第4章:破壊活動(という名の塗装作業)①
凪は能力リストの中から「特殊粘液分泌」を選択した。
モニターに設定画面が現れる。粘液の色、粘度、分泌量、射出角度まで細かく調整できるようになっていた。
「何だこの異様に細かい設定は…」
凪は色の項目を「黄土色」に設定した。粘度は「中程度」、分泌量は「少量継続」。まるでペンキを塗るかのような設定だ。
『残り時間二十五分です』
「分かった、分かった」
凪はブランコに向かって歩いた。鉄製のブランコの支柱は、確かに年月が経てば錆びて茶色くなる。上空から見れば、錆と黄土色の粘液の区別はつかないはずだ。
彼は慎重に、ブランコの支柱に向かって粘液を噴射し始めた。
「うわ、本当に出た…」
怪獣の口から、ペンキのような黄土色の液体が少しずつ分泌される。凪はまるで職人のように、丁寧にブランコ全体を茶色く塗装していく。派手な破壊ではなく、静かで地味な作業だった。
「これなら実害はない。上空からは破壊されたように見える。完璧な偽装工作だ」
凪は自分のアイデアに満足しながら、次は滑り台に向かった。滑り台の表面も同様に黄土色で塗装し、古びて錆びたような外観に変えていく。
作業に没頭していると、公園の入り口から足音が聞こえてきた。
「え?こんな時間に誰が…」
振り返ると、中学生くらいの少女が息を切らして走ってくるのが見えた。ショートボブの髪型で、心配そうな表情を浮かべている。
少女は公園の中央で立ち止まり、目の前の光景を見て完全に動きを止めた。
巨大な怪獣が、ブランコを茶色く塗装している。滑り台も同様に、丁寧に色を塗り直している。破壊でも暴れ回るでもなく、まるで公園のメンテナンス作業をしているようにしか見えない。
「え…?」
少女の口から、小さな声が漏れた。彼女の頭の中では、あらゆる常識が音を立てて崩れ去っていく。
怪獣は人々を恐怖に陥れ、街を破壊し、ヒーローと戦うものだ。しかし、目の前の怪獣は黙々と遊具の塗装作業に励んでいる。これは一体何なのか?
凪も少女の存在に気づいていた。しかし、説明するのも面倒だし、そもそも説明のしようがない。彼は作業を続行することにした。
(見られてしまったが、まあいい。どうせ誰も信じないだろう)
砂場の周りの柵も、同様に黄土色で塗装していく。凪の動きは慣れたもので、まるで本職のペンキ屋のような手際の良さだった。
『残り時間十五分です』
AIの声に、凪は内心で舌打ちした。しかし、計画通りに進んでいる。これなら予定時間内に「破壊活動」を完了できそうだ。
その時、夜空の向こうから風を切る音が聞こえてきた。
空を見上げると、白いマントを翻した人影が、こちらに向かって飛来してくるのが見える。新京シティの夜空に映える、ヒーローの姿だった。
「ガーディアン・フェザー!」
少女が歓喜の声を上げた。彼女の瞳が、希望の光で輝いている。
凪は心の底から思った。
「一番面倒なのが来た…」
ヒーローが到着すれば、当然戦闘になる。しかし、凪には戦う理由も意志もない。ましてや、純粋にヒーローに憧れているらしい少女の前で、茶番劇を演じるのは気が重すぎた。
『レイジー・モンスター、ヒーローとの戦闘準備をしてください』
「絶対に嫌だ」
凪は即座に決断した。戦闘という最も面倒な事態を避けるため、撤退する。
ガーディアン・フェザーが公園に着陸する直前、凪の体が再び光に包まれた。空間転送による強制撤退だった。
最後に見えたのは、少女の唖然とした表情と、困惑するヒーローの姿だった。
そして凪は、謎のメンテナンス作業を終えた公園を後にしたのだった。
この作品は一部にAIによる文章生成を含みます