6 わーい、温泉だぁ!
宣伝)「未来の視える少女は、幼馴染の命運を知っている。」の短編版が2024/3/11の日間ランキングに載りました。感謝。
完結したので見ていってもらえると嬉しいです。
なんか、ギリギリセーフなラインって書いていて楽しいんですよね。R-15のラインがいまいち分かっていないのですが、今回の内容くらいなら、全年齢でもおーけー?
「ふぅー。まんぷく...」
旅館の料理はとても美味しかった。香りも然ること乍ら、采配が美しく、工芸品を見ているかのようだった。食べる時には崩さないといけないので、心を痛めたが。それにしても、日本の侘び寂びを感じさせる良い食事だった。この時だけは、元の世界へ帰れた気がした。
同じく食事を終えたイレイヴは、興味を抑えられないといった目でこちらを見るや否や、当然とも言えよう言葉を発した。
「リリー、温泉行こう!」
知ってましたよ、こうなることは。なんとなく黙っていた所為で勘違いされているが、俺は男なんだよなー。女湯に入るのは犯罪なわけで。
「えーと、ほ、ほら、食後すぐにお風呂に入るのは良くないって言うじゃん?だから、私は後で良いかなー」
「なら私も」
ですよね~。そりゃそう返すわな。数秒前の俺はなんでこの言い訳選んだんだよ。
仕方ない。観念するか。
「じゃあ、15分後くらいかな。温泉って何階だっけ?」
「X⁰階だよ」
「1階じゃん、ややこしい」
そんな言い方する人、初めて見たわ。
それまでに、着替えやバスタオルを用意しなくちゃいけないな。
タオルは部屋に用意されてたし、着替えは浴衣みたいなやつがあったな。それでいいか。
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「此処が大浴場...」
「大浴場」と呼ばれる以上は、それなりの大きさはあるだろうと認識していた。だが、訪れてみるとそれなりどころでは無かったのだ。
――辺り一面、浴場なんだが?
温水プールかな?
推定だが、40平米はあるだろう。その広大なスペースには、煌びやかな湯水が流れ込む浴槽が点在していた。湯気や熱気でバスタオル1枚で突っ立っていても肌寒さは感じない。
「ひろ〜い...」
「25メートルプールが2つくらい入りそうね...」
呆気にとられて立ち止まること十数秒。イレイヴがついに切り出した。
「入ろう」
「うん」
シャワーブースは数多にあるが現在、他に入浴している客はいないようで、人恋しくなる。
そして、最大の壁が立ちはだかった。
――どうやって身体洗えば良いん?
バスタオル巻いたまんま身体洗えるわけなくない?どうするの。
助けを求めるように視線をイレイヴに移す。
イレイヴは、既にタオルを解いていた。
咄嗟に両手で顔を覆うと、指の隙間から彼女を覗く。やましい気持ちがあったわけではない。断じて。
「うわぁ、破廉恥ぃ」
「失礼ね。リリーも、そのままじゃ洗えないでしょうが。ほーら、お姉さんが脱がせてあげよう」
お巡りさんこの人です。お姉さんじゃなくておじさんの間違いだろ。
仕方がないので割り切り、巻いていたタオルを解く。
初めてこの姿になった自分の裸体を見た。
意外と胸はあり、身体の大きさと比べるとアンバランスだ。体型も恵まれていて、ウエストは細く締まっている。一言で言えば、華奢だ。
イレイヴの視線がこちらに釘付けなのに気づくと、胸を隠してジト目を向ける。
「えっち」
「だってぇ、私より年下みたいなのに、私より胸大きいんだもんっ!」
イレイヴは涙目になる。ちょっと可哀想だな、それの所為で男扱いされたのかも知れないし。
取り敢えずは無視しておくことにした。
「...」
シャンプーを白緑の髪に浸すと、柔らかい髪の感触が指先から伝わってくる。シャンプーの香りは今まで嗅いだことのない花の匂いがして、なんだか癒やされた。
「私ばっかり見てないで、イレイヴも早く洗ったら?置いてっちゃうよ」
「ま、待って!」
慌ててシャンプーを手に取ると、髪に浸した。桃色の頬とオリーブアッシュの髪、そこにふわっとしたシャンプーの泡が絡まる様は、まるで姫君のような、美しい少女を思わせる。
顔は良いんだよなぁ。なんで男に見えるんだろ(特大ブーメラン)。
シャワーで泡を洗い流すと、髪が頭部に張り付くが為に、骨格や顔立ちがよく見えるようになった。
そう言えば、鏡も見たこと無かったな。どんな顔してるんだろ...
「...」
待って、俺美少女過ぎん?
