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第7話 先生


 桐人と同じ部屋で過ごし始め三日経った。


 夜白が桐人のことを頼れる兄のように感じるようになるほど,二人の中は良くなっていた。


 桐人は元軍人なだけあって夜白とは別の視点の考えや技術を持っていた。

 軍に入るために経験した訓練や勉強の思い出話や,同じ訓練をした友人との面白エピソードは,一般人だった夜白から見ればとても興味を引くものばかりだった。


 桐人は若いのになぜ今は軍人ではないのかが気になって聞いてみれば,実は軍人になりたくて軍人になった訳ではないという。

 桐人の父親が軍人の中でも優秀であったため,息子の桐人も軍人になるようにと言われてなったそうだ。


 桐人自身も小さい頃は軍人に憧れ,軍人になるためにそれ相応の努力を重ねたものの,いざなってみると,「何か違う」と感じ辞めたらしい。


 「軍人でも悪くなかったんだが…,もっと俺が“これだ”と確信する仕事がしたいんだ。」


 桐人はそう語る。将来どの仕事になりたいかまだ決まってない夜白は共感はできなかったが,そういう道もあるのだと感じることはできた。


 「まぁ,まだ若いんだ。将来のことは気長に考えればいい。」


 そう言って夜白の頭の上に手を乗せ撫でる桐人。


 (…将来…のこと…。)


 この場所に連れて来られた時からあまり考えないようにしていた。

 嫌な未来を想像してしまいそうで怖かったから。


 (夢見てもいいのだろうか?)


 いつかここから出て,家族に会いたい。

 また友人と普通の日を過ごしたい。


 (叶うだろうか?)


 変わってしまった自分でも。


 でも,そこに不安はない。

 疑問に思っても心配にはならなかった。


 自信満々の桐人の笑顔をみると,夜白は自然と自信がついてくるのだ。



 ◇◇◇◇◇



 この日はいつもと違った。


 またいつものリヒトのいる研究室に連れていかれると思えば,連れて来られたのはグランドを思い出させる高い壁のような塀に囲まれた場所だった。


 しかも,普段は一人で部屋から出てたのを,今日は桐人と同時に二人で連れて来られたのだ。


 辺りを見渡せば,夜白と桐人だけでなく五十人くらいのたくさんの人がいる。

 全員見た目はバラバラだ。

 夜白と似ている人もいれば,桐人と似ている人もいる。もしくは,どっちにも似てない人も。


 久々の外へ出た解放感を感じながら久しぶりに見る人を失礼にならない範囲で見た。


 性別もバラバラ。

 年齢もバラバラ。桐人より歳をとっている人もいれば,夜白より幼い子供もいる。

 生えているものもバラバラ。

 猫の尻尾が生えてる人。コウモリもしくは鳥の羽が生えてる人。少し肌色が変わっている人。耳がとんがっている人。髭が生えているのに子供のように小さくなっている人。

 

 見れば見るほど全員違う。


 でも,全員夜白と同じように首輪が付けられていた。

 夜白と同じく,ここに連れて来られた人たちだろう。

 夜白の予想が当たってたことに気づくと同時に,こんなに沢山いるとは思わなかったことで内心驚く夜白。


 桐人はそんな夜白の隣で,棘たちに対する怒りを抱き顔をしかめた。


 (それにしても…,こんなに集めて何をするんだろう…??)


 そう思い,キョロキョロと周りを見渡す夜白。


 これだけ人がいるのに棘やリヒト,カイの姿は見えない。


 (いったいどこにいるんだ?)


 そう思った時だった。


 「そんなキョロキョロしてどーしたの。狐のお兄さん。」


 急に背後からカイの声がしたと同時に尻尾をモフモフ触られる。


 「ひゃ〜!?」


 思わず大声叫んで周りからの注目を集めてしまう。


 「っ!夜白から離れろ!」


 桐人がカイに向かって殴りかかるが,ヒョイっと簡単に避けられてしまう。

 でも,すぐにカイが離れてくれたので夜白は桐人に「ありがとう」とお礼を言った。


 「そんな怒らなくてもいいじゃーん。」


 口を尖らせて不満げにいうカイ。


 「勝手に拉致った連中に怒らないわけないだろ!」


 「僕はそこの兄さんと仲良くなりたいだけだもーん。」


 「夜白は嫌がってるだろ!」


 言い争う二人に全員が注目する。

 夜白はカイから身を守ろうとススス…と,桐人のそばに寄ってカイが近づいて来ないか慎重に様子を見る。


 その夜白の視線に気がついたのか,カイは子供らしい笑みを浮かべ,手を振っただけだった。

 この状況すら楽しそうにするカイに桐人はブチ切れそうになる。


 「あー,楽しい!別に今日は僕は何もしないよ?だからこそ暇だから見学でここに来たんだけど。」


 「…見学?」


 誰かがカイの言葉を呟く。


 「そう!見学!今日は君たちの先生を連れてきたよ!」


 ビシッと声がした方を演技のようなポーズで指を指すカイ。


 「じゃあ,来て〜。」


 カイが大声で呼びかけると一人の女性が恐る恐る夜白たちの前にやってきた。


 「じゃあ,紹介するね!君たちの先生,チハル先生だよー。」


 「チ…チハル…です。」


 不安そうな声でいうチハル。


 カイが読んだ人物を夜白たちは警戒していた。どうせロクでもない人だろうと誰もが思った。


 でも,その考えは見事にひっくり返される。


 金髪に近い髪と同じ三角の耳が頭から生え,それと同じ尻尾が後ろの方で細かく揺れてる。


 震えていたのだ。その女性は。


 カイのことを恐ろしげにチラッと見ては,夜白たちすら怖がるように地面を見る。


 その理由は夜白たちが見ても一目瞭然だった。




 その細い首に,夜白たちと同じように『隷属の首輪』が付けられていた。


 彼女も夜白たちと同じ,被害者なのだ。




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