8 この湖を泳げ、と。
少し短めです。今回は健全な方ですね。
次の投稿は日曜か来週の月曜になりそうです。そろそろちゃんと寝ないと本当にマズイ。学業に支障が出まくってる。
「此処が拮抗遺跡...」
「みたいね」
宿を出た俺たちは、山を越え谷を越え、森林を抜けて大河を渡った。川の流れはとても強く、船に揺られすぎて酔った。気持ち悪い。森ではでっかい蜘蛛に襲われるわ、大蛇に噛まれかけるわ、散々だった。
この世界、魔物以外もモンスター級におっかないな。
遺跡と呼ばれる建物は大理石で建てられていたようで、朽ち果ててはいるものの、美しい光沢がある。
表面に手を触れてみても、見た目ほど凹凸はなく滑らかである。
「あんまり『跡地』って感じがしないなぁー」
「そう?地面とか抉れているし、その柱だって斜めに折れてるじゃん」
「でも、なんかこう、緑がひとつもなくて骸や折れた剣とかが転がってて、見るだけで背筋が凍るようなものを求めていたと言いますか」
「物騒ね。それに、普通の剣なんかじゃ魔王は倒せないわよ」
「そうなの?」
「ええ、『聖剣』と呼ばれる特殊な剣じゃないと魔王の身体を突き通すことはできないし、勿論傷一つ負わせられない」
へー、聖剣って格好いいな。全男子が心を踊らせるワードTOP10くらいには入りそう。
「魔王は不死の肉体を持っているの。だから、『殺す』事はできない。伝承されている勇者が、『封印』をしたけど、最近解かれちゃったみたい」
「封印が解かれなければ遊んでられたのに...」
誰だよ、封印解いたやつ。A級戦犯で絞首刑だ!
それはともかく、観光をしよう。解かれたものはしょうがないし、今は今を楽しむんだ。
「イレイヴ、此処について教えて」
「分かったわ。此処は拮抗遺跡と呼ばれる跡地で、数千年前に勇者と魔王が争ったとされる地。外には大理石の柱で組まれた神殿が建っていたが、戦いで半壊し、復元は不可能に。神像もなぎ倒されて、大部分が欠損した。争った原因は、崖の洞窟の内部に刺さっている聖剣を抜こうとした勇者を魔王が食い止めようとしたからで、結局魔王は戦いに負け、封印されてしまう。勇者も勇者で聖剣を抜くことができず、魔王を絶命させることができなかった。今でも、聖剣は刺さったままらしいわ」
「詳しくありがとう」
イレイヴって博識なんだよね。聞いたら何でも返ってくる。人間百科事典だ。
異世界のことは何も知らないから、こうして情報をくれる人物が居るのは心強い。少し変人だけど。
「聖剣見てみたいな」
「それなら、あっち。滝の奥に空洞があって、中央らへんの大岩に刺さってる」
「よーし行こう」
早速、滝の方へと駆け出した。
30メートル程の高さから落ちる水は、飛沫を上げて湖へ、そして其処から河川へと流れていく。滝の真ん中辺りには、滝が上げる飛沫と陽光によって、見事なアーチ状の虹が架かっていた。綺麗だ。
聖剣を一目見ようと、滝へ突っ込む...わけにはいかなくね?どうやってあっちまで行くの?
「イレイヴ、どうやって向こうまで行くの?」
「泳ぐ」
「鬼だ」
泳ぐって、この湖をか。滝を囲うようにして、半径50メートルはある湖を、か。無謀だろっ!
「むりむり、絶対むり!」
「いけるいける。だって貴女勇者でしょ」
「関係ないー!」
「ほら、つべこべ言わない」
「あっ」
イレイヴに思いっ切り突き飛ばされて、背中から湖へダイブ。
――バッシャーン
「冷たっ!さむいー」
「そのうち慣れる。一緒に泳いでいこう」
イレイヴも湖へ飛び込むと、滝の方向へ泳ぎ始めた。
せめて服は脱がせて欲しかった。今被っている頭巾、意外と重いのよ。
――ぱしゃぱしゃ
無人の跡地に、唯ひたすら水を掻く音が響く。
そんなこんなで数分後。
「さむいー、つかれたー、さむいー」
「ほら、火を起こしたから、これで温まりな」
「服がちべたい」
水を吸った衣服は肌に張り付いて、徐々に体温を奪っていく。もはや、脱いだほうが暖かくなるのではないだろうか。
「...取り敢えず、頭巾は脱いだら?重いでしょ、それ」
「うん、超重い。脱ぐ」
するするっと首元の紐を解くと、頭巾を脱ぐ。それを広げて枝にかけ、火に当てて乾かす。
「さーむーいー」
「大丈夫...ごほごほっ」
なんか急に咽られたんだが。何故だ。
「リリー、めちゃくちゃ透けてる//」
「え?あ、ほんとだ」
裸は凝視するし、胸も揉もうとしてくるのに、下着が透けるのはダメなのか。いや、普通逆だろ。
初心なの?
「別にいいよ、だって他に誰もいないし」
「よくなくなくない」
「なんでよー」
食いついてくるのも嫌だけど、過保護?なのもなんか嫌だ。
いつもみたいに喜べよ。俺男だし気にしないぞ。
イレイヴは若干の涙を目に浮かべて抗議した。
「だって、胸おっきいんだもん。見せつけられると虚しくなるんだもん!」
「ああー」
コンプレックスの問題...
でも、無理じゃん。すぐには乾かないし。
「頭巾被ってよ。そうしたら見えないから」
「やだ、重いし冷たいもん」
抗議をしようと一歩前進する。
「待って、近づかないで!これ以上は私のハートがソウルブレイクしちゃう!」
「何言ってるの?」
敵を衰弱状態にでもするのか?
というか、心臓が魂破壊ってどういうこと?
――閑話休題。
「取り敢えず行こうか」
「うん、そうしよう」
良く分からない論争は幕を閉じた。
「うわぁ、綺麗...」
俺たちは洞窟の深部へ足を踏み込み、聖剣の場所へと辿り着いた。
聖剣は、天井から洩れてくる光を反射して、光り輝いていた。周囲の苔がいい雰囲気を作り出している。
柄の部分には、宝石や金銀で装飾されていて、芸術作品のようだ。
刃の部分は銀色ではなく淡い金色で、俺の瞳の色と一致している。刃こぼれはないので、問題なく使えそうである。
「リリー、それ抜いてみたら、勇者でしょ?」
「いやいや、男の勇者が全力でやっても抜けなかったんでしょ。むりむり」
軽く引っ張ってみる。ほら、動きすらしな...
――かちゃ
「...抜けた」
「やっぱり、リリーは選ばれし勇者なんだよ!」
あれぇー、おかしいな。こんなはずでは。
でも、俺の右手には確かに聖剣が握られている。それに、聖剣は測られたのかというくらいジャストサイズだった。女の子(しかも小柄)に合う聖剣って、もしかしてロリコン?
興味本位で、元あった穴に刺してみる。
「...刺さらない」
――どうやら、所持の拒否は認められないらしい。
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)