もちもちとした頬にすっとした鼻立ち。大きく潤んだ瞳に幼気な眉毛。瞳はアースアイだった。
珍しいな、瞳の地の色は瑠璃色で、瞳孔に近づくに連れて淡い金色へと移り変わる。こんな瞳を実際に見たのは初めてだ。
「リリーその胸、ちょっとだけ触らせてくれない?」
「へ?」
「だから、その胸を触らせてほしいの!」
へぇ、ってなんでだよ!あんたにもあるじゃないか。
「あやかりたいの。私も胸が大きくなりたいー!」
「動機が不純。お巡りさん呼ばなきゃ...」
「一緒に寝た仲じゃんっ!」
「それは語弊が」
同性でもダメなものはダメ。
後、何か恥ずかしいから。
「置いてくよー」
「あー、ひどい!待ってよー」
一通り身体を洗い終わったので、湯船に浸かろうと思う。
桶や椅子を定位置に戻し、シャワーブースから立ち去ると、1つ目の温泉の前で歩みを止めた。
一番気になっていた、琥珀色の湯が湛えられた温泉。波々と揺らぐ水面は生きた宝石のようで、ため息が出るほど美しい。
お湯の温度を確かめるために、表面に軽く触れてみる。
「あっつぅ」
体感は50度だ。これには「お風呂は41度」と心に決めた俺には熱すぎる。
仕方がない、此処は諦めようか。
「リリー、どうしたの?」
湯浴みを終えたイレイヴが追いついたようだ。
「お湯が熱すぎて...」
「ああ、入ってみたら案外大丈夫だよ。魔法の温泉だし」
「えぇ」
適当言うな。だが、その通りかも知れない。何せ此処は異世界。魔法があるくらいだし、何が起こっても不思議ではない。
それなら、試す価値はあるだろう。
「じゃあ、入ってみる」
慎重につま先から入水する。水面の波紋は静かに広がり、浴槽の縁に当たると穏やかな波となって姿を消した。その様は、どうにも神秘的で未知の力を感じた。
「あつ...くない」
先程触れた時に感じた熱は何処へ行ったのやら、元の世界で良く慣れた「41度の湯船」へと様変わりしていた。この温泉は、入る人が心地よいと感じる温度に自動調整されるのか。便利な世界だ。
「イレイヴ、丁度いい温度になった」
「でしょう?その温泉には確か...子宝に恵まれる的な効能があった気が」
――バシャーン
いけない、慌てて立ち上がったが、良く考えなくてもマナー違反だ。
「それってどういう...」
「原理は良くわからないけど、受け入れ準備が整うらしいよ」
「もっと早く、できれば入る前に言ってぇ!」
「まあ、いいじゃん。子供が急に欲しくなるかもよ?」
「絶 対 な い !」
「そっかぁー」
なんて温泉だ。逆に男湯を見てみたくなったんだが。
「イレイヴ、普通の温泉はないの?」
「うーん、あれとかはまともかな。あの緑っぽいやつ」
指さされた先には、少し小さめの浴槽に張られた緑色の湯だった。
「効能は、魔力の回復とかだった気がする」
「へぇー」
――ちゃぷん
これも41度だ。分かっていらっしゃる。やっぱり、お風呂は熱めに限る。
因みに42度以上は血圧の上昇や血栓ができる虞があるため、推奨はされていないらしい。
あったか~い。心も体も癒やされるぅ〜。
身体的、精神的疲労の他に、胸の奥にある別のものまで回復する感覚がある。これが魔力か?
スキルを使うにも魔力が必要なのだろうか?スキルを使う際に何かが減る感覚はなかったが。
「リリーのスキルは魔力効率がすごく良いんだと思う。気づかない程僅少な魔力でも、大きな力を生み出せる」
「心を読まないで?」
回答してもらえるのはありがたいのだが、突然答えが返ってくるもんだから、心の準備が間に合わないんだよ。
「あ、あとその温泉のもう一つの効能が...」
「もう一つ?」
嫌な予感しかしない。
イレイヴの手が肩へ迫り、ついにその指先が触れた時、
「ひゃあっ!?」
――ザバーン。
今までに体験したことのない感覚が、体中を駆け巡った。
どうなったんだよ、俺の身体は!
「...感覚が鋭くなる」
だーかーらー、そういうのは先に言ってくれぇっ!
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「つかれた...」
「温泉って疲れを癒やすためのものなのに?」
「誰の所為だっ!」
あの後、俺はイレイヴに弄ばれ、部屋に返ってくる頃にはくたくたに消耗しきってしまった。
しかも、いろんなバフ(デバフ?)盛り盛りで大変なことになっている。
これじゃあ、身体が持たないよっ!
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)