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第1話 突然


 20XX年。特にこれといった特徴のない街。


 森に覆われた山,参拝客の少ない神社,シャッターの降りた店もあるが買い物客も程々にある商店街。おしゃれな店もあるため学生も程々にいる。

 山あり,川ありの至って普通の街だ。強いて言うなら海はないが…。

 特に都会という訳でもないが,田舎という田舎でもないその街に織部夜白おりべやしろはいた。


 今年の春,夜白は高校の二年生になっていた。

 成績は平均よりちょっと上,運動神経もなかなかに良く,性格も良いためクラスメイトからも良い印象を持たれている。


 容姿もいいため,女子からモテるのだが残念ながら夜白はかなりの鈍感なため,その気持ちが伝わった女子生徒はゼロ。

 ここまでくると,他の男子生徒から嫉妬されそうだが,なんだかんだ言って勉強を教えてもらったりしてる人も多く,夜白自身もこれといった問題もないため「夜白だから」と,納得されている。

 むしろ誰が夜白に想いを伝えることができるのか賭けをしている人もいる。

 もちろん,夜白には内緒で。

 もちろんまだ誰も夜白に想いを気づかれていないので,その賭けで勝った人もいない。


 そんな多くの人から好印象を持たれてる夜白だが,親友はそれほど多くはない。


 一人目は夜白と同じ帰宅部の青山健あおやまたける。夜白の幼馴染で夜白以上の運動能力を持っているが,勉強は苦手だ。夜白以上に表情豊かで,クラスのムードメーカーであった。


 二人目は夜白と健の幼馴染の女子生徒,宮本栞里みやもとしおり。頭も良く顔も可愛いため告白されるのもめずらしくない。クラスでは一番夜白の中がいい女子生徒のため,夜白と付き合うのは彼女だと言われているが,彼女の好きな人は未だ不明。


 夜白は学校の中で健と栞里の二人とよくいた。


 幼馴染でもあるし,近所に住んでいるためよく会うのもあるが,何より親同士が中良かったのも大きい。


 幼稚園からずっと同じ学校に通っているため,お互いにお互いのことをよく知っているのだ。


 そんなある日のこと。


 「夜白!今日の帰りハンバーガーくいにいかね?」


 健が学校終わりに夜白に声をかける。


 「いつもの?」

 「そう!」

 「いいね。今日は特に用事もないし。」


 夜白は教科書と筆箱をカバンに入れて健の提案を受け入れた。

 帰宅部であるため,他の生徒のように部活の場所へと行く必要もない。


 運のいいことに今日は課題も少なかった。

 多少寄り道したとして対して問題はない。


 二人で帰ろうとした時だった。


 「私たちも一緒にいい?」


 栞里とその親友・花蓮かれんが夜白たちに声をかける。


 「おう!もちろんいいぜ!」

 「うん,一緒に行こう。」


 二人がそう言い,四人は教室を出た。


 なんでもない,普通の街のなんでもない普通の学生のなんでもない普通の日……。


 そのはずだった。


 夜白たちが,その日,世界が変わってしまう時が迫っている。


 夜白の日常はこの日,変わったのだ。



 ◇◇◇◇◇



 「はぁ〜,再来週の試験だっる。」


 健がため息をつきながら大声で言う。


 「ちょっとやめてよ!せっかく忘れてたのに…。」


 栞里が健の言葉を聞いてせっかく忘れていた試験のことを思い出してしまった。


 「うう〜。今回の試験範囲難しいよね…。」


 花蓮もつぶやくように言う。


 「今度,勉強会でもする?」


 俺自身も今度の試験範囲は不安なためそう提案する。

 

