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幼なじみの都落ち  作者: なつまつり
第三章
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第三十六話

 その翌日。

 昼休憩もこの頃になると、それぞれが本番を意識した過ごし方をするようになっていた。


 BGM代わりの音楽を流しつつ、機材をあれこれと触って操作感を叩き込む音響組。

 自分たちで撮ったダンスの映像を見返しながら、気づきや修正点を交わし合うアイドル組。


 一見別々の作業を行っているようだが、両チームとも向かう方角、目指す地点は変わらない。俺はその点に、どこか奇妙な面白さを見出している。


 おそらく他の三人も同じなのだろう。先日の雰囲気はまるで嘘のように消え去り、めいめいが活き活きと自分たちのタスクに取り組んでいるように見える。


 そろそろ午後連に移ろうかという、午後二時前のことだった。

 コンコンコン、と少し主張強めなノック音が聞こえてくる。


 ……まさか。あいつ――。


「ひなたちゃん、ですかね?」

「たぶんそうばいっ。あたしが開けてくるけん」


 四条が部室のドアを開けてやると、そこには――こんまりとしたビラの束を抱えた、早坂の姿があった。


「ひなたちゃん⁉ そ、それ、どがんしたと……?」

「四条センパイ、こんにちは! ……これ、センパイたちとの約束の品ってヤツですっ」


 早坂は部室に入るなり、勝ち誇った顔でニヤニヤと俺を見つめてきた。……癪に障るが、ほんとうに刷ってきたのだから、俺にとやかく言う権利はないだろう。


「っていうかセンパイ、四条センパイたちに説明してなかったんですか?」

「どうせ未遂に終わると思ってたんだ。言うわけないだろ」

「でもこのとおり、ちゃんと現物持ってきましたよっ。これでざっと四百枚ですね!」


 ビニールひもで丁寧に縛られたビラの束が、長机の上にどんと置かれる。

 片手で持てるほどのコンパクトさだが、間近に見てみるとその枚数の膨大さに気づく。


「実は昨日、ひなたは部室にお邪魔してたんですっ。センパイがたにはご迷惑をおかけしましたので、ひなたなりにお力添えできることがあればということで……このビラを作らせてもらった、という流れですっ」


 まだぽかんとしていたアイドル組に説明を行い、早坂はあらかじめ用意しておいたらしい見本のビラを、俺たちに一人ひとり配り始めた。


 受け取ったそいつをじっくりと拝見する。


『あの神話がよみがえる――。夢が丘高校アイドル研究会 一日限りのミニライブ開催決定!』

『佐賀の至宝、天川詩音を輩出したアイドル研究会、九年越しの挑戦』

『場所:656広場 八月二十五日 午後五時より開演 料金:無料』


 アイドルらしき二名のシルエットが背景に躍る。モノクロながらも技巧が凝らされており、印象的な見出しに必要十分な文言。少なくとも素人のなせる技ではない。


「め、めちゃめちゃ本格的ばい……」

「なんか、すごく目を惹かれる気がします」

「だよなぁ。ごちゃごちゃしてなくて、かなり見やすいぜ」


 方々から飛ばされる賞賛を受けて、早坂はえへえへと破顔した。


「いちおう、従妹は仕事でデザイナーやってますから。そのくらいは余裕しゃくしゃくというヤツですね!」


 鼻高々に従妹自慢をする早坂。


「なあ早坂……これ、ほんとうにタダなのか?」


 どうしても疑念が拭えずにいる俺が訊くと、


「もちろんです。デザイン代は予想どおりゼロでしたし。印刷代も、そう大したことはありませんでしたから!」


 健気に笑ってみせる早坂。どうやらほんとうに裏はなさそうだった。

 視線を落としていたビラから顔を上げて、俺はきまり悪く早坂のほうを見やる。


「早坂」

「……はい?」


 不思議そうにきょとんとくびをかしげて、早坂がこちらを振り返る。


「なんだ、その……悪かったな」

「……ふふふっ。いいですよ、センパイ♡」


 早坂はちろっと舌を出して、片手でOKサインを作ってみせる。

 確信した。こいつとは未来永劫、互いに手を取り合うことはないだろう。


「ばってん、ひなたちゃん……ほんとうに、よかと?」


 心配そうな声を上げたのは、ドル研随一のお人よしたる四条だった。


「こんな一方的によくしてもらって、ちょっと悪かばい」

「いえいえ、気にしないでくださいっ。これでもひなた、迷惑をおかけした分を取り返したなんて、ぜんぜん思ってませんから!」

「でも……」


 なおも申し訳なさそうに、声のトーンを落とす四条。

 その様子を見てなにかを思いついたのだろうか。早坂がポンと手を叩いた。


「それなら……、センパイがたにも、ぜひ協力してもらいたいことがあって――!」


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