Wake Up
目が覚める。どうやら訓練場のど真ん中で倒れて気絶していたらしい。
「エレクトラの言ってたことはやっぱり間違いだったよね。こんな『出来損ない』が、エレクトラよりも強いなんて。」
『出来損ない』。飽きるほど聞いた言葉だ。だけど、今はきっと違う。今なら、きっと。
「そうだ、喰らえ。」
謎の声が聞こえる。だが、周囲に人は僕たち2人以外はいない。それに、声が聞こえているのは僕だけの様だ。この声は一体?
「正体なら後で教えてやる。まずは…。」
ああ、そうだ。まずは…。
「あの『英雄』を喰らう!」
「!?」
シルベールさんが気づいた。それと同時に駆け出す。
「まだ起きてたんだ。でも、もう意味ないよ。君が絶対に私には勝てないことがさっきわかったから。君は何処にもいられない。ただの端役だよ。」
僕の装備は短剣。リーチで考えれば僕の方が圧倒的に不利。それにシルベールさんは『瞬撃』という最速の一撃を持っている。それを僕は見切れていない。
考えているうちに、シルベールさんは『瞬撃』の構えをとる。
『雷切』の柄に手を添えて、腰少し低くおろし…。
「ならば、それよりも速く!」
そういって、僕はさらに加速する。でも、これじゃあ足りない!もっと速く、より速く!
そして思い浮かぶある言葉。それは本当に唐突で、意味もないだろう言葉。でも、僕にはわかる!それがきっと僕の『スキル』の力だから!
「さぁ、紡げ!その言葉を!」
謎の声に押されて、僕の口から『台詞』が放たれる。
「『迅雷』の如く、駆け抜ける!!!!」
その瞬間、僕の体は雷を纏い、世界を置き去りにする。だけど、まだ遅い。もっと速く、もっと!
「『迅雷』の如く、駆け抜ける!!!!」
さらに加速。距離にして30歩も歩けば届く距離の間を一瞬で駆け抜けて、シルベールさんの前に。そして、
「『瞬撃』。」
一瞬早くその刃が振り抜かれ始める。その言葉を発した本人は酷く冷静に、無情にその動作を始める。
僕と同じ遅い世界に入ってきたシルベールさんはバックステップで少し交代し、僕の短剣のリーチから外れながら振り抜く。
だめだ!また、足りない!せっかく同じステージまで来たんだ!あと、1歩!でも、その1歩が足りない!
受けに回っても、技術がないから受け切れない!避けようにも、バックステップするよりも一瞬先に『雷切』が当たる!
『傷つく覚悟はあるか?』
不意に、あの暗闇の世界で謎の声に問われたことを思い出す。
そうだ!あるさ!傷つかないで勝利を得ようなんて、生ぬるい幻想でしかない!でも、1歩踏み出すより先に当たるなら、短剣の鞘で受けても横に弾き飛ばされる!ならば!
「え?」
それは意識していなかっただろう攻撃。常識では考えられない『愚行』。それでも僕は、『手放した』。自分の手にある短剣を。
「ぐっ!」
その瞬間『雷切』が当たる。短剣の鞘で受けて、横に弾き飛ばされる。その勢いは止まることなく、一瞬の後に背中に大きな衝撃。空気を吐き出し、地面に倒れる。顔を上げることは叶わず、事の結果を見る前に、僕の意識が暗転する。