあるんです。その時、ガーディアン・フェザーが私を助けてくれました」


 凪はコーヒーを飲んでいた手を止めた。


「あの時のことは、今でもはっきり覚えてます。強くて、優しくて、絶対に諦めない目をしてました。だから私も、誰かを守れる人になりたいんです」


 ひかりの瞳は希望の光で満ちていた。その純粋さが、凪の胸を締め付ける。


「ヒーローも大変だと思いますよ。たまには休みたいんじゃないですか?」


 思わず、本音とも取れるような皮肉が口から漏れた。ひかりは少しむくれた表情を見せる。


「ヒーローはそんなこと言いません!困ってる人がいる限り、きっと戦い続けてくれます」


「そうですね…すみません」


 凪は慌てて謝った。しかし、ひかりの表情はすぐに心配そうなものに変わった。


「平良さん、なんだか疲れてるみたいですね。お仕事、大変ですか?」


 その優しい言葉に、凪の心はさらに重くなった。もし彼女が自分の正体を知ったら、こんな風に心配してくれるだろうか。


「いえ、大丈夫です。ちょっと仕事が立て込んでるだけで」


「あまり無理しないでくださいね。平良さんは優しい人だから、きっと一人で抱え込んじゃうタイプでしょう?」


 ひかりの言葉が、凪の心の奥深くに響いた。優しい人。自分がそんな風に見えるとは思わなかった。しかし同時に、その評価がどれほど的外れかも分かっていた。


 自分は今夜も、彼女が憧れるヒーローと戦う「悪役」を演じなければならない。その事実が、コーヒーの味を砂のように感じさせた。


「ところで、最近また変な怪獣のニュースを見ました」


 ひかりが話題を変えた。


「今度は電波塔の上で、なぜか掃除をしてたって話です。本当に変わった怪獣ですよね」


 凪は危うくコーヒーを吹き出すところだった。それは先週の自分の「業務」だった。AIから「電波塔の上で威圧的なポーズを取れ」と命じられ、仕方なく実行したのだが、あまりに退屈で塔の汚れを落としていたのだ。


「そうですね…変わってますね」


「でも、なんだか憎めないんですよ。悪いことしてるのに、どこかコミカルで」


 ひかりが笑う。その笑顔が、凪にとってはどれほど救いになることか。しかし同時に、その笑顔を裏切っているのも自分なのだ。


「平良さんはどう思います?あの怪獣」


「さあ…案外、悪い奴じゃないのかもしれませんね」


 凪の言葉に、ひかりは目を丸くした。


「平良さんって、優しいんですね。怪獣のことまで心配しちゃうんですから」


 優しい。またその言葉だった。凪は自嘲的な笑みを浮かべる。


 カフェの窓から見える空には、ヘリオス社のタワーが聳えていた。そこでは今も、ガーディアン・フェザーが訓練に励んでいることだろう。そして今夜もまた、凪は彼の「敵」として戦わなければならない。


 ひかりのような純粋な人たちを欺き続けながら。


「平良さん、今度の休みも時間あります?新しくできたカフェに行ってみませんか?」


 ひかりの提案に、凪は一瞬迷った。彼女と過ごす時間は確かに安らかだった。しかし、それは同時に自分の罪悪感を深めることでもある。


「はい、時間があれば」


 結局、凪は曖昧な返事をした。断ることができなかった。ひかりの笑顔を見ていると、せめてもう少しだけ、この偽りの平和な時間を続けていたいと思ってしまう。


「やった!楽しみです!」


 ひかりが手を叩いて喜ぶ。その屈託のない笑顔を見ながら、凪は心の中で呟いた。


(俺は、この子に何をしているんだろう)


 夕暮れの光が二人のテーブルを照らしていた。その光の中で、凪の影だけが、どこまでも深く、暗く見えた。


この作品は一部にAIによる文章生成を含みます

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