 「お互いに教えっこしよう。」

 「お!いいな!」


 すぐに健が同意してくれた。


 この中で一番勉強が苦手だからかなり不安なのだろう。


 「あの…,私もいいんですか?」


 そう言ったのは花蓮だった。


 「もちろんよ,どうして?」

 「あ,私,三人のように幼馴染ではないし…。今年会ったばかりだし…。」


 そう心配そうに言う花蓮。


 「何言ってるんだよ,友達だから気にしなくていいんだよ。」


 「いい…の?」


 ちらっとこっちを見る。


 「もちろん。花蓮も一緒に勉強しよ。」


 安心させようと微笑みながら答える。

 すると,花蓮はぱあぁぁと穴が咲いたような笑顔を浮かべた。少し頬を赤くしながら。

 

 「よーし,じゃあいつするかとか決めようぜ。」


 そして,勉強会について話が盛り上がる。

 誰の家でする?店は?この日はどうだろう?試験に近すぎない?その日は予定がある…


  そして,ほぼほぼ勉強会について決まり,この日は別れた。


 家に帰るとまだ母さんしか家に居なかった。


 「夜白,お帰り。」

 「ただいま。」

 「お父さん,もう少しで帰ってくるから。その後,ごはんにするよ。」

 「はーい。」


 この間に勉強でもしとこうと二階に上がる。

 早く終わらせて,休もう…。


 …食事中。


 中学生の妹・紗奈さなが今日あったことを話している。


 「聞いてよ!私だが一年生の時,玉拾いは一年生がしてたのに,急に,私たち三年生もする様になったんだよ!?私たちの我慢は何!?」


 紗奈はテニス部に所属している。

 俺が言うのもなんだがかなりうまい。身内贔屓を除いても上手いと言える。

 

 「まぁまぁ,食事中なんだから食事も楽しみなさい。」


 母さんはそう言って紗奈をなだめる。


 (紗奈も大変に思うこともあるんだな。)


 俺がそう思った時だった。


 ドクンツ


 急に心臓が強く動いたような気がした。

 途端に身体中に痛みが走った。


 「うぐっ」


 ガタンッ


 椅子から転げ落ちるが今はそれどころじゃない。


 「夜白!?」

 「お兄ちゃん!?」


 家族の驚く声がする。


 「痛…い…。」


 声が掠れる。体が熱い。汗が止まらない。痛い。身体中が痛い。何も考えられない。胸が締め付けられる。


 家族が近くにいて,何か言っているが,何も聞こえなくなった。


 痛い…。


 痛い。痛い。痛い。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…


 痛い!!


 目の前が真っ白になる。


 意識が消えそうになる。


 けど,俺の意識が消えることはなかった。


 爆発音が聞こえた。

 床に倒れてるせいか音と一緒に振動が伝わる。


 そのおかげか消えそうだった意識が,再び浮き上がった。


 「い,今のは…??」


 母さんの声もはっきりとする。


 「いたた…。」


 いつのまにか痛みが引いていたから上半身を起こした。


 「お,お兄ちゃん…??」


 紗奈が目を大きく開く。


 「夜白?お前,それは…いったい…」


 珍しく父さんも驚いた表情を浮かべた。

 母さんもさっきの爆発からこちらの方へと目を向けたが驚いた顔をする。


 「え,あー,俺も驚いた。急に痛くなるから…。」


 そう言ったものの,


 「違う!そうじゃない!!」


 父さんは大声で言う。


 (違う…???)


 「お兄ちゃん…,その耳…」

 「耳⁇」


 耳がどうしたのだろうか…?


 「頭に…動物の耳…」


 「………………はい?」


 「夜白…。頭の上に…耳が……。髪も…。」


 いったいなんなんだ?

 訝しく思いながらも,俺は手を頭へと伸ばす。

 そもそも耳は頭の横だ。


 「頭の上なんか…」


 何もない。

 そう言おうとして,手に何かが当たった。

 

 モフッ


 ………



 「え?」


 両手で確認する。


 「嘘だろ?」


 まじで


 「なんで!?」





 俺はその日,頭に獣の身を生やしていた。





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