その名は…
目に映るのは何処までも暗い世界。
「何がどうなって…。」
瞬間、脳裏に激痛が走る。
そうだ。さっきシルベールさんと戦って受け身を取り損ねて、壁に激突したんだ。でも、そこからの記憶がない。
そして、疑問が一つ。さっきまでいたのはギルドの訓練場であってこんな真っ暗な空間ではない。ではここは……?
「よう、目が覚めたか?」
声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。
「誰だ!」
「おぉ〜、怖い怖い。そんなに叫ばなくてもいいじゃないか。」
おどけた調子で帰ってくる声。そして、目の前の闇の中から一人の人間が出てきた。
髪は白で瞳は黒、肌は色白。身に纏う衣装は黒に金縁の刺繍の入ったローブにズボンとブーツ。腰には左右それぞれに長剣が一つずつ。
「さて、自己紹介をしようか。と言っても俺はお前のことを知っているが。」
それを聞きより疑問が増す。そもそも僕はこのようななりをした人を知らなければ、その顔や声にも覚えがない。
「俺の名前はシン。シン・エクシオ。シンでいいぞ。お前がわかるように名乗るなら……。」
「第一世代と呼ばれる1〜50巻!そのうちの最後の第50巻の英雄にして与えられた二つ名は『模倣』!ほ、本物!?」
「お、おう。すごい食いつきだな、おい。」
無理もないだろう。『ラグナロク』において50巻ごとに『〜の世代』と分類されているが、各世代の『第1巻の英雄』と『第50巻の英雄』は特別な存在なのだ。
『第1巻の英雄』はその世代の先駆者として、その世代がどのような活躍をしていくのかを決めている、と言われている。事実、その後の英雄たちが直面する危機はどれも似たような傾向の危機ばかりなのだ。
そして、『第50巻の英雄』はその世代の集大成と言われている。その世代最大の危機を担う英雄にして次代の育成者の側面も持つため人気が出やすい。
『模倣』ことシン・エクシオは見たもの全てを模倣しできたという。剣技、魔法といったものから建築術、芸術といった技能形まで身につけたまさに稀代の天才。
「ってどうしてこんなところに?というか、なんで生きて、ってそうか!!夢か!」
「これが夢だったらよかったな?」
「ん?」
なんとも意味深なことを言う英雄様である。記憶が正しければシンが活躍していたのは1500年前。すでに死んでいるはずなのだが。
「あぁ、そうか。説明しとかないとな。俺は今『時空超越』っていうのを使って意識だけこっちの中に持ってきてるんだ。で、ここはお前の精神世界。」
「精神世界…。」
「まぁ、いろいろ聞きたいことはあるだろうが一つ質問だ。」
英雄からの質問。僕はその意味を知っている。
基本的に英雄とは自由気まま、天衣無縫、唯我独尊といった存在なのだ。だから、人に対して質問することなんてなく、基本自問自答で完結してしまう。だが、例外がある。それは…。
「お前、俺の弟子にならないか?」
次世代を見つけ、自身の弟子にするときである。