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ここを目的地にする

作者: 空見タイガ

 最近の地図は便利なもので、インターネット接続で経路を検索して、現在地を確認しながら目的地に行けるようになりました。とはいえ、信頼するのもほどほどに。地図が人を妖しい道に案内することもあるのです。

 塩助(しおすけ)は仕事の帰りにコンビニに寄りました。どうしてもスイーツのクーポンを使いたかったのだとか。しかし、品揃えが悪い! 割高のクレープ、割高のプリン、割高のロールケーキ……塩助は選ぶのも億劫になり、もっとも安い割高のプリンを手に取りました。

 ところが、どこからともなく、ささやき声が聞こえてきたそうです。

『エクレア……エクレアを買え……』

 おや、おれの心がエクレアを求めているぞ。塩助は地図でほかのコンビニを調べて最寄りの店舗に入りましたが、ああ、こちらも品揃えが悪かった! その場にある商品で妥協しようとすると、ふたたび、あの声が。

『エクレア……エクレアがほしい……』

 そうだ、エクレアだ。塩助は次のコンビニに向かいました。ですが、こちらにも、あちらにも、どこにもエクレアがないのです。

 地図を頼ってコンビニを巡るうちに、人けのない場所に誘われたようでした。最後に入ったコンビニは、真夜中とは思えないほどスイーツの品揃えが充実していました。どれもとても割高です。高揚する塩助と対照的に、聞こえてくる声はしおしおしていました。

『エクレア……エクレアを……』

 今からエクレアか……塩助は会計を済ませました。さあ、帰ろう。店の外は真っ暗で、コンビニからくる光でかろうじて足元が照らされていました。その明かりもぱっ、と消え、一面にしんと闇が広がりました。それでも地図があれば。残念、インターネットに繋がらないようです。役立たずになった地図をぼんやりと眺める塩助の視界を遮るように、すっ、と正面から手が伸びてきました。手、なのでしょうか。包帯のようなものを巻きつけ、人間の手をじょうずに形作ったようにも見えました。なぜなら大きく開かれた手のようなものが暗闇のなかにぼうっと浮かぶのみで、手首より後ろが見当たらなかったからです。

『エク……レア……』

 疲れのにじんだ声でした。しかし、塩助はもっと疲れていました。彼は袋から豆大福を取り出し、包みを開けて、半分に割ろうと試みましたが、失敗し、差し出された手にそっと豆大福のちぎれた皮を置きました。

 しばらく時が止まってから、さっ、と手が引っ込められ、どこまでも広がる闇だけが残りました。塩助は恐ろしさと疲労から目眩を覚え……バチン! 辺りが一気に明るくなったと同時に、車の走行音がはっきりと聞こえるようになり、彼は自分が閑散とした交差点の近く、シャッターの閉まったコンビニの前に立っていることに気づきました。

 張り紙によると、そのコンビニは三日前にはすでに閉店していたそうです。

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