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第3話 隷属


 男について行ったものの,しばらく歩くと「遅い」と言われ,お腹を殴られて気絶してしまった。


 そして,次に目を覚ませば知らない部屋の簡易なベットに寝かせられていた。

 着ていた服もシンプルなものへと変わっており,何より首には首輪がつけられている。


 部屋に窓はあるものの,格子がつけられている。そして,この部屋唯一のドアのある壁はガラスでできているのか透明だった。

 プライバシーゼロな,家具の少ない寂しい部屋だった。

 不安になって,何かないのか探してみる。

 部屋の中から廊下を見てみるも大したものはない。

 人もいないため,ここがどんな場所なのかも見当もつかなかった。


 次に部屋の中を見回してみる。床に座って使うタイプのテーブル一つに,トイレ,シャワー一つに,シャワーの周りを囲うカーテン,ベットが二つのみ。

 他にものはない。

 白い壁に白い床と気が狂いそうになる。


 ここで,一つ,疑問ができた。


 (…ベットが二つ……??)


 俺が寝かされていたベットの隣にもう一つ,同じ種類のベットがあるのだ。


 (もしかしたら,ここは二人部屋なのかもしれない)


 そう思えば,部屋も一人で使うには少し広いかもしれない。

 今は俺一人しかいないが,もしかしたら他の人も来るのか。

 そう思うと,誰か早く来てほしかった。

 

 話し相手が欲しい。


 この胸の中の不安を少しでもいいから誰かに話して軽くしたかった。


 ここがどこなのか,なんの目的でここに連れてこられたのか,あの男は誰なのか,自分は一体何になってしまったのか,そして何より,家族は無事なのか……。


 不安で不安で仕方がなかった。


 俺はベットに座り込み,自分の尻尾を抱き枕のように抱きしめた。縋り付く物がない中で,俺が抱くことができるのは自分の尻尾しかない。


 触った感じ,確かに感触があり,今の現状が夢ではないことを知らせる。


 (…父さん,…母さん,…紗奈)


 尻尾を抱き締める腕の力が強くなる。


 (…健,…栞里,…花蓮)


 一人でいるのがこんなに寂しいとは思わなかった。


 (会いたい…,帰りたい…,寂しいよ…)




 ーみんなは,無事だろうか?




 心配なことが多すぎる。



 ◇◇◇◇◇



 しばらくベットの上でうずくまっていると,廊下から誰かの足音が聞こえた。


 この体になってから耳が良くなったのだろう。まだ,こっちの方に近づいてくる人が遠い位置にいることもわかる。


 明らかに人の頃は聞かなかった音まで聞こえるようになっていた。


 足音からして,一人じゃない。


 数秒して,見えたのは医者か研究員を思わせるボサボサ髪の男に,俺をここへと連れてきたあの男だった。


 ガチャっと扉が開いた音がして,二人が部屋の中に入ってくる。


 「やぁ,目が覚めたかい?」


 明るい表情で近づいてくるボサボサの男に警戒心がつのる。


 「初めて君を見た時,気を失ってるからただの妖狐じゃないかと思ったけど,びっくりしたよ!ただ単純におどろが殴って気絶させただけで,君は気絶なんかせず,変化したらしいから!!よっぽど適性が高いんだね!」


 俺が警戒しているにも関わらず,ボサボサの男は気にせずにペラペラ話す。

 途中わからないこともあるが,それでも男は話すのをやめない。

 棘が俺をここへと連れてきた男のことであることはわかった。


 一方,俺を連れてきた棘は一言も話さない。

 うんざりしてる態度でボサボサの男を見ている。


 「にしても,よかったよ。棘が君をここに連れてきてくれて。見れば見るほど,君が異常なことが分かる!私は幸せ者だ!」


 「…は?……つ」


 意味が分からない言葉に戸惑った瞬間,顔を両手で挟まれると,急にずいっと男の人が顔を近づけてきた。


 至近距離にある男の顔は,どこか嬉しそうで,少し興奮していることが息づかい分かる。


 プレゼントをもらった子供みたいなように見えるが,その瞳からは子供とは程遠い狂気を感じた。


 「本当にここに来てくれてありがとうー!」


 そして,ガバッと抱きしめられる。


 とても成人をとっくに過ぎている大人がしないような行動に俺は戸惑いを隠せない。


 抜け出したいが,男の力の方が上だった。


 「…おい,早くしろ。」


 不機嫌な声でようやく棘が男に言う。


 「ああ!ごめんごめん!あまりの嬉しさにすっかり忘れていたよ。」


 男が離れ,俺は解放される。


 「じゃあ,行こっか!君のことを調べよう!」


 「…え?」


 「とりあえず私についてきてくれる?君のことを隅から隅まで検査しないといけないから。」


 そう言われても,ついていきたくない。


 頭がどう見ても狂っている変人に,俺の家族を傷つけた怖い男の二人だ。


 「着いてきて」と言われても,「はい,行きます」とは,ならないだろう。


 そんな俺に痺れを切らしたのか,棘が口を開く。


 「『着いてこい。これは命令だ。』」


 俺が拒もうと考えた時だった。


 「…がっ!?」


 急に頭が痛くなった。脳が締め付けられてる感じがする。

 あまりの痛さにベットから落ちて,床に倒れ込んだ。


 急に痛くなった頭を抱えた俺はもがくように体を動かす。その表紙にベットを蹴ってしまったが,それどころではなかった。


 (…なんで…急にっ)


 あまりの痛さに呼吸すら難しい。


 「あー,忘れてた。君につけた首輪は『隷属の首輪』って,言ってね。登録されてる人物の命令に背いたり,拒もうとしたら頭が痛くなるんだ。安心していいよ。死ぬことはないから。でも,命令に従わないとかなり苦しいおもいをするよ。」


 淡々とされる説明に俺は目を見開く。


 (隷属…?つまり,俺は,こいつらからの命令には絶対に従わないといけないのか…??)


 そのことに絶望する。


 ようやく,頭の痛みが治るものの,まだどこかに痛みが残っているような気がする。

 全身が汗まみれで,息も荒い。


 「『立て』」


 「!?」


 拒むとまた,あの痛みがくる。

 それが恐ろしくて俺は慌てて立ち上がった。


 さっきのせいで立つ時にフラッとしたものの,命令に従ったおかげか,痛みは襲ってこなかった。


 そのことに安心しつつも,命令には絶対に従わないといけない恐怖心や心配からまた再び不安になる。


 そんな俺を見て,ボサボサの男は,クスッと笑うと


 「じゃあ,大人しく着いてきてね。」


 と言って歩き出した。


 また命令されるよりは大人しく着いて行った方がいいのは明らかだ。


 俺は,前にボサボサの男,後ろに棘と,挟まれるような形で部屋から出た。




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