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第4話 絶望


 夜白が連れてこられたのは,学校の保健室と実験室が混ざったような奇妙な部屋だった。


 学校にもある身長や体重を測る器具(名前は知らない)や,先生が使っていそうな机は見慣れた者だが,それらと一緒に何かわからない薬品がビッシリと入っている棚に,アニメや漫画の世界にしかなさそうな,変な機械や工作器具の付いたイスが置いてあるのが違和感と共に恐怖心を与える。


 「じゃあ,さっそく調べてみよー!」


 ボサボサの男が楽しそうに言うが,夜白の気分は下がるばかりだった。


 最初は身長や体重を,次に彼は夜白の身体能力を調べた。走る速さや,握力,体の柔らかさなど…。

 そこらは普段学校でしていることと変わらない。


 一瞬だけ,


 (考え過ぎか…?)


 と,思ったが『隷属の首輪』をつけるような連中がこんなことだけを調べるだけで済むとは思えずすぐにその考えをとり消した。


 そして,最悪なことに夜白のその考えは当たっていた。


 「じゃあ,今度はこっちの椅子に座って。」


 ボサボサの男がそう言って夜白に座るように指示したのは拘束器具のついた金属のイスだった。


 (嫌だ…座りたくない。)


 一歩も動かない夜白に棘が命令する。


 「『夜白。座れ』」


 すると,夜白の足が勝手に動いた。

 夜白自身は動かしてない。むしろ止まることを考える。

 それでも夜白の足は脳からの命令を一切聞くことなく,棘の命令に従う。


 イスの前に来ると夜白の意思に関係なく身体は動き夜白はイスに座った。

 その後に,ボサボサの男は鼻歌を歌いながら夜白の手足を拘束する。


 両手,両足が拘束された後でようやく解放されたかのように夜白は身体を動かせるようになったが,拘束器具のせいで立ち上がることはできなかった。


 イスも床に固定されてるのかどんなに夜白が抜け出そうとしてもイスは動くどころか揺れることもしない。


 「じゃあ次は夜白くんの回復力を調べるよ。ちょっと痛いかもだけど我慢してね。」


 「なにをすっ…」


 何をするのかと聞こうとした時,夜白の口は布を挟まれた。

 頭の後ろにキュッと結ばれ,外すこともできない。


 話そうと思えば「むぐむぐ」としか声が出なかった。


 (外したい!)


 そう思って口や舌を使ってみたが外れない。

 夜白がもがいてる間に着々と準備が進められる。


 ボサボサの男はゴム手袋をしたり,袖を目切ったりした後,机の棚からあるものを取り出した。

 夜白の目に入ったのは,メスなどの凶器だった。


 「むーーっ。むーっ!」


 それらを見ればこれからどんな目に会うか嫌でも想像つく。

 逃げ出したくても逃げることができない。


 ゆっくりとメスを持ったボサボサの男が近づく。


 「じゃあいくよ。」


 スパッ


 目の前で夜白の左腕が斬られる。


 「〜〜〜〜〜っ!!!」


 声にならない叫びが溢れる。

 髪で手を切ったことはあるがそれとは比べ物にならないほどの痛みが襲ってきた。


 あまりの痛さに夜白は暴れようとするが,やはり何もできなかった。


 (痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!)


 涙で視界がぼやける。


 夜白が痛みに耐えようと必死になってるなか,ボサボサの男は楽しそうな表情で夜白の傷口を観察していた。


 「うわ〜!すごい!もう回復してきた!!」


 ボサボサの男が歓喜した声をあげる。


 痛みに必死に耐えながら夜白は斬られた腕に目を向けた。


 すると,驚く光景がそこにあった。


 まるで逆再生されたかのように,夜白の傷は光を纏いながら少しずつその大きさを小さくしていったのだ。


 自分の体のはずなのに,自分の体とは思えない。

 人とは思えないその傷の治る速さに夜白は驚き言葉を失う。


 光が治ると,そこには何もなかったように綺麗な肌の腕が現れた。


 「やっぱり,すごい!面白いね!たった数秒で傷が消えた!普通なら治るのに一週間以上かかるのに!」


 ボサボサの男は,手に持った紙に記録をする。

 細かいところまで書いてるのか一向にペンを使う手が止まらない。


 「よし,じゃあ次はもっと深く斬ってみよう!」


 その言葉で夜白はハッとする。


 彼にとってこれは実験であり,自分は観察対象なのだ。


 「むー!むー!!」


 止めるように叫ぶが言葉にできない。


 「大丈夫。すぐに終わらせるから。」


 そして,しばらくの間夜白の苦しみは続いた。


 左腕が終われば,次は右腕。左足,右足。指や両手の甲,お腹や首など。至る所をメスで切り付けられた。

 普通なら跡として残る傷も数秒したら治っていく。


 その度に夜白は自分が既に人ではないことを突きつけられたような気持ちになった。


 どんなに痛くても,すぐに治ってしまう。


 自分の体が以前とは別のものになってしまったことに悲しく感じた。


 涙と汗が止まらない。

 

 ーもう以前の自分には戻らないのだろうか?


 ー自分は家族や友達とは違う,化け物になってしまったのか?


 さまざまな考えがよぎり,現実が次々と夜白に突き刺さる。


 それでも,まだ痛みは止まることがなかった。





 結局,ボサボサの男の実験は夜白が気絶するまで続いた。





 気がつけばまたさっきの部屋のベットに寝かされていたのだ。


 窓の外をチラッと見てみると既に夜になっていた。


 寝ていたはずなのに再び眠気が夜白を襲う。

 不安で仕方がなく,眠れるような場所ではなかったが,さっきの実験で暴れ疲れたのか,夜白はあっさりと眠りに落ちた。





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