試験、迅雷の気まぐれ
今、僕はギルドの訓練場と呼ばれる施設、その中央で倒れている。
身体中が痛い。呼吸がうまくできなくてむせ返る。口の中を切ったのか、鉄の味が充満し、上手く深呼吸ができない。
顔をあげ、目の前には1人の女性というには、まだ少し幼さの残る顔立ちをしたくらいの人。この試験の試験官であり、このギルドのギルドマスター、『迅雷』の二つ名を持つセッカ・シルベールが、落胆の眼差しで見ていた。
なぜ、こんな状況になっているのか。それは、試験前に遡る。
「頑張ると言ったはいいけど、正直に言ってしまえばい受かる気がしない。」
1人呟いてからハッ、とする。こんなに弱気では英雄に近づけない、と。
だが、受かる気がしないものはどうにもならない。なぜなら、他のみんなが普通に持っている『能力』を僕は持っていないからだ。
ここでいう『能力』とは、『ギフト』と『スキル』のことだ。
『ギフト』は先天的に得られる能力で、約100人に1人が持って生まれてくるという。一説では、神が将来有望な子に授けているんだとか。そんな説が生まれるのも無理はない。その能力が『スキル』と比べてあまりにも強すぎるからだ。
『スキル』というのは後天的に得られる能力なのだが、才能の差に左右されたりするものの、基本的には誰でも身につけることができる。
この二つを比べると、『ギフト』が国家レベルの騎士団の団長だとすれば、『スキル』は一般兵レベルの能力である。
そして僕はその『どちらも』持っていない。『ギフト』は仕方ないものの、別に努力を怠ったわけではないのに『スキル』はどうしても身に付かなかった。
まずはそんな事よりも試験だ。
試験の申請や手続きはエレク姉さんが一通りやってしまったので、開始時間を待つだけだ。
めちゃくちゃ不安だ。能力を持たない僕が、果たして試験に受かることができるのか。
「ウェインライトさん、試験の時間です。訓練場の方へ移動してください。」
どうやら、これから始まる様だ。
訓練場へ行くと1人の女性が立っていた。
いや、僕と同い年か少し上くらいだろうか。ただ、その人は今まで見てきた何よりも綺麗だった。
「君がウェインライト?エレクトラの弟の」
ここでエレク姉さんの名が出てきたことに驚いたが、その次に放たれた言葉に僕は硬直してしまう。
「私はセッカ・シルベール。周りからは『迅雷』の二つ名で通ってる。一応、ここのギルマスだよ。そして、今回の試験の試験官。よろしくね」
『迅雷』。それは現英雄の1人にして、今の英雄の中でも頂点に立つ実力の持ち主だ。
そこで一つ疑問が湧き上がる。
「あの、なぜ現英雄のシルベールさんが試験官を?こんなことを言うのはアレなんですけど、結構忙しいはずじゃないですか?」
そう、現英雄は忙しいはずなのだ。
英雄以外では解決困難なクエスト然り、事務作業然りである。
しかし、シルベールさんはこう答えるのだ。
「何でって、暇潰し兼ストレス発散」
そう言って、彼女は微笑んだのである。