第3章:ブサかわ怪獣、公園に立つ
翌日の夜。凪は自分のアパートで、恐怖と諦めの入り交じった気持ちで時計を見つめていた。
一日中、脳内に声が聞こえることはなかった。まるで昨夜の出来事が悪い夢だったかのように、区役所での業務も普段通りに進んだ。しかし、午後九時を過ぎた頃から、凪の胸の奥に嫌な予感が湧き上がっていた。
午後九時五十九分。
凪は座椅子に座り、膝を抱えて震えていた。もしかしたら何も起こらないかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。
そして―
午後十時ちょうど。
『業務開始時刻になりました。レイジー・モンスター、準備してください』
脳内に響く声と同時に、凪の体が淡い光に包まれた。
「うわあああああ!」
凪は椅子から転げ落ちたが、体を支配する感覚が急激に変化していく。手足が伸び、視点が高くなり、皮膚の感覚が異質なものに変わっていく。変身の過程で意識が朦朧とし、気がつくと―
凪の目の前には、巨大なモニターが表示されていた。
まるで戦闘機のコックピットのような画面で、中央には外部カメラの映像が映し出されている。そこに映っているのは、身長約三メートルの、ずんぐりむっくりとした生命体だった。
二頭身で、色はくすんだピンク色。頭部は丸く、目は半開きで、まるでやる気のない表情をしている。どこか愛嬌のある、ブサかわいい外見だった。
「これが…俺?」
凪は愕然とした。画面の中の生物が、彼の動きに合わせて手足を動かしている。これが自分の現在の姿なのだと理解するまで、数秒を要した。
「なんだこの気の抜けるデザインは…まるでゆるキャラじゃないか」
『外見は戦略的に設計されています。詳細は企業秘密です』
「企業秘密って何だよ!」
『初任務を説明します。新京シティ第7地区公園の遊具を七十パーセント以上破壊してください。制限時間は三十分です』
モニターに地図が表示された。凪の現在位置から約二キロ離れた場所に、赤いマーカーが点滅している。
「ちょっと待て!なんで俺が公園を破壊しなきゃならないんだ!?」
『契約に基づく業務です。拒否権はありません』
「拒否権がないって何だよ!人の迷惑になることはできない!」
『では、業務を強制実行します』
凪の意志とは無関係に、体が光に包まれた。空間転送の感覚が体を包み、周囲の景色が一瞬で変わる。
気がつくと、凪は公園の真ん中に立っていた。
新京シティの夜景が眼下に広がり、遠くには煌々と光るヘリオス社のタワーが見える。静寂に包まれた公園には、ブランコ、滑り台、砂場、鉄棒などの遊具が並んでいる。平和そのものの光景だった。
そして、その中心に立つ自分の間抜けな姿。
「最悪だ…」
凪は心の底から絶望した。これまでの人生で、ここまで面倒で理不尽な状況に陥ったことはない。しかも、自分の体は完全に別の生物になってしまっている。
『残り時間二十九分です。早急に破壊活動を開始してください』
「破壊活動って、具体的にどうやって?」
『能力リストを表示します』
モニターに項目が現れた。「怪力」「特殊粘液分泌」「小規模爆発」「音波攻撃」など、物騒な単語が並んでいる。
「こんな物騒な能力使えるわけないだろ!住宅街のすぐそばだぞ!」
『業務の遂行は義務です。ペナルティを課したくなければ―』
「うるさい!」
凪は叫んだ。しかし、その声は怪獣の声帯を通して発せられ、低くて威圧的な咆哮として響いた。自分の声にさえ驚く。
モニターには、刻々と減っていく残り時間が表示されている。二十八分、二十七分…。
凪は周囲を見回した。夜中とはいえ、近くのマンションには明かりが点いている。こんなところで大暴れなどできるはずがない。
そのとき、彼の「面倒回避思考」が、絶望的な状況の中で再び動き出した。
(待てよ…契約書に何か抜け道はなかったか?)
昨夜読み飛ばした利用規約の内容が、断片的に脳内に蘇る。その中に、確かこんな条文があったはずだ。
「AIによる監視は、上空の定点衛星からの画像解析が主である」
凪の目が輝いた。つまり、上空から見て「破壊されたように見える」なら、実際の被害は関係ないのではないか?
「もしかして…それっぽく見えればいいのか?」
彼の頭の中で、一つの奇策が浮かんだ。これまでの人生で培った「面倒回避のための創意工夫」が、最も面倒な状況下で花開こうとしていた。
この作品は一部にAIによる文章生成を含みます