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第6話 出会い


 「面倒見てね」と言われた夜白だが,今のところ出来ることはほぼない。

 そもそもこの部屋の中にある物の数も少ないのだ。


 かっきカイという子供の言葉が本当なら,今目の前で寝ているこの男の人はカイと戦って負けたのだろう。

 ならば,どこか怪我をしてしまっているかもしれない。


 そう思い,夜白は怪我の確認のため慎重に男に近づき覗き込むように男の人を眺める。


 黒だと思っていた髪はよくよく見れば紺色で目は閉じていてもわかるほど鋭く,勇ましい。


 微かに口と胸が動いているからただ気絶してるだけだろう。やっぱり殺されてるわけではない。


 そのことに夜白はホッとする。


 そして今度は腕や足,胴体などに怪我はないか袖をまくったりして探す。


 と,夜白の目に人ではあり得ないものが写った。


 男の腕や足,首に魚の鱗のようなものがついていたのだ。

 そっと触ってみるが,その男の肌にピッタリとくっついており,別に何かがまとわりついているわけではないことを悟る。


 (この人も俺と同じなのかな…)


 カイと棘の会話から,この男の人も自分と同じように突然化け物みたいな存在になったのではないか。


 夜白はそう推察した。


 夜白は突然狐の耳と尾が生えた。


 なら,この人も突然鱗のような肌になったとしてもおかしくはない。


 「あ,ここ怪我してる…。」


 殴られた後であろう腕の腫れた部分に夜白が手を伸ばす。




 その時だった。



 カッと,男が目を開くと夜白を見た瞬間起き上がって夜白の首めがけて腕を伸ばし床へと夜白を押さえるように倒れ込む。


 「うわっ」


 突然男が動いて自分を襲ってきたことに思わず声が漏れる。


 「ここはどこだ!そして,お前は誰だ!あのガキの仲間か!?」


 元軍人と聞いていただけあって,夜白にとってあっという間のことだった。


 「ちょっと待って…落ち着いてっ」


 「黙れ!早く答えろ!ここは一体どこだ!」


 「待って!多分勘違いしてるっ」


 「は?勘ちが……あ,………??」


 怒鳴るように話していた男は自分が押さえ込んだ子供の首に変な首輪があることに気づく。

 そして,夜白は彼が混乱しながらも冷静になろうとしてるのが目の動きで分かった。


 しばらくして状況を飲み込めたのか,男は「悪りぃ」と言って夜白から手を離し,夜白から数歩離れた。


 「いや,俺こそごめん…。勝手に怪我してるとこ触ろうとした…。」


 むくっと上半身を起こしながらも夜白は男に謝罪する。


 (少し不用意にしすぎたかもしれない…)


 寝てる時に勝手に触ろうとされたら誰だって嫌だろう。夜白は少し反省した。


 「いや…,治そうとしてくれてたんだろ?俺の方こそ少し…,すまん…。気が立ってた。」


 「うん,じゃあお互い様ということで。」


 「おう,ありがとな…。立てるか?」


 男はそう言うと,夜白に手を伸ばした。

 その手を夜白は「ありがとう」といったつかみ,立ち上がる。


 「さっきはすまなかった。俺は伊上桐人いがみきりひと。お前は?」


 「織部夜白です。」


 「そうか。夜白か。突然悪いんだが,夜白。ここはどこだ…?」


 「あー…。すみません。そこは分からないです…。」


 「…は?分からない?」


 「えっと,実は…。」




 夜白は今まであったことを桐人に説明する。


 ある日突然姿が変わってしまったこと。

 同じように気絶させられて連れてこられたこと。

 棘やリヒトなどここであった人のこと。

 検査という名の実験のこと。

 ここに連れてこられて四日経ったこと。

 自分たち以外にもおそらく捕まってる人がいること。

 『隷属の首輪』のせいで命令に従わないといけないこと。

 そして,夜白の考える首輪のルール…。


 夜白の推測も混じってることを伝えながら出来る限り分かりやすく伝える。


 「…そうか…。この首輪のせいで逆らえないのか…。」


 桐人は,夜白の説明を聞いた後,自身につけられた首輪を触りながら頭の中で夜白の説明を反芻する。


 (こんなまだガキなのに過酷な日々を過ごしてるんだな…。)


 桐人はチラッと夜白を見る。


 自分より先にこの場所に連れてこられた子供。

 白い狐の耳をピコピコさせながら桐人のことを何処か申し訳なさそうに見ている。


 夜白の説明通りから,この場所はかなり残酷な行為をしている実験・研究施設ということになる。


 おそらく事実だろう。


 夜白から悪意は感じられない。それどころか,桐人に同情してるところもある。


 今まで夜白がどんな間に合ってきたのか説明されただけで,おそらくそれと似たようなことが桐人にもされるだろう。


 桐人がそのことに絶望しないか,夜白は心配していた。


 そして,桐人はそんな夜白の気持ちを理解した。


 夜白自身ここに来て辛い間に合っているのに,そのことを桐人に伝えるだけで罪悪感を感じているのだ。


 だから自分がどんな反応をするのかを恐る恐る見ている。


 (なんだこいつ。とんでもないほどいい奴じゃねぇか。)


 フッと,笑いが溢れる。


 「そっか。ありがとな。説明してくれて。」


 そう言って桐人は夜白の頭の上にポンっと手を置いた。

 そのことに驚く夜白。


 想像していた反応とは違っていたのだ。


 怖い人だと思えば,「それより今まで辛かったな」と,夜白の身を案じる言葉をかけてくれる。


 そのことに夜白は戸惑う。


 が,頼れる兄さんができたようで安心した。


 夜白の尻尾がパタパタと振られ夜白の気持ちを表現する。


 夜白はそのことに気づかずに顔を少し赤くし,恥ずかしそうに照れながらも頭を撫でられることに喜んだが,桐人はそんな夜白の様子に近所で撫でていた野良犬のことを思い出し,夜白と重ねてしまったため笑いそうになる。

 必死に表に出ないように耐える。


 「そ,それより,もう…少し色々と,聞いていい…か?」


 そっぽを向き話題を変える桐人。

 少し声が震えてしまった。


 「はい!できる限り話しますね。」


 桐人の心情に気づかない夜白は新しく来た桐人に状況を伝えるために張り切る。


 気づかれないように深呼吸した桐人。


 そして夜白にいくつかの質問を飛ばし,この状況のことを整理するのだった。